水に泳ぐ木
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/26 20:37



■オープニング本文

 とある村の近くの池では、妙な物がある日浮かんでいた。
 大量の木の残骸。
 別に前日雨が降った訳でもなく、周囲の木が倒れた訳でもなく。けれど、広い池の至る所にそれは浮かび、あるか無しかの風に吹かれて揺れていた。
 誰かが運んだ痕跡も無いし、その必要もない。むしろ、大きな木の残骸は、池の魚を取る為舟を進めるのに邪魔だし、子供らが遊ぶにも危ない。
「ったく、一体何でこんなもんが」
「竜巻が何かで飛んできたのかね」
「はっは。そりゃいいや」
 大量の残骸撤去はすぐに終わりそうにない。今日は仕事にならねぇやと、戯言を言いながら池に向かった村人だが。
 その戯言はある意味正しかった。
 木の残骸は人が近付いた途端、たちまち魚に変じるとひれを広げて宙を飛び、容赦なく襲い始めた。

 魚となった流木は瞬く間に村人を襲い、その数で埋め尽くした。
 何とか逃げ出せた者が村に報告に戻ると、そのまま開拓者ギルドへと知らせに走る。
 残念ながら逃げ遅れた者は、無残な姿に成り果てた。この異変を解決してもらいたい、と依頼が舞い込む。
「炉縁魚だ」
 詳しく話を聞き、開拓者ギルドの係員は、アヤカシの仕業だと告げた。
「飛び魚のアヤカシで、外見は魚だが、短時間であれば飛行する。獲物求めて飛んできたのだろうな。水辺に群れで棲み付き、流木に擬態して獲物を待ち構える妙な奴だ」
 下級のアヤカシだが、水に潜り空を飛び、纏まった数で襲ってくる。結構面倒臭い奴だ。
「数は全部で百ほどか。このまま放っておいては、村の方にまで飛んでいきかねん。至急の退治を頼む。ただ、下手に突付けば逃亡する恐れもある。更なる被害を出さぬよう、注意して動いてくれ」
 すでに犠牲者も出ている。のんびりとしていられなかった。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
雲母(ia6295
20歳・女・陰
マリー・ル・レーヴ(ia9229
20歳・女・志
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
エラト(ib5623
17歳・女・吟
マハ シャンク(ib6351
10歳・女・泰


■リプレイ本文

 池に浮かぶ木片。
 一見ゴミでも浮かんでるようだが、それは魚――いや、アヤカシであり、近付いた者を食い殺す危険な代物。
「これまた大量発生だな〜」
 遠目から池を覗き、九条・颯(ib3144)はその金の竜翼を奮わせる。
 風に揺られ、水流に流され、けれど一箇所に固まらず、池のいたる所に木片が散らばっている。それが全て敵なのだ。ざっと数えても百はいる。
「夏なのに‥‥アヤカシってのは元気だねぇ‥‥」
 ふぅ、と雲母(ia6295)は水面を反射する光に目を細める。
 水は綺麗そうだし、水浴びでも出来れば楽しい池だ。実際、村の子供たちは泳いだりしたそうだ。勿論、今は無理だが。
「天儀には不思議なアヤカシがいるのですね〜。何処にでも発生するらしいですけれど、豊かな餌を求めて飛んできたのかしら?? ところでどういうお名前でしたでしょう?」
「ロベリウオ、だって」
 事態を聞くも、ちょこんと首を傾げるマリー・ル・レーヴ(ia9229)にリィムナ・ピサレット(ib5201)は元気に答える。
 餌を求めてきたのは当たっているだろう。ただし、その餌とは人。すでに何も知らず、迂闊に池に近付いた村人数名がアヤカシに屠られた。さらにアヤカシがいる限り、池での生活も送れず困窮するばかり。わずかとはいえ空を飛ぶので、村にいてもいつ襲われるかと気が気でなく。
「犠牲者が出てるんだね! 早く全滅させて、村の人を安心させてあげなきゃね!」
 リィムナに応え、迅鷹のサジタリオが翼を振るわせる。
「小舟は貸してくれるってね。‥‥もっとも、虎穴に入らずんばってゆーけどさぁ。あの群れと真っ向勝負とか結構男前な作戦よねぇ」
「団体戦力はそれ程じゃないみたいだけど、この数は脅威だよね」
 村から歩いてきた鴇ノ宮 風葉(ia0799)が成果をする。と同時に、湖面に浮かぶ炉縁魚に目を向け肩を竦める。それに颯も頷いている。
 圧倒的な敵の数。開拓者ギルドからは七名。相棒もいるが、それでも手は足りない。
「炉縁魚の餌は一応貰ってきましたが‥‥結局一番いい餌は私達でしょうね」
 用意した袋を、エラト(ib5623)は複雑な表情で見つめる。
 少しでも有利な場所に導く撒餌が必要と一応動物の肉を仕入れている。けれど、池に入れば恐らくすぐに正体を現すだろう。開拓者たちとて、敗北すればアヤカシの腹に収まるしかない。


