雲切、罠にはめられる
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/17 01:03



■オープニング本文

 どこの街でも、それが大きい街であればあるほど、警邏の目の届かぬ場所というものが出来てくるもので。
 それが王都であっても例外ではなく、無論呼べば警邏が駆けつけてはくれるのだが、それまでにやったら時間がかかったりするのである。
 なので今日も今日とて荒くれ者ども元気一杯。
 がははと大笑いしながら十人前後が徒党を組み、露天の女店主をからかっており、道行く人は眉を潜めてこれを見ているしか出来なかった。

「そこまでですわ!」

 不意に響くは女性の声。
 ジルベリアの王都に相応しい豪奢な金髪ともみあげ縦ロールの持ち主である。
 この声に、沈んだ顔をしていた民草は、皆こぞって喜色満面となる。
「来たぞ! KUMOKIRIだ!」
「はははっ! やっぱり来たぜ! そうこなくっちゃ!」
「よっ! 待ってました!」
 街人の歓声が聞こえる中、荒くれ者と比してあまりに貧相に見える体つきながら、実にふてぶてしい態度で男達の前に立つ。
「ジェレゾでの悪行は! このわたくしが許しませんわよ!」
 びしーっと決めた雲切に対し、荒くれ共はというとしかし、怯える風もなくにやにや笑いで迎える。
「へっ、てめぇがKUMOKIRIか。面白ぇ、その腕見せてもらおうじゃねえか」
 荒くれ達は皆一斉に刀を抜く。そう、剣ではなく刀である。
 彼等はジルベリアではなく、遠き天儀の地より招かれた者。
 ジェレゾで暴れる正義の味方雲切をぶちのめすため、わざわざこの地に呼ばれたシノビの者達であった。
 剣の達人を幾人揃えてもまるで歯が立たぬとわかり、素早さで翻弄するシノビを呼び寄せたのだ。
 雲切の周囲を十人のシノビが飛び回り、間合いを計る。
「ふふっ、残念ですけど‥‥」
 内の一人が背後より襲い掛かる。
「わたくし! この手の戦いには慣れていましてよ!」
 後ろも見ずに刀をかわし、シノビの首を引っつかむと、片腕のみで大の男を地面に叩き付ける。
 彼等は著しい勘違いをしていた。剣術に長け、意味がわからぬ程にタフな雲切は、これでも、こんなでも、一応シノビであったのだ。
 剣すら使わず、拳やら蹴りやらで次々シノビを倒して行く雲切。
 特に腕の立つ男が建物の壁を蹴り、屋根の上より上空高く舞い上がる。
「上! 取ったぞ!」
「甘いですわ!」
 男が屋根より飛び上がるに合わせ、雲切もまた壁を足場に宙へと舞い上がる。
 圧倒的な脚力の差により空で追いつかれた男には、驚愕に目を見開く暇すら与えられぬ。
 そのまま万力のような力で掴まれると、観客達から一際大きな歓声が上がる。
「出るぞ!」
「おおっ! 今日は見られるのか!」
「いけええええええ!」
 観客達の声が一つになる。
『KUMO!』
 男の体を逆しまに、首を首で固定し、両足を両腕で。
『KIRI!』
 空中でこの姿勢を維持したまま、大地に向かって落下していく。
『バスター!』
 ずずぅんという大きな音と共に落着し、男は白目を剥いてしまった。
 いやまあ、KUMOKIRIバスターというか、シノビの技で言う所の飯綱落としであるのだが、最早原型もとどめていない。
 残った男達はその威力に恐れを無し、覚えてろー、の声と共に逃げ散って行った。



「アレ何とかならんのか!」
 ジェレゾでヤクザというかマフィアというかな連中をまとめあげているボスの一人は、苛立たしげにテーブルを叩く。
 金でも義理でもなく正義とやらを振りかざして暴れる雲切に、懐柔は全く通じず、かといって力押しも無理。
 しかしこのままなめられっぱなしでは、彼らの家業は立ち行かぬ。
 幹部は各自が揃えられるだけの戦力を揃え、決闘にて決着をつけるべしとボスに勧める。
 彼等から少し離れた場所で、幹部の一人は切れ長の目を更に細める。
「ふん、まともにやるだけが戦いではあるまい」
 男は、小瓶を手にしながら口の端を上げた。



