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■オープニング本文 平蔵が隊長、平治が副隊長。そんな役職をもらう程度には、戦闘経験を積んで来た二人。 二人は新米兵士の訓練を任されていた。 「……なあ平治、どういう事だこりゃ一体よぉ」 「てめぇより俺が下って事が一番納得いかねえが、確かにこれは、説明が必要だよなぁええおい」 平蔵平治が任された十人の兵士は、二人の前に緊張した面持ちで整列している。 確認するように二人は兵士の顔をじーっと見つめる。 何度見ても、事実は変わらない。平蔵は部下の前であるにも関わらず本音全開で吠えずにはおれなかった。 「ふっざけんなああああああ! 部下全て一人の例外なくイケメンってどういう嫌がらせだボケがああああああああ!」 平治もまた絶叫を堪えられない。 「ジャンルも各種揃えるとか気が利きすぎだろお前等! っつーか一番真ん中のお前どーみても十歳前後じゃねーか!」 ぼ、ボクは十五歳ですっ、とかいう愛くるしいお返事が返ってきて、平治君危うくいっつあにゅーわーるど突入しかけたとかはさておき。 一体どのような奇跡が起こったのか、男の二人から見ても魅力的容姿を持つ男の子がぞろぞろと十人並んでいるわけだ。 当初は殺意すら沸く勢いであったが、平蔵も平治もこれで兵士としてはかなり手馴れている。 何やかやと丁寧に訓練を課し、順調に十人を育てていく。 初対面時はさておき、流石に部下の教育にはある程度の威厳が必要なので、隊長副隊長っぽく振舞う程度は出来る模様。 また従軍経験の豊富さは他兵士と比べても群を抜いているので、話す言葉に説得力がある。 それは彼等部下達にとって、深い敬意に値するものであった。 優れた兵士を前にした時のように、尊敬のまなざしでこちらを見てくる部下達。 二人共、知る人ぞ知るエロ大王であり基本悪さは全てこの二人の仕業と思って間違いないぐらいの問題児でもあったのだが、さしものこんな環境では何時もの調子で悪さも出来ない。 そしてある晩、部下達から飲みに誘われたのだ。 美男の側に女あり。 居酒屋の中はもう貸切状態。聞きたくもないが、聞こえてきた話を総合するに、どうやらこいつら十人の部下皆、彼女持ちらしい。 で、彼女達もぞろぞろとこの飲みの席に顔を出して来ているわけで。 女に目がない平蔵平治でも、部下の女にどーこーなんて気は流石に起きない。 うんざりした顔で彼等のイケメンオーラふんぷん漂う飲み会に混ざっていたわけだが、女性陣から何か妙なプレッシャーを感じていた。 それとなく平蔵が話を振ってやると、女性の一人が二十四日の予定を問うてきた。 更に更につっこんで聞いてやると、どうやら二十四日は特別な日らしい。 ジルベリアだかの風習でこの日に恋人同士で一緒に過ごすと良い、だとかなんだとか。 平蔵はこんな風習初めて聞く。 そういう流行でもあるのだろうか、とその程度に考えていたのだが、どうも女性陣はかなり真剣な模様。 部下達も、当然ある仕事が優先だと彼女達を説得するのにかなり苦労しているようで、状況を把握した平治は満面の笑みで平蔵に言った。 「よし、その日は山越え実習だな。はっはっは丸二日かけてやろーぜー」 平蔵は、ああやっぱこいつキレてたか、と同じ気持ちでヤケクソ気味に酒を呷るのだった。 「おめーってよー、時々すんげー善人のフリしたがるよな」 平治は眉根をこれでもかと寄せながら平蔵に愚痴る。 「うっせーよ。いいじゃねーか、女気にして集中力無い状況で訓練されても鬱陶しいだけだっての」 「けーっ、そんなもんかねぇ」 平蔵平治の二人は、急に入った偵察任務を理由に、その特別な日とやらに合わせ部下達全員に休暇をくれてやったわけだ。 実地訓練の機会を一つ潰す事になるし、こんなアホみたいな理由で休みをくれてやるのも馬鹿げた話だ。 しかし平蔵がそう決定した時、平治も文句こそ言ったものの、敢えて決定を覆そうとはしなかった。 それは勘、であったのだろう。 勘といっても、こういった場所をこういった時期にこういった状況で偵察した場合、当たりを引く事が多い、といった彼等なりの経験則からはじき出された予感であり、少なくとも二人にとって信憑性の高い事柄である。 