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■オープニング本文 ●予兆は空から 暑い、夏の日差しが降り注ぐ。 雨の時期は過ぎ、田に生い茂った稲は青々とした鋭い葉を競うように天へ伸ばしていた。 身を屈めて稲の合間に生えた雑草を抜いていた者達は、たまに腰を伸ばして叩き、首にかけた手拭いで流れ落ちる汗を拭う。 「今日は、夜になっても涼しくなりそうにないなぁ」 「ああ。寝苦しいと、坊主どもの寝相が悪くて困るんだが」 同じように一息入れていた者と、そんな他愛もない日常的な会話を交わした。 日が暮れるまで、あと数刻。 それまで、もうひと頑張り‥‥と、ぐるりと肩を回した、その時。 ざわりと、田の向こう側にある木立が騒いだ。 始めは風が渡ってきたかと思ったが、そよりとも吹く気配がない。 だが、風もないのに枝が揺れているのか、繁った木の葉は遠目に見ても揺れている。 よーく目を凝らせば、小さな黒茶っぽい鳥の群れが我先に木の枝で羽を休めようとしていた。 風もないのに木が揺れて見えたのは、沢山の小鳥達がとまった重さで細い枝がたわんだせいだろう。 ぎゃいぎゃいぎゃーぎゃーと騒がしい鳴き声は、離れて農作業をする彼らの耳にまで届く。 「ありゃあ、椋鳥の群れだな」 手をかざして木立を見ていた一人が、怪訝そうに呟いた。 スズメよりも少しサイズの大きい椋鳥(ムクドリ)の群れは、しばらくそうしていたが。 何かに驚いたのか、また一斉に羽根を打って飛び立った。 ざぁと羽ばたく音がして、横切る群れは彼らの上を黒く覆い、熱心に仕事をしていた者もさすがに手を止めて空を仰ぐ。 そして村のあぜ道や家々に立つそれなりに大きな木々へ、降り始めた。 普段からのん気な村のもふらさまも、これには驚いたのか。 もふもふ鳴きながら、おろおろと取り乱したようにその場でぐるぐる回る。 「なんだってんだ?」 「この時分、棲家はもうちょっと森の方じゃなかったか?」 奇妙な椋鳥の群れの行動に、村人達は更に戸惑い。 そこへ木立の先の森の方角から、猟に出ていた『鳥刺し』――主に小鳥を専門に捕まえる猟師――が転がるように走ってきた。 「おぉい、おぉーい! 皆、家の者を呼び戻して家へ逃げろ。窓と戸を固く閉めて、篭もるんだ!」 先端にトリモチを塗った竿を振りながら、鳥刺しは大声で村の者へ呼びかける。 「どうした」「何事だ」と、すれ違う者は後を追いながら口々に尋ねる。 「椋鳥の様子がおかしいのも、何があったせいなのか?」 「ああ、アヤカシが出やがった。眼突鴉が椋鳥の目ン玉を突っつき始めたもんだから、連中も大慌てで逃げ出したって寸法よ。アヤカシ鴉ども、まだ森ン中をウロウロしてるが、おっつけ村まで飛んでくるぞ」 「あんたらじゃあ、どうにも出来んのか」 青ざめた一人が聞くが、滅相もないといわんばかりに鳥刺しは頭を振った。 「馬鹿を言え! 三羽だか四羽もいりゃあ、捕まえる前にこっちが目ン玉をくり出されちまうわい。とにかく、家へ逃げろ。ひとっ走り村長へ知らせて、開拓者を呼ぶ使いを出してもらうからよ!」 呼びかけながら鳥刺しの男はあぜ道を走り、田で働く者達も急いで荷物を拾い、家へ戻る始める。 村人達の不安をあおる様に、椋鳥の群れはぎゃあぎゃあと梢で騒ぎ続けていた。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
織木 琉矢(ia0335)
19歳・男・巫
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
真田空也(ia0777)
18歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
土蜘蛛 悪堕禍(ia2343)
30歳・女・泰
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●息を潜めた村 椋鳥達は、村に近い木々で鳴き立てていた。 村人達も用のない者は家に引きこもり、窓や戸を固く閉ざす。 「さすがに皆さん、十分に用心されているようですね」 少しほっとした様子で、六条 雪巳(ia0179)が息を潜める家々を見やった。 遊びたい盛りの子供がいるらしい家では、外を覗こうとしたのか、たまに叱られる声が外にまで聞こえてくるが。 やんちゃさに一瞬だけ表情を緩めた織木 琉矢(ia0335)は、雪巳と肩を並べて歩く。 「村への被害は、まだ出ていないか‥‥アヤカシを見た者がいる以上、あまり猶予はないが」 「ええ。被害が出ないうちに、後顧の憂いとならないよう、片付けてしまいましょう。私自身は、手が届かぬほど高くへ逃げるアヤカシと当たるのは、初めてですが‥‥」 アヤカシが空を飛ぶ事が気がかりなのか、伏目がちに雪巳は嘆息した。 「前に眼突鴉とやりあった時は、弓矢とかヒョイヒョイ避けられた上、なかなか空から降りてこなかったから、大変だった記憶が‥‥」 過去に眼突鴉退治へ参加した真田空也(ia0777)が、やや遠い目で貴重な経験を語る。 「だけどあの時は皆と協力して、最後には退治する事が出来たんだ。今回だって、絶対に村とこの空の平和を守る! 僕の大好きな大空を、アヤカシになんか汚させはしないんだからなっ!」 空也と同じ依頼に関わった天河 ふしぎ(ia1037)は、高い天を指差し、宣言した。 若人らしいどこか青臭い自信に、懐へ手を突っ込んで腹を掻きながら斉藤晃(ia3071)がカラカラと笑う。 「ま、この村には鳥を捕まえんのが本職の、鳥刺しがおるそうやからな。眼突鴉を落とすのがツグミやスズメと同じ様なモンかは判らへんが、皆で阿呆みたいに空仰いで追っかけ回す事にはならんやろう」 「ああ。そうだと有難いな」 割と楽観的な晃の言葉に、椋鳥ばかりが飛ぶ空を空也は仰いだ。 「で、鳥刺しの家ってのは、この家じゃないのか?」 通りに沿って点在する家の一軒を、百舌鳥(ia0429)が示す。 村長より聞いた家は、一見すると何の変哲もない農家だった。ただ、壁には鳥を捕まえる為の長い竿が数本立てかけられ、庭には捕らえた小鳥を入れる籠が幾つか積まれている。 「さて。上手く、協力を取り付けられればいいが」 呟きながら王禄丸(ia1236)が庭へ足を踏み入れる一方、通りに立ったまま動かぬ者もいた。 「では、自分は外で待つと致しましょう」 性別や年齢を判じ辛い低い声で、土蜘蛛 悪堕禍(ia2343)が申し出る。 少々『風変わり』な悪堕禍の容貌を戸や窓の隙間から見かけた村人は、それとなく目を逸らし、または不安げに見送った。 悪堕禍自身は剣呑な空気を気に病むつもりもないが、いつアヤカシが襲い来るか判らぬと言う時に、話が進まなくては困る。 「そうですね‥‥では、私達が中で話をしている間、もし空にアヤカシの影が見えましたら、すぐに教えて頂けますでしょうか?」 少し思案を巡らせた雪巳が、遠慮なく『見張り』を託し。 「‥‥承知しました」 「はい、お願いします」 ほんの僅かな逡巡の後、悪堕禍が役目を快諾すれば、どこかおっとりした巫女の青年はにこやかな笑顔で一礼した。 「あんた達が守ってくれるってんなら、俺達も出来る限りの協力をさせてくれ」 訪れた開拓者が協力を請えば、正座をして迎えた鳥刺しの男は逆に頭を床につける。 「自分の村を守る為なら、尚更だ。