TWIN GUNNER
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/08 20:03



■オープニング本文

 適当に後ろ髪を三編みに束ねた女性レンは、見た目通り、自分の外観にさして興味を示さなかった。
 片やヴァレンチナはというと、人並みに身だしなみを整える程度の社交性はあったが、だからと男性に声をかけられるのを好んでいるわけでもない。
 尤も、そんな二人の見た目やら男性観やらは現在それほど問題ではないだろう。
 レンは作業着でしか使わないようなだぼだぼのズボンをはいた足で、こんと台尻を蹴る。
 そんなレンを咎めるヴァレンチナは、膝まであるフリルのついたスカートで、ずかずかと歩いている。
「もうちょっと丁寧に扱いなさいよ。大事な商売道具でしょ」
「うっせえよ。お前こそそのひらひらなんだよ、これから何するかわかってんのか?」
「そりゃ‥‥」
 目標が見えて来た。
 牧場主である男は、二人の襲撃に備えそこら中より荒くれ者をかき集めていた。
 二人は同時に銃を構え、そのままの姿勢で並んで前進する。
『行進(マーチ)!』
 正面入り口前で、牧場主の娘を口説いていた男の頭が一撃で吹っ飛ぶ。
 家の中、窓から見える場所でタバコに火をつけようとしていた男は、タバコではなく自分の横っ面に焦げを残す。
 歩きながら構えた銃をくるりと回す。
 レンとヴァレンチナ、流れるような所作で火薬を装填。同時に響く火蓋を閉じる音。
 息ぴったりで槊杖を抜き放ち、弾を込める。
 この間も足は止めず。
 行進の名の通り整然と規則正しく、足は進み続ける。
 腕に覚えのある男が剣を抜き扉から飛び出してくるも、これを二人同時射撃。
 両肩を同時に射抜かれると大きく仰け反り、後続の者にもたれかかる。
 三射目を撃つ前に、敵よりの銃撃が襲い来る。
 窓より筒先が見えた瞬間、二人は左右に回る。
 構えてから射撃に移る瞬間の呼吸を知り尽くしている動きだ。
 レンは右回り、ヴァレンチナ左回り。
 この間に火薬の装填は終えている。
 そして、行進速度も変わらぬまま。
 銃の筒先も見ず、槊杖越しに伝わる感覚のみを頼りに弾を込める。
 ひゅんひゅんと周囲を飛ぶ弾丸にも、二人には怯えも恐れも見えない。
「これだ、お前の言う通りやると何時もこうだ。もう少しスマートなやり方ってのがあるだろ」
 窓から射撃の為に乗り出した瞬間、男の顔が半分に削れる。
「あんなブ男供相手に、何が悲しくてかっこつけなきゃなんないのよ」
 遮蔽を伝って近接を試みていた者を、遮蔽ごとぶち抜いてやる。
「誰がそんな話してんだよ! 私は楽したいって言ってんだ!」
「してるじゃない充分。この程度の相手殺って一月豪遊よ、破格よねホント」
 特に要注意とされている用心棒が、満を持して飛び出してきた。
 その踏み込みの速さは、志体無しにはとても為しえぬ動きであったが、これすら、二人は凌駕する。
 滑るような居合いは、霞と消えた二人を捉える事能ず。
 両の耳元より漂う火薬臭に男が驚き動くより先に、二つの短銃が火を噴き、男の頭部を十字に引き裂いた。
「ヤだヤだ。私、血見るの嫌いなんだよなぁ。後、砕け散った頭蓋骨も好きじゃねえ」
「嫌んなる程見てきといて今更何言ってんだか」

 牧場主一家を皆殺しにし、ついでとばかりにもらう物もらった二人は、帰りしなに腰が抜け震える少女を見つける。
 襲撃の最初、牧場主が雇った用心棒に口説かれていた彼女は、乱戦の最中も運よく流れ弾に当たる事も無かったらしい。
 レンはヴァレンチナに顔を向ける。
「親兄弟皆殺しにされた挙句財産根こそぎ持ってかれた復讐を誓うってのはどうだ?」
「何よそれ」
「コイツを殺す理由さ」
 顔はヴァレンチナに向けたまま、レンは引き金を引いた。


