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■オープニング本文 ●留守居看病 「本当に頼んでいいのか?」 心配そうに尋ねる崎倉 禅(さきくら・ぜん)に、笑顔で桂木 汀(かつらぎ・みぎわ)が大きく頷いた。 「実家じゃ、ちっちゃい弟とか妹の面倒もみてたもん。だから崎倉さん、安心していいよ」 背をそらし、張った胸を拳でどんと叩く汀の仕種に崎倉も笑って首肯する。 それから敷いた布団の傍らへ膝をつくと、額に濡れ手拭いをのせたサラの顔を覗き込んだ。 「行ってくるからな。出来るだけ早く、戻ってくる」 頬の赤い少女は、無言のまま少し開いた瞳でじーっと崎倉を見た末に、「けふけふ」と小さく咳をする。 三寒四温で春はやってくるというが、ここ数日続いた寒暖の差でサラは風邪を引いていた。 最初に出た熱も既に下がっているが、崎倉は受けた依頼で神楽の都を離れなければならず。 残しては一人の病床が心細かろうと、一番手近で暇そうな汀を呼んでいた。 「ももふ〜」 脇にいた藍色の仔もふらさまが、任せろとばかりに尾をふりふり振り。 「分かった。お前も頼んだからな」 ぽんともふもふの頭に手を置いてから、崎倉は立ち上がる。 「戻りには、二日ほどかかるだろう。ずっと付きっ切りも大変だろうし、ギルドの方にも手伝いを頼む旨を出しておくから、無理はするな」 「あたしはいいけど、早く戻ってきてよ。サラちゃんが寂しがるからっ」 「ああ。では、後は頼んだ」 「いってらっしゃい〜っ」 依頼の為に出立する崎倉の背を、看病を頼まれた汀は手を振り見送った。 「とはいえ‥‥やっぱり、心細いよね」 ちょっと考えた汀は持ってきた『お泊り荷物』から筆やら絵の具を取り出し、それから横長の紙を畳の上へ広げる。 「春がきて温かくなったら、サラちゃんの風邪もすぐ良くなるよ。部屋に早く春が来るよう、春の花で部屋をいっぱいにしてあげるね」 菜の花にタンポポ、梅桃桜。 どの花から描くのか考えながら、誰か手伝いが来るまでの手遊びにと汀は筆を取った。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
有栖川 那由多(ia0923)
23歳・男・陰
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
アグネス・ユーリ(ib0058)
23歳・女・吟
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●見舞い路 「春は名のみの、風の寒さ‥‥ですね」 ゆるゆる歩く六条 雪巳(ia0179)が、まだ冷たい風にほぅと息を吐いた。 「今年の春は、随分とのんびり屋さんのようです」 「それでも、ジルベリアに比べれば温かいもんだわ」 くすりとアグネス・ユーリ(ib0058)が笑い、癖のある黒髪を軽く手で押さえる。 「確かに、ジルベリアは‥‥ですが何処にでも、春はいずれ来るものですから」 感慨深げな雪巳に、後から続く水月(ia2566)も表情を和らげた。 「風に冬の名残りがあっても、ちゃんと春が傍まで来ているんですね」 梅の花は終わりも近いが、次の桃や桜が蕾を膨らませている。 「ところで、長屋への道は合ってるのか?」 ちょっと心配そうに聞くのは、緋那岐(ib5664)。名だけは小耳に挟んでいたが、実際に足を運んだ事はない。 