名残の雪の戯れを
マスター名:風華弓弦
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/22 19:36



■オープニング本文

●佐和野の冬
 武天にある佐和野の村は、一面の白い世界に包まれていた。
 村を囲む田んぼも深い雪に覆われ、寒くても元気な村の子供達が白い息を吐きながら、日々雪遊びに興じている。
「あと半月もすれば、この雪も消えてなくなるのう」
 遠く、子供達の遊ぶ声を聞きながら、日当たりのよい縁側で小斉(こさい)は目を細めた。
 閉ざされている間は雪も何かと難儀な厄介ものではあるが、じきに解けて流れて消えてしまう頃になると、妙に侘しくなってくる。
 全くもって勝手なものよと、心の内で笑いながら、齢70に近い老身の男は湯気の立つ湯飲みを傾けた。
 初冬に来た開拓者達のお陰もあって、冬篭りの準備にはさして手間を取られず。
 冷え込みも程々、雪も程々で、やがて鉛色の雲の間から差し込む和らいだ日差しに、ゆっくりと近付く冬の終わりが感じられた。
「春になれば、また色々と忙しくなろうてなぁ」
 過ぎようとする季節を惜しみながら、しみじみと小斉老人は子供らの声に耳を傾ける。
 しなっていた木の枝からバサリと音を立てて、雪の塊が落ちた。

●名残の雪の戯れを
 長火鉢の五徳に置いた鉄瓶が、静かに湯気を吹く。
 縁に手をかけて暖を取りながら、崎倉 禅は小斉老人から届いた手紙を呼んでいた。
「何の文だ。もしかしてまた、厄介事か?」
 火鉢の反対側で手をかざすゼロが、さして興味もなさそうに聞けば、苦笑して崎倉は手紙をたたむ。
「俺の師匠からだ。雪しかないが、暇をしているなら遊びにでも来い‥‥とな」
「雪、か。そういえばジルベリアの方から、何やらきな臭ぇ匂いが漂ってきてるってな噂があるぜ」
 気だるそうに、ゼロは熱燗の銚子(ちょうし)を傾けた。
 ちらりと脇へ目をやれば、布団では穏やかな寝息をたてるサラがもそもそと寝返りを打ち、傍らでは藍一色の仔もふらさまが丸くなって眠っている。
「嵐の壁を突破した連中が、儀を発見して‥‥ジルベリアと交流が始まったのが、確か30年ほど前だったか?」
「ちょうど、それくらいだな。当時は随分とわいたモンだ。耳慣れぬ名を聞くたび、どんな場所でどんな人が住むのだろうと、子供ながら心躍らせてな」
 ゼロに答えながら、猪口(ちょこ)を片手に崎倉は遠い目をし。
「てめぇにも、ガキの頃とかあったのかよ」
 お決まりの冗談を飲み相手が返せば、からからと笑った。
「まぁ、何らかの『お呼び』がかかるかは分からんが、雪の中で動く勘を得るにはいいかもしれんな。それとも童心に返って、雪合戦にでも興じてみるか? もっとも寒さの程度は、向こうと比較にならないだろうが」
「雪合戦か‥‥声をかけりゃあ、面白がる連中がすっげー本気で乗っかりそうな気がするぜ」
「ああ、否定はしない」
 笑いながら崎倉は胡坐を崩して手を伸ばし、ずれたサラの布団をかけ直してやる。
「ここしばらく慌ただしかったせいで、ちゃんとサラに構ってやれてないからな」
 目を伏せて、そっと髪を撫でてやる仕草を、眺めるでもなく眺めながらゼロは猪口を口へ運んだ。
 不意の沈黙に、ジジと音を立てて行灯の炎が揺らめいた。
「で、そろそろ寝床へ戻らないのか?」
 火鉢の傍らへ戻った崎倉は、自分と相手の猪口に酒を注ぎ足し。
「一人じゃあ暖が回らねぇから、寒ぃんだよ。それにここだと、ただ酒が飲める」
「帰れ。今すぐ、帰りやがれ」
 追い払うように手を振る崎倉に、けらけらとゼロは笑った。

   ○

 翌日、崎倉はサラを連れて開拓者ギルドへと足を運んだ。
「サラ、雪合戦は好きか?」
「もふ!」
 じーっと無言のまま見上げるサラの隣で、仔もふらさまが楽しげに尾を振る。
「じゃあ、師匠のところへ顔を出しに行くか」
 少し間を考えたサラがこくんと小さく頷いて、ぎゅっと崎倉の着物を掴み。
 身を屈めて少女の頭を軽く撫でると、崎倉はギルドの係へ誘いを出す旨を伝えた。


■参加者一覧
/ 井伊 貴政(ia0213) / 犬神・彼方(ia0218) / 羅喉丸(ia0347) / 蘭 志狼(ia0805) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 鬼灯 仄(ia1257) / 巴 渓(ia1334) / 喪越(ia1670) / ルオウ(ia2445) / 御凪 祥(ia5285) / 白蛇(ia5337) / 神鷹 弦一郎(ia5349) / 設楽 万理(ia5443) / 藍 舞(ia6207) / からす(ia6525) / 痕離(ia6954) / 谷 松之助(ia7271) / 浅井 灰音(ia7439) / 天ヶ瀬 焔騎(ia8250) / 趙 彩虹(ia8292) / 春金(ia8595) / 久我・御言(ia8629) / アレン・シュタイナー(ib0038) / レートフェティ(ib0123


