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■オープニング本文 ●雪の峠越え 一天、にわかにかき曇り‥‥正にそんな感の空模様だった。 白っぽい青空が鉛色の雲に塗り潰され、吹き付ける風が増し、積もった雪が巻き上がる。 やがて空からも雪が降り始め、進むべき街道も見え辛くなった。 「‥‥あそこに、庵があるな」 目を凝らした崎倉 禅が、行く手に見えたそれらしき小屋を示す。 「使えるかどうかは分からないが、吹雪を凌ぐくらいは出来るだろう」 「も〜ふ〜」 崎倉が歩いて踏み固めた後をついていた藍色の仔もふらさまが、ぷるぷると身を震わせて、身体に積もった雪を振り落とした。 「お前も、真っ白なもふらさまでなくてよかったな。白かったら、飛ばされても分からないかもしれん」 「もふしゅっん」 冗談を言う崎倉に、仔もふらさまはぷしっと一つクシャミをすると。 その背に負ぶわれて首にしがみつくサラもまた、続いてくしゃんとクシャミをした。 「寒いか‥‥もう少しの辛抱だからな」 あやすように崎倉は背中の少女を担ぎ直し、雪の中を急ぐ。 ‥‥峠向こうの村に住む親へ、手紙を運んで欲しい。 旅の足を休めた麓の町で、痩せぎすの若い男から崎倉が頼まれごとを持ちかけられたのは昼食時の事。 手紙の中身は幾ばくかの金で、町の商人の下男である自分は休みが取れず、渡しに行けぬ為、もしついでがあれば頼みたいと言う。 冬の空はよく晴れ、向かう峠も雪化粧をしていたが雲はなく。 距離的にどこかで一泊する必要はあるだろうが、ちょうど通る道でもあり、ついでならば難しくもないと、崎倉も僅かな路銀で頼みを引き受けた。 ただ一言「あそこには『雪女』が出るという噂もありますから、道中お気をつけて」という、男の忠告は気になったが。 庵は峠を越える旅客がそれなりに使うのか、思ったより小奇麗でしっかりとした作りだった。 戸や窓の立て付けも悪くなく、風が吹けば多少の音はするが、吹き飛ばされる程でもない。 土間には薪が積まれ、囲炉裏の灰は綺麗で、床も抜けそうな場所はない。 サラを降ろした崎倉はまず囲炉裏に薪を組み、火打石を取り出して火を入れた。 「後は、火鉢があればいいんだが‥‥」 庵をアチコチ探してはみたものの、薄い布団は数枚あったが火鉢の類はなく。 ともあれ囲炉裏の傍にいれば凍える事だけはないだろうと、崎倉も諦めた。 「そろそろ、日が暮れる頃か‥‥夜明けには、雪も止んでくれているといいが」 冷えた手足を火にかざすサラの髪を拭いてやりながら、小さく男はぼやき。 そして‥‥戸を叩く音がトントンと、吹き付ける風に紛れて夜の庵に響いた。 |
■参加者一覧
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
ネネ(ib0892)
15歳・女・陰
葛籠・遊生(ib5458)
23歳・女・砲
春吹 桜花(ib5775)
17歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●惑い雪に、男二人 次第に強くなってきた冷たい風と共に、雪が容赦なく吹きつける。 「ぶぇっくしょ〜い! てやんでぇべらぼうめ」 クシャミの後に悪態をつきながら、ぐずる鼻の下を喪越(ia1670)はぐいと擦った。 「美女がいるってんで逢いに来たら、凍死寸前になっちまうたぁどういうこったい!?」 「それは、こっちが聞きたいもんだ」 いささかウンザリ気味に呻いたのは、隣を歩く鬼灯 仄(ia1257)。 