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■オープニング本文 ●久し振りの帰宅 賑やかな神楽の都の、その一角。 どこにでもある質素な長屋は、家賃が安めなせいか住人に開拓者が多く、『開拓者長屋』と呼ばれている。 「ナンだ‥‥崎倉も乙矢も、帰ってねぇのか」 人の気配もなく閉まったきりの障子戸を見ながら、ゼロは顔見知りの部屋の前を通り過ぎた。 何かとかしましい女性陣も今は不在らしい。ついでに言えば、常から風来歩きの絶えないサムライ崎倉 禅が戻らないのはしょっちゅうだ。 そんなゼロ自身も、一ヶ月とちょっと振りでマトモにねぐらへ帰ってきていた。 具足を外して身軽になり、ごろりと部屋へ寝転ぶ。 しばらくそうしていると、火の気のない長火鉢に折りたたんだ紙が置かれている事に気付いた。 身を起こして広げれば、家賃の支払いを請求する旨が達筆な字でしたためられている。 投げ捨てようかと思いながらも、最後まで目を通したゼロは、やがてがっくりとうなだれて。 「‥‥世知辛ぇ世の中だ」 そう、ぼやいた。 ●温泉宿の亡霊 「なぁ。金がかからなくていい骨休みの場所、知らねぇか?」 「ゼロの旦那、あっしは旅行斡旋まではやってませんぜ」 壁にもたれ、腕組みをして尋ねるゼロへ、頭を掻きながら仲介屋が薄く笑う。 「だよなぁ」 「普通の仕事は、お探しじゃあねぇんで?」 「ちぃと、色々あってな。今ぁ、休みだ」 「へぇ‥‥」 どこか遠い目で答えるゼロを、小柄な男は珍しそうに見やり。 「ああ、でも実入りがなくてもいいってんなら、ちっせぇ話はありますが」 「うん?」 先を促す様子を見せれば、薄い笑みを浮かべたまま両手を揉んだ。 「山ん中にある、ちっせぇ温泉宿の話なんですがね。最近決まった時間になると、夜な夜な女のすすり泣く声が聞こえるとか、壁を抜けていく人影を見たとか。 手数料を払ってギルドに持ってける程の話じゃあねぇんで、コッチへ流れてきたみたいですが、受けてくれそうなツテもなくて。ネタを拾ったあっしらとしても、どうしたモンかってトコだったんすよ」 「ほぼ、報酬ナシか」 「その代わりに風呂代宿代飯代チャラで、十分なもてなしをしてくれるって話でさぁ。残念ながら湯女のようなモノも置いてねぇ、シケた宿ですが」 ちなみに湯女(ゆな)とは、銭湯などにいる浴客を相手にする遊女をいう。 「ま、そんなモンが置ける宿なら、はなっからギルドへ駆け込んでるだろうよ。存分にタダ飯を喰わせてくれるんなら、それで十分だぜ」 『依頼』を受ける旨と情報の礼を含めて、ひらとサムライが片手を振る。 「しかし、先の合戦でそれなりに金も入ったでしょうに。ゼロの旦那の財布ぁ、いつまで経っても真冬ですなぁ」 「言っとけ」 葉桜が目立ちつつある桜を見上げる仲介屋に、ゼロはすこぶる渋い顔をした、 |
■参加者一覧
緋室 蓮耶(ia0360)
24歳・男・サ
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
劉 厳靖(ia2423)
33歳・男・志
慧(ia6088)
20歳・男・シ
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
透歌(ib0847)
10歳・女・巫
シア(ib1085)
17歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●山の宿 山を抜ける街道の空気は、まだ少し冷たい。 森や岩場に雪はなく、とうとうと流れ下る川の音が聞こえてくる情景の一角に、宿はぽつりと立っていた。 「うわぁ‥‥本当に、何もないな」 飾り気のない質素な一軒家の宿に、率直な印象を緋室 蓮耶(ia0360)が口にする。一方で、リーディア(ia9818)は物珍しげに中を見回していた。 「でも天儀の宿って、なんだかワクワクしますよ?」 「確かに、ジルベリアと比べれば風変わりかもな」 恭しく頭を下げる宿の主に会釈を返したキース・グレイン(ia1248)は、そんな様子を楽しげに見やる。 案内された一室に入れば、先に着いていた者達が振り返った。 「よぅ、来たな‥‥て、慧じゃあねぇか」 己が名を呼ぶ声に目をやれば、常から無愛想な慧(ia6088)の表情が僅かながら嬉しげに綻ぶ。 「ゼロ殿、またお会いしたな」 「ん。ジルベリアは寒かったからなぁ、暖まりついでに来たか?」 見知った顔へ笑うゼロの脇から、ひょこりと透歌(ib0847)が顔を出した。 「慧さん、この間ぶりです〜」 「これは、透歌殿も」 嬉しそうに手を振る少女に、慧は少し驚く。 「長屋を出る直前に会った。『アヤカシ退治をしたら、タダで温泉に入れる』ってな話をしたら、ついてきてな」 「成る程」 手短にゼロが経緯を説明すれば、慧も納得顔で頷いた。 通常、開拓者達は開拓者ギルドから依頼を受けて動き、依頼で何かトラブルが起きればギルドが後ろ盾となる。 だが今回の仕事はギルドを通さず、『仲介屋』が紹介した『裏依頼』。 依頼を知るツテも限られ、何かあってもギルドの保護は受けられない。 この依頼に関して言えば、報酬が『現物』という、実入りも少ない内容だが。 『開拓者らしい仕事』ならば、今はいくらでも受けておきたい‥‥その一心に急かされて、シア(ib1085)もこの場に臨んでいた。 難しい内容の仕事ではないが、同席する開拓者には先の『ヴァイツァウの乱』に参加した者もいる。 彼らから得る物もあるだろうし、何より今のままでは『あの時』から進めないから、と。 膝の上で拳を握り、静かにシアは顔なじみらしい者達の会話を聞いていた。 「そいや、近所の猫被りが悔しがってたぞ? 俺がお前さん達と温泉だって言ったら」 三人の話ぶりから察したか、胡坐をかく劉 厳靖(ia2423)がそんな話を切り出す。 「ま、大分誇張して話したからかもだがな」 袖に手を突っ込んだままの厳靖が「はっは」と大笑し、ゼロも肩を竦めた。 「相変わらずの、仲だな」 「本人の前で言ってみろ。確実に全力で、全否定だ」 二人の会話に、彼らと同じ長屋に住むキースもくつりと小さく笑う。 ‥‥たまには、こうして一息つくのも悪くない。 他愛もない会話に、そんな事を考えながら。 そこへ。 「初めましてゼロさん、お噂はかねが、ね‥‥?」 頭を下げたルンルン・パムポップン(ib0234)は、相手の姿に目をぱちくりさせた。 「メイド服じゃあ、ない!?」 何故かショックを受けたルンルンに、ひくりとゼロの表情が微妙に引きつる。 「ちょっと待て。ナンで、ソコで驚くんだ」 「いえ、その‥‥私、ルンルン・パムポップンっていいます。今回はよろしくお願いしますね、ゼロさん!」 再び力いっぱいお辞儀をし、自己紹介の勢いでルンルンは話を誤魔化した。 ●幽霊探し 「出るのは、幽霊アヤカシが一体。強くはないが、壁を抜けて移動されると少し面倒だな」 家の簡単な見取り図を見ながら、キースが腕を組む。 「単なるアヤカシみてぇで、よかったと言うべきか。斬れない相手なら、アヤカシより怖ぇ」 どこか戦慄しながら蓮耶が遠い目をし、笑顔の透歌はこくと頷いた。 「はい。それにまだ夜の早い時間に出てくれるようですから、助かります。