「大丈夫よ。何度か行った事、あるから」 顔見知りの多いアグネスが、にっこりと保障した。 やがて角を折れて木戸を抜けると、何の変哲もない長屋の風景が広がる。 「へー。ここが噂の、開拓者長屋か」 それでも緋那岐は物珍しそうに、久し振りに足を運んだ水月も変わりない光景を眺めた。 「案外、落ち着いているかもな」 「お、来たな。こっちだ」 緋那岐が見回していると、奥より鬼灯 仄(ia1257)が四人へ手招きをした。 「禅さんと一緒にいないサラちゃんって、あるべきものがない感じで落ち着かないわね‥‥」 火鉢の炭を整えながら、煌夜(ia9065)が苦笑する。 「冷たい気もするけれど、仕事じゃ仕方ない、か」 「依頼によっては断るのも難しいだろうし、無理に連れて行くのもな‥‥というか、俺もこんな状態で面目ないんだが」 申し訳なさげに髪を掻くキース・グレイン(ia1248)の腕や足には、新しい包帯が目立つ。先の依頼で怪我を負った彼女に、冗談めかして煌夜が肩を竦めた。 「病人怪我人が二人に増えても、大して変わりはないわよ」 「そう言って貰えると、有難い。療養するにしても、環境自体は大して変わらんからな。自室で安静にしているのも、退屈なだけだ」 「そうよね。ともあれ、禅さんが‥‥わざわざお金を出して人を集めた事が、むしろサラちゃんの事をどれだけ大事にしてるかの証と思って、しっかりお世話させてもらいましょうか」 「こんにちは‥‥サラちゃん、風邪ひいたって?」 カラリと戸が開き、最近長屋へ戻った有栖川 那由多(ia0923)がそっと顔を出す。 「ったく、水臭いじゃん。もっと早く呼んでくれたらよかったのに」 提げた風呂敷を板間に置き、買い込んだ茶菓子や果物を取り出す那由多へキースが小さく笑う。 「流石に、近所の者が多いな。那由多も依頼を見たのか?」 「ん、見た。直接深い縁ではなくとも、世話になった人の大切な人達だからさ」 ここは一つ、自分に出来る事を‥‥そんな思いで、那由多はサラの看病役を買って出ていた。 「よ、助っ人が到着したぞ。全く、しょうがねぇとーちゃんだな」 そこへ仄が四人を連れて現れ、奥のサラへ呼びかけた。 「えっと、よろしくお願いします‥‥」 尻すぼみになる挨拶をしながら、住人一同へ水月がぺこりと頭を下げ。 「へぇ、中はこんな感じか‥‥あ、なにせ神楽にきてまだ日も浅いもんで、知らない事も多くてさ。まぁ、よろしく」 続いて緋那岐もまた、気安い挨拶をした。 「女の子達の荷物は、私の部屋へ置いていいわよ。ついでに、仮眠用にしてね。男性は隣の空き部屋に」 煌夜が手際よく段取りを決める間に、那由多は膝で部屋へ上がり。 「さて‥‥汀さーん?」 「みょえ!?」 むぎゅりと那由多が頬をつねれば、桂木 汀が奇声をあげる。 「皆、来たよ」 「はぅ、ひゃいっ」 すっかり絵に没頭していた汀は、頬をむぎゅられたまま返事をした。 ●小さな病人 「はじめまして、サラ。踊り子アグネスよ。仔もふらさまも、よろしくね」 膝の上の仔もふらをもっふりもふりながらアグネスが話し掛ければ、顔を半分まで掛け布団を引き上げたサラはおどおどと視線を返す。 「汀さん、お久しぶりです。サラさんと仔もふらさまは、初めまして‥‥でしょうか。しばらくの間、よろしくお願いいたしますね」 挨拶をした雪巳も、小首を傾げる様に床の少女と視線を合わせた。 「大人でも体調を崩す方がいますもの、小さな子では尚更でしょう。