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■オープニング本文 山奥にある山荘。 ここで引率の先生である瑞樹と共に遠足を楽しんでいた子供達は、予想だにしなかった悲劇に見舞われる。 安全であったはずのこの山にも、アヤカシが進出してきていたのだ。 一人の子供が偶Xそれを見つけ、すぐ先生に報せたおかげで十人の子供達は皆無事であった。 しかし、山荘から出る事が出来なくなってしまう。 周囲の何処をアヤカシが徘徊しているかわからず、子供達を連れた上での脱出なぞ不可能であったのだ。 もし近距離で遭遇してしまった場合、子供の足でアヤカシから逃げ切れるとは思えない。 それでも瑞樹は、皆を山荘に隠した後、脱出の算段を考える。 これといって技術があるわけでもない。 先生だからと知識が豊富な自信もない。 それでも、今、自分が子供達の命を背負っていると思えば、どんな無茶だろうとやり遂げて見せると自らに言って聞かせる。 単身山荘の周囲を探らんとしていた瑞樹は、不意に目の前に現れた男を見て、飛び上がらんばかりに驚いた。 「なっ!? あ、あなたはまさかアヤカシ‥‥」 「いや、俺はただの旅人だ。だが、腕に覚えはある。お前達は逃げたいんだろう」 男は何故か瑞樹達の窮状を知っており、ゆっくりと瑞樹の肩に手を置く。 「子供達をお前に任せる事になるが、出来るな」 怪訝そうな顔のまま、瑞樹は男に問う。 「あなた一体‥‥いえ、あなたが何者だろうと、子供達を助けてくれるんなら私は何だってします」 男はほっこりと笑う。 「いい返事だ」 策は単純明快。 男が周辺一体のアヤカシを片っ端から引きずり回し、一箇所に集めるからその間に逃げろというもの。 無茶だとの瑞樹の言葉にも、男は不敵に笑う。 「まあ見ていろ。この程度、俺にとっては窮地の内にも入らん」 突如現れた男を信じるなど無用心にも程があるが、他に手も無い。 瑞樹は子供達を引き連れ、山を下っていく。 彼方の空から、とんでもない大きな音が響いてくる。 どうやら男がアヤカシの注意をひきつける為にやっているらしい。 不安げな瑞樹であったが、後に続く子供達は危険さを理解出来ていないのか、アヤカシに怯える様子は見られない。 「なあ、あのお兄ちゃんやっぱ強いのかな」 「どうだろ、色んな遊び知ってて面白いお兄ちゃんだけどね」 子供達の会話が耳に入った瑞樹は、驚いて少女に問う。 「え? あの人の事知ってるの?」 「うん。だって、好きに遊んでいい時間、一緒に泉で水浴びしたんだもん」 子供好きな人なのだろう。だとすれば、やはり善意でそうしてくれたのかもしれない。 もし無事に帰れたのなら、ありったけでお礼をしようと心に決めた瑞樹は、別の子供が大声で騒ぐ声に思考を中断される。 「先生! みてみてー! あそこにお兄ちゃんいるよー!」 崖側の道を行く瑞樹と子供達から、ちょうど見える窪地に彼は居た。 瑞樹の顔が真っ青に青ざめる。 とんでもない数のアヤカシに取り囲まれているではないか。 向こうも、かなり遠間にだがこちらに気付いたらしい。 彼は状況がわかってないのか、こちらに向かって親指を立てて見せた。 僅かに腰を落とし、右手を左膝の上に位置すると、ゆっくりと円を描きながら上に振り上げる。 左手は右肩に添えるように置かれており、これが右手の動きに合わせ腿の上を撫でるように回る。 右手は上、左手は下に位置した時、男はこの距離でもわかる大声で叫んだ。 「変身!」 薄汚れた旅装束が一瞬にして弾け飛び、その内に隠されていた彼の正式衣装が姿を現す。 