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■オープニング本文 街の雑多な喧騒に嫌気が差した者を集め、辺境へと移り住んだとある宗教団体があった。 熱核怒号爆裂教という、理解に苦しむ名称のこの宗教団体は、彼等独自の教えのせいで街の他住人との共存が極めて難しかったのだ。 この宗教の特徴として、神に生贄を捧げるという習慣がある。 全ての教義はこの儀式の為に作られており、何よりもまず、生贄ありきなのである。 森を切り開いて作った彼等の開拓村は、何処にでもある普通の村に見えるが、村中央に作られた石造りの生贄の祭壇が問答無用な存在感を醸し出している。 全部で五十人近くの彼等は、年に数回、生贄を神に捧げる。 つまり二十年も経たず人が尽きる計算だが、彼等はこれを解決する素晴らしき案を用いていた。 「 急募 求む生贄! 熱核怒号爆裂教では、今年もまた生贄の儀式を行います。 つきましては近隣村の皆さんより、栄えある生贄を募集いたします! 仕事は簡単、祭壇の上で寝てるだけ! たったそれだけで生者には決して届かぬ至高の頂へと至れるのです! もし何かの間違いで神格を得るような事にでもなった日には、永遠の時を輝きと共にすごせてしまうでしょう! 心臓を抜かれるのはやっぱり怖い……と、そんな事はありません! 熱核怒号爆裂司祭は、生贄の皆さんが満足したまま天へと召されるよう万端整えております! 祭壇周りに炊かれたお香は心を平静に保つ効果もあり、生贄の皆さんは生きるも死ぬもどーでもよくなる事請け合い。 もちろん、うっかり絶命し損ね苦しんだりしないよう、 用いる刃物は刀匠加賀清光、の従兄弟の妹の友達のファンが作った逸品です。 もうこれは生贄るっきゃない! 時代の波に乗り遅れるな! これまでに生贄の役を果たした者達からは、こんな声が寄せられています。 生贄になったおかげで、持病が気にならなくなりました。 タバコがやめられなくて……でも、生贄になった後はもう一本だって吸ってませんよ。 別れた彼女が忘れられなかったんですが、生贄になってからはもうすっぱりですよ。 募集期間は一ヶ月を予定しております。 希望者は基本的に全員生贄とさせていただきますが、熱核怒号爆裂司祭にも処理出来る限界量がありますので、 あまりに多数であった場合は抽選とさせていただきます。 追伸 もし希望者が一人も出なかった場合、貴村の幸福な未来は保証しかねます 」 犬神のシノビ藪紫は、このたわけた告知板を見て、これを持ち込んだ者に問い直す。 「……何です、これ?」 犬神シノビの一人である男は、憮然とした顔で応える。 「東房との国境付近にある村だ。あの辺はアヤカシも良く出るもんで、陰殻側も東房側もあまり手を出していない。納税すらしていないそうだ」 「だから守ってやる義務もない、という話ですか?」 「さあな。そもそもあの辺の村の奴等は、何処に訴えればいいのかすらわかっていなさそうだぞ」 藪紫は嘆息する。 そもそも彼をかの地へ派遣したのは、犬神の里に国境警備の月番(月代わりではない為、厳密には月番ではなく年番というべきだろう)が回って来た時の準備の為であった。 今ある前線を押し上げた時、あの辺りに砦を作れれば楽だと思っての調査であったのだが、砦には不向きな土地であるとの報告と共にこんなおまけまでついてきたのだ。 「つまり、超がつくド田舎の村を騙くらかして生贄だかを出させている連中が居る、と。人身売買ですか?」 「いや、教義だそうだ。遺体も確認しているそうだし、本気で生贄にしているみたいだぞ」 あまりの意味不明さに、流石の藪紫も言葉が無い。 ふと、思い出したようにもう一つ問う。 「砦に不向きというのは、もしかしてコレのせいもあります?」 「こいつ等だけ見るのなら、むしろ近くに砦でも建てて皆殺しにしててやった方が世の為人の為だろうに」 「……さいですか」 藪紫は、じっと男を見る。 「で、わざわざ詳細調べて私に報告上げたってのは……」 男はにこーっと笑う。 「もちろん、こいつ等の退治をやらせろという話だ。