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■オープニング本文 その依頼は、村の付近に現れたアヤカシを退治せよという、至極単純な依頼であった。 村の住人の協力も得られるし、敵アヤカシの姿も確認してある。 敵は狼のようなアヤカシで、群れを成してはいるが二十体程度。 敵の知能も低く、充分な戦闘能力さえあれば問題なく解決出来る、そんな依頼であるはずだった。 村中に、耳を塞いですら聞こえる程の大音量が轟く。 大気が震え、大地が震え、そして、人の根源よりの衝動、恐怖に震える。 話が違う、そう叫ぶ事すら出来ず肉塊と化す。 振るった豪腕は、人を千切り飛ばし尚止まらず、家屋の壁を粉々に叩き砕く。 中には、状況についていけぬ女、子供、が一人づつ。 それでも咄嗟に子供の前に飛び出した女へ、黒きケモノは家屋を薙ぎ払いながら突進する。 ほんの僅かも止める事適わず。 女ごと、後ろの子供ごと、ケモノは家を貫き、裏通りへ抜ける。 ケモノの視界に、極めてゆっくりとだが移動する小さいモノが見えた。 大きく息を吸い込んだかと思うと、ケモノの全身に稲光が走る。 と、口より、雷光が放たれる。 大地を抉り、家屋を消し飛ばし、雷は小さいモノを真っ黒に染め上げ、黒影は風一つで塵と化す。 まだある。家が、砕くべきモノが、引き裂くべきヒトが、ただの一つも逃さぬ。我慢ならぬ、全てを打ち砕かなければ。 ケモノはこの世界が我慢ならなかった。 何故、こんなにも遅いのか。 今より砕くぞ、そう目で告げゆっくりと腕を振り上げても、やはり相手は動こうともしない。 稀に動くモノもある。 しかしその歩みは極めて遅く、ケモノをより一層苛立たせるのみであった。 先ほども群れを成す小さいモノを、ただの一つも残さず全て屠って来た所だ。 ケモノは、遅いものが許せない。 ケモノは、目の前を塞ぐものが許せない。 ケモノは、歩みを妨げる全てのものを許せない。 ケモノには、この世界全てが、断固として許せぬものの集まりにしか見えなかった。 開拓者がその地に辿り着いた時、まずは一泊させてくれる。そんな話であった。 村で英気を養うよう、精一杯の歓迎をさせて欲しい、そう言っていた村に立ち寄る予定で、随分気の良い村だなと皆で話し合いながら道中を進んだ。 だからその情景が信じられぬ。 思わず地図を見直したくなる。しかし、そこは確実に、開拓者達が辿り着くべき、安全を確保されているはずの村であった。 それでも依頼をこなす? まずは村人の安否確認? 一度戻ってギルドに指示を請う? ありえない。全て、ありえぬ選択だ。 開拓者達は、何よりもまず、こちらの姿を認めるなりわき目もふらず一直線に迫ってくるあの、黒い、見た事もない、ケモノかアヤカシかの判別すらつかぬ何物かを迎え撃たねばならないのだから。 名称 unknown 種族 不明 外見 黒き巨大な牙の生えた猿 能力 不明 戦力 不明(最低限村一つを粉砕する程度はある) 特性 不明 備考 体の随所に浴びた紅が、このケモノこそが村が壊滅した原因であろうと雄弁に語っている |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
ジャリード(ib6682)
20歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
エルシア・エルミナール(ib9187)
26歳・女・騎
ナシート(ib9534)
13歳・男・砂
