風鳴く道
マスター名:風華弓弦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/31 16:06



■オープニング本文

●時と命を天秤にかけて

 山吹く、風が鳴く。
 飄々(ひょうひょう)として、風が鳴く。

 その細い道は、険しい岩場を抜ける抜け道だった。
 道幅はさして広くなく、道の両脇は高い岩壁となっている。
 安全で広い街道からは外れるが、街道を回るよりも倍近い時間を稼ぐ事が出来て、飛脚や行商人、あるいは荷運びを商いとする者達が、道を急ぐ時に通る道だ。
 だが街道でさえ時に賊が現れ、時にアヤカシが徘徊する御時世。
 人気の少ない裏道ともなれば、それらに出くわす危険は高くなる。
 それを知りながらも、旅を急ぐ者達はあえて抜け道を通った。
『不運』に出くわすなんて、滅多にない事。もし万が一にも、そういった『不運』に出くわしたなら、それは運がなかっただけ。
 そんな風に自分に言い聞かせ、納得させて、通る者達は抜け道を急ぐ。

 その日もまた、一人の行商人が旅路を急いでいた。
 空には鉛色の雲が立ち込め、重い風がざわざわと梢を揺らす。
 雨は今にも振り出しそうで、その為に選んだ抜け道だった。
 背中を丸め、身体をやや前かがみにし、被った笠の端を手で引き下ろしながら、ひたすら足を動かす。
 そうして早足で歩いていると、正面から道を抜けてきた風が、ざぁっと吹きつけた。
 だが風に混ざった匂いに気付き、ぎょっとした行商人は足を進める速度を落とす。
 嫌な予感を覚えたが、引き返す理由にならず、何より先を急がなければならない気持ちの方が勝った。
 まるで引き返せと促すかの如く風は吹き付け、木々はざわめき、花は揺れるが、行商人は気のせいだと己に言い聞かせ。
 せめて周囲に気をつけながら、抜け道を歩いていく。
 やがて道の先に、何かが見えた。
 目を凝らせば、それは倒れている人影で。
 その傍らから、むくりと小さな影が頭をもたげた。
 ふわりとした毛に包まれた細長い身体に、「何だ、イタチか」と気を緩める。
 そうして倒れている旅の者へ、近づこうとしたが。
 威嚇しているのか違う理由か、血に濡れた牙を剥き出しにする小動物を目にして、不意に足が止まった。

 ‥‥いや、違う。あの牙は、イタチにしては鋭過ぎる。
 それにイタチの尻尾も、あんな形をしていない。
 そうだ、あれは‥‥あの鎌のような形の尾は‥‥!

 気付いた時には、遅かった。
 叩きつける風が、文字通り行商人の思考を断ち切る。
 深く切り裂かれた笠が、バサリと風に舞って飛んでいった。
 目を見開き、引きつった表情のままで行商人の身体がぐらりと傾き、その場へバッタリ倒れる。

 そうして、濁ったガラス玉のような、生気のない目玉はただ。
 ゆらゆらと風に揺れる黄色い山吹の花を、映していた。

●不穏の知らせ
 朝早くに宿場町を出立した飛脚が、血相を変えて戻ってきたのは、同じ日の昼過ぎの事だった。
 いつも通り、道を急ぐために街道から抜け道に入り、いくらか進んだところで、道に血溜まりの跡を見つけたという。
 そこからそう遠くない道端には、血で汚れ、切り裂かれた笠が一つ落ちていた。
 ‥‥アヤカシの、『カマイタチ』が出た。
 知らせと持ち帰ったソレに、宿場町の人々は騒然となる。
 襲われたところを見た者はいないが、状況からソコで誰かが襲われたのは間違いなく、襲われたのも2〜3日以内の出来事と思われた。
 まだ街道には被害はないが、いずれ潜んでいる抜け道から現れるかもしれない。
 そうなれば町の者達の暮らしも危ういと、すぐさま開拓者ギルドへアヤカシ討伐の依頼が出された。


■参加者一覧
葛葉・アキラ(ia0255
18歳・女・陰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
有栖川 那由多(ia0923
23歳・男・陰
劉 厳靖(ia2423
33歳・男・志
煌夜(ia9065
24歳・女・志
千代田清顕(ia9802
28歳・男・シ
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
フレデリカ(ib2105
14歳・女・陰