 彼等よりの決闘の申し出を、雲切は不敵な笑みと共に受ける。
 周囲の者は何やら企みがあるのではと雲切を諭すも、一対一ならわたくしが負けるはずありませんわ、とまるで聞き入れず、決闘当日を迎える。
 敵は重装甲の騎士。わざわざ遠方より呼び寄せたロッドという男だ。
 当日、いざ決闘の地へと向かわんとする雲切であったが、何やら体が思うように動かない。
 その理由に、雲切は即座に思い至った。
「これは、まさか‥‥」

 以前にも同じ事があった。
 始めは幼少の頃、親友である薮紫と始めて出会った時。
 犬神の里最強決定戦子供の部において薮紫と対峙した際、どうにも体のキレが悪かったのだ。
 おかげで思わぬ苦戦を強いられたのだが、体力で強引に押し勝った。
 ちなみにこの後薮紫は、前で戦うのは向いていないとこの分野で一番になる事を放棄している。
 その後も何度か、決まって大一番の時、体調が優れぬ事があった。
「また、出てしまいましたか‥‥ええい情けない! 大一番を前に緊張で体が竦むなぞと!」
 無論これは緊張なぞではなく、ぶっちゃけ毒を盛られてるだけなのだが。
「気合ですわ! 気合でこんなもの吹き飛ばしてみせます!」
 最初の薮紫の時は、大の大人が一人ひっくり返る量の痺れ薬ぶちこまれていたのだが、やっぱり通じなかった訳で。
 他の者も何度か試した結果、犬神の里では、気付かれずに混入させられる量の毒では、雲切には通じないという事で皆の意見は一致している。
 いや、通じてはいるのだが、元の体力他の能力が高すぎるせいで、それでも勝てないという話なのだが。
 しかし、さしもの雲切も、ジルベリア産の致死毒相手ではそうもいかぬ。
 全身が震えるのを止める事が出来ず、気を抜けばその場に倒れてしまいそうになる。
「くっ‥‥今回は特にヒドイですわ‥‥ならば!」
 すぐさま行き着けの定食屋に駆け込み、五人前をあっという間に平らげる。
「これで万全! さあ悪党共! かかってくるがいいですわ!」
 んなわきゃないのだが、プラシーボ効果か震えの止まった体で、雲切は決闘場へと向かう。



 ジェレゾに駐在するギルド係員は、連中が決闘をまともにやるつもりが無い事を察していた。
 騎士の他に砲術士を二人配備し、魔術師まで引っ張り出している事も。
 今回の為に志体を持つ者を全部で十人も揃える程入れ込んでいるのだから、どれほど雲切に腹を立てているのかがわかろうものだ。
 雲切の腕はこれまでの暴れっぷりで理解していた係員だが、彼女は大事な預かり人である。
 何かあっては一大事と開拓者を雇う事に決めた。
 彼は、迂闊な事に、雲切が毒を盛られる可能性を失念していた。


■参加者一覧
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
愛鈴(ib3564
17歳・女・泰
郭 雪華(ib5506
20歳・女・砲