■リプレイ本文

●雪の里村、招かれて
「うわぁ‥‥凄い雪だね、鈴麗」
 どこまでも真っ白に広がる雪里の光景に、礼野 真夢紀(ia1144)は青い瞳を丸くして傍らの駿龍 鈴麗を見上げた。
 雪景色にか、あるいは真夢紀の様子に朋龍もまた喜んでいるのか。
 優しい目をした龍も「ご機嫌」といった表情で、小さな主へ顔をすり寄せる。
「鈴麗も、嬉しい? 来てよかったね」
 甘える駿龍へ、くすくすと笑いながら真夢紀は首を軽く叩いてやった。
「一面の雪って、天儀では珍しいの?」
 遠くジルベリアの地より訪れ、少し神楽の水に馴染み始めたところといったレートフェティ(ib0123)が、銀の髪を揺らして尋ねる。
 雪を踏んで後ろを歩く甲龍 イアリもまた、慣れぬ空気を確かめるように首をもたげ、大気の匂いを嗅いでいた。
「場所による、かな? 雪が降っても、大して積もらない場所もあるし、積もるところはこんな感じね」
 答える設楽 万理(ia5443)の足元では、忍犬 吉良が歩調を揃えて歩く。普段は大人しい落ち着いた気性なのだが少なからず心躍るのか、ゆらゆらと尻尾が揺れていた。

「遠路、よく来たのう」
 縁側に姿を見せた者達を、庵の主は快く笑顔で迎えた。
「久し振りだな、じーさん。あれから、具合はどうだ?」
「お主らのお陰で、この冬は楽に過ごさせてもらったからのう。そちらは変わらず、息災そうじゃな」
「うむ。小斉さんも、お元気そうで何よりなのじゃよ」
 初冬に顔を合わせた鬼灯 仄(ia1257)や春金(ia8595)は、風邪気味だった小斉老人の様子に安堵し、手短に挨拶をする。
 虎を模したという土偶ゴーレム 虎鮒も春金に倣って一礼し、仄の肩からは猫又 ミケが飛び降りて、すぐさま暖かそうな火鉢の横へ陣取った。
「お前‥‥はえーよ」
 満足げにぱたりと二つに分かれた尻尾を振る猫又に、先を越された仄は嘆息し、小斉老人はからからと笑う。
「道中は寒かったじゃろう、少し足を休めるといい。もっとも、すぐにまた寒い中で転がり回るじゃろうがな」
「腰を落ち着けたら動けなくなりそうだから、このまま俺は雪玉作りにでも行くよ。見物の皆さんは、ごゆっくり」
 立てた指をぴっと振って、天ヶ瀬 焔騎(ia8250)は家の囲いの外に待たせた甲龍 黒焔の元へ向かい。
「‥‥俺も行くか。焔騎に限ってないとは思うが、何かあったら困るからな」
 後に続く御凪 祥(ia5285)の蒼眼には、警戒よりもむしろ面白がる色の方が強く浮かんでいた。
「やれやれ。一応、様子を見てこようかな。彩虹さんは、どうする?」
 片目を瞑った浅井 灰音(ia7439)が友人へ声をかければ、何だか暖かそうな虎の毛皮製の『まるごととらさん』にすっぽりと身を包んだ趙 彩虹(ia8292)が、ぬれ縁に腰掛けて少し迷う。
「うーん。金ちゃんとまいぽんと、後から一緒に行くよ」
 肉球をふにふにさせて彩虹が手を振ると、隣に座った猫又 茉莉花も面白がってか、主を真似るように前足の片方をひょいとあげた。
「それじゃあ、後で」
 一人と一匹の仕種に小さく笑った灰音は青い髪を翻し、焔騎と祥の後を追う。
「後でね、ハイネー!」
 彩虹が声をかけた先で、祥の甲龍 春暁と灰音の炎龍 ロートリッターが翼を打った。