ろくに道も分からない状況で、聞き覚えのある者の声を頼りにしてみれば、残念ながら相手も同じ様に遭難していたという有様で。 「この雪の中で、男と遭難するのだけは遠慮したいんだが」 「はっはー、奇遇だな。こっちも激しく、神サマにお断りしたいぜ!」 如何なる縁か分からないが、当分は遭難出来なさそうな野郎二人だった。 「とはいえ、さすがにキツいな。どこか、雪をしのぐ場所はないもんか」 「‥‥うん、まぁ、雪女だっつってたしなぁ。だが、この程度で俺の熱いパッションを消せると思うなよ? 美女の為なら火の中水の中、雪の中! どこへだって――ぃえっくし!」 喪越の盛大なクシャミも、既に何度目か分からない。 それがアヤカシでも美女と聞けば、例え火の中水の中‥‥な勢いで、雪の中で往生しているのは誰だという話は置いといて。 「お、あそこに明かりが見えるな」 暗い夜の中、白い雪が照り返す薄ぼんやりとした光を見つけた仄が、手で風を遮りながら目を細めた。 「あれが町で聞いた、峠の庵かねぇ」 「仕方ねぇ‥‥美女には待ってもらって、ちょいとそこに避難するかぁ」 でなきゃあ鼻水まで氷柱になるとばかりに、ずびーっと喪越は鼻をすする。 「どの道、雪景色のド真ん中で天幕張るしかないと思ってたんで、ちゃんとした建物は有難ぇな」 「実は、雪女の家かもしれんが」 仄は笑いながら、雪を踏みしめて歩く喪越の後ろに続いた。 「‥‥か弱い陰陽師を、雪除けにするかぁ!?」 「細かい事ぁ、気にするな」 やいのやいのと言い合いながら庵まで辿り着き、おもむろに仄がトントンと叩くも戸は開く気配がない。 喪越と顔を見合わせた後、再び拳を握り、今度は力を込めてドンドンと叩き。 どざばざぼざーッ!! 「のをぉっ!?」 「うごぁーッ!」 落下する白い塊に、あられもない野太い悲鳴があがった。 ●雪しのぎ 「何? まさか、雪女!?」 突然、外から聞こえてきた大きな音に、驚いた葛籠・遊生(ib5458)の尻尾がピンと立って警戒する。 「えっと‥‥調べてみましょうか?」 囲炉裏端へ手袋や外套を並べていたネネ(ib0892)が手を止め、緩やかに波打つ黒髪を揺らした。 「様子なら俺が見よう。二人とも、まだ冷えているだろうからな」 ここにいろよと傍らのサラの頭を撫でてから、崎倉 禅が腰を上げる。 雪のせいか、重くなった引き戸をガラリと開けば。 ごろんごろんと雪崩れる様に、土間へ転がり込む雪の大玉が二つ。 腰の刀へ崎倉が手をやり、座敷の二人もサッと身構えて。 「出た、雪おん‥‥って、雪、おとこ?」 きょとんと遊生が赤い瞳を瞬かせ、吹き込む風と雪に崎倉は急いで戸を閉めた。 「大丈夫、ですか‥‥?」 「その、白い肌と黒い髪‥‥」 近付き、声をかけたネネの白く細い手を、ぬっと雪の中から伸びた手が掴み。 「あのっ?」 「雪おん‥‥雪ん子!?」 「雪男、成敗ーッ!」 ぼふんっ! 驚くネネの脇から、握り固めた雪を遊生が力一杯ぶつけた‥‥『雪男』の顔面に。 「おーい‥‥」 じたじたともがく『雪男』へ、やはり埋もれていた雪から抜けた仄が声をかける。 「死んでたら返事をしろ、喪越」 もご、もごもごごごご。 「なんだ、生きてるか」 「で、どうしたんだ」 ニヤニヤ笑いながら雪を払う仄へ、開拓者長屋の顔見知りが事情を聞いた。 「ああ、見ての通り‥‥屋根の雪が雪崩れてきて、妖怪雪だるま状態だ」 「なんだ。雪男、じゃあなかったんだ」 ほっとした遊生の尻尾がへにょり、その間に崎倉は喪越を雪から掘り起こす。 