真夜中とかだと、寝ないで起きておくの大変で‥‥」 「これから、育ち盛りだものね」 小さく苦笑したシアは、先程から熱心に紙へ筆を走らせるルンルンを見やる。 「ところで、何を書いているの?」 「天儀の神秘、お札様です。これで、幽霊も逃げられないんだからっ!」 胸を張ったルンルンが自信たっぷりに、ミミズがのたくったような奇怪な墨の紋様を書いた紙を掲げた。 「石鏡(いじか)の巫女が清めたんなら、ともかく‥‥普通に書いても、なぁ」 ぽそりとゼロは呟くが、深く言及しても無粋と思ったか呟きのみで留める。 「さてさて、鬼の次ぎは幽霊とのかくれんぼとなぁ。んま、ちゃっちゃと片付けて、ゆっくりまったりとするとしようかね」 比較的やる気のなさげな厳靖も、からりとのん気に笑った。 「ゆっくり‥‥温泉、ですね」 ぽわぽわと、嬉しそうにリーディアが目を細める。 「なぁ、ゼロ。終ったら、ゆっくり酒でも飲もうや」 「ああ。花見は出来ねぇが、湯に浸かりながら一杯もよさげだよなぁ」 自前で持ち込んだ徳利を掲げる厳靖に、からからとゼロが笑い。 無言のまま、真剣な面持ちで策を傾聴する慧も、そのやり取りに表情を微かに緩めた。 宿のどこに出るか分からない幽霊を探す為、集った九人は三手に分かれた。 まず一之班は慧と透歌、ゼロの三人。 二之班には、蓮耶に厳靖、リーディアが。 三之班がルンルン、キース、そしてシアとなる。 そして宿を切り盛りする家の者達の護衛は、キースの提案で三之班の部屋にて兼ねる事となった。 「んま、二人ともよろしく頼むわ」 同行する二人へ、ひらと厳靖は手を振る。 「見つけたら呼子笛を吹くか、大声で呼ぶか。そこまで広くない宿だ、声も通るだろう」 確認を取る慧に、他の者達も異論なしと首肯をし。 「よし! じゃあきっちりアヤカシ退治して、後は楽しくいこうぜ、楽しくな」 蓮耶が手のひらへ拳を打てば、パンッと小気味のよい音が響いた。 春とはいえ、山間の陽は暮れるのが早い。 夕刻を過ぎれば辺りは暗く、開拓者達に手分けして行灯へ火を入れた。 問題の時刻が近づけば、班に分かれた者達は宿の中を巡回する。 入り口を基点として一之班は右回り、二之班は左回り。残る三之班は、宿でもよくすすり泣きの様な声が聞こえるという部屋で待機した。 「ゼロ殿、よろしくお願いする」 「こっちこそな。俺はそういう、潜んでるのを探し出すのは苦手だからな‥‥頼りにしてるぜ」 肩を並べた慧とゼロは、間に透歌を挟んでゆるりと歩く。 そうして進めば、前から二之班の三人がやってきて。 「何か異常は?」 「今のところ、ないな。そっちは?」 「こっちも、特には」 蓮耶とゼロが幾つか言葉を交わす間も、静かに慧は耳をすませ、のらりくらりとしながらも厳靖が気配を窺っていた。 リーディアは透歌と笑顔で手を振り交わし、二つの班は背中合わせに遠ざかる。 一方、三之班として一室にとどまるルンルンは、鼻歌まじりで柱や天井に手製の『お札』を貼っていた。 「宿の主と家族は皆、必ず守る。安心して欲しい」 不安げな四人へキースが声をかければ、老夫婦と息子夫婦は深々と頭を下げる。 家の者とのやり取りをシアはしばし見ていたが、アヤカシを警戒して周囲へ注意を向けた。 緊張した面持ちで飛手をつけた拳を握り、目を伏せて、聞こえてくる音に意識を集中する。 部屋にいる者たちの呼吸に、時おり家が自然に立てる家鳴り。 仲間が身に着けた具足や鈴が鳴る音に、床の軋み。 それらに混ざって、何かの声が聞こえては来ないかと。 シアはじっと、耳をすませていた。 ●嘆く影 なんの前触れもなく、湧き上がる煙の様に床下から床板を抜け、澱んだ色の何かが膨れた。 ゆぅらりと立ち上り、人に似た形に塊は揺れるが、型を成すに至らず。 それを嘆くかの如く、ソレはすすり泣きの様な怨嗟の声をあげる。 「聞こえた‥‥居る、ぞ」 その声を、真っ先に聞きとめたのは慧。 「んーと‥‥たぶん、あっち?」 「こっちだ」 勘で透歌が示した方と逆へ、慧は歩を進め。 「聞こえるか、『出た』ぞ!」 咆哮でなくても十分な大声で、ゼロが仲間へ呼びかけた。 「あっちに、何かいるな‥‥位置的に客室か?」 知らせの声に意識を凝らした厳靖は、先の『心眼』で探った時より増えた気配に眉を寄せる。 「よし、行こう!」 「はいっ」 促す蓮耶に緊張した面持ちのリーディアが答え、自然と早足になる二人の後を、大して急がず厳靖が続いた。 壁を抜けるのは厄介だが、幽霊は強いアヤカシではない。 「これだけ居れは、俺は動く必要は無いかねぇ」 『頼もしい』者達の背を追いながら、ぽつりと厳靖はそんな言葉を口にした。 「出たようね」 慌ただしくなった仲間の動きに、シアはいつでも動けるよう、軽く拳を握って身構える。 「直接援護に行かなくても、各班で十分渡り合える相手だろうし‥‥大丈夫と、思うけど」 「こっちに出て来たら、ルンルン忍法でやっつけちゃいます!」 「ああ‥‥ここで暴れられると、困るからな。そうなれば、速やかに片付けたい」 キースもまたシアと同様に、非力な者達を背にして、いつ壁を抜けてアヤカシが現れてもいいように備えた。 「ホントは庭とかお風呂場とか広い場所まで、引っ張り出せたらいいんですけど」 だがルンルンにはそれを実行する手はなく、策も思いつかず。 非力な者達を守っている以上、今はこちらへ現れないように願って見守るのみだった。 追い詰めても、壁を抜けて逃げられては手間がかかる。 故に彼らは同じ場所へ集まらず、あえて分散して幽霊を追い詰めた。 「幽霊の正体見たり、枯れ尾花‥‥か」 漂う影にいち早く気付いた慧が、打剣の技で狙いを定め。 ひと息に、風魔手裏剣を投げ放つ。 もやりとした瘴気の塊へ、狙い違わず十字型の手裏剣は突き立ち。 だが次の技を仕掛ける前に揺らめいて、壁へ向こう側へ消えた。 音を立てて落ちた手裏剣を、駆け寄った慧が拾う。 「に、逃げちゃいました!」 「大丈夫。向こう側に、ちゃんといる‥‥」 あわあわと心配する透歌に、シノビは耳をすませ。 「アッチで、上手く片付けてくれればいいんだが。俺が暴れると、いろいろブッ壊れそうだしなぁ」 自分の手加減のなさを一応自覚しているのか、ぼやくゼロに小さく慧が苦笑した。 「うぉ! ホントに壁を抜けてくるんだな‥‥一瞬、焦ったぜ」 すすり泣きながら現れたソレに、思わず蓮耶は一歩後退った。 その様子を見て、ニヤリと厳靖が口角を上げる。 「もしかして緋室、死者の魂とか霊とか、怖いのか?」 「怖くねぇし、それよりもだっ。逃がさねぇぜ、アヤカシ!」 誤魔化しなのか、とっとと片付けたいのか。 厳靖のにやにや笑いをよそに、太刀を抜いた蓮耶が『咆哮』する。 その背へリーディアが加護を祈れば、後姿が一瞬、淡い光に包まれた。 ふわりと浮いた幽霊が近づけば、蓮耶の耳に怨嗟の声が流れ込んだ。 否、それは耳から聞こえる訳ではなく、頭の中で直接ぐわんぐわんと鳴り立てる。 「ああ、うるせぇ!」 その声を断ち切るように、渾身の力で蓮耶は太刀を振り下ろした。 揺らめく炎に、白刃の一閃が翻り。 弾ける様に散る気配の名残を立ち落とすように、続いて厳靖が刀「翠礁」を抜き払う。 ぐずりと床へ落ちた瘴気の塊は、何の痕跡も残さずに消え去った。 