開拓者長屋 初春遊び
マスター名:風華弓弦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/13 19:17



■オープニング本文

●天儀歴1011年12月晦日
 神楽の都に出入りする、門の一つ。
 それを出たところにある小さな地蔵の前でゼロは腰を落とすと、提げてきた榊(さかき)を供え、静かに手を合わせた。
 今年も無事に……ひとまずは無事に、一年が終わる。
 良い事も良くない事も色々とあった一年が去り、新しい年がやってくる。
 しばし瞑目したゼロは膝に手を置き、立ち上がった。
 年の瀬の空は白んで高く、空気は深深と冷える。
「来年は、いい年であるといいな……にしても、寒いぜ」
 吹く風に軽く身を震わせたゼロは寒そうに門をくぐり、賑やかな神楽の街へと戻っていった。

●正しい正月の過ごし方
「あけまして、おめでとーございまーす!」
 新年を迎えて間もない開拓者長屋に、元気な声が響いた。
「……てめぇは、正月から賑やかだな」
「違うよっ。お正月だからこそ、賑やかじゃないと!」
 眠そうなゼロが顔を覗かせれば、桂木 汀(かつらぎ・みぎわ)はえへんと胸を張る。
「つか、正月でなくても賑やかな癖に。実家には、帰らなくていいのか?」
「大晦日と元日には、帰ってたよ。それに、あんまり遠くないしね。ゼロさんはずっと、神楽?」
「ん、まぁな。正月の挨拶まわりとか、面倒くせぇ事もないしな」
 生まれも育ちも神楽に近い農村だという汀は、悪戯っぽく舌をちらと出して笑った。それ故に神楽以外の土地は良く知らず、何かあれば「遊びに連れて行け」とゼロにたかっている。
 これも毎度の事かと苦笑しながら、ゼロは袖に腕を入れた。
「寝正月もいいが……てめぇの相手もしてやるか。長屋の連中も、そうでない奴らも、暇を持て余してるのがいるだろうしな。一人で雑煮を喰うのも、つまんねぇだろ」
「え、いいの?」
 途端に汀が目を輝かせ、からから笑ってゼロは髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
 耳をすませば、長屋や近くに住む子供らがわいわいと遊び騒ぐ声も聞こえてきた。


■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
有栖川 那由多(ia0923
23歳・男・陰
静雪・奏(ia1042
20歳・男・泰
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
煌夜(ia9065
24歳・女・志
リーディア(ia9818
21歳・女・巫
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
禾室(ib3232
13歳・女・シ


