親心
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/10 04:30



■オープニング本文

 薄汚れた衣服、皺だらけの顔は一体年が幾つであるのかまるで想像もつかない。
 生気の欠片すら感じさせぬ乳白色に濁った目で老人は語った。

 まだ戦場に出るだけの体力があった頃、彼は戦を憂い、各地で戦災孤児となった子供達を拾っては寺子屋の中で育てていた。
 傭兵として名を馳せていた男は、戦しか知らぬ故金の使い道も知らず、そんな使い方をしてきたのだ。
 金さえあれば、まだ幼い子らであったが、どうにかこうにか子供達だけで食いつなぐ事も出来てきた。
 すくすくと育つ子供達、いつしか彼等は男にとっての生きる意味となっていた。
 傭兵を引退した後も、子供達にこの時代に負けぬよう強く生きろと武器の扱いを、戦い方を教えてやっていた。
 子供達が成人する頃には男の貯めた金は底をついていたが、男はそれでも良かった。
 後は子供達が自分の力で生きていけばいいと思っていたし、そうするべきだと思っていたからだ。
 子供達は、悪ガキばかりではあるが、彼等なりに男に対し感謝と敬愛の念を抱いていた。
 そんな彼等の重荷にならぬよう、ある日男は子供達の前より姿を消した。
 以後、子供達がどうやって生きているのか男にはあずかり知らぬ所となったが、それでも、あのタフな悪ガキ共は、きっと元気にやっていると信じられたのだ。

 山奥の庵で隠遁生活を送っていた男は、突然庵に乱入してきた若造三人を囲炉裏の火鉢で撃退する。
 老いたりとはいえ、ロクに修練も積んでいない腕力馬鹿など物の数ではなかったのだ。
 しかし、男は三人の捨て台詞を聞き仰天する。
 彼等は盗賊団の一味であり、その頭領は、男が手塩にかけて育てあげてきた子供であったのだ。
 そんな馬鹿なと老いた体に鞭打って調べると、どうやら子供達は皆で盗賊団を作り、官憲すら手を焼く程にまで成長してしまっているらしかった。
 生きる、その点のみに関しては絶対の自信を持って世に送り出した子供達であったが、男はその段になってようやく、教えるべき事を教えていなかった事に気づけたのだ。
 生涯を賭け情熱を注ぎ込んだ子供達の有様に、男がどれだけ絶望したかは想像に難くない。
 何度も繰り返し為すべき事を考え直し、遂に男は決断を下す。
 アレを世に送り出した責任を果たさねば死んでも死に切れぬ。
 しかし彼我の戦力差は歴然、なれば、優秀な傭兵を雇いこれに対すべし。
 墓まで持っていくつもりだった愛刀を質に出し、男は開拓者ギルドを頼ったのだ。



「よー、じいさんの居所つかめたか?」
 精悍な顔つきの青年はすぐ側で酒を呷っている巫女服を着た仲間に問うと、彼女はゆっくりと首を横に振る。
「まったく、ようやく俺達も形になってきたってのによ。じいさん居なくっちゃ頑張ってる甲斐がねえじゃねえか」
 ちょっと特殊な髪型(頭の左右をつるっつるの坊主にし、中央にだけ髪を残した、いわゆるモヒカン)の男は、背負った刀をこれみよがしに抜き放つ。
「腕も上げたしさ、見て欲しいよなじいさんに。ははっ、昔じゃ考えらんねえぐらい贅沢も出来るしよ! 今の俺達見たら絶対じいさん引っくり返るぜ!」
 青年もまた破顔する。こうしているととても盗賊段の首領にはみえない。
「じいさんの為にとっときの酒用意してあんだ。ロクに趣味もねえじいさんだが、酒の味ぐらいはわかんだろ。俺達で頑張ってさ、あのクソジジイがくたばるまで、せいぜい楽してもらおうぜ」
 砦の中に一人の男が駆け込んで来る。
「おい聞けよ! じいさんの居所がわかったぞ!」