「ぼぇっ、ぶは!」 「よぅ。境の川の向こうじゃあ、別嬪さんは手を振っていなかったようだな」 「こっちの美女も気になるもんで、泣く泣く振り切ってきたぜ」 茶化す崎倉に、ぷるぷると頭を振って喪越は雪を落とした。 「ぶはー、生き返ったぁ!」 熱い茶をすすり、やっと人心地がついたと息を吐く男二人にネネが笑顔を向ける。 「私もここへ着いた時には、すっかり冷えてしまいました‥‥‥雪って、こわいですね」 「ふぁー‥‥寒かったぁ‥‥」 雪のついた耳をぴっぴと動かして払う遊生も、再び寒そうに囲炉裏の傍へ陣取った。冷えた手をかざし、ほっと一息ついたところで、はたと何かを思い出し。 「あ、えと、お邪魔しますっ!」 言い忘れていたと急に頭を下げる遊生へ、崎倉は手をひらひら振る。 「気にするな。俺もここへ雪を逃れてきたところだし、それは皆、同じだろう?」 寒いのか、仔もふらさまをぎゅっと抱く少女へ崎倉は羽織をかけ、そんな光景をぼんやり遊生は眺める。 「温まれて、助かりました‥‥最近、雪に降られる事が多い気がしますね‥‥」 寒いのは苦手で。その上まさか、アヤカシ話の端に聞いた庵で世話になるとは思わず、遊生は時おり外の音に耳をそばだてた。 「あの‥‥持ち合わせの毛布がありますので、もし寒ければ使って下さい‥‥」 幼く、ほんわりとした印象ながら、人一倍周りを気遣うネネもまた、雪に追い立てられるようにして避難してきた一人だ。 四人と一頭の先客に、加えて二人――それが、いま庵にいる全員だった。 「それにしても、風がおさまりませんね‥‥」 戸が揺れる音に、心配そうなネネが顔を上げる。 「この様子では、他にも峠越えの人が雪に追われて来られるかもしれません」 「雪と風‥‥もしかしてアヤカシの仕業、なんでしょうか」 パチパチと燃える火に手をかざした遊生も、ぽつと呟き。 それから何を想像したか、ふるふると首を左右に振った。 「にしても、こりゃまた奇遇だな」 暖を取るため古酒をちびりとあおる仄に、喪越が崎倉の陰にいるサラに気付く。 「懐かしいな、サラセニョリータじゃねぇか!」 それが自分の事だと判っていないのか、訝しむ表情でサラは喪越を見上げた。 「ここで逢ったが百年目。考え抜いた変顔で、今日こそ爆笑の渦に‥‥!」 ぐいと喪越は袖をまくり、両手を駆使して惜しみなく顔を『変形』させれば。 「も、もふ〜、もふふふふ〜!」 ウケたのか、仔もふらさまの方がごろごろと床を転がる。 「ま‥‥折角だから、暇つぶしに噂話でもどうだ」 「噂話?」 小首を傾げて聞き返すネネに、重々しく仄は首肯した。 「この庵の付近に、雪女が出るって噂は‥‥聞いたか? 雪女ってのは美しい女を歌で眠らせ氷漬けにして持ち帰るらしい」 「女を、ですか? 男じゃなく?」 眉根を寄せて遊生が問えば、また仄は古酒をちびりと舐めて。 「そう聞いたぜ。で、そいつの姿を盗んで人里に下りてくる訳だ。こんな吹雪の日にトントンと戸を叩き、家に入り込む‥‥もしかすると、この中の誰かが雪女だったり‥‥」 ‥‥トントン。 「わっ!?」 不意の戸を叩く音に、すっかり仄の話へ集中していた遊生が飛び上がる。 こくと頷くネネを確認してから、再び崎倉は立ち上がって戸を開けに行き。 皆の注意が来訪者へ向いている隙に、こそりと仄はサラへ顔を寄せた。 「気付かない間にな。こう、雪の欠片をくっつけてるといい。面白いからな」 こそこそ教える仄を見上げる無口な少女は、開いた戸からの寒風に首を竦め。 「ああ、あったけぇ〜!」 