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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ●桜みる夢一幕 ざわざわと桜が騒ぐ。 今年もまた、神楽の都に春がきた。 桜の花が咲きそろい、地面も川面も桜色の絨毯で埋め尽くされ。 花霞に風吹かば、世界は桜吹雪に包まれる。 ……くすくすと、遠く聞こえるは子供達の無邪気な笑い声。 ぱたぱたと、小さな足音が駆けてきた。 それがどんっとぶつかって、ぶつかった相手は弾みで地面へ転がる。 「たぁっ!? いてて……」 ころんと転がった小柄な相手は、立ち上がると土を払い。 「わっ、ごめん!」 茫然とした顔と目が合えば、慌ててぴょこと頭を下げた。そこへ、別の方向から子供の声が聞こえてくる。 「あにうえ〜っ。兄上、何処(いずこ)にございますか〜!」 「ちぇっ。まーた元重(もとしげ)の奴、追っかけてきやがった……しょうがねぇな」 何やらぼやきながら、再び走り出そうとしたその矢先。 「あ、ゼロさーんだーっ!」 「げげっ。てめぇまでついてくんなよ、汀(みぎわ)っ」 「えぇーっ。そんな、アヤカシ見たような顔しなくても、いいじゃないー!」 プンと幼い少女が頬を膨らませるが、ゼロと呼ばれる少年は構わず。 「……ゼロ?」 覚えのある名を呟くと、小さなゼロが顔をあげる。 「てめぇも来るか? 今日は何するか、まだ決めてねぇけどな!」 そう言うと満開の桜の下、屈託ないやんちゃ坊主の顔で、にしゃりと笑った。 |
■参加者一覧
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
炎海(ib8284)
45歳・男・陰
朱宇子(ib9060)
18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●子供の情景 「もーいーかいっ」 「ま〜だだよぅ」 晴れた空に、子供らの声がする。 「もーいーかいっ」 「もーいーよっ」 合図に目隠しをした九歳の少年――劫光(ia9510)は顔を上げ、少し考えてから駆け出した。 「リーディア、みつけたー!」 天水桶の陰でしゃがむ五歳の少女――リーディア(ia9818)を、まず指差し。 「あれ、みつかっちゃいましたぁ」 「えーと、月与も!」 茶屋の花見客に混ざっていた、十歳の少女――明王院 月与(十野間 月与(ib0343))を見つけ出す。 「上手く隠れたと思ったのに〜」 「それから……」 もふらさまを盾にした四歳の少年――緋那岐(ib5664)が様子を窺おうと顔を覗かせれば、劫光と目が合った。 「緋那岐、いたー!」 「え〜! 更に汀(四歳)や元重(四歳)に捕まっていたゼロ(八歳)を発見し、最後に塀の間から五歳の少年――鬼灯 仄(ia1257)が悔しそうに出てきた。 「くそ〜っ! 今度は一番に見つけてやる!」 「元重は、何で俺のトコにくるんだよ」 「だって兄上が……」 口を尖らせるゼロに元重も膨れ、リーディアが間に入った。 「ふたりとも、なかよくです!」 「リーディアちゃんは強いね〜」 不満顔なゼロと反対に、にこにこ笑顔の月与。 「喧嘩はいけませんよ」 賑やかな子供達へ、にこやかな笑顔でエルディン・バウアー(ib0066)が声をかけた。 「エルディンだ!」 「しんぷさま、こんにちは」 劫光が長身の神父に手を振り、リーディアがお辞儀をする。 「こんにちは。今日はかくれんぼですか?」 「うんっ。みんな、おれがみつけた!」 「おれは、劫光より早く見つけるからなっ」 胸を張る劫光と仄の意地の張り合いを、和ましくエルディンが見守っていた。 「でもおれ、たんけんにいきたい! ぼうけんして、かぐらをかいたくするんだぜー!」 「みんなと一緒の探検……楽しそう」 月与がほわと呟き、しゅたっとリーディアが手を挙げる。 「んと、みやこでいちばんたかいところにいって、おはなみしたいです!」 「それ、探検か?」 「だって桜、きれいなのです」 悩むゼロにリーディアが主張し、きらきらと緋那岐が瞳を輝かせた。 