暖かくして美味しいものを食べて、早く元気になれると良いですね」 声をかけても打ち解ける様子がない少女に、アグネスは仔もふらを見やる。 「人見知りも、可愛らしいわよね」 「もふ〜」 「可愛いかもしれないけど‥‥そのもふらは、放さないで下さいね」 微笑ましげなアグネスとは逆に、隅っこで警戒する緋那岐。それでも「お見舞いに」ともふらクッキーを焼いて持ってきたのは、彼なりの心遣いだろう。 「わぁ、凄いですね!」 「これくらいなら、大丈夫‥‥もふらぬいは駄目だけどっ」 喜ぶ汀へぼやく主の足元では、忍犬 疾風がくるんと巻いた尾を左右に揺らしていた。 「俺がこいつの相手をしてやるから、大丈夫だ」 積極的に立ち動けないキースが、苦笑しながら仔もふらの頭を撫でる。 「えっと‥‥」 サラの傍らで水月は言葉を切り出せずに、もじもじと迷い。 「今日は、ありがとうございますねっ」 「‥‥いえ」 明るく汀に礼を告げられ、小さく頭を下げた。 「崎倉も、大そうだよな。風邪なんぞ、メシ食って寝てれば治るだろ」 軽く笑いながら仄は土鍋の蓋を取り、鶏肉と柚子で香り付けした雑炊の味を確かめる。 「いい匂いですね」 漂う香りに雪巳が呟き、水月もほっこり笑んで頷いた。 「ちょっとでも、寂しさがまぎれてくれると‥‥良いのですけど‥‥」 いつも一緒にいる人が傍にいない寂しさ、ましてや体調が悪い時なら尚更‥‥それを思いながら、水月は小さく仔もふらへ呟く。 「もふふ〜」 用意してきた手作りクッキーを恐る恐る差し出せば、嬉しそうにぱっくりと食べ。もふもふと気に入った様子にほっとする。 「昼飯が出来たぞ」 「あ、私が運びます‥‥!」 声をかける仄へ、思わず水月が立ち上がる。 「熱いから気をつけて」 「はいっ」 煌夜に手渡され、緊張気味に膳を運ぶ水月。緊張して緋那岐は仔もふらを目で追うが、代わりにキースが構ってやった。 「看病‥‥あの頃、年が近いといえば、俺くらいだったしな。かなり寂しい思いをしていたっけ‥‥ま、そん時からもふらはいたけどな」 ふとそんな事を思い出しながら、その時はもふらも平気だったのにと緋那岐は嘆息ひとつ。 「大丈夫です?」 「あ、うん。俺の事は、気にしなくていいから」 黄昏ているのが気になったか気遣う煌夜に、慌てて緋那岐は首を横に振った。 「仄さん、料理出来るんだ‥‥」 「一人分は面倒だけどな」 意外そうな顔の那由多と並んで、林檎を仄は細工切りにする。兎を作れば、那由多も偶然に兎を並べ。ソレを見た仄が今度は細かく小刀を使い、蝶の形を作った。 「わ‥‥う〜んっ」 窮する那由多に仄はにんまりと口の端を上げ、横から見ていたアグネスもころころ笑う。 「器用よね、仄って。ゼロ達の指輪も作ったり」 「そうなんだ」 「美人に褒められると、嬉しいねぇ」 素直に感心する那由多と、遠慮なく悦に入る仄にくすと雪巳が笑み。 「肩を冷やさないよう、羽織っているとよいですよ」 食事の為に身を起こすサラへ、半纏をかけてやった。 「美味しいね、これ!」 ぱくりと雑炊を食べた汀が、はしゃぐ。 作り分けるのも面倒と、看病に来た者達はサラが寂しくないよう囲みながら、皆で雑炊を食べていた。 ゆっくりと匙を動かすサラに、那由多はほっとして。 「えっと‥‥甘いもん、食べる?」 食べ終わる頃を見計らい、男二人で切った林檎の皿を傍らへ置いてやった。 どう答えるか迷う様に、サラは兎型の林檎と那由多をじっと見比べる。 