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■オープニング本文 ●助手君、失踪 「グライダーにしても小型飛行船にしても、結局は風が問題なんだよな‥‥」 緑広がるもふら牧場の片隅で、もふもふ群れるもふらさま達をライナルト・フリューゲはぽへりと眺めていた。 残念だが、コレばかりは技師がどう頑張っても、どうにもならない部分だった。 朱藩の北部にある山岳部の小村で、彼は試作滑空機に取り組んでいる。 この地域一体は山肌に張り付くように村が点在し、互いに連絡を取るには歩いて谷を下り、森を抜け、山を登るより、グライダーを使う方が早かった。 だがお天道様と風向きと、泣く子とナントヤラにはナントカというヤツで。 変わりやすい独特の山風もあって、グライダー墜落事故の危険も伴っている。 そこでライナルトはグライダーの改良に乗り出し、開拓者達の協力による数度の実験を行った末、一つの解決方法を導き出した。 それが体躯や気象条件よって、機体と駆動部の組み合わせ自体を使い分けるという方法だ。 ただこれにも、問題点があった。 肝心の組み合わせを判断し、実際にそれを行う技師が不可欠だという事。 その為の『後継者』も、一応は育てていたつもりであるのだが。 そんな事を考えながら、ふと手にした書簡へ目をやった。 差出人は、安州にある朱藩国開拓者ギルド長、仙石守弘(せんごく・もりひろ)。 内容は、一種の『召集』だ。おそらく飛空船に関する事柄か、それに付随する事だろう。 アレに関する宝珠の技術を扱える者は、そもそも限定的だ。 より専門的な部分となれば、数は更に絞られる。 そしてこの朱藩では現在、興志王自らが率先して飛空船技術に力を注いでいた。 協力を必要とされて赴く事となれば、いま世話になっているこの村ともお別れで。 届いた信書を読んで考え込むライナルトの様子に、助手の俊太があまりに内容を聞きたがるものだから、包み隠さず話したならば。 「先生の、馬鹿ーッ!」 何故か怒鳴られて、作業小屋から俊太は出て行ってしまった。 出て行って‥‥そのまま、戻らない。 小屋の外に広がる試作滑空機の実験場代わりなもふら牧場に、少年の姿はなく。 村にある少年の家にも帰っておらず、家族も友達も行き先を知らず。 ‥‥一言でいうなら、「家出」状態であった。 「さすがに我が助手君と、コッチがやらかした時とは、状況も違うだろうしなぁ」 以前、誰にも知らせる暇がなく村から消えた『前科』持ちは、う〜んと唸る。 唸っていると、通りがかった村の青年が心配そうにぽつりと呟いた。 「もしかして俊太の奴、『運試し』に行ったのかなぁ」 「運試し?」 聞き返すライナルトに、青年は「ああ」と頷く。 「村にあった子供のげん担ぎ、願掛けみたいなもんでね。小さい迷路の洞窟があって、その一番奥に『ご神体』があって。一人で行って、『ご神体』を触って帰ってこれたら、願いが叶う‥‥みたいな?」 「ほぅ‥‥て、迷路の洞窟?」 何やらこう、微妙に嫌な予感がした。 「うん。中で道が分岐していて、実際にどれだけ深いかは大人にも分からないんだ。そこで迷子になる子がいたり、洞窟自体が崩落する危険もあって‥‥俊太が小さい頃には残ってたけど、今の子供達には近付かないよう、言いつけられてるよ」 「その、洞窟の通り道は、今でも覚えているモノかな?」 「いいや。さすがに子供の時の事だ、もう忘れちまったよ‥‥ま、禁止されているのは俊太も知っているだろうから、そんな無謀はしないと思うがなぁ。もし夜が明けても俊太が戻らなきゃあ、山狩りかね」 そんな事を呟きながら、青年は村へと歩いて行く。 「空から探せる場所なら、すぐだろうけどなぁ‥‥」 結局、日が暮れる頃になっても、俊太が帰ってくる気配はなく。 村長に開拓者を呼ぶよう頼んだライナルトは、部屋に戻ると寝床をあさり、通常のソレより銃身が長い火縄銃を引っ張り出した。 ●かけるは運か、それとも願いか 「えっと‥‥この道を、こっち。だっけ?」 