■リプレイ本文

●根回し
 それでも街道には、旅人の流れがあった。
 理由があるのか旅を急ぐ人々へ、抜け道を使わぬよう宿場町の町人が声をかけている。
「時は金なり、ってやつなのかな‥‥命あっての物種なんだけど、ね」
 一人二人と街道を歩く旅人に、有栖川 那由多(ia0923)が呟いた。
「まぁ、多少危なくとも抜け道があれば、使いたくなるのも心情よね‥‥」
 煌夜(ia9065)もまた同じように、浮かぬ顔で背を見送る。
「『不運』を恨んでくれ‥‥としか、今となってはかける言葉もないわ」
「そうね。襲われた人も運の悪い‥‥カマイタチって、野生動物に近いんじゃないの?」
 赤い瞳をくるりと動かし、フレデリカ(ib2105)が小首を傾げた。
「それは自分の目で確かめるのが、一番だろう。ただ、確かに旅の途中で命を落とす‥‥それ自体は珍しくはないが、気の毒な事だ。家族も、帰りを待ってるだろうにな」
「あ、そっか」
 僅かに目を伏せた千代田清顕(ia9802)の言葉に、口元へフレデリカは手をやる。
 確かにそれは「不運だ」と、一言で片付けられる事かもしれないが。
 だとしても、死者には哀悼の意を抱くのが天儀の流儀かもしれない‥‥トントンと口元を軽く指で叩きながら、彼女はそう判断しておく事にした。
「カマイタチか‥‥これ以上犠牲を増やさん為にも、此処でうちらが確り討伐せなね」
 その証という訳ではないだろうが、葛葉・アキラ(ia0255)は気合十分。
「好き勝手にはさせへんで‥‥っ!」
 ぐっと拳を握り、討伐の決意を固めている。
 逆にブローディア・F・H(ib0334)は特に感慨もなく、思うところもないのか、漠として赤い髪を指で梳く。
 行き交う者や声をかける町の者が視界に入った彼女から目をそらすのは、少しばかり『刺激』の強過ぎるジルベリア装束のせいだろう。
 そんなブローディアをしげしげと葛切 カズラ(ia0725)は眺めてから、ふっと一つ、息を吐いた。
「まぁ、何の裏もないシンプルなお仕事よね〜。でも気を引き締めていかないと油断して落したらヤバイもの」
 それから、紅を引いた口唇をカズラはちらりと舐めた。
「楽しい事は終ってから〜。焦らした分だけ、味が出るものよね」
 ふふっと目を細めて零す言葉は、事情の知らぬ者が聞けば、なにやら別な意味にも取り違えそうだが。
「無事にひと仕事が終われば、煌夜達二人には俺から酒を奢るよ」
 頷いた清顕が視線を投げれば、煌夜はくすりと笑って肩を竦め。
「その分、しっかり後ろを守れって事ね?」
「お酒か〜エエなァ。けど未成年は飲酒出来へんし、此処は一つお酌でもして回ろかなァ」
 何やら呟きながら、アキラが思案する。
 そこへ蹄の音がして、一頭の馬が風の如く街道を駆けていった。
「早馬、出してもらえましたか」
「とりあえずな」
 清顕は安堵の息を吐き、ぽしぽしと顎を掻きながら劉 厳靖(ia2423)が遅れてやってくる。
 宿場町に付いた開拓者達は、まず「更なる被害を避けるため、抜け道に誰かが立ち入らぬよう、人を置くか立て札を立てる」という急ぎの案を町長に持ちかけた。
 確かに犠牲者を増やす事は、町の者も望むところではなく。
 今しがた立った馬は、急いで作られた札を置きに行く為の使いであった。
「けどまぁ、鎌を持ったイタチのアヤカシで、カマイタチねぇ‥‥はっはっは、なかなか面白いじゃねーか」
「‥‥別に、アヤカシも親父ぎゃぐ狙いでそんな名になった訳じゃあないと思う、けど」
 何気なく那由多が突っ込めば、いきなりわしゃりと髪をぐしゃぐしゃにされる。
「んまあ、確かに冗談にしちゃあちと、やり過ぎだがなぁ」
 はっはといつもの様に厳靖は大笑しながら、那由多の肩をばんばん叩き。
「とりあえず放っておくのも危ねぇし、さくっと倒しちまおうぜ。なぁ、煌夜」
「ええ、よろしくね」
 声をかける『ご近所さん』へ、笑って煌夜は緑の瞳を片方瞑ってみせた。

