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■オープニング本文 「た、たすけ‥‥」 巨大な金棒を振り上げた鬼は、哀願する女の頭頂に、一片の慈悲すら見せずこれを叩き落す。 重力に任せるだけで充分であろうに、ご丁寧に有り余る腕力を誇示するかのごとく大地を抉り取る程の力で為した行為は、殺された女以上に、鬼を取り囲む兵達の戦意を奪い取る。 勇敢にも、或いは無謀にも鬼へと挑んだ兵士達。 圧倒的な数の優位を持って臨んだ戦闘であり、どんな腕利き、怪物であろうと、四方から同時に攻撃すればこれをかわせず、いずれ打ち倒せるだろうと信じていた。 そんな常識を、鬼は容易く凌駕する。 人の身では持ち上げる事すら適わぬ鋼の柱を、片手にて軽がると振り回す膂力。 真後ろから斬りかかってすら反応してくるケモノじみた反射神経。 五十の兵を相手にして尚恐れぬ勇敢なる魂。 咆哮と共に金棒が宙を走ると、最早指揮を維持出来なくなった兵達は我先にと戦場より逃げ出した。 四方八方へと逃げ惑う兵達。 鬼は彼等の三倍はありそうな太い足で力強く大地を蹴りだすと、兵が何と思う間すら与えず追いつき一人一人確実に打ち殺す。 息も絶え絶えな程に走り続けた最後の兵士は、まるで疲れを知らぬ鬼の金棒に、最後は全てを諦め天を仰ぎながら殺された。 完全に敵の姿が見えなくなったので、鬼は全身に漲らせていた気を落ち着かせる。 それは如何なる奇跡の技か、それまで大地にはさほどの負担も無いように見えた鬼の巨体が、僅かにだが地面に沈み込む。 足の力や全身の加重が問題なのであろう。これを意識して操る事で、鬼の重量をして兵達にも負けぬ足力を得たのだ。 人の負の感情を糧とするのがアヤカシである。 しかし鬼は、ただただ人を殺す事のみを考える。 どうして、などと考えるのはとうの昔に止めていた。 金棒を肩に担ぎ、次なる目標をと歩を進めていると、何処から現れたのか全身が濃い青に覆われた同種、鬼が姿を見せた。 この世界に生まれ出でた時から、何故かいつも共にあった相手だ。 体格や力が酷似しているので、何をするにしても同じペースで一緒に出来るので、いつでも共に行動していた。 それが、鬼にとっての当然となっていた。 血溜まりに沈む青き鬼。 もちろん鬼も無傷ではいられなかったが、何とか生き残る事が出来た。 だから当然青鬼も生きているだろうと勝手に思っていたのだ。 しかし青鬼は最早何を語る事もなく、並んで歩む事も、肩を並べて金棒を振るう事も無くなってしまった。 物言わぬ屍を、金棒の先でつつく。 反応が無いとわかった鬼は、特に興味も失せたのか次なる標的に向かって歩き始めた。 どれほどの間共に戦場を駆けたかわからない。 わからないのは、覚えていないのではなく、さしてその事に興味が無いせいだ。 後ろから来る敵を倒すのが少し面倒になった、鬼が思ったのはそれだけであった。 「畜生! ふざけんなよ畜生!」 陣幕の中に青年の怒声が響き渡る。 「みんな‥‥みんな死んじまったんだぞ! なのになんで一匹、残っちまってんだよ! もう打つ手なんて残ってねえよ! 勝てる訳ねえじゃねえか!」 無数の屍は外にうず高く積み上げられ、辛うじて生き残った者達も無傷の者などおらず、逃げ出せる程元気のある者はとっくの昔に逃げ出してしまっている。 数十本の槍、刀、弓、矛は持ち手が居てこそ役に立つ。 城攻め用の槌すら用意させてあったのだが、巨体のワリに尋常でない素早さを持つ鬼に命中させるなど不可能であった。 まだ仕掛けを打つぐらいの時間は取れるはず、だが、肝心の動ける人間が居ネい。 青年は、祈るように東の大地を見やる。 そちらには都市が、本隊が、居てくれるはずなのだ。 「あ‥‥」 思わず声が漏れてしまった。 彼方より見える人影。間違いない、武装した彼等は、あの人数で来るという事は、彼等は‥‥ 「開拓者だ! くっそ! 本当に来てくれたのかよ!? ありがてぇ、ありがてぇぜちくしょうが! これでみんなの仇を討ってやれる!」 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
