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■オープニング本文 ジルベリア王都ジェレゾ、この街で泰拳士の道場を新たに開いた藤野は、いい加減聞き飽きた閑古鳥の声を何とかすべく、友人の絵描きを頼った。 「なあ、泰拳士の良さを宣伝するような、そんな冊子を書いてはもらえないか?」 「ま、お前とも長い付き合いだし構わんよ」 快く引き受けてくれた友人に感謝を述べ、それから一月と経たぬ間に藤野は再び彼の家に転がり込む事になる。 全身包帯塗れ、そこかしこに怪我を負っているらしい藤野を見て、絵描きの友人、釘原は怪訝そうに問う。 「‥‥お前、何やったんだ?」 「知らねえよ‥‥何でか知らねえけど、ここ最近アホみたいに道場破りが来やがってよ‥‥お前、作った冊子に変な事書いたんじゃねえだろうな」 釘原は少し考えた後、特に心当たりも無いので首を横に振る。 「そういえばお前に俺の書いた冊子、送るの忘れてたな。読んでみるか? それで妙な疑惑をきっちり晴らしてとっとと帰ってくれ」 藤野も友人を疑うような真似はしたくない。 釘原の言うように冊子を読んで疑いを晴らし、明日から道場の経営方針を少し変えるかと本を手に取った。 「これからお伝えするのは天儀の武術KENPOUである」 高さ十間はあろうかという巨大な岩を背負い、腕立て伏せを行なう男。 「KENPOUのSHUGYOUは想像を絶する」 男が歩く。ただそれだけで全身から神々しいまでの輝きが溢れ出す。 「TAIKENSHIの放つ波動は時に閃光として知覚される」 指先一つ突き込むと、アヤカシは内部より破裂する。 「TAIKENSHIのTENKETUは悪しき魂を駆逐する」 二人の男が殴りあうと周囲の家々が全て消し飛ぶ。 「KUMITE‥‥それは力と技のぶつかるTAIKENSHIたちの戦場」 男が手甲を手にすると、それ自体が生き物であるかのように活き活きと脈動する。 「KOTEはTAIKENSHIによってその輝きを取り戻す」 男が突き出した拳に合わせ、景色がぐにゃりと捻り曲がる。 「TAIKENSHIの驚異的なTUKIは時に空間すら歪める」 型を披露する男の手先が、速さのあまり二つにも三つにも増えて見える。 「ENBUを常人が肉眼で捉えるのは難しい」 背を突き出し男が体当たりすると、岩盤がこれに吸い寄せられるように崩れていく。 「TETUZANKOUによって強力な磁場が発生する」 男の拳が敵を捉えると、敵は空の彼方まで吹っ飛び星になる。 「凄まじい勢いで繰り出されるSEIKEN。常人ならば即死である」 夥しい人の群の上に立ち、人差し指を誇らしげに掲げ上げる男。 「TAIKENSHIの頂に君臨する。これ即ち天儀の頂に君臨することと同義である」 男の振りぬいた拳に従い、衝撃波が放たれ森を真っ二つに切り裂く。 「TAIKENSHIのSEIKENは音速を超える」 男が真下に落とした林檎が、何故か途中で曲がって真横に飛んでいく。 「TAIKENSHIの力は物理法則などに縛られない」 男の蹴りが敵に当たると、敵は木っ端微塵に爆散する。 「敗れたTAIKENSHIは常に命を落とす」 男が手刀を振る。巨大な城門はその一撃で真っ二つとなる。 「TAIKENSHIに引き裂けぬものなど存在しない」 森の中、ただ打撃音と砕ける木々のみが見える。 「TAIKENSHIの移動速度を肉眼で捉えようとするなど愚かしい」 降りしきる豪雨の中、全ての雨粒をかわしてみせる男。 「SUIKENを極めるものは回避を制す」 二人の男が殴りあうと、ゆっくりその体が宙へと浮かんでいく。 