袖を構成している部位に着いたレースがひらひらと靡く。 白やピンク、ストライプといった節操の無い様々な柄が施されているズボン。 上着ははちきれんばかりの筋肉が見えるようなぴっちりとしたデザイン。 そして、頭に被った頭巾に手をいれ、くいっとずらすと、それが正面からでも女物のパンツであるとわかるようになる。 そう、これこそ彼の正装。真実の姿。 全身をパンツで覆ったこの姿が出来る者は、天儀広しといえど一人しかいない。 彼こそ、変態の中の変態、訓練された変態なのである。 瑞樹はその後の事は良く覚えていない。 とにもかくにも、目の前の現実から逃げるので精一杯。 歓声を上げる子供達全員を引っ張って何とかかんとか麓の村まで逃げて来れたわけで。 全員を親元に帰した後、街の役人が事情を聞き驚きの声を上げる。 全身パンツ塗れの男といえば、最近この街で暴れ回っている痴漢ではないかと。 熟練シノビのごとき技を駆使し、ただひたすらに女性の裸を見て回り続けるこの男を、役人達は何としてでも捕まえねばと必死になっていた所だ。 瑞樹は青くなって言う。 「‥‥私その人に、子供達助けてくれるんなら、何だってするって言っちゃった‥‥」 その前に聞いていた英雄的行為に感心していた分、直後の落差に耐えられなくなったのは瑞樹の両親である。 ふざけんなクソ変態がああああああああ! おどれごとき娘にゃ指一本触らせるかぼけえええええええ! とブチ切れてしまったわけで。 役人から訓練された変態の巧みさを聞いた後も、だったら開拓者雇ってぶうううううち殺したらああああああ! と鼻息荒く吠え猛る。 子供達を救ってくれた、これは素晴らしい事だが、だからといって痴漢行為を許すかといえばそういう話にもならないのである。 瑞樹は親友にこれを話し、はぁと大きくため息をつく。 「何よ瑞樹、そんな女の敵ざまぁ見ろって話じゃない」 「でもさぁ、助けてくれたのはホントなのよ。凄かったなぁあの人‥‥」 「え? 嘘、まさかアンタその変態に‥‥」 ぶほっと飲みかけのお茶を吹く瑞樹。 「そんなわけないでしょ! ていうかあの格好見て引かない人居たら教えて欲しいわよ! でも、その、さ‥‥見られたいわけじゃ全然無いんだけど、やっぱ、約束だし‥‥とも思うのよね。だって、あの人あんなに頑張ったのに、私はただ、走って逃げただけだし‥‥」 気持ちはわかるが、そもそも助けてやるから裸見せろという話が変なのである。 何とも煮えきらぬ思いを抱えたまま、しかし凄まじい剣幕の両親に逆らう気にもなれぬ瑞樹であった。 薄暗がりの中、屋根の上に潜み開拓者を雇う様を監視していた訓練された変態は、口の端をにやりと上げる。 「その価値も知らぬまま無邪気に珠玉を晒す幼子の良さは良さとして、秘された宝玉もまた甘美に見えるものだ‥‥」 挑まれて引くようでは訓練された変態は務まらない。 箱に入れて隠すのなら、箱を覆う鎖全てを正面より断ち切ってこそ道。 この際瑞樹がちょっと童顔入ってて好みストライクな事は、まあそれはそれである。 「頂いた剥ぎ取り御免状、遠慮なく行使するとしようか」 元より他者の理解を得られる道に非ず。 ただ粛々と己が真実を突き詰めるのみ。 今、訓練された変態が、開拓者の壁を押し割り、女性の裸体へと挑む。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
猛神 沙良(ib3204)
15歳・女・サ
ルー(ib4431)
