新しき年の飛び初め
マスター名:風華弓弦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/13 22:15



■オープニング本文

●今年の抱負。
「さぁて。今年こそ、試作滑空機を試作でなく、実用段階にまで持っていくぞー! おー!」
 粗末な小屋の真ん中で、ライナイト・フリューゲが一人気合を入れていた。
 そんな『先生』の様子を、毎度の如く怪訝そうな顔で『助手』の俊太が眺めている。
「で、具体的には何するんだよ?」
「先に回収した駆動部を再利用した物を加え、現状では三機の試作滑空機が存在する事になる。これまでは同じ構造の機体を活用していたけど、より選択肢を幅広くするなら、機体の構造についても比較していくべきだからね」
「‥‥それで、誰が飛ぶ訳?」
「そりゃあもう、柔軟さと頑丈さに定評がある彼らしか、いないだろうっ!」
 明後日の方向を指差しつつ、怖ろしく他人任せな結論に、力いっぱい俊太が大きな溜め息っぽいものを吐く。
「でもさ、先生?」
「なんだね、助手君?」
 手を挙げる少年を、ライナルトがびしと指を向ければ。
「‥‥村に来るまでが、大変だと思うよ」
 呆れ半分に、助手は窓の外を見やる。
 朱藩北部の山岳地帯に位置する村は、思いっきり深い雪に埋もれていた。

●初飛行、それとも初墜落?
 そうして、開拓者ギルドに相変わらずな依頼が並ぶ。
 内容は、試作滑空機の試験データへの協力。
 新年の初飛行という事で、機体と推進部を好みで組み合わせて、飛んでもらいたいという内容だった。

・選択できる機体
 【甲】水平方向の安定性に特化(左右からの風に強い)
 【乙】垂直方向の安定性に特化(上下からの風に強い)
 【丙】バランス型(どの風向きにも安定するが、突風や強風に弱い)

・選択できる推進部
 【壱式】風宝珠1(品質:中型、良)、浮遊宝珠2(品質:小型、並)。ライナルト所有・調整品。
 【弐式】風宝珠1(品質:中型、並)、浮遊宝珠2(品質:小型、並)。ライナルト所有・調整品。
 【参式】風宝珠1(品質:大型、並)、浮遊宝珠1(品質:中型、並)。古い墜落グライダーより回収、再利用品。

・重心位置
 体格差もあるため、任意。

・補記
 試験飛行場を兼ねた放牧地が深い雪で埋まっているため、軌条は使用不可。
 雪上より、推進部を稼動させての自力浮上となる。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
仇湖・魚慈(ia4810
28歳・男・騎
火津(ia5327
17歳・女・弓
慧(ia6088
20歳・男・シ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志


■リプレイ本文

●雪山徒行
 雪深い山に這う道を、案内人の先導で開拓者達が歩いていた。
「確信はないんだが、上はもっと寒いんじゃないのか。これ」
 長身故に、時おり吹く風が巻き上げた雪を多めに蓑笠へくっつけながら、王禄丸(ia1236)が山の先を仰いだ。
「そうか? それ程でも‥‥ああ、言うとくが酒は飲んどらへんで」
 身体を揺らして呵呵(かか)と笑うは、斉藤晃(ia3071)。
「それは‥‥珍しい」
「仕事は、きっちりこなさんといかんからな。このぐらいの自制はするで。なんやこう、初めて乗るから、わくわくしてしもうてるけどな」
 王禄丸と斉藤の話を聞きながら、仇湖・魚慈(ia4810)もまた何度も首を縦に振る。
「ああ、私もですよ。空を飛ぶのは男の浪漫。いやあ楽しみですね、楽しみですね」
「気が高ぶって、寒さを忘れているだけな気も」
「あながち、外れていない気がするのじゃ〜‥‥そして、まろは眠いのじゃ〜‥‥ふぅわ」
 テンションの高さをルエラ・ファールバルト(ia9645)が指摘し、火津(ia5327)は大きな欠伸をした。
「火津さん。雪山で寝ちゃうと‥‥起きれないよ?」
「それはそれで、よさげじゃのう〜」
 柚乃(ia0638)が気遣えば、眠そうな火津は右へ左へ頭を揺らす。
「先頭を歩けば、目が覚めるかもしれないが‥‥」
 ぽそりと慧(ia6088)が提案すれば、ぽむと火津が手を打った。
「前がよく見えれば、目も覚めるとかいうのじゃな〜。では、試みに‥‥」
 歩調を早めて、ひょいひょいと前を歩く王禄丸や斉藤を追い抜いてみれば。
 ヒョォゥ‥‥ッと華奢な身体へ容赦なく吹き付ける、雪混じりの風。
「あの、火津さん?」
 固まった背中へ心配そうに声をかける柚乃に、ルエラが苦笑する。
「どうやら、寒さが骨まで凍(し)みたようですね」
 ‥‥日頃動かぬ者に、冬山の寒風直撃は厳しかったようだ。
「それにしても、このような僻地でグライダーの研究を行う技師がいるとはな」
 何故かとてもとても楽しげに、鬼島貫徹(ia0694)がうっすらと霧氷の付いた顎鬚を撫でた。