それもかなりの大物気配。いや出ない可能性も高いが、出るのならば大物だろう、そんな予感である。 二人は逃げ足ならそれこそ志体を持つ者にだって負けないぐらいの周到さを備えていた。 それも活かすには足手まといが無い状態でなければ難しい。 そんな、正に部下達が向ける尊敬の眼差しに足るような、歴戦の兵士ならではの判断であったのだ。 そして二人は案の定、一匹二匹の小物ではなく、中級アヤカシ率いる集団、つまり大物を引き当ててしまう。 実に特徴的なその集団を発見した時、平蔵は遠眼鏡を覗き込みながら絶叫せずにはいられなかった。 「ぶっっっっっっ殺すぞドチクショウがああああああああああああああああ!!」 平治もまた、口から泡を飛ばし吠え猛る。 「クッソがああああああ! ここでもイケメン出てくるのかよ! ああ!? この世界は俺達モテない男をイラつかせて何が楽しいってんだクソッタレがああああああああ!」 中級アヤカシと思しき気配を漂わせる人間型アヤカシ。 彼の容貌は、訓練中近場に住む妙齢の女性が見学に来てしまうよーな十人の部下と比しても遜色ないほどに整った、美男子のそれであったのだ。 挙句何がムカツクかといえば、周囲を取り囲む下級アヤカシの群だ。 目の色が赤く血走っている事の他は、何処からどー見ても妙齢の女性にしか見えない女アヤカシ、その数、十四体。 これを、ぞろぞろと引き連れてイケメン面のアヤカシが肩を切って歩くわけだ。 もう殺そう。うん殺そう。まずはがんめんぱんちからだおー、ってな勢いである。 ブチ切れて突貫しないだけ平蔵平治も成長したという事であろう。いやまあ、してたら間違いなく死ぬが。 何故か不思議な事に戯けたアヤカシと縁のある二人だが、どれだけふざけたアヤカシが相手だろうとその武力の危険さを侮る事はない。 アヤカシの行動傾向を読み、周辺の土地から迎撃に適切な場所を選び出し、もし必要ならば誘導をすら行う。 平蔵も平治も、既に一人前の戦士なのであった。 「ちくしょう、妄想の中じゃあ俺以上の良い男なんざこの世に存在しねえってのによぉ、どうしてっ! 現実はっ! こうもにがく苦しいのかっ!」 「俺は仕事に生きる! 女なんざぁ男の花道を妨げる障害でしかねえんだ! 俺は! 断じて悔しくなんてねえぞふぁあああああっく! 合法幼女今すぐ俺の頭上に降って来いやああああああ!」 血涙を流し盛大に愚痴を溢しながら、ではあるのだが。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
ライディン・L・C(ib3557)
20歳・男・シ
千鶴 庚(ib5544)
21歳・女・砲
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
刃兼(ib7876)
18歳・男・サ
カルマ=B=ノア(ic0001)
36歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ぼけーっとした顔で合流地点に居た平治は、突如暗くなった視界に驚く間もなく、後頭部よりのしかかるような力に負けてうつ伏せに倒れ臥す。 隣に座っていた平蔵は、相棒のそんな様にもさして動じた風もなく、平治の後頭部に両足を乗せ踏み潰してる少女に言った。 「お、アンタが来たのか。よろしく頼むぜ」 うむっ、と頷く神町・桜(ia0020)に、平蔵は続ける。 「後、最近エロネタに飢えてた平治を見くびらない方がいい」 見ると、桜の足の下でもぞもぞと動き、人一人に乗っかられながら顔をずらし下からのぞき見るような形を取ろうと…… 「おりゃっ」 した所で桜に目潰しを食らう。 「うぎゃああああああああ! 目が! 俺の目がああああああああああ!!」 その様を見ていたカルマ=B=ノア(ic0001)は、呆れたような感心したような顔である。 「志体持ち相手に覗きしようとか、無茶すんなぁ」 平治の雄たけびは続く。 「ロリ巫女っ! 幼女気配漂わせる可憐で美麗な優しさを! ハヤクこの目をその優しさで包んでくれー!」 刃兼(ib7876)が両目を抑えてのたうち回る平治を落ち着かせようとしてやっている。 