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■オープニング本文 大蛇という名前は、陰殻のシノビ里の一つで、梵天と呼ばれる中規模の里に属する一集団の事を指す。 主に経済活動において実績を残しており、その経済力で梵天の里の中でも発言力が大きい。 大蛇という名は、彼等の党首大蛇丸の名から取ってあり、その影響下にある土地では大蛇の名を出すだけで、何処であろうとツケが利いてしまう程有名になっている。 そんな大蛇一党が現在行っている仕事は、とあるシノビ里の持つ利権を横取りする事であった。 具体的には、とあるシノビ里が出資している商人に消えてもらい、彼が取り扱っている商品を大蛇の方で用意するという話だ。 もちろん商品の流通には、仕入れ、輸送、保管、顧客の確保、等々があり、これら全てを大蛇の方で段取りしなければならない。 この内仕入れ輸送保管までは、経済活動に長けた彼等の得意分野である。 残るは顧客の確保であるが、これもまた、商人を消した時に顧客リストや販売記録を手に入れておけば、必要量から適正価格まで全てが綺麗に収まってくれよう。 そんなおいしい仕事であるのだが、これを今まで誰もやらなかったのは、そのとあるシノビ里が持つ武力を恐れての事である。 己の障害となるのなら、躊躇いもなく街一つ丸々消し去ってしまうよーな洒落にならない連中である、ビビって当然だ。 だが大蛇には勝算があった。 今回、この商人を管理しているのは、とあるシノビ里の中でも、まだ未熟な若い女であるという事なのだ。 商人を消した証拠を残さず、あくまで商活動の範疇でこの利権を奪う事が出来たと装う事が出来れば、そのシノビ里も動くに動けまい。 面子を盾に無理押しをするのは、周囲の根回しをきっちりとこなせる老練な経験がなくば難しいのだ。 もし根回し無しに無理押しをしてきたのなら、大蛇丸はこれを凌ぎ返す自信があった。 そも重要度が低いからこそ、そんな女に任せるような真似をしているのだろう。 そして彼等は作戦を実行に移す。商人は、人知れず行方不明となった。 大蛇丸は屋敷に商人を招く。 殺した商人の代わりに、仕入れを手配してくれるという人物を大蛇丸は見つけ、今回はその交渉を行うつもりであった。 腰の曲がった老婆が護衛を引きつれ屋敷へと現れると、屋敷の正門前にて門番はこれを咎める。 「おい、護衛の話は聞いていない。こいつらはここで待たせておけ」 「無手で交渉出来る程、お互い信用を得ているわけではあるまい。主に伝えよ、陰殻での商売は互いに剣を突きつけあって初めて為し得るものだとな」 若干の紆余曲折の後、大蛇丸は老婆の申し出を受け入れ、しかし屋敷内に入る事は許さず、庭先にて待てと命じる。 老婆はこの提案を、不承不承ながら受け入れた。 「で、だ。お前が一月に用意出来る量はいかほどだ?」 縁側から見下ろす大蛇丸の言葉に、庭に立ったままの老婆はしわがれた声で笑う。 「主が必要としておる量はわかっておる。あの街全てを賄う程度ならその三倍は可能じゃ。もし顧客が増やせるようならそこまでは対応してやるぞ」 満足気に頷く大蛇丸に、今度は老婆から尋ねる。 「元より居た商人の方はどうした? きっちりカタはつけたのか?」 大蛇丸は不愉快そうに眉をひそめる。 「行方不明、だ。運悪くな」 「では帰ってくる可能性もあると?」 「かもしれんな」 老婆は笑う。小馬鹿にしたように。 「ならこの話はご破算じゃな。継続した取引が望めぬのなら、ウチではなく何処ぞの雑貨屋でも当たれ」 「……継続はする。必ずだ」 「ほっ、それを何処の誰が保障してくれるのじゃ? おぬしの言葉を全て信じろと?」 「キサマ……」 「取引じゃろ、そう凄むでないわ。こちらの立場からすれば、当然確認すべき事項だと思うんじゃがのぅ」 大蛇丸は嫌味ったらしく返す。 「死体を確認しなければ取引はせんとでもいうのか?」 「それが一番確実じゃな。ああ、心配せんでも藤本の顔は知っておるぞ。多少腐っていた所で見分けてみせるわ。それに、奴には妻と娘が二人おったはずじゃな。そちらはどうしておる? 