 辿り着いた山村は、何の変哲もない質素な村だった。
 そんな風景で唯一目を引くのが、たまに見かけるグライダー。
 金属や木で作った機体は、どれも使い込まれて古びた感が見て取れた。
「おーい!」
 村の様子を見聞しながら歩いていると、少年の声が一行を呼び止める。
「先生が頼んだ、開拓者の人だよな?」
 声を辿れば15歳くらいの少年が、ぶんぶんと手を振っていた。

●腹が減っては
 昼時で賑わう飯屋には、暖かい湯気が立ち込めていた。
「来よった来よった。仕事の前に、腹ごしらえは基本やからな」
 キジ肉入りのウドンが前に置かれると、待ちかねたように斉藤は軽く手を合わせて箸を取る。
「これは、美味しい。生き返りますね」
 ほくほくと熱い息を吐きながら、ルエラは舌鼓を打ち。
「うん。でも何よりオススメは、ここのキジ団子鍋かな」
 嬉しそうにライナイト・フリューゲが握った箸を動かし、呆れ顔でずずーっと助手の俊太が汁をすすった。
「仕事が終わったら、鍋を肴に一杯も旨そうだな」
「ああ、いいなぁ‥‥それは」
 ふむと鬼島が興味を示せば、王禄丸もまたしみじみと呟く。
「お昼を食べながら、晩御飯の相談‥‥?」
 少しずつウドンを食べる柚乃が、どこか不思議そうに小首を傾げた。
「試験の初飛行とやらの後やったら、存分に酒を呑んでも大丈夫やろ」
「いい食べっぷりだね。皆」
 塩握りを口へ放り込む斉藤にライナルトが感心すれば、汁までは飲まず火津は箸を置く。
「じゃが、食べ過ぎたりはせぬぞ〜。動きも鈍くなるし、危険じゃからの〜」
「腹八部目やな。腹空きすぎて、力でんのも困るやろ」
「なるほどなぁ」
 答える斉藤と火津を見比べて、何やらライナルトは納得顔をし。
「あ‥‥ナルトさん?」
「げふんっ」
 紫の瞳を向けて柚乃が呼べば、思わず魚慈がむせた。
「それ何て、鳴門巻き‥‥! 思わず、鼻からウドンが出るかと思いましたよ」
 だが微妙な間違いに気付いていないのか、きょとんとしてから少女は質問を続ける。
「ほんとに、空を飛べるの‥‥?」
「飛べるよ。誰でも簡単に、安定して飛べるようにするのが目標だね」
「空に浮かぶ‥‥か。しかも飛べる‥‥生身で。凄い事だな‥‥」
「うん、それは楽しみ‥‥落ちなきゃ」
 ほんのり嬉しそうな慧と柚乃の様子に、助手が嘆息した。
「落ちないように作ってる‥‥筈なんだけどさ。先生は」
「ほら、不測の事態というものは、常からついて回るものだから」
 もごもごと口を動かす『先生』に、器を抱えて汁を干した魚慈がはたと膝を打つ。
「腹が膨れたら、思い出しました! もふらさんが乗っても壊れない! 仇湖魚慈です! どうぞよろしく!」
 声を張って自己紹介をする魚慈に、目をぱちくりさせたライナルトがちゅるんとウドンを吸い込み。
「牧場で一番でっかいもふらさま、乗せてもいい?」
「潰れるから、先生。一丈(約3m)もあろうかって、大きさだし」
 妙にわきわきしながら聞く先生に、助手は淡々と告げた。
「私は、志士のルエラと申します。よろしくお願い致します」
「ルエラ君、か。ご丁寧にありがとう。皆には遠慮なく遺憾なく、チャレンジ魂を発揮してほしいね」
「そりゃあ、もう。私の『人生でやってみたい事一覧』にも、当然入っていますから!」
「空を飛びたいは、ロマンやしな。グライダーには夢があるってか」
 力いっぱい魚慈が胸を張れば、湯飲み片手にからからと斉藤が笑い。
「発揮するにしても、この体格に見合った試作機があるのか?」
 既に器を空にした王禄丸が、真剣な表情で思案する。
「座席じゃあなくベルトで身体を固定するから、体格面は平気かな。操作棒の位置が低いのと、風の抵抗が問題?」
 自分より遥かに長身の王禄丸へ説明するライナルトを、値踏みするが如く鬼島がしげしげと眺めていた。