「若い者達は、元気なことよなぁ」
 龍達へ目を細める小斉老人に、崎倉 禅もまたいつも傍らにいる少女サラの蓑傘を外してやりながら、寒さをものともしていない者達を見送る。
「ところで、崎倉さん。サラちゃんに、例の事を聞いてみても良いかのう?」
「ああ。春金から、折り入って話があるそうだぞ」
 見上げたサラは微妙に不安そうな顔をし、崎倉の着物の袖を掴んだ。
「心配するな。そんな、難しい話じゃあないから」
「うむ。サラちゃんさえ良ければ、わしが一緒に雪合戦に参戦したいのじゃよ」
 是とも否とも取れぬ表情の少女へ、にっこりと春金は笑って胸を叩く。
「大丈夫。護衛は、この虎鮒に任せるのじゃ。動きは少々鈍いかもしれんが、頼り甲斐はわしのお墨付きなのじゃよ!」
「素早さなら、任せてね。茉莉花にも、援護してもらうから!」
 改めて土偶ゴーレムを紹介する春金の肩ごしに、彩虹も笑顔で付け加えた。
「小虹の頼みだしね。『モーリーホァ』でも『まつりか』でも、いーよ?」
 宝石の様な空色の瞳で、猫又もサラを見上げる。
「‥‥ゼン?」
 更に困った顔をするサラの頭を、崎倉は軽く撫でてやった。
「俺なら、ちゃあんと見てるから。お姉ちゃん達と遊びたければ、サラの好きにしていいんだぞ?」
「‥‥おねーちゃんたち、いいの?」
「もちろんなのじゃよ」
 恐る恐る尋ねる言葉へ春金が頷き、やっとサラは崎倉の着物から手を離す。
「よかったわね、はるちん」
 口は出さず、土偶ゴーレム 獅猩と共に顛末を見守っていた藍 舞(ia6207)が告げれば、春金はほにゃっと笑った。
「ありがとうなのじゃ。ホンちゃんとミーちゃんとわしで、必ずサラちゃんを守るのじゃよ」
「「おーっ」」
「もふー!」
 意気込む少女達の声に、何故か藍一色の仔もふらさまも混ざる。
「‥‥お前は雪玉代わりに投げられそうだから、大人しくしておけ」
 苦笑した崎倉は、もふらさまの頭をぽふぽふと叩いた。

「ところで、小斉のお爺さん」
 台所がある板間の方から井伊 貴政(ia0213)が顔を出し、声をかけた。
「帰ってきてからでいいんですど、台所をお借りしたいので」
 念のためにと断る貴政へ、庵の主は快く首肯した。
「そうじゃな。皆、覇気のある者達ゆえ、その分、腹も空こう。何かの支度をするのであれば、心置きなく使ぅてくれて構わぬぞ。神楽ほど大した物もなく、使いにくいかもしれぬがな」
「いえ、大丈夫です。煮炊き出来る場所さえあれば‥‥そっか、がっつり食事とか作っちゃっても、いいかもしれないなぁ」
 後半は思案の呟きをこぼしながら、貴政は一度庵を出て、炎龍 帝釈の元へ向かう。
「あたしも、後で台所を使わせてもっていいですか?」
「勿論じゃとも」
 続いて聞いた真夢紀へも小斉老人が答えれば、嬉しそうにぺこと頭を下げた。
「もし、何か足らぬ物があれば言っておくれ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
 勢いよく頭を下げて、真夢紀もまた荷物を預けた駿龍が待つ場所へとぱたぱた走って行く。
「ほんに、賑やかじゃのう。そうそう。雪遊び見物の供(とも)に、庵にある酒も好きに持って行ってよいぞ。冷える中でじっとしておるなら、内から暖めるのも欲しかろうて」
 頼もしい青年や幼い少女の背中へ目を細めた小斉老人が、思い出して告げれば。
「そりゃあ、有難い」
「太っ腹だねぇ」
 酒好きな開拓者達は一斉に、そして遠慮なく、目を輝かせた。

●白き戯れ
「いっちばーんっ!」
 まだ誰も足跡一つつけてない、まっさらな一面の雪。
 そこへ、力いっぱい天河 ふしぎ(ia1037)が突っ込んだ。
 踏み固められていない雪の中をぼこぼこと走り、心ゆくまで転がり、満足げに大の字になったところを土偶ゴーレム 花鳥風月がひょいと掴んで起こす。
「ありがと、花鳥風月」
 ひんやりと冷えていながらも、素朴な温かみのある朋友へ礼を言いながら、ふしぎはやってくる仲間達の姿を見つけた。
「みんな、遅いよー!」
「元気だな、ふしぎさん」
 寒がる様子もなく手を振るふしぎに、しみじみと感心する神鷹 弦一郎(ia5349)の後ろでは、嬉しげに駿龍 八尋が尻尾を降って雪で遊んでいる。
「八尋‥‥雪玉、作るか」
 ふと振り返って吹き溜まりのように盛り上がった雪に気付いた弦一郎は、駿龍へ小さく笑った。