相続云々の話が出たなら、更に話はこじれるぞ」 大蛇丸が考えていた以上に老婆は状況に通じている。 それを小憎らしいと思うのと、頼もしいと思うのとで大蛇丸は少々複雑な顔をするが、いずれ長い付き合いになるのだと開き直る事にした。 「いいだろう。おい、藤本の死体を掘り返して来い。後は奴の家族の件だが、必要書類は全てこちらで抑えてある。放置しても問題にはならんが、気になるというのなら処理はしておくぞ。金は取るがな」 老婆は深く嘆息し、俯き、そして、顔に手を当てた。 曲がった腰がぴんと伸び、皺だらけの顔は見る間に光沢のある若々しい肌に。 白いものが目立つもさもさの頭髪はそれが付け毛であったのか、一撫でで外れ落ち、美々しい黒が流れ落ちる。 さしもの大蛇丸も咄嗟に声を返す事も出来ない。 そして老婆改め、若い女性となった彼女、犬神の里の藪紫は大蛇丸に向かっていい放った。 「……犬神にケンカを売る度胸は買います。だから彼さえ無事ならば話し合いだけで済ませようとも思っていたのですが、こうなっては最早是非もありません」 大蛇丸の配下が、驚愕の顔で大蛇丸に耳打ちする。彼は藪紫の顔を見知っていたようだ。 「キサマが、犬神の藪紫だと? 馬鹿が、死にに来おったか」 「いいえ、殺しに来たんですよ。みなさん、作戦乙の方です。大蛇丸はもちろん、それ以外も出来るだけ斬っちゃって下さい」 藪紫は護衛に連れてきていた開拓者達にそう告げた。 |
■参加者一覧
シュラハトリア・M(ia0352)
10歳・女・陰
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
郭 雪華(ib5506)
20歳・女・砲
トィミトイ(ib7096)
18歳・男・砂
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫
サナトス=トート(ib8734)
24歳・男・騎
カルマ=A=ノア(ib9961)
46歳・男・シ |
■リプレイ本文 「……出来るだけ斬っちゃって下さい」 そんな藪紫の声に、郭 雪華(ib5506)は長銃を構えながら応えてみる。 「初めから……こうなるのは分かりきっていたんじゃないかな……」 苦笑しながら藪紫。 「予測と期待は違うものです。……それはそうと、もしかして怒ってません?」 無言のまま雪華は引き金を引く。派手な轟音のせいか、はたまた口を開かなかったのか、藪紫は返事を得る事が出来なかった。 一方、攻撃許可が下りるなり嬉々とした顔を隠しもしないのがサナトス=トート(ib8734)と、シュラハトリア・M(ia0352)の二人だ。 「別にどうしようと構わないんだよね?」 「えへへぇ〜♪ お許しも出たしぃ」 「さあ……どうなるかなぁ……?」 「み〜んな纏めて始末しちゃおーねぇ♪」 今後に夢も希望も持てそーにない二人の侵攻であるが、もちろん他の皆も攻撃を開始している。 月酌 幻鬼(ia4931)はその特徴的な外観で周囲を威圧しながら斬りこんでいき、叢雲・暁(ia5363)はというと速攻でボス大蛇丸を狙い飛び込んでしまっている。 他方トィミトイ(ib7096)などは敵の動きをまず見る事から始めている。 『まるでなっちゃいない。ジャウアドの方が余程マシだ』 といった感想を抱く程度のものしか見れなかったわけだが。 嶽御前(ib7951)もまずは見に回っている一人だ。 尤もこちらは巫女という役職上の為もあるのだが。 物静かな振る舞いで剣を抜き、藪紫の背後に位置しつつ、援護の術の準備を行う。 不気味なのはカルマ=A=ノア(ib9961)であろう。 雑兵が彼へと駆け寄るも、腕の一振りのみで悲鳴を上げてのたうちまわるのだ。 一人、二人、と倒れる中、敵シノビがこの攻撃の正体を見切り、彼の前に立つ。 「奇怪な武器を使うな。鋼の、糸か?」 「ようやく見切ってくれたか。このまま弱い者イジメだけってんじゃあ張り合いが無さすぎらぁ」 嶽御前が肩を入れながら盾を押し上げると、敵兵の重心が浮き上がる。 この状態からの攻撃は力が入りずらい為、さして注意を払う必要は無い。 