「‥‥まただよ。お前が持ってくる話は何時だってロクでもないもんばかりだ」
 レンの嘆きにも、ヴァレンチナは眉根を寄せるのみで堪える。
「先に知れたんだから良しとしなさい。開拓者って言ったら全員が志体持ってるなんていうイカレ集団なんだから、きっちり対応しないとヤバイでしょうに」
 何時でも肌身離さず持っている銃を寄せるレン。
「で、何処でやる?」
「街」
 ヴァレンチナの言う街とは、十年以上も前に戦で放棄されたゴーストタウンの事だ。
 数百人規模の住人が居た街はそれに相応しい大きさであり、優位に立ち回れるここで開拓者を迎え撃とうというのだ。

 ジルベリアでのギルドの活動は、天儀でのそれに比べればまだまだ歴史が浅い。
 故に依頼する側も依頼に慣れているとは言い難い部分がある。
 正規のルートとは別に『殺し』を依頼した依頼主は、これで二人もお終いだと嬉々として周囲に触れて回る。
 おかげでレンもヴァレンチナも襲撃を前もって知る事が出来、街に篭もられるなんて事になってしまったのだが、せめてもの救いは二人が二人をしか信用していないという事だろう。
 『殺し』である以上開拓者ギルドに対し正式に依頼する形は取れず、非正規の請負人が話を通したのだが、彼は依頼主の考え無しっぷりに頭を抱える。
 非正規とはいえ彼もまた開拓者と関わる者。
 開拓者達が充分に働けるよう事前調査も欠かさず、ギルドでの依頼と比べ遜色ない報酬も用意した。
「街の地図は用意したから、何とかこれで頼むよ。依頼主には俺から良く言っておくから‥‥」
 彼が微妙に弱気なのは、開拓者を怒らせるとどーなるかを、以前の戦で見知っているせいであろう。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
神咲 輪(ia8063
21歳・女・シ
リン・ローウェル(ib2964
12歳・男・陰
アル・アレティーノ(ib5404
25歳・女・砲
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
計都・デルタエッジ(ib5504
25歳・女・砲


■リプレイ本文

 ゴーストタウンの代名詞にしてもいいぐらい見事な朽ちっぷりを披露する『街』に入った開拓者達。
 ブラッディ・D(ia6200)は街の様子を見て、けらけら笑う。
「雰囲気あるねぇ」
 ジルベリアならではの街並みであるが、手入れや人の気配が無いだけでここまで薄ら寒い雰囲気が出るものなのか。
 まっとうな道を生きる者ならば決して出会えぬような景色は、殺し合いの場所としては至極似つかわしく思える。
 無法こそがこの街に相応しい、そんな錯覚すら覚えるような場所で、神咲 輪(ia8063)は眉根をひそめる。
「荒野の掟は好きじゃないわ」
 恵皇(ia0150)は既にその場が死地である事を自覚しつつも、暢気に首の後ろに手を回し、隣を歩く嵩山 薫(ia1747)に問う。
「弾丸なんて全て素手で掴んでやる! ‥‥なーんて言えればいいが、そうもいかないな。相性で言うんなら鎧厚いサムライやら騎士の方が向いてると思うんだが、何であんたはこの依頼に?」
 薫はくすっと一つ笑う。
「みんなの居る所じゃ言えないけど‥‥」
「ん?」
「銃の音や臭いが生理的に受け付けず嫌いなので」
 冗談よ、と続ける薫。砲術士が三人居る今回の面々の中で、これは冗談でもおっかない言葉である。
 こんな調子で長閑な雰囲気っぽい顔をしているが、四人は四人共、纏う空気は暢気なんて台詞とは百里単位でかけ離れている。
 ブラッディはこきりこきりと指を鳴らし、小首を傾げながらも目は大きく見開き、猛禽類の視線を周囲に撒き散らす。
 薫は物静かに楚々とした歩調で、首回りの生地を引いてこれを整えているが、巻きつけた拳布から時折みちりという音が聞こえる。
 心持ち俯き加減の輪は、爪先で大地にとんとんと叩き、この感触を確認する。足先より伝わるは十全の反応。
 恵皇は両腕をだらりと垂らし自然体を保ちながら、闘志のみで周囲の空間を把握、支配する。
 ずらりと並ぶは皆腕に覚えのある猛者達。
 前に立つ勇気があるのならやってみろ、そう言葉に拠らず全身より漲らせた鬼気にて語る。
 轟音が一つ。
 いや、四人はこれが二つであると即座に察する。
 大きく吹き飛ばされたのは恵皇だ。
 四人中唯一の男性で、最も大きな体を持つのだから、初撃の狙いとしては順当であろう。
 が、跳ね飛んだ恵皇は、片腕を振って体勢を整えつつ、体を捻って大地に足をつき深く足を溜める。
「二時の方角だ!」
 囮である事を強く自覚していた恵皇は、銃撃を受けても吹っ飛ばされる勢いに逆らわぬと決めていた。
 つまり自らの体を使って狙撃点の特定を行なったわけで。
 この面々の中で、自分がそうするのが一番相応しいと思ったのか。何やかや言いつつも、やはり男の子である。
 恵皇の声と同時に残る三人、そして僅かに遅れて恵皇が爆ぜた。
 銃撃への恐怖を押し殺し、四陣の疾風と化して駆ける、駆ける、駆ける。