桃李 泉華(ic0104)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 街道を鼻歌交じりに歩くナシート(ib9534)は、視界の隅にソレを認めても、すぐには反応出来なかった。 「ふんふんふーん♪ アヤカシ退治ー……」 真っ黒な猿に見えた。ソイツが、一直線にこちらへ向かってくる。 「おー、黒い猿だー」 桃李 泉華(ic0104)もまた並んで暢気にこれを眺めている。 「せやなー、黒い猿やー」 徐々に近づいてくる。 「……」 「……」 遠近感が狂ったか。二人はそう思い目をこすり、やっぱり、この大きさが正しいものだと理解する。 軽く十尺超えてるとか、お前猿の風上にもおけないぞと。 猿の敵意むき出しな顔を見て、流石の二人も驚き大きく跳び下がる。 二人の間を、黒い巨大な暴風は一直線に駆け抜けていった。 「って、おわ!? な、なんだこれ……なんなんだこれ……?」 「ふえぇっ!? こんなん居るて聞いてへんでぇ!?」 鴇ノ宮 風葉(ia0799)は前衛組が即座に動き出したのを見て、そちらを任せると村のある方へと目をやる。 このケモノは村の方より来た。にも関わらず村からまるで反応が無いのはおかしい、と思ったのだ。 良く良く見れば、幾つかの家々が見るからにおかしいのがわかる。屋根が、大地の高さと同じ場所にある、など。 また、ケイウス=アルカーム(ib7387)は突然の襲撃に戸惑っていたが、ソレを見るなり腹が据わる。 ケモノの全身各所には、夥しい量の血痕、それもまださして間が経っていないだろうそれがこびりついていたのだ。 村を確認している風葉に視線のみで問うケイウス。風葉は首を横に振るのみであった。 「村はコイツが……!」 道中退屈そうな顔でぷらっぷらという形容そのままに、実にやる気なさげであったブラッディ・D(ia6200)は、ソレを敵と認識するなり口の端がひり上がる。 「ぎゃはは! 随分威勢の良い猿じゃねぇか! ま、犬猿の仲っていうしー……来いよ、猿野郎。お犬様が相手してやんぜ?」 返事のつもりか、黒猿は大きく口を開き、雷の玉を吐き出して来た。 爆音と共に砕ける大地。 ブラッディが立っていた場所は深く抉れてしまうが、寸前で飛びかわしたブラッディは田んぼのあぜ道の上に立ち、口笛を吹く。 「おーおー、やる気充分じゃねえの。けどなぁ……あんまり調子に乗られんのもむかつくんだよ、風葉がイラついてんのなら余計になぁ! 好き勝手暴れてんじゃねぇぞ、猿野郎がぁ!」 僅かに電撃がかすめた腕を軽く払うと、黒猿へと飛び掛っていく。 突然あんな真似されて、良くかわせたなと感心するジャリード(ib6682)は、ブラッディ程強引に行く気にはなれない。 「……正体がわからん、というのは気味が悪い物だな。当たり前だが」 かくいうブラッディも良く見れば、踏み込みに回避の余裕を持たせている。流石に一流か、と頷くジャリード。 ではこちらも、と踏み込む前にジャリードは雪刃(ib5814)へと目配せする。 即応が必要なのは彼女も理解しているようで、思考に沈みそうであった自らを戦闘用のそれへと引きずり戻す。 「全部、考えてる場合じゃないね。まずは生き延びよう。エルシア?」 こちらは既に抜いているエルシア・エルミナール(ib9187)へと声をかける。彼女も意図を理解しジャリード、雪刃と共に動く。 「然り。いずれ平穏を乱すというのであれば何であろうと同じ事。倒すのみ、でありまする」 黒猿の豪腕が振り抜かれた直後、ジャリードが走り、剣撃を狙う。無理、黒猿の返しが速い。 踵を立てて急停止しつつ、逆手に持った銃を放つ。 突如、黒猿がその場で飛び上がる。