鳴海 風斎(ia1166)
24歳・男・サ
胡蝶(ia1199)
19歳・女・陰
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
時任 一真(ia1316)
41歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ |
■リプレイ本文 開拓者一行が現地にたどり着き、まず初めに衝撃を受けたのは夥しい遺体の数にであった。 葬る余裕もないのか無造作に積み上げられたそれらは、気温が低い故か放置されていてもそれほど腐敗もせず、埋葬される時を静かに待っている。 「‥‥好き放題やってくれたものね‥‥」 胡蝶(ia1199)は冷静な風を装いながら、歯を食いしばって激情を堪える。 天津疾也(ia0019)は、こちらは隠そうともせぬ憤怒に顔をゆがめている。 「‥‥この落とし前はきっちりつけさせてもらうで」 青嵐(ia0508)は人形を抱えたまま、遺体の前にかがみこむ。 奇妙な事に、声は彼からではなく彼の抱える人形から聞こえてくる。 『死した戦士よ、もし無念を晴らしたいというならば‥‥来なさい。貴方達の嘆きを力に変えて、共に行きましょう』 状況を開拓者達に説明した兵士は、すまないが後を頼むと陣から避難を開始する。 数も揃っていない現状では足手まといにしかならないからだ。 アルティア・L・ナイン(ia1273)は兵士達の想いを汲み取ったのか、重々しく宣言する。 「──後は任せて。あの鬼は必ずや僕等が討ち取ってみせるよ」 準備は万端と待ち構えていた開拓者達の下に、偵察に出向いていた赤マント(ia3521)が駆け戻ってくる。 「来たよっ!」 その真剣にすぎる表情は、敵を直接目にした故か。 程なく、全員がその巨躯を目にする事となる。 気配、そう一言で言ってしまうのは簡単かもしれない。 しかし優れた開拓者である彼等ならば、或いはそれを言葉に出来るかもしれない。 重く、強く踏み出す足。十尺に届こうかという巨体を支える足にもかかわらずきびきびとした挙動を見せているのは、こんもりと盛り上がった筋肉が如何に強靭でしなやかかを端的に表している。 一歩、一歩と確実に歩を進める足捌きは、まごう事無き戦士の所作。 同時に、無造作に振るわれる腕もまた、身体加重を知ってか知らずか精妙に操りうる余裕と猶予を体に与えている。 見るからに重そうな金棒を肩に担いだ赤鬼の姿は、戦場をこなした者であればあるほど恐怖と戦慄を覚えるだろう、そんな佇まいであったのだ。 紫雲雅人(ia5150)は物静かな口調で、飛び出す勇者達を送り出す。 「どうか踏み込みすぎぬよう。おそらく、長丁場になります」 鳴海風斎(ia1166)は気楽な調子で隣の時任一真(ia1316)に声をかける。 「では私達も仕掛けに行くとしますか」 「予想以上におっかない相手みたいだな。無理はしてくれるなよ赤マント、アルティア」 挑む前から怖気づくわけにもいくまい。しかし、その強大さを感じ取れるからこそ、冷や汗は滴るのであろう。 殊更に明るい調子でアルティアは答え、赤マントがつっこむ。 「危なかったらすぐ逃げるさ。僕と赤マントくんで逃げ切れない相手なんて居やしないよ」 「あるてぃあー、その台詞嫌な予感しかしないからお願い控えてー」 逃げ切れず、あの太くて堅くてごっついのの直撃を受けるなんて想像するのも嫌である。