■リプレイ本文

●謹賀新年
「おや。新年から、賑やかですね」
 新しい年も変わらない光景に、六条 雪巳(ia0179)がくすと笑う。
「雪巳さん、あけましておめでとうございます!」
「すまねぇな、正月から騒がしくて」
 桂木 汀が深々とお辞儀をし、軽くゼロは挨拶を返した。
「いいえ。笑う門には福が来ると申しますけれど、今年も長屋は賑やかになりそうですね」
「ぜーーろーーっ!!」
 どむんっ、と。背中へかかった重さに、後ろを見やるゼロ。
「おぅ、おめでとうだぜ。てめぇも新年から元気だな」
「新年だからこそ、だろ?」
「ま、そうだけどな」
 友人の答えに、満足げな有栖川 那由多(ia0923)が背へぶら下がっていた。そこへ遅れて顔を出したリーディア(ia9818)が、丁寧に頭を下げる。
「皆さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。ゼロさんと那由多さんは……今年も、仲良しですね」
「そうだな、よろしくされそうだぜ」
「とりあえず、おめでとう……か? なんだか一年、あっという間だったよな」
 ぺふと頭を撫でる手を払いつつ、那由多はしみじみと思い返した。
「でも何だか……北面での合戦の不利も、ドコ吹く風って感じね」
 賑やかさにつられて煌夜(ia9065)が姿を見せ、呆れるやら感心するやら。
「……此処に住み始めて、もう二年か。早いものだな」
 ふとキース・グレイン(ia1248)は長屋の佇まいを一望し、重ねた年月を再確認する。
「ともあれ、だ。明けましておめでとう。改めて、今年も宜しく頼みたい」
「こちらこそ。よろしくね、ご近所さん方」
 馴染みの顔ぶれへ煌夜が会釈をし、集った者達に目を留めた静雪・奏(ia1042)も顔を出した。
「皆、あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「ゼロおじさま〜、リーディアおねえさま〜っ」
 駆けて来たケロリーナ(ib2037)の横を、びゅんっと疾風の如く駆け抜ける影が一つ。
「新年の挨拶回りじゃー! あけましておめでとうなのじゃ!」
『早駆』でやってきた禾室(ib3232)が足を止め、勢いよく礼をする。それから物珍しそうに、ぐるりと長屋を見回した。
「ここが開拓者長屋かぇ。ええ所じゃのぅ」
「ええ、いいところですよ。気兼ねもなくて」
 ゆらゆら揺れる狸尻尾に雪巳は微笑み、遅れてケロリーナが膝を曲げて挨拶をする。
「えへへ〜♪ おめでとうですの〜♪」
「はい、新年のお慶びを申し上げます。皆さま、今年も変わらずよろしくお願いいたします」
 静々と雪巳も応じ、こっくりと煌夜が頷いた。
「そうね。戦では苦戦していたりと、いろいろあるけど。そんな状況でも時は過ぎるし、年は明ける。塞ぎこんでいても仕方ないし、戦勝祈願ついでにお正月を楽しみましょうか」
「んじゃ、初詣に行くかぁ」
 大欠伸でゼロが切り出せば、那由多が普段と変わらぬ汀の着物を見やる。
「それなら汀ちゃんも、晴れ着とか着ようよ……長屋なんだし、誰か持ってるって」
「え、えぇ!?」
「お貸ししましょうか。ちょうど家に、振袖「椿」がありましたので」
「でも、悪いよっ」
「いえ。私は……着ませんしね?」
「着付けなら、私がお手伝いしますよっ」
 勧める雪巳と那由多に汀が慌てる間にリーディアも加勢し、面白そうに奏達は成り行きを見守っていた。