道具に慣れない者が下手に扱いを損ねて、アヤカシ退治どころでなくなるのも困る」 「そちらの心持ちは判った。だからどうか、面(おもて)を上げてくれ」 困惑気味に琉矢は促し、どっかと板間へ王禄丸が腰を下ろした。 「協力し合って確実に事が成せるなら、それに越した事はない。だが、眼突鴉のクチバシは鋭いと聞く」 土間に広げられた綻びのない網や、小鳥を模した作り物の囮、そして逆さにした竹かごや鳥籠に入れられた小鳥を眺めながら腕を組んだ王禄丸の言葉に、空也やふしぎが首肯した。 「大事な網や道具が駄目になる可能性は、避けられないぞ?」 「それは承知の上。網や仕掛けは再び繕い、作ればいい」 「だからといって、使う本人が怪我をしては元も子もない。急ぎで罠の設置を頼み、眼突鴉が来た時には引いてくれるか?」 「そちらの方が、あんた達の仕事をやり易いなら」 問答じみた会話の末、「では」と王禄丸は膝を打つ。 「善は急げだ。アヤカシどもがいつ現れるか、判らんからな」 「もちろん、俺達も罠を仕掛けるのを手伝おう。素人に手伝える事があればだが」 おもむろに王禄丸が立ち上がり、琉矢は手助けをかって出た。 「トリモチとか、髪の毛にくっついたりしたら、もの凄く大変だから‥‥気を付けて」 「ほ〜ぅ? さては‥‥」 真顔で仲間へ忠告するふしぎに、にんまりと晃が口角を上げ。 「ぼ、僕は別に、昔、何か色々した訳じゃないよっ。違うんだからな!」 慌てて頭を振る少年の主張を囃(はや)すように、どこかでぎゃっぎゃっと椋鳥の声がした。 ●出来うる限り 見通しの良い田のあぜ道や、あるいは道端に立ち並ぶ木々の周囲。 数人の鳥刺しは開拓者から戦いに向いた場所の希望を聞きながら、手際よく手馴れた様子で罠を仕掛けていく。 「ところで眼突鴉を見た時の事、教えてもらえんやろか。ギルドから一通りは教えてもろたが、折角やし会った本人らから聞きたいんや」 竿や網を運ぶのを手伝いながら、晃が鳥刺しに声をかけた。 鳥刺しの仲間には見慣れぬ風体の者に不安を抱く者もいたが、懐疑や恐れを抱く暇はない。 「力押しだけでは、駄目だからな‥‥効果があるといいが」 鳥刺しの手を貸り、地面に一本の棒を立てた琉矢は、先端で揺れる目玉模様を描いた布を見上げた。 「‥‥村には、指一本触れさせない」 如何なアヤカシを前にしても怯まぬよう、気持ちを揺さぶられず、持てる力を尽くすのみ‥‥と、琉矢は心構えを新たにする。 「いっそ、眼突鴉が板にこうビィーンと突き刺さって、動けんようにならんかの」 鳥刺しから話を聞いていた晃が、額に手をかざし、風に揺れる目玉を眺めて呵呵(かか)と笑った。 細事にこだわらぬ晃の言動は能天気にも見えるが、明るく笑い飛ばす声は心を曇らせる不安の雲をも吹き飛ばすようで。 「話の方は、どうだった?」 気持ちを入れ替えるように短く息を吐いてから琉矢が問えば、晃はひらひら手を振った。 「ああ。ギルドで聞きよった話以上に、目新しい事はあらへんな」 「そうか。なら、手筈に変更はないな」 晃の返事に短く答えて、琉矢は鳥刺し達を手伝いに行く。 着々と準備が進む中、百舌鳥は煙管片手に遠くの森を眺めていた。 準備が始まってから一刻か二刻もせぬうちに、どこかで椋鳥が騒がしく鳴き始める。 「‥‥来るか」 道端へ腰を下ろしていた百舌鳥が、紫煙を吐きながら呟いた。 空也は念の為にと携えた泰弓を手に取り、弦の張りを確かめる。 徒手空拳が本分の空也にとって、弓は決して得意な得物ではないが、空を飛ぶアヤカシの注意を引く事が出来れば上々。 「技を使うにも、限りがあるからな‥‥」 いつでも射る姿勢が出来るよう、彼は矢筒から一本の矢を抜き出す。 網を張るのを手伝っていた悪堕禍は、不安げに梢で騒ぐ椋鳥達をじっと見上げた。 