軽く一発昇天間違いなしとか勘弁して欲しい。 それでもと自身の速度を信じて踏み出す。 「行くよっアルティア!」 「ああっ! やってやるさっ!」 速度の速さを誇るアルティアと赤マントは、攻撃を一切仕掛けず、ただ獲物を釣り上げる作業に没頭する。 否、踏み込めないのだ。 攻撃の為の間合いは二人よりも確実に赤鬼の方が広い。 これを、より深く懐に踏み込みながらかわす事が出来ない。 赤鬼の絶対防衛線とも言うべき一線に、踏み込んだが最後あの金棒、というより間近で見たアレは最早金壁だ、が絶対回避不能な速度で襲い掛かってくる。 攻撃に移る間の取り方も絶妙すぎて、予備動作で見切る事も出来ない。 攻撃を見てから回避が間に合う距離、間合いを取るしかないのだ。 その判断すら、この二人でなくば出来なかっただろう。 二人の速度あったればこそ、初撃を凌げたのだろうから。 アルティアは目配せ一つで誘導を開始する。 というより、とにかく相手が前に出る分、下がって下がって下がりまくる形だ。 しかしアルティアもまた歴戦の戦士。ただ下がるだけなはずもない。 こうしていながらも赤鬼の攻撃を見切るべく、体に間合いを覚えこませる。 「今だ!」 アルティアの声に合わせ、赤マントも大きく飛び上がる。 同時に後衛組、疾也、青嵐、胡蝶からそれぞれ遠距離攻撃が入った。 赤鬼の体表を抉るような斬撃符を、俊敏な足を止める葛流の矢を。 怒りに震える赤鬼に対し、後衛を守るような位置に赤マントもアルティアも居なかった。 ならばと踏み込んだ赤鬼の先には、開拓者達が仕掛けた罠が待ち構えていたのだ。 きつく縛った縄を張り、これに足をかけ体勢を崩させる狙いである。 が、ダメ。 勢い込んで追いすがっていた赤鬼だったが、見逃す程緩くもなく、容易く飛んでこれをかわす。 そして、その後の本命。開拓者の強力で掘りぬいた巨大な落とし穴の上に着地、しようとして空中で身を翻す。 正に奇跡と呼ぶに相応しい。十尺近くの巨体が空中でくるりと反転し、身動き取れぬはずの宙の中、見事穴を避けんと手足の位置取りを工夫する。 咄嗟に動いたのは疾也であった。 「スマン雅人! 背中借りるで!」 言うが早いか雅人の背を蹴り、疾也もまた空中高く飛び上がる。 「大人しく落ちとけっちゅーんじゃっ!」 赤鬼の上を取った疾也は空で弓を引き絞り、白梅香を真上から叩き込んだ。 踏ん張る大地も無い空では赤鬼もこれに抗する事能わず。 白く澄んだ気に押し付けられた赤鬼は穴へと落下する。それは、開拓者でもなくば作れぬだろう十尺の赤鬼がすっぽり入ってしまう程の大穴。 中には力尽きて倒れた戦士達の刀剣が構えられており、幾つかは赤鬼の外皮に弾かれ砕け、幾つかはうっすらと赤い筋を残す。 しかし、仕掛けはそれのみにあらず。 剣山のように穴の中に据えられた刀槍から、黒き煙のような怨念が立ち上る。 これらは赤鬼の足にしがみつき、更なる地の獄へと誘わんと擦り寄ってくる。 怒りの咆哮一声のみでこれを跳ね除け、刃物なぞ何するものぞと穴の底を踏みつけ、大きく上へと飛び上がる。 出口には、アルティアと赤マントが待ち構えていた。 「そうだよ鬼さん! 手の鳴る方さ!」 「悪いけど! もう動きは見切った!」 右腕、そう巨大な金棒を持つ腕のみに狙いを絞った二人の連撃は、果たして目的を完全に達成し、ぽろりと赤鬼の手から金棒が落ちる。 「待ってましたーーーーー! よーし全力で押せ風斎!」 「はいはーいっ! 舵取は任せましたよ!」 攻城槌、本来は十数人で押し出すこれを、サムライの技『強力』によって二人のみで押し出すのは一真と風斎である。 