【混夢】絶体絶命街
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/29 05:54



■オープニング本文

 その街は、既に死んでいた。
 対アヤカシ戦線の一部を担っていた戦士達が、遂に戦線破れ後退した先、彼等が守るべきものの象徴であった街。
 どうやらこの街がアヤカシに襲撃され、完膚なきまでに破壊されたのはもう一月も前の話らしい。
 彼等が辛うじて戦線を維持出来ていたアヤカシの猛攻に、他所は耐え切る事が出来なかったようだ。
 街に潜みながら数体のアヤカシを屠り、どうにかこうにか一休みするぐらいの場所は確保する。
 焼け残った宿の二階。そこで、戦況を確認出来た皆は、全てが既に終わっていると悟った。
 街の人間が避難したのも一月前、軍が引き上げたのも一月前、孤立していた彼等は、それと知らずアヤカシの陣中深くで踏ん張り続けていたといわけだ。
 それが、如何に後退を続ける者達の助けになったか、そんな想像も現状に救いをもたらしはしなかった。
 そして滅びの軍靴が聞こえてくる。
 追撃をかけていたアヤカシ達が、奪い取った拠点へと戻って来るのだ。
 逃げる? 何処へ?
 ここではない何処かというのなら、街を出た先では既に魔の森が広がり始めている。
 とてもではないが、今の装備と人員で突入なぞ出来るはずもない。
 せめても一矢報いるべく、戻って来たアヤカシに斬り込む?
 絶望的生還率に賭け、魔の森へと飛び込んでいく?
 道中のアヤカシをかわし、街道を通って退却しきる?
 いずれも、自殺と大差無い結果をもたらすであろう。
 そう確信出来てしまう自らの戦況眼が、実に恨めしい。
 希望は無い。あるのは、一気に残り少なくなってしまった余生のみであった。


■参加者一覧
京子(ia0348
28歳・女・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
ヴァナルガンド(ib3170
20歳・女・弓
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲
戸仁元 和名(ib9394
26歳・女・騎
落花(ib9561
14歳・女・巫


■リプレイ本文


 水月(ia2566)は周囲を探り敵を探し、その目を避けるように進む。
 障害物は何せ街中、幾らでもあるのだから、街の外に出るまではこれで何とかなる。
 そんな期待があったのだが、程なく一体のアヤカシに見つかる。
 走る。見つかる。跳ぶ。囲まれる。忍ぶ。気付かれる。
 つまる所、彼我の戦力差から、とうの昔に水月は詰んでいたのだ。
 数を数える気も起きぬ大軍に囲まれ、それでもあるか無いかの隙間を縫い、水月は駆ける。
 小さな体、愛らしい顔、真っ白な衣装、世間慣れしていなさそうな数々のオプションを備えていながら、水月は何処何処までも諦めず。
 右に払い、左にいなし、上に潜って下を飛ぶ。
 幸い、遠距離攻撃はあの角のあるアヤカシのみ。しかし奴は、部下の下級アヤカシの大軍を盾に、下級アヤカシごと水月に術を放って来た。
 凄まじい苦痛の後、全身から力が抜ける。
 眼前に壁、いや、これは大地だ。
 転倒したと思い至った水月は、呆とした視界の中に、薄れた意識すら一瞬で覚醒するような物を見つけた。

……あれは大好きなお兄さんがプレゼントしてくれた……ほんとに大切な、大切な物……あれだけ絶対に失くしちゃ駄目、なの……

 必死に手を伸ばす。
 体中が揺れている。倒れた自分の体を誰かが押しているのだろうか。
 もう、それ、と自分の手の先しか見えない。
 後、少し。
 そこで、水月の伸ばした手の平を、氷の矢が貫いた。
 水月はようやく理解した。
 先程から体が揺れているのは、何度も何度も揺れる都度、致命の氷矢が体に突き刺さっていたのだと。
 手は、届かない。そして一度目を閉じたなら、二度と開く事は出来ないだろう。

 アヤカシの哄笑。眼下に倒れた少女は、その手を地に落ちた髪飾りへと伸ばし、届かぬ事が悲しかったのか涙を溢しながら息絶えていた。


「またお会いできるのであれば……全員が小綺麗な身なりだといいですね」
 そんな憎まれ口と共に皆の下を離れた闇野 ハヤテ(ib6970)は、一人になった事で不意に冷静さを取り戻してしまう。
 即座に、全身に負った傷が痛み出す。特に腕。
 眩暈すらしてくる。足元がふらつき、手にしていた長銃の感触もわからない。