「おはなみにいくの? ぼくもいくー!」 「でも冒険は危険ですよ。それに一番高い場所には、ラスボスがいるものです」 「ラスボス?」 エルディンを見上げて劫光が聞き返し、木の枝を仄がぶんぶん振った。 「そんなの、やっつけてやるー!」 「では、冒険の前に準備が必要ですね。すぐ戻ってきますから」 なにやらエルディンが思案し、「先生!」と月与が挙手する。 「あたいも母様にお弁当お願いしてくる〜」 「おそかったら、おいてくからな!」 「はい、劫光くん。すぐに……おや?」 木の陰から窺う少女に、エルディンが気がついた。おどおどと揺れる不安げな視線の前にしゃがみ、角のある六歳の少女修羅――朱宇子(ib9060)へ彼は微笑む。 「お花見、一緒に行きません?」 「……え?」 「皆でお花見をして、美味しいお弁当を食べたら、きっと楽しいと思いごあっ!?」 ごすっ! 「ひゃぅっ!?」 突然エルディンが顔から地面に突っ込み、驚いた朱宇子はその場で固まった。 「へへん、すきありー!」 「おっさん、顔からコケてんじゃねーか」 背中を蹴っ飛ばした仄は得意げな顔をし、「あ〜あ」とゼロが呆れてエルディンを見やる。 「は、はは……いやはや、これしきの事。男の子達は元気ですけど、女の子もいますしね」 よれよれと立ち上がってエルディンが誘えば、茫然としていた朱宇子もようやく頷いた。 「リーディアです。なかよくしてくださいね」 歳近い女の子が加わって嬉しそうなリーディアが頭を下げ、ぺこんと朱宇子もお辞儀を返す。 「あの……朱宇子、です」 「わ〜い、みんなでお花見〜!」 「てめぇっ、だから叩くなって!」 摘んだ草を振り回す汀や元重にゼロが追いかけられ、自然と朱宇子も顔を綻ばせた。 「あれ、ここは……」 知らずと、呟きが口からこぼれた。 忙しく道を行きかう人々や、軽口を交えながら店や路上で商いをする人々。賑やかな風景を茫然と金の瞳で見つめる十歳の獣人少年――炎海(ib8284)の上に、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。 さっきまで住み慣れた村にいて……確か、桜を眺めていたと思ったのだが。 (まさか、ここは人間の里……?) 気付いた途端、ざわりと胸の内が騒いだ。 どうしてココにいるのか分からず、でも普段は近付く事のない人間がそこここにいる。 (なんだか、みんな自由で、楽しそうだな……) 驚嘆し、戸惑い、警戒していた炎海だが、誰も自分に驚きもしなければ構わぬ様子を見て、周囲を観察するだけの落ち着きを取り戻していた。 初めて見る人間と、その暮らしぶりに目を輝かせ、改めて気付く。 ……ここ、この場にいる村の人間は、自分独り。 そして興味を抑え切れぬ少年は、雑踏へ足を踏み出した。 ●ただいま冒険中 (……お母さんと、お姉ちゃんと……はぐれちゃ、った) それに気付いた時、朱宇子は目の前が真っ暗になった。 急に周りの物が大きく見えて、自分がちっぽけで取り残された気分になる。 (どうしよう、どうしよう……お、お姉ちゃん……どこ……? 私はここに、いるのに……っ) だけどお花見にきたんだから、桜のあるところにきっと母と姉もいるはず。 探そうと決めた矢先、一番高い場所でお花見をする話が聞こえて。ついて行けば、もしかして二人に会えるんじゃないかと思って、でも知らない人に声はかけ辛くて。 迷っていたら、金髪の男の人が目の前にしゃがんで声をかけてくれた。 (神楽の都、大きな都、修羅じゃない人、いっぱいいる……) でも誰も、一緒にお花見に行く男の子も女の子も、左右で角の大きさが違うとかヘンだとか、何にも言わない。 里では父の事も含めて、よくからかわれていたから……ちょっと、不安だったけど。 「わぁ……」 ざぁと風が吹けば、一面に桜の花びらが舞った。 「きれいだよね、朱宇子さん」 「ほんとだね……リーディアちゃん」 はぐれないようリーディアはぎゅっと手を繋ぎ、一緒に歩くトモダチに朱宇子もこくんと頷く。 そう、友達……だから仲良くなりたいな。それから、いっぱいいっぱい、遊びたいよ。 「あっち、さかがあるぜ!」 