その様子から、面の下の表情を窺い知る事は出来ない。 ただ、指先まで覆う篭手が擦れるカシャンという小さな音だけが、時おり憂いを表す様に鳴った。 鳥を討つのは、本来ならば気がのらぬ事。 異形と承知した己が身を、彼らは恐れる様子もなく。 屈託のないさえずりに耳を傾け、烏を友として心を癒した時もあり、それを思い返せば胸の芯が苦しくもなる。 ‥‥だが。 (「骸に群がり地に返すは自然の理、されど人を襲うは真の道理に非ず。目の前に在るは、似て非なるアヤカシ。討つべき敵。何の躊躇いが有ろうか」) カシャリという音を最後に、指の動きがぴたりと止まる。 ばたばたと羽ばたきを残して、梢の椋鳥達が飛び去り。 カァー‥‥ァと、鋭い不吉な鳴き声が一つ、長々と空を裂いた。 「すぐに、一番近い家へ逃げて下さい」 異常を察した雪巳はまだ間に合うとみて、避難を促す。 「気をつけてなっ」 「頼んだぞ!」 道具を抱えた鳥刺し達は口々に言い残し、急いで道を駆けていった。 「くるぞ」 空から目を離さず、空也は立ち上がりながら警告する。 森の上に、ぽつんと見えた影は四つ。 「やれやれ、襲ってくる鳥などまっぴらだな。帰ったら、焼き鳥と酒を。鳥は喰うものだ」 牛の頭骨を模した被り物を頭から被る王禄丸は、準備運動の様にぐるりと頭や肩を回してから、長槍「羅漢」を付いて立つ。 並の人間ならば身の丈以上にある槍も、長身の彼が扱うと棍棒か何かのようだ。 「ああ、そりゃあええ考えやな。焼き鳥と酒で、キュッと一杯ひっかけようや。にしても、なんちゅうったかな‥‥妖妖跋扈? いや、百鬼夜行か!」 「今、昼だから!」 仲間達を見やって茶化す晃に、ぺしとふしぎが突っ込むんだ 「おぉ? なんだ、見込みあんな。お嬢ちゃん」 「何の見込みだよ。それに僕は、男だーっ」 「二人して漫才やってんじゃねーよ。痛ぇクチバシで、突っ込み入れられるぞ」 アヤカシを前にしても賑々しい晃とふしぎへ、鳥の名を名乗るサムライが茶化しながら長脇差と木刀の柄を握って空を仰いだ。 「やーれやれ。んじゃ、ひとまずエサ役やりますか」 ●空飛ぶ不吉 見た目は鴉に似た外見のアヤカシは、森から飛来すると人間達の頭上を素通りした。 距離を取ってからUターンすると、真っ直ぐ来た方向へ引き返す。 大きく枝を広げた木の近くにいる者達は、逃げる様子もなくそこにいた。 速度を緩め、警戒しながら、狙いを定めるようにアヤカシはゆっくりと旋回し。 「おぉぉぉぉい! こっちにこいやぁぁぁぁぁっ!」 仲間から少し離れた位置に立った百舌鳥が、腹の底からの大声をあげた。 挑発的な行動に何度か翼を打った眼突鴉は、ばらばらに飛び交いながら急降下する。 アヤカシが『咆哮』に反応した様子をみて、ニヤリと笑みを浮かべた百舌鳥は、鴉から目を離さず後退を始めた。 「ほーれ、大好きな目玉だぜーい?」 今度は『咆哮』ではなく、普通に大声で呼び立てる。 もっとも、片方を包帯で隠している為、顕わになった目玉は一つだけだが。 餌とそうでないもののを見分ける程度の知恵があるのか、本能的なものなのか。あるいは、逃げる相手だから追うのか。 目玉模様の囮には目もくれず、真っ直ぐに眼突鴉は百舌鳥へ降下する。 『咆哮』が聞こえると同時に、琉矢は手にした杖の石突きでトンと地面を一つ突く。 石鏡の杖を鋭く振るって、軽やかに神楽舞「速」を舞った。 まずは、ふしぎに。そして続けて、空也へ。 舞を授けられた空也は、ふっと力が抜けて身が軽くなったような感覚を覚える。 その間に、囮に立った百舌鳥がアヤカシの注意を引きながら、戻ってきた。 「みんな気を付けて、来るっ」 警告しながら、ふしぎは泰弓を引き。 