提灯を片手に、俊太は幼い頃の記憶を辿っていた。 小さい頃、年長の子供達に連れられて、この『運試しの洞窟』に入った事はある。 あるのだが、何分にも小さかった為、記憶はかなり薄れていた。 「そんなに歩いた記憶、ないんだけどなぁ」 年長の子供達の後を付いていって、提灯の明かりを頼りに幾らか歩いていって、やがて洞窟の先が明るくなった先、すこし広くなった行き止まりに、『ご神体』があった気がする。 思い出しながら歩いていた俊太は、ふと足を止めて振り返った。 提灯の明かりの外側、暗い闇で、何やら動いた気がする。 じっと足を止めて窺ってみるが、何もなく。 再び前を向いて歩き出すが、何かが後ろからついてくるような感覚はつきまとい、離れない。 「気のせい、気のせい‥‥」 提灯で洞窟の先を照らしながら自分に言い聞かせ、迷いつつも俊太は洞窟の奥へと進んでいった。 |
■参加者一覧
柚月(ia0063)
15歳・男・巫
有栖川 那由多(ia0923)
23歳・男・陰
玲瓏(ia2735)
18歳・女・陰
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
すぐり(ia5374)
17歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
透歌(ib0847)
10歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●かつての秘密 その洞窟は、岩場で黒い口を開けていた。 「これが、『運試しの洞窟』か」 村の青年に案内されたオドゥノール(ib0479)は、大き目の岩の陰で目立たない穴を覗き込む。 「何が出るか分からん所に踏み込むってのは、嫌いじゃないが。ただ、人に迷惑をかけない程度にやってもらいたいもんだな」 見据えるように青い瞳をやや細め、どこか憮然と御凪 祥(ia5285)が呟いた。 「もっとも、そういう行動を取ったと言う事に理由は有るだろうが」 ま、そういうのも含めて解決しろって事‥‥か。 そんな風に解釈をして、祥は重い息をひとつ吐く。 別に面倒な依頼と呆れた訳ではないのだが、申し訳なさげに依頼主ライナルト・フリューゲが肩を落とす。 「迷惑をかけて、本当にすまないよ」 「あんたが謝ったところで、どうにもならないだろう」 「そうなんだけどね」 見やる祥へ、嘆息してライナルトは髪を掻いた。 「心当たりが、あるんですか?」 単刀直入に菊池 志郎(ia5584)が尋ねれば、依頼人は唸り。 「あの手紙、かなぁ」 ぽつと、安州から来た手紙の事を明かす。 「中身を話したら、怒鳴って小屋を飛び出してね」 「‥‥何で俊太さんが怒ってしまったのか、おわかりになりませんか?」 じっと耳を傾けていた志郎は、困ったような笑顔をライナルトに返した。 「う〜、ん?」 「フリューゲさんが村を去るかもという急な話に驚き、加えてそれを話す態度に俊太さんは悲しくなってしまったのでは」 それが志郎にはどこか淡白な反応に思えて、疑問を口にする。 「そうかな?」 「迅速に見つける努力はしますが、その後はきちんと話し合って下さいね」 「早く救出しないと、体力も心配だな‥‥」 「居なくなってから、だいぶ経つのね」 懸念をオドゥノールが口にし、玲瓏(ia2735)は来た道へ振り返った。 「お腹も空かせてるでしょうし、心配ね‥‥」 俊太が消えてから、既に一日が経過している。 「迷子になって、お腹空かせてたら‥‥やっぱり基本は、おにぎりかな」 不安げな透歌(ib0847)が手にした包みは、飯屋でもらったおにぎりだ。 「いいですね。消化もよく、手軽に食べられる物なので」 「はい。無事に帰ってきたら、皆で美味しいものを食べたいですよね」 答える玲瓏に、ほっとして透歌は笑顔を返した。 「まずは、無事に帰らないとな」 「帰しますよ」 相変わらず淡々とした祥へオドゥノールが即答し、ふむと青年志士は少女騎士を見下ろす。 