きょうはく状
マスター名:風華弓弦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/20 02:58



■オープニング本文

●ゼロの災難
 ある朝、目を覚ましたら、枕元へ置いたはずの刀がなくなっていた。
 その代わり、着物の上には折り目の歪んだ紙が一枚。
 手にとって開けば、つたない文字がつづられている。

『       きょうはく状
    かたなをかえしてほしかったら、
   ほうてんあなのかがみをもってこい。  』

「‥‥何がどうして、こうなった」
 がしがしと寝癖の髪を掻きながら、ゼロはまだ完全に起きていない頭で思案する。
 たまたま通りがかった村で、一晩の宿を頼み。
 風体から開拓者だと察した村人達に、『武勇伝』をせがまれた。
 聞く側ならともかく、本来はその手の語りや自慢話のようなモノをするのは苦手なのだが、一夜の宿の礼もあり。
 そのうち酒を交わしながら、他愛もない世間話に興じる。
 そして寝床に入って、眠りに落ちた。
 明くる朝、目を覚ましたらこの様(ざま)だ。
「この字は、どう見ても子供だよな」
 晩飯の席に、十歳前後の子供が何人か同席していた事は、覚えている。
 刀を盗っていったのは、ほぼ間違いなく話を聞いていた子供達だろう。
 やっとそこまで思い出せたゼロだが、それにしても、だ。
「そもそも『ほうてんあなのかがみ』ってなぁ、ナンだ? それに、ソイツをどこへ持ってこいってんだか」
 小さく、声に出して愚痴る。
 どちらにしても、刀がなければ困る。そりゃあもう、力いっぱい激しく困る。
 単に刀を取り戻すだけなら、村人に子供の所在を聞いて捕まえるのが、手っ取り早くて簡単だろう。
 だが面倒な手をわざわざ使って、自分に何をさせたいのか‥‥逆に、興味もわいてきた。
「さて、どうしたもんか」
『ほうてんあなのかがみ』が『鏡』なら、『ほうてんあな』は『ほうてん穴』か。
 ならば『ほうてん』は決め事をまとめた『法典』か、それとも別の意味での『ほうてん』か。
 どこかの穴に安置された鏡。もしくは、どこかの穴に埋もれた鏡。
 その穴は、おそらく子供では入れない場所として。
 手に入れた鏡を、何に使うのか。
 それが大人に言えない、頼めない、子供だけの秘め事だとしたら‥‥。
「俺は丸腰だし、何かあったらそれはそれで、面倒だな」
 ここから神楽は、さして遠くない筈だ。
 ‥‥村人には知らせず、子供の『悪だくみ』に付き合う気があり、まぁ、自分の刀を取り戻すのに協力してくれる、そんな酔狂な者。
 今は早朝。風信術でギルドへ連絡を取って急ぎで依頼を頼み、乗り合いの馬車を使えば、昼過ぎには面白そうな話に乗っかった連中が村へ着くだろう‥‥が。
「この場合‥‥依頼の費用は、俺の自腹か」
 がくりと、ゼロは肩を落とす。
 いささか侘(わび)しい懐へ、寒い潮風が吹き込んだ気がした。


■参加者一覧
椿 奏司(ia0330
20歳・女・志
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
虚祁 祀(ia0870
17歳・女・志
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
劉 厳靖(ia2423
33歳・男・志
和奏(ia8807
17歳・男・志