 池から流れる川は一つだけ。そこから逃亡しないよう、念の為に網を張る。
「少なくとも潜行による逃走は阻止できますわね」
 作業は、アヤカシが襲ってきても大丈夫なように、念の為にマリーがアーマーに乗って行う。
「フロマージュ、ご苦労様です」
 無事に張り終えると、マリーはアーマーケースを撫でる。

 借りてきた小舟を比較的安全な場所に浮かべると、風葉が乗り込む。そのままさっさと船縁に座って待機。漕ごうという気は全く無し。
 雲母がじっと見つめて、咥えていた煙管を不機嫌そうに上下に揺らす。
「あによ? 文句ある」
「分かった、時間も無いし。その代わり、振り落とされても知らないからね」
 雲母は目を逸らしながら、肩を竦める。マリー、颯、リィムナも舟に続いて乗り込んでいく。
「じゃあ、こっちも行くとしよう。‥‥ピー、いつまでも遊んでないで支度しな!」
 マハ シャンク(ib6351)が、少し離れて地面を歩く蟻をつついていた駿龍を窘める。怒られびくりと翼を震わせながらも、ピーは急いで支度を整え、マハを乗せる。
「では、こちらも」
 エラトも駿龍のアギオンを駆り、両者空へと飛び立った。


 空に出ると身を隠す場所などない。
 池を泳ぐ勢いのまま、すぐに炉縁魚は滑空してくる。ただ、飛翔ではないからか、その高度は低い。
「魚と龍。どちらが強いかなんて比べるまでもないだろう? 灼熱の炎に焼かれ消し炭となれ!!」
 マハが命じると、すかさずピーが火炎を吐く。すぐに炉縁魚の丸焼きが一丁上がり‥‥と喜ぶ間もなく次の炉縁魚が跳ねる。
 炉縁魚の飛翔時間は短いが、その間グライダーのように器用に体を捻って宙を飛びまわる。攻撃の為に高度を下げすぎると、下手するとぶつかってくる。
「気をつけろ。遊び気分でいると痛い目に合うからな」
 空のような龍は、遊びたい盛りの子供のような性格をしている。好奇心が強いのかいろいろ興味を示すのは可愛いが、こうした依頼では邪魔になる。
 今もピーはどこかきょろきょろと目線を動かしがち。そうした行動はきちんと調教しておかねばならない。
 高度を上げて叱咤した矢先、マハの目の前を炉縁魚が飛んだ。
 池の水位は深い。
 その底から勢いを付け、炉縁魚が空へと飛び上がってくる。もっともそんな無茶な飛び方では、躱すのも容易いが。
「無駄な足掻きを‥‥。慌てるな! 落ち着いて対処すれば造作も無い相手だ」
 わたわたとしてる駿龍を制すと、マハは池の岸辺へと向かう。
 エラトもアギオンと共に、仲間と合流すべく動く。
「躱して!」
 池の上では狙われ放題。次々と忙しなく飛んでくる炉縁魚に気をつけつつ、それらの注意を引き付け、なるべく纏めるように誘導。
 池の上を広く一周すると、それらを引き連れ、小舟組の元へと向かう。


