【浪志】学びて遊べ
マスター名:風華弓弦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/08 17:26



■オープニング本文

●私塾『清誠塾』にて
 神楽の都には多くの人々が行き交い、そして多くの人々が暮らしている。
 その一角に、近頃とみに賑やかな場所があった。
「しゅん、せい、じゅく‥‥寺子屋、か?」
 木の札に達筆な文字で描かれた名をゼロは読み上げ、小首を傾げる。
 中からは子供らの元気な声が漏れ聞こえてきて、首を傾げた姿勢のままゼロは上体も傾け。
「これは、珍しい御客人が。見学ですか、それとも入塾希望?」
 窺った門の奥から、眼鏡をかけた青年が気さくに返した。
「ち、ちげぇぜっ。通りがかったらナンか賑やかだったんで、足を止めただけで‥‥そういや、てめぇは確か‥‥」
 慌てて首を横に振って否定したゼロは、ふと相手の顔に思い当たる。そういえば、武州の合戦でも見た様な覚えが‥‥と、記憶を辿り。
「東堂、とかいう志士だったか」
「ゼロ殿に名を覚えていただいているとは、光栄ですね」
 意外そうな顔をした東堂・俊一は、にこやかに眼鏡の向こう側で目を細めた。
「もしよろしければ、覗いていかれればどうです? ああ、そうだ。折角ですし、子供達へ一つ御教授を願えませんでしょうか」
「へ? 待て。俺が、何を教えるって‥‥」
「書でも構いませんし、もちろん剣の指南でも良いですね。『清誠塾』では文武の両道を教えていますから」
 不意に予想だにしない事を頼まれて狼狽するゼロを、遠慮なく東堂が引っ張っていく。
「いや、俺は別に、何やってんのかと覗いてみただけで‥‥」
「ささ、よろしくお願いしますね」
 ごにょごにょと口の中でこねるゼロの説明にも、東堂はにこにこと様相を崩さず。
「奥方の為にも、今から子供に慣れておくのも必要でしょう」
「いや、待て。だから、そういう話じゃあなく‥‥人の話を聞け、てめぇ!?」
 うろたえながらも広い庭まで連れてこられると、庭に面した道場で歳も様々な子供達が机を並べていた。
 ちょうど、若い男が書を教えているところのようだったが。
「あっ、東堂先生だ!」
「東堂先生、今日はお出かけじゃなかったの?」
 私塾の主の姿に気付くと十数人子供達は席を立ち、わっと縁側へ駆け寄る。
 それから東堂に引っ張ってこられたゼロに気付くと、一様に首を傾げ。
「あれ、ゼロも‥‥塾に習いにきたとか?」
「俺は別に、何かを習いに来たわけじゃあねぇっ」
「ええ。今日はゼロ殿が先生をして下さるそうですよ」
 さらりと付け足す東堂に、否定したゼロが恨めしそうな視線を向けた。
「だーかーらー、俺は人にナンか教えるとか、性に合わねぇと何度‥‥!」
「高名なサムライ殿に御教授を頂けるとは‥‥子供達も幸せですね」
 訴える言葉をあっさりと受け流し、しみじみと頷く東堂。一方の子供達は、目を輝かせて取り囲み。
「じゃあ、ゼロが先生?」
「なにを教えてくれるの?」
「それはお楽しみに、ですね。という訳で、よろしくお願いします」
「いや、待てっ。だから、人の話を聞けと‥‥っ!」
 わいわいと子供らに囲まれたゼロの訴えも空しく、留守居役の塾生に後を任せた東堂は出かけていった。

 ‥‥ある意味で、後を押し付けた、とも言う。

   ○

 さて。東堂が私塾を留守にして、半時も過ぎぬ頃。
「んーなモン、やってられっかーっ!」
 清誠塾の庭から、痺れが切れたような声があがった。
「ゼ、ゼロ殿っ?」
 乱暴に墨が走る書が放り投げられ、舞い散る紙に留守居役がおろおろとする。
「かっちり正座して、習字を教えるなんざ、そもそも俺の柄じゃあねぇとっ」
「しかし、ですね‥‥」
 留守居役の青年とゼロのやり取りを、子供達は面白そうに眺め。
「やめだ、やめっ。外は秋晴れ、昼下がりだってのに、机にかじりついてる道理はないだろうが」
 筆を置いて立ち上がったゼロは大股でのしのしと縁側に出て、子供らに振り返った。
「せっかくだから、遊ぶぞ。ガキども」
「わーいっ」
「やったぁ!」
「あ、こらーっ」
「東堂先生に怒られるよー!」
 一緒になって飛び出す子供もいれば、筆を手に真面目で引きとめようとする子供もいて、手習いの場は一気に騒々しくなる。
「あのっ、遊びは、ちょっと‥‥ゼロ殿ーっ!?」
 既に声が届いていない相手に、留守居役は頭を抱えた。
 このままでは手習いを教えるどころか、遊んで暴れて庭の景観なんかも台無しにされそうな気がする。留守を預かった身としては、それだけは何としても阻止せねばならず。
「えぇと、だ、誰かーっ」
 場を治めてくれる助けを求め、留守居役の青年はわたわたと門へ駆けて行った。