■リプレイ本文

●忍び会い
 吹く風に、潮の香りが混ざっている。
「あれが、そうだね!」
 人気のない道に立つ質素な小屋を、天河 ふしぎ(ia1037)が指差した。
「謎が、僕を呼んでいる〜っ!」
「いやー。寒いのに、若いのは元気だな」
 楽しげに駆け出したふしぎに、着物の袖へ手を入れて組んだ劉 厳靖(ia2423)が感心する。
「何を、年寄りぶってるんだか‥‥」
 ちらと見やった椿 奏司(ia0330)は、進む歩調を僅かに早めた。
「椿の嬢ちゃんまで、急ぐこたぁねぇだろ?」
「刻限の限られた『依頼』、時間が惜しい」
 そのまま奏司は束ねた赤い髪を揺らし、先へ進む。
「実は、文が気になるのかもしれませんね」
 くすと微笑む気配に目をやれば、身体の線もあらわな泰国の民族衣装とやらをまとった斑鳩(ia1002)が口元に手をやり、小首を傾げていた
 自然と視線が吸い寄せられるが、脇から「コホン」と虚祁 祀(ia0870)が咳払いを一つ。
「それにしても、『脅迫状』とは穏やかではないね」
 急ぎの依頼だがギルドで事情は聞いており、祀も思案顔を浮かべる。
「相手は子供らしい‥‥という事ですが。何に使うのでしょう」
 呟く和奏(ia8807)は、目的が気になっていた。
 わざわざ刀を盗み、拙い置き文――天儀では、田舎の村でも大抵の者は読み書きが出来る――をする程の事なのか。
「そいつもモノが判れば、すぐ知れるだろう。なぁ?」
 王禄丸(ia1236)が話を振るが、眉根を寄せた鬼島貫徹(ia0694)は難しい顔で考え事にふけっていた。

 農具が置かれた薄暗い小屋では、『依頼者』が一行を待っていた。
「すまねぇ。助かった」
 それから頭一つ背の高い王禄丸を、しげしげと見上げる。
「‥‥入るか?」
「‥‥入れる。が、長話にならないよう頼む」
 身を屈めた長身巨躯の志士を含め九人も集えば、小屋は急に狭く感じられた。
「こういう場所で待ち合わせる必要が、あったのか?」
 唸る奏司に、ゼロは首肯する。
「念の為だ」
「自分達が来た時は、人の気配はありませんでしたが。やはり置き文の相手が、どこかで様子を窺っていると?」
 和奏が問えば、こくとサムライは首を縦に振った。
「一応、な」
「で、問題の文は」
 懐から出した紙を渡された祀が、丁寧に開く。
 目を通し、興味津々な仲間へ手渡せば、更に各々が順番にそれを回し。
 その間、ゼロは事の次第を説明した。