里で暇してる奴等集めれば……」 「却下、お金になりません」 「おーまーえーなー」 「ですから、お金になるようにしましょう。開拓者ギルドを通します。あそこは善行にお金を出させやすいですから」 「そうか、その辺は任せる」 そこで藪紫は手元の書類に目を落としながら、さらりと告げる。 「尤も、ギルド通すのなら出て来るのは開拓者であって、貴方の出番はありませんが」 「何いいいいいい! それじゃ意味ないだろう! 俺が手柄立てなきゃならんの知ってるだろ!」 藪紫は彼の悲鳴を無視し、かの土地に対し管理責任のあるシノビ里にかけあい、兵は出さなくていいから金を出せと話を通し、ギルドへの依頼を成立させる。 全ての下準備を終えると、藪紫は男に言ってやった。 「戦闘能力の高い集団が居たという事は、その意図が無くとも周辺のアヤカシ処理を彼等が担当していた可能性が高いです」 男はぴくりと耳を動かす。 「開拓者が仕事を追えた後、二、三人連れて再度かの土地に入り、しかるべく処置願います」 「任せろ! ……なあ、この分は金になってるのか?」 「この辺りでのギルドの事前調査と後始末は、ウチでほぼ独占してるんですよね。以前派手に恩を売ってますし。つまり、ギルドの仕事が増えると私達も潤うといった次第でして」 呆れたように男はぼやいた。 「よーやるよ、ホント」 |
■参加者一覧
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
計都・デルタエッジ(ib5504)
25歳・女・砲
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
秋葉 輝郷(ib9674)
20歳・男・志
スフィル(ic0198)
12歳・女・シ
セルヴィ・ユークリッド(ic0251)
17歳・女・志
ヴィオレット・ハーネス(ic0349)
17歳・女・砲 |
■リプレイ本文 「にゃー、なんていうか? 初依頼だって言うのに随分とアレな人達が相手ね、これは。そんな事はさて置き、無理矢理生贄なんか捧げていたら孤児が生まれるだけってね。あ、逆に子供って言う可能性もあるかもしれないけど」 何て取り留めの無い事を口にしながら、ばっさばっさと村人を斬り倒しているのはセルヴィ・ユークリッド(ic0251)である。 「何が凄いって君らみーんなただの村人っしょ? 何だってこんなに荒事慣れしてるかなぁ、剣一つ振る様見ても堂に入ってるっていうか、もしかしてこの辺の村人が反抗してきたのを君らで返り討ちにしてきたとか? うわーそれめらタチ悪いにゃー」 ジルベリアの刀剣を用いながら、操る剣術は天儀のそれだ。 「ほらそれっ、人斬り慣れすぎでしょいっぱんむらびとー、ああ、別に返事とか求めてないからそっちは黙ってていいわよ。いやいやいやいやだからツッコミとかいらないからっ。ていうか君、ノリ良いね」 セルヴィ曰くのノリの良い村人君をすんばらりと斬り伏せると、残る村人は取り囲むようにしながらも踏み込んでこなくなる。 「あれ? 諦めた? 懲りた? 疲れた? 挫けた? もうだめだーって人生儚んで首でもくくる? そうしてくれると私も楽ーなんてー」 一段落と剣を鞘に収めるセルヴィ。その死角である背後から村人が飛び掛る。 「んにゃ、そーくるのね」 そちらを見もせず剣を抜きにかかれたのは、正面の村人の瞳に映る、背後の村人の姿を確認していたから。 「油断していると思った? 残念、私は居合使いなのよねー、これが♪」 志体も持たぬ村人には、剣筋を追う事すら出来なかったであろう。 再び鞘に戻る剣。これは休戦の合図ではなく、次なる獲物を求めての所作であったのだ。 「さて、次は誰かにゃー」 まだ成人も迎えていないだろう男の子は、短刀を握り、雪刃(ib5814)の背後からにじり寄る。 子供、そう呼ぶには彼の顔は、笑みは、歪みすぎていた。 蟻の巣に水を流し込むような、捕えた蝶の羽をもぐような、サムライとの鍔迫りにより身動き取れぬ雪刃の背に刃をつきたてるに、相応しい顔でもある。 