「しかし、ここの村の連中も酔狂というか」
 わざわざ開拓者達のために、雪を固めて雪壁を作るなどして準備された雪原の一角を、面白そうにゼロが眺めた。
「オトヒメと‥‥ゼロとも一緒の、雪合戦‥‥だね‥‥」
 どこか嬉しそうな白蛇(ia5337)が、ミヅチ オトヒメとサムライを交互に見やる。
「ん? 雪合戦は、好きなのか」
「血が流れない‥‥面白い合戦だから‥‥好き‥‥」
「じゃあ、頼りにしてるぜ。面白い組分けになったし、よろしくな」
「うん‥‥争いが嫌いなオトヒメも‥‥これなら、頑張れると思う‥‥」
 二人の会話に蘭 志狼(ia0805)が視線を下ろせば、見られている事に気付いたのか、すすっと小柄なシノビはゼロの後ろに逃げた。
「‥‥崎倉の影響か?」
「ちげーから。つか、なんでそーなる」
 脱力気味にひらひらとゼロが手を振り、「ふむ」と真顔で志狼は考え込む。
「そういえば、ゼロとは同じ組だな」
「祥からは人が足らない側にって頼まれたし、仄もな」
「鬼灯が、か?」
「絶対、乙組に行けってよ」
「そういえば、鬼灯と別の組だったか‥‥面白い」
「ま、こっちの方が人は少ねぇから、ちょうどいいんだが」
 思案するサムライに答えてから、ゼロはまだ自分の後ろに隠れている白蛇の頭をぽむと撫でた。
「この志狼は顔はおっかねぇが、面白いヤツだから。安心していいぞ」
「む。そんなに俺は、怖い顔か? それに、面白くは‥‥ないと思うのだが」
 真剣に悩み始める志狼の様子に「な?」とゼロは後ろを見やり、目をしばたたかせた白蛇がこくんと頷く。
「貴様はどう思う、秋水‥‥聞いているのか?」
 意見を求めようと足元を見れば、朋友の姿はそこになかった。
 姿を探して見回せば、もふら 秋水は雪壁の影で独特の笑みと共に、じっとじーっと志狼達を見ていたりする。
「‥‥こっち見んじゃねぇっ」
「もふ〜ぅッ?」
 手近でもふもふしていた藍色のもふらさまを掴むと、傍若無人にブンッとゼロが投げた。
 もふーんっとぶつかったもふらさま達は、ころころもふもふと雪にまみれて転がる。
「まぁ‥‥うん。そのままサラの仔もふらさまと、遊んでいれば良い」
 どこか和むというか気の抜ける光景に、眺める志狼はやれやれと苦笑した。

「ところで‥‥アレはナンだろうな?」
 何やら『合戦場』とは別の場所に積まれて盛り上がった雪山を、怪訝な顔で谷 松之助(ia7271)が指し示せば、甲龍 剛【ゴウ】も主を倣うように首を傾げた。
「ふぅむ‥‥どうやら、誰かが雪玉用の雪を集めた。という訳でも、なさそうか」
 腕組みをした羅喉丸(ia0347)もまた、甲龍 頑鉄と顔を見合わせて不思議そうに唸る。
 そこへ、ばっさばっさと飛んでくる甲龍が一体。
「あれ、何やってるんだろう?」
「‥‥春暁」
 友人の龍を仰いで灰音が小首を傾げ、眉根を寄せた祥は自分の甲龍の名を呼んだ。
「目標よーし、装備よーし! 行くぞ、黒焔!」
 なにやら指差し確認をした焔騎は、突然不安定な甲龍の背で立ち上がり。
「とーぅっ」
 無謀にも、そこからひょいと飛び降りる。
「春暁、頼んだ」
 それと同時にぽそと祥が告げれば、頭上を舞っていた甲龍が翼を打って。
「すざくぅわぁぁぁぁーーーーーーッ!?」
 落っこちてきた焔騎を爪に引っ掛けると、絶叫をたなびかせながら飛んでいった。
 ――危険ですので、決して真似をしないで下さい。
「御凪殿、あれは‥‥」
「ああ、何か面白い事を企んでいたようだからな」
 微妙に苦笑の気配を含んで振り返った羅喉丸に、大した事でもない風に祥がしれっと答える。
「暖かい友情というか、容赦のないボケ殺しというか」
 拠点の友の一面を見て、松之助はくつりと笑った。

「しかしまぁ、ガキンチョと遊ぶんならともかく、何か哀しゅうて開拓者同士で雪合戦なんぞ‥‥と思ったが、みんなガキンチョなぐふっ」
 呆れて眺める喪越(ia1670)が、顔面から雪に接吻した。
 後頭部にかかる素敵な重量で、そのままめしめしと遠慮なく喪越は雪にめり込んでいく。
「ほほほ、使用人如きがやかましいですわ」
 優雅に扇子で口元を隠しながら、貴婦じ‥‥もとい貴婦土偶ゴーレム(?)が喪越を容赦なく踏んでいた。
「御機嫌よう♪ ジュリエットですわ☆」
 特別仕立てなのか、ジルベリア風のひらひらふりふりなドレスに身を包んだ土偶ゴーレム ジュリエットは、『優雅』に挨拶をする。
「こりゃあ、随分と個性的な‥‥お嬢さん連れだな。喪越」
 面白そうに仄が見物する足元で、ぼふぼふと雪を叩いて喪越が救出を求めた。