「ほうてんあなのかがみをもってこい、ですか」
「やっぱり、そこが気になるよな」
 下手な字で書かれた文を口に出す斑鳩へ、腕組みしたゼロが苦笑する。
「たった三行の文。引っかかる場所は、他にないですしね」
「しかし、『脅迫状』とは穏やかではない響き‥‥取ってきてほしい物があるなら、素直に頼めば良いのに」
 内容よりも、奏司は方法に義憤があるらしい。
 見えぬ相手の真意を見定めようとするかの如く、緑の瞳を細めた。
「大人を揶揄ったものなのか、あるいは方法に理由があるのか。村の大人ではなく、ゼロに頼らなければならない訳も‥‥気にかかる」
「盗みに脅迫。確かにいけない事ではあるし、こんな事に慣れさせちゃいけないけれど。今回の依頼主は彼、だしね」
 思案しながらも、ちらりと祀はゼロを見やる。
「理由は俺も気になった。それなら、付き合ってやらねぇとな」
「完全に、乗り気ですね」
 答えに斑鳩は頷き、その様子に祀も苦笑した。
「うん。ゼロがその気なら、こっちも暫くは子供に付き合うよ」
「大丈夫。僕達が来たからには、必ず刀を取り返してみせるからっ!」
 ぐっと拳を握ったふしぎは、気合を入れるように高々と掲げ。
「文の謎を解いて、ゼロの刀を取り返すぞー! おー!」
「おー。てな」
「いや、合わせなくていいから」
 何故かノリを合わせる王禄丸に、脱力感を覚える祀。
「確か話だと、村の人にアヤカシ退治の話をしたんだよね? 子供達も聞いていたなら、自分達には出来ないような事も出来る、お話の中の人みたいに思っちゃったのかも知れないかも」
 首を捻るふしぎに、唸る厳靖が頭を掻く。
「話を聞いてた奴らの顔を覚えてんなら、とっ捕まえて絞ってやりゃあ、すぐなんだろうがね」
 ぼやく志士だが、悪戯っぽい目でニッと笑い。
「まったく、ゼロのあんちゃんもお人よしだねぇ」
 カラカラと笑いながら、ゼロの右肩をバンバン叩いた。
「別に、構わねぇだろっ。だから叩くな、笑うなっ」
「んま、そーいうのも嫌いじゃないぜ? って事で、とりあえずは穏便にいくかねぇ」
 気安く厳靖はゼロと肩を組み、今度は奏司が怪訝な目を向ける。
「まぁ‥‥いいが。何にせよ、相棒とも言える刀を盗られるとは‥‥些(いささ)か情けないな、ゼロ」
「全くです。眠りこんで、子供に刀を持っていかれる人の武勇伝とか‥‥今頃、いい物笑いの種でしょう」
 和奏も、少々手厳しい視線を投げた。
「あー、ははー‥‥」
 乾いた笑いで、ゼロの視線が泳ぐ。
 ――この空気では、言えない。実は自身の都合で、ちょいちょい腰を離れる事があるなど‥‥。
「しかし。噂に聞く宝珠刀も気にはなるが、それ以上に『ほうてんあなのかがみ』だ」
 置き文をアレコレいじり、思案にふけっていた鬼島が始めて重い口を開いた。
「鏡にも多くの種があるが、意匠を凝らした年代物ともなれば、それはもう国の宝に匹敵する。まるで聞いたことのない銘だからこそ、逆に信憑性も増すというもの‥‥これは、蒐集家としても、好事家としても見逃せぬ」
 顎鬚に手をやり、獲物を見つけた獅子の眼でくつくつと笑う。
「言っておくが‥‥小さい漁村だぜ?」
「得てして、こういった寂れた場所に宝は眠るものだ」
 疑わしげな若いサムライへ、道理を教えるように鬼島はじろと目をやった。
「場合によっては、刀をくれてやる必要もあるだろう」
「ちょっと待て、そりゃあ」
 真剣な相手にゼロが困窮し、話を遮る様にぬっと長槍が間を割る。
「とりあえず‥‥ここは、狭い」
 ずーっと身を屈めていた王禄丸が、ぼそりと訴えた。

●謎探し
「とまれ、何から手を付けりゃいいんだかねぇ‥‥」
 置き文の内容を書き写した紙をぐるぐる回しながら、厳靖が思案に暮れた。
「『ほうてん あな の かがみ』か、『ほう てん あな のか がみ』‥‥か?」
 言葉の句切れを変えて奏司も語感を確かめるが、いまいちしっくりしない。
「ん〜。暗号、な訳はねぇよな」
「やはり、『ほうてん穴の鏡』か。句切れが間違っていない事を願うが」
「それなら村の者に、聞けば‥‥ん?」
 考え込む奏司が急に立ち止まれば、後ろに続く厳靖もまた足を止めた。
「何か、妙案でも思いついたか?」
「妙案ではないが、疑問が一つ」
「ほぉぅ?」
 袂に手を入れて聞く体勢な厳靖を、きっと奏司が見やった。
「何故、私の後をついてくる?」
「そりゃあ、なぁ。椿の嬢ちゃん真面目そうだし、村の連中も話をしてくれそうだからな。宜しく頼むわ」
 しれっと頼む厳靖を奏司はじっと見るが、道中を思い起こし、諦めた風に嘆息する。
「私が聞くだけでなく、何か気になる事があれば教えてほしい」
「よし、努力はしよう」
 その努力がドコまで当てになるか奏司には疑問だったが、それ以上は問わず。
 二人の志士は村人を探して、見通しの良い畑の間を再び歩き始めた。

