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■オープニング本文 こんにちわー! 私、この度ギルド係員見習いになりました詩(しい)と申します! 先日研修を終え、ようやくギルドの仕事が出来るようになりました! 私の地元は陰殻なんですけど、地元で見習いするのはあまり良くないとの事で、現在北面の都、仁生の街に来ております。 今の私のお仕事は受付っ。 お客様から必要事項をきちーっと聞かなきゃならない、大切なお仕事なんだ。 もちろん、お金の事とか、ギルドで出来る事出来ない事を私がきちっとお客様に伝えなきゃならないから、色々と勉強しておかないと駄目なんですよ。 ううっ、ちょっと緊張してきたかも。 って言ってる側からおきゃくさんきたー! は、初めてのお客さんだ。頑張らないと……えっと、まずはお客様のお話をきちっと聞く事が大事っ。 あとは安心できるような笑顔っ! 「こんにちわ、ギルドに何か御用ですか」 うんっ、声震えてないっ。大丈夫。 何かお客さん、ちょっとかっこいい感じの人です。 少し影があるっていうか、後、何でか左腕押さえてます。怪我、してるようにも見えないんだけどなぁ。 「俺の名は闇狩人、俺は今狙われている」 ジルベリアで修行を積んだ闇狩人は、遂に、故郷である仁生の街に戻って来た。 早速、初めてこの街で声を上げた時のように、最近開店したらしい飲み屋の片隅で、静かなバラードを歌い始めた。 整った小奇麗な目鼻立ち、良く通る澄んだ声、情感の篭った染み入るような抑揚、そして。 黒に沈んだ俺の腕。永久に帰らぬ平穏の日々。全ては闇の生まれのせいか。 それでも俺は闇に生きる。光に挑み、敗れる定めも尚受け入れて。 ただ、運命がそう指し示すままに。この世全てを滅ぼす闇は、何時でも俺の左腕の中に。 俺は闇に生きる、漆黒の住人。それでも、世界は、俺が、守る。 容姿に、声に、音楽に、惹かれ聞き入った者全てが、眉根を寄せる素敵歌詞である。 しかしその酒場の中に一人、驚愕の顔で立ち上がる者がいた。 「ま、まさかお前……いや、貴方は!?」 そちらにちらと目線を向け闇狩人は言った。 「見た、顔だな。ならば皆に伝えてくれないか。闇が仁生に戻ったぞ、と」 彼は慌てふためき、こけつまろびつ飲み屋を飛び出していった。 その日の深夜から、闇狩人は何者かにつけ狙われるようになったのだ。 「……と、ともかくっ、事情はわかりました。こちらで調べて確認しますので、当面ギルドで保護したいと思いますが……」 詩と名乗った受け付けのギルド係員は、何故か年の頃が十歳前後にしか見えない。 闇狩人は、しかしそんな外見にだまされたりはしない。 「ふっ、ギルドはまたも俺を試すか。よせよせ、俺にまやかしは通用しない。何、心配するな、見抜いたとて女性の年を公言して回るような無粋の輩ではない」 とても戸惑った顔をしている詩に、闇狩人はこれ以上の追及は相手を追い詰めるだけ、と話題を変えてやる。 「時に、ギルドのこの建物には善の結界は用意されているのか?」 「ふえ? け、けっかい、ですか?」 「アンタには言うまでもない事だろうが、俺の左腕を封じるにこの包帯だけでは少々不足していてな。何、それでも俺の全身全霊を賭け闇を封じ続けてみせるが、もしギルドが結界を用意してくれるのであれば、多少は楽が出来るのでな」 詩はじっと左腕を見た後、首を何度も傾げながら、どうしてかわからないが汗をだらだら流している。 ものすごーく、追い詰められているようにも見えたので、闇狩人はすぐに前言を翻す。 「いや、すまない。