「ありがとうございます、助かりました‥‥」 寒さから逃れる様に春吹 桜花(ib5775)が敷居を跨ぎ、続いて頭を下げながらシャンテ・ラインハルト(ib0069)も戸をくぐり、ぱたぱたと傘や着物の雪を土間で払った。 ●夜更けの来訪 「いやぁ、人がいてよかった。この辺じゃあ、雪女が現れるという噂もありやすから」 縄座布団に座り、湯呑みを手にした桜花はやれやれとひと息をつく。 「そしたらそこの嬢ちゃんが、この雪深い中を風に飛ばされそうになりながら、ひょろひょろーっと歩いてたモンで‥‥」 両手で湯呑みを包み、静々と茶を口へ運んでいたシャンテが、桜花の仕草に手を止めた。 「私は‥‥雪女をどうにかできれば、と‥‥」 開拓者がアヤカシ退治に向かうのは、大抵は何らかの被害が出てからだ。 雪女の噂を耳にしたシャンテは誰かに害が及ぶ前に何とか出来ればという思いから、峠へと足を運んだが。その途上で吹雪に見舞われ、出くわした桜花に引っ張られる形で庵へやって来た次第だった。 (慣れない事は、するべきではないという事でしょうか‥‥先に立って人を守るのは‥‥難しいもの、ですね) そっと父と親友の名を心の内で呟き、呼びかける。 「あっしは、ふらりと峠を歩いて来たんでやんす。そりゃあもう、歩ける所ならどこへでも行きやすから」 「風来者か」 何やらくつりと笑う崎倉に、桜花もぽしと赤い髪を掻いた。 「あっしは風来坊を目指していた筈なんでやんすが、何故かあっしを『桜来嬢』と呼ぶ人がいるんでやんすよ。まあ、風来坊より桜来嬢の方が女の子らしいけど‥‥」 「桜と来る、か。春を背負って歩くのも、風流でいいもんだ」 「あ、良ければもっと火の近くへ寄っていただいても‥‥外は、寒かったでしょうし」 話の合間に、何故か一番囲炉裏から離れて座る桜花をネネが気遣う。 「いえ、あっしはここで。どうかそれだけは、勘弁してくだせぇ」 おどける様に肩を竦める桜花だが、その調子にネネは何かを感じたのか。強くは勧めず、「これを」と火の傍らで温まった毛布を運んだ。 「ここで逢ったのも何かの縁、酒でも飲んで楽しく一夜を明かそうでないの」 華が増えたと、陽気に喪越が天儀酒を取り出す。 「え? 理由関係無しに飲みたいだけだろって? と〜んでもな〜い。酒を飲むと体が温まる。立派な防寒対策なんだYo?」 向けられる物言いたげな女性陣の視線に、屁理屈を捏ねながら喪越は杯代わりの器を探し始めた。 「そうそう。こんな日は、きっとアヤカシも休みだ」 適当な事を言いながら仄も古酒を煽り、ふと視線に気付いたシャンテは小首を傾げる。すると彼女の龍笛を見つめていたサラは崎倉の陰へ引っ込むが、その帯に差した横笛にシャンテが目を留めた。 「笛‥‥好きなんですか?」 「知り合いに貰ったんだが、なかなか‥‥教えようとしても、どうも俺じゃあ気に入らないらしい」 からからと崎倉は笑い飛ばし、半分だけ顔を出して窺う少女の姿にシャンテが龍笛を手に取る。 そっと流れる素朴な音に、雪を逃れて集った者達は耳を傾け。 穏やかな調べに誘われるかの如く、またトントンと戸を叩く音がした。 「またか。つくづく、雪女探しが多いのかね」 「あの‥‥」 よいせと席を立つ崎倉の背へ、わたふたと囲炉裏端の手袋を取りながらネネが声をかけようとし。 「女の子もいいが、出来ればもう少し妙齢の美女を‥‥おぉをっ!?」 戸の隙間からちらりと見えた訪問者に、思わず喪越が身を乗り出す。 「あの、あの人は‥‥」 「寒いので、早く閉めてくれると」 「いけない、火が‥‥」 また流れ込む強い寒風に遊生が身を震わせ、風に揺らぐ囲炉裏の火へ注意を払いつつシャンテは身を縮めるサラを庇った。 