「そういえば、ゼロとはどこで落ち合うんだっけ。決めてなかったね」
 村に入ったところで、声をやや張った祀が隣の和奏へ話しかける。
「あ‥‥はい、そうですね。村の方に聞いてみますか?」
 一瞬驚いた和奏だが、真剣な祀の眼差しに調子を合わせた。
「うん。落ち合う場所を決めてないせいで、会えないと困るからね」
 和奏の提案に答えてから、何気なく祀は周りを見回す。
「話を合わせてくれて、ありがとう」
「礼には及びません。どうしたんですか?」
 小声で礼を言う祀へ、和奏はそっと理由を尋ねた。
「脅迫状には『かがみ』を持っていく場所も、時間も、方法も書いてなかった。これは多分わざと書いてないんじゃなく、忘れたんだと思って。これでゼロか私達の方に子供が接触してくれば、話も早いんですが」
「なるほど。確かに子供なら、そこまで考えが回らなかったのかもしれません」
 合点がいった和奏は、小さな村を改めて見る。
 家の前では開いた魚が干され、広げた網が微かに揺れていた。
 子供どころか、大人の姿も少ない。寒風を避けて、家の中に入っているのだろう。
「少し、家を回ってみますか。地理的な事や風習など、手がかりになりそうな話がないか聞きたいですし」
「そうだね」
 手近な家へ示す和奏に、祀も髪を揺らして頷いた。

「昔話を聞きたい?」
 土間で網を修理する漁師にゼロが頷き、後ろに控える王禄丸を指差した。
「そういう話を聞くのが好きな奴でな。偶然そこで会ったんだが、風情のある村だし『いい話』が聞けそうだって言うもんだからさ」
「各地の伝承・遺跡・宝物に興味があり、話を集めている。この村にもそういった話があれば、ぜひ聞きたい。物であれば、見せてもらいたいのだが」
 昨夜の宴席で知り合ったのか、気安くゼロが話す相手へ王禄丸も重ねて頼む。
「小さい村だ。あんたらが有難がるようなお宝なんて、ねぇぞ?」
 頭上からの頼みに、漁師は困り顔で恐々と肩を竦めた。
「海の神さまをお祭りして、豊漁をお願いするくらいよねぇ」
「豊漁祈願‥‥か」
 漁師の妻の言葉に、ふむと王禄丸が唸る。天儀では、特に珍しくない信仰だ。
「すまないなぁ、大した話でもなくて」
「いや、礼を言う」
 申し訳なさげな漁師へ王禄丸は礼を告げ、彼らは外へ出た。
「すぐ手がかりになる話は、難しいな」
「そもそも、筆跡が子供のものだからと言って、油断するのが愚の骨頂よ」
 王禄丸を見上げた鬼島は、鼻息も荒く腕を組み、顎鬚へ手をやった。
「賢(さか)しい相手であれば、身元を割り出されないよう注意を払うのは当然の事。それより、例の言葉。アレを書き表せば、こうなるのではないか?」
 身を屈めた鬼島は適当な石を拾うと、地面へ何かを刻み始める。
 二人が覗き込めば、そこには『房天穴の鏡』と書かれていた。
「あれは、この意だったのだ。即ち、『東房』『武天』『理穴』『石鏡』の各国を示す隠語である事は間違いない。それらを持ってこいと言うのは、つまり国盗りを手伝えという暗喩だったのだ!」
「何‥‥ッ! とか、言わねぇから」
 ひらひらと、流すようにゼロが手を振る。
「ふ‥‥貴様らが気付かぬだけの事。恐るべき野望に巻き込まれようとしているに、違いない!」
 自説に高揚し、身を打ち震わせて不敵に笑う鬼島を前にし、王禄丸とゼロはどうしたものかと互いに顔を見合わせた。

「まず『ほうてんあなのかがみ』という言葉自体、子供には難しい名前だと思うんですよね」
 揺れる小舟の先に座った斑鳩は、海から崖を観察する。
「そうなると、大人達が話しているのを見聞きした可能性の方が、ありえそうなんです」
「そっか。ほうてんって確か、お供えするみたいな意味もあったよね?」
 尋ねるふしぎは、舟の艪(ろ)を漕いでいた。
「目的の物は、子供が簡単には触れないものか。もしくは近寄ってはいけないと大人に言い含められている場所にあるか。そして、こういう崖には海蝕洞が‥‥ふしぎさん、あそこに寄せられます?」
 波に洗われ、黒々とした口を開けている穴を、斑鳩が指差す。
 苦心しながらふしぎが舟を近付ければ、穴の上の岩肌に文字が彫られていた。
 風化しているが、辛うじて『奉奠洞』という三文字が読み取れる。
「ほう、てん‥‥どう?」
 文字を読み上げた二人は、互いに顔を見合わせた。

