理穴 帰郷
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/31 15:53



■オープニング本文

 天儀歴1009年11月。緑茂の戦いにおいて、大アヤカシ・炎羅の討伐に見事成功した。
 理穴東部、炎羅が広げていた魔の森の衰退が期待され、あれから約半年、それは現実として確認される。
 まだまだほんの一部ではあるものの、大アヤカシの脅威を防ぎ、かつ、それが可能であると証明出来たのは事実であり、人々の中では安堵と期待が広がっている。

「郷里に戻りたいんだ」
 魔の森侵攻に伴い、理穴東部から逃げ出した住人は多い。
 止むを得ない事情ではあったが故に、郷愁の思いは募る。脅威が退けられた今、帰りたいと願う心は当然の事。
 衰退したとはいえ、魔の森は健在。全員が即時とはいかないものの、戻れる者はぼちぼちと戻り出していた。
 理穴にはまだ武天からの戦力応援も残っており、大きな混乱は起きてはいない。
 そんな中で、ギルドを訪れてきた者がいるとすれば、すなわちそれ相応の理由が出てきたに他ならない。
 郷里に向かう山途中の街道。行き交う人を狙い、五体の骨鎧が出るという。
 話を聞きつけ、街道は封鎖。迂回路はあるものの、それでは都合が悪いという。
「迂回路は道が悪いし、日数がかかるんだ。一緒に帰る馴染みの中には子供や年寄りがいるから楽で早い方がいいし‥‥。何かの事情でまたこっちに来る事になっても、いちいち迂回して来るのは面倒だよ。だから、連絡しやすい今の内にさっさと倒してもらいたいって事になったんだ」
 かくて、代表として開拓者ギルドに訪れたと云う。
 話を聞いた受付が、さらに開拓者たちに説明を入れる。
「骨鎧は、遺品となった武具に瘴気が入り込んで出現する骸骨武者のアヤカシです。基本的に縄張りに待ち伏せ、人が踏み込むまで動かないそうですが、あまりに人が来ないなら縄張りを移動する事もありえます」
 封鎖してずっとそのまま、という訳にはいかない。
「一度狙いを定めたならば、好戦的で痛み知らずの、割と手強い相手です。駆け出しの開拓者ぐらいなら少し厳しい相手になるかもしれませんが‥‥、さてどなたか行ってくれる人はおありですか?」
 被害が出る前に、対処せねば。


■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
鬼灯 仄(ia1257
35歳・男・サ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
由他郎(ia5334
21歳・男・弓
露羽(ia5413
23歳・男・シ
一心(ia8409
20歳・男・弓
滋藤 柾鷹(ia9130
27歳・男・サ


■リプレイ本文

「緑茂の戦いよりもう半年経つのか‥‥。早いものだな」
 感慨深げに滋藤 柾鷹(ia9130)が告げる。
 大アヤカシ炎羅と雌雄を決した一戦。開拓者たちは一つの偉業を成し遂げ、希望への布石を打った。
 炎羅の消滅から魔の森衰退を確認したとはいえ、それはまだまだ一部の地域。その他のアヤカシとて滅んだ訳でなく、現にこうして帰路を阻むように出没している。
「帰郷か‥‥。そうか、分かった。故郷への道、必ず俺たちが開こう」
 それでも、障害を取り除き復興がなればまた一つの希望に繋がる。
 郷里をアヤカシに奪われ、いつか取り戻すべく開拓者として活動する者も多い。
 由他郎(ia5334)としても、他人事と見捨てておけない。理穴の郷の話なら尚更に。
「少しでも‥‥お役に立てるのならば」
 言葉は少なくとも、一心(ia8409)としても思いは同じ。理穴の弓術師として弓を取る。
「しかし。望郷の念ってのは、判らなくもないが、それほど危険を冒してまで帰りたいもんかねぇ?」
 鬼灯 仄(ia1257)は煙管を弄びながら、疑問を口にする。
 郷里への想いも人様々で。
 土地に固執する者もいれば、あちこち転居を繰り返し飄々と生きる者もいる。どちらも生き方としては間違ってはいないし、否定する気も無い。
 しかし、こうやって危険を乗り越えてまでとなると、少々腑に落ちない部分も出てくる。
「やむを得ず逃げ出すしかなかった故郷へ、図らずも戻れるとなれば、一刻も早くと気が急くお気持ちはよく分かります。ましてお歳を召した方々がいらっしゃるなら尚更です。お祖母様も、郷が一番だってよくおっしゃってました!」
 対して、橘 天花(ia1196)は大いに納得。アヤカシ退治に意欲を燃やす。
「ま。皆が風の向くまま、気の向くままって訳にはいかんか」
 軽く告げると、仄は煙管に火を点ける。
「故郷に帰れないって連中がいるなら、それは俺らにとっちゃ『戦のやり残し』だ。何の為に、炎羅と戦ったのかを考えりゃ、な」
 酒々井 統真(ia0893)が勢い込んで笑う。と同時、その目は現場のアヤカシたちを見据える。
 辛い戦いを乗り越えて、ようやく勝ち得た状況。再び脅かそうというなら、許し難い。