●山抜ける抜け道
 うららかな晴れた空の下、どこかから鳥のさえずりが聞こえてきた。
 清顕が頼み、町の者へ書いてもらった簡単に記した地図を元に、教えられたとおり道をしばらく進む。
 案内人をつけようかという町の者からの申し出もあったが、戦いの際に危険な目に合いかねないと、丁重にシノビの青年は断っていた。
 やがて間もなく開拓者一行は、抜け道の入り口へと辿り着く。
『開拓者御一行、アヤカシ退治の用につき、この先へ立ち入るべからず』
 先の早馬が置いたのだろう。少し乱れた字で書かれた札が、地面に突き立てられていた。
「じゃあ、行くとするか」
「先頭はお二人に任せますねっ。俺はその後ろ辺りにいますので」
 にっこりと、『いい笑顔』で那由多が二人の志士‥‥というか、主に厳靖を促す。
「隊列としては、志士の俺と煌夜が先頭を歩くってか? ふむ、面倒だなぁ‥‥出来れば後ろからついて行って、楽してぇんだが‥‥そうもいかねぇよなぁ」
 準備を終えた顔ぶれを見回した厳靖は、憂鬱そうに嘆息する。
「術や弓の得意な人の方が多いし、そっちを活かす方向で戦わないといけないものね‥‥一番は、厳靖さんでいいわよね?」
 悪戯っぽく煌夜が笑むと、おもむろに厳靖はぽむと手を打ち。
「ああ。一番後ろなら、任せておけ。先頭は有栖川、お前さんでいいんじゃね? 男だしな!」
「先頭行けって? か弱い陰陽師に先頭とか、絶対無理だし!」
「‥‥って、冗談だ。真に受けるなよ」
 焦って反論する那由多へ「はっは」と笑って厳靖は誤魔化し、その肩を煌夜が軽くぽんと叩いた。
「ま、まずは少ない前衛同士。一緒に壁を頑張りましょう、厳靖さん」
 肩に置いた手はそのままで、笑顔でずりずりと率先して煌夜は歩を進める。
「えらい、仲良しさんやなぁ‥‥心強いわ」
 やれやれと安堵の息をつく那由多へ、やり取りを眺めていたアキラがころころ笑い。
 他の者達も緊張が解けた風に苦笑を交わし、立て札の脇を抜けて、問題の狭い道へと足を踏み入れた。

 緑を登る間道は次第に道の両側がせり上がり、石の壁に変わっていった。
 頭の上では、木々がざわざわと風に騒ぎ。
 生い茂る草花が揺れれば、念のために煌夜と厳靖は足を止め、視線を走らせて様子を窺う。
 あるいは式の小鳥が翼を打ち、アキラの目となって飛んだ。
「木を伝って、襲って来る可能性もあるわよね〜」
 日差しを遮る木々を見上げたカズラに、小さくフレデリカも頷く。
「奇襲を受けると、厄介かも」
「そうね。上から来るぞ〜、気をつけろ〜。なんてね〜」
 そんな会話も興味なさげに、ブローディアはただ黙々と足を前へ進めた。
 更に彼女らの後ろ、しんがりには清顕がつき、背後からの不意打ちに備えると同時に、『超越聴覚』で聞こえてくる音へ気を払う。
「立て札を無視する者が、なければいいが‥‥」
「そこは、ちょっとでも早ぅうちらが退治したらええ話や。そやろ?」
 艶髪を揺らして振り返ったアキラが、肩越しに人懐っこく笑む。
「その為にも、カマイタチには早く出てきてもらわなければな」
 被害が抜け道に限られている事を考えれば、アヤカシの数自体、多くはないが。
「カマイタチなら、相手はイタチの姿。草丈の高い所とか岩陰が多いところだと、見落としかねないわね」
 一行を見下ろす石壁を、煌夜が改めて見上げた。
「‥‥アヤカシが現れれば、力尽きるまで『エルファイヤー』で焼き尽くします」
 ぽつとブローディアが口にした言葉に、清顕の表情が強張る。
「それは‥‥不味い事になる気がするが」
「何故です?」
「あー。確かに激しい炎は、な」
 がしがしと髪を掻き、煌夜と先頭を歩く厳靖も頭上を仰いでうめいた。
「もし火がついたまま上に逃げられると、面倒な事になる」
「森、だものね」
 仲間が危惧する理由がやっと分かったのか、ようやくブローディアは暗い表情で嘆息する。
「炎で燃やすのは、避けた方がいいのですか。残念です‥‥そうなると、逃げる時の足止めくらいしか出来ませんが」
「ああ。それは一番、避けたい事態だしな」
 燃やす以外の方法があればソレでと、少しだけ冗談めかして厳靖が頼んだ。