 女性の姿が見えた。
 驚くハヤテは急ぎ駆け寄る。
 怪我なぞ何のその、軽やかな足取りに緩む頬。
 もう終わりが近いのだ。今、ここで、彼女に伝えるべき言葉を。
 ずっと、心の中に思っていた事を、彼女の前で口に……

 妙な違和感を覚え右肩を見ると、さらさらと真っ白な塩になっていた。
 肩を覆う白はゆっくりと全身へと広がっている。
 後ろから何者かがハヤテに触れた。そう感じた直後の事だ。アヤカシの仕業であろう。
 尤も、ハヤテにとってはそれは大した問題ではなく、それよりも目の前に居たはずの彼女の姿がなくなっている事の方が余程問題である。
 一瞬、失望を顕にしたかと思うと、すぐに苦笑し、残った左肩をすくめる。
『案外と、コレでよかったのかもしれない……本物だったら、今頃大泣きしちゃうだろうからなぁ……』
 まだ随分と時間に余裕はあるらしいので、ハヤテはとりとめのない事を幾つも考え、心の中で、伝えられなかった言葉を。
 そして、最後に。
『さよなら、シアワセだった世界』

 そのアヤカシが背後よりハヤテに触れると、瞬く間に全身が真っ白な塩へと変化していく。
 アヤカシはすぐに興味を失ったのかその場を離れる。
 そんな塩の柱を世界は哀れに思ったか、暖かく優しい風を一つ送ると、塩は風に飛ばされ、後には何も残らなかった。


 京子(ia0348)が単身、敵陣奥地まで向かったのは、完全に油断しているアヤカシ群相手ならば、その首領たる存在と接触する事適うかもしれない。
 そんな期待感があったからだ。
 最初は、それがそうとは思わなかった。
 ぽつんと一人立つ青年。彼が、ゆっくりとこちらに視線を向けて来た時、ようやく京子はそれが何者なのかを理解し得た。
 大気が歪む。景色が歪む。大地が歪む。世界が歪む。大空が歪む。京子が歪む。
 よって立つ何もかもを奪われたような不安定さは、かの青年、いやさアヤカシの瞳より発せられる威圧にも似た気配のせいだ。
 顔は、見えない。
 あるのに。目、鼻、口、諸々揃っているのもわかるのに。顔が、わからない。
 京子の全身から噴出す滝のような汗は、恐怖そのものと対峙したせいか。
 ゆっくりと彼が歩み寄ると、彼が歪ませる周辺の世界諸共に京子へと迫り、より密度の上がった狂気の世界が京子を侵略し始める。
 そんな自らの様をも冷静に観察し、心を細く螺旋に穿ち、ただ一点の槍と化す。
 このアヤカシ、そう、奴こそはこの集団を率いるであろう、大アヤカシは、一歩一歩確実に京子へと歩み寄る。
 動けぬ。動けるはずもない。そも存在が違うのだ。人間に触れうるように、奴は作られていないのだ。
 彼我の途方も無い距離を、京子は魂の髄で感じ尽くし、そして、抗う。
 面では無理。線でも不可能。しかし、ただ一点のみに自らの全てを絞り込めば。
 じわり、じわりと京子の足が持ち上がり、この、世界をすら狂わす狂気の権化に向かい、足を、一歩、踏み出した。

あははははははははははははははは!!! ああ、やっと、辿りついた。この悦楽の境地。

 大アヤカシに向かい術を行使した姿勢のまま、京子はアヤカシに触れられ塩の柱と化していた。


 諦めるのは性に合わない。そんな面々は一丸となり、アヤカシの群を突破すべく戦端を開く。
 それまで戦って来たのが遊戯に思える程の激戦。そも、勝ち目云々を度外視しているのだ。
 それでも、ウィンストン・エリニー(ib0024)の瞳から輝きが失われる事はない。
 自らの生き方に従い殿に位置すると、実に戦いやすい。
 戦場にあるべき場所があるとしたら、騎士ウィンストンにとっての居場所はここ以外ありえぬと思える程、自分の戦いにぴたりとはまる。
 その事実に僅かな誇りを感じつつ、しかし、余計な事も考えていられぬ域にまで戦は踏み込んで行く。
 縦横に長柄の槌を振るうと、酷使に耐え兼ねたかこれが半ばよりへし折れる。
 折れたへ先を先端にし、追いすがるアヤカシに突き刺しながら大剣を抜き放つ。
 すわやと飛びかかってくるアヤカシを、一体づつ順に片付け、どうにか体勢を立て直した所で、ウィンストンは周囲に仲間の姿が無い事に気付く。
 咄嗟に手薄に見える側へと駆ける。
 右アヤカシ、斬る。左前蛇アヤカシ、踏む。上アヤカシ、潜る。前アヤカシ、無理避ける。
 避けきれず、痛打を受けると大地を一回、二回と転がり、巨大な木の根元に出来た穴へと転がり落ちる。
 そこで一息つけた事で、どうやらこの木は魔の森のそれであるとわかった。
 戦いに必死で自身の惨状にも気付けなかったが、どうやら、随分と手ひどくやられているようだ。
 人事のようにそう呟きながら、大剣を支えに、木のウロを掴みながら、痺れる膝に鞭打って、どうにかこうにか立ち上がる。
 何故か、心は突き抜ける青空のように、晴れ晴れとしていた。