 山中を通る街道。それなりに人は通っていたのだろう。結構整備されている。
 反面、道から目を逸らせば鬱蒼とした木々が茂る。だが、それも自然の物。風に揺らめき葉音を立てる様は、好ましくある。
 生まれる陰に、時に様々な悪意すら内包するが、それはけして山のせいではない。
「道を縄張りにして待ってさえいれば獲物はかかると。確かに子供も老人もいる集団には厄介な相手ですね」
 珠々(ia5322)が無表情のまま、けれどどこか不機嫌そうに状況を判断する。
 草むらに潜んでいれば、不意を衝くにも十分。道に出れば動くに困らず、脇に入れば隠れるに困らず。
「骨鎧は武具に宿るアヤカシとか‥‥。戦死者が増える程、こういったアヤカシが増えるのでしょうね」
 露羽(ia5413)が憂いて、目を伏せる。
「ともあれ、アヤカシは葬るべきもの。待ち伏せには‥‥待ち伏せで対抗しましょうか」
 人好きのする笑顔を浮かべると、他の開拓者も一つ頷く。


 出没する地点は分かっている。
 先行するは珠々と統真。
 その前に、一心が鏡弦で索敵を行う。
 弓「朏」。弾いた弦の鳴り響く音が、周囲に吸い込まれるように消える。
 向こうに気取られぬよう、位置を変え、さらに弾く。
「いますね。道を挟んで左に三体、右に二体。それぞれ少し距離があります。御二人とも、御気をつけて」
 居場所を指し示すと、一心は後方に退く。音や気配で気づかれてないかと少し勘繰ったが、幸い見られる景色に変化は無い。
「では参るとしましょうか」
 珠々が大きく足を踏み出す。地面をこする草原のブーツを、殊更に強く踏み鳴らし、足音を大きく立てる。
 敵を釣ろうというのに、肝心の獲物が出てこなければ意味が無い。気付いてもらえるよう、念の為だ。
「ぶっちゃけ。無策で当たっても勝てそうな面子が揃ってるけどな」
 統真が苦笑する。
 アヤカシ五体。骨鎧は駆け出し冒険者相手ならいい手合わせにもなろうが、その程度。数で押しても、行けたかもしれないが、そこらは油断大敵。
 逃げる可能性も含めていけば、やはり確実に仕留める手を惜しまぬ理由は無い。
 道を歩けば、射程の距離などさほどでも無く。すぐに告げられた地点まで足を踏み入れた。
 緊張しながらも進んでいくが、何も起こらない。
 警戒しつつ更に進むと、両脇から一体ずつ、骨の兵隊が立ち上がり、飛び出して来た。
 錆だらけの刀を突き出される。かたかたとむき出しの歯が哂い、行く手を遮った。
「おっと!」
 気を張り巡らせ、背拳で周囲を警戒していた統真が身を捻った。
 同じく背後には注意していた珠々も、僅か遅れて後に続く。
 その更に後。二人の立っていた位置に、後ろから刀が振り下ろされていた。
 改めて体勢を整えれば、残りの三体が囲むように背後に立ち塞がっている
「挟撃か。なかなか考えてやがる」
「あのすっからかんの頭で、ですか?」
「本能で悟ったとしても、面倒には変わらねぇって」
「それもそうですね」
 骨鎧たちが周囲を取り巻く。じりじりと、逃がさぬよう間合いを詰めてくる。
 珠々と統真が目配せする。確認すると、後の行動は素早い。
 珠々の周囲を木の葉が散った。
 振り払うように突き出された切先から逃れると、早駆で囲みを飛び出す。
 珠々の動きに動揺した隙に、統真も囲みを抜ける。包囲網から逃れた二人はそのまま来た道を戻り出す。
 錆びた鎧が音を立て、骨鎧たちは逃げた獲物をそのまま追いだす。
「ちゃんと着いてきてますね。追いつかれるようなら手を貸しますよ」
「それはちょっと勘弁な」
 珠々の申し出を苦笑交じりに断る統真。
 骨鎧たちは素早い訳でもなく、鈍い訳でもなく。離し過ぎて相手が諦めてしまっても意味が無いが、かといって甘く走るとすぐに追いつかれてしまう。
 微妙な間合いを取りながら、骨鎧たちを曳きつけ、ただ逃げる。
 骨鎧が、被っていた兜を投げつけてくる。
「ちっ!」
 唸りを上げて飛んできた物体を、二人は躱す。が、その動きで移動が遅くなる。
 その間に、追いついた骨鎧たちが刀を振り上げ、捕まえようと手を伸ばす。
 