すげぇ良い人だと皆が思っていた。こんなん放置で問題ねーべと。 平蔵もまたその中の一人である。 「最後の一つ以外揃ってるのが隣に居るが、お前の治療だきゃしてくんねーよ諦めろ」 「最後以外とはどういう意味じゃ?」 「わかった。俺が悪かったからその薙刀しまって超優しい巫女さまぷりーず」 涙目のまま目をこする平治の頬に、そっと手を伸ばす千鶴 庚(ib5544)。 「――あら。部下を気遣える貴方達、良い男だと思ったんだけど」 基本褒められる事に心底なれてない平治はきょとんとした顔のまま。 「年端のいかない小さい女の子に手出しちゃ、だめよ……?」 すらりとした凛々しさと、緩急のある女性らしさを持つ彼女。小さい子呼ばわりされた桜がおうちとかいう顔してるのはさておき、平治は言われるがままにへいっ、と素直に頷いてたり。 いきなり、そんな平治の後頭部を、平蔵が全体重を乗せきった回し蹴りでぶっとばした。 「てめえ! 何さらっとフラグ立ててやがんだクソが! 大人のおねーさまに構ってもらおーなんざ千年はえーぞボケカス死ねコラァ!」 以上、大層賑やかな合流であった。 何やかやと仕事はこなす一行は、標的のアヤカシを視界に収める位置にまで来る。 報告通りのアヤカシ達の有様にも、キース・グレイン(ia1248)は特に動じた風もない。 「大した知能がある訳でもないのにこれは、最早何がしたいのか分からんな……」 それでも存在意義に疑問を持ってしまうのは当然といえば当然で。 菊池 志郎(ia5584)が柔和な笑みでフォローを入れる。 「それでも、アヤカシを相手にする方が人間と戦うよりも気が楽です」 「……確かに、人間の悪意に比べればまだ可愛いもの、か」 それにアヤカシなら、女性の姿が相手でも加減せずに出来ますし、と繋ぐ志郎。 平治は、顔中に皺の寄ったものっそい悪党顔をしていた。 「何このさわやかイケメントーク? 余裕っすか? 人生の勝者たる男の余裕ってーやつっすかやってらんねー」 しかしこの平治、実にひがみくさい。 そんな平治の肩をぽんと叩くはライディン・L・C(ib3557)である。 「気持ちはわかるぜ……イケメン死すべし。しかも女を侍らせるだなんて、なんてうらやま……いやらしい」 「わかるか兄弟! わかってくれるかこの気持ちを!」 バーリグもまた肩をごきごき鳴らしながら大きく回している。 「よーし! おいちゃん張り切ってあの顔傷だらけにしちゃうぞぉ! ハーレムとかっ……アヤカシのくせに! アヤカシのくせにぃいいい!!」 平蔵はすらりと刀を抜いている。 「……やっぱ我慢出来ねえ。頼む兄弟。俺にもヤらせてくれや……」 おうともよ! と応えるのは平治である。 「俺もやるぜ! チクショウあのクソアヤカシども一匹たりとも生かしちゃおかねーぞ!」 二人の様子に、雪刃(ib5814)は小首をかしげていた。 「あんな見た目だけより、部下からきちんと敬意を集めてる二人の方が、よっぽどいい男だと思うよ?」 え? と平蔵平治の二人は同時に雪刃へと顔を向ける。 「自信持っていけばいいと思う」 「いっやあ、実は俺もそんな気してたんだよな。やっぱさ、男の余裕って奴? そーいうの自然と滲み出るっていうか……」 「ああ、そうだよな。やっぱ無理に斬りかかっても良くないか。ここは、大人の態度って奴でひとつ……」 ふと、雪刃は何かを思い出したように呟く。 「あ、特別な日だっていうなら私も慧介の所に行くかな」 「死ねやアヤカシいいいいいいいい! この世全てのリア充への恨みをその身に受けて散りさらせクソがあああああ!」 「滅びろドチクショウがああああああ! 俺はたった今この世界がだいっ嫌いになったぜクッソおおおおおおおお!」 そして、開戦と相成るわけで。 初撃は十字砲火になる形で。 遠距離射撃職の中でも特に火力の高い砲術士は、こういった時牽制ではなく火力としてのあり方を要求される。 それも、術の抵抗が高いだろう術士を落とす役割をだ。 庚が構えた両手にずしりと乗るは、マスケットバイエン。 重量も反動も盛大すぎるせいで、著しく防御が疎かになるこの銃を、実戦で用いるのは少々度胸が居る。 敵術士へ狙いを定める。