手から離れたあんなデカイ的、外す方が難しい。 一真が定めた狙いに従い、風斎がえいやっと押し出した攻城槌は見事金棒に命中。 二人がかりでごろごろ転がしてきたので勢いは十二分についている。ならばと二人は攻城槌から勢い良く手を離す。 金棒を巻き込んで、槌は彼方まで転がっていった。 これで赤鬼の攻撃起点は失われた。 アルティアも赤マントも、逃げ回りながら赤鬼の動きに体を慣れさせてきた。 ここからは一気呵成、そう皆が判断した瞬間であった。 鈍い音の後に、重く激しい衝撃音が二度、三度。 赤マントは思わず大声で叫んでしまう。 「アルティアーーー!」 ただの一撃である。 傷ついた右腕をそれでもと振り回し、俊敏さでは並ぶ者とてそうは居ないアルティアをあっさりと捉え、吹き飛ばされたアルティアは木切れか何かのように軽々と地面を転がり、立ち木に激突しようやく止まった。 追撃があればアルティアの命が、そう思い動きかけた赤マントの眼前に、赤鬼が迫っていた。 『まさか‥‥赤鬼は、今までは僕らの力を計る為、全力を、出してなかった‥‥?』 赤マントの想像を裏付けるように、目で追う事すら困難な速度で渾身の突きを見舞う赤鬼。 されど彼女もまた赤マントである。 速さを、誰よりも速くと追い求めた日々は、例え相手がアヤカシだとて通用する赤き神風へと彼女を育てた。 それがどれほど大きかろうと、当たらなければそよ風と変わらぬ。 正に紙一重にて回避しきれると確信した赤マントは、肩口に突き刺さるような衝撃を受け、くるくると宙を舞う。 『馬鹿なっ‥‥指、を、伸ばして‥‥』 ギリギリでかわされると見た赤鬼は、咄嗟に人差し指と中指を伸ばして無理矢理命中打としたのである。 大地に激突し、何度も何度も転がりまわってようやく止まる頃には、上も下もわからぬ程になっていた。 「下がって!」 風斎が前に出ると、彼を壁に青嵐が斬撃符を放つ。 『風妖姫! 真なる汝が力もて起動せよ、神威太刀!』 胴に深く食い込む陰陽の刃にも赤鬼が怯む事は無い。 右腕を頭頂まで振り上げ、渾身の力で振り下ろす。 歩法も捌きも用を成さぬ。 飛びのき避ける事すら許されず、まともに頭の上から殴り抜けられた風斎は、たたらを踏んで前へとよろめく。 滴る血は頭部の皮膚が裂けたせいか、朦朧とした意識で、しかし風斎は笑っていた。 長大な太刀を手足のように振り回し、真正面から斬り上げる。 千切れた赤鬼の皮膚がぴぴっと跳ね、風斎の顔に、髪にと降りかかる。 前衛の風斎を守るように青嵐が再び斬撃符を放ち、今度は左の肩口が大きく裂けるも、風斎は気づいた様子もない。 後ろから誰かの絶叫が聞こえるが、最早何もわからない。 あるのは、目の前のこのデカイアヤカシが、何よりも得難い好敵手であるという事だけであった。 戦況は一変した。 今は辛うじて風斎が堪えているが、これも雅人がひっきりなしに治癒の術を飛ばしているから成り立っているのだ。 胡蝶は一真に目配せする。 「一真、攻撃を合わせてあの腕、使えなくするわよ」 「心得たっ」 風斎が我が身をも厭わず太刀を振るう。 その刹那に、二人は合わせた。 空間を走るは一筋の衝撃。 「刃よ、切り裂け!」 「こなくそっ!」 一真が二刀を振るい肉を裂くと、その先にある異常に堅い骨の感触が返ってきた。 斬れた自信は、実はあまりない。かといって食い込ませるような下手糞でもない。 斬りぬき、祈るようにして振り返り仰ぎ見た赤鬼の右腕に、全身を呪符で覆われた影がしがみついていた。 『数十の戦士の無念、民の嘆きを全て力に変え、冥府の獄へと誘わん』 ぼろり、といった音と共に赤鬼の右腕が千切れ落ちた。 雅人は戦場全てを俯瞰出来るよう、そうあるべく自分に言い聞かせながら、非情とも言える選択を自らに課してきた。 