■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
有栖川 那由多(ia0923
23歳・男・陰
七神蒼牙(ia1430
28歳・男・サ
劫光(ia9510
22歳・男・陰
リーディア(ia9818
21歳・女・巫
シア(ib1085
17歳・女・ジ
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
禾室(ib3232
13歳・女・シ


■リプレイ本文

●助け人
「誰かーっ。誰か、ゼロさんを止めてくれませんか!」
「危な‥‥っ」
 近くの家の門から飛び出す青年に、ちょうど茶の湯の帰りに通りすがった六条 雪巳(ia0179)はぶつかりかけた。
「す、すみませんっ」
「いえ。あの、ゼロさん‥‥どうかされたのです?」
 切羽詰った青年の様子とは逆に家からは賑やかな声が聞こえ、困り事ならこれも縁と雪巳は理由を問う。
「それが、その‥‥」
 事情を説明する青年と雪巳の周りで、面白そうに通行人達も急ぐ足を緩めた。

「ちょっ、一斉にたかるなー!」
 奥から抗議と、子供達の笑い声が弾ける。
「おやおや、賑やかだと思えば‥‥」
 案内された雪巳は、庭の光景に思わず微笑んだ。
 目立つ長躯がわいわいと子供達によじ登られ、見たような狸耳尻尾の少女も混じっている。
「てめぇ、ココに通ってるのか?」
「わしは間違えられたのじゃよーっ」
 ゼロに首根っこを掴まえられ、ぷらんとぶら下げられた禾室(ib3232)が手足尻尾をぢたばたさせて訴えた。
「話せば、長くなるのじゃが‥‥」

「今日の〜、ご飯は〜♪」
 機嫌よく鼻歌混じりな、お使いの途上。
「む、何やら騒がしいのじゃ。ここは寺子屋かの‥‥?」
 賑やかな声に足を止めた禾室は好奇心の命ずるまま、『清誠塾』の門の中へ首を突っ込んだ。
「おや。遅参はいかんなぁ」
 それに気付いた塾生らしい若い男が、覗き込む禾室へ声をかける。
「ってちょっと待つのじゃ、わしは寺子じゃないのじゃー!」
「はいはい」
 問答無用で奥へ通されれば、何の間違いかゼロが『先生』として子供達に紹介されていた。

「という訳なのじゃ! 後は面白そうだったので、そのまま参加してみたのじゃ。以上、解説終わり」
 ぶら下がったまま、禾室はゼロへ「えへん」と胸を張る。一方、縁側ではケロリーナ(ib2037)が物珍しげに私塾を見回していた。
「ふぁ‥‥ここが、俊一おじさまの塾ですのね☆」
「ケロリーナ達もゼロを何とかしてくれって、頼まれたのか?」
「ふぇ? ゼロおじさま??」
 声をかけた七神蒼牙(ia1430)に、きょとりとケロリーナは首を傾げる。
「けろりーなは、俊一おじさまの私塾に興味津々で訪ねましたの♪」
「そうなのか。また、なんかおもしれー事になってんなぁ‥‥ゼロの奴」
「でもな。いくらなんでも、半時とか持たないはねぇだろう」
 苦笑う劫光(ia9510)やシア(ib1085)は、蒼牙より一足先に巻き込まれたのだろう。
「半時?」
「お話から察するに、塾の先生役‥‥に、飽きられたのです? ゼロさん」
 怪訝そうな蒼牙が聞き返し、くすくす笑う雪巳も縁側へ腰を下ろす。
「ゼロさんらしいけど‥‥積極的に引き受けた訳でも、ないのよね?」
 詳しい事情は知らなかったのか、小首を傾げるシアが劫光へ確かめた。
「ああ。主人の東堂って奴に頼まれ、子供らに習字を教え始めて‥‥半時もせずに放り投げたんだとさ。らしいと言えばらしいが、仕方ねぇよなぁ」
 苦笑にも劫光は憎み切れない感を混ぜ、ゼロを眺める。
「東堂ッてー奴の事は知らんが、友人が困ってんなら助けてやるかねぇ?」
「むしろ、困ってるのは留守居役っぽいがな」
 蒼牙と劫光の会話に、「それはそれは」と雪巳も扇で綻ぶ口元を隠した。
「ただ遊ぶにしても、折角のお庭が荒れそうですね」
 子供らとゼロを見ていると、留守居役の気持ちも分からないでもない。
「ったく、こらえ性がねぇなぁ!」
 笑いを含んだからかいにゼロが顔を上げれば、ひょこりと有栖川 那由多(ia0923)が顔を覗かせる。
「ええっと‥‥。この度は、主人が大変ご迷惑を‥‥」
 その後ろではリーディア(ia9818)が恐縮する留守居役へ深々と頭を下げ、『夫の非礼』を詫びていた。
「てめぇらまで!? つか、ナンで詫び入れて‥‥!」
「一度、言ってみたかったのですよ」
 狼狽するゼロにリーディアがてへりと明かし、那由多もまたにやにや笑う。
「だいたいゼロが神楽で騒げば、長屋なんかにはすぐ話が飛んでくるって」
「はい。助けを求める声が聞こえたのでお邪魔してみたら、ゼロさんが騒動を引き起こしていましたので」
 白洲で証言をするが如くリーディアも神妙顔で明かし、なんだかんだと集まった顔ぶれにゼロが天を仰いだ。

