じみな依頼。
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/18 00:03



■オープニング本文

 依頼者は、とある屋敷を所有者している。
 しかし、生活している場所は全然別で、住んでいる家もそっちに持っている。別荘として使う気は無く、完全に持て余していた。
 この際売りに出すか、と考えたのだが、長く放置していた為、荒れ具合が気になる。
「なので、庭の草むしりと出来れば家の掃除もお願いしたい」
「‥‥うちは何でも屋ではありません」
 真面目くさって依頼してきた相手に、ギルドの受付も真面目に答える。
 たまにいるのだ。金さえ払えば何でもすると勘違いしているような奴が。
 しかし、相手は承知していると頷く。
「ええ、分かっております。手入れを試みた所、庭が厄介な事になっていると判明致したのです」
 広い屋敷には当然のように広い庭もついていた。季節の木々が植えられ、草花も優雅に咲きそろう。
 ‥‥きちんと手入れできていれば、だ。伸び放題の木は適当に枝を伸ばし、地を覆う草花はほとんどが雑草だったり。
 なので、人を雇い、草刈を始めた途端に手足を切る者が続出しても、最初は薄か何かで斬ったのだろう程度に終わった。
 のだが。
 その斬った傷口に、べったりと草が根ごと絡みついてきたならただ事ではない。
「足斬草か‥‥。雑草に模して人を襲い、血を啜る低級アヤカシだ」
 駆け出しの開拓者でも刈り取れる相手ではある。それでもアヤカシはアヤカシなので、一般人には面倒だろう。
「そんなものに居座られては、売るに売れません。なので、退治をお願いします。ついでに庭の他の雑草も刈り取って、ついでに家の掃除もお願いします」
「ついでが多すぎないか?」
 依頼人にしてみれば、何回も人を雇って掃除させるより、一回で済ませた方が金も日数もかからないでいいとでも考えたのだろうが。
 言外に過剰な依頼はお断りと受付は顔に出す。
 それを読み取ったのか、やれやれと依頼人は肩を竦め。
「分かりました。手間賃として、焼肉弁当もおつけしましょう。精が出ますよ」
「そういう問題か?」
 まぁ、面倒な依頼ではあるが、受けるかどうかは開拓者次第だ。 


■参加者一覧
崔(ia0015
24歳・男・泰
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
四条 司(ia0673
23歳・男・志
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
将門(ib1770
25歳・男・サ
カールフ・グリーン(ib1996
19歳・男・騎
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
リア・レネック(ib2752
17歳・女・騎


■リプレイ本文

 依頼者に連れられやって来たのは、荒れ果てた屋敷。
「こちらです」
 自然豊かといえば聞こえはいいが、伸び放題の草に古びた建物は、立派な化け物屋敷に見える。
 だからといって、本物の棲家にされても困る。
 人の血を啜る足斬草。
 どこかに潜んでいる筈だが、ただの草となかなか見分けもつきにくい。
「見ての通りほぼ手付かず。以前に掃除で人を雇いましたが、アヤカシがいては手が出せません。なので、貴方方にはアヤカシ成敗をお頼みします。ついでに雑草も刈ってついでにあの屋敷の掃除もしていただけるとありがたいのです」
 真顔でさらりと用件を付け足してくる主に、その調子良さが癇に障ったか。リア・レネック(ib2752)が詰め寄る。
「ちょっと聞いてないわよ、屋敷の掃除なんて。開拓者の仕事ではないでしょう。後で業者でも雇いな‥‥」

――KRYUUU‥‥

 しかし、腹に力を入れたのが悪かったか。盛大に虫の音が鳴り響く。
「手間賃代わりですが、依頼金とは別に焼肉弁当をお付けいたしますよ?」
「そんな物に私が釣られると思っ‥‥」
 失笑する周囲に真っ赤な顔で睨みを入れた後、動じない依頼主にリアが訴えるが、
 やっぱりまた腹の虫が鳴る。
「‥‥ま、まぁいいわ。依頼は依頼だもの。まずはアヤカシ退治からね」
 冷静を取り繕い、リアは庭に目を向ける。
「ありがとうございます。では、弁当は人数分で宜しいですね」
 算盤を弾き、何時ごろに手配しましょうかと、段取りを進めていく。
「随分と調子のいい依頼主の様だな」
 その様子に将門(ib1770)は呆れて笑う。まぁ、アヤカシ退治とは別に報酬を付けてくれるのだから、悪い気もない。
「食事は付いて来るようですし? 仕事内容もハッキリしていて出すものさえ出してもらえるなら十全ですね。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」
 不機嫌そうに四条 司(ia0673)が告げる。もっとも表情が今一なのは本心ではなく、目つきの問題のようだが。
「報酬と肉か。‥‥それは置いといて。依頼人がお困りだ、頑張るか」
 一つ伸びをすると、崔(ia0015)もまた準備にかかる。
 その様子を見た後、依頼主に目を向けるカールフ・グリーン(ib1996)。何となく引っ掛かる目つきを見せていたが、一つ嘆息すると今は何も言わずに依頼に向う。
「それでは、当方はお食事の手配に参りますので」
 一つ頭を下げると、そそくさと逃げるように去る依頼人。ただの人にとっては、例え低級アヤカシであってもあまり傍にいたいモノでは無い。
「はーい。おべんとーたのしみにしてまーす」
 笑顔で手を振る石動 神音(ib2662)に、依頼人は遠くで立ち止まる。
「ついでの掃除もお願いしますねー」
 了承とお願いを纏めたように頭を下げる。