 それはさておき。
 肝心(?)の雪合戦の組分けは、次の通りとなった。
【甲組】
 鬼灯 仄、春金、趙 彩虹、藍 舞、天ヶ瀬 焔騎、巴 渓(ia1334)、谷 松之助、サラ
【乙組】
 神鷹 弦一郎、羅喉丸、天河 ふしぎ、蘭 志狼、御凪 祥、白蛇、ゼロ
「面白そうな組分けになったな。どっちが勝つか、賭けをしねえか?」
 茶を用意するからす(ia6525)へ、アレン・シュタイナー(ib0038)が賭けを持ちかける。
 かまくらほどではないが寒さをしのぐように雪を固め、藁を囲われた一角では、雪合戦に加わらぬ者達がのん気に『観客』をしていた。
「私は賭けぬ。今日はただ、見る側を楽しむつもりだ」
「そうか、残念だな」
 ぽしぽしとアレンは銀髪を掻き、その間にもからすは慣れた手つきで茶を入れる。
「冷えたろう。お茶は如何かな?」
「これは、すまんのう。気の利く娘さんじゃな」
 からすの勧めに会釈をして小斉老人が礼を告げ、湯気の立ち上る湯飲みを手に取った。
「儂も賭けはせぬが。お若いのは、どちらが勝つとみる?」
「俺は‥‥そうだな。賭けるなら、甲の方だ」
 雪玉を作る者達の顔ぶれを見ながら、にっと口の端に笑みを浮かべたアレンが答える。
「ほほぅ。乙の側も、なかなかの腕っ節な顔ぶれじゃが?」
「まぁ、勘だ。しかし雪合戦を見ながら、雪見酒か‥‥平和なもんだね、相棒?」
 あっけらかんと答えたアレンが顔を上げれば、炎龍 アッシュは控え目に喉をぐぅると鳴らして応じた。
「さて、穏やかに飲む酒になるかどうか‥‥地衝、命ず。私を『護れ』」
「御意にござる」
 見た目は幼いながらも達観したからすの言葉に、鎧武者を模した土偶ゴーレム 地衝が恭しく巨躯を折って一礼する。
「雪合戦で賑やかだぁが‥‥俺らはのんびり、酒でぇも呑もうか」
 大様に犬神・彼方(ia0218)が胡坐を組めば、傍らに痕離(ia6954)も腰を落ち着けた。
「父上と雪合戦を眺めつつ、お酒を開けられるとは。嬉しいなぁ‥‥」
 赤い瞳を細めながら、痕離は庵から持ってきた幾つかの徳利の一つを手に取り、栓を抜く。
 痕離の朋友である猫又 蘇芳を撫でてやりながら、紅は気が利く子だぁなぁと、彼方は椀に酒を注ぐ痕離の手つきを見守り。
「たまにゃ、家族と雪見もいいさ‥‥なぁ、黒狗よ」
 穏やかに己の仔らを見守る甲龍 黒狗へ、笑って彼方は酒を掲げた。

●全力童心
「そぉぉぉれ、くらえぇぇぇぇぇ!」
「負けるかーッ!」
 青空の下、力の限り投げられた雪玉が、ぶんぶんと飛び交う。
 一言で言えば、最初からクライマックス。
「力いっぱい、本気でやってるなぁ」
 どこか感心した風に、見物する崎倉がからからと笑った。
「兎に角、勝負は勝負。負ける気も、容赦する気もない」
「それに全力を尽くすからこそ、面白いというものだ」
 そんな乙組の主張に、当然甲組も負けてはいない。
「遊びだからって、こっちも手は抜かねぇ!」
 おもむろに、渓が傍らを漂う鬼火玉 ヒートをがっしとワシ掴みして。
「行っけー!」
 そのまま、ブンッと乙組の陣地へ投げ込んだ。
 鬼火玉の『乱入』で、相手陣営のかく乱を狙う策‥‥だったのだが。
 ぼむんっ! と、何やら『いい音』がして、あらぬ方向に飛んでいく赤い流星が一つ。
「ちょっ、ヒートぉ!?」
「あぁ、やべぇッ! ‥‥つい、やっちまった」
 足元に転がってきた、ちょうどいい丸さの物体。
 それを反射的に蹴っとばした『本能で動くサムライ』が、焦り顔で放物線を見送った。
 ――朋友の身が危険ですので、投げるのも蹴るのも決して真似をしないで下さい。
「すまねぇ、悪かった。本気で蹴らなくて、良かったぜ」
 ぶぼぼ、ぶわっ、と。
 声なく炎を吹き出して『抗議』する鬼火玉の頭(?)を、ぽむぽむと撫でてゼロが謝った。
 ちなみに鬼火玉が普段まとう炎に熱はなく、直接手で触れるなどしても火傷する事はない。
「よかった、どうやら怪我ぁねぇようだな。つか、まーたとっさに蹴っちまうかもしれねぇから、あんま投げてやるなよ」
 つぃとゼロの手を離れると、鬼火玉は主である渓の元へ戻っていく。
「ゴメンな、ヒート‥‥って、こら、くすぐったいじゃないか。おい、ヒートってば」
 主へ大丈夫だと主張する様に、ぎゅむぎゅむ鬼火玉がじゃれつき、渓はころころと笑った。