「オレはまだここに居るぞ!」

 声に気付き殺到してくるアヤカシに対し、ウィンストンは大剣が金属疲労によりへし折れるまで、膝を折る事は無かった。


 その声が聞こえたのは何故だろう。
 御調 昴(ib5479)は戦闘の騒音の最中、確かに聞いたのだ。
 戦友ウィンストンの雄々しき声を。
 自分を勇敢な人間だなどと、昴は欠片も思っていない。
 それでも、いや、それ故に、この声を無視する勇気なぞどうやったって持てると思えなかった。
「はぐれた人を連れてきますから!」
 そう叫び走り出したのは、多分、そういう訳なのだろうと思えた。
 比較的取り回し易い魔槍砲を二つ、それぞれの腕に抱え走る。
 目指す場所への距離は一向に縮まらない。
 回り込み、包囲を回避すべく横に流れ、行く手を塞がれ砲にて砕く。
 それでも進めぬとなれば、砲を盾に翳して更に踏み込む。
 既に砲身の加熱は常のそれを大きく上回っており、これを敵に叩き付けるだけで、アヤカシは大きく引き下がる。
 そんなシロモノを手にしている自分の腕がどんな有様になっているのか、見たいとも思わない。
 まず使用頻度の高い右の砲にヒビが。
 構わず発射した所、砕けた砲身の破片が頬を、額を、胴の各所を切り裂いていった。
 続いて左の砲も。こちらは何の前触れもなく発射と同時にいきなり破裂する。
 それでも、これだけの至近距離でありながら、破片では致命傷を負わなかった事で、昴には彼等への感謝の念が沸き起こる。
 結局、勝利もなく、賞賛もなく、見返す事もなく、何を成し遂げた訳でもなく、何一つ上手くいかなかった。
 最後の瞬間に思い浮かんだのがそんな自分で、それがどうしようもなく悲しくて。
 それでも、ふと思い出した。
『出来る限り踏ん張った処で我らが引き揚げた故に、ここの住人は余り消耗せずに後方へ撤退した様であるな』
 あの声の主は、そんな言葉で昴達の戦いを評した。
 体中に無数に突き刺さる刃の中、昴が涙を流したのは、流せたのは、多分彼のおかげなのだろう。


 正気?
 それが昴の叫びに対する落花(ib9561)の感想であった。
 潮時、ここが分水嶺と落花は判断する。
 仲間が斬り倒したアヤカシの体の下に潜り込み、心臓の音が聞こえる程の緊張に包まれながら時を待つ。
 時期に音が離れて行き、戦闘の音は彼方から聞こえるようになる。
 そこで落花はアヤカシの下より這い出し、まだ戦っているだろう彼等を囮に、自分は反対方向へと逃げ出した。
 これ程の窮地にありながら、冷静な判断でこうして生き延びている自分が痛快で堪らない。
 思わず笑い出しそうになるが、まだまだ危機は続くと気を引き締めようとして、ソレを見つけた。
 暗い闇が生じる。
 暗い笑いが聞こえる。
 それは、ヒトが考えうるこの世全ての悪意を体現したような闇。
 闇が狙うは、落花その人。もうずっと、何度も何度も狙い続けて来た。落花の死そのもの。
 僅かに残った理性が言う。薬が切れたと。
「な、なんで?! こんな時に、なんで来るの!! 薬、くすりっ……早くクスリ……!!」
 慌てふためく手が懐をまさぐるが、何も掴めない。
「い、嫌っ! やめて! 来ないで! 来ないでよっ! 離してっ……嫌っ……嫌ぁああ!!」
 闇が落花へと伸び、それは一直線に首元へと。
「や……やらない……お前にも……アヤカシにもっ……私の命はやらない! 私の命はあいつと私のもんだ! 離せ!! 離せよ!!!」
 これだけの声を張り上げれば、アヤカシにも気付かれよう。
 果たして、わらわらと寄ってくるアヤカシにも落花は気付かない。
 自分の首元を何度もこすり、掴もうとしてなせず、奇妙な動きを飽きもせず続ける。