 八人居る子供達は、それが礼儀とばかりに全員で、彼等だけで男を出迎えにやって来る。
 根城である砦には多勢の荒くれ者が揃っており、ここで手を出すのは不可能に近い。
 だからこれが唯一の機会。
 道を踏み外しながら尚、男を慕っているという子供達を、男は、どうかよろしく頼むと開拓者達に頭を下げる。
 愛情も思いいれも溢れんばかりであろう、しかし、これだけ大規模になった盗賊団から抜けさせるのも難しいなら、これだけ大規模にする為にやってきただろう事を無視するわけにもいかなかった。

「頼む、私の子供達、一人残らず‥‥斬ってやってくれ」

 せめても男の関与を悟られぬよう、それが散り行く彼等にとって最後の救いとなるように、男は、開拓者達に後を託すのであった。


■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
雲母坂 優羽華(ia0792
19歳・女・巫
ラフィーク(ia0944
31歳・男・泰
斎 朧(ia3446
18歳・女・巫
佐竹 利実(ia4177
23歳・男・志
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志


■リプレイ本文

 小伝良虎太郎(ia0375)はとぼとぼと庵に至る山道を登る。
 いつもは元気ではちきれんばかりの表情が今は暗く沈みこんでいた。
 その様子を見ていぶかしんだ雲母坂優羽華(ia0792)がどうしたと問うと、途切れ途切れながら虎太郎は自分の気持ちを整理しつつ話す。
「おいらも拾われ児だからさ、彼らがお爺さんの事大好きだって気持ちはわかる気がする」
「‥‥そうどすかぁ」
 言わんとしている事はわかるのだろう。優羽華は優しげに言葉を返すが、佐竹利実(ia4177)はそんな虎太郎の言葉にも心動かされた様子は無い。
「で、見逃すという話ですか?」
 大慌てで虎太郎が首をぶんぶんと横に振ると、嘆息して肩をすくめる利実。
「正直俺としては、まあ、立派に育ったなと思いますけど、依頼人はご不満らしいのでさくと」
 殺しましょう、と露骨に繋げなかったのは虎太郎を慮ってか、はたまた単に面倒だっただけか。
 ふと、あまり口を開かぬラフィーク(ia0944)が呟く。
「間違えてしまったのは誰なのか‥‥そんなことで刃を鈍らせるほど青くはないがね」
 むっちゃくちゃ上機嫌の野乃原那美(ia5377)は鼻歌交じりに虎太郎の悩みを笑い飛ばす。
「また合法的に人斬りが出来る♪ いい依頼だね〜♪」
 斎朧(ia3446)も浅井灰音(ia7439)も、いやそこまで突き抜けるのはどうよ、とでも言いたそうにそちらを見やるが、結果は一緒かと口をつむぐ。
 鬼島貫徹(ia0694)は、これは不機嫌なのか生来のものなのかわかりずらい仏頂面で、皆に注意を促す。
「着いたぞ。無駄話はそこまでにしておけ」

 八人の子供達、いや子供というには最早大きくなりすぎた青年達と女性一人は、その職業からは想像もつかぬ程に浮かれ、のどかに笑いあいながら山道を登ってくる。
 誰一人、その先にあるだろう景色を、想像出来るものは居なかった。
 彼等の親が望んだ、最低限のそんな想像力も、彼等は持ち合わせてはいなかったのだ。
 だからこそか、八人の行く先に居るのは彼らが慕う親ではなく、いかめつい顔をした男と冷厳な表情を伴う女であったのは。
 街路の脇、右側から濃い赤のマントを身にまとい、何より目立つ大斧をかついだ男、鬼島貫徹が現れる。
 逆側からすっと姿を現したのは、水色の涼しげな着流しにあまりに似合わぬジルベリア製ショートソードをさげた浅井灰音である。
 刀を肩に担ぎ、胸元からはあふれんばかりの筋肉が漏れ出している男、佐竹利実も気負うでもなく、さてやるかと刀をすらりと抜き放つ。
 即座に表情が変わる八人。流石に修羅場慣れはしているようだ。
 貫徹は手にした七尺(約240センチ)の大斧を片手で事も無げに振り回し、まっすぐ八人へと突きつけ宣言する。
「死ねい下郎共!」
 貫徹の咆哮が、開戦の合図となった。