対応せざるを得ない雪刃は、強引に刃を押し返し振り向く。と、轟音が鳴り響いた。 頭部を消し飛ばされた男の子が音も無く倒れる。そして、雪刃は音の主、銃を構える計都・デルタエッジ(ib5504)の笑みを見た。 端正に整った顔は、上品さを失わない程度に口の端を上げており、普通に考えれば、仲間の援護をした笑みだと受け取るべきであろう。 然るに、そうでないと直感が断じられる。 先の男の子の醜悪な笑みなぞ正に子供騙し、これは狂悪というべき笑みだ。 銃に弾丸を込める行為にすら、気品を感じずにはいられぬ凛とした動きであるのに、何故このように粘りつく赤黒い泥土が連想されてしまうのか。 計都はすぐにふいっと雪刃から視線を外す。 敵サムライ相手でも、支えるだけなら何とかなるようだという計都の判断で、それは正しい読みであった。 そして自らへと迫る敵に対する計都。 一撃。見えない糸に真後ろから引きずられるかのように、男が跳ね飛んだ。 二人目、砲術士の技の結晶にして、基本中の基本技術、単動作にて物理を超えた速度で弾を装填、射撃。男は腰を砕かれ転倒。 それでも臆さぬ勇敢な三人目に、計都はやはり笑みを崩さぬまま言った。 「懐に潜り込めば組し易い……いつからそう錯覚してました?」 長銃の先を剣で弾いた男は、計都が逆手に構えていた短銃に気付いた直後、永久にその意識を手放すのだった。 秋葉 輝郷(ib9674)は、雪刃と背中合わせにそれぞれの敵と対していた。 輝郷は自らが対する騎士から目を離さぬまま問う。 「どうだ?」 敵サムライと数度刃を合わせた雪刃はその感想を告げる。 「何とか、やれそうかな」 「無理はするなよ」 「ん、わかってる」 続き、ありがとう、と一言添えればよかったと雪刃は言い終わってから気付く。 もちろん輝郷はだからと気にした風もまるで無いのだが。 二人は離れ、それぞれの敵へと踏み込む。 輝郷は事と次第によっては怪我を負っている雪刃の援護にまず入るつもりだったのだが、どうやら一人でやれそうとのことなので、サムライは彼女に任せる。 そして、一太刀でも速くケリをつける。 輝郷の剣が騎士へと走る。 騎士は大剣にてこれを弾くが、縦横無尽に振るわれる剣に対し、防戦一方とならざるを得ない。 無論騎士であるだけに、これもまた彼に向いた戦い方ではあるが、やはり地味との印象は拭えない。 対する輝郷はといえば、振るう刀身は真紅に染まり、刀紋は更に目立つ金色とあれば、これが弾かれる火花と相まって華々しい事この上ない。 また輝郷の動きもこれに輪をかけている。 とにかく止まらぬ。右に左に上に下にと、見る者あらば手に汗握らずにはいられぬ連撃である。 これは真剣勝負であり、必死さはいずれにもあるのだが、たゆまぬ鍛錬により積み上げられた輝郷の剣筋は、何処か安心感すら漂っており、振るう人間の表情ではなくくるくると回る剣筋の艶やかな軌跡にこそ目が行ってしまおう。 いずれ華のある剣で、それは決着の瞬間まで失われる事はなかった。 騎士の反撃の突きを出小手で打ち、そのまま剣は騎士の頭部へと向かい、突き斬る。 傍目にはただまっすぐ突き出したようにしか見えぬ輝郷の剣は、騎士の小手を、そして頭部を縦に割り、その頭上へと抜けていく。 紅蓮の軌跡がこれを追い、騎士は炎に包まれたかのように紅に染まり、倒れ伏した。 「あなた達の神は……あなた達に何を与えるのだろうな……?」 水月(ia2566)は、ただニエとのみ繰り返し呟く彼から只々殺意しか感じられぬ事を少し残念に思う。 その剣撃に後退しながら小さく跳ねる水月は、更にくるりと一回転。 そのたっぷりとした衣服の袖口から、黒い布が伸びる。 志士はかがみかわす。 水月の回転は止まらず。今度は逆の袖から伸びた布が志士を襲う。 さながら突きの様に伸びた布を、志士は剣でいなしながら前進、胴中央目掛けての突きを打ち返す。 更に水月は回りながら低く、低く姿勢を落とす。 元より低身長の水月がそうすると、志士も余程低く構えねば剣が届かぬ。 その位置から志士の膝を打つ。布は巻きつくように志士の膝裏にまで至り、からみつき、水月が布を引くと血飛沫が跳ね上がる。 