19歳・女・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ルー(ib4431)は瑞樹が面倒見ている子供達に色々と話を聞いてみた。 子供達にとって訓練された変態はちょっとしたヒーロー扱いである。 お礼の手紙を書くよう頼むと、皆喜んでこれを書いてくれた。 ご両親には内緒だよという話もあっさりと納得してくれたようで、素直な子達だなぁと感心したものだが、ふと、男の子が手に握っているものに気付き、全身から血の気が引いた。 「‥‥あなた‥‥それ‥‥」 男の子は、満面の笑みで応えた。 「うんっ! ねえちゃんの下着! みてみてー!」 腕をぶんと振り上げ、くるりと回しながら叫ぶ男の子。 「へんしん!」 そしておもむろにねえちゃんの下着、っつーかぱんつを頭に被ってみる。 そんな無茶な真似をしでかした男の子は、もう得意満面な顔で『かっこいいだろう!』と胸をそらしていたりする。 山からの脱出以降、瑞樹は訓練された変態対策に追われ、子供達と会う機会を取れなかったと言っていたが、その間に洒落にならない遊びが横行している模様。 せめて、子供たちの親は、心安らかに、そう思っていたルーは、子供達全員にそれがいかに危険な行為かを教えて回るハメになった。 元気な女の子まで真似してたのには心底往生した。 そんなルーの心の何処かで、もう問答無用で奴は退治すべきなのではーとかいう考えが生まれてしまったとしても、きっと誰も責められないだろう。 宿奈 芳純(ia9695)は、秋桜(ia2482)の助言を受けつつ屋敷内に罠を張り巡らせる。 自縛霊の符は、志体の無いものが引っかかったりしたら重傷を負ってしまうような符だが、相手が相手であり、このぐらいせねば止まらぬ、いやさそれでも危ないと思っていた芳純は要所要所にこれを仕掛ける。 以前に面識がある、というか訓練された変態捕縛経験のある芳純は、本気の奴がどれだけ高い戦闘能力を持つか良く知っていたのだ。 一通りの仕掛けを終えた秋桜が芳純に問う。 「そんなに手強い御仁で?」 「開拓者四人がかりで、足止めも難しい程です。彼なら、アヤカシの群を単身で撃退したという話も納得出来ます」 ふうと嘆息する秋桜。 「その上、幼い子を好むですか‥‥まったく‥‥」 「ああ、幼子だけではないみたいですね。当人そう言ってましたし」 ひくっと、秋桜の頬が引きつる。 「ですから秋桜さんも‥‥」 そこまで言って、言葉を止める芳純。 何処から取り出したか、秋桜は全身すっぽり包むような着ぐるみをいそいそと身につけだす。 嫌なんでしょうねー、とか頷きつつも、奴にはむしろそーいう必死な防御っぷりは逆効果なのではとか思ったが、口に出して不安がらせるのも何なので黙っている事にした。 風雅 哲心(ia0135)はほっそい目になって、一言苦言を呈する。 「‥‥なあ、それ本当に必要なのか?」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は自信満々、得意げに語る。 「これに隠れてマジックロックしちゃえば、もー絶対手は出せないよ!」 リィムナが用意したのは、でっかい櫃。 これに少々細工を加え、護衛対象瑞樹を中に放り込み、錠前を魔法にてかける策である。 まさに箱入り娘。瑞樹のご両親はこの策をいたく気に入ったらしい。色々と問題のある両親なのかもしれない。 巴 渓(ia1334)は、特に文句もないのか好きにさせている。 「櫃というか柩だよな、まるっきり」 しかし、ここまでやっても神町・桜(ia0020)は満足していない。 「縁起でもない事言うでない。‥‥奴ならばこの櫃すら突破しそうで怖いな。くれぐれも油断するでないぞ」 「俺は話で済ませるつもりなんだがね」 「止めはせぬよ。