そんな理屈を感性で理解していた嶽御前は、体を預けるように敵兵を押し出し、更に崩れた体勢に向け木剣を振り下ろす。 霊験あらたかな木剣であるせいか、敵兵の体が深く、斬り裂かれてしまう。 「見た目で判断するのはいただけませんね。見た目は木刀ですが、切れ味はその辺の刀以上ですよ。その体で確かめ……ああ、もう聞こえませんか」 護衛対象の藪紫は、抜いた刀で別所からの敵に対すべく構えていたが、藪紫に先だって嶽御前がこれに対し、剣撃を受け流し、斬り裂く。 あらま、と藪紫は次なる敵に目を向けるが、こちらへと駆け寄りかけた彼の胸部ど真ん中に、鎧ごと大穴が開き彼はその場に倒れ臥す。 これは同じく護衛に入っていた雪華の銃撃によるものだ。 出番があると思っていた藪紫は、手持ち無沙汰で刀をぶらぶらしてみたり。 「えっと、私これでも犬神の里最強決定戦子供の部で準決勝まで残った事もあるんですよー」 呆れたように嶽御前が。 「(子供の部?)そういう役所ではないでしょうに」 「私が手を出しても大丈夫なくらいには、備えて来たつもりですが」 つまり、開拓者達の戦力が藪紫が自由に動ける程度にはコイツ等を上回っていると彼女は見立てているらしい。 意外そうに雪華が。 「随分とやる気なんだね……にしても無為に危険を犯すのを見過ごす事は出来ないかな……」 両手を挙げて降参の意を示す藪紫。 「まったくもって、おっしゃるとおりで」 嶽御前は眼前の敵を更に一人屠り、思案気に問う。 「……消しておきたい人物が居るというのであれば、ご相談に乗りますが」 藪紫は鼻の頭をかいている。 「殺された藤本さん、とても良い商売人だったんですよ。それが少し、悔しかっただけです。ご配慮には感謝しますよ」 雪華はこちらを後衛の要と見たらしい剣士が一人駆けてくるのを見て、そちらへ改めて銃口を向ける。 「僕達に任せていいよ……元より全て潰すつもりだったから……」 飛び込んで来る彼に、迷いが見えない。この手の小悪党共らしからぬ潔い太刀筋に、事前情報にあった十五夜という男であろうと見る雪華。 「例え事情がどうあれ大蛇丸に組した……その行為その物が間違いだったんだよ……」 十五夜への初弾。 左右に揺れ動く彼の動きは、雪華の狙いを惑わすに充分であった。雪華の引き金に合わせ、体を低く滑らせる事で銃撃を回避する。 その無理な体勢から、伸び上がるような逆袈裟が雪華へと迫る。雪華の全身の筋肉はこれに反応しておらず、銃を構えた姿勢のまま。錬力の輝きのみが銃尻に輝く。 「何っ!?」 驚きの声が漏れる十五夜。 雪華は小指一本動かさぬままに、真後ろにズレ動いて見せたのだ。 種を明かせば何て事はない。単に、藪紫が抱えて後ろに引っ張っただけの話であるが、雪華の動きのみに集中しているとこれがなかなか、気付けぬものだ。 依頼人であろうと、問題ない範囲で活用出来るのであれば、用いるに躊躇なぞない。 雪華は既に弾の篭っていた銃の引き金を引いた。 すれ違いざまにトィミトイが太刀を切り上げると、敵兵は血しぶきを上げ倒れる。 一歩前へと進みながら振り返りつつ、後方へ刀を振り下ろす。 背後より迫っていた高野は、舌打ちしながらこの剣撃を受けいなす。 「ちっ、もらった額と比べて、ちとワリに合わんか」 剣の重さにそう愚痴る高野であったが、トィミトイは納得したように呟く。 「成る程。雇われか」 両者は距離を取り、お互い剣を下段に構えたまま平行に走る。 枯山水の白砂を蹴り、真新しい足跡を残しながら、鏡に映したようにそっくりな動きで。 しかし先に動きに変化を持たせたのはトィミトイである。 先回りするような形で踏み込んで来た雑兵を、小さくステップインしながら斬り殴る。 斬りながら、その体が次の動きの邪魔にならぬよう押し飛ばしておくと、高野はこれに構わず斬られた兵を更に斬り伏せながらトィミトイへと迫る。 二の腕を僅かにかすめる一撃。高野は追撃に固執せず、一旦後退する。 これは他に兵が居るからこその余裕である。 別の場所から更に兵が踏み込み、高野はというとこれに隠れるように近接していく。 