「何だコイツ等! 反応も足もクソはええよちくしょう!」
「あーもう! 二射目はなし! 後は手はず通り行くわよ!」


 アル・アレティーノ(ib5404)は、見事囮にかかってくれた標的を捉えるべく走る。
 とはいうものの、ああまで堂々と囮を出されては射手側も撃たざるをえない所だ。
 これで一人戦闘不能にされても仕方ない。そういう布陣なのだ。
 きっちり遮蔽と距離を取っているはずなのに、一人しかそうできないよう動ける囮班も大概ではあるが。
 こちらには数の利があるが、あちらには地の利がある。
 さて、とアルは思考を巡らせる。
「同じもの同士、読みあいといこうじゃないか」
 アルのあずかり知らぬ所であるが、先日レン達がそうしたように、大通りど真ん中を堂々と歩きながら銃を構える。
 他の囮組と違い、アルには瞬時に距離を詰める技術も、頑強な肉体もない。
 あるのは、同じ砲術士としての知識だ。
 居る居ないの確認すらせず、建物二階の窓に銃弾をぶちこむ。
 反撃は、無い。
 そう、ここで反撃に出て所在を明らかにしてしまった場合、囮のアルは仕留められても、残る前衛四人組の接近を許す事になってしまう。
 それがわかっているからこそ、アルは二人の優位な位置取りを制圧すべく、歩を進めながら堂々と銃に弾を込め、構え、放つ。
 距離を詰めればいずれ反撃せざるをえなくなる。
 アルの行進には二人を追い詰める意味があるのだ。
「おっ、逃げたかな。だけど、砲術士は一人じゃないんだよね」


「対応が良いはずよ。敵さんにも居るんじゃない砲術士」
「‥‥すげぇ嫌な予感してきたんだが‥‥」


 計都・デルタエッジ(ib5504)は待ち伏せ地点にて銃を構えたまま二人組みが現れるのを待っている。
「好き放題生きる〜、という人生は憧れますが〜‥‥やりすぎたらこーなる、ってコトですね〜」
 頭三つ分ほど下で、高崎・朱音(ib5430)が肩をすくめる。
「別に憧れはせんが‥‥そうだな、性格はさておき戦い方くらいは価値があるじゃろうて」
 老成したような口調であるが、見た目はただのロリである。いや、着物姿にねこみみ(自前)装備はただのと言うには少々御幣があるかもしれない。
 銃架を用いているのも、体がちっこすぎて銃が重いからなどという理由ではなく、待ち伏せに適した道具であるから、だと思われる。多分。
 計都は奥の方より銃声が響くのを聞き、すぅっと小さく息を吸う
 精度の高い射撃には、銃を支えるブレない体が必須となる。
 その為射手は呼吸をすら止める事もあるが、銃撃とは殺傷手段である。
 もちろん戦の最中であり、当たった当たらないが自身の生存に直結する事も少なくない。
 跳ねる心臓、止まらぬ動悸、滴る汗、全てが射撃の障害となりうる。
 これらを意志の力でねじ伏せ、心音すら抑え込むのが砲術士である。
 この時の計都が刻む鼓動を計る手段があったなら、戦場の只中にありながら常のそれより少ないという驚くべき数値を確認出来たであろう。
 飛び出してくる人影。
 この瞬間すら鼓動は静寂を保ち、衣服のボタンを止める程度の気安さで、引き金は引かれた。
「‥‥外れた? いや外したのか、良い勘をしておる」
 朱音は銃架を付けたまま銃を持ち上げ、即座に移動を開始する。
「残念です〜」
 顔は笑ったまま、まるで残念そうでない計都も続く。