ほんの一瞬で、黒猿の全身がジャリードの頭上高くにまで舞い上がるのだから驚きだ。 その跳躍で結構な距離が開くが、黒猿は大地に深く沈み込むと爆ぜるように再度飛び込んでくる。 エルシアが盾を翳し突進を受ける。痛撃は防いだが、大きく後ろに跳ね飛ばされる。 飛び込んだ勢いそのままに距離を取る黒猿であったが、雪刃は飛び込みの勢いからその位置を読んでおり、駆け寄りざまに斬りかかる。 命中はした、が、剣先から伝わるはまともな感触ではない。 これは手がかかりそうだ、と雪刃は気を引き締めなおすのだった。 風葉は黒猿の動きを観察する。 野生のケモノそのものにも見えるが、敵とみなした相手への執着は異常だ。 「つまり、誘い易いって話よね」 手にした杖にて、軽く地面を一突き。 表面的には何も変化は無い。が、夥しい量の力が杖を伝い大地に流れているのだ。 風葉はすぐに合図を送る。二つ組に分かれた面々の内、ジャリードとナシートがこれを受け動く。 「雪刃を中心にエルシアは右につけ。攻撃箇所は泉華の術の命中位置に」 「おーっし! みんなでとっかんだー!」 まるっきり方向性は違うが、二人とも集団戦の呼吸、機微を学んでいる。 効率的な戦力の運用法を理詰めで、或いは勘で理解しているのだ。 そして二組の同時攻撃が終わると、そこで攻撃の空白が生じる。 黒猿は無論ここぞと大きく飛び掛っていくが、これはジャリードとナシートが仕掛けた誘いの一手であった。 足元より噴出した吹雪が螺旋を描き天を突く。 これに巻き込まれた黒猿は怒りの咆哮を上げるも、身動きが取れない。 風葉はすぐに皆への指示を下す。 「近接は離れて! 残りは遠距離攻撃を私の後ろから!」 その場を動けぬのなら、近接せねば攻撃は食らわぬ。その間に遠距離からの射撃術にてぶっ叩くという話だ。 咄嗟の事ながら皆は即座に言われるままに動く。 風葉の位置は黒猿の真後ろになる。吹雪が収まると、黒猿は振り返りざま、距離の空いている事もあり電撃の玉を吐き出した。 「そう、アンタ、遠距離視界外からの攻撃に即応する時は、ソレ使う癖あるわよね」 風葉は黒猿の戦闘を観察し、この癖を見抜いていたのだ。 電撃弾の直撃は無論、一番前に立っていた風葉へと、しかし。 「モノリスよりも硬い対知覚防衛兵装が自分、か……ふんっ、誇らしくも何ともないわね」 黒猿からの雄叫びが上がる。それは、ブレスがさほど効果を発揮しなかった怒りの声ではなく、二度目となる足元よりの猛吹雪に対する苦痛の叫びであった。 動きを読んでいたのだから、当然、仕掛けも準備出来る理屈だ。流石に三度は無理だろうけど、と風葉は一人ごちながら黒猿をぴっと指差す。 「二度かかるのは、二流の証よ」 ケイウスは風葉の立ち位置からその狙いを察する。 吟遊詩人だけではないが、支援職は皆の考えをその挙動から読めねば成り立たない。 手にした竪琴に指を這わせる。神秘の力を秘めた楽器というものは、癖のある素材を用いている事が多い。 優れた奏者にのみ使用を許される、そんな楽器であるが、そも未熟な者では扱いきれぬという意味でもあるのだろう。 弦一本一本、それぞれで触れ方を変える。 ただ連続で流しているだけに見える運指には、指腹より伝わる微かな弦の揺れにも反応する神技あってこそだ。 『相変わらず、三本目は機嫌が良く無いね』 特に癖の強い弦に愚痴りつつ、演奏以外にも意識を向ける。 風葉に天鵞絨を施し、すぐ次の曲へと。 近接が敵から離れるのなら、この曲が使える。 ケイウスが弦を強く弾く。これに合わせ、黒猿を包む空間がひしゃげ歪む。 吹雪に身動き取れぬ黒猿は、のみならず全身を大地へと押し付けられる。 