一つ深呼吸してから空也も矢を番え、慎重に眼突鴉を狙う。 二人の放った矢は、向かってくるアヤカシの翼をかすめ。 迫っていた眼突鴉のうち一匹が、羽ばたいて上昇する。 それを見て、杖を掲げた琉矢は意識を集中し。 見えざる力に身体を捻られた眼突鴉が、ケァァッと鳴き声をあげた。 「俺に出来るのは、これ位だ‥‥後は任せる」 苦しげに琉矢は眉根を寄せ、羽根を散らしたアヤカシがよたよたと落ちてくる。 「ああ、任せろ!」 百舌鳥の背を見守っていた王禄丸が、羅漢を手に木陰から飛び出した。 突き出す重く早い一撃を、よろめく眼突鴉は避けきれず。 鋭い穂先は、眼突鴉を深々と貫く。 「撃ち落とすのが、俺の役目だ。後は任せた」 矢が刺さったアヤカシを、空也は仲間へ託し。 もう一つの長身の影が、無言で辻風の如く駆けた。 影は目にもとまらぬ速さで、間合いを詰め。 鋭い拳が、アヤカシを抉る。 眼突鴉は鋭いクチバシを開閉して打ち鳴らし、羽根をバタバタさせた。 「自分は‥‥」 その様に、アヤカシを抉ったままの悪堕禍は手を引き抜かず、じっと無表情な面で見やる。 「この様なものと、同一視されていたのか」 複雑な感情がない交ぜになった呟きは、ごく小さく。 腕を振るって、悪堕禍が地面へ打ち捨てれば、動かなったアヤカシは溶ける様に消え去った。 「あちらの罠にも、アヤカシが!」 仲間の戦いを見守っていた雪巳が、仕掛けた罠の方向を示した。 網に足を引っ掛けた眼突鴉は、鋭いクチバシで糸を喰い切り、あるいは支柱を折って罠を壊す。 「ほぉ。ちっとは、足しになっとるやんか!」 長柄斧を構えた晃は、面白そうにもがく姿を見やり。 「そやけどな。わしはこういうちまい奴は、苦手やねん」 そのまま視線を巡らせて、物言いたげにふしぎへ目を向けた。 「だからって、僕の方を見るなよっ」 文句を言いながら、ふしぎは左右の腰に下げた二本のショートソードの柄へ手をかける。 「ところで、気になっとったんやが」 「何だよ」 頬を膨らませたふしぎに、晃は彼が柄にかけた手を指差した。 「わしは志士やないからよう知らんが、それで抜刀術っちゅーのは出来るんか?」 「‥‥ち、ちょっと緊張してただけだっ」 焦りながら口を尖らせたふしぎは柄から放した左手で、右手側のショートソードの鞘を握る。 「ならええが。ほな、支援は頼むで」 長柄斧を脇に構えた晃は、『咆哮』してから罠で動けぬ眼突鴉へ突っ込み。 サムライの動きに合わせて、同時にふしぎも地を蹴った。 ●ねぐらへ帰る群れ 「皆様、お怪我はありませんか?」 既に耳慣れた特徴のある声で、悪堕禍が共に戦った仲間達を気遣う。 「ああ、せいぜいかすり傷だ」 「治療致しますよ。まだ多少の余力がありますので」 爪やクチバシで引っかかれた百舌鳥の傷をみて、扇子を手にした雪巳が『神風恩寵』での手当てを申し出る。 二羽の眼突鴉を退治した後、罠にかかったアヤカシと、それを仕留めようとする者達を背後から狙ったアヤカシの二匹ともを、彼らは力を合わせて退治した。 更に眼突鴉がいないか、念の為に様子を見ようという王禄丸の提案で、休息をとりつつ森を見張る。 「何とか、村にまで被害を出さずには済みそうだな‥‥」 ほっとした様子で、琉矢は遠くの家々を眺め。 そんな彼の肩を、ぽんと空也が軽く叩いた。 やがて夕刻となる頃、空を沢山の羽根音が覆う。 「鳥が‥‥?」 「椋鳥達が、住み慣れた森の棲家へ帰るのです。自分達を脅かすアヤカシが退治されたと、知ったのでしょう」 怪訝な表情で空を見上げた空也へ、静かに悪堕禍が答えた。 賑やかに鳴き立てる椋鳥達は、大きく村の上を旋回してから森へ飛ぶ。 ねぐらへ帰るその群れを、悪堕禍はただじっと見送っていた。 |