珍しい武器、珍しい動き、この二つでもって先制に成功した水月であったが、このまま押し切りにはいかない。 果たして志士は布の間合いを見切ったのか、怪我も何のそので逆に激しく攻撃を仕掛けて来る。 これをいなし、後退を繰り返しながら水月は周囲に目をやる。 回転する動きが多いのは、威力が増す分消耗が激しいのだが、こうした周囲の状況を確認するには重宝する。 時に治癒を飛ばし、水月は志士をいなし続ける。 そして、水月は志士の間合いぎりぎりの場所に位置すると、小さく嘆息しながら完全に志士から目を離した状態で仲間へ治癒術を送る。 例え誘いとわかっていても乗らざるを得まい。 紅色の染まる剣を振り下ろす志士は、水月の体が幻の如く揺らめき、飛散し、自らの体をすり抜けていくと感じた。 彼の背後に立つ水月は、背中合わせのまま両袖を振り下ろすと、布が引き締め直すかのようにぱんと鳴る。 同時に、志士は首筋両脇より血を噴出し倒れるのだった。 隠密行動への備えはほとんど無いようで、ナジュム(ic0198)はそれ程苦労もせず屋根の上、高所を確保する。 その位置から、まだまるで気付いた風もない泰拳士へ、印を結び術を放つ。 突如全身が炎に包まれるなどという悪夢に遭遇した泰拳士は、裂帛の気合で炎を蹴散らし、術者であるナジュムを睨み付ける。 ナジュムは屋根の上で、ゆっくりと手招きしてみせた。 「まさか……一対一が怖いとは、言わないよね?」 泰拳士は一も二もなくこれに飛びつく。 「不意打ち野朗が抜かしてんじゃねえ!」 屋根の縁に手をかけ、一挙動でその上へと全身を跳ね上げる。 そこには、これを待っていたと言わんばかりに剣を振るうナジュムの姿があった。 咄嗟に小手で防ぐ泰拳士であったが、当然威力は防ぎきれず、屋根から斬り落とされ転倒してしまう。 驚き激怒する泰拳士に、ナジュムは追撃の棒手裏剣を投げ込み、屋根の向こう側へと姿を隠す。 これを追う泰拳士。屋根の上に飛び乗り、反対側へ抜けるも誰も見つけられず、屋根から飛び降りる。 と、別の側に隠れていたナジュムは再び屋根へと飛びのぼり、ここより眼下の泰拳士に棒手裏剣を放つ。 激昂する泰拳士は、彼の逆側より雑兵を屋根に昇らせる。 ナジュムがこれに対している間に屋根へと昇ろうとするが、雑兵を蹴り落とした後、信じられない速さで駆け寄ったナジュムにやはり蹴り落とされてしまった。 完全に冷静さを失った彼は、家ごと焼いてしまおうと火を用意させるが、ナジュムは泰拳士とは逆側に飛び降り、恐るべし早駆でこれへと迫る。 そして敏捷さ命の泰拳士の足を狙い斬る。 実にシノビらしい戦い方を口汚く罵る泰拳士に、ナジュムは特に気を悪くした風もなく淡々と応える。 「……。殺すのに……手段を選ぶ方が、間違っているんだよ……」 九法 慧介(ia2194)は敵弓術師こそがこの場で敵側を指揮する人間であると見抜いた。 そしてアレに仕事をさせない事が、慧介の役割であると。 慧介はまず、彼の側にあって指示を待つ男を射抜いた。 伝令役には敵弓術師が信頼する目端の利く者がついているはず。まずはそれを討ち彼の手足を奪うのだ。 すぐに慧介の意図を見抜いた彼は、物陰を伝うような移動を始める。 敵が踏み込んで来ぬというのなら、これ幸いと慧介は牽制だけに留めつつ、雪刃への援護を行う。 彼女へと迫る数人の村人に、計都がしたような援護射撃を行う。 そこで不意に、戦の最中不謹慎ではあれど、笑いがこみ上げて来てしまう。 皆が皆、雪刃の怪我を気遣っており、その様が姫を守る侍や騎士達の姿に見えてならず、そんな風に感じられてしまう自分自身がおかしく思えたのだ。 慧介はそこで気を引き締め、弓術師に目を移す。 自然視線が鋭くなる。 弓術師は雪刃を落とそうと狙っていたのだ。 慧介はその身を晒し、お互い隠すものの無い中での射ち合いを挑む。 高確率で命中矢が狙える距離での射ち合いは、その恐怖に耐え、如何にいつもどおりの弓射を行えるかが鍵になる。 つまり、集中力勝負となるのだが、指揮という重圧がある分慧介に分があると踏んだのだ。 