■リプレイ本文

 開拓者一行が決闘の場に辿り着き、まずは周囲の警戒を行なうとやはりそこには伏兵がいた。
 さっさと踏み潰しても良かったが、とりあえず様子見と彼等に気付かれぬよう潜伏する。
 そうこしている内に雲切が決闘場に現れる。
 これより決戦だというのに、彼女のテンションの高さは相変わらずのようで、相手のボスの頬がひくついてるのが遠目にも良くわかる。
 佐久間 一(ia0503)は、ふと怪訝そうに眉根に皺を寄せる。
「‥‥彼女、少し変じゃありませんか?」
 あれが変なのは今に始まった事じゃないでしょー、とは愛鈴(ib3564)さんのお言葉だが、鬼灯 恵那(ia6686)も一同様、目を細めて雲切を見ている。
「雲ちゃんの足元、ほんの少しだけどブレてるね」
 そして雲切とロッドの戦闘が始まると、二人は確信を得る。
「鈍すぎ、です。手を抜く類の人ではありませんし‥‥」
 一の言葉に、叢雲・暁(ia5363)は事も無げに答えた。
「顔色見るに毒じゃないかな。あれだけ動けるんだから大した量じゃないと思うけど」
 いえ、と一は続ける。
「彼女本来の能力からは考えられない程、動きが鈍いです。それが、毒のせいだと、言うのなら、理解は出来ます」
 言葉がぶつ切りなのは、彼の感情が篭もっているせいか。
 嵩山 薫(ia1747)は、突如発生した殺気に反応しながらも、表面上はおくびにも出さず呟く。
「少し落ち着きなさい」
 そう言われた恵那であったが、放たれる殺意はまるで薄れず。
「そっか、そんな方法で雲ちゃんをねぇ‥‥うん、斬ろう」
 しかし、雲切対ロッドは毒られてるらしい雲切が押しているので、ルンルン・パムポップン(ib0234)はその時に備えて移動を開始。
 暁が調べた敵の配置にあわせ、郭 雪華(ib5506)も銃を構える。
 アルクトゥルス(ib0016)はいつでも飛び出せるよう身構えながら、鎧を着込んだ騎士ロッドを蹴りで宙に浮かせる雲切を見て呟いた。
「アレ、本当に毒喰らってるのか?」

「今だ! やれっ!」
 マフィアボスの叫びに応え、茂みに潜んでいた砲術士が身を乗り出し銃を構える。
 既に筒先をそちらに向けていた雪華の瞳に、十文字の目盛が生じる。
 目測で得た距離を元にぴたりと照準を合わせ、引き金を引く。
 着弾と共に射手の全身が吹っ飛ぶのを見て、ふと雪華は思う。
 あんなに小さい弾丸が当たっただけで、人体程の大きさのものが大きく跳ねるのも何とも不思議なものだなと。
 もう一人の射手が驚きながらこちらに筒先を向けるのが見えた。
 これを遮蔽を取る事で防ぎつつ、銃撃を免れた雲切へと目を向ける。
 雲切なっこー! とぶん殴った結果、騎士ロッドはごろんごろんと地を転がっている。
「‥‥さして不思議でも無いか。‥‥シノビって言うよりも‥‥なんかきっと別物だね‥‥雲切殿は‥‥」

 銃撃による不意打ちが失敗したと見るや、マフィアボスは周囲に潜んでいた部下達に攻撃を命じる。
 愛鈴は真っ先に術を唱え始めた魔術師へと向かう。
 一歩の踏み込みで両足を縦に交差させ、同じく両手も胸の前で深く十字に構える。
 捻りきった体を開く勢いは、両足が大地を蹴り出す力と、両腕を大きく外に振る力とが相まって爆発的な速度を生み出す。
 常人では考えられぬ距離を飛ぶと、魔術師の驚愕に歪む顔がはっきりと見えてくる。
 その鼻っ面に伸ばしきった拳を叩き込んでやり、打ち出した拳を下ろして魔術師の持つ精霊武器であろう短剣に手を伸ばす。
 咄嗟に魔術師は即座に唱えきれる術を唱え、愛鈴に一撃を加えるが、吹っ飛ぶかに思えた愛鈴は魔術師の手首を掴んで後退を堪える。
 そのまま腕を捻り上げ肘打ち。
 近接戦闘に慣れているのか魔術師も応戦するが、超がつく近距離での攻防で泰拳士とやりあえるはずもなく。
 ぼっこぼこにどつきまわされた魔術師に、愛鈴は降伏勧告をしてやる。
「私に勝っても次、アレが相手だよ? 降参しない?」
 そう言って指差した先、そこには金髪女シノビと女剣士の姿があった。