●疾走する刃と
 遠くでザザッと、草木が揺れる音がして。
 ソレが聞こえた時には、既に見えぬ刃が風を切っていた。
「‥‥ッ!」
 清顕が声を発しようとした、瞬間。
 鈍い音と、鋭い痛みと、赤い飛沫を、同時に厳靖は認識する。
「あそこだ!」
「厳靖さんッ!」
「かすり傷だ、煌夜っ」
 全ては、ほんの一瞬。
 その一瞬に、いくつもの声が乱れ飛んだ。
 意識を凝らし、気配を探った煌夜は、銀髪を左右に振る。
「ごめん、相手は『心眼』で分かる位置にいないわ。気をつけて!」
 注意を促しながら長脇差「無宿」へ手をかけ、間合いを詰めるために前へ進む。
「一人で先行しないようにな」
 切れた額を押さえながら、警戒する背へ厳靖が注意を促した。
「傷は?」
「浅い、気にすんな!」
 後ろからまだ心配する那由多へ、肩越しに厳靖は短く笑い飛ばす。
 が、ぬるりとした生暖かい感触に、眉根を寄せた。
「やっこさん、首でも飛ばす気で狙ってきたか」
「‥‥見付けたでッ! そっちや!」
 ぼやく言葉を、有難い事にアキラの声がかき消す。
 岩壁の上、弓を持つ彼女が指差す先で、小鳥の式が円を描いて飛び回り。
 次の瞬間、羽根を散らし、失せた。
 アヤカシの姿は、草木に隠れて見えない。
 だが、揺れるそれが『居る』事を教えていた。
「焙り出しますか」
 ブローディアがアストラルロッドを掲げれば、その先端より白い矢が一つ二つと飛ぶ。
 アヤカシのみにダメージを与える『ホーリーアロー』は、不自然に動く草むらへと突き立ち。
 黒い影が、そこより飛び出した。
「こういう手合いは、まず動きを鈍らせるのが常套よね」
 その動きを、呪殺符を手にしたカズラはじっと目で追い。
「急ぎて律令の如く成し万物悉くを斬刻め!」
 まずは、牽制の『斬撃符』を打つ。
 回転して迫る刃に、ぱっと土色の細長い獣体が飛び上がった。
 それを見て即座にフレデリカは手を翻し、呪殺符「深愛」の一枚を抜く。
 放った符はたちどころに鎖へと変化し、カマイタチを縛り上げた。
 動きを鈍らせる『呪縛符』が、標的を捕らえたのを見て。
「おまけに、これで‥‥どやっ!?」
 すかさずアキラが、『斬撃符』で追い打つ。
 下草の中へ着地しようとしたカマイタチは、それを避けきらず。
 ギャッと短い叫びを上げて、石の壁を転がり落ちた。
「打ちます、避けて下さい! 厳靖さんは、避けなくていいですけど!」
「はっはっ、いい度胸だ! 後で憶えてろよ?」
 陰陽采配を一振りする那由多を、煌夜と駆ける厳靖が笑い。
 その脇を、小さな式が放った火の輪が回転しながら飛ぶ。
 体勢を崩したカマイタチの身を、『火輪』が焼いた。
 焼けながらも鎌状の尾を振るって放たれる衝撃刃を、間合いを詰めた二人の志士が足を止め。
 守りを固め、あえてその身で受け弾く。
「厳靖さん、大丈夫?」
「ああ、平気だ。気にするな」
 隣で気遣う煌夜へ、厳靖は流れて目に入りそうな血を拭った。
 傷自体は深くないが、血はすぐに止まるものでもない。
 だが今は相手のスピードもあって、手当てを頼む隙も惜しかった。
 一方のアヤカシは初撃で一人が負傷したのをみて、何とか出来る相手と踏んだのだろう。
 だが目論みは外れ、それ以上の手傷は負わせられず。
 逆にこのままでは自分が窮地と悟ったか、身を縛る『呪縛符』の鎖が音もなく失せると、素早く身を翻した。
 逃げに転じようとしたアヤカシが、地を蹴るよりも、更に早く。
 瞬時に現れた影が、行く手を塞いだ。
 すくい上げる刃の尾を、清顕は手にした苦無「獄導」で受け。
「俺の鎌鼬とアンタの尻尾、どっちの切れ味が鋭いか試してみるかい」
 もう片方の手に握った鎌鼬が、風を撒く。
 身を削られたカマイタチは、最後の足掻きとばかりに身を屈めて、衝撃刃を放とうとするが。
 それよりも先に、陰陽師達が次々と放つ斬撃符が、アヤカシを引き裂いた。