 その伸びた肉の無い細い枯れ枝のような腕を、矢が射抜いた。
 捕まえる寸前。食い込んだ鏃を、不思議そうに見つめる骨鎧。
 風を切る音がするや、次々と二の矢、三の矢が飛来。骨鎧たちを射抜く。
 山中の木陰、埋伏りで隠れていた一心が弓を構え即射。惑う骨鎧たちに、由他郎は狙い定めて鷲の目で射抜く。
 露羽は狙いを定めると素早く刹手裏剣を放つ。剥き出しの頭蓋骨が砕け、上顎が消えた。
 統真は身を起こすと、一旦間合いを開ける。
 対し、仄は飛び込むと砕く目的で峰討ち。紅焔桜を施した刀「嵐」は桜色の燐光を纏わせ、骨鎧を打ち据えるや光は枝垂桜のように儚げに乱れ散る。
 砕かれた骨片は瘴気と化して霧散する。
「うぉっと!」
 骨鎧の背後から刃が飛び出してきた。骨の隙間を通して、攻撃してきた後ろにいた別の一体。
 何とか躱すと、こちらもまた間合いを取り直す。
 そして、骨鎧たちは円陣を組んだ。そうならざるを得なかった。囮の二名に、隠れていた六名も姿を現し、逃さぬように骨鎧たちに得物を向ける。
 気付けば、骨鎧たちが開拓者たちに周囲を取り巻かれていた。
「さて、罠にかかったのはどちらでしょうか?」
 にっこりと笑うと、露羽は白鞘を構える。
 その笑みに応えて、骨鎧たちも哂う。
 威嚇しているのか、嘲笑しているのか、やせ我慢なのか。乏しいその顔つきからは判断つかない。
 ただ逃げるという考えは無いらしい。
 殺気だった気配を乗せて、開拓者たちと対峙する。
 しばしの睨み合い。骨鎧が刀を振り上げ、襲い掛かる。
 珠刀「阿見」に刀「乞食清光」。ニ刀を巧みに使い分け、柾鷹がその凶刃を阻む。
「後衛の間合いに入られても面倒。ひとまず抑えに入る」
「はい。御気をつけて」
 柾鷹に頷くと、天花はやや離れた位置から神楽舞「速」、神楽舞「武」をかけて回る。
 特に巫女である天花は、直接戦闘には心許ない。
 いざという時には、前面に立っても回復をするつもりでもいるが、だからといってわざわざ危険に近付く真似も無く、またそれに晒す必要も無い。
「人を護るも侍の務め。我が太刀は攻撃のみにあらず、護る者あってこそ。――いざ、参る!!」
 不退転の意志あらばこそ。気合を入れると、不動をもって身を固める。
 左右から同時に切りかかってきた骨鎧を刀で止め、弾き、捌く。
 無理に攻撃に出る真似はしない。まずは骨鎧たちの注意を惹き付けるよう振舞う。
 それに、敢えて出ずとも数では開拓者が勝る。
「こっちにもいるんだぜ!!」
 最早逃げる必要も無い。むしろ、同じく自分に目を向けさせるべく、統真は派手に骨鎧に一撃を入れる。
 鳳凰が、けたたましく鳴き、燃え上がる。押されるように、飛龍昇で覆った拳で叩く。
 覆った鎧ごと骨鎧が吹き飛び、上半分が吹き飛んだ。
 やった、と思った瞬間、下から残った足が蹴り上げてきた。
 八極天陣の構えを取り、統真が柔軟に躱す。
 珠々が風魔手裏剣を打剣で放ち、足の付け根を壊され、落ちた足を仄が折り砕く。
「痛みで動きが鈍らないなら、動く事自体を妨げればいい。腕やら足やら叩き折りゃ、それなりに鈍くなるだろ」
 何でもなく告げると、仄は身を屈める。薙いだ刃をやり過ごすと、その骨鎧の足を掃う。
 バランスを崩した骨鎧が倒れる。その上に矢が雨のように降る。
「鎧に矢衾ですか‥‥。まぁ動きを縫いとめる事にもなりますからね」
 古びた鎧とはいえ、それなりにしっかり身を包んでいる。骨の体と相まって、少々攻撃が当てづらい。
「邪魔ならばそれも取り除くまで」
 由他郎は鷲の目で継ぎ目を狙って矢を打ち、防具を壊しにかかる。
「消え、ろ‥‥瘴気の塊。俺達の森、返してもらうぞ」
 一際強く睨みつけ弓を引けば、止め具が弾け飛ぶ。垂れ下がった鎧の中から現れたのは、剥き出しのやはり骨。
「一気に片付けさせてもらいます。覚悟して下さい!!」
 立ち上がった骨鎧の姿勢をもう一度崩すと、露羽は間髪入れずに白鞘で斬りつける。
「痛みを感じないだけで、ダメージはあるのだ。根気良く、倒すのみ」
 崩れ落ちる肋骨。吹き飛んだ四肢。それでも残った腕や脚で四つんばいになり、骨鎧は歯を鳴らす。
 口で武器を咥え、あるいはそのまま噛み付き。折れた骨でそのまま刺してこようとする相手に、柾鷹は神経を研ぎ澄まして隙を窺がい、見つけるや両の刀で征する。