いいんだ、気にしないでくれ……なるほど、ギルドの支部にも色々ある、という事か」 やっぱり詩は、隠しきれぬ勢いで困った顔をしていた。 詩です。その、調査結果の報告……します。 えっと、仁生の街で最近売り出し中の歌い手、『夜狩人』という方と『だあくはんたあ』という方が、どうやら闇狩人さんを狙っているようです。 ごめんなさい。ここだけの話ですけど、本当に狙ってる人が居るかどーか、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ疑ってしまってました。 だあくはんたあさんは、地場のヤクザと付き合いがあるらしく、その辺の方々が動き始めているみたいです。 夜狩人さんの方は、常連のお客さんを使って色々と嫌がらせのような真似をしてます。 他に同系の歌い手として、『闇の亡者』という人と『漆黒者』という人がいますけど、この二人はどうも闇狩人さんを凄く尊敬してるみたいで、帰って来たのをとても喜んでいました。 どちらも、誰にも見られない場所で涙を流して喜んでいましたから、これはもう二人の本音と思って間違いないでしょう。 ん? どうやって見たのかって? ふふーん、私こう見えてシノビの心得あるんですよー♪ 素人さん相手ならぜーったいに見つかったりしませんよーだ。 うん、でもこれなら開拓者さん頼らなくても、ギルドで匿っている間に上の人の話し合いで何とかなるかも。 え? こんさあと、ですか? ああ、つまり歌を……えー! この状況で人前で歌を歌うんですかー!? 危ないですよ! まず間違いなく来ますってやくざな方々とか! 後嫌がらせしてる人達も! え!? え!? えー!? 夜狩人さんとだあくはんたあさんと、一緒に歌いたい!? いやそれどうやったって無理ですよ! むしろうっかり成立しちゃったら、命の危険すらありますって! だめだめだめぜったいだめですっ! ギルドの支部長さんに確認した所、結局闇狩人さんの希望通っちゃいました。 うーん、こんな例、教本にも無かったなぁ。やっぱり実際にお仕事するのって大変だとしみじみ思いました。 でもあの左腕、瘴気も精霊力もまったく無いと思うんだけどなぁ。私、こういうの外した事無いし。 うーん、うーん、うーん、私もまだまだって事なんだろうなぁ。はぁ。 演奏会会場を貸し出した男は、喜色も顕に詩に語る。 「へぇ、お嬢ちゃんみたいなのがギルドの、ねぇ。まあいいさ、ともかく闇狩人がやるっていうんなら、人なら幾らだって集まる」 「は、はぁ」 「最近、奴の類似品がそこらに出回ってるらしいが、本物は奴一人さ。ステージに立てば嫌でもわかるだろうよ」 「そうなんですか〜」 「ダークハンターと夜狩人の方は俺から話を通しておいた。まあ間違いなく闇狩人の演奏を妨害に来るだろうが、開拓者出すってんなら、どうにかならぁな」 演奏順はダークハンター、夜狩人、最後に闇狩人となる。 ステージへの乱入、演奏前に闇から闇へ、脅しすかしに、演奏中の野次罵声。 おおよそ考えうる妨害全てをやってくるだろう、そう男は言う。 「けっ、音の良し悪しもわからねえクソヤクザが出張ってくるようじゃ、仁生の音楽もおしまいだっての」 金が絡む以上ヤクザの介入は避け得ない。それでも、対抗勢力として成立しうるだろう闇狩人の存在に、彼は大きな期待を寄せているのだった。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
江崎・美鈴(ia0838)
17歳・女・泰
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
からす(ia6525)
13歳・女・弓