 屋敷は結構な広さがあった。
 見合った庭の広さもある訳で、その全てが所狭しと草ぼーぼーになっている。
「ついでついでと随分気軽に言ってくれるな。手間だけはかかりそうなもんだが」
 改めて現場を目にして、酒々井 統真(ia0893)がげんなりと舌を出す。草に隠れたアヤカシ退治も面倒だが、その草自体も厄介な相手。
「では、三手に分かれて、まずはアヤカシ退治、ですね」
「分散して退治ね。いい案だと思うわ。それじゃあさっさと倒してしまいましょう」
 沢渡さやか(ia0078)にリアが頷く。
 組み分けは、統真と崔、司とカールフと神音、リアとさやかと将門で分かれる。

「まずは庭のアヤカシ一掃からだな。庭が広いお陰で動きやすいのは助かるが」
 崔が屋敷を見る。
 立派な物で、当然ながらこの敷地に見合った大きさがある。
 多少古ぼけた感は否めないが、造りはしっかりしてそうだし、確かに掃除すれば十分売りに出せよう。
 なので、無駄に傷を入れるわけにも行かない。
「流れ弾でも当たったら大変だからな。母屋を背にしないよう移動には注意。‥‥次の問題は、どうやって足斬草を見つけるかだが」
 呟くように告げた崔に。
「んなもん決まってるだろ。攻撃してくりゃ位置なんてすぐだ!」
 返事を待たずして統真は八極門を展開。体内に気を巡らせるや、
「行くぞ!!」
 不敵に笑って草むらに突っ込む。
 茂る草を踏み倒し、全力で庭を駆ける。即座に、枝に絡んでいた蔓が足首に巻きつきにかかる。
「おっと!」
 茎は勿論葉さえも複雑にくねり、絡み合い、捉えようと不自然に動く。
 さっと飛び退いた統真の足に、小さな痛みが走る。
 見れば、風も無いのに、遠くの薄のような草が揺れている。その度に、統真の体に傷が入る。‥‥カスリ傷よりかわいいのが。
「うぜえええええええー!!」
 破軍で気力を開放すると、大きく足を踏み出す。攻撃力の上がった衝撃波が地面を走り、周囲一円を吹き飛ばす。
「雑草は踏まれれば強く育つっつーが、アヤカシはどうやら雑草よりひ弱だな」
「その前に、屋敷が傾いたらどうするんだ?」
 吹き飛んだ草を手にしながら統真は、反撃が無いかを確かめる。
 無作為な攻撃は、場合によっては屋敷も巻き込みかねない。配慮はどうしたと、崔も呆れる。
「まぁでも、動きを見て進むのはいい手だな」
 何気に円月輪を回すと、崔は彼方に放る。
 孤を描いて飛んだ刃は、可憐に立っていた花を斬り飛ばす。
 ガクごと落ちたその花は、地上で虫のようにもがいてる。
 蛇のように、地を這い別の蔓が伸びてくる。裏一重で見極め下がると、伸びたその蔓を統真が捕まえる。
 そのまま統真に巻きつこうとしたが、地面から伸びきった蔓を崔は即座に切断する。
「んじゃ、こっちの方向に大体進んでいくという事で」
「了解」
 同じ泰拳士同士。互いの動き方は大体推測つく。大雑把な取り決めをすると、二人は躊躇う事無く足斬草の紛れる草むらへと踏み込んで行く。