「TAIKENSHIの前では重力さえも意味を成さない」 空高く、雲が流れる高度で光となって激突する二人の男。 「空中戦こそKENPOUの醍醐味である」 荘厳な建造物の上空で、二人の男がすれ違いざまに拳を蹴りを交し合う。 「MIYAKOで戦うことはTAIKENSHIの誉れである」 群を成すアヤカシを蹴散らしながら、闘う男達。 「TAIKENSHIにとって冥越でさえBUTAIに過ぎない」 両手をかざす男。手の平より放たれた光は地平線の彼方まで伸び行く。 「凝縮されたKIは全てを貫く光となる」 全裸女子満載の女風呂で、男二人が熱戦を繰り広げる。 「TAIKENSHIはBUTAIで闘うのではない。闘いの場がBUTAIとなるのだ」 がっちりと四つに組み合った男二人に、天空より落下してくる巨大な龍が迫る。 「心配すべきは龍の方である」 途中まで読み終え、藤野は大きく冊子を振りかぶる。 「全部てめえのせいじゃねえええかああああああああああああ!!」 ひょいっと放り投げられた冊子を受け取り、釘原は至極冷静なまま応える。 「良い本だろ」 「デタラメばっか並べ立てて何が良い本だ! つーかこんな人間居てたまるかあああああああ!」 「本に脚色はつき物だ。しかし参ったな、そうか、俺の本が原因で道場破りがな‥‥となると‥‥」 「何だよ。まだ何かあんのか?」 「いやな、この本が存外に好評で、ジェレゾだけでなく近隣の街にも売りに出される事につい先日決定した所だ。今日辺り、販売開始しているのではないのか」 「あんだとおおおおおおおおお!?」 釘原は肩をすくめる。 「確かに最初は騒がしいだろうが、いずれ落ち着く。むしろこの機を活かしお前の腕前を披露してやれば‥‥」 「いずれの前に俺が過労で永眠するわぼけえええええええ! 毎日一回真剣勝負とか体がもつわきゃねえだろ!」 だが、逃げる訳にもいかず、正々堂々とした挑戦を断る事も出来ぬわけで。 その日はともかく頑張れ、で話は終わったのだが、三日後釘原が道場を訪ねると、息も絶え絶えの藤野が転がっていた。 「‥‥おい、原因の十割お前なんだから、お前、金出せ」 「金? 道場破りを買収でもするのか?」 「アホか。開拓者雇って、どいつもこいつも返り討ちにしてやんだよ。一時的にウチの門下生って事にでもしときゃ問題ねえだろ」 「ふむ、一時しのぎにしかならんが、そもこの騒ぎも一時的なものであろうしな。良かろう、開拓者の泰拳士を雇えばいいのだな」 ぐでーっと道場の床に突っ伏したまま、藤野は投げやりに呟く。 「この際剣でも弓でも符術使いでも、タイマンできっちり挑戦者ぶっとばしてくれる奴なら誰だっていいって‥‥俺一人じゃマジこれ、死ぬ」 しかし、と道場の壁に立てられた札を見る釘腹。 「これだけやって門下生ゼロのままか。いやはや、お前余程道場経営に向いていないんだろうな」 「毎日毎日道場破りがケンカ売りにくるような道場に誰が通いたがるかああああああああああ!」 |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
九条・亮(ib3142)
16歳・女・泰
阿野次 のもじ(ib3243)
15歳・女・泰
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ |
■リプレイ本文 音有・兵真(ia0221)は、道場に置いてあった冊子を手に感心したように頷く。 「すごいな、泰拳士ってこんな事が出来るのか」 一緒になってこれを見ている嵩山 薫(ia1747)は指折り数を数えている。 「そうね、まあ‥‥頑張れば、半分くらいなら何とか」 おっそろしくショックを受けているのは御調 昴(ib5479)だ。 「‥‥なんだか急に場違いな気がしてきました‥‥」 一方、まるで気にしていない阿野次 のもじ(ib3243)は、うっきうきで何やら縫い物に余念がない。 九条・亮(ib3142)はというと、我が物顔で道場に出入りしている釘原に何やら頼み事をしている模様。 「ねえ、ボクも一冊欲しいんだけど」 「すまん、これが最後の一冊だ」 TAIKENSI役を期待されているだろう泰拳士達を横目に、犬神・彼方(ia0218)は肩をすくめる。 「世の中、何がウケるかわからねぇものだぁな」 セシリア=L=モルゲン(ib5665)は、自分より背の高い女性である彼方を少し珍しげに見上げる。 「そうねぇ。でもコレ、読み物としても充分面白いわよ」 「連中もそうやって割り切ってくれりゃ楽なんだがな」 自らの学んでいる物が誇張交じりとはいえ、こうして絵になり好評を博しているのだ。 泰拳士達が少し浮かれてしまうのもわかる二人は、色々と湧き上がるツッコミを心の中のみに留めてやる。 と、もう一人、泰拳士以外が冊子を読みながら腹を抱えて大笑いしていた。 「薫、この通りの泰拳士ってホンマにおるんけ?」 斉藤晃(ia3071)である。 「生身で空飛ぶって所でほとんどの泰拳士が引っかかるわよ」 豪快に笑う晃。 「どうやら泰拳士はお笑い道場も兼ねるようになってきたらしいぞ」 ここが泰拳士の道場である事や、今回集まった面々の半数以上が泰拳士である事も、晃の口を閉じさせるには至らぬ模様。 道場主藤野よりの説明で、特に腕の立つだろう道場破りのみを皆に任せる形となる。 彼も異郷のジルベリアにて道場を開こうとしているだけあって腕は立つのだが、何せ数が多い。 ひやかしも含めると日に三から四件程あるというのだから、彼が泣きを入れるのも良くわかる。 そして稀に居る本気で腕の立つ者。 粗暴な言動の中に油断ならぬ気配を感じ取った兵真が、こきりと首を鳴らし前へ出る。 「こういう戦いは嫌いじゃない」 藤野は少し不安そうに兵真に問う。 「だい、じょうぶか? コイツはこの辺じゃ少しは知られた奴だぞ」 その暴力的な言動が恐れられている男と聞き、なるほど、と八尺棍を片手のみで一回し。 「動けなくなるまでやるか」 ライカンスロープと名乗る男は、対峙するなり剣を全力で振るってくる。 棍の半ばでこれを弾き、距離を保つ兵真。 「おいおいおいおい! 何だよその無難な動きは! 無敵のSEIKENはどうした!」 せせら笑うライカンスロープにも、兵真は堅実精妙に棍を捌き、ライカンスロープは剣の間合いに入る事すら出来ぬ。 そして、遂に彼がキレた。 真横よりの殴打も気にせず、雄叫びと共に懐へと踏み込んでくると、兵真は惜しげもなく棍より手を離す。 そして踏み出す彼の膝に飛び乗り、残る逆膝でライカンスロープの顎を蹴り上げたのだ。 首が真上を向く程の衝撃。 揺れる世界が平衡を取り戻すより先に、再び彼の視界がぐるりと宙を回る。 投げられたのだ、そう理解するなり微かに映る視界を頼りに強引に着地するライカンスロープ。 しかし、万全の構えを取ったはずの彼の両腕は、懐深くに踏み込んだ兵真の左腕による払い上げを防げず。 ガラ空きの胴を晒す事になる。 彼の記憶に残ったのは、見た事もない程気の充実した右拳。 吹っ飛ばされ、周囲の木々をなぎ倒しつつ道場を取り巻く木壁に大穴をぶち空けるライカンスロープ。 