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
豊嶋 茴香(ib9931)
26歳・女・魔
山茶花 久兵衛(ib9946)
82歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「いやじゃぼけー!」 江崎・美鈴(ia0838)が、鴇ノ宮 風葉(ia0799)の後ろに隠れながら威嚇の声を上げる。 肩をすくめながら山茶花 久兵衛(ib9946)が他の女性陣へと目をやる。 「とはいえ、背丈だけは如何ともしがたいしな」 レビィ・JS(ib2821)は困った顔で雲母坂 芽依華(ia0879)と顔を見合わせる。 「うーん、流石にわたしじゃ大きさ合わないしなぁ。芽依華はどう?」 「レビィはん程やないけど、やっぱり小さいどすなぁ」 芽依華は次に豊嶋 茴香(ib9931)を見る。 芽依華より僅かに小さい茴香ならば無理をすれば何とか、そうも思えたが茴香はそも直衛に心底向いていない。 かといって、とからす(ia6525)が言葉を続ける。 「私では大きすぎる。詩もな」 何故かこの場につき合わされているギルド係員見習いの詩。 久兵衛に実況だか解説だかをやるよう言われて引っ張り込まれてるのだ。 まとめるように玖雀(ib6816)が、ぴしゃっと言い放つ。 「ステージの演奏者が二人、急遽参加出来なくなったのはむしろ好都合だろう。これを俺達で引き受ければ、護衛対象が減り、かつ闇狩人の側で大手を振って護衛出来るんだから」 ぶちーっと風葉の血管がキレる音がした。 「……ってゆーか! なんでまたこんな正気の沙汰とは思えない服装なワケ!?」 そう、問題は、闇狩人の後ろで演奏する二人の女の子が急遽出てこれなくなった事ではなく、その女の子が着る予定の服が風葉と美鈴にしか合わない事が問題なのだ。 別に露出が高いとか、そういう事ではない。 ちょっと尋常ではない程にレースのひらひらがついている、ありえないレベルで個性を主張してくる衣服なのだ。 風葉も美鈴も、二人が引き受けるのが護衛を行うに一番効果的だという事も理解は出来ている。 「はずいわぼけー!」 「……仕事、これも仕事……」 それでも、自分を納得させるにはもう少し時間がかかりそうであった。 二人の演奏者が先に演奏する間、闇狩人は控え室にて順番を待つ。 彼の護衛はそのまま風葉と美鈴がついているので問題は無い。 ステージ袖から観客達を見ているレビィが、観客席後方に向かって指で一箇所を指し示す。 そこに、玖雀がすっと歩み寄り、声をかける。 「悪いが、その鞄の中身を確認させてもらおうか」 挙動不審者をレビィが見つけ、こうして対処しているというわけだ。 芽依華はまた別の者の側を通り抜ける。 その際、懐より肘を抜き打ちに叩き込んでいたのが、見えた者がどれだけいただろうか。 「あら、気分でも悪いんどすか?」 そう言って苦痛に蹲る挙動不審者を、別室へと連れ去っていく。 久兵衛は自分の髭をなでながら、現状を隣の詩に告げてみる。 「挙動不審者というが、本来演奏者含むこの場に集った全ての者の挙動が極めて不審であると言うべきなのであろうが、この場ではこの狂態こそが正しいあり方なのであろうな。実に、度し難い。大体この歌の何処がいいのかさっぱりわからん」 「あ、あはははははははは」 こんなことを言っている久兵衛も、仕事は仕事と弁えているのか、既に五人を別室送りにしている。 そして詩はというと、久兵衛が用意した実況解説のあんちょこを見ながら最後の復習をしていたり。 一方からすはステージの屋根に上り、布を被り下からの死角を作り、高所よりの監視を行っていた。 