「な、何ですか」 「いや‥‥そちらの班は、任せた」 短い返事では語弊があると思ったか、仕舞いかけた言葉を祥は付け加え、それに真剣な表情でオドゥノールが応じた。 「皆ーッ!」 明るい声に見れば、大きく手を振る柚月(ia0063)とすぐり(ia5374)、有栖川 那由多(ia0923)の三人がやってくる。 「お待たせしました」 火縄銃を手にしたライナルトへ、那由多が声をかけた。 「僕はすぐりと一緒で、嬉しいよ。よろしくね!」 柚月が振り返れば、後ろのすぐりは頭を下げる。 「依頼で一緒させていただくんは初めてで、少し、ドキドキしていますけど‥‥少しでもお役に立てるよう。柚月様の手ぇ、煩わせてしまわんように頑張ります」 楽しげな明るい笑顔に、再度すぐりは笑みを返して一礼した。 ●小さな夢の跡 「皆、熱心だね。少し、練習の時間をもらえるかな?」 洞窟へ向かう前。宝珠を使わない滑空翼を使い、緑の斜面で練習する子供達と那由多は話をしていた。 相手は10歳以下の子供がほとんどで、俊太と同じ位の少年少女は農場や村の仕事をしているという。 まだ夢が折れる事を知らず、無邪気に空へ挑戦する子供達を激励し、那由多は村へ向かった。 「ね。洞窟内の正しい道、知らない?」 村では柚月がすぐりと共に、村人達へ道を聞いていた。 だが幼い日の記憶は遠く、暗い中を一人で歩く道順もあまり覚えてないという。 「ドコを右に曲がれば、とかじゃあなく。通り道は皆が触るから、岩の手触りが違うとか、地面の砂が少ない感じだったな。枝道に入り込まなければ、迷いはしなかったと思うけど」 若いグライダー乗りの一人は、そんな風に答えた。 「昔、『運試しの洞窟』で迷子になった子‥‥どうして迷子になったか、知ってます?」 那由多の問いに、飯屋の手伝いをする若い娘が小首を傾げる。 「確か、何か落としたって言ってなかったかな?」 娘に話を振られた中年の女は、大きく息を吐いて首を横に振った。 「どうだろ。もう、だいぶ前の事だしねぇ。ただ、探すのは大変だったそうだよ」 「その時の子は‥‥今は?」 「確か鉱山で、仕事をしてるよ。ここよりもっと、山の奥に入った場所でね。でも、本人だってもう覚えているかどうか」 苦笑する様子に那由多は礼を言い、店を出れば柚月やすぐりと落ち合う。 時間はあまりなく、互いの話を確認した三人は急ぎ足で洞窟へ向かった。 「‥‥だいたい、話は変わらないか」 三人が得た話を聞いた祥は、案内の青年をちらと見やる。 洞窟前でも、待つ者達が青年へ質問を投げていた。 ただ七年か八年前の事にもなると、人の記憶はあやふやだ。それが子供の頃なら、尚更で。 「『ご神体』が何かは、覚えてます?」 確認する那由多に、青年は頭を掻きながら唸った。 「何かは分からないけど、光ってたよ。熱くない、ぼんやりとした灯り、かな?」 「熱くない、灯り‥‥」 興味深そうに、玲瓏がその表現を繰り返す。 「ともあれ。話している間にも、俊太君の身に危険が迫ってるかもしれない」 オドゥノールが促せば、他の者達も頷いた。 「はよ見つけられるように、捜索は二手に分かれます。イ班は柚月様と、那由多、祥。それからセンセと、うち。ロ班は玲瓏、志郎、オドゥノール、透歌。これで合うてます?」 ライナルトへの説明を兼ねて、すぐりが仲間へ確認すれば異論はない。 「合図なんかの取り決め事は、恪守(かくしゅ)やね」 そうして松明を手に取り、まずはイ班から岩場の口へ足を踏み入れる。 「先生も皆さんも、気をつけて‥‥!」 洞窟に入る者達の背を、案内役は心配そうにじっと見守っていた。 ●闇に潜みしは 長らく人が入っていない洞窟は、奥へ進むほどにカビたような独特の湿った匂いが漂っていた。 あまり風は通らないのか、松明の炎は静かに揺れる。 俊太の名を呼びながらいくらか進んだところで、早くも洞窟は分岐していた。 「そっちは頼んだ」 「はい。何かあったら、お願いします」 託す祥に、オドゥノールが答える。二手に分かれた班はシノビと陰陽師、それから巫女が一人づつ、奇しくも同じ構成だった。 