 まず正面に三人の敵がいる。
 これに対したのは志体を持つ男が一人と、そうでないが剣に覚えのある者が二人。
 残った四人は女一人を守るように取り囲み次の手に備える。
 両側面に回り込んでいたラフィークと虎太郎は不意打ちのアテが外れてしまったが、包囲はなせると隠れていた場所より飛びかかる。
 内の一人が叫ぶ。敵は全部で八人だと。
 おそらくは彼が心眼を用いた、つまり志士の力を持つ者だと思われる。
 朧もまたこの敵を前に手心を加える気など毛頭無い。
 事態がこうなった以上、どういう結末でも悔恨は残るだろう。そう考えた朧は遠慮しても無駄と断じたのである。
 最大攻撃である浄炎を叩き込み、力づくで戦いの流れを引き寄せようとする。
 前衛が刀を交えると同時に、朧の炎が後ろで女を守る内の一人を包み込む。
 志体を持たないにも関わらず気丈にこれを振り払おうとする男の所作は、敬意に値するかもしれない。
 しかし、朧の意図を察したもう一人、包囲が固すぎるせいと隠れ潜む人数をバラされた事で巫女狙いを断念した那美が、恐るべき速度で迫っていた。
 あれと思う間も無い。
 大地を蹴る音が聞こえたと思った次の瞬間には、炎に包まれた男は、今度は背中を襲う灼熱感に身悶えする。
「‥‥まだ顔もよく見てないけど‥‥さ・よ・な・ら♪」
 急所に突き刺した胡蝶刀を、ぐりっと抉った那美はそのまま裂いた血管を押し広げるように刀を抜く。
 噴水のごとく吹き上がる血潮は、すだれのように那美の眼前に降り注いでこれを隠し、僅かに歪んだ口元のみを彼等に伝える。
「て、てめえやりやがったな!」
 盗賊とて仲間を想う気持ちはあるのか激怒する男にも、那美はやはり笑みを崩さなかった。
「今までたくさん命奪って来たんだし、自分が逆に奪われることくらい覚悟してるよね♪ さ、君達の斬り心地をボクに教えてよ♪」

 後方、側面の巫女狙いが三人。いずれも志体持ちでありとんでもない手練である。
 また前方で抑えている三人の後方に更に二人。これはどうやら巫女らしいが、一人は攻撃に傾倒し炎を次々放ってくる。
 正面の三人を突破しなければ巫女の治癒にて何度も体勢を立て直される。
 しかし、盗賊側も巫女を守りきらなければこの戦闘に勝利は無い。
 敵は、信じられない事だが、八人全てが志体を持っているらしい。
 こちらは巫女含めて三人のみ。しかも長年生き残ってきた信頼出来る猛者でもある友が一人、斬り倒されてしまっている。
 衝撃は大きい、危機感もある、だが、それでも尚、彼等は生存を諦めない。
 それが父の教えであり、また、諦めないだけの理由もあったのだ。
 彼らの頭領である志士、そして常に最前線で体を張っていたサムライ、この二人は、ずっと一緒にやってきた皆が皆心底から認める怪物であるのだから。

 貫徹の振るう大斧、これを真正面から受け止める者なぞそうはおらぬ。
 重厚な低音と腕に響く確かな衝撃。
 厚ごしらえの太刀を叩きつけ、重量のみではない技量によって大斧を支えているのだ。
 それは、その行為は、貫徹の矜持に触れた。
「貴様ああああっ!」
 激怒した貫徹は顔を真っ赤に染め上げ、これを止められるものなら止めてみよと大斧を斜めに振り下ろす。
 先の一撃とは比較にならぬ渾身の強打。
 故の大振りと敵サムライはこれを避けんと身をよじるが、意外に鋭い斧先に敵サムライは間合いを見誤る。
 強烈な一撃を受けよろめくサムライは、がくがくと震える膝を意思の力で押し殺し、大斧を振り切って動きの鈍った貫徹に、下から逆袈裟に斬り上げる。
 これも致命傷にはならないが、治癒をしなければ血が止まらぬ程度の傷を貫徹に残した。
 完全に貫徹の機嫌を損ねきった敵サムライは、鬼のように眦をひりあげる貫徹に、負けてなるものかと睨み返す。