 五体の骨鎧を始末するのに、さほどの時間はかからなかった。
 さしたる怪我も無く。最後の一体が瘴気に還るのを見届ける。
「この武具らは誰ぞの物か‥‥。そのままにしておくか、回収し処分するか」
 彼らが装備していた武器や防具はそのまま残っている。戦いの末、あちこちに散らばったそれらの一つを柾鷹は拾い上げる。
 手入れも無く朽ちていた武具は、開拓者からの攻撃を受け、さらに襤褸と化している。修繕出来るなら古くとも身を守れる貴重な一品になったろうが、これではどうしようもない。
「きっと魔の森が広がるのを食い止める為に、アヤカシと戦った方のものでしょう。持ち帰るか、無理ならせめて綺麗にした後埋めるなどで、弔って差し上げたいです」
 拾い上げた残骸の埃を払うと、天花は抱きしめ祈りを捧げる。
「さすがにもうアヤカシにならないだろうけど。奴らが着ていた物を、こんな道の最中に放っとくのもねぇ」
 通りがかる人が気持ち悪がるかもしれない。
 最後の仕上げとして、珠々も武具を回収にかかる。
 丁寧に一つ残らず拾い上げると、とりあえずは連絡を待ちわびているだろう依頼人の元へ戻る事にする。
 骨鎧の退治完了を告げると、依頼人は勿論、帰郷を待ちわびていた他の人々や、封鎖にあたっていた役人までがほっとした表情で笑顔を見せる。
「これで街道が使えるようになったとはいえ、移動は大変だと思います‥‥。みなさん、早く郷里に帰れるといいですね」
「そう、ですね」
 憂う露羽。一心としても、いろいろと思う事はあるが表情は動かず、今はただ頷く。
 持ち帰った武具は、手近な森に埋葬する。
「兵どもの夢の跡、か。顔も名も知らないが、炎羅との戦いで共に戦い散った連中の物かねぇ」
 埋めた土の上。手向けとして、仄は酒を捧げる。
 帰る者、帰れなかった者、そして帰りたくとも叶わぬ者。
(必ず、還る。この手に、もっともっと‥‥力を手にして。取り戻して見せる、あの森を)
 墓に手を合わせると、由他郎は彼方の地を振り返り、強い決意を新たにする。

 道は開けたといえど、全てへの道のりはまだ遠く。