標的と自分以外全てがこの世から消えてなくなる。 彼の表情も消え、ゆっくりと動く肉の塊に変わり、射抜くべき箇所が輝く点となる。 脳内に浮かぶは矢の軌跡。光の帯となってみえるこの跡を、正確になぞるだけ。 突如我に返ったのは、頬を矢がかすめて行ったせいだ。 敵は、どうやら重圧に負け、外してはならぬ距離を外してしまったようだ。 こんな弓術師にはありえぬ結果も、戦場ならではの機微なのである。 雪刃は一つ、二つの動きで長大な太刀を抜き放ち、敢えて見せた抜くリズムを裏切った速度で斬りかかる。 サムライはそんな緩急にも惑わされる事なく刀を翻し、完璧な形で受けを取る。 させず。どのような奇跡の技であるか、雪刃の太刀は刀をすり抜けサムライへと迫る。 反射能力のみで致命打を外すサムライ。 すぐに彼の反撃が来る。凌ぐ、避ける、外す、太刀の長さで間合いを操り、踏み込みを許さぬ。 と上手くやれればいいのだが、何せ相手が居ての事。 押して攻めて叩き潰す、嫌になるほどサムライらしい剣撃に、雪刃は防戦一方となる。 戦闘に集中していれば感じないかも、と期待する部分もあった怪我による激痛は、やはりそんな甘い話はなく都度体中を貫いていく。 それが顔に出た訳でもなかろうが、こちらへと迫る敵を、ちょっと反応に困る表情をした計都の銃撃が射抜いていく。 すぐに輝郷が側に来てくれたし、彼と別れてからも慧介の矢がサムライ以外の敵が接近するのを防いでくれる。 十回以上の剣撃を強引に防いだおかげで痺れ震えるようになった腕は、水月の治癒術がこれを癒してくれた。 援護支援は実に助かる。しかし、今この場で勝敗を決しうるのは雪刃のみだ。 太刀を担ぎ、深く構える。 敵の出足にあわせ、太刀先がかすめるように一刀を。 外せば敵の返しは絶対に避けきれぬ。そこまで踏み込んだ一斬は、サムライの頭部前面を薄く薙ぐ。それは、表皮のみならず頭骨内部までもを斬り裂いていた。 「これだけ強いなら変な教えに染まらなくても皆を守れたんじゃないかな……」 何とか決めた雪刃は、何とも言えぬ気配を感じ振り向くと、慧介が抗議の視線を送って来ていた。 先に当てた者勝ちの勝負で太刀対刀だ。 これは無茶には入らないだろうと言い返したかったが、ここは素直に謝っておいた方が良さそうだと、その表情から察する雪刃であった。 ヴィオレット・ハーネス(ic0349)は隠密するには致命的と言わざるをえない二つの物を抱えていた。 胸部と呼ぶに抵抗のある二つの丸と七尺にも及ぶ長大な魔槍砲だ。 更に消費錬力の関係から魔槍砲は弾数も限られる。 だが、しかし、そんな数々の欠点を補ってあまりあるモノがヴィオレットにはある。 今回集った歴戦の戦士の中にあっても最高峰に位置するだろう、圧倒的なモノが。 村を大きく迂回する事で、どうやら無事敵司祭を視認出来る位置まで移動する事が出来た。 一度大きく息を吸い、腹をくくる。 「んじゃ、行くとするか」 走る。ヴィオレットは走り出した。 怪訝な顔でこちらを見る司祭。その周辺に居た村人も、驚き振り返る。 村人をどう処理するか、そんなもの、出た所勝負だ。 刀を抜いて前に立つ男に、飛びかかるようにその胸板の上に蹴りを叩き込む。 こちらの速度と重量を支えられぬ男は、そのまま背後に倒れる。彼を踏みしだき進む。両脇から斬りかかる男達、無視。痛かったけど今は無視。 ヴィオレットは抱えていた魔槍砲を脇の下に収めつつ、勢いそのままに司祭の足へと突き出す。 刺さるなんて行儀の良いものではない。 村中に響く轟音と共に、司祭は弾かれるように中空高くへ舞い上がる。 足を吹っ飛ばされた為か、凄まじい勢いで回転している。 ヴィオレットはぐるぐる回る司祭が着地の寸前、頭部を蹴っ飛ばして地面に刺さらず横になるよう調節し、大地に跳ねるその胸部を踏みつけ抑える。 「そいじゃ、サヨナラ」 頭部へと突き刺した魔槍砲は、再び轟音を響かせ、司祭の上半身諸共周辺大地を抉り取る。 吹き上がった煙が落ち着くと、司祭の下半身を足蹴にしていたヴィオレットは残った村人に向かって言ってやった。 「まだやるか?」 |