 餌を撒き、炉縁魚を誘き寄せる。
「と言っても、その必要は無さそうだ」
 雲母は、舟を漕ぎ出してすぐに、たくさんの流木が周囲に集まっているのに気付く。
 風はあるか無しか。水に流れてきたのなら、とっくに流れ着いて溜まっているのが当然の場所。
 もっとも、そんな不自然もアヤカシ魚と分かってるなら、驚きもしない。ただ静かに戦闘体勢を整え、雲母はレンチボーンに矢を番える。その肩には上空で警戒していた迅鷹の瞬が舞い降り、全身の羽根を逆立てて行く手を威嚇している。
 覇王の気性は主人と同じ。暗い色の体に赤い瞳が爛々と輝く。
 他の開拓者たちもそれぞれに攻撃態勢を整える。
 漕ぐのを止めても、舟は惰性でも進む。ゆるゆると流木との間を詰めていき。
 いきなり木が宙を飛んだ。魚としての姿をするや鰭で風切り、突っ込んでくる。
「肉食魚の駆除と行きますか!!」
 颯が拳を振るわせると、飛んできた一匹を叩き落とし、次の二匹目も落とす。
「瞬、支援を!」
 雲母が言い終える前に、迅鷹は煌きの刃で同化する。放つはバーストアロー。一直線に飛び出す矢は衝撃波を纏い、進路上にいたアヤカシを軽く射抜く。
 それでも飛んで火にいる何とやら。四方八方、それこそ空から水中からも飛び出してくる炉縁魚相手に、矢を引く手も追いつかない。
「つねきち、風刃!!」
 風葉は管狐の三門屋つねきちを呼び出す。
「老体を使うとは何事じゃ。わしは忙しいと言うとるじゃろ」
 ぽそっと文句を告げるも、動きはさすがか。放った風が見事アヤカシを両断。ただし、一体だけ。押し寄せる魚を止められるものではない。
「くぅ! 雲母っ‥‥目を瞑って耳を塞いでなさい! あたしの雷は自然のモノほど優しくないかんねっ!」
 風葉の忠告に、雲母が顔を引き攣らせて船に蹲る。
 つねきちが深遠の知恵で同化するや、風葉はアークブラストを水中に放つ。
 感電を狙ってだが、水に散った雷は威力も距離も半減してしまっていた。多少、痺れた炉縁魚もいたようだが、すぐに問題なく泳ぎ回っている。
「影響あったのは雲母だけってか」
「‥‥雷は苦手なんだって」
 悔しがる風葉に、雲母が気を取り直して弓を構える。
 逆に喜んでいるのは、颯の迅鷹であるブライ。舞雷(ブライ)の名にもなる程雷を好む。晴天の雷に気を良くしたのか、さらに上機嫌で炉縁魚たちの中を飛び回りだした。
「お嬢のやる事も作戦同様力押しじゃのぉ。精々巻き込まれんよう祈っときぃ」
 つねきちは少し笑うと、アヤカシたちを睨みつける。
 風葉もそんなつねきちに練力を送りつつ、回復や瘴気回収を織り交ぜていく。