●頼み
 浜辺へ近付くと、波打ち際に仲間達の姿が見えた。
 おそらく村の者から話を聞いた末、『奉奠洞』の存在に行き着いたのだろう。
 そして見守る者達の後ろに、それまで鳴りを潜めていた小さな影達を見つけた。
「ゼロ、あれっ!」
 ふしぎが指差せば、子供達は慌てて身を翻し。
 陸にいる者達が、急ぎ後を追う。
「かがみは?」
「ええ。これだと思います」
 陸に上がるのを待って厳靖が問えば、斑鳩は大事に抱えた小鏡を示した。

 一方、子供を追った者達は、すぐ逃げる者達の意図に気が付いた。
「どこかへ、誘おうとしていますね」
「ああ」
 奏司の言葉に、王禄丸が同意する。
 やがて子供達は、畑からも外れた冬枯れの藪へ潜り込んだ。
「子供達は?」
 後から追いついた斑鳩達が問えば、和奏は藪を指差す。
「この先です」
「じゃあ一気に踏み込んで、お仕置きだね!」
 息巻くふしぎだが、その前にガサリと藪が鳴り。
「鏡‥‥おねえちゃん、鏡貸して? 鏡がないと、タマが‥‥」
 顔を出した少女の頼みに、何の事やら判らぬ開拓者達は顔を見合わせた。

「それで、どーすんだよ」
「知らないよ、僕も判んないよ」
「判んないって何だよ。鏡があればって言ったの、お前だろ」
「そんなこと言ったって‥‥」
 集まった10人近い子供のうち半分の少年達が、鏡を囲んでもめていた。
 残り半分の少女達は、心配そうに成り行きを見守っている。
 子供達が囲む中心、木の根元の窪みには、一匹の猫がぐったり横たわっていた。
 毛づやも悪く痩せこけ、そのくせ眼は爛々(らんらん)と光っている。
 もめた末に子供達は猫へ鏡を向け、「えいえい」と何度も気合を吐くが、何も起きず。
「あの猫、もしやアヤカシ憑き‥‥」
 事態を察した祀が、呟き。
「‥‥来るぞ」
 硬い声で、ゼロが告げた。

 赤黒い、嫌な空気が渦を巻く。
 急速に収縮したソレは、横たわる猫と似た姿を顕わにした。
「化け猫め!」
 大斧「鬼殺し」を手に鬼島が一喝し、長槍「羅漢」を王禄丸が構える。
「タマが死んじゃう」
「ダメだよ、殺しちゃやだ」
 急ぎ祀や和奏らの手で引き離された子供達は混乱し、懸命に訴えた。
「よく見ろ。ありゃあタマじゃあねぇ、アヤカシだ!」
 飛び出さぬよう、厳靖が少年達を抱えて止め。
「んで、あいつらはな」
 いつの間にか、その厳靖の短刀をかすめたゼロが、刃を向けて火急の守りにしながら教える。
「鏡の代わりに、憑いたアヤカシを払ってくれてんだ」
 仕掛ける王禄丸と鬼島に合わせ、ふしぎが化け猫の傍へ駆け。
 動かぬ猫を助けて逃げる背へ化け猫が歯を剥けば、奏司が立ち塞がった。
 その間にも、扇子「巫女」を開いた斑鳩は、髪を揺らしてふわりと舞い。
 目を丸くした子供達の前で、鋭刃に貫かれたアヤカシは散り、消え去った。

 木の根元、盛った土に子供達は手を合わせる。
 並んだ後姿を、斑鳩は少し哀しげな笑顔で見守っていた。
「漁村では、猫はあまり好かれませんからね‥‥」
「そうだな。にしても、助かった」
 戻ってきた刀の掛け金を、ゼロは再び引っ掛け。
「後は鏡、戻さないとだね」
 曇りのない供え物の鏡を、ふしぎが大事そうに旗で包む。

 ――ただ、それとこれと話は別。

 後で子供達が開拓者達に叱られたのは、言うまでもない――。