黒猿を取り囲む空間そのものごと音の波にて封じ込める。 ぎりりと鳴る音は黒猿が音の圧力に抗しきれず体を歪ませる音だ。 ケイウスは曲を奏でながら、三本目の弦を見下ろす。 『この曲の時だけは良い子なんだよね、この弦』 ジャリードは自ら率先して黒猿に張り付くように動く。 巨体を相手にする時の常道、手足を狙いつつ死角に入るよう。 この動きに真っ先に合わせたのはエルシアだ。 彼女自身の狙いも似たものであった事もあるが、ジャリードの挙動は一々エルシアの動きを意識したものであったのだ。 相手側に合わせる意図があるのなら、エルシアもまた歴戦の騎士だ、これを見逃すはずもない。 また雪刃は、黒猿に真っ向より立ち向かう事で連携と為す。 三人に向け飛び掛っていく黒猿。ジャリードは左、エルシアは右に飛ぶと、黒猿は残った雪刃へと意識を向ける。 脇へとすり抜けざま後背にまで回り込んだジャリードの刃は、黒猿の後ろ足を斬り裂く。 エルシアの剣は黒猿の大きく引いた左腕を斬り上げる。連撃狙いを阻止する意図もこの斬撃にはあった。 そしてどまん前にて、雪刃は黒猿の拳に大太刀を叩き込む。 力任せだけではない鋭い拳の軌道を見切り、刀の背を肩に乗せるようにして振り切る。大きく弾かれる。 後ろ足を大きく引いて踏ん張る姿勢を確保していたが、その姿勢のまま雪刃の全身が後ろに滑り下がる。 黒猿は斬り傷も構わず左腕を振るう。 下がりながら雪刃は、体勢を保つのは下半身のみでこなし、上半身の振りで刀を引き、黒猿の左腕に再び合わせる。 今度は、雪刃のみでなく双方が大きく弾かれ下がる。 黒猿は踏ん張る後ろ足を、振るった左腕を、傷つけられ全力を出し切れなかったのだ。 怒りと共に左右に分かれたいずれかの標的を狙おうとする黒猿に、雪刃は下がらされたお返しとばかりに自ら踏み込み斬りかかる。 再び右腕を振るう黒猿。雪刃は一歩も引く気はないと、鬼神の如き膂力を両の腕に漲らせ、三度この拳に刀を合わせる。 激突の瞬間、全身の関節を固定する。というかしないと支えきれない。 雪刃の予想とは裏腹に、振るった刀は容易く斬り抜く事が出来てしまった。 外した、そう思ったのだが、見ると黒猿の腕は大きく後ろに弾かれている。 戦闘中でもあり、ともかく今は戦いに集中する事にしたが、雪刃はこの戦いが無事終わったら、もう一度さっきの感覚で刀をふるってみようと思った。 多分、再現は出来ないだろうけど、と自分が放った奇跡のような剛剣を思い出し、呟くのだった。 黒猿は腕が弾かれたのに、驚いているようにも見えたが、そのせわしない挙動が止まる事はない。 それまで見た事もない挙動。全身を捻っているようにも見える前動作に、ジャリードは距離を開けるべく跳躍しようとし、必死にその衝動を堪える。 動きも見ずに飛んではその後が続かない。 『跳ぶか!?』 前方を向いていた頭部が真後ろを向くような、体を捻りながらの跳躍。 真っ先に迫るは黒猿の右前足。これを倒れ込むようにして回避。 更に、後ろ足がジャリードの上より降りてくる。 銃をほうり捨て、空いた手を大地につくと、体全体を捻るようにして直上に伸び上がる。そんなジャリードの眼前に黒猿の後ろ足が突き立つ。 逆立ちのような体勢から、片腕の力のみで全身を跳ね上げ、上がりざまに剣を切り上げる。 エルシアもジャリード同様、大きく避難する手はとらなかった。 右側面より迫るは黒猿の後ろ足、というより後ろ足が繋がる下胴体部がエルシアに向け突っ込んできている。 咄嗟に剣を離し、盾を持つ手を掴み強く握り締める。 眼前には黒猿の腰の壁。ここに向け、ありったけの力で盾を叩き付ける。 