‥‥経験者として言わせてもらえるならば、アレに通じるかどうかは、ちと疑問じゃがの」 「聞く限りじゃ理知的な奴に聞こえるが」 「理と知を用いて覗きをなすから厄介なのじゃ。悪い奴ではない、そう思いたいのはわしも一緒じゃ」 猛神 沙良(ib3204)も桜と同意見らしい。 「これまでに犯してきた痴漢行為は許しがたい事ですけれど、子供達を助ける為に単身アヤカシに立ち向かった事もまた事実」 何とか更生してやりたいと言うも、これ以上の痴漢行為をさせるわけにもいかないので、全てはボコって身動き取れなくしてからという話だ。 女性陣の実に寛大な対応を見た哲心は、流れに逆らいずらいせいか小声で漏らす。 「‥‥嫌がる女の裸を覗き見る善人ってどんなんだよ‥‥」 「宿奈様! 三段目突破されました!」 秋桜の声が庭に響く。 仕掛けに対し、解除を試みるのではなく、その素早い挙動と反応速度で潜り抜けていく技の巧みさは見事の一言。 芳純が各所に仕掛けた自縛霊も、配置を見抜かれては為すすべがない。 しかし芳純は何処までも冷静に自体に対処する。 懐より取り出した符に一言二言呟き、手首の返しだけで放つ。 疾風と化して駆ける訓練された変態の眼前で、芳純の符が弾ける。 訓練された変態の視界に、開拓者女性陣、そしてターゲットである瑞樹の姿が現れる。 が、彼女達の肉体は大きく隆起し、頭髪も失われ筋骨隆々とした巨漢へと変化する。 暑苦しいまでの筋肉、何が楽しいのかまるでわからない満面の笑み、そして絞りに絞った引き締まった筋肉をこれみよがしに誇示するポージング。 そんな異様な物体がわらわらと訓練された変態へと迫る。 「幻術に惑わされている今です!」 芳純の声に、仕掛けを操作するだけでなく秋桜自らも動く。 筋肉に囲まれ、その中にくまの着ぐるみが乱入したとして、それが唯一真実の女性と見極める事が出来ようか。 出来る。 出来るからこその訓練された変態。 背筋を走る悪寒に従い、踏み込まんとしていた最後の一歩を辛うじて思いとどまる。 直後、眼前を鋭い手刀が振りあがっていく。 その手刀が秋桜自身ではなく、着ぐるみを狙った精妙な一撃であると気付いた秋桜は、ちょっとコイツに近寄るのが嫌になっていた。 「‥‥何故私が女だと?」 「その程度、察しえずして何が訓練された変態か。そして‥‥」 独特の構えから、一息に踏み込む。 「秘されし花を! この目にしてこそ変態道!」 一瞬で刀の内側の間合いに入られる。 人差し指と小指を立てた奇妙な手先が、秋桜の首元へと。 武器を振るう余地は無い。 体を捻りつつ、伸ばされた訓練された変態の腕を取る。 腕を引き、崩れた彼の体を腰に乗せ、全力で投げ飛ばす。 訓練された変態の踏み込み、これに対し秋桜に許された判断の時間は極めて短い。 考えて動いては絶対に間に合わぬこれに対応出来たのは、一重にそれまで積み重ねてきた戦い故であろう。 しかし、この読みようのない動きにすら、訓練された変態は反応する。 そは如何な技であろうか。 投げ飛ばされながらも、奇術のごとく、腕の一振りにてまるごとくまさんが脱げ飛んでしまったではないか。 中の衣服まで一撃とはいかぬようであったが、空中で身を翻しつつ、訓練された変態は秘された容貌を確認しようとするが、それは果たせず。 芳純が放った符が真白き壁となり視界を遮る。 ふわりと落ちてくるまるごとくまさん。 これを受け取りつつ、秋桜は脱がされたのと同じ速度で身につける。 「乙女の柔肌、容易く晒すわけには参りません」 着地を決めた訓練された変態は、何処か嬉しそうであった。 「見事っ。