 別組では、司が心眼で敵の位置を見極める。
 例え隠れていても、その目からは逃れる事は叶わない。
「‥‥壁際に五体ほど点在。あそこの木の根元に一つ。あの日陰の辺りは群生しているようなので気をつけて下さい」
 一つ一つを指し示し、丁寧に説明する司。
 位置を把握すると、改めて行動開始とする。
 慎重に足を踏み入れると、草の中から何かが動く音がした。途端、周囲の草が何も無いのに切れていく。
 切り払われる草の葉から見えない刃を推測し、どうにか避ける。
「えっとぉ、どれ〜〜?」
 アヤカシに向けて、七節棍を構えた神音だが、肝心のアヤカシが他の草に埋もれて見えない。
「隠れて見えないな。まとめて散らすか」
 カールフが刀「蒼天花」を抜く。
 渾身の一撃を放つと、淡く輝いた刀身が視界を隠す丈の長い草を切払う。
 宙にまった葉を、さらにカマイタチが切り刻んでいき、
「いた!」
 背の高い草に隠れるように、小さく揺れる可憐な草。だが、そんな見た目でもアヤカシには違いない。
 神音が七節棍で叩く。細い茎は中途で折れたが、まだ生きている。さらに二三度と連打すれば、それでようやく瘴気に還った。
「やった♪」
「まだです」
 拳握って喜ぶ神音を、カールフが引き寄せる。
 神音の立っていた足元を、小さな盛り上がりが出来、茎が突き出てくる。
「地下茎か? 根深い事で」
 司は口を尖らせ長槍「羅漢」を振りかざすと、突き出た穴に突き刺す。
 深々と突き刺さり、地に潜った柄の先から。瘴気の陰が立ち昇る。
「あー、すみません。大丈夫ですか!? お怪我はありませんか? えーと、止血剤に手ぬぐいに」  
 慌てて神音が荷物を確認していると、手が滑って止血剤が宙を踊る。
 地面に落ちる前に、カールフが拾う。
「神音さん、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。実は神音はアヤカシと戦うの初めてだから、どきどきしちゃうよ〜」
 落ち着きなくあれこれと動く神音に、落ち着くように笑いかけるカールフ。
 普通の乙女なら恋に落ちぬまでもときめくモノがあろうカールフの笑みだが、あいにく意中の人を胸に住まわせる神音には通用せず。
 気合一つ入れなおすと、テキパキと現状を確認する。
「お怪我は無いようですね。じゃあ、アヤカシ退治がんばりましょう! その後は綺麗に掃除! ですね! 神音とセンセーの『あいのす』になるかもなんだから、がんばらなくちゃ!」
 頬を桃色に染め、神音はひとしきり悶えると、決意新たに庭掃除にかかる。
 どうやら、この屋敷を買う気でいるらしい。

 残る組はさやかが瘴索結界を展開し、雑草刈りがてら位置を探る。
「そこの茂みに二体。軒下に一体ですね」
「了解」
 指示を受けると、リアと将門は率先して飛び込む。
 リアは急所を庇いながら茂みを分ける。意外に切れる葉は地味に痛いが、危険を感じる事はない。
 進みこんだリアの足に、待ってましたと足斬草が絡む。血を啜ろうと蠢くが、金属製のダナスティブーツには梃子摺っている様子。
 一つ嘆息つくと、リアは足を上げた。足斬草が絡んだまま、根の部分からピンと張る。その根元に向けて大剣「ヴォストーク」で斬りつけると、ざっくりと足斬草は切断された。
「もう一体!」
 細い葉を広げて包み込もうとしてきた足斬草に、将門は珠刀「阿見」で渾身の一撃。
 はらりと散った葉は、霧散し消えていく。
「これじゃ農作業にしか見えないわね。剣じゃ無くて草刈り機でも持って来た方がよかったかしら」
 しかめっ面で自身の剣を見ながらリアが呟く。事情を知らない者が見たら、確かにただの草相手に何やってんだってなもんだ。
 おまけに。うっかり土を掘ったり単なる草を掃おうものなら、汚れるし錆も怖い。後の手入れが大変だ。
「こんな所を覗くような奴はいないだろうし、雑魚と油断する訳にもいかないだろう。‥‥ところで、あそこの足斬草はどう始末する?」
 軒下にいるらしいアヤカシを、将門は指す。
 狭い隙間に入り込んでいる。下手に攻撃を仕掛けると屋敷に傷つけそうだ。そうならぬよう、やはり家の位置を気にしてアヤカシと接していた将門としては、雑多に倒すのも気は引ける。
「大丈夫。こうします」
 にこりと笑うとさやかが浄炎を生み出す。
 精霊の力を借りた炎が足斬草を包む。瞬く間にアヤカシは燃えるが、その炎が近接している柱や壁に燃え広がる事は無い。
 灰さえ残さず滅したのを確認すると、また別の場所へと捜索を始める。