●いざ外へ
「まぁ、事情は分かった‥‥という訳で、私塾の外で勉強するのはどうだろう? ゼロが『遊びに行くぞ』とか言った後じゃあ、取り消させるのも可哀想だ」
 既に遊んでいた気もするが、それは置いて劫光が留守居役へ切り出した。
「外に繰り出す気は、なかったんだが」
「でも、似たようなものよね。下手に私塾や庭を荒らしたら、もっと迷惑をかける事になるでしょ」
 きょとんとするゼロにシアが嘆息すれば、寺子に混ざっていた禾室も「そうじゃな」と否定せず。散らばった習字紙を拾い集めるリーディアが、くすくすと忍び笑った。
「残りたい子がいれば、残ればいいと思うがな。様子的にみて、キチンと座学やる子達は少ない気はするが」
「野原へ繰り出すのは良い案かもしれませんね。いかがでしょう?」
 ゼロと子供達の様子を眺める蒼牙に雪巳は頷き、茶を配る留守居役へ伺いを立てる。だが脇へ盆を置いた青年は、困り顔を返した。
「しかし‥‥仮にも、東堂先生より任された子供達です。かといって留守居は自分一人、ここを放っておく訳にも‥‥」
 仮に子供達へ同行すれば留守居の役は出来ず、留守居をすれば子供達の預かる者がいなくなる。あいにく私塾には彼以外の塾生も出払っていて、青年が渋るのももっともな事だった。
「それなら、問題無い様に俺らがついてくさ。任せろって。遅くならない内には戻すからよ」
「多少の事は、自己責任と思って諦めてもらわないと。そもそもゼロさんに先生役を頼んだのは、そちらよね?」
 保障する劫光に続いて、シアも更に駄目を押す。
「それは確かに、東堂先生がお願いされた事なのですが‥‥」
「外に行くのは賛成なのじゃ! 普段と違う事をするのも、また学びだと思うのじゃ‥‥それに塾も壊れぬし」
「今日はお外で授業しますの♪」
 口篭る留守居役に禾室も説得に加わり、ケロリーナが話をしていた子供達へ告げて外堀を埋めていた。
「どうしても子供達を外へ連れて行くしかないと、仰るのですか」
 肩を落とした留守居役が、大きく溜め息をつく。
 本当は私塾を守るため、遊び始めて手に負えないゼロをどうにかして欲しかったのだが。それは数人の開拓者が集まっても成し得ない、困難な事なのだろうと自分を納得させ。
「預かった子供達の監督を、私塾と関わりない方へお任せするのは不本意ですが」
 不承不承、折れた。