トィミトイは、太刀がそれに向かぬ事を承知の上で、両手に構えた剣をまっすぐ前へと突き出した。 兵の体は貫かれ、そして、背後より剣が抜けることで、そちらに兵の血が噴出し、ちょうど突進してきていた高野の目へと降り注ぐ。 「!?」 すぐさま剣は引き抜かれ、絶命した兵を弾き飛ばしながら放たれたトィミトイの太刀が高野を深く斬り裂いた。 「金で測れる程度の命しか持たない奴の刃が、俺に届く道理はない」 幻鬼の長巻は当たろうと外れようと、重苦しい爪あとを周囲に刻み残す。 石灯籠は砕け、庭石は真っ二つに斬り裂ける。 二の打を考えぬ剛斬は、しかし荒れ狂う暴風のように無秩序に幾度も幾度も振り下ろされ、振り上げられ、振り薙がれる。 蓮を見つけるなり幻鬼は、鬼のような速攻を仕掛けに行った。 流石に蓮も腕利きであるというだけあって、致命打はもちろん、有効打に近いものすら一つも与えず、全て完璧に凌ぎきってみせる。 後先をまるで考えていないような連撃を防ぎながら、更に反撃までしてみせるのだから大したものである。 それでも幻鬼は止まらない。 唸りを上げる長巻は、幻鬼の叫び声と相まって鬼の雄叫びであるかのよう。 「何が残月だ馬鹿が! 今日は曇りのうち雨だ馬鹿! オラ! オラ! 言わせねぇぞ!? 言わせねぇぞっ!?」 一体蓮の得意台詞の何がここまで幻鬼を駆り立てるのだろう。いやこれが原因での速攻ではないだろうが、きっと。 連撃は止まらない。 幻鬼が何処で息つぎをしているのかもわからぬまま、何度凌がれかわされようと、どのような痛打を浴びようと。 連撃は止まらない。 嶽御前の治癒術に癒されながら、支援舞に支えられ、蓮を持ってすら心折れかねぬ勢いで。 剛剣の教本にあるように、何処何処までも必殺の斬撃を繰り出し続けた幻鬼。 蓮の腕が立つ分時間はかかったが、やはり剛剣の常と一緒で、一度僅かにだけ蓮が崩れると、そこから先はそれまでが嘘のように至極あっさりと決着がついた。 それはそれは楽しそうに、サナトスが群がる雑兵を蹴散らしていく。 股間から頭頂までを逆袈裟の一撃で真っ二つにされた男は、大地にまっすぐ伸びる血飛沫を残す。 その行く先に、二丁の短銃を構えた男を見つけた時、サナトスの貼り付けたような笑みが深くなる。 「やっと見つけたよ。さて……待たせた分を楽しませてくれるんだろう?」 二丁短銃の男、撃鉄は砲術士とは思えぬ速さでサナトスへと肉薄する。 サナトスの長剣を封じる目的があっての行為であろうが、サナトスもまた銃の有効性を下げる為、超接近戦をする用意があったのだ。 期せずして両者は、銃対大剣とは思えぬ近接距離にて相対する。 サナトスは逆手に持った大剣を、こすりつけるように撃鉄へと押し出す。 刃部をすりつけ滑らせれば斬れる。そんな小難しい技を狙っての動きであるが、撃鉄はこれをいなしながらも肘を器用に折り畳んだまま銃先をサナトスの急所に向ける。 上半身を大きく倒す事で銃先から外れるサナトス。 その際、撃鉄の耳元を顔が通り、サナトスはそちらに向け囁いた。 「砲術士って、片手でも撃てるのかな? ちょっと興味あるなぁ……。右と左はどっちが良い? それぐらいは選ばせてあげるよ」 挑発なんだか脅しなんだかな台詞に、撃鉄が反応し銃を振り上げかけたその時、サナトスは足で大剣の先を蹴り上げる。 慌てて手を引こうとするがもう遅い。サナトスが肩口から引き抜くように大剣を引っ張ると、赤い筋が走り撃鉄の右手首より先が千切れ飛んだ。 カルマ=ノアは、視界内にその全身を置いて尚、次の瞬間には視野から消えてなくなるようなバケモノを相手に苦戦を強いられていた。 体の随所に刻まれた傷は、受けた直後は痺れるような奇妙な刺激があった。 一度大きく後退し嶽御前の治癒を受けたが、すぐに次なる毒に侵されてしまう。 それでも、持続する毒の効果を全て打ち消せるのは正直有難いと思える。 「頼りにしてるぜ? お嬢さん」 「お任せを。ですが、くれぐれも無茶だけは」 無理はするなと言わない辺り、彼女なりに思う所があるのだろう。実際、無理の一つもせねばこの敵には対処しようがなさそうであるし。 