「終わった、ようですね」 戻ってきた静寂に、まだ緊張を残したままのシアが仲間へ目をやる。 「ああ、もう大丈夫だ。アヤカシは退治した」 緊張を解いたキースが告げれば、依頼者達はほっと安堵の息を吐いた。 ●骨休め 「まずは風呂だな! 飯の前に、ひと汗流すか」 「温泉っ。温泉入りたいですっ」 嬉々とした厳靖に、しゅたとリーディアが手をあげて、他の者達も後に続く。 何度も頭を下げて礼を繰り返した一家は、その間に食事の用意をすると厨房へ下がった。 「で、混浴か?」 「な‥‥っ!?」 期待する蓮耶とは逆に慧がうろたえ、廊下を歩きながら厳靖はゼロを見やる。 「俺は、どっちでもいいが?」 「じゃあ、混浴で。その方が面白そうだ」 「ダ、ダメだ。そんな破廉恥な行為は、ダメに決まっている!」 「気にするなって、湯に浸かっちまえば、分からねぇから」 慌てふためく慧を、嬉々としてゼロが引っ張って行った。 「普段なら遠慮するけど、これが報酬代わりなら楽しまなければ損よね‥‥天儀の、大人数でお風呂に入る習慣には、まだ慣れないけど」 心置きなく足を伸ばしながら、シアはほぅと息を吐く。 大人数といっても、女湯にいるのはキースとルンルン、リーディアと彼女の四人だ。 期待しているかもしれない男達には悪いが、易々と目の保養にされる気もなかった。 「無事に幽霊も退治出来たし、極楽極楽です‥‥コレで、覗きさんがなければ!」 嬉しそうにルンルンは湯を手ですくい上げ、ぱしゃぱしゃと遊んでいる。 「えと、ナガブロは危険なのですよね? 後はこれで桜が見れたら、とっても素敵でしょうが‥‥まだ、見れないようです」 確認したリーディアは、やや残念そうに葉の落ちた周囲の木々を見やった。 「もし咲いていれば、長風呂になったかもな」 苦笑して、キースは指を組んだ腕を伸ばし、身体をほぐす。 「そういえば、部屋割りは?」 「それでしたらキースさんとシアさんに、蓮耶さん。ルンルンさんと慧さん、私。厳靖さんと、透歌さん、それからゼロさんになりました」 指を折ってキースへ数えながら、嬉しそうにリーディアが説明する。 部屋割りは男女の別に構わず、くじ引きで決まったのだが、まぁ見事に入り混じっていた。 「ふふふ。何だか、子供の頃に戻った気分です♪」 無邪気なリーディアに、キースも思わず小さく笑う。 「同じ格闘戦で戦う先輩開拓者、色々、話を聞きたいわね。キース」 「ああ、俺の話でよければ」 湯をかいてシアが肩を並べ、彼女は黒い瞳を細めた。 で、透歌はといえば。 「お背中を流しましょかー?」 無邪気な笑顔と共に、男達が占拠した混浴へ『乱入』していた。 10歳ほどの少女となれば歳の離れた妹か、人によっては我が子ほどの年頃で。 「じゃあ折角だし、頼むかなぁー」 「はーい!」 手ぬぐい片手に蓮耶が苦笑すれば、明るく透歌が答える。 「ふう、極楽、極楽‥‥花なんざなくても、酒があれば十分だよな。ほれ、ゼロも飲め。慧も」 酒を入れた銚子の口を、気軽に厳靖は二人へ向けた。 「この後の食事でも、飲むのだろう?」 「それとこれとは、別だ」 困惑しながら酌を受ける慧を、からからと厳靖が笑い飛ばす。 「部屋割りも、男女混合は良くない、と思うぞ‥ッ」 酒のせいか湯のせいか、顔を赤らめる慧にゼロは酒杯を傾けた。 「じゃあ、目が冴える様なら俺らの部屋に来るか?」 「でも私、起きるの早いですよ〜?」 蓮耶の背をごしごし洗いながら、透歌が断る。 「まぁ‥‥そのくらいは。もし眠れなければ、そうしよう」 一晩、悶々とするよりはと、慧は空を仰ぎ。 煌々と輝く白い月は、じっと彼らを見下ろしていた。 |