「武器が有るから強いわけでもないだろ」 翌日、有象無象を適当に藤野が処理していると、セシリアは中に、明らかに他と異質な存在を見つける。 「ねえ」 セシリアは藤野にしなだれかかるようにして声をかける。 「おうわっ!? っと、な、なんだ?」 「あの子、私もらっていいかしら?」 セシリアが指差す先に居た男を見て、藤野は感心したように目を大きく見開く。 「ほう、わかるか。エーベル・毒針・フレーベだ、強いぞ」 しかしセシリアは、あらやだと不満そうな顔になる。 「まったく、名前が長いわ。いかにも小物って感じ。ンフ」 藤野が残りをさっさと片付けると、文句を言いつつもセシリアはエーベルと対峙する。 軽装なだけあって、エーベルの踏み込みの速さは尋常ではない。 そして、僅かな隙も見逃さぬ鷹のような瞳。 二筋の鞭が同時に放たれ、これが戻る隙間を縫うように踏み込むエーベル。 「ゴメンねぇ。これはワザとなのよォ。ンフフ」 右の鞭を手放し、手裏剣を手に取ると手首の返しのみで放つ。 眼前に突如現れた金属を、首を捻ってかわすエーベル。 セシリアはこれによって生じた隙に大地を蹴り、エーベルの肩を踏み台に更に上へと飛び上がる。 上に跳ぶ事で間合いを取ったセシリアの鞭は、エーベルのレイピアに絡みつく。 着地と同時に手放した鞭を拾ったセシリアは、その独特の笑みを漏らす。 「お楽しみは、ここからよねぇ」 敵の武器を封じた状態で、残る右手の鞭が縦横無尽に放たれる。 全身にみみずばれを作り悲鳴を上げるエーベルと、大層楽しそうなセシリアさんの勇姿に、周囲の皆は止める事も出来ぬままであった。 「TAIKENSHIの技と力はすべてSHIHANの手によって生まれる」 薫の後ろにずらっと黒衣装の者達が並び、薫が飛び上がると同時に黒衣装の者も空へと。 「SHIHANの責任は重い。SHIHANの強さ次第でDESHI達の運命も決するからだ」 空中を舞う一団の先に、明らかに悪そうな泰拳士達が現れる。 「SHIHANは日々DOUJOHYABURIと戦い続ける宿命にある」 これらを蹴散らし、最後に残った一人、顔を布地で覆った男が薫と対峙する。 「こんな感じか?」 釘原が下書きを見せつつそう問うと、薫は満足げに頷く。 「ところで、うちの泰拳士詰所に「たいけんし君」っていうキャラクターがいるんだけど、こっちで売り出すなら「TAIKENSHI MAN」が良いかしら?」 「そうだな‥‥雰囲気的にはTAIKENSI BOYでも悪くはないと思うが‥‥」 外で薫と対峙しているジョンは、皆の方を見つつ薫を指差している。 戦闘はとっくに開始されているのに、遊んでるようにしか見えぬ薫と釘原に抗議しているらしい。 薫は、ではSHIHANの腕前とくとご覧あれ、と釘原に言い、ジョンの点穴という点穴にKIを送り込んで破裂させ、もう謎の騎士なんつー面影が残らぬぐらいぼっこぼこにぶちのめす。 戦闘後は戦闘後で、 「この擬音というか効果音なのだけど、ここはClaaaash!とか‥‥」 「天儀の流儀を遭えてジルベリアでそのまま使うという良さも捨てがたいのだが‥‥」 一同、ジョンさんにもののあはれを感じたとかそうでないとか。 彼方の十文字槍とレッドスコルピオの朱槍が、それぞれ突き出した先で絡み合う。 本来、双方の形状からその位置で止まるなぞありえぬのだが、両者の豪腕がこれを可能としているのだ。 頑強な槍の柄が、ぎりぎりと音を立てて軋み、歪む。 全力を振り絞る力比べは呼吸に難を生ずる。何時までもこうしていられるはずもない。 期せずして同時に槍を大きく弾くと、一足踏み込み、互いの腹部へとこれを突き出す。 