重心を落としに落としておけば、黒猿の有効打撃角度を外す事が出来る。 その上で押し負けさえしなければ、支える両の足が大地にめり込もうとも微動だにせぬ強き姿勢を維持出来れば。 黒猿の速度を逆用し、盾で斬る、事も出来るのだ。 そしてこれこそがエルシアが盾にて堪えるを選んだ理由。 大きな動きを終えた黒猿。そのやたら硬い毛が無い脇の下を、狙いやすい場所に自らが位置する事が出来るのだ。 落とした剣を、そちらを見もせず拾い上げる。 脇を締め、剣の先端と柄尻が作る直線を綺麗になぞり突き出す。 剣はほんの僅かもたわむ事なく、まっすぐ吸い寄せられるように黒猿の脇の下に刺さった。 ナシートが突き出した槍を、黒猿はお前そのでけー図体でその速さ反則だろぼけー的な勢いで飛びかわす。 と思った次の瞬間には、ナシートの全身が宙を舞っていた。 大地に叩き付けられると、すぐに泉華が来てくれた。 別班であったのに、ナシートが落着するやすぐに術の行使に入れるよう備えてくれていたのは、恐らく殴り飛ばされた瞬間に動いたおかげであろう。 体中痛くて仕方が無いナシートであったが、そんな泉華には感謝の言葉もない。そして、治癒を行う泉華に問うた。 「なあ、治療してくれるのは嬉しいんだけど……何でそんなに不機嫌そーなんだ?」 「この顔は生まれつきや、ほっといてんか」 いや明らかに気分わるそーに見えるのだがー、とつっこんでも戦闘の最中なので不毛だと思いやめる事にした。 ある程度治療は落ち着いたので、ナシートは体を起こし戦線に復帰する。 と、今度はブラッディがぶっとばされるのが見えた。 「女の子に傷痕なんかウチが許さんで」 あちらの治療は優しい言葉付きである。 更に次に治療するは、血を流すジャリード。 「…………」 その後にエルシア。 「大丈夫かいな? あんじょう気張りぃ」 ナシートは、泉華はすっごい自分に正直な人間なんだなーと、思った。 そして、泉華は戦闘が続くにつれ、明らかにテンションが上がってきているようにも見えた。 「邪魔やなぁ……そん脚ぃ!!」 力の歪みにて黒猿の前足を捻りにかかると、ナシートも考え事は後にしよーっと攻撃機会を活かすべく踏み込む。 どー見てもナシートの背より長い砲身を突き出す。そう、今は槍先ではなく砲身で正しい。 崩れた体勢のまま黒猿が飛び掛ってくるのを、小柄な体躯を活かし足元を転がる事で背後へと抜け、振り向きざまに砲をぶっ放す。 盛大な反動でごろんと後ろに一回転。黒猿もまたあの巨体が前方へと一回転している。 そこへ、ブラッディの極地虎狼閣が叩き込まれた。 あまりの痛打にのたうつ黒猿は、その後の皆の一斉攻撃に、さしものその抵抗も尽きようとしていた。 何故か、ブラッディはそこに加わる気になれなかった。 理由はわからない。そもそも理屈を考えて動くタチではないのだ。 それでも、いやだからこそか。 黒猿が戦いを続けながらも、こちらを何度も何度も見やるのを、そのワケに、思い至れたのも。 理屈なぞではない、確信に近い直感に従い、ブラッディはタバコに火をつけながら、黒猿を手招いてやった。 それまで弱っていたのが嘘のように、黒猿は雄叫びをあげブラッディへと飛び掛ってきた。 『お前、もう一度見たいんだろ、コイツをよ』 白き閃光が天を穿つ。 歴戦の勇ブラッディをしておいそれと濫用出来ぬ技、極地虎狼閣を黒猿はその目に写しえたのか。 いや、映しえぬ技だからこそ、黒猿は、満たされたような顔を見せたのかもしれない。 ブラッディは跳ね飛ばした首を見て、くわえたままであったタバコを大きく吸い込む。 タバコは、ほんの僅かばかり、何時もより旨く感じられた気がした。 |