●初詣
 長屋に近い小さな神社は、近くに住む人々も訪れて賑やかだった。
「振袖でなくて、良かったのですか?」
 巫女袴を着た禾室を、懐かしそうに雪巳が見やる。
「実は、ちと迷ったのじゃがな……まぁ、わし当分結婚なぞせぬし。だから、お正月らしく実家仕込みの巫女装束なのじゃ。ほれ、神楽鈴もばっちりじゃぞ!」
 祭事の舞いに振る神楽鈴を、得意げに禾室はしゃらんと振り鳴らした。
「そうでしたか。以前は社で迎える側が多かったですけれど、こうして揃って初詣というのも良いものですね」
 納得した様子の雪巳は紋付の着流しの上に羽織「清淡雪」を着、それより少し改まった羽織袴姿の那由多は(一緒に歩くのによかった)と密かに安堵する。
「やっぱ、女性陣は華やかでいいよな」
「き、緊張、するけどね。綺麗な晴れ着だしっ」
 鮮やかな赤と桃色の地に椿が描かれた振袖に、どきどきとしながら歩く汀はいつもより大人しい。リーディアは淡黄色地に紅白梅の柄の小袖に、道行きを羽織り。ケロリーナは黄緑色の地に、咲き誇る黄梅も鮮やかな黄梅の振袖で着飾っていた。巫女袴「八雲」を着た煌夜は新年らしい空気をまとい、一方でキースは着流しに陰陽羽織「霞星辰」を重ね、袴「青雲」姿の奏や那由多らと並んでも違和感がなかった。
「皆、似合ってるよねっ」
「汀ちゃんもね。あと、俺からお年玉あげる」
「え?」
 那由多は見上げる汀に手を伸ばし、首の後ろで止め具をかける。
「……うん、似合ってるかな」
「あの、これ……えっと、ありがとう、です」
 飾られた蝶の首飾りに汀は慌てた末、顔を赤くしながら礼を告げた。
「汀ちゃんはいいかな。じゃあ……」
 奏はマフラー「オーロラウェーブ」を外すと、ケロリーナの襟元へかける。
「温かいですの〜っ」
「ケロリーナちゃんは元旦がお誕生日なんだね。おめでとう」
「えへへ〜。奏おじさま、ありがとうですの〜」
 そんな話をしながら手水舎で身を清め、拝殿の賽銭箱へ賽銭を入れて鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝の拝礼を行う。
(今年が、皆にとってよい年となるよう)
 先の賑やかさを思い返して、キースは手を合わせ。
(皆さんが、元気に過ごせますように……)
 雪巳も静かに目を閉じ、祈る。
 少しばかりお賽銭を奮発した煌夜は真剣な表情で戦勝祈願をかけ、初めての初詣となるケロリーナも周囲に倣って目をつむった。
 着流しに羽織を引っ掛けたゼロと並んだリーディアは、祈りの後に粛々と一礼をする。それから隣を見れば、目が合ったゼロは視線を泳がせた。
「熱心に祈っていたんでな」
「ふふっ。新年も夫婦揃って、無事に、心穏やかに過ごす為に励む事を神様にお伝えしたのですよ。後は、自力で叶えられそうにない事を祈願して」
「ふぅん?」
 先を促す夫に、リーディアは指を折り数える。
「まずは、ゼロさんの厄介事に巻き込まれやすい体質が少しでも改善しますように。そして……子宝に恵まれますように、って。祈願しといてなんですが、照れますね」
 そして頬を赤く染めながら、じっとゼロを見上げ。
「きっと今年も、色々と大変な事が起きるのでしょうね……でも、今年もきっと、笑って乗り越えられます。乗り越えられるように、支えていきますから……ゼロさんは、遠慮なく突っ走ってくださいな」
 そう告げて、ぎゅっと腕を掴んだ。
「ちゃんと追いかけますよ〜」
「ん……よろしくな」
 照れくさそうなゼロにリーディアは満面の笑みを浮かべ、夫婦二人で寄り添い歩く。