「行ってみよ〜」 一番の先頭を進む劫光が指差し、駆け出す月与の背中では大きな背負い袋の口から顔を出したお気に入りのうさぎのぬいぐるみが、長い耳をひょこひょこと揺らした。 「あっちじゃね?」 「こっちだろー!」 道の選択で仄とゼロがむぅむぅと睨み合い、走り回った勢いで迷子になりそうな緋那岐を汀が引っ張ってくる。 「いえでも、こんなふうにあそべたらなー」 何やら残念そうな緋那岐に、汀が首を傾げた。 「緋那岐ちゃん、神楽の子じゃないの?」 「うん。んーとね、おとなのじじょーってやつだよ?」 普段は殆ど外に出た事のない緋那岐にとって、見るモノ聞くモノ全てが珍しく。出会った子供達は遠慮なく、一緒に遊ぼうと彼を誘った。 「都で一番高いところって、どこだろっ。てっぺんに登ったら、神楽を全部見られる?」 「きっともっと、うみのむこうまで、みえるぜ!」 緋那岐の疑問に、ぶんぶんと手を振り回しながら劫光が主張する。 途中で大きな犬に吠えられたり、日なたで眠そうに大欠伸をする猫へ道を訊ねたり、美味しそうな匂い漂う甘味処の前で足を止めたり、ぶんぶん飛び回る蜂に大騒ぎして逃げ惑ったり。 そんな数々の『困難』を乗り越えながら、子供達は神楽の都で一番高い場所を探して探検していた。 (とはいえ、神楽の都は割りと平坦な土地に建っているんですけどね) だけどそれは明かさず、ささやかで賑やかな『冒険』を荷物持ち状態のエルディンは温かく見守る。 やがて高いところを探して歩く探検隊一行は、次第に神楽の外れへと向かっていた。 (どこへ行くんだろう) 街を巡る炎海は、何やら楽しげな人の流れに気がついた。。 肩に茣蓙(ござ)を担ぎ、手には重箱らしき四角い風呂敷包みを持ち、時には竹水筒や酒と思しき徳利をぶら下げている。 目で辿った先は街の郊外で、霞のようなに広がる淡い桜の色に目的が花見だと察した。 特に目的がある訳でもなく、何となく炎海は人々に混じる。 強いて言えば、人がどんな風に桜を楽しむのか気になった。それだけの事。 うららかな春の日差しは穏やかで、緩やかな風にひらりひらりと桜の花びらが舞う。 それに誘われ、時おりの風に白の髪を梳かせながら炎海は足を運ぶ。 ●天の桜 「いっちばーん!」 坂を登り切った劫光が、高らかに宣言しながら最後の一歩を両足で着地した。 「くそーっ、負けたー!」 先を越され、悔しがるのは仄だ。さすがに歳の差もあって、劫光の足には追いつけず。 「だから、付いてくんなって言ったのに……」 しょうがねぇなぁとぼやくゼロの背では、兄を追っかけ疲れた元重がうとうとしていた。 「ゼロさん、だいじょうぶ?」 「ん。俺は志体持ちで、兄だしな」 後ろから気遣うリーディアにゼロは振り返らず答えながら、たまに足を止めてはよいせと弟を背負い直す。 近付く賑やかな空気と、坂の向こうからだんだんと見えてくる満開の桜に朱宇子は胸をドキドキさせ。 「うわぁ〜……!」 辿り着いた『てっぺん』の光景に、思わず緋那岐が立ち止まって声を上げた。 「こっち、みんなこっち〜!」 一足先に辺りを見回した月与が友達へ手招きをし、追いついた緋那岐が思わず息を飲む。 「わ、わぁ……!」 着いた場所は、神楽の外れにある小高い丘の頂上だった。 広い神楽の都全体を一望する事は叶わないが、それでも見下ろす光景は波の如く家々の屋根が並び、寺や大きな屋敷、川のほとりなどに植えられた桜が咲き誇っていた。 それに菜の花の黄や木蓮の白が色を添え、屋根の波の向こうには本物の海が広がって、遠い水平線まで青い色が続いていた。 「すごいなぁー」 「はわわ〜、一面のお花畑だぁ〜」 感心する仄に、頬を真っ赤に染めた月与がほんわりと感動している。 「わぁ〜、みやこがさくらいろなのですっ。ゼロさん、きれいですねっ♪ わたしのおうちは見えるでしょうか」 「えっと……わかんね」 初めて見た眺望に子供達が目を奪われていると、その背後で高らかに笑う声が一つ。 「は〜っ、はっはっは! よくぞここまで、辿り着いたなぁ〜! だが、お前たちの冒険はここまでだぁ〜!」 おどろおどろしい宣言に少年少女が振り返れば、お面で顔を隠した怪しげな長身の男が白い杖を掲げ、ばさりと長いマントを翻した。 