「離せえええええええええ!」

 一際大きな声と共に、落花は自分の首に短刀を突き立てる。
 刃の先に手ごたえがあった事が少し不思議で、しかし、ようやく当たったと僅かに安堵しながら、落花は目を閉じた。


 ヴァナルガンド(ib3170)は今にも息絶えそうな程に荒い息で戸仁元 和名(ib9394)の名を呼ぶ。
 何度もそうしてようやく気付いてもらえた。
「もう、私達二人だけ、です」
 和名もまた、全身をあまり気味のよろしくない液体で染め上げながら、肩で息をしている。
「ですか……」
 周囲の敵はあまりに二人が暴れすぎたせいか、こちらが動きを止めると連中も包囲するのみに留めている。
 たった二人を相手にそんな真似をするのが滑稽で、ヴァナルガンドは小さく噴き出しながら和名に語りかける。
「あなたの戦い方は、まるで逃げてる最中という感じがしませんね」
 少し驚いた顔で和名。
「逃げる……? そんな選択肢も、ありましたね。すっかり忘れていました」
 また小さく噴出しながら、ヴァナルガンドは手にした弓の弦を弾く。
 アヤカシが包囲しながら踏み込んで来ない理由を、予想していた事だが、これによって理解したヴァナルガンド。
 どうしようもない数の増援がこちらに迫っているのだ。
「一つ、手があります。乗りますか?」
「……聞きましょう」
 曰く、ヴァナルガンドが街中の火薬庫に火矢を放ちに向かう。
 その騒ぎの間に逃げろ、と要約すればそういう話だ。
 和名はヴァナルガンドを見つめ、ヴァナルガンドもまた和名を見つめる。
 弓術師であるヴァナルガンドは、体術にもそれなりに覚えがあれど、基本矢が尽きればそれまでだ。
 比較するのであれば、乱戦の最中ならば刀を武器とする和名の方がより生存率は高いだろう。
 もちろん、それで混乱した所でアヤカシを突破なぞ不可能だ、そう思える状況であるが、それでも、現状をどうにかしようと必死に頭を絞れば、辛うじてこの策に勝利の道筋を見る事も出来る。
 まず間違いなくヴァナルガンドは死ぬが。
 その辺全てを二人共がわかっている。その上で。
「わかりました。御武運を」
 和名は頷き。
「後は、頼みます」
 ヴァナルガンドは身を翻す。
 駆ける彼女の背中に、和名はかける言葉がない。
 それでいい。彼女は役割を果たし胸を張って死ぬだろう。そう信じる事が、彼女の気持ちに応える事になるのだ。

「上手く釣れたようです」
 数多のアヤカシが群がる中、ヴァナルガンドはとある建物の屋根に立ち、ゆっくりと弓を引く。
「一匹狼、と言う言葉がありますが、狼とは本来群れを成しているものです。故に……孤独を嫌います」
 矢先の火が、風に揺られくゆる様が、幻想的な程に美しく感じられる。
「ですから、私も一人で死ぬのは寂しいので、共に逝ってもらいますよ? ふふ……」
 隣の建物に火矢を放つと、まずその建物が凄まじい勢いで破裂する。
 次に炎が建物を、そして周囲の建物にまで延焼し、あっというまに一帯全てが炎に包まれる。
 ヴァナルガンドは、最初の爆発で共に吹き飛んでいたが、中空にて炎に包まれる街を見て満足気に頷き、落下し果てた。

 かなりの距離があったはずなのだが、大地をすら揺るがす程の轟音は和名にも届いた。
 その分、数は減っているのかどうか。それすらわからない。
 斬り、潰し、叩き、進む。
 それ以外無い。そう出来るからこそ生き延びて来られたのだし、これからも、和名はそうし続けられるだろう。
 だから、
「……ダメ、でしたね。だからと責める貴女ではないでしょうが、やはり申し訳なかったと思わずにはいられません」
 それ以外を和名が為すという事は、
「……短い間でしたが……神楽での生活は、私にとっては夢のようでした……」
 つまり、彼女が、終わったという事であった。