攻撃を見切るため、鋼線を周囲の中空に舞わせその動きを察知せんと試みるも、中々どうして、敵もこれを綺麗にかわしてくる。 毒使いのシノビ。多分そうだと思ってた通り、陰湿でねちっこくじわじわと攻め寄せるやり方で、確実にこちらの息の根を止めに来る。 慎重で、猜疑心の強い性格がその戦いから伺える。 『こりゃ骨の折れる話だ』 じっと、自らの体を盾に好機を待つ。 圧倒的優位を確信し、相手の動きを止めきったとトドメを刺しに来るその瞬間に、最後に一撃だけを外させ大きく跳ねる。 乱れ散る木の葉に驚いた麝香の首元に鋼線を飛ばすが、麝香はぎりっぎりで腕を犠牲にこれを回避。 しかしそこで、これまで一度も見せずに堪えてきた早駆にて一瞬で距離を詰め、今度こそ首を捉える。 「肉を斬らせて骨と断つだっけな? こっちの言葉では。骨まで折りきれなかったてめぇの負けだよ」 腕を引き首を飛ばす。最後の切り札までを使わずに済んだのは、と依頼人の側に居る彼女に向け、感謝の意を込め軽く手を上げて見せた。 数の上での圧倒的な優位は、退却の可能性を失念させてしまう。 シュラハが、とても、とても、とても愉快な時間を過ごせているのはそんなせいもあった。 もうこれで何枚目になるか、詠唱により生じた金属の円盤は、高速で回転しながらシュラハの周囲をふよふよと浮いてまわる。 「だ、れ、に、し、よ、う、か、なぁ」 シュラハを取り囲む兵の顔に、哀れに思える程の死相が浮かんでいる。 既に、この術の餌食となった男は三人。 一人目は腹部を少しづつ少しづつ削られていき、身も世もない悲鳴と共に果てた。 二人目は顔面を削り取るような位置に叩き込まれ、人間のそれとも思えぬ瑞々しい悲鳴と共に尽きた。 三人目はシュラハに転ばされ、頭部をえいっと両手で押さえ込まれた状態のまま、体中を縦横に斬り裂かれ倒れた。 同時に、三人の男が動いた。 一人は右方へ、二人は左方へ、攻撃ではない。逃走だ。ここに来てようやく彼等も逃走という選択肢に思い至ったのだろう。 「あははははっ、じゃあこっちからぁ」 円盤が一人の男の方へと放たれこれを引き裂き、残る二人へシュラハの術が飛ぶ。 大地より勢い良く飛び出してきたのは、頭部だけが異常に大きい奇怪な龍だ。 その縮尺の奇抜さのせいか、滑稽にすら見えるその頭部は、大きく口を開き、豪雪を二人の男へと放つ。 ほんの数秒で氷の彫刻と化した男達に、シュラハはやはり笑みを崩さぬまま、めっと言ってやった。 「逃げちゃ、だぁめっ♪」 暁は開戦直後より、大蛇丸を徹底的に狙い続けていた。 大蛇丸も大蛇丸で、暁の腕を見て本気でこの相手に専念する。 シノビ同士らしいスピード感のある攻防が続いたが、これが動いたのは暁の飛び込みざまの袈裟斬りが大蛇丸に決まった後だ。 揺れる大蛇丸の体に、暁は更にのしかかるようにして、強く大地に押し倒す。 そこからは、怒涛の連続攻撃が続く。 ダブルアームスープレックスにて大蛇丸の両腕を痛めつけると、空中に放り投げる勢いで持ち上げ、落下してくる両膝をこちらの両膝で迎撃する。 更に強引に倒れた体を引きずり起こしながらスープレックスにて脳天を大地に突き刺し、そのままだらりとブリッジの形になった大蛇丸の胴に飛び込みながらの頭突きをくれてやる。 そこまでやっても、何とか動こう、反撃しようと構える大蛇丸の力も称えてしかるべきであろう。 だが、骨子術でも使ったか、暁が大蛇丸の手を平を握ると、大蛇丸の全身が硬直する。 その隙に再びダブルアームの体勢に。そこから、暁は高速で回転を始めた。 抱えていた大蛇丸がありえぬ方向を向いているのは、志体を持つ者故の奇跡の技か。 大蛇丸の体は、暁が手を離すと空高くへと舞い上がっていった。 これを追って、暁もまた空へ飛び上がる。 最早ロクに動きも取れぬ大蛇丸は頭部を下に落下していくが、この首元に暁は曲げた足を押し当てる。 これぞ、地獄の九所封じラストワン、MURAKUMOギロチン! 最早暁を止め得る者なぞ何処にもいまい。首狩りNINJAは何処何処までも突っ走る。 アワレにも大蛇丸は首をはねられ、リーダーの役目を果たす事が出来なくなってしまった。 |