その腹には、何故か『じゃくてん。』と書いた紙が。 「さぁ、リーディア姫をさらっちゃうぞ〜。いやいや、月与姫や朱宇子姫も可愛いくて迷うな〜。皆まとめて、さらっちゃうか〜」 「きゃ〜っ」 「ひ、人さらい……?」 「は……ぃ?」 何故か嬉しそうなリーディアに月与がボールを胸に抱きしめ、朱宇子は目をぱちくりさせる。 「あいつが『らすぼす』だっ。やっつけろー!」 「よぉーし!」 劫光の言葉に、今度は一番槍だと仄が木の枝を手に突進する……子供らしい本気で。 「とーぅ!」 べしべしべし!! 「あいたっ、いたたた……っ!」 子供の力でも、手加減なしに殴られるとかなり痛い。 「くっ、ならば〜!」 白い杖を振りかざせば、ぽんと光球が現れた。 「えぇ〜い!」 怪しい術に思い切って緋那岐も加勢すれば、ぱちんと『マシャエライト』が弾けて消える。 「みんなをいじめるやつは、ゆるさねえかんなー! これで、どうだー!」 ぐるぐると腕を回した劫光が、『弱点』に拳を繰り出し。 ごきーん……。 「はう……ッ!?」 当たった。 劫光の『ぱんち』は確かに弱点に当たった……のだが、それは金的という名の的、男にとっての真の弱点だった。 一瞬、目の前が真っ暗になるというか、この世の終わりが見えたというか。 「〜〜〜ッ!」 「あの……どうしてラスボスさん、ぴょんぴょんして……?」 「……知らね」 素朴な朱宇子の疑問に、痛そうな顔のゼロが素っ気なく答えた。 「やられました。宝箱をあげますから許してください、勇者さま」 ようやく致命的な致命傷から回復したラスボス、もといエルディンが『宝箱』を差し出す。 箱の蓋を開けば、そこには甘い玉子焼きや甘辛煮の肉団子、梅や鮭が入ったオニギリ、ウサギに切った林檎、ソーセージのタコさんなど、御馳走が詰まっていた。 「うわぁ、おいしそう!」 子供達は目を輝かせ、途端に腹の虫が「ぐぅ」と鳴く。 「あたいの母様も、お弁当作ってくれたよ」 ごそごそと、月与もリュックから重箱を取り出した。 すっかり御馳走に目を奪われる子供達の傍らで、少し前から感じていた視線にエルディンはにっこりと笑顔で手招きをする。 「沢山あるんです。一緒に桜を見ながら、食べませんか?」 「あ……俺は………え、炎海とでも、呼んでください」 その誘いに、桜の傍らにいた――楽しそうな一部始終を見ながらも、声をかけられなかった炎海が、躊躇いがちに頷いた。 「えへへ。たすけてくれて、ありがとうです」 「だって、おれたちはなかまだからな。なんかあったらどこにいてもたすけてやるぜ! やくそくだ!」 礼を言うリーディアに、弁当を頬張りながら劫光が胸を張る。 適度に腹が膨れた月与は緋那岐とボールで遊び、仄に誘われた炎海はゼロを交えてチャンバラに興じていた。 「なんだか、うれしいです。またみんなで、あそびたいですね♪」 絶景と美味しい御飯、「えいえい、やぁ」と打ち合う声に、リーディアはほこほこほわほわ微笑む。 「エルディンさん、高い高い……してもらって、いいです?」 打ち解けた朱宇子が、ふとエルディンにせがんだ。 「少しでも近くで、桜を見たくて」 「はい、いいですよ」 微笑んで快諾したエルディンは、小柄な少女をひょいと肩車する。 「わぁ……っ」 「ここが、一番高いところですね」 急に近くなった桜に、朱宇子が琥珀の瞳を輝かせた。 「私、雨で散って、水たまりの端っこに集まる桜の花びらもきれいだと思うけど、やっぱり……お日様の下にある桜が、一番好きだなっ」 ひらひらと舞う花びらを掴まえようと、朱宇子はエルディンの頭の上で小さな手を精一杯に伸ばす。 (人間は悪い奴なんかじゃない。だってこんなに明るくて、優しくて……俺が聞いていたのと全然違う。村の皆だって人間と話せば、きっと……) 朱宇子とエルディンのやり取りに、目を奪われていた炎海へ。 「すきあり!」 「わぁっ! むぅ……負けませんっ」 不意を突く仄の一撃を避けた炎海は木の枝をかざし、遠慮なく踏み込む。 やんやと賑わう無邪気な子供らの声を、風は桜吹雪と共に神楽の空へ運んでいった。 天高く 童の笑い声は響き 抜ける青空に 桜花舞う 其は桜の魅せし 夢幻のひと時―― |