弓使いという職柄こういった監視作業に向いているからすは、もうステージ開始前から数刻ものあいだこうし続けている。 それを苦痛に思う事もなかったが、不意に、屋根へと至る階段から人の気配を感じた。 「おーい、さしいれだよー」 茴香が気を配ってくれた模様。 彼女も理由があって男装しているのだろうが、こういった配慮がなくとも、普通に女性が男装しているようにしかみえない。 おにぎりか何かか、と受け取ったからすは、お重に入れられた色とりどりの食事に少し驚く。 「随分としっかりした食事だね」 「あーこれ、玖雀お手製。いきなり厨房占領した時はどうしようかと思ったけど、おいしいんだこれがまた」 どれ、と芋の煮っころがしを一つ口にしてみる。確かに、おいしい。 人は見かけによらぬものだ、といった感想を述べず、からすは実務を問うた。 「水周りは?」 「食べ物は玖雀が、飲料水は私が調理用含め用意してる」 一口口にした分も異常があるようには思えなかったので、ようやくからすは食事の時間を始める。 こういう時、魔術師の術は実に重宝する。 最後に茴香は詩が聞いたギルドからの情報を伝える。 「ヤクザは間違いなく来るって。でも、絶対成功させよう。彼の歌、凄い綺麗だし」 「ああ」 闇狩人の出番になっても、彼は登場しなかった。 代わりに舞台両袖より軽快な弦の音が。 左右の袖より、少女が二人、弦楽器を弾きながら姿を現す。 右の少女。江崎・プリムローズ・MISUZU。(←闇狩人が丸一日考えて命名) 白黒。これがまず最初に来る印象だ。 内に白のレースをふんだんに用いたワンピースを着込み、この上に黒の上着を羽織る。 首をぐるっと巻いてある黒いリボンは、胸元を隠すように大きな蝶に結ばれている。 正面、特に胸からその下にかけて、白のシャツ前に黒紐が何度も交錯するようデザインされており、白と黒のコントラストを強調している。 また下半分スカート部はレースの折りに複雑な手間をかけており、黒のレース模様と白のレース模様を重ね合わせる事でいずれともつかぬ調和を生み出している。 ヘッドドレスは長い髪に合わせた大きな黒のリボン。髪も僅かにウェーブがかっており、ボリューム感をもたせている。 左の少女。テオゴーチェ・鴇ノ宮・D・ライナノール・ローゼンバッハ・風葉。(←闇狩人略) 漆黒。黒の陰影で全てを表現する。 黒のワンピースに黒のシャツ。 衣服としての作りは江崎・プリムローズ・MISUZUのものとほぼ同じであるのだが、いずれもに黒をあしらうとまるで印象が変わる。 細くくびれた腰を中心に、スカートは短めながらレースとフリルでたっぷりとした造りを確保し、そこから突如生足が伸びる。 腿上部のみで、膝上から下はやはり黒のレースが強い光沢のある靴まで続いている。 その、一部のみが僅かに見えているのが、大事なのだ。 レースフリルで彩られたまるで人形のような可愛らしさは、動く度ほんの僅かかいま見える人の生に、新鮮な息吹を勝ち得るのだから。 ヘッドドレスは黒のレースで薔薇を模した形を作り、乗せている。少しだけ、江崎・プリムローズ・MISUZUよりは大人びた雰囲気がある。 こんな服、ジルベリアですら珍しいのだ、仁生の街でのインパクトや如何にである。 観客達だけでなく開拓者達ですら思わず息を呑んでしまう。それほどの、二人であったのだ。 そして、満を持して闇狩人が登場する。 足首まであろうかというコートは、彼のスリムな体つきをより一層際立たせる。 全身黒であるだけに、ぽつんと浮かび上がる不健康そうな顔が、白く、ぼうとゆらいで見えるようだ。 しかし、ここまで強調されても、闇狩人のルックスは押し負けたりはしない。 彼は、何処に出しても恥ずかしくない圧倒的な美男子なのだから。 