片手間に覗くには、険しすぎる山であったか」 遂に、数多の仕掛けを乗り越え、訓練された変態は瑞樹の居る部屋への侵入を果たす。 が、そこにあった櫃を見て、リアクションに困っている模様。 「さ、流石は開拓者。万事に妥協が無い」 褒められて更に得意げなリィムナ。 渓は彼を前に、静かに口を開いた。 「まずは、この娘さんと子供達を救ってくれた事に感謝を」 訓練された変態は、少し目を見開いた後、何を言い出すのやらと返す。 「人として当然の事をしたまでだ」 頬をかく渓。ますますやりずらくなったと感じたらしい。 代価になるものを用意するから引いてはもらえないかと渓は言うが、訓練された変態はこれを拒否する。 「そういう事ではない。例え天儀一の美幼女の裸体とて取引材料たりえない。何故なら私が、訓練された変態だからだ」 「意味がわかんねえぞ」 「挑まれて引くは訓練された変態に非ず」 渓は小首をかしげた後、おもむろにぽんと手を叩く。 「つまりあれか、瑞樹の両親がムキになって隠すなんて言い出したから、お前もやる気になったって話か」 「如何にも! 救助の件は、あれはあれだ。弱みに付け込むような真似を、どうしてこの訓練された変態がせねばならんのか」 櫃の中からものっすごいため息が聞こえた気がする。 更に渓は小首をかしげる。 「って事はだ。俺等が全員引き上げちまったら、お前瑞樹覗く意味無くなるんじゃねえのか?」 ふふん、とせせら笑う訓練された変態。 「それはそれ! これはこれだ!」 沙良が二人の問答をまとめてみる。 「いずれ、瑞樹さんは覗かずにはおれぬ、と」 「うむ!」 これまで説得したいという皆の希望を聞いて大人しくしていた哲心が、ふるふると震えながら刀に手をかける。 「‥‥もう、コイツ斬ってもいいよな。世界が俺にそうしろと言ってる気がしてならないんだが」 慌ててルーがフォローに入る。 「まあまあ。でも、あなたの変な格好、子供が真似して困るんだ。少し遠慮してもらえないかな」 訓練された変態は、少し驚いた顔をする。 「そうか、あの時の子供達か‥‥ふむ、我が変態道に入らんとするなら、先達として教鞭を取るに吝かではないぞ」 額に青筋立てつつ、じゃきっと宝珠銃を構えるルー。今度は哲心がこれを抑える役に回ったり。 沙良は諭すように言う。 「あなたは確かに女性の体を傷つけたりはしなかったかも知れません。しかし辱められた事でどれ程その心が傷ついたかを‥‥きちんと考えて欲しいのです」 もう清々しい程の正論である。 これを女性が口にするのだから、男子たる訓練された変態は一言も無い、はずである。 「許せ。一重に情熱の為せる技だ」 沙良は少し悲しそうに目を伏せる。 「ならば、聖なる加護を受けたこの木刀で、あなたの煩悩を祓わせていただくとしましょう‥‥‥‥お覚悟を」 訓練された変態は、実に強かった。 芳純の幻術の影響下にあって尚、開拓者の攻撃は容易く当たらず、櫃を外部より破壊にかかる。 八人がかりで取り押さえに動くのだが、ひらりひらりとまるで霞か雲かを相手にしているよう。 それでいて決して攻撃は行なわないのだから、とんでもない技量であろう。 あ、いや、二人程に関してはまるで容赦無く蹴飛ばしたりどついたりしているのだが、そんな理不尽にもまるでめげない男性二人組、哲心と芳純。 「くそっ、峰じゃ剣先に伸びがねえ‥‥だがっ!」 刀を返し、刃先を訓練された変態に向ける哲心。 縦横無尽に飛びまわる訓練された変態に対し、無造作に刀を片手持ちに上げ、斜めに構える。 「結構やるな、だがこれならどうだ。すべてを穿つ天狼の牙、その身に刻め!」 袈裟に斬りかかるべく、大きく刀を振り上げる。 