●初飛び七様
 作業小屋のある斜面は、一面が真っ白な雪で覆われていた。
 斜面の山裾側では、白いもふらさま達がもふもふと群れている。
 天気は薄曇りで淡く太陽が雲に透けた空の下、柚乃は天を仰ぎ、目を閉じていた。
 しばらく、じっとそうしていた末。
「天気は‥‥夕方には、強い風が出て荒れるけど‥‥それまでは、大丈夫」
 やがて目を開いた柚乃は、こっくり頷いてから『あまよみ』の結果を仲間へ告げる。
「ありがとう、助かる。安心して、飛べそうだな」
 頷いた慧が礼を言い、自然と視線は三つの機体へ向けられた。
「あの大空を駆け巡る‥‥か。夢のようだな。大空に浮かべば、俺の『我が君』も見つかるだろうか‥‥」
 いずれも基本は似たようなフォルムだが、固定された翼の形や、機体の胴体部分がそれぞれに違う。
 左右の風に強い甲型機体と、上下の風に強い乙型機体、そしてバランス型だが突風や強風に弱い丙型機体。
 これに、動力源となる推進部を組み込むのだ。
 良質の風宝珠一個と、並品質の浮遊宝珠二個を使用した推進部壱式。
 弐式は並品質の風宝珠一個と、並品質の浮遊宝珠二個を使用している。
 これに加えて、墜落した古いグライダーから回収した推進部が一つ。
 新しい参式は風宝珠一個と浮遊宝珠一個を使用する。本来はこれが基本的な組み合わせで、宝珠自体は他の物より一回り大きい。
「今回の試みで、何が判るのだ?」
 興味津々で試作滑空機を観察する鬼島が尋ねれば、ライナルトは頭を掻いた。
「機体と推進部の相性や、搭乗者と機体による違い、かな。既存グライダーの推進部がある事で、下位品質の宝珠二つを使った推進部と性能比較できると思うんだ。良質な宝珠は性能もいいけど高くて、金額面の負担が大きい。そこで、安価で安全なグライダーを模索している感じ。だね」
 説明したライナルトは、谷の向こう側を示す。
「山腹の傾斜地に村が多いこの辺はグライダーが大事なんだけど、風の癖もあって事故が多いんだよね」
「必然ならば致し方なし、か。旧態依然の老人達の中には、新しい技術の価値を認めたがらぬ者も多いが」
 腕組みをして、鬼島は開けた眺望を見据えた。
「近い将来の戦は、間違いなく空を制する者が勝つ事になるだろう。生産、運用の費用を考えると龍に勝る滑空機は、今後の航空戦の主流となる可能性を秘めているからな」
「龍と滑空機なら、一長一短てトコかな。むしろそこは、適材適所な采配の見せ所じゃあ?」
 片眼鏡越しにライナルトが悪戯っぽく片目を瞑れば、相手は喉を反らして大笑する。
「判っておるな。グライダーの扱いや性能を知る研究者は貴重、いずれこの村ごと買ってやるわ」
「先生、準備できたよー」
 鼻息荒く鬼島は息巻き、助手がライナルトを呼んだ。