「ナンか、悪い事しちまったなぁ」
 髪を掻くゼロの隣を歩く那由多は、友人をごりごりと小突く。
「ゼロが教えるのを放り出して、遊び始めるからだろ」
「仕方ねぇだろ。てめぇなら、どーすんだよ」
「‥‥よし、遊ぶか!」
「この、はぐらかしやがったなっ!」
 誤魔化して子供達に混ざる那由多を、ゼロが追っかけた。
 面白そうにそれを見る蒼牙だが、ふと我が身を振り返って苦笑を浮かべる。
「俺もあまりゼロの事は笑えねぇか。ちまちました習字とか、その他もろもろの座学芸事は、昔から苦手だったからなぁ」
「おや。随分と勉強嫌いの方が多いのですね」
 冗談めかした雪巳は、横道へそれたり遅れる子が出ないようにと、子供達の列の後ろを歩いていた。
「ところで禾室さんは確か、寺子に間違われたんですよね?」
「その事なら折角の機会じゃし、わしはこのまま寺子として参加してみたいのじゃ。寺子屋は行った事が無かったので、わくわくするのじゃ!」
 うずうずする狸尻尾に、雪巳もまたくすりと笑む。嬉しそうといえばケロリーナも束ねた髪を弾ませ、四角く平たい包みを提げた劫光が歩調を合わせる。
「何だか、いつもより楽しそうだな」
「えへへ〜♪ 今回はちょっと、お姉さんですの♪」
「そういや、小さい子ばかりか」
 依頼だと年上が多いケロリーナにとって『先生役』は新鮮だろうと、劫光は納得した。
「けろりーなが教えられるとしたら、礼法とか茶道とか‥‥あとは、お裁縫も教えられるですの」
「茶道は、お菓子も出るかの?」
 出来そうな事をケロリーナが指折り数え、禾室がくりくりした瞳を輝かせる。
「でしたら、リーディアおねえさまがお料理する時に‥‥そういえば、よく考えましたらゼロおじさまは『おぼっちゃま育ち』でしたの。一度初心に帰って、子供達と一緒に綺麗な言葉遣いをしてほしい気もするですの」
 言いかけて思い当たったケロリーナが、わくわくと期待の眼差しを先を歩く相手へ向けた。
「おぼっちゃま‥‥とか聞こえたが」
 耳に届いていたのか、ひょいとゼロが肩越しに後ろを見やる。
「俺は何処ぞの大店の跡取りなどではない故、斯様な物言いはせぬ。ジルベリア辺りではそれが流儀かもしれぬが、それを我が身に望もうとするは、それこそお門違いというものであろう?」
「‥‥ぷふっ」
 振り返ったゼロの台詞に、思わず那由多が吹き出した。
「てめぇ、笑うんじゃねぇっ」
「だって急に、そんな口の利き方するからさ」
「うっせ。そも、後ろの方でごにょごにょ言いやがるから‥‥」
「でもゼロさんの喋り方、ちょっと新鮮でしたよ」
 ゼロの背を微笑むリーディアがぽふぽふと叩き、「だそうよ」とシアがケロリーナへ肩を竦める。
 そうして賑やかに歩く一行は、私塾に近い野っ原へ辿り着いた。

●野にて学び
「これ、何か知ってるか?」
 片手の符「幻影」を那由多が逆の手で隠し、次の瞬間には白い胸と緑がかった背を持つ小鳥を出してみせる。
「わぁっ!」
「えっと、メジロ?」
 現われた小鳥に目を丸くした子供達が、口々に答え。
「当たり。えらいな、よくしってるな」
 頭を撫でて褒めてやれば、子供達は照れくさそうに笑った。
「にーちゃん、どうやってソレ出してるの?」
「それは俺が式を操る陰陽師だからさ。陰陽師ってなぁ、胡散臭いだけじゃないんだぞ?」
 教える那由多を囲む子供達を、茣蓙へ座った雪巳はにこやかに見守る。そこへ数本の草や花を摘んだ女の子達が、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「このお花、薬草かな?」
「では、探してみましょうか」
 野草図鑑を開いた雪巳を子供達が囲み、一緒に頁を覗き込む。囲む輪に混ざっていた禾室は、摘んだ草をじーっと見。
「それよりこうする方が、手っ取り早く分かりそうじゃ」
「あの、禾室さん!?」
 突然ぱっくりと草を食べる禾室に、慌てる雪巳。だがすぐに禾室は顔をしかめ、ぺっぺと吐き出した。
「苦くて、食べられないのじゃ」
「むやみに食べると、お腹を壊しますからね」
 安堵した雪巳は言い含めてから、子供達と薬草探しに戻る。