「せっかくですし、おみくじも引いてみましょうか」
 祈りを済ませた者達は、雪巳の誘いに社務所へ足を運ぶ。
「おみくじか……引くべきか引かざるべきか、どうしようかしら」
「新年の運試しに、引いてみるのも悪くないと思うがな」
 悩む煌夜に、キースが小銭を取り出した。
「そうね。吉なら、戦いはきっといい結果になる、凶なら書いてある事に注意すれば避けられる。そんなつもりで」
 かくして引いたおみくじは、雪巳が小吉で煌夜も吉、最後のキースは大吉と出た。
「煌夜さん、本当に合戦で気が気じゃないんだね。そんなに大変なんだ」
 不安げな汀に、奏が小首を傾げる。
「汀ちゃんは何をお願いしたの?」
「奏さんは、やっぱり家族の事?」
「僕は皆が無事で幸せに、この一年が過ごせます様に……かな」
「あたしはね。長屋の人達がいつも元気で、帰ってきてくれますようにと……それから絵が上手くなって、あとゼロさんが美味しい物を奢ってくれますようにって」
「てめぇ、最後のはナンだっ」
 すかさずゼロが突っ込み、那由多も忍び笑った。
「汀ちゃんらしいね。ケロリーナちゃんと禾室ちゃんは?」
「えへへ〜♪ けろりーなは「すてきな恋ができますようにっ♪」って、お祈りしましたの♪」
 ケロリーナは奏に目を輝かせ、禾室はえへんと胸を張る。
「わしは今年一年の健康と無事を祈って、しっかり拝んだのじゃよ」
 ……加えて、こっそり(『ないすばでー』になれますように)ともお願いしたのは、少女の秘密である。
「ケロリーナさんは可愛いし、禾室さんはしっかりしてるね。那由多さんは?」
「俺? 俺は……大した事でもないよ。小せえし、非力だから」
 興味津々な汀に、那由多はぽしと頬を指で掻いた。
 それでも、せめて……今日この場に居る“仲間”が、一年笑顔をなくさないで居られたらと、願わずには居られず。
(そんで……その為の努力は、惜しみたくねえんだ)
 胸の内で祈る那由多の髪を、わしゃりと無骨な手が掻き混ぜた。確かめなくても、それが誰か見当はつく。
「あとねあとね……ゼロおじさまとリーディアおねえさまに、安産祈願のお守りを買ってあげたですの〜♪」
「『安産』は早いですが……でも、有難く頂きますね。あ、子宝祈願のお守りも買わないと」
 ケロリーナからお守りをもらったリーディアは思い出し、そんな様子を眺めながら那由多がぽつと言葉を落とした。
「……俺、なんか成せたんかな。自信ねぇし、やれたとも自負できね」
「それ言うと俺なんか、てめぇらに心配と迷惑かけてばっかだぜ?」
 自分に愚痴るような親友のぼやきに、彼は目を伏せ。
「でも……得るものは多かったよ。この、背中の傷も含めて……さ」
「そっか」
 短く返したゼロへ、二色のお守りを手にリーディアが振り返る。
「ゼロさん。赤いのが女の子で青いのが男の子、どっちがいいです?」
「どっちって……面倒だから両方買っちまえ」
 困った末の返事に那由多は笑い、思い切って口を開いた。
「この際心機一転すっきり始めるべく、一つ告白しようと思ってんだ。適当に、聞いてくんねぇか。ゼロにとっちゃ、触れたくない苦い記憶かもしれないけど……さ」
「ナンだよ、急に改まって」
 がしがしと髪を掻くゼロに、那由多は深呼吸する。
「お前が瘴気感染した時のこと。俺、あん時向けられたお前の刀の鋭利な様を、未だに良く覚えてんだ。その切っ先が、細かく震えてたのも含めて……」
 それから言葉を切り、ふっと表情を緩めた。
「あん時、“頑張って”くれて、ありがとな。お門違いかもだけど、なんかすげー無性に嬉しかったの。それをさ、言っとこうと思って……はい! こういう話おしまい!」
 照れを隠すように、べしんと力いっぱい那由多は広い背を叩く。
「今年も宜しく頼むぜ、親友っ」
「っ、この……こっちこそ、だぜ」
 叩かれたゼロは、ぶっきら棒で不器用な返事をした。

●正月風景
「餅米が蒸し上がりましたよ」
 たすきがけをした雪巳が湯気の立つ寿司桶を手に、声をかけた。
 臼に移した米をゼロは杵で馴染ませ、それを見ていた那由多が汀を突く。
「汀ちゃん、餅つきやろうよ。俺つく人、汀ちゃん返す人! これでどう? 激しく体力ないけど、一応オトコなので。頑張るので」
「うん、いいよ。こう見えて、家で餅つきは手伝ってるから!」
 誘われた汀は、遠慮なく腕まくりをし。
「重いぜ、無理すんなよ?」
「うるせー、見てろよっ」
 ニヤニヤしながら場所を譲るゼロに那由多が口を尖らせ、へっぴり腰で杵を持ち上げた。
「せーの、よいしょー!」
 ふらふらと振り下ろされる杵に掛け声をかけつつ、楽しげに汀はひょいひょい餅を返す。
「こっちは何とかなりそうだな。後は……」
 様子を見ていたキースは、その間にきな粉や餡など餅にあう物を細々と用意し始めた。
「料理は……他の人の方が上手そうだし、私も手伝うわ。そういえば、鏡餅はもう飾ってる? 折角だから、ついたお餅でそれっぽくしておきましょうか」
 餅箱に片栗粉を広げたりと、煌夜も準備を手伝う。
 一方で奏やリーディア、そして禾室はクリスマスプディングをアレンジしていた。
「スポンジを蒸しパンで思ったのじゃが、この手もあったんじゃのう」
 溶かしたチョコレートをかけながら、感心する禾室。
「けろりーなは、13さいになるですの〜。少しは大人にちかづいたかしら〜?」
 小首を傾げたケロリーナは、季節はずれな13個の苺を上に丸く並べる。
 餅がつき上がり、ケーキも出来上がった頃には、他の料理も揃っていた。