 元気そうな鬼火玉に、ゼロがほっとするのも束の間。
 思いっきり投げられた雪玉(複数)が、ごすごすと次々にその顔面へ激突する。
「‥‥だぁっ、何しやがるッ!」
「ふん、これなら喰えねぇだろう」
 雪を払う相手へ悪ガキめいた笑って答えつつ、容赦なく雪玉をぶつける仄。
 それから場外に見える顔にも、ついでとばかりにブン投げた。
「へぶっ!?」
 思わぬ『流れ玉』にへち当たった喪越が、奇声と共にひっくり返る。
「あ〜‥‥すまん、わざとだ」
「ほ、仄ーッ! このぐがふっ!?」
 身を起こして抗議しようとした喪越だが、後ろからゴスッと傘で突かれ、再び前のめりにコケた。
「だらしない使用人ですわね。ワタクシの玉よけにもならないなんて」
 潰れて散った雪を払いながら、土偶g‥‥もといジュリエットは合戦場を眺めて、ほぅと嘆息する。
「寒いのは嫌いですけれども、その中で切磋琢磨するグッドルッキングガイ達‥‥素敵ですわねぇ」
 うっとりと頬に手をやったジュリエットの目が、猛禽を思わせる鋭さでキラリと光った。
「きっとこの中に、ワタクシの王子様がいらっしゃるはずですわ! 逃しませんわよ!?」
 何やら、メラメラと獲物を狙うスナイパーな気配を察知したか。
 男性陣の背筋に、冬の寒さとは別種なゾクリとした寒気が背筋に走ったのは、言うまでもない。

 ‥‥そんな悪寒を、振り払いつつ。
「剛、身体を動かしてみようか」
 声をかけた松之助と共に甲龍はぱさりと軽く翼を打ち、敵陣からの雪玉をその身で受けて陣を守り。
 片手で雪玉を抱えた弦一郎は強固な守りの死角を狙い、駆け回っていた。
「遠距離攻撃で、我ら弓術士に勝てると思うなよー!」
 楽しげに弦一郎が投げる雪玉は、柔らかめに固めたものではあるが、その命中精度が半端ない。
「うぬぬ。なかなか、攻撃に出られぬのじゃよ」
 自陣の雪壁の影で、春金は足止めを食っていた。
「サラちゃんは大丈夫かの、虎鮒?」
 見える土偶ゴーレムへ声をかければ、雪玉をものともせずに「うむ」と一つ頷く。
「わしの後ろで、思いっきり雪玉投げても良いぜよ」
『頼れる盾』は、後ろで身を竦めている者達へ声をかけた。
「持ってきたよ、小虹。さらも、投げちゃえ投げちゃえ☆」
 雪玉を握るのも下手なサラの様子を見かねたか、猫又が器用に雪玉を転がしてくる。
「よっし。頑張るよ、サラちゃん!」
 雪玉を掴む彩虹にならって、サラもひんやりとした雪の塊を手に取った。
 応援する彩虹や春金に励まされ、そーっと陰から顔を出せば。
「ぺふっ」
 ぽてん、と。
 雪玉が額に当たって弾け、小柄な身体が後ろにひっくり返る。
 ゆるく握られた流れ玉的な雪玉に、大したダメージはないが。
 ‥‥ぷち。
「よくも、サラちゃんをーッ!」
 彩虹のナニかが、キレたのか。
 一気にあふれ出した赤い闘気が、小柄な身体を包み込んだ。
「おぉ、彩虹さんが本気だ‥‥!」
 ヤる気満々なまるごととらさんの後姿に、思わず灰音が身を乗り出して拳を握る。
「頑張れ、彩虹さん! とらのお姉さんとしての実力、今こそ発揮するときだよっ!」
「うんっ、てやあぁぁぁーーーっ!」
 灰音の声援を背に受けて、紅い疾風が乙組の陣へ駆けた。
「来るか、趙さんっ」
 大小の雪玉が、飛び交う中。
 泰拳士ならではの技と身軽さを駆使して迫る友人を、祥は正面から迎え撃たんとする。
 ちなみにサラにぶつかった雪玉は祥が投げたモノではないが、既にそんな事は関係なく。
「くらえーっ!」
 コートを翻し、隠し持っていた雪玉を次々と投げる彩虹に。
「旗と俺に、触れさせるつもりは‥‥ない!」
 祥もまた雪玉を投げて応戦し、飛んでくるそれらを撃ち落とす。
 それはある種、極限的に地味だがタクティカルな攻防。

 ‥‥そんな戦いが繰り広げられる一方で、何やら志狼はもりもりと雪を掘り集めていた。

「何がなんだかよく分からんが、祥さんもホンちゃんもとにかく凄い戦いっぽいのじゃよ」
 妙に感心して、遠目に彩虹と祥の戦いを眺めていた春金だが。
「サラちゃん、怪我はないかの?」
 髪についた雪を払ってやれば、小さくこくんとサラが首を縦に振る。
「よかったのじゃ。それにしてもオトンはともかく、ミーちゃんはどこじゃろうか」
 ぐるりと春金が辺りを見れば、自陣の雪壁近くに友人の土偶ゴーレムが見えた。