これを紙一重でかわさんとする訓練された変態だが、大きく振りあがった刀の、位置が予測せぬ方へと跳ねる。 「!?」 右手で振りかぶった刀を、頭上にて同じく掲げた左手へと放り投げたのだ。 そのまま、左袈裟に斬り下ろす。この時峰を敵に向けているのがせめてもの情けというやつだ。 肩口に痛打を浴びた訓練された変態は、しかしそのままでは済まさず左上段回し蹴りを哲心へと叩き込む。 弾かれるように離れる両者。それでも訓練された変態の動きは止まらなかったが、満を持して、桜とリィムナが動いた。 スーパー捨て身タイムだ。 桜は着物の帯をはらりとほどき、襟首を自ら掴んで大きく引く。 光沢と艶のある肌が、肩口から肩甲骨にかけての麗しきラインが、生え際より続くうなじ背なの曲線が、屋内でありながらきらきらと輝いて見える。 はだけた衣服は、勢い余ったか残る逆肩からも滑り落ち、胸元をきつく締め付けるさらし(締め付けずともこの状態であるのは秘密)の白が地肌に食い込むのが見える。 若干ヤケになってはいるものの、やはりそれでも恥ずかしい部分はあるのか、紅潮した頬と、戦闘ゆえか、上気した肌が、艶かしさをすらかもし出している。 そしてリィムナだ。そう、問題はこちらである。 若さ故の無邪気さか、ワンピースを全力全開でがっばーっとたくしあげにかかる。 その遠慮の無さはどうだ。 この勢いならば、胸元まですら一息にめくれてしまうではないか。 日焼けで褐色になった肌は、水着のラインが色濃く残り、そこにだけ薄白さのコントラストを作り出す。 何処か背徳的な雰囲気漂う、それでいて健康的な美しさも損なわぬ悪夢の一撃。 しかし、沙良は予定していたその一撃を、取り返しのつかないものと感じる。 残る二人の男性は、紳士な対応を期待出来よう。訓練された変態には、相応のものをくれてやる。それで問題無いはず。 『あ、ついでだし、あたし手紙にぱんつ入れといてあげるかなっ』 リィムナのそんな台詞が蘇る。 咄嗟に動いた。 沙良が背負う翼が限界まで広げられ、文字通り生まれたままを晒しかけたリィムナへの全ての視線を防ぎきる。 まさに、絶妙。瀟洒な翼人ここにあり。 「え? え? なんで急に‥‥なんかスースーする‥‥あ、そっか、あたしパンツ脱‥‥あは、あははは‥‥」 「如何に覚悟の上だからと、それだけは許可できませんっ」 「あ、あははははははー、ごめんねー、ありがとー」 ちなみに、両目をそれぞれ桜、リィムナへと向け、右顔面は至福、左顔面は絶望なんて超器用な真似をしていた訓練された変態は、そのこめかみに短銃を突きつけられる。 ルーは引き金に手をかけたまま、胸元に手を伸ばし、中から手紙を取り出す。 体は微動だにせぬまま、その胸元に視線のみを釘付けにする訓練された変態の根性に、心底感心していたり。 「今回はこれで満足して欲しい。出来れば穏便に済ませたいんだ。最後まで、防戦のみに徹した人も居る事だしさ」 それが誰かは、口に出さずともわかる事だ。 真っ赤になりながら、リィムナも用意した手紙を彼へと渡すと、訓練された変態は小さく頷いた。 「良かろう。今回もまた、私の負け、か」 リィムナの手紙を読んだ訓練された変態は、手紙を大事そうに懐に仕舞う。 そしてもう一通、こちらは瑞樹の書いたものだ。 『やはり、私が間違っておりました。今回は開拓者さんも両親の目もありますが、以降、私は抵抗いたしませんので、お好きなようになさって下さい』 「疎まれるのには慣れているのだがな‥‥こうまでされては、逆に手が出せぬ」 完膚なきまでの敗北を認めざるをえない訓練された変態であった。 |