彼方は身を捩り、敵の槍先を脇の下にくぐらせ、がっちりと押さえ込む。 これは、槍ならば可能であるが、彼方の十文字槍でそうするのは不可能であろう。 果たしてレッドスコルピオは、全く同じ動きをしようとして胴を深く傷つけられ後退する。 彼方がここぞと踏み込めぬのは敵の力量故であるが、一つ、狙いもあったのだ。 全身を紅に染め上げ、突進してくるレッドスコルピオ。 その足元に、彼方が指で弾いた呪符が走る。 絡みつく瘴気で速度を落とし、漲る気迫で堪えんと構え、槍の柄で穂先を完全に受け流して尚、痛打と呼ぶに相応しい衝撃が彼方を襲う。 が、それだけだ。 「すまんね、言うのを忘れてたぁがこれでも術士やってたんだ」 攻撃に傾倒しすぎたせいで大きく崩れたレッドスコルピオへと、彼方の豪槍が唸る。 「鬼さえ断ち切る業の技、たっぷりとぉ味わいなぁ!!」 身につけた鎧をすら砕いてみせた彼方は、最後の一撃の代わりに倒れるレッドスコルピオへ手を差し伸べる。 「命はぁ1度きり、これからも楽しく戦いたいもんだぁな」 威勢の良い弦の音が響く。 この日の為に用意した楽団が一斉に楽を奏で始めると、晃の雄叫びが聞こえる。 「お前はTORAだ! TORAになるのだ!」 四隅を鉄柱で囲った真っ白きリングの一角に、阿野次のもじが虎の面とマントを身につけ立っていた。 「私は正義のTAIKENSHIタイガー・のもじ・マスク!!」 上半身裸のムーランは何故か超がつく程乗っており、ぐへへぇ、とヒール上等とばかりに椅子を振り回し暴れながらリングイン。 リングど真ん中には、蝶ネクタイと正装の藤野が呆然と立っていた。 「‥‥え? 何これ? つか俺何でここに居る‥‥」 とーうっと鉄柱より飛んだのもじがその首元に足を絡める。 「ツッコンだら転蓮華☆」 こきりと軽快な音がしてレフリー退場。 ルール無用のデスマッチ開始である。 剛力を利して戦うムーランと速さで撹乱するのもじ。 一時翻弄されていたムーランだったが、近接距離の打撃を根性で堪え、のもじを掴むと空中へと無造作に放り投げる。 後は落下してくるのみ、迎え撃つムーランの一撃をかわす術は無い。 その時、のもじの瞳がきらーんと輝く。 胸を中心に空中にて半回転、膝を下に、狙いはムーランの首元。 空を見上げたムーランは太陽の眩しさにその動きを見誤り、まともにもらってしまう。 そのまま、滑るように背後に回ったのもじがムーランを締め上げ、決着である。 転蓮華が怖いのか、最後まで誰もつっこむ者は無かった。 ロドリーゴはたどたどしい言葉で対戦相手に声をかける。 「だ、だいじょうぶ、か」 薫戦直後。 「年増のババより若い娘と戦いたかったらしいで」 足の甲に痛烈な下段踏み付け。 彼方戦直前。 「やはりサソリの一差しとやりの一差しをかけ技をつかうのか。尻とか狙ってきそうでカマほられそうや。彼方きぃつけやぁ」 彼方のスリークォーターよりの打ち上げが顎に決まる。 のもじ戦直前。 「漢汁ではらまんようにきぃを」 正義の空中殺法に沈む。 実に自業自得な理由により藤野並にぼこぼこにされている晃。 「なんかヤル前からぼろぼろや」 それでもまだ、首が変な方向いたままの藤野よりはマシという理由で出場する。 「見とれや彼方。ホンマの槍の使い方、教えたるわ」 アホな仕掛けが目立つ晃であるが、戦いが始まると長柄を見事に操り、後退のネジを外したかのようなロドリーゴの猛攻を受け、止め、払い続ける。 それでも戦士の本能からか致命的な隙を見せぬロドリーゴも見事であったが、ではと晃が仕掛ける。 槍先を振り、上方へと突き出す。 