その全身を見つめていると、何時も通り、次第に相手の体が大きく見えてくる。 全身から上半身へ、更に頭部、整った鼻梁へと、視界が狭まっていく。 庚の目には、最早術士アヤカシの鼻下、人中の一点のみしか映っていない。 ヘッドショットを確実に決める精度というものは、ここまで見えてなければ出来ぬのだ。 突然、庚の視界が真っ暗に染まる。 目の異常ではない。射線上にアヤカシが割って入ったのだ。 咄嗟に庚は筒先を横に逸らし、暗く染まった視界のまま引き金を引いた。 放たれた弾丸は、無論術士アヤカシから離れた方へ飛んでいくも、中空にて弾道が変化し、斜めに術士を射抜いてみせた。 絶対に外さぬ。これは、不慮の事態にも対応出来てこそ、発する事許される発言なのである。 交戦開始直後の砲撃戦が収まるが、敵術士は未だ健在。 これを受けキースは術士達へと飛び込んでいく。 当然、術撃はキースに集中する。皮膚が裂け、肉が千切れる音がヤケに大きく聞こえる。 キースがくくった腹を覆すには至らないが。 正拳逆突き。腰の捻りが充分に乗るこの一撃を、術士アヤカシに叩き込むと、拳の先から骨ばった何かが砕ける感触が伝わる。 同時に、キースの右脇腹に激痛が走る。 術撃が切り裂いたのだろうが、位置がよろしくない。 わき腹の位置を傷めると拳を振る時、わき腹が引っ張られる為、どうしても痛みで拳の伸びが鈍るのだ。 威力減衰を覚悟の上で、術士アヤカシに追撃の拳を放つ。が、不思議な事に覚悟していた激痛は来なかった。 見ると、志郎がキースの側にまで飛び込んで来ているではないか。 近接アヤカシ二体の攻撃をいなしながら、治療の術を飛ばしてくれていたのだ。 ならば、とキースは術士アヤカシの腕を払う。 手前に払う事でその重心を引き寄せるように前に崩し、右拳を頭部へ。 更に半歩踏み込み、右肘を前方へ振り出す。同時に重心を真下に落としてやると、大地から跳ね返ってくる力が肘先にまで響き伝わっていく。 ぐらりと倒れる術士アヤカシ。 志郎はそのままキースの背を守る位置に入る。治癒回復担当ではあれど、折り紙つきの回避能力を駆使して壁役を買って出たのだ。 敵味方の数が多いせいか、既に状況は混戦状態。 初期交戦分の治療をと閃癒を飛ばす傍ら、筒状の武具、番天印を空高くに投げ上げる。 そちらを見もせぬまま志郎は周囲の状況把握に努めていたが、心の中で数をかぞえていた。 『……5……6……今っ!』 勢い良く回転しながら降って来た筒の後ろ端に、頭上へと手を掲げ触れる。 落下の速度を殺さぬままに、下手投げの形で、腕は弧を描くように。 指先より返ってくる重みに負けぬよう指間接をしっかり固定し、定めた狙いに従いこれを投げ放つ。 筒状投擲武器、番天印は一人距離を取っていた術士アヤカシの額に、吸い込まれるように叩き付けられた。 イケメンアヤカシは、予想外に動きが速かった。 故に桜は開戦早々からこれへの対処に追われ、まるっきり身動きが取れなくなっていた。 バーリグも慌てて援護に入る。 「うーん! 見れば見るほど腹立つイケメン!」 挙句手強く鬱陶しいとか、もう殺すしかありえない。 イケメンの回し蹴りを、桜はその場に居ながらにして後退する謎歩法にてかわす。 歩法でかわせば、薙刀には別の仕事をさせられる。 足元を掬うような一撃を見舞うが、イケメンはこれを跳躍しかわす。 その時の奇妙なポーズの意味がわからない。更に着地するなり、あちらこちらとひょいひょいステップを踏む。これもまた、全く意味が不明である。 すこーんと、そんなイケメンの頭部に矢が突き刺さった。 バーリグもかなりイラっと来たのじゃろーなー、とか思いながら桜も追撃の薙刀を振るう。 「アヤカシがいい男でもまったく嬉しくないのぉ。ま、その綺麗な顔を歪めて貰おうかのっ」 今度こそ片足を深く斬り裂いたのだが、イケメンはまるで痛痒も感じぬのか、その場で飛び上がり蹴りを放ってきた。 のけぞりかわす桜。その無理な姿勢のまま、背後の大地に薙刀を突き刺す。 すぐにイケメンの追撃が来るが、桜は薙刀によりかかるようにして後退。更に薙刀を軸にくるりと回転しイケメンの横を取る。 バーリグは既に弓を引き絞っていた。 長身のバーリグが大きく弓を引くと、それだけで威圧するような迫力がある。 