「礼とか、気にするなよ。体が弱ると自然と心の方も弱っちまうもんだ。こう言う時は、身近な人に甘えとこうぜ。‥‥俺が相手じゃ、頼りになんないだろうけどさ?」 にっと笑ってやれば手をそっと伸ばし、兎の一つをしゃくりと食べ。どきどきと見守っていた那由多は、ほっと胸を撫で下ろした。 「崎倉センセとサラちゃんて、何時から一緒なんだろ?」 その出会いに好奇心が沸いて呟くが、サラに応じる様子はなく。 「あたしもよく知らないけど、かなり前から一緒みたい」 ふぅふぅと雑炊を吹きながら、汀が答える。 「食べ終わった器は、まとめて私の部屋で洗ってくるわね」 「それくらいなら、俺も手伝おう。何もしないのも落ち着かないからな」 自分の部屋から食器を持ってきた煌夜が声をかければ、切った林檎を食べながらキースも手伝いを申し出た。 「ところで、やけに熱心だったが何を描いてたんだ?」 自分でも林檎を口へ放り込み、仄が汀へ聞く。 「本物の花はまだ少し早いから、絵の花を飾ろうかなって。サラちゃんが、早く元気になるように」 「ほぅ」 「花の絵で部屋を飾る、か。いいわね」 尋ねた仄は興味を示し、煌夜もまた感心した様に頷いた。 「なぁなぁ。俺、横で見てても良い?」 「それなら那由多さんも描けばいいよ、折角だもん!」 「え、いや、俺は‥‥見てるだけで、うん」 満面の笑みで誘う汀の勢いに、那由多は視線を泳がせる。 「それに、汀さんがまた没頭し過ぎたら、呼び戻さないとな」 「そっ、それを言われると‥‥っ」 むぐむぐと汀は言葉に詰まり、思わず雪巳も袖で口元を隠しながら肩を震わせた。 煌夜やキース、そして仔もふらから離れられるとほっとした緋那岐が食事の後片付けをする間に、部屋では巻紙が広げられ、折り紙や千代紙が並べられた。 「あ、折り紙‥‥あたし、これ折り方知らないのよ。サラ、出来る? 教えてくれない?」 カラフルな紙を手にアグネスが聞くも、再び横になったサラはじっと視線を返すだけで。 「アグネスさん、俺でよければ教えるよ」 代わりに、絵を描く様子を眺めていた那由多が声をかける。 「いいかな。目標、鶴‥‥なんだけど」 「鶴か。じゃあ、最初にココを‥‥」 「‥‥結構難しい、のね」 うぐと唸りながら、那由多の手本を参考に彼女は紙を折った。 「この花の絵‥‥君が描いたの? 素敵だね。一足先に、ここだけ春が来たようだ」 主が苦戦する間に人妖 エレンが菜の花やタンポポの絵に興味を示し、汀が「えへへ」と照れ笑う。 「‥‥良い子、だよな」 隣のやり取りに、ふっと那由多が呟き。 「ん。そうよね」 「人が作り出すものって、大抵その人の心の鑑だろ。音楽は音色、陰陽師ならシキだとか‥‥全部根っこは同じもんで。きっと、彼女は人が明るくなるような絵を描くんだろうな」 漠とした印象に、アグネスも笑って頷いた。 「こちらも負けず、一足早く春を招くように、紙いっぱいに色とりどりの花を描きましょうか‥‥あ。仔もふらさま、少し足をお借りしても?」 千代紙を使い、ちぎり絵の要領で紙の上に花を咲かせていた雪巳が、仔もふらをひょいと抱き。 その足の裏に、ちょいちょいと絵の具を塗って、ぽぽぽんと紙へ足形を押す。 「ふふ。これはこれで、綺麗なお花畑‥‥ですかね」 一方の仄は、火の点いてない煙管をピコピコ咥え。思いつくまま気の向くまま、汀から借りた絵筆を遊ばせる。 「仄さんは、なに描いてるんです?」 「ああ。適当だ、適当」 汀に答える仄が描くのは、猫やら風景やらを適当に。 