顔面を狙ったこれを下より払い上げる事で捌くロドリーゴであったが、槍は彼の予想を越え更に伸びる。 そう、晃は槍を放り投げていたのだ。 払う事で上体が伸びているロドリーゴの背後に滑るように回りこみ、全力のクラッチ。 ロドリーゴの巨体を抱えたまま大きく仰け反り、完璧なブリッジと共に大地へ叩き付ける。 「これぞTAIKENSHI必殺天儀スープレックスホールドじゃ!」 「‥‥槍ぃの使い方はどうした」 ジャンの鉄の腕は主に防御で発揮されるらしく、拳の速度で受け鉄の硬さで堪えるという実に有効な動きを見せる。 これに加え剣の間合いで動くジャンに、亮は疾風と化す歩法を持ってしても踏み込みきれずにいた。 剣で間に合わぬものは鉄の腕にて、その見切りが絶妙にすぎるせいであろう。 そこで亮は一計を案じ、それまで同様に踏み込みつつ、不意にその狙いを変える。 急所を狙う一撃ではなく、剣を持つ手を狙ったのだ。 強かに腕を打ち据えられたジャンは、残る鉄の腕にての反撃を試みるが、ジャンの手首を引っ掛けるように上から振り下ろした手刀は、ジャンの体勢そのものをも崩していた。 ジャンは必死の形相で痛みを堪え、剣は手に持ったまま。 問題無い。 亮は手刀で叩いた反動で腕を跳ね上げ、更に半歩前へ。 下より突き上げるような形で、肘を叩き込む。 へこんだ鎧部を軸にくの字にへし曲がるジャン。 直後のジャンの動きは英断と呼ぶに相応しかろう。 彼は剣を投げ捨て、残る腕も受けに回したのだ。 しかし、ならばと亮は鉄で無い方の腕に、外より回すように肘打ちを。 ジャンの腕が青紫に染まり始めた所で、亮の掌打がジャンの顎を捉える。 前傾であった姿勢をこれにて崩し、とどめの水月へ低く体を落としながら体当たりのような肘打ち。 悶絶するジャンを見下ろしながら、亮は両手を合わせて一礼。 「最初にも言ったけど、ボクはまだまだTAIKENSHIとしては駆け出しだよ。忘れないでね」 昴とレスリーは、両者両腕をだらりと垂らした姿勢のままにらみ合う。 二人が動いたのは同時。 しかし、抜いたのはレスリーが速かった。 昴は真横に飛ぶ事で寸での回避を試みるが、かわしきれず腿より血花が飛び散る。 レスリーがそのまま踏み込む速度に昴は目で追うのがやっとの状態だ。 近接、狙い、頭部。 そこまで見えた。 昴は同時に銃を突き出し、回避を放棄する。 短銃とて至近距離での一撃は致命傷たりうる。 だから昴は、右手で銃を突き出し狙いつつ、残る手をレスリーの銃へと伸ばす。 がきがきんと、機械音が二つ。 昴はレスリーの銃の撃鉄を素手で掴む事で銃撃を防いだのだが、何とレスリーもまた同じ事をしていたのだ。 咄嗟に動いたのは昴だ。 レスリーを蹴り飛ばし距離を稼ぎつつ、再び撃鉄を上げる。 とかく、距離を開けたがる昴に、ならばとレスリーは駆け寄り大地を転がる事で銃撃を回避。 『かかった!』 弾が入っているのは後一丁。 そちらへと注意がひきつけられたレスリーに、昴はこれまで欠片も気配を感じさせなかった極限の体術にて近接、レスリーの銃を持つ手を全力でぶっ叩く。 下より掬うような一撃は、レスリーの銃を天高くに放り上げるが、レスリーは勢い良く近接してきた昴をいなすように体を回し、視界の外へと逃れる。 レスリーの銃が降ってくるのが先か、昴がレスリーを捉えるのが先か。 はた目にはほぼ同時で二人は銃を突きつけあったように見えたが、先に銃を下ろしたのはレスリーであった。 「‥‥俺の負けだ」 「紙一重、でしたよ」 見事道場破りを撃退した開拓者達。後日、ジェレゾではこの時の模様を元にした小話『TAIKENSHIヤバイ』が流行ったとか。 |