「‥‥他にアヤカシらしいのは、いないようね」
「ん。そやね」
 念のためにと『心眼』で辺りを確認した煌夜に、やはり『人魂』を飛ばしたアキラが頷く。
「煌夜さん、厳靖さん。怪我は‥‥大丈夫です?」
 あくまで彼らを守る『壁』に徹していた志士達へ、那由多が声をかけた。
「お? 手当てしてくれるのか」
「そう言われると、ナンか‥‥」
 言いよどむが、やはり浅くても血が乾いた額の傷は気になって。
 溜め息混じりで、いかにも仕方なさげな身振りの陰陽師の手から、『治癒符』がひらりと離れる。
 無事に『一仕事』を終え、安堵した仲間達の声を聞きながら。
 道端に転がっていた壊れた笠を拾った清顕は、そこより少し先の血痕に目を伏せると、独り静かに手を合わせた。

●送り酒
「さぁ〜て。ギルドへ報告も終わったし、一本やるわよ〜!」
「ギルドに報告に行く前にも、景気付けにって一本一気してなかった?」
 伸び伸びとカズラは両手を伸ばし、その後ろでフレデリカがぽつと呟く。
「ふふっ、細かい事は気にしないの〜」
 そうして、八人は仕事上がりの『打ち上げ』へと繰り出した。

「おにーさん、イケる口やねェ。ささ、もう一献♪」
 酒が飲めぬ歳のアキラは、自分の分まで飲めとばかりに酌をして回る。
「‥‥一応、酔っ払いの面倒はみますけど、あんまり責任は持てませんからねっ」
 きっと睨む那由多へ、厳靖はからからと笑う。
「んだよ、まだまだこれからだろう? お前も、もっと飲め! 帰れなくなったら、俺んとこ泊めるからよ」
「どっちが、帰れなくなりそうですかっ」
「あ、じゃあ酔ったら、同じ長屋の厳靖さん、よろしく!」
 くすくす笑いながら煌夜が片目を瞑れば、「まかせとけ!」と厳靖は胸を叩いた。
「もしかして‥‥厳靖さん、飲むと面倒臭い人ですか?」
「さぁ?」
 胡乱な目で問う那由多に、煌夜は杯を傾けて。
 空になれば、清顕が徳利を傾ける。
「お疲れ様。約束どおり、とっておきのヤツをね」
「あら。でもそこは、ほどほどにね。皆の勝利だから」
 礼の代わりに酒杯を煌夜が掲げれば、清顕も一つ頷き返した。
「ああ。俺も飲むから、気兼ねなく」
「にしても、おまえ犬っぽいよなぁ‥‥あれだ、渾名は『ハチ』な」
 その間にも騒がしく、ぽんと厳靖は那由多の肩を叩き。
「犬じゃない! このっ‥‥酔っ払いがーっ」
 その手の甲を、ぎぅぎぅと那由多がつねり上げる。
「‥‥悪くないな」
 賑やかな騒ぎを聞きながら、目を閉じれば、目蓋に浮かぶは山の山吹。
 思い起こす光景を肴に、フレデリカは酒をちびりと舐め。
「ほしたら勝利を祝うて、得意の舞を披露するで〜!」
 進み出たアキラが扇を広げれば、拍手に喝采がやんやと飛んだ。