「どうかしたんでやすか?」 何か訴えようとして出遅れているネネに桜花が気付いて、問えば。 「あの人は‥‥アヤカシです‥‥っ」 「ちっ、寒いってのに。ここは最終兵奇モコス、投入ーッ!」 気合い一閃、『鬼腕』を発揮した仄が喪越をブン投げる。 ‥‥無論、容赦とか手加減とかは一切ナシで。 「ちょあぁぁぁーーーっ!?」 目当ての美女っぽい相手に気を取られていた喪越は、あっけなくブン投げられ。 「うわっ!?」 宙を泳ぐように『飛来』した喪越を、反射的に崎倉が避ければ。 そのまま、訪問者を巻き込んで雪の中へ転がっていった。 ――良いコ(開拓者)の皆は、決して普通の依頼で真似をしてはいけない。決して。 「避けたのです‥‥」 「いや‥‥つい、な」 何か言いたげなネネに、視線を泳がせる崎倉。 「ま、助けないと不味いよな」 避けた手前か、崎倉はアヤカシと喪越を追い。 「まさか、本当に出るなんて‥‥というか、開けっ放してると寒いから、ちょっとたたんで来る!」 「動けば身体も温まって、一石二鳥でやんすっ!」 怖さ以前にイロイロ吹っ飛んだ状況に遊生が飛び出し、桜花も彼女の後に続く。 「庵が壊れては、困りますしね‥‥」 頷くネネもまた外套を着込み、自分の身長より長い北斗七星の杖を手に、外へ出た。 その背を押す様に、龍笛を手にしたシャンテは『霊鎧の歌』を紡ぐ。 不安げなサラは、ぎゅっと仔もふらさまを抱きしめて。 「喪越はアレだが、腕もアレだ。シャンテも前に会った時より腕を上げてるようだし、ネネの嬢ちゃんの術もなかなかのモンだった。神威の嬢ちゃんと桜来の嬢ちゃんの腕は知らんが、倉崎も居るし任せて大丈夫だろ」 「クラサキ‥‥」 何やらじっと考え込んだサラが、くぃと仄の袖を引くと首を横に振った。 「ん?」 「ゼン‥‥サキクラ‥‥」 「‥‥大丈夫だ。本人が聞いてねぇから、問題ない」 誤魔化して、また仄は古酒を煽る。 「それ以上は駄目、ですっ!」 「氷漬けにされて、行きたい所に行けなくなるのだけはごめんでぃっ!」 鋭い遊生の声に、威勢のいい桜花の気炎が続き。 鈍い振動が庵を揺らして、屋根からバサバサと雪の落ちる音がした。 ●雪の夜、明けて 「Oh、もっさん一生の不覚‥‥!!」 何やら微妙にうなされている喪越を薄い布団へ転がすと、無事に戻ってきた者達は庵の被害を確かめる。 「どうやら、大丈夫なようですね」 『神風恩寵』での手当ても終わらせたネネは、ほっと安堵の息を吐いた。 「‥‥わふ、疲れました‥‥ねぇ」 再び囲炉裏端に戻った遊生は、眠そうに目を擦り。 「疲れたなら寝た方がいい。またアヤカシが出ないか、今度はちゃんと見ておこう」 「朝は早く起きてやるから、寝てない奴はさっさと寝ろ」 眠たげなサラを寝かせながら促す崎倉に、ごろりと仄も横になる。 「そうでやんすね。明日は明日の、旅がありますから」 「はい。アヤカシに勝って雪に負けただなんて、洒落になりません‥‥」 首肯する桜花にネネが微笑み、「それじゃあ」と遊生も大きな欠伸をした。 緊張をほぐす様に、シャンテの龍笛が柔らかな調べを奏で。 いつの間にかうつらうつらと舟を漕ぎ出す桜花の肩へ、崎倉が毛布を掛けてやる。 そうして雪降る夜は、静かに更けていった。 後は何事もなく、やがて峠の夜は明ける。 「雪、止んでるよー!」 黒い尻尾を振った遊生の明るい声が、眠そうな仲間を起こす。 鉛色の雲が切れた空からは、弱々しい朝の光が差し始めていた。 |