「こないなモンで空飛べるとはなぁ、凄いのぉ。わくわくしてきたで」
「ああ‥‥覚悟は出来ている」
「お願いしますね」
 助手から操縦法を聞いた最初の三人が、グライダーの上で身構える。
 最初に飛ぶのは、甲型機体に推進部壱式を組んだ慧と、乙型機体に弐式を組んだルエラ、そして丙型機体に参式を組んだ斉藤だ。
「上は風の具合が判らないから、注意してよ」
「そういや、一通りやってほしい事とかあるか?」
 助手が念を入れ、尋ねる斉藤へライナルトはひらひら手を振る。
「自由でいいよ。飛び慣れない者が飛ぶ時点で、既に実験だから。ただし飛び過ぎて遠くへ行かないよう、気をつけて」
 最初に浮遊宝珠を起動すれば、雪を散らしながら機体が静かに浮かび。
 次に風宝珠を動かすと、試作滑空機は前進する‥‥のだが。
「ひゃっほ〜ぉぉぉお〜っ!?」
 勢いよく飛び出した機体に、地上にいる時と同様に立っていた斉藤の身体がぐんっと後ろへ引っ張られ。
 空と雪原が、逆転した。
 ぼぐめしょっ!
「‥‥落ちたぞ」
「うわぁ、晃さん!? なんて、美味しい落ち方を‥‥ッ!」
 王禄丸が見たままを言い、魚慈が慌てて駆け寄る。
「ぐぬ‥‥この斉藤、機体だけは守った‥‥で‥‥」
 見事に身体から雪へと『着地』した斉藤は、そのまま機体の下でガクリと力尽きた。
「その心がけ、見事だ。しかと見届けたぞ、斉藤」
「待てぇ、勝手に殺すなや」
 腕組みをし、寒風に吹かれながら瞑目する鬼島へ、雪をたしたし叩きながら埋もれた斉藤が訴える。
「‥‥生きてるみたいだな」
 身軽なシノビが、雪の中から助け出される様子を上空から見守り。
「上は結構、風がありますね」
 身を切る風に、腰を少し落とした体勢のルエラが身体を強張らせた。

 二番手は甲型機体に参式の火津と、乙型機体に壱式を合わせた鬼島、それから丙型機体に弐式の王禄丸。
「やっぱり、重臣は低めがいいか」
 尊い犠牲を思い返しながら、おもむろに王禄丸はがっぽりと牛面を装着する。
「それ、被るのじゃな」
「ほんの防寒と、危険対策だ」
 感心というか、呆れたように見上げる火津へ、重ね着して膨らんだ牛頭男は胸を張った。
「安全性を保ったまま、いかに速度を出せるか‥‥だな」
 手をこすり合わせてから、喜色満面で鬼島も操縦棒を握る。
「空を駆け抜ける、一雫の流星になるのじゃ〜」
「‥‥本当の流れ星に、なったらあかんで」
 楽しげな火津へ、一足先に流れ星(?)になった斉藤が突っ込んだ。
 一番手の様子を思い出しながら、三人はそれぞれ機体を飛ばす手順を踏む。
 火津と鬼島の機体は、多少不安定ながらも空へと飛び。
 王禄丸の機体は、二人よりもやや低空気味で滑っていた。
「やはり、この辺りが限界か?」
 弐式の浮遊宝珠は、並みの物が二つ。
 巨躯の王禄丸が思いっきり着込み、なんだかんだと身に着けていれば、ちょっとキツいのかもしれない。
「この機会に限界へ挑戦するのも、いいだろうからな」
 安定するように。というより操縦棒の位置もあって、必然的に身を屈めた王禄丸が呟く。
 彼とは逆に、やや機体に振り回され気味なのが火津だ。
 柚乃と並んで軽い彼女は、風にあおられて機首が持ち上がると、前へ体重をかけて安定を図る。
「正直、かなり無茶をしておる自覚はあるが〜。ライナルト君達の空に憧れる気持ちは、良く分かるのじゃ〜。まろも、同じ気持ちじゃからの〜」
 長い髪を風に翻しながら、火津ははたと大事な事に気付いた。
「‥‥で、どうやって降りるんじゃ〜?」