 隣で戦う貫徹の様子を伺いつつ、灰音は眼前の剣士と斬り結ぶ。
 技量は灰音の方が上だ。これは剣を交えてすぐにわかった。
 だが志体を持たぬにも関わらず、驚くべきしぶとさで男は防御に徹する。
 なればこそ、通じる技もある。
 剣同士がぎぃんと大きく音を立てて距離が離れる。その瞬間、灰音の踏み込み速度もわかっているからこそ直後の死は無い。そう安心している距離。
 僅かな淀みもなく、左の手でダーツを懐より抜き取り放つ。
 それが何なのかすらわからぬまま、顔を襲う激痛に身をくねらせる男。灰音はこれが情けだとばかりに、一刀で首を落とした。

 ラフィークは彼我の戦力差を考え、最も効率よく撃破出来る手段を模索、結論を出す。
 丁寧に敵の一撃一撃を捌き、焦れるのを待つ。
 こちらが汗一つかいていないのを見れば、体力差からも大きな手を打たざるをえなくなる。
 それでも防戦に徹するのは見事、ではあるがそれ以上ではない。
 数手牽制を仕掛けると、それだけで手詰まりとなった敵は、踏み込むしかないと錯覚する。
『‥‥せめて一太刀で黄泉の門に送りつけるのが慈悲か』
 灰音同様、骨法起承拳にてただの一撃で急所を貫いた剣を引き抜き、刀を振るって血糊を落とす
「‥‥まず一匹」

 虎太郎が相手をしたのは、彼等の頭領である志士であった。
 頭領は必死の形相である。
 無論彼だけではない、皆が皆、生き延びようと必死に戦っている。
 ずっとそうしてきたのだろう、それだけは、虎太郎にも良くわかった。
 ぼうっと虎太郎の体に精霊の加護が与えられる。
 ぽよんっ。思わずそちらに目をやると、優羽華がたわわな果実を揺らしながら術を唱えてくれた所であった。
 戦闘中でありながら滅入ってしまいそうだった虎太郎であるが、この支援で我に返る。こちらにも斬られてやれない理由はある。
 いや、彼等を倒さなきゃならない理由があるのだ。
 流石に頭領、虎太郎は何度もその身に斬撃を受けるが、ただの一度も怯む事は無かった。
 そのたびにぽよんぽよんとでっかいのを揺らしながら、彼女が治癒を行ってくれると信じていたからだ。

 利実は自らに課した役割を淡々とこなす。
 後ろの巫女二人を守る役目にはさほど拘らずとも問題は無いようだ。
 となれば次、である。
 敵の巫女を守るように布陣した敵に斬りかかると、踏み込みすぎだとばかりに、二人の敵が同時に反撃してくる。
 利実はこれを器用に捌くが、二人の連撃はそういった訓練を重ねてきたせいか互いの隙を埋め合う見事な連携となっていた。
 一撃ごとに、一歩づつ後ろへと下がる利実。
 鉄壁ともいえる受けかわし捌きの技術を破られる気配もないが、攻め返す余地もない、そう、ハタ目には見えるように動いた。
 突如、巫女の側に残っていた最後の男が、炎に包まれ悲鳴を上げる。
 那美と共に初撃で一人を屠った朧は、その後は回復と支援に徹していたのであるが、ここでまた不意に攻撃に移ったのだ。
 言葉によらぬ連携は、敵のみに許された行為ではない。
 経験豊かな開拓者ならではの阿吽の呼吸。
 利実が引き寄せるのを見た朧は、ならばと巫女の側にある最期の堀を埋めにかかり、丸裸となった巫女に那美の狂刃が迫る。
「生憎と正面から戦う気はないんだよ♪ ‥‥ふふ、背中ががら空きだよ♪」
 これまた背中からの一撃。
 利実は直後に反撃にうつり二人の動きを封じる。
 護衛にと残った一人に朧は、動きを止めるどころか命すら奪う勢いで更なる浄炎を放つ。
 苦痛に皺を寄せながら、力の歪みを放つ敵巫女。
 ぐきっとヒドイ音がして那美の体が捻り上げられるが、それでも那美は止まらない。
 逆手に持った胡蝶刀を今度は正面から、彼女の豊かな胸に突き刺す。
 それでも悲鳴を堪えたのは賞賛に値しよう。
 それは那美の苛烈な追撃を生むだけの結果しかもたらさないが。
 首元、脇腹、胸の谷間、口脇‥‥次々と刀を突き刺され、それでも飽く事なく刀を振るい続ける那美。
 巫女の存在が生命線であると知っているのだろう。
 我が身を捨ててでもと巫女を守ろうとする盗賊達は、見せた隙を見逃さぬ利実と朧により巫女の下にたどり着く事すら許されず斬り、或いは燃やし殺される。
 言葉も無く、崩折れる敵の巫女。
 それは、戦の大勢が決した瞬間であった。