 見届け人であるギルド係員の側で、彼に斬りかかる敵へ恵那は殺意ふるふぃるな斬撃を叩き込む。
 鋭く重い強烈な一撃であり、打ち込みの後に隙も見られぬ巧みな動きであるのだが、恵那の意識は別の方に向いていた。
「ボスと幹部も斬っていい? いいよね? ねぇ?」
 斬り合いをしながら係員に詰め寄っているのである。
「‥‥余裕、あるっすね」
「雲ちゃん程じゃないよ」
 曰くの雲切、得意の刀を用いず騎士を圧倒している。というかそもそも刀を持ってきていない模様。
 敵魔術師がその姿を見て恐れおののいているのにも気付かず、絶好調に雲切地獄車中である。
 尤も、機嫌のよろしくない恵那も容赦がない。
 正面より注意を引き付けるつもりの騎士放つ牽制の横薙ぎを振り切る事許さず、先に篭手を斬り下ろす。
 側面より突きかかる男には、脇下を通し剣先をかわしながらの胴突き。
 両手首を捻るのみで刺さった刃を抜き、逆側に居た男に向かって踏み込み、片手で頭部を引っつかむ。
 距離が近い為殺傷能力の落ちた刃は恵那を傷つけ得ず。逆手に持った刀を胸板へと突き刺してやる。
 その上で、周囲の戦況を把握する程度の冷静さはある模様。
「うわっ、無茶するなぁ」

 アルクトゥルスは走る。
 目標二箇所に目をやりながら、その位置へと向けて。
 雪華が上手いこと射手を引き付けてはいるが、それでも限界があろうと思っての事だ。
 案の定敵が動く。
 滑り込むようにその場所へ至るのと、砲術士が引き金を引くのが同時であった。
 衝撃に仰け反るアルクトゥルスであったが、根性とかその辺のもので転倒を堪える。
「タイマンの決闘だろうが! 水差すんじゃないよ!」
 アルクトゥルスは、雲切へと放たれた弾丸をその身をもって防いだのだ。
「決闘の場で大人数で囲んでボコろうなんざ、皇帝陛下が許しても私と私んちの先祖が許さん! 戦士として恥を知れ恥を!」
 舌打ちしつつ再度弾を込める砲術士を見て、アルクトゥルスはにやりと笑う。
「へっ、そうかい。悔い改める気はないか。なら‥‥叩き潰される前に、叩き潰す!」
 声と同時に吹っ飛ぶ砲術士。
 何時の間にか距離を詰め砲術士を蹴り飛ばした薫に親指立てて返礼しつつ、敵騎士達へと踵を返す。
 技も何も無い。
 駆け寄り、振りかぶり、オーラを漲らせ、ただ全力でぶっ叩く。
 剣だろうと盾だろうと鎧だろうと、知った事かと剛打炸裂。
 ガコンと景気良い音が響いた後、振り抜いた勢いを殺さず振りかぶり、逆側より再度の剛打を。
 これにより両胴をひしゃげさせた騎士は、コルセットでもつけたかのような有様になってしまうのだった。



 SHIHANとは、MENKYOKAIDENを得た泰拳士の中の泰拳士である。
 SHIHANミラージュウォークを前に、銃弾なぞ児戯に等しい。
 SHIHANの拳を受けた者、悶絶では済まぬ地獄を見る事となろう。
 後衛職がSHIHANの近接を許す、それ即ち死と同義である。
 特に優れたSHIHANは、一呼吸の間に三連の動きを可能とする。
 吹き飛ばされ血反吐を吐いて初めて、SHIHANに蹴られたと気付く。
 SHIHANが戦うに手足は不要、ただ指一本が届けば充分。
 体内に漲るKI・POWERを自在に操れてこそ、SHIHANを名乗れる。
 銃弾を放たれてから、飛んで来る弾を見てかわすのがSHIHANである。
 戦闘態勢に入ったSHIHANの姿を肉眼で捉えるのは難しい。
 倒れ意識を失った敵に、しかしトドメを刺さず慈悲の心を見せるSHIHAN。
 SHIHAN、それは人の生み出した奇跡。
 偉大なる人間賛歌の体現者、それが、SHIHANなのである。