「折角のお正月、料理も和洋折衷の宝船じゃ!」
 窮屈ながら長屋の一室に十人は集い、それぞれに腕を振るった料理を囲む。
「口に合うといいんだけど……お酒も持ってきたよ。お汁粉と甘酒も、ね」
 合間に奏は白味噌の雑煮を作り、おせちと共に角樽入り祝酒や甘酒、汁粉を並べ。
「澄まし汁仕立ての具沢山なお雑煮もありますよ〜」
 好みを聞きながらリーディアは椀を盛り、賑やかに新年の宴が始まった。
「えと、ナンだ。俺からお年玉だぜ」
「……招き猫?」
 ゼロから招き猫を渡されたキースが、不思議そうにぽんと頭を叩く。
「福、招いてくれるようにな。それから……」
 残る顔ぶれに、ゼロは柘植の櫛を手渡した。
「そだ、私もお礼しなきゃ。これ、奏さんと那由多さんに!」
 改まった汀も、甘露梅酒を二人へ差し出す。
「もらっちゃって、いいの?」
「男の人に何がいいか、分かんなくて……こんなだけど」
 受け取った那由多に汀が口ごもり、奏はにっこり笑顔を返した。
「その気持ちだけでも嬉しいよ。ありがと」
「お年玉とお誕生日祝いと、兼用になってしまいますけれど……ケロリーナさんには、これを。これからの一年、良い年になりますように」
「じゃあ私からも、誕生日プレゼントを兼ねて」
 雪巳が桃一輪の耳飾りを、煌夜は包んだお年玉をケロリーナに贈った。
「わぁ、ありがとうですの〜! んとんと、みんなにお誕生日祝ってもらって、とってもしあわせですの〜」
 うるうると瞳を潤ませるケロリーナに、リーディアが湯呑みを取る。
「ケロリーナさんの誕生日と新年を祝って、乾杯ですね♪ ケロリーナさんが、皆さんが、幸多き一年を過ごせますよう……」
「ケーキであれば、飲み物はこれでどうじゃろうか?」
 自家製用珈琲一式を用意していた禾室が、コレを機会と腕によりをかけて珈琲を振る舞った。

「折角だし、餅とか焼こうぜ。七輪囲んで、団欒したいっつーか」
「おぅ。約束だからな」
 那由多と共にゼロはもらった七輪で餅を焼き、そこへ羽子板を手に奏が声をかけた。
「この後、たまには勝負してみるかい?」
「いいですね。その後は、初釜など如何でしょう?」
 雪巳が頷き、禾室もまた狸耳をぴこぴこうずうずさせる。
「これでもシノビの端くれ、甘く見て貰っては困るの! ゼロ殿や那由多殿にも、勝負を挑みたいのじゃ」
「おや、私も少し心得がありますよ。ふふ、覚悟して下さいね」
 禾室へ対抗するかの如く、雪巳も乗り気なところをみせ。
 香ばしい餅を焼く香りが漂う長屋に、わいわいと賑やかな声が弾んだ。