「私らが八通り試すとして、残りはどうするんです?」
 見た目は悠々と飛ぶグライダーを眺めていた魚慈が、ふと気付いてライナルトへ聞く。
「それは、我が賢明なる助手君の役目だよ」
「ちょ、先生、聞いてなぁぁー!?」
 そこへグライダーが突っ込んできて、ぼむんと雪煙が上がった。
「ふぅ、やっと止まったのじゃ〜。着陸は、難しいのぅ」
「火津は軽い。浮遊宝珠の効果を少し緩めた程度では、容易に降りんだろう」
 固定のベルトを外した鬼島が、合点する。
「後は熱い風呂に入って、キジ団子鍋で一杯といくか」
「終わってみれば、空の旅はあっちゅう間やな。で、依頼の後はパーッと騒がんと」
「ライナルト殿。今回は貴重な体験、有難う‥‥皆も良くしてくれて有難う」
 後の事に関心が移っている鬼島や斉藤に、慧が礼を告げ。
「なんだか最近殺伐とした依頼が多くてな。うむ、平和でいい。やはり争いごとは性に合わぬ」
「あああああ‥‥先生さん、グライダーに乗りたいです‥‥ッ!」
 何だかまとめに入ったぽい王禄丸の言葉に、危機感を覚えた魚慈が訴えた。
「三番手といえば、柚乃さんは?」
「‥‥あそこ」
 見回すルエラに、慧が白い斜面の一角を指差す。
 よほど、一面真っ白な光景が嬉しかったのだろう。
 柚乃はもふらさま達と一緒に、もふもふと雪遊びをしていた。もふもふ。

 残る組み合わせは魚慈の乙型機体と参式、柚乃が丙型機体と壱式。そして、俊太は甲型機体と弐式。
「これをこうして‥‥こうで! お? おお! うおおおおおおおお!!」
 うわずった魚慈の奇声を残し、グライダーは空を飛ぶ。
「たまぁ〜かじや〜って、これは違うかっ」
「弾けたら、困るだろうね」
 空を仰いではやす斉藤へ、牛面を被ったままの王禄丸が頷いた。
 その時、魚慈の機体がぐらりと傾ぎ。
「あれ、おかしくないですか?」
「あー‥‥墜落したヤツの推進部だから、ね」
 気付いたルエラへ、のん気に先生が答える。
「だ、誰か止めてくれたりなんかしちゃったりして下さいーーー!!」
「どんなに怪我しても、大丈夫‥‥うん、生きていれば」
 微妙に失速してるっぽい魚慈を、精一杯柚乃が励ました。
 ‥‥本当に励ましになっているかは、謎だが。
「墜ちます、落ちますーーーと書いて、墜・落ぅ!」
 ぼすーんっ! と。
 雪煙を巻き上げて、魚慈の機体が吹き溜まりに落っこちた。
 その落ちっぷりに、ルエラが差し入れた甘酒を手に誰もが苦笑する。
「あれ、生きてるか?」
「オチをかます余裕がある分、大丈夫やろ?」
 肩を揺すって笑いながら、おもむろに王禄丸や斉藤は魚慈の『発掘』へ向かった。