 空気撃により体勢を崩し、時折混ぜる牙狼拳にて大きな損傷を与える虎太郎は、敵の限界が近い事をその動きから察する。
 また随所に焦りが見られるのは、視界の隅に仲間が次々倒れる様を映しているせいだろうと思った。
 それでも強い、そう断言出来る剣捌きであったが、虎太郎は彼が最後に仕掛けるだろう大勝負は、やられる前から完全に見抜いていたのだ。
 大きくうねる男の気配。
 そう、男は最後に大技で虎太郎を崩し、包囲を抜けて脱出を図るだろうと読みきっていたのだ。
 そんな男の足元目掛け、低く滑るような蹴りを放つ。
 空気撃と呼ばれるこの技法を、大技を仕掛けんと気を練っていた男はかわせず大きく体勢を崩す。
 そこに鉄爪を下から振り上げ、胸元から首、そして顔の半分を大きく抉り取る。
 こちらの姿勢が崩れても構わないからここで決める。
 そう決した虎太郎は、振り上げた鉄爪の重さと勢いを殺さぬまま急反転させて軌道を変え、絶妙の体加重移動により信じられぬ速度で再び上から振り下ろす。
 後の姿勢は崩れきっているが、強力無比な打撃を二発、男に食らわせた虎太郎は自信を持って男を見上げると、男は糸の切れた人形のように力なく崩れ落ちた。
 またも虎太郎の体を精霊の加護が包み込む。
 優羽華からだとわかった虎太郎は、得意げに鼻の下をこすり彼女に向けて笑ってみせた。

 ラフィークは加勢するかと前へ出ようとするが、灰音に止められ肩をすくめる。
「一騎討ちの礼儀とかではなく、混ざったりしたら貫徹さんが怒りますよ」
 もう怒ってるだろアレ、と思ったがラフィークは口にはしなかった。
 他もほとんど決着がついたようだ。
 残るは、あの敵サムライのみ。
 そんな状況でも降伏もせずに太刀を振るうサムライの心境は計り知れない。
 まだ僅かでも可能性が残っている、そんな風に考えているのだろうか。
 だがそれも、これで終わり。
 貫徹が横一文字に振るった大斧を、サムライは受ける事も避ける事も出来ず、遂に決着はついたのだ。



 遺体を持ち帰るよう指示はされていなかったので、敢えて首を持ち帰る事もあるまいという結論に落ち着いた。
 やはり落ち込んだままの虎太郎を慰めるように優羽華は、墓を作るか、と問うと虎太郎は頷き、二人で墓を作る事にしたらしい。
 貫徹は戦闘の最中にありながら、奇跡的に無事であった盗賊達の持ってきた酒を片手に、依頼主の下に向かうと言っていた。
「フン、全くもって儘にならぬが浮世の常よ」
 それでも酒一本分ぐらいは、天も老人に配慮してくれるようだった。