「い、今のはやばかったって! つーか何だあのガキ! 明らかに銃のがデカイだろあれ!」
「砲術士3、近接4、確か雇ったのは八人らしいから後一人‥‥アーマーとかだったら泣くわよ私」


 街の地図は正直ありがたい。そう、リン・ローウェル(ib2964)は思った。
 街というものは、何処かしらに理不尽で不条理な造りがあるものだ。
 待ち伏せや罠を用いるにはこういう箇所が一番適切で、それを事前に確認出来たおかげで、今こうして逃げ走る二人組みを視界に納める事が出来ているのだから。
 満を持して術を唱えると、詠唱に驚いた二人が振り向く。
「魔術師か!? ‥‥ってまたガキかよ、脅かすな‥‥」
「馬鹿避けて!」
 突如、中空に巨大な鉄杭が現れ、レン目掛けて飛んで行く。
 モノを目で見てかわすのではなく、射手を見てかわす動きは銃に慣れた者ならではだが、こちらは陰陽術だ。
 そもそもからして避けられる類のモノではない。
「たかが子供と嘲笑うのも大概にしろ。とはいえ最期に屈辱を味わいたく無ければの話だがな」
 二の腕に深々と突き刺さった杭に、激怒したレンが反撃を試みんとするが、これをヴァレンチナが止める。
 リンはそんな二人をあざ笑う。
「霊魂砲‥‥実弾で無いもので撃たれる気分はどうだ?」
 追撃は詠唱前に二人が視界外に飛び出してしまった為、不発に終わる。
 敵も案外冷静なようだ。
 直後、恵皇が部屋に飛び込んで来たが、ぎりぎり二人は脱出した後であった。
 見るからに深手を負っている恵皇を見て、リンは素っ気無く呟く。
「‥‥数は揃っている。無理は不要だろう」
 ちょっと驚いた顔をした後、恵皇はにこっと笑う。
「なぁに、今回俺は的役だからな、このぐらいは折り込み済みさ」
 リンは小さく嘆息し、あまり気の進まない様子で恵皇に治癒符を用いる。
 恵皇を治療するのが嫌なのではなく、どうも治癒符を用いた時に出てくる式がお気に召さない模様。
「お、助かる。んじゃ行くぜ、奴等追い詰めてやる」


「‥‥開拓者って、子供使うのが流行ってんのかしら‥‥」
「最近のガキは一体どーなってやがんだ!」


 一軒の家を中心に、八人の開拓者達がこれを包囲している。
 そう、さんざあちらこちらと走り回らせたのは、ここに追い詰めるのが狙いであったのだ。
 優位な位置から撃っては逃げを繰り返されぬよう、砲術士三人がレン、ヴァレンチナの動きを読んで仕掛けた、必殺の罠。
 しかし、ここからはガチンコである。
 向こうも腹をくくっている事であろうし、飛びぬけた攻撃力を持つ砲術士二人だ、気を抜けばこちらにも犠牲者を出す事になろう。
 いずれにしても、このまま餓死を待つ何てつもりもなく、となれば突っ込むしかないわけで。
 四方より一息に、近接組四人が飛び込んで行く。
 本来ならここで迎撃といきたい所だろうが、何せ四人共が人の域を軽く越える瞬足を見せるのだ。
 その上砲術士、陰陽師の援護射撃付きとなれば如何にレン達とて動きが取れない。
 まずは廊下の窓より侵入した輪が敵を捕捉する。
 長い廊下の奥で銃を構えるはヴァレンチナ。
 輪は足を止めない。
 床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、走り続ける。
 螺旋を描くように、重力なぞ何処吹く風と廊下を立体的に用いて駆けるは、シノビの技。
「こんのバケモノっ!」
 と、ヴァレンチナの足元より水飛沫が吹き上がる。
 咄嗟の事ながら、銃の根元をこれより庇ったのは見事であるが、銃撃の狙いは逸れざるをえない。
 殺った、そう確信出来る間合いまで踏み込んだ輪は、背筋を抜ける悪寒に従い真横に飛ぶ。
 かわしそこねた。
 何時の間にかヴァレンチナの手元に短銃があり、これが火を噴き輪の片腕を抉っていった。
「五月蠅い武器ね。そんなに親切に大音立てなくったって、ちゃんと避けてあげるわ」
 泰拳士、嵩山薫参上。
 明らかな間合い外より、手の平を前にずんっ、と突き出す。
 ズレ動くようにヴァレンチナの体が吹っ飛んだ。
「お生憎様。この距離からは私の世界よ」
 体勢の崩れたヴァレンチナに更なる連撃を。
 三つの内、一つだけでもかわしたのだから少しだけ褒めてやってもいいと思えたが、この状態になった段階で、勝敗は見えている。
 ヴァレンチナは短銃を二丁、両手で同時に抜き左右より迫る薫と輪に向ける。
 くるりと回り、銃先より体を外しながら輪の裏拳。
 片手でとんっと銃先をずらしつつ薫の中段正拳突き。
 やはり、ヴァレンチナは既に詰んでいたのだった。