 一の前に構えられた左手。
 左前の構えならば当然そうある体勢なのだが、対するサムライはそんな当たり前の構えにしかし、前へと出る事が出来ない。
 そは如何なる技か、はたまたそもそもの格が違うのか、一が前に突き出した左手が巨大な壁となってサムライに立ちはだかる。
 一の体全てを覆ってしまう程肥大化した左の手に、サムライは裂帛の声と共に気合を入れなおす。
 僅かに一の目が動いたのは、思っていたより骨のある相手と認めた故か。
 隙の無い突き、切り替えしもかなりの速さがある。
 剣筋を見切るまでは無理な踏み込みは出来そうにない。
 流し、いなし、機を伺う。
 見事な技を持つ者なればこそ、一瞬で全てを決する。
 連携の僅かな隙間を縫うように体を入れ、剣をくぐって襟首を掴む。
 重心点を肩に乗せ、体の捻りで放り出すまでが一挙動。
 大地に叩き付ける形ではなく、遠くへ放り投げたのは考え合っての事だ。
「行きますよ薫さん!」
 即座に応えるは、砲術士の無力化に成功したSHIHANこと嵩山薫である。
「ええ、よくってよ」
 一の全身が真紅に燃え上がる。常の一らしい穏やかで礼儀正しい姿はなりを潜め、気合とか根性とかそーいったもんを動力に動く熱き男っぽさを醸し出しつつ大きく空へと飛び上がる。
 全く同時に、薫もまたSHIHANに相応しい脚力で飛び上がると、空中で一瞬だけ、一と薫の視線が交錯する。
「すーぱー!」
 背後に紅の軌跡を残し、一は炎纏う流星となる。
「イナズマ!」
 中空にて蹴り足を突き出し、天駆ける龍となりて天を穿つ薫。

『キーーーーーーーーック!!』

 紅と龍とが十文字に交錯する。
 その中心点で、サムライは一度だけ天を仰ぎ、爆発し果てるのであった。(何故爆発するかって? トドメの飛び蹴り喰らったら爆発するだろ常考)



 かなりビビり入りながらだが、完全に待ち伏せする形であったシノビは勇気を出して茂みを飛び出した。
 直後、背後より暁に取り押さえられてしまった訳だが。
 シノビの左足に自分の左足を引っ掛け、右足の付け根を両腕で掴みえいやっと倒れこむ。
 お世辞にも整地されてるとは言えないような大地を、なすりつけるように何度も何度も転がっていく。
 そのまま抑えこみ、そう行きたかったのだが、志体持ちは伊達ではないようで、カウント前に何とかこれを逃れるシノビ。
 必死に立ち上がろうとするシノビであったが、暁は即座に朽木倒しを。
 シノビの片足を抑えつつ、下腹部を押し出してやるとシノビは再度転倒。
 そして再び後ろを取って(以下略。
 三度目にして完全に抑えこみが決まる頃には、哀れシノビ君は疲れきって抵抗の意志すら潰えていた。
「さて、と」
 抑え込んだ姿勢のまま、暁は決闘真っ最中の雲切へと目をやった。

 かなりビビり入りながらだが、完全に待ち伏せする形であったもう一人のシノビも勇気を出して茂みを飛び出した。
 直後、シノビの眼前に突如姿を現すルンルン。
 素早いだの死角を伝っただのとちゃちな話ではない。
 とても恐ろしいものの片鱗を味わったシノビに、ルンルンは言い放つ。
「時を止めて忍び寄る黒い影、華学ニンジャ花忍ルンルン参上です! 卑怯な騙し討ちは、絶対に許さないんだからっ」
 動揺するシノビは、抜き放った忍刀を薙ぎ払う。
「なっ!?」
 シノビが思わず声を出してしまったのも仕方なかろう。ルンルンは振り抜いた刀の上に立っていたのだから。
 ルンルンはまるで体重など無いかのごとく刀を蹴り、シノビの背後を取るとこれを捕まえたまま、大きく空へと飛び上がった。