無論、経験による力量の差はそれぞれにあるが、やるべき事は変わらず。それを達成するための手段もまた、各々が最善を考えて用意してきている。 「えっと、そちらも気をつけて。こんな事を言うくらいしか、出来ないけど」 声をかけるライナルトに、ロ班の少年少女はこくりと頷いた。 「狙撃の腕は、当てにさせてもらうがな」 だが相手は志体持ちではない‥‥いざとなれば身を盾にして『依頼人』を守るつもりの祥だが、そこまでは明かさず告げる。 「一発撃てば、『後』はないけどね」 「切り札の判断は、任せます。さ、急ぎましょう」 苦笑混じりで申し訳なさげな砲術士を、明るく那由多が促した。 「俊太さーん!」 「俊太さん、どこですかー!」 透歌と代わる代わる、志郎が名を呼ぶ。 「ここは、右‥‥と」 彼が掲げる松明を頼りに玲瓏は木炭で壁に印をつけ、手帳へ道筋を書いた。 「奥に進むほど、心細くなってしまうわよね。明かりも細くなるし、闇に呑まれそうな気持ちにも」 「うん。早く、見つけてあげたいですね」 先頭を歩く志郎は俊太の名を呼び、『超越聴覚』を頼りに気配を探る。だが今のところ聞こえてくるのは、自分達や離れた仲間の声の残響くらいだ。 いなくなった時間を思えば、15歳の少年は疲れているはずで。 どこかで眠り込んでいたり、もしくはどこかから落ちて怪我をしたり、気を失っていないようにと心の内で祈る。 「本当に別れ道が多くて、迷路みたいですね」 同じように目印を残す透歌も、枝道を不安げに見やった。 「疲れたら、明かり役を代わるが」 「いえ、まだ平気ですので。もう少ししたら、お願いします」 気遣うオドゥノールに、笑顔で志郎は答える。 松明を持つ腕の疲労を考慮して、二人は交代で明かり役を担っていた。 また先の分からぬ分かれ道に出くわすと玲瓏は陰陽符を手にし、『人魂』の式を飛ばす。 蝙蝠の姿をしたソレは、彼女の目となって闇を飛び、光の届く限りまで飛んだ。 そして通路の先の様子を仲間に伝え、どちらの道を選ぶかを皆で決める。 「道幅は、左の方が少し広いみたいね。人の通った気配は、ないようだけど」 「では、ここは左へ。松明も持とう」 バルカンソードの柄に手をかけたオドゥノールは三人が頷くのを確かめ、印を付けるのを待ってから、松明を受け取った。 「俊太ー! いたら返事してー!」 口に手を当て、柚月が呼びかける。 だが、わぁんと反響を残しながら、声は闇の向こうに吸い込まれた。 「長いこと使われてなかった洞窟だし、獣や人間が住み着いててもおかしくナイよね。でもアヤカシが潜んでたら、もっとヤだ」 「しかし運試しの洞窟‥‥ね。試されてるのは運、なのかな。何にせよ早く見つけてあげたいね、ゆづ」 式を飛ばし、自分の目でも周囲を見回す那由多を仰ぎ、不安げな柚月はこくこくと何度も首を縦に振る。 「なんもいナイと、イイんだケド‥‥」 五人が進む道は特に枝道もなく、分かれてもすぐに行き止まりだった。 そうなれば順調な分、俊太が通った場所なのか不安になってくる。 だが奥へ進むに従って、起伏のある洞窟に枝道が増えてきて。 「俊太さんの目線やったら‥‥いうて、背はうちの方が小さいんかな」 ちょこ、と背伸びしたすぐりは、辺りを見回した。 「でも、こういうところで道に迷ってたら、怖くない?」 彼女より少しだけ背の高い柚月が心配そうに尋ねれば、ぽむとシノビは手を打つ。 「柚月様の、言う通りです。せやったら逆に背中を丸めて、少しうちより低い感じやろうか」 再び確認するすぐりをわくわくしながら柚月が見守り、二人の様子に思わず那由多は小さな笑みを浮かべた。 一方のすぐりは、ふと警戒の視線を走らせる志士を見上げる。 「祥は、大きいなぁ」 「‥‥そうか?」 どう答えたものかと少し考えた末、とりあえず苦笑を返した祥だが。 「‥‥来るぞ」 表情を一転させると刀「嵐」を抜き払い、柚月もまた『瘴索結界』の内で不意に濃くなった瘴気の塊を見つけていた。 