彼が姿を現すだけで、会場全てを呑んでしまえたのだが、闇狩人はそこで更に、止めを刺しにかかる。 皆が固唾を呑んで見守る中、朗々としていながら氷結晶のように脆く鋭い声で、皆の心を射抜く。 「闇狩人、来たる」 観客達から大絶叫が巻き起こる。 たった一言で、もう、前二人のステージを覚えている者など誰もいなくなってしまった。 風葉は横目で闇狩人を見ながら、ふんと小さく鼻を鳴らす。 「これだけが取り得なんでしょうけど、まったく、大したカリスマよ」 ついでにと更に奥の美鈴を見やると、こちらはかなり危険であった。 どっかあらぬ方見て自分の世界に浸ってしまっている。っつーか、あの目は闇狩人とどうけいとーな気がしてならない。 風葉は、もう死ぬほど面倒になったので、とりあえずステージの間は放置する事に大決定したのだった。 レビィは護衛どころではなくなってしまった。 「……か、か……格好いい!! はああぁ……いや、えっと、本当に……あああぁ……!」 ねえねえ、と隣の茴香に話を振ると、彼女もまた思わず見惚れてしまっていた。 歌の凄さも知っていたが、ステージの上に立つとまるっきり別物だ。 「ほんと……きれー」 無理も無い、そう思えてしまうような歌であり、曲であり、闇狩人なのだが、いかんせん二人共が今お仕事中だ。 二人の足元で、とんっ、と軽い音がする。 それが黒く塗った矢であると気づいた二人は、後ろ髪惹かれる思いで動き出した。 からすは苦笑しながら射終えた弓を寝かせる。 敵が今観客席に居るだけならば見てみぬフリもしてやれたのだが、どうやらそうもいかぬらしい。 外より侵入の気配がある。その気ならば、受付までは突破されてしまうだろう。 下から玖雀が目配せしてきた。 受付の者の避難が終わった合図だ。ならば後は、憂い無きよう備えたものを振るうのみ。 「おい! 今すぐ歌を止めろクズどもが!」 そう叫び、複数の男達が乱入してきた。 それ以上、その男に口を開かせず。からすはその男を射抜く。 鏃は抜いてあり、丸い先をつけている為刺さる事はないが、それでも充分痛い。というか悶絶する勢いがある。 これがからすよりの狙撃だと気付けた者が、一人、二人しか居ない事につい失望してしまうのは、武を学ぶ者である以上どうにもしようがないな、とからすは一人ごちた。 乱入して来たヤクザ達はいきなり先頭の者が倒れた事に驚くも、何せ彼等は仕事で来ているのだ。 脅し威嚇しながら観客席へと突入してくるが、また一人、突如悲鳴を上げその場に硬直する。 何だこれ誰かとってくれ、という彼には影が纏わりついており、皆がそちらに注目した瞬間、一番外側に居た男が一人、ぱたりと倒れ伏した。 はらりはらりと舞い散る木の葉のみを僅かな痕跡とし、音もなく人一人を気絶させた何者かは影も形も見えぬまま。 シノビ玖雀の本領発揮である。 そこでちょうど、闇狩人の歌は途切れた。 合間に入るは詩のMC(監修 山茶花久兵衛)だ。 「はーいみんなー、今不安? びっくりした? 騒ぎが起きて驚いてる? 危ないかもしれない? ないない、そもそも闇狩人がここに居るんだもん。何も起きない方がどうかしてるよ! でも大丈夫、だってここは! 闇狩人の猟場なんだから!」 言い終えると詩は不安そうに久兵衛を見上げる。 久兵衛はうむ、とMCを続けるよう指示し、観客の襟首を引っつかんだ男に向け符術を放つ。 これもまた黒く染まった何ものかが、彼の足元より這い上がり、全身を拘束する。 「あーらら、また一人闇に囚われちゃったねー。まったく、勇気あるよーそこの人達ー。だって相手は、闇狩人なんだよー」 これは台本には無い台詞だが、その間の良さに久兵衛が笑みを見せてやると、詩は得意げに胸をそらすのだった。 