 暁は遂に決着の時かと声を張り上げる。
「おおおーーーーっ! これは! まさか! 雲切がついに決めに動くか!」
 エリアル始動コンボから、空中高くへとロッドを蹴り上げる。
 そこで雲切は自らの失策を悟るも、雪華が、これを補ってみせる。
 背筋をぴんと伸ばし、空へと筒先を向け構える姿の何と凛々しき事か。
 轟音と共に放たれた銃弾は、空中で身動き取れぬロッドに命中し、空での軌道が変化する。
「感謝しますわ! これで‥‥」
 雲切も宙に舞うと、空で、敵を抱えたまま技に入らんとしていたルンルンの上へと向かう。
 ルンルンの頭上でロッドを捕まえた雲切は、しかし、毒のせいか動きが乱れる。
 その時、下方より恵那の声が聞こえた。
「雲ちゃん、体の中にある悪い穢れを吐き出すように念じるんだよ!」
「わ、わかりましたわ! やってみます!」
 その一言であっさりと顔色まで回復する辺り、この生き物もしかしたら精神生命体の一種なのではとか思える。
 暁に押さえ込まれたシノビも、手に汗握りこれを見上げている。
 二人が何をしようとしているのか、これを知るのは暁のみであった。
「あれは!? まさか、シノビ百八のスペシャルホールドの中で最も難易度が高いという‥‥」
 雲切バスターが上から、その下にルンルンが敵を逆さまに捕らえニンジャドライバーの構え。
 恵那の声のおかげか、雲切はルンルンの首元へと両足を差し込む事に成功。
 落着と同時に二人の声が響き渡った。

『必殺! ニンジャドッキング!』

 周囲を土煙が舞う中、雪華は銃を脇におさめつつぼそりと突っ込んだ。
「飯綱落とし、応用範囲広すぎ‥‥」



 悪党共を全て張り倒した後、愛鈴はルンルンとハイタッチをしていた雲切の背をぽんと叩く。
「雲切、久しぶりー♪ 今日は素っ裸じゃないんだ?」
「いきなり何て事言い出すんですか! あれは事故ですわ事故っ!」
 メンバー唯一の男、一は苦笑するしかない。
 実は毒の様子が気になる一であったのだが、口に出して思い出させるとまた引っくり返りそうで言い出せずにいたり。
 が、基本空気を読まない暁が容赦なくつっこんでみたり。
「体はもういいの?」
「ごふぁあああ!!」
 突如口から血を吐いて倒れる雲切。
「‥‥そ、そういえば私、調子が悪かったのですわ‥‥」
 あわわ、と恵那が雲切の口元を拭ってやる。
「ほらほら、雲ちゃんかわいいんだから、綺麗にしないと」
 んー、とされるがままの雲切に、恵那は髪も一緒にすいてやりつつ、〆に耳飾をつけてやる。
 他人に世話されるのが実に似合うな、とアルクトゥルスが考えていると、ふと少し離れた場所にいる薫に気付いた。
 ぶっ倒れてるサムライの体をしげしげと見ているのは、恐らく爆発の理由でも探しているのだろう。
 肩をすくめるアルクトゥルスは、同意を求めようと雪華の方を向くも、彼女は何やら考えこんでいた。
「何してんだか‥‥ん? どうした」
「‥‥スーパースターよりも‥‥人民王者KUMOKIRI‥‥何となくそういう言葉が彼女には似合いそう‥‥」
 まともなのは私だけかい、といった発言はきっと誰に言っても仕方が無い事なので、心の中だけに留めるアルクトゥルスであった。