大怪我を負っているだろうアルティアと赤マント、この二人への治癒は一切行っていないのだ。 眼前に敵が居る以上、仕方の無い事かもしれない。 しかし雅人は、こうして残った仲間達で支える事で、赤鬼の隙を作り出そうとしていたのだ。 戦闘前にかけた加護結界が二人の命をつないでいると信じて、二人はその隙を、必ずや活かしてくれると信じて。 赤鬼は片腕を失っても奮闘を止めず。 今度は風斎をさし置いて後方に居る、胡蝶へと飛び掛ったのだ。 敵の最も嫌がる行為を、それを選び続けられる赤鬼はやはり戦の申し子なのであろう。 胡蝶はこれに反応するのも難しく、ただ襲い来るだろう激痛、或いは死の瞬間への覚悟を決める。 「させんっ!」 隼人により爆発的に上昇した一真の俊敏さは辛うじて、彼女の前に立つ事を許した。 ごんっという音と共に、突然胡蝶の前に体を投げ出してきた一真は、潰れたひきがえるのようにその場に倒れ付す。 「一真!?」 胡蝶はその瞬間、赤鬼より目を逸らし、倒れた一真へと視界を移してしまった。 だから、直後炸裂した赤い閃光を、見そびれてしまったのだ。 赤鬼の戦場にて高ぶった感覚は、その二体の接近を察知しえた。 万全にて迎え撃つべし。そう結論づけた赤鬼であるが、足に響くような激痛を覚え顔をしかめる。 何度も何度も足へと放たれていた矢があったのは知っている。損傷もそれほどでもないので放置していたのだが、いつのまにか相当な数が打ち込まれていた。 それでもまだまだ戦えると、赤鬼は気配に向かって振り返る。 そこには、五人の赤き戦士が居た。 女の拳士は赤鬼が何をする間も無く、懐深くに飛び込んで来て顎を殴り上げた。 二刀を振るう男の戦士は、赤鬼が薙ぎ払わんと振るった左腕をすり抜け、刀の間合いに入るなり双刀を突き刺してきた。 次の女の拳士は、前の女拳士そっくりな顔で側面に回り速度の乗った強烈な蹴打をわき腹に叩き込んでくる。 もう一人居た二刀を持つ男の戦士は、彼とそっくりな顔で、同じく二刀で赤鬼の腿と胸板を斬り裂いた。 最後の女拳士は、ぐらっと揺れた赤鬼の上体に先の飛び上がる形ではなく、ずっしりと大地に構えた形で拳を突き上げ、以後、赤鬼から意識は消えてなくなった。 開拓者八人、全員がへっろへろになって戦場にひっくり返る。 怪我人の止血を終えた風斎は、怪我のせいか疲れすぎたたせいかわからぬ調子でぶっ倒れる二人の泰拳士に問う。 「最後のあの二人の赤いのは何だったんですか? あまりに早すぎて二人じゃなくて四人にも五人にも見えましたよ」 地面にぐでーっとねっころがったまま、アルティアは首だけを起こして答える。 「さしずめ、「赤風双殺」と言ったところかな」 赤マントも嬉しそうにうんうんと頷いている。 雅人もまた笑顔であった。 「聞きしに勝る技でしたね。アテにした甲斐があったというものです」 弓を木にたてかけた疾也は、術を乱発したせいで疲れきって座り込んでいる青嵐の隣に座る。 「よう、さっき赤鬼にはっついてた隷役ってまさか‥‥」 やはり青嵐ではなく手に持った人形から声は聞こえてきた。 『はい、先の戦で亡くなった方々、ですよ』 「さよか。仇ぐらいは討ってやれたんかね俺等?」 『そうであると、信じましょう』 胡蝶は痛ててと立ち上がった一真を見て、かける言葉が見つからずむすーっとした顔のままであった。 一真は胡蝶の顔を見るなり、怪我は無いかと問い、無いと返事が戻ってくると、本当に安堵した様子で息を吐き出した。 「そっか‥‥今回は、うまくやれたらしいな」 「今回はって何よ」 「さてな」 ものっすごい色々言ってやりたかった胡蝶であるが、自身も一真も本気で倒れそうなぐらい疲れているので、とりあえず今はつっこむのは止めにしといてあげるのだった。 |