「見る範囲、アヤカシはいなくなったようだな」
「そうですね。こちらの瘴索結界にも反応は感じません」
 一通りの足斬草退治が終わって。司とさやかが庭を見て回るが、大丈夫と判断する。
「で、後はついでの掃除ぐらいになった訳だが。ある意味アヤカシ退治より厄介なのが残ってるよなー」
 戦闘の余波で刈られた草も多いが、キチンと根元から刈ってないので見栄えも悪い。もちろんまだしっかり元気な雑草も風にそよいでいる。
 どうする? と統真は他の開拓者に振り返る。
「もっちろん、やるよー。やきにくべんとー楽しみだな〜」
 神音が勇んで庭に飛び出ると、邪魔な雑草を刈り取りにかかる。
「まずはこっちからだな。‥‥屋敷の方は後で回ろう。力仕事ぐらいは出来る」
 将門も草刈りに。
 他の開拓者たちもそれぞれに掃除にとりかかる。
「私はお屋敷のお掃除を手伝いましょうか」
「床、踏み抜くなよー?」
「気をつけますよ」
 屋敷の戸を開けるさやかに、崔が冗談めかして告げる。
 笑って答えた彼女を見てから、崔は庭に散った草をまずは集めてまわる。
 屋敷は戸を開放すれば、中の古い空気が動いた。少々埃臭く古びているが、悪くは無い。
「屋根も見ておくか。綺麗に手入れをすれば、きっと素敵なお屋敷に戻るだろうな」
 中の様子を見て、カールフはふと微笑む。
 家具の類は少なく、あっても荷が無いので割と軽い。
 障子や戸板も邪魔だと外すと、統真は家具も外に運び出す。
「うげええ、すっげええ埃積もってるぞ。おーい、家具とかはどこに置いたらいいんだ?」
「そうですねぇ。敷物を見つけたのでその上で干しましょうか。今、片しますね」
 部屋の中で埃を払っても他が汚れるだけ。
 司が散った草を掃き纏めると、開いた地面に汚れぬように布を敷いてその上に家の中の物をまずは出していく。
 完全にがらんどうになった屋敷の中を、さやかは塵を落とし、畳を持ってきた茶殻で丁寧に拭いたりとこまめに動く。
 庭の方でも延々と、草むしりに精が出ている。
「‥‥これなら足斬草の方がまだ楽だったわね」
 力任せに引き抜いても、根っこを残せばまた蔓延ってくる。
 千切れた茎を恨みがましく見ながら、リアは土を掘る道具でもあったかしらと少々考える。


「おや、これはさっぱりしましたなぁ。屋敷の中も随分と」
 掃除を終了し、依頼主に報告。屋敷を見に来た依頼主は感嘆の声を上げる。
「刈った草はまだ幾つかに纏めて置いてある。改めて掃除人を雇うならその頃には乾いて燃やしやすくなっている筈さ」
「火が危ないようなら、深い穴に埋めてしまえば当分は根付きませんよ」
 庭のあちこちに纏められた塵を示し。崔が説明すると、カールフも補足を入れる。
「いやいや、御丁寧にありがとうございます。では依頼料と、こちらが手間賃代わりですがお弁当になります」
 どっしりとした重箱と竹筒。中を覗かせてもらうと、焼肉を主として美味しそうな食材がぎっしりと詰められている。
「ま、見合った労働か」
 力仕事のあれやこれや。思い返して天秤に測ると、統真は遠慮無く受け取る。
 これで依頼終了。後は弁当をどこか外で食べるもよし、家で囲むも良し。
「なのですけどぉ〜。帰る前に、このお屋敷って幾らで売りに出す予定なんでしょ〜?」
 神音が依頼主に擦り寄る。
「そうですね。立地条件もいいですし、すでにここがいいという人もいますので、まぁ大体」
 懐から出した算盤を素早く弾く。出された金額に神音は吹いた。
「‥‥師匠、お金あるかなー」
 その前に気にいるかどうかも問題だが。
「帰る前に一言いいだろうか。他人にばかり頼らず、自らが変わり、努力をする事も必要だと思うのですよ。同じ事が続けばいずれ被害者が出る。金で怪我は治せても心の傷は癒せませんから‥‥」
 真剣な口調で告げるカールフに、依頼主が困った顔をする。
「そうは言いましても餅は餅屋といいますし。アヤカシを私らが相手にするのは危険ですから」
「掃除は開拓者の仕事じゃないぞ」
 一応、将門が念を押す。
「ですから、それはついでのお願いです」
 ありがとうございます、と依頼主は深々と礼を述べた。