賑やかな様子を見守っていた水月は、ふとサラの額へ手を当てる。 「熱は、ないですか‥‥みかんを買ってきましたから、後で焼きみかんにしますね」 「‥‥」 幾らか緊張が和らいだのか、布団の中でサラは微かに頷いた。 ●お泊り会 「はい、着替えて寝かせるから。男子は隣、ね」 「もふらがいないのなら、安心できるな」 夕食の後。びしと戸を指差すアグネスに、緋那岐を始めとした男三人は外へ出て。 「お、どうした?」 なに食わぬ顔で一服していた仄も、アグネスは容赦なく押し出した。 「よ。具合、どうだ。落ち着いたなら、引っ掛けるか?」 『古巣』の前では、ゼロがひょいと差し入れの酒を挙げる。「どうせなら来いよ」と、那由多に呼び出されたらしい。 「結婚生活、どんな良いもんか教えろよゼロっ」 「てめぇ、冷やかすんじゃあねぇっ」 肩を組んでからかう那由多にゼロが焦り、仮眠を取っていた煌夜は様子を見守るアグネスの背をぽんと叩いた。 「サラちゃんが寝る頃に、声をかけるわ。私は寝かせてもらったしね」 「じゃあ、少し話をしたら戻るわ。あんたも呼ぼうと思ってたのよ、ゼロ」 気遣いへ礼を言うと、アグネスは顔見知り達の輪へ混ざった。 汗ばんだ身体を拭き、綺麗な寝衣に着替えたサラは、雪巳が持ってきた生姜のはちみつ漬けのお湯割りを飲む。 「キースさんも、早めに寝る事。サラちゃんは私が見てるから」 「大人しく、しているか」 煌夜に声をかけられ、髪を掻いてキースが苦笑する。 「こういう時、の定番はねー‥‥枕投げ? は止めとこうね。ってなると‥‥恋バナ?」 「期待に添えなくて残念だが、俺には縁のない話だ」 隣室から戻ってきたアグネスの提案に、キースは素っ気なく。 「う〜ん、仕方ないか。サラの話‥‥も、難しそうだし」 くすくす笑って、アグネスは横になったサラの顔を覗き込んだ。 「すぐにあったかくなるもの。風邪なんて何処かへ行っちゃうわ、きっと。そしたら、今度は外で遊ぼうね♪ その時は踊るし、みんなと合奏もしたいな」 そうして少女と皆に良い夢が訪れますようにと、春を待つ歌を子守唄に歌う。 「 ひとやすみ 目を覚ましたら あたたかい 春の光が射すでしょう すみれ たんぽぽ ほとけのざ たくさんの 花の笑顔に会うでしょう 」 主に合わせて、人妖が楽をゆったりと奏で。 歌を繰り返すうちに覚えたのか、厚くない壁の向こうから声が重なる。 壁に背を預けた雪巳は、密やかに‥‥少女の快復と、春の訪れを願い。 サラの寝床と並べて布団を敷いた水月は、じっと子守唄へ耳を傾けた。 「この長屋は‥‥楽しい場所、ですね‥‥」 「うん。皆いい人ばっかりで、賑やかだもんね」 楽しげな汀の返事を聞きながら、うとうとし始めたサラにつられて水月も目を閉じる。 穏やかに更けていく夜を、長火鉢の傍らで煌夜はじっと見守っていた。 「えらく賑やか、だな」 気がかりだったのか、早朝に戻った崎倉 禅は皆が寝入って静かな部屋を見回す。 部屋の壁には花や風景の絵が飾られ、折り紙の鶴が群れを作ってぶら下がり、一足早い春の気配に彩られていた。 「雪巳さんや仄さん達が、描いたのよ」 夜中にサラが起きても寂しくないよう、夜通し起きていた煌夜が茶を淹れる。 「サラちゃんの為に、本物の花でも飾ってみたら?」 「そうするか。これは、大した物でもないが」 煌夜の助言に崎倉は苦笑いながら、留守を頼んだ者達への土産だと小豆桜餅を手渡した。 |