●無邪気なる闘争
「乙組だからって、僕は乙メンでも、乙メでもないんだからなッ!」
 自ら墓穴を掘りながら、土偶ゴーレムを盾にしたふしぎが甲組の陣を攻めていた。
「ふしぎん、誰もそこまで突っ込んでないけど、突っ込んだ方がいい?」
「突っ込まなくていいからー! 花鳥風月、強力招来‥‥巨大雪玉彗星落とし!」
 礼儀として(?)聞く舞に、大きな雪玉を抱えた土偶ゴーレムへふしぎが呼びかければ。
「獅猩! こっちも強力、迎え撃ちなさい!」
「をおぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!」
 舞もまた、土偶ゴーレムでこれに応戦する。
 どむっ!
 放り投げられた二つの巨大な雪玉が激突し、砕かれた雪の塊が散った。
「んぎゃ!」
「うわっ!」
 飛び散った雪玉が、べふっと二人の顔面にへち当たる。
「土偶さん対決だね! どっちも頑張れー!」
 朋友同士の豪快な雪合戦に、銀髪を揺らしたレートフェティがぴょんぴょんと跳ねながら応援すれば、彼女に合わせて甲龍も腕につけた毛糸のボンボンを振った。

 そんな派手派手しい戦いの裏で、白い雪の中を白い影が渡り歩く。
 見つかりそうならば、『秘術・影舞』で己の姿を隠し隠し行くが。
 ばしっ! と、鋭い音を立て。
 行く手を遮る、雪の玉。
「蛇の道は蛇、よ」
 雪踏む足音までは消せず、朋友に土偶ゴーレムを任せた舞が行く手を塞いでいた。
「う‥‥」
 一瞬、白蛇はたじろぐが。
 二つの旗と自分との距離を見て、ひと息に駆ける。
 と同時に、舞も雪を蹴った。
「‥‥早い」
「そっちもね!」
 風をまき、シノビの少女二人は互角に雪原を疾走し、雪玉を投げ交わす。
 だが、その間に。
「舞、この旗は貰っていくよ!」
「あぁっ、いつの間に!」
 宣言する声に舞が慌てても、後の祭り。
 やはり朋友に後を任せて紛れたふしぎが、甲組の旗の一本を奪っていた。

「甲組が、まずは一本を取ったか。なかなか、読むのう」
「だが、勝負は最後まで分からないものだからな。しかしこの古酒というのも天儀酒も、ヴォトカとはまた違う味わいで、旨いなぁ」
 感心する小斉老人にアレンはまだまだと答えながら、酒を飲み比べる。
「そういえば、小斉おじいちゃま。天儀流の応援の仕方って、あるの?」
 小首を傾げてレートフェティが尋ねれば、慣れぬ呼ばれ方にけふんとむせてから小斉老人は考え込んだ。
「そうじゃな。あまり子女が着物の裾を乱して騒ぐという事もせぬ故、せいぜい男どもが応々とはやす程度かのう。演じ物なら手を叩き、役者が見得などを切る時に屋号の声をかけたりもするが」
「お芝居の最中に、かけ声とかするの?」
 興味深げに面白そうに、レートフェティは話を聞く。
 そんな他愛もない周りの時間も、よい肴なのか。
 楽しげに、彼方は痕離と酒盃を交わしていた。
「父上と開けるお酒は、美味しいなぁ」
 嬉しそうに目を細める痕離に、彼方も酒を酌してやる。
「俺ぇも、紅と呑む酒は格別に美味ぇよ♪」
「でも、いいのかなぁ」
 緩やかな時間の独り占めが、気になるのか。
 少し申し訳なさそうな顔をする『紅』の頭を、彼方は笑いながら何度も撫でた。
「最近は、争い事ばっかりだったぁしな。ゆっくりと子供と酒を呑む機会も少ないから、俺ぇはソレを大事にしたいんだぁよ」
 それに、そろそろ大きな戦の始まる気配がぁしているしなぁ、と。
『犬神の父』は、僅かに吹く風の気配を憂い。
「しっかり、羽休めしよぉじゃないか。黒狗にもぉ毎度心配かけてるし、安心させてやらねぇと」
 傍らに伏せた甲龍が擦り寄せる顔を、ぽんぽんと彼方は叩いて撫でる。
「じゃあ、遠慮なく。うっかり何時もより多めに呑んでしまっても、御愛嬌‥‥という事で」
「あぁ、呑め呑め。父が酌をしてやる酒だぁ」
 家族に遠慮はいらないとばかり、朋友達にも彼方は酒を勧めた。