日頃のひょうきんな表情は影を潜め、うってかわった鋭い視線と、引き締まった口元。 さしもの不真面目王バーリグも、戦闘の最中とあっては何時も通りとはいかぬのだろう。 放たれた矢は正確にイケメンの頭部へ吸い込まれる。 番え、放つ。二矢目もまた頭部に。 更に、放つ。三矢目もまたまた頭部に。 というか、イケメンへの攻撃全部頭、というか顔狙いである。 何ともわかりやすい男である。 しかし、桜はバーリグがそれだけの男ではない事にも気付いている。 射角を確保し、それでも無理ならば射線を曲げ、前衛桜の動きの邪魔にならぬよう攻撃しながらのヘッドショットは、おいそれと出来る真似ではないのだから。 概ね術アヤカシは撃破出来たので、ライディンは本腰を入れて大剣アヤカシと対する。 このアヤカシ、技が大味な分威力が洒落になっていない。 一撃一撃かわす毎に、冷や汗が吹き出るのが自分でもわかる程だ。 それでも尚、 「ライディン君、三番テーブルご指名はいりまーす、っと」 何てお調子の良い台詞をはいているのだから、それはそれで大したものであろう。 真下から振り上がる一撃。 これに空蝉を見せつつ、跳躍。敵は幻惑され力の入れどころを誤る。この見切りをミスりやすいからこそ、技が大味だと言われるのだ。 頭上にまで振り上げられる大剣。その剣先に足裏をつき、アヤカシの力をも用いて大剣アヤカシの頭上を飛び越える。 完全にこちらを見失った大剣アヤカシに、ライディンは空中で身を捻りながら教えてやる。 「ちゃんと俺のこと見てなきゃ、堕ちちゃうよ? ……もう手遅れだけどさっ」 大剣アヤカシの背後に着地するライディン。少し遅れて、跳ね飛ばされたアヤカシの首が大地に落ちた。 刃兼は、苦無アヤカシに手を焼いていた。 今日の刀は走っている。自分が脳裏に描いた軌跡を、寸分たがわぬ位置速度でなぞってくれるのだから、文句などあろうはずがない。 それでも追いつけぬ程に、敵が速いのだ。 見てからでは間に合わない。そう考えた刃兼は、敵の動きを読む。 いや、誘う。 刃兼が、見てから動き薙ぎにかかると、向こうはこちらの動きを見てから変化する。 ちょうど潜れる高さに薙ぎを調節してやれば、敵は潜りざま至近距離よりの投擲を試みる。 これに背を向ける。背中ならばさほどの痛撃にはならぬ。 そのままぐるりと半回転し、アヤカシが逃げぬけようとする方向より刀を振るう。 『浅い!?』 この後の動きは考えてやったものではない。 浅いと感じた瞬間、刃兼の全身が反応しただけだ。 裂帛の気合の声と共に踏み込み、動きの止まったアヤカシを袈裟に斬り伏せ、駆け抜ける。 アヤカシは両断され倒れ伏すが、刃兼の動きは止まらない。 真空の刃を放ちつつ、これを追うように次なる敵へと駆け出すのだった。 雪刃の動きが止まる。 数体の雑兵を蹴散らしたまではよいが、座視出来ぬ殺気の持ち主と相対し、そちら以外を向けなくなる。 雪刃の動きを先に見たせいか、刀アヤカシは慎重に歩を進めてくる。 その足運びを見ただけで、雪刃もまた不用意な踏み込みを封じられてしまう。 それでも出るが雪刃の剣であるが、斬る為の努力を惜しんだりもしない。 静かに、ゆっくりと体内で気を練る。 まずは周囲数寸の空間を。 これを徐々に広げていき、雪刃の支配領域を手の届く所から、刀の届く範囲、更に遠くへ。 威圧ともまた違う、斬る意思そのものをただ伝える、そんな剣気だ。 刀アヤカシは、剣気に包まれると刀を中段に揃える。 『怯んだ!』 爆発したかのように猛烈な勢いで迫る雪刃。 小細工は無用。上段に振り上げた形から、神速のみを頼りにただ袈裟に振り下ろす。 凌がれた。構わない。打つ。流し、胴を抜かれる。浅い。 そして次なる一撃が、今度こそ刀アヤカシへと叩き付けられる。 そこから雪刃がこのアヤカシを仕留めるのに十の太刀が必要であったが、圧倒的な連撃は、十の太刀の間敵の反撃を決して許しはしなかった。 それぞれ敵を倒すと、皆はイケメンアヤカシ退治の援護に向かう。 そうなってしまえば、もう勝負はついたも同然だ。 既に顔中矢襖みたいになっていたイケメンアヤカシは倒れ、平蔵平治は絶好調に喝采を上げるのだった。 |