 慎重に屋内へと目を光らせる恵皇は、砲術士に高度な体術は無い、と若干だが見ていた部分がある。
 故に、天井の梁に足をかけ、仰け反るような形で体を振りつつ銃を向けて来たレンに対し僅かに反応が遅れてしまう。
 体を捻るも、間に合うかぎりぎり。
 レンの引き金が引かれる。
「‥‥‥‥あり?」
 しかし、火薬が炸裂する轟音は聞こえず。
「やべぇ、銃振り回し過ぎて中の弾がズレたか」
 思わず一瞬止まってしまった恵皇は上段蹴りを見舞うが、レンはぴょんと梁より足を離しかわす。
「話に聞いてたより随分すばしっこいな」
「てめえらのイカレた足に比べりゃ常識的な範疇だっての!」
 短銃を抜き、練力を頼りにこれを連発すると、さしもの恵皇も下がらざるをえない。
 ブラッディは、壁一つ隔てた場所で、音を聞きながら大体この辺だろと当たりをつける。
「当たったらごめんだ、ギャハハッ!」
 手にした十字剣を、全力で壁へと叩き付けた。
 砕けた木片が散弾のごとくレンへと襲い掛かる。
「ひとをころせない‥‥俺にとっちゃ、俺が殺さなければ何しても良いって事なんだけどね、ギャハッ!」
 これで殺意無いなんて寝言ほざくな、とか内心でレンが怒鳴るような斬撃が襲う。
 四肢を狙い、次々繰り出される剣。
 これを天性の勘のみでかわすレンの体術も大したものであったが、そこに恵皇まで参戦するのだから、何時までもかわせるものではない。
 ブラッディの剣先が、僅かづつレンの肉体を削り取っていく。
 泰拳士を相手に、時に予想すら出来ぬ動きでその死角にもぐりこむレンであったが、そこが視界の外であろうと、ブラッディの剣は正確にレンを追い続ける。
 恵皇もまた死角を消す術を心得ており、砲術士とも思えぬレンの身のこなしを持ってしても、二人をかわす事が出来ない。
 二人は、いやさそれ以外の皆も完全に砲術士対策を用意してきたのだ。
 如何な腕利きとてこれを凌ぎ切るのは不可能であった。
 堪らず部屋から飛び出すレン。そこは家の外である。
 ブラッディは愉快でたまらぬといった顔だ。
「そうそう、俺に甚振られるより、さっさと誰かに死なせてもらった方が楽かもよ?」

 飛び出しても、すぐには銃撃は来なかった。
 遮蔽を探し、見つけ、飛び込むレン。
 右手、左腕、右足が同時に爆ぜた。
 念の入った事に、陰陽の符術により、錆び付いた鎖までが伸びていき、レンの全身を拘束する。
 リンは、慈悲の欠片も無い冷酷な視線を送る。
「自業自得の果てか」
 砲術士三人もまた、この無様なレンの姿に憐憫の情を見せる事もなく、躊躇なく引き金を引いた。
 アルは銃を下ろすと、自嘲気味に呟く。
「ま、同じ穴の狢なんだけど、さ」
 終始笑顔を崩さなかった計都は、やはりここでも笑ったまま。
「私も気をつけませんと〜」
 何をどう気をつけるのか、周囲の人間がその真意を察する事は出来なかった。
 朱音は胸をそらし、倒れ伏すレンを見下ろす。
「ふんっ、よくやったようじゃがわしらに勝てる程ではなかったようじゃの」
 こうして、二人のガンナーは見事討ち取られたのであった。