「旗を取られたなら、取り返せばいいさ!」
 ボケ殺しの刑から帰ってきた焔騎が、大きく振りかぶり。
「全力全開で、今を楽しむ志士、天ヶ瀬だ。手加減なんてしないぜ?」
 言いながら、何故かだ微妙に流血しているのは、どこからどう見ても手加減されていない側だった。
「くらえ、紅き雪球を!!」
「‥‥文字通り、身を削って芸に走るか」
 ぺしぺしと投げられる血まみれの雪玉に、羅喉丸は呆れた顔をして。
「やれ、頑鉄。大きいという事は、強いという事を教えてやれ!」
 雪壁を盾にする主の一言に、積んだ大きな雪玉の傍らで甲龍が尾を振るった。
「ちょい、それは反則じゃないけど反そぐぁばーっ!」
 飛来した巨大雪玉に、へち潰される焔騎。
「ぐふ‥‥俺に構わず、シカバネを越えてい‥‥」
「おう! 遠慮なく越えるぞ!」
 でし。と容赦なく踏んだ仄が、乙組の陣へ攻め込む。
「俺を、踏み台に‥‥っ!」
 ネタの踏み台にされつつも、前のめりに雪に埋もれた焔騎はもがもがと雪をかく。
「傷ついても自分の身を省みず、仲間の礎となる‥‥いい心意気ですわ。そうですわね、下々の者を労うのも上流階級の義務。宜しいでしょう! 雪合戦のMVPとなった方には、ワタクシのキスを差し上げますわ!!
 ――キャ ☆ ワタクシったらダ・イ・タ・ン♪」
「くっ、寒い‥‥ナニカが寒い‥‥ッ!」
「‥‥寒い間は、まだ大丈夫だ‥‥ぜ‥‥」
 はしゃぐジュリエットの足元で、返事のないシカバネ一歩手前状態の喪越が有難い助言をした。

 で、踏み台にした仄はといえば。
「大人しく、雪に埋まりやがれ!」
「てめぇ、寒ぃんだから投げてくるなよっ!」
 うふふあははとほのぼのしく、ゼロとの追いかけっこを繰り広げていたが。
「とぅっ!」
 別方向からの聞き覚えのある、気合一声。
 と同時に、白い視界が仄へ迫り。
 ぼごすっ!
「やれやれ。上手い事逃げ回るから、狙うのに苦労した‥‥存外、疲れるものだな」
『一仕事』終えた感で、いい笑顔の志狼が額の汗を拭った。
「で、雪合戦はどうなった?」
 ある意味、自分の中では終わってる気分だが、一応は確認を取る志狼。
「ああ。ナンかふしぎが向こうの旗を一つ、取ったみたいだぜ」
 雪だるま状態の仄をつつきつつ、甲乙両陣営が入り混じった状態の合戦場を見たゼロが答える。
 自陣の旗は、まだ何とか祥や弦一郎が守ってはいたが。
「折角じゃから、祥さんにも一撃加えねば!」
 サラを朋友に任せた春金もまた、攻め手にまわり。
「御凪殿‥‥すまぬ!」
 松之助もまた、防衛線を押し上げる形で甲龍と戦線に加わって。
「私、頑張ったよね‥‥?」
 混戦の中、辛うじて旗を掴んだ彩虹が、微笑みながらばったと倒れた。

●戦いすんで、日が暮れて
 無邪気かつ壮絶なる雪合戦は、日暮れも迫って時間切れとなり、一対一の引き分けで幕を閉じた。
 日が傾けば、走り回って多少は温まった身体も、また冷えを感じ。
 そんな者達の為が庵へ戻れば、暖かく空腹を誘う香りが待っている。
「鴨の時期もそろそろ終わりですし、鳥鍋にしましたよ。お野菜もたっぷり入れて、雑炊も出来るように用意したので、遠慮なく食べて下さい」
「椀の物も用意してあるし、がっつり飲み食いするなら酒の肴も作るよ」
 一足先に戻った真夢紀と貴政が、思いっきり遊んだ者達を出迎えた。

「サラ‥‥名前からして、ジルベリアの生まれかね。リンゴ剥くけど、食べるかい?」
 尋ねるアレンの手は、既に器用にリンゴをウサギの形に切っている。
「‥‥」
 皿に並べてもらったリンゴを、じーっと口数の少ない少女が見つめて。
 おもむろに春金や舞、彩虹の元へ持っていった。
「すまないな、ありがとう」
「いや。たまたま、リンゴがあっただけだ」
 サラの代わりに礼を告げる崎倉に、アレンは笑って答える。
「寒い寒い冬も、もう終わるのね」
 しみじみと、万理が呟いた。
「でも、雪なんか名残惜しくなんかわよね。どうせ、来年も降るんだもの」
「うむ。何百年経とうと、季節の巡りは変わらぬ。冬終われば、春が来る。夏秋過ぎれば、また冬が来る。人の世が変わっても巡る月日は変わらず、雪月花みな美しい」
 静かにからすが庭を見れば、白蛇はオトヒメと雪山を作り、頂上にふしぎから貰った旗を立てる。
 そして庵の主である小斉老人は、酒の杯を傾けながら、若い者達が宴の興じる様子をただ見守っていた。
 ‥‥月日は、巡る。
 だが『今宵』という夜は、後にも先にも一度限りという事を、誰もがよく知っている。
 だからこそ、なんの他愛のない日も全力で遊び、宴に興じるひと時は惜しみなく。
 程よい遊びの疲れに甘んじ、旨い料理に舌鼓を打ちながら、庵は遅くまで賑やかで穏やかな空気に包まれていた。