「アヤカシ、だ‥‥さっきまで、感じなかったけど」 視線の先では渦を巻く瘴気‥‥闇が、一つの形を成そうとしていた。 笛の音。そして、鋼の音。 耳が遠くのそれらを捉えれば、志郎は即座に仲間へ伝える。 急ぎ駆けつける、その道の先に。 光を吸い込む黒く丸い球が、ぼぅと浮かんだ。 「アヤカシ?」 邪魔にならぬよう、玲瓏が松明を置き。 「少なくとも、『仲間』ではないな」 バルカンソードを構えたオドゥノールが、玲瓏と透歌を背に庇う。 「ここは俺が‥‥!」 暗視で見透かすことの出来ぬ闇へ、志郎は刹手裏剣を投げ放った。 溜まった瘴気を蹴散らしながら相手の笛を頼りに進めば、やがて二つの班は洞窟の一角で合流する。 「‥‥これって」 ふと何かを踏んだ感触に透歌が足元を確かめれば、それは消えた提灯だった。 「おそらく、この近くだな」 すぐさま祥は『心眼』を使って、周囲の気配を読み。 「よし、任せて下さい」 「私も、探すわ」 二人の陰陽師が、『人魂』の目を頼りに近くの枝道を探す。 間もなく、迷い疲れたのか窪んだ枝道で身を丸めて意識のない少年を、一行は発見した。 ●願いの光 「俊太君、怪我はしていない?」 尋ねるオドゥノールは懐から梅干を取り出し、透歌のおにぎりと一緒に俊太へ渡してやる。 「あの‥‥ありがと」 最初は遠慮がちだった少年だが、空腹には勝てず。 がつがつとおにぎりを食べる様子を見て、ほっと玲瓏は安堵の息を吐いた。 「‥‥本当に、良かった」 「あのさ、俊太。食べながらでもいいから、聞いてもイイかな?」 ひょこと座り込んだ柚月が、同じ歳の少年へ首を傾げる。 「どんな願いを叶えたかったの?」 「柚月さん‥‥」 顔を上げた玲瓏は、問いかける柚月へゆるく頭を振った。 「事情は無事に外に出た後で、じゅうぶん」 「せやけど、危ないてわかってても、お願いしたい事があったんよね。お願い事は、できた?」 水を渡しながらすぐりが聞けば、急に俊太はうな垂れて。 「『ご神体』、まだ見つけてへんのやったら、一緒に探してもええよ」 「『一人で』という条件は、もう無理ですけれどね。でも俊太さんが探すなら、お付き合いします。ただ‥‥あくまで願掛けは願掛け、ですから」 すぐりに続いて、志郎が提案しながら念を押す。 「触る事で、思い切りがつけられればいいですね」 「あ、私も、お願い事がしたいです。これからも、みんなと美味しいご飯が食べられますようにって」 透歌は目を輝かせ、「それなら僕も!」と柚月が手を挙げた。 「ありがと、皆」 短く礼を告げるライナルトに、口を出さず見守っていた祥が首を横に振る。 「礼は村へ戻ってからだ。そこまでが、依頼だからな」 その後は当事者達の問題だと、祥もまた、そう思っているのだろう。 「もし、ライナルトに何かを望むのなら‥それは本人に直に言えばイイと思うんだよ。想いは形にしないと、伝わりにくいカラ」 「ちょっと先生と、二人で話してみるのがいいかもしれない」 柚月に続いてオドゥノールが青い瞳を細め、すぐりも俊太へ少年を戻した。 「自分の力量超えて、センセに心配かけたんは反省せなアカンね」 「分かってるよ‥‥」 不承不承な俊太に、ひょいと那由多が屈む。 「でもライナルトさん、俊太君の事を本当に心配して、大事に思っているんだと思うよ。ほら、火縄銃なんて持って来て‥‥」 耳打ちをされた俊太は『先生』を振り返り、しょげた顔をした。 「あんまり、怒らないであげてくださいね。好きな人と、お別れしたくなかったんだと思いますから」 「うん。無事ならそれで、いいんだ」 こっそり透歌が取り成せば、髪を掻くライナルトの表情は明るい。 「ほな、『ご神体』探しに行きましょか。帰るまで、もう少し頑張りね」 励ますすぐりに、こくりと俊太は頷いた。 戻りながら運試しの道を探せば、枝道に入らぬ先にそれはあり。 欠けた小さな水晶玉のようなものが、岩壁で淡い光を放っている。 恐る恐るソレを触り、手を合わせて祈る少年の姿を見守った者達は、同じように村の子供達の『慣例』に倣い。 空に星が瞬き始める頃、外の世界へと帰還した。 |