ヤクザの一人が客席の椅子を一つ抱え上げると、これをステージ上へ向けて放り投げる。 が、椅子は中途で明らかにおかしい直角な軌道変化を見せ、大きく逸れ弾かれる。 隣のヤクザが今度は刃物を投げつけるがやはり結果は同じ。 すぐにMCからのツッコミが入る。 「おおっと、闇の結界を知らない馬鹿がいるぞー! 飛び道具が闇狩人に通じるわけないじゃん!」 無論闇の結界などではなく、レビィが舞台袖より空気撃にて弾いているだけだが。 そのレビィであるが、連中が投擲を諦めるなり内の一人の下に赴き、心底真顔で問う。 「この歌を聞いて、なお争いを続けるだなんて……。君らの魂は闇に囚われてしまっているのか……! いや! 己の内に潜む闇に懸命に抗う彼の歌声……! 命の叫び! それを聞けばきっと分かる筈だ!」 すんげーマジ顔でヤクザ君は逃げ帰ろうとしたのだが、あっさりとっつかまって延々歌の解説をされるハメになるわけで。 また、久兵衛はまだ何かしでかそうとしているヤクザの服を、術にて切り裂き下着だけにしてやる。 そうされた彼は真っ赤になって誰がやったと怒鳴りつけるが、久兵衛はそ知らぬ顔で無視を決め込んでいる。 「力仕事は若いのに任せるさ」 茴香がすぐに言い返す。 「いやそれで私に力仕事振られても。でも、こう……かな?」 久兵衛と同じく、ウィンドカッターにて彼等の服を引き裂きにかかる。 喚く彼の隣のヤクザの服が千切れ飛び、彼もまた周りを見回しながら怒鳴り散らす。 茴香はそれでもきっちり相手してやるつもりだったのだが、下着だけになってしまっている見るからに清潔さと程遠いヤクザに掴みかかられでもしたら勝つ負ける以前に気分が悪すぎる。 なので茴香は、間違っても近接なんてしないよー、術でケリをつけるのであった。 それでもまあ、ケリがつくまで面倒見るあたりが彼女らしいといえばらしいのかもしれない。 からすが受付からの人の導線を工夫していたおかげで、敵の侵入経路がとてもわかりやすく対処がしやすい。 だが玖雀はこれから外れ、入り口にもなっていない裏の窓を確認に向かう。 咄嗟に、偶々持っていた盾(盾じゃねぇよ、愛用の料理具鍋の蓋だ、だそうである)にて奇襲を防ぎ、返す鉄拳で黙らせる。 「残りは、四人って所か?」 「生憎ここは通せぬ事になっていてな、他を当たってくれないか」 そんなからすの言葉に、ただのヤクザにはありえぬ殺気と殺意で応え斬りかかる男。 弓を相手にそうする事は正しいが、からすが弓ではなく鉄扇を抜いた瞬間、それは最悪の選択となる。 彼の刀はかすりもせず、鉄扇は正確に彼の急所を撃ち抜き、容易くこれを撃破する。 「ほらほら、歌の邪魔したらあきまへんえ?」 数多の障害を突破して来た男に、芽依華はそう声をかけてやる。 男が抜く。いや、抜けない。刀の柄の先を、芽依華がよりはやく抑えてしまったからだ。 男は進めず、引けず。微動だに出来ぬ彼に芽依華は言ってやった。 「あんたらとは、くぐって来た修羅場の数が違うんどす」 彼の殺気は本物だったが、技量も覚悟も、芽依華に遠く及ばないのだ。 舞台袖双方から同時に二人の男が飛び出して来る。 風葉は咄嗟に符を飛ばし、男の目を封じ明後日の方に走らせつつ結界呪符に激突させてやる。 そして美鈴は座っていた椅子を持ち上げ、こちらはもう直接的にこれで殴り飛ばすと、何事も無かったかのように演奏を続ける。 観客達の喝采の中、風葉はぼやき、美鈴は告げる。 「暗影符にモノリス……なーんか、こいつらと同類みたいに見えて心の底から泣けてくるわ……」 「闇に抱かれて静かに眠れ」 そして、仁生の街から、闇狩人の伝説が始まった。 |