「教わってるのは算盤と読み書きなのね。じゃあ、この字を書いた紙を探してくれるかな?」
 読み仮名を書いた紙を、シアは相手をする子供達へ見せた。彼女は先に漢字の紙を隠し、それを子供達に宝探しの要領で探させている。見つけて持ってくる紙は、必ずしも正解でない物もあるが。
 紙を探す子供らとシアの間を、一匹の秋茜がすぃと横切った。
 秋茜は夕食の買い物メモを書くリーディアと、傍らに座るゼロの元へ飛び。彼の頭にひょいと止まる。
「よし。あの赤トンボ捕まえたら、美味い菓子やるぞ」
「ホント!?」
「よーしっ」
 指差した那由多の言葉に、子供達がワッと駆け出した。
「へ‥‥こら、ちっと待て!」
 子供達の『襲撃』にゼロは立ち上がり、式の秋茜は頭上をくるくる飛ぶ。よく分からないまま逃げるゼロと追いかける子供達を、けしかけた那由多は笑って眺めた。
「てめぇ、ナンか仕掛けやがったか!?」
「フツーに勉強してたんじゃ、つまんねぇもん。たまには、趣向が違うのもいいだろ?」
「どんな勉強だっ」
 気付いたゼロが那由多へ抗議する間も子供達は服を引っ張り、しゃがめだのなんだの文句をつける。
「あらあら。ゼロさん、人気ですねぇ」
「そういう問題でもねぇっ」
 ほのぼのと笑うリーディアに、子供達にたかられるゼロが口を尖らせた。

「そういえば、私塾じゃあ剣術も教えてるらしいが。ゼロは教えないのか?」
 持ってきた絵草紙を読み聞かせていた劫光が、やっと開放されたゼロへ聞く。
「俺は教える柄じゃあねぇぜ」
「それなら俺らで試合とかして見せた後、やりたい奴の剣の相手してやれば良い感じだろ」
 嬉々として蒼牙が提案するが、むすっとゼロは顔をしかめ。
「木刀とか竹刀も持ってきてねぇし、真剣でやる気かよ」
「あ〜、そうか」
「私塾の道場なら、あっただろうにな」
 呻く蒼牙に、すっかり失念していた劫光も苦笑した。
「劫光やゼロと手合わせが出来ると、思ったんだが」
 留守居の件といい、気が回ってないなぁと嘆息する蒼牙。
「言っとくが、真剣で俺に手加減を期待するなよ」
「え〜っ。ついでに俺にも教えろよ、ゼロ! 最低限の護身用しか扱えねぇのにっ」
 釘を刺すゼロに、那由多が頬を膨らませる。
「腕力も体力もねぇから相手になんねえけど、ちゃんばら「ごっこ」くらいは楽しめそうだと思ったのに」
「さてはてめぇ、力加減ナシで全力で打ちかかってくるクチだな!?」
 てしてし膝を叩いて抗議する那由多に、うがうがとゼロが唸った。

「それじゃあ、夕飯の買い物へ行きましょうか」
 秋の日暮れは、早い。料理の時間も計算し、夕暮れ前にリーディアが切り出した。
「メニューはサーモンのマリネにホワイトソースのハンバーグ、野菜多めのボルシチ、そして御飯。今回は、ご覧の品を教えていきますよっ」
 聞き慣れぬ料理の名前に子供達は首を傾げ、ゼロが苦笑する。
「ジルベリアの料理とか、あそこで作れるのか?」
「ハンバーグはフライパンが必要ですが、ボルシチは天儀の鍋でも十分使えるのですっ」
 思案するゼロの腕に、説明しながらリーディアは手をかけた。
「それでは荷物持ちにゼロさんをお借りして、買い出しにゴーです! 後で材料とレシピも書いておきますので、覚えきれなかったら見てくださいな」
「私も、教えてもらっていいですか?」
「勿論ですっ」
 訊ねる雪巳に、リーディアは満面の笑みで答え。
「なら、わしは拘りの3色おむすびを作るのじゃ。わしのおむすびは美味いぞー」
 何かを忘れている気がしながら、禾室もわくわくと続く。
「‥‥子供が出来たら、こんな風に賑やかに過ごすのかしら?」
 何気なくリーディアはちらと夫を見上げ、逆側から那由多が肘で友人を小突いた。
「お前もいつか、子をもうけて、こんな騒がしくて幸せな毎日を過ごすんだろうな‥‥子供には、苦労させんなよ」
「てっ、てめぇら、気が早ぇんだよ!」
 赤くなってうろたえるゼロに、にっと那由多が笑う。
「一緒になって夕方まで遊んで、くたくたになったら飯食って。いいよな、今は望んでも得られない日常だ」
「そうだな」
 遠い感慨を覚える者達は、子供らに囲まれて市場へ向かった。