 舟に濃い影が通った。
 頭上を見上げれば、駿龍たちが蒼天に舞う。彼らが引き連れてきて、さらに炉縁魚の数はどっと増えた。左右上下、引っ切り無しに飛んでくる炉縁魚は、口を開け、喰らい付こうと挑んでくる。
「連れてきましたわ。後はよろしくお願いします」
 エラトは動きをアギオンに任せたまま、リュート「激情の炎」を奏でる。鋭く力強い音が紡ぎ出すのは天鵞絨の逢引。範囲内の味方に精霊の加護を取り付ける。
「攻撃開始! 行くよ、メテオストライクシューーーーート!!」
 身長の倍ほどある魔杖「ドラコアーテム」を振り回し、リィムナが声を張り上げる。
「アギオン、離脱!!」
「ピーも、もたもたしない!!」
 届いた声に、駿龍たちが高速飛行で場から脱する。
 魚たちがそちらを追う前に、リィムナの頭上から火炎弾が発射される。
 これだけ数が入れば外しようが無い。敵を捕らえた弾は大爆発を起こし、周囲一体を熱く焦がす。
「おっと!!」
 瘴気に還る魚が降ってくる。弓で身構えていた雲母がわずか沿った処に、視界の影から炉縁魚が突っ込んでくる。
 弓で弾くも、それで体勢を崩し建て直しが効かなくなる。船ごと引っくり返るよりかはと、自ら池に落ちた。落ちても水蜘蛛でどうにかできる。
 さすがは魚アヤカシ。すかさず、空を飛ぶように水の中も突進してくる。瞬が金剛の鎧で防御を上げるが、輝く鎧はそれなりに目立つ。
(瞬なら大丈夫。持ちこたえる!)
 炉縁魚たちを引き連れ、水面に上がるとすぐに弓を引き絞りバーストアローを放つ。
「どちらの音色がお好きかしら?」
 夜の子守唄で眠らせるエラト。炉縁魚はたまらず、空を飛びながら眠りにつく。が、水に落ちた衝撃で目覚める個体もしばしば。
「ブリザーストーム!!」
 炎の次は吹雪。リィムナの範囲魔法で次々と炉縁魚は落ちていくが、それを掻い潜る者もいる。
 迅鷹のサジタリオは鋭い爪を繰り出すと、リィムナに向かう炉縁魚を重点的に狙う。離れた相手にも風斬波。切り裂かれた相手を、マリーの手裏剣「風華」が貫く。
「アーマーが使えたら楽でしたかしら」
 炉縁魚の攻撃力は低いとはいえ、かまれたり突撃されたら痛い。怪我は常時風葉が閃癒で癒してくれるが、面倒なのは変わりない。
 アーマーなら纏めて叩き潰せも出来ただろうが、何せ水には対処出来ていない。腰の辺りぐらいまでならどうにか動けるので岸辺りなら大丈夫かもしれないが、それでうっかり深い箇所に嵌まると危うい。首まで浸かったなら起動維持がやっとで碌に動けず。水漏れも酷く、浸水してくるのではどうしようもない。
 借りた舟も小さなモノで、アーマーが暴れるには手狭になる。
 残念ではあるが仕方が無い。その分少しでも数を減らそうと、名刀「エル・ティソナ」を繰り出す。深紅に彩られた刃の切れ味は恐ろしいばかり。燃える剣の異名をもつ刀は、水の魚を易々と捌いていた。
「ブライも、はしゃいでばかりいないで手伝ってよ」
 飛び回る迅鷹を少し恨めしげに睨んで、颯は拳で飛んできた炉縁魚を叩き落す。
 鋼拳鎧「龍札」は鉄板すらも一撃で貫くという凄まじい破壊力を持つも、舟の上では体も揺れてなかなか踏ん張れない。普段とは違う動きにやや苦戦しながらも、それでも一体、また一体と炉縁魚は数を減らしていた。
「手荒いですが、こちらの方がよろしいのかしら。でも範囲が狭くて一度に対処できる量も変わりますわね」
 ふぅっと息を吐くと、エラトは重力の爆音を奏でる。重低音が震えると、炉縁魚が消し飛ぶ。生き残っても動きが強張り、弱った所を迅鷹たちが爪にかける。
 少し迷うも、空の上から天鵞絨の逢引を奏で続け、時折、夜の子守唄。目を開けたまま動かなず降ってくる炉縁魚たちに、開拓者たちは容赦なく攻撃を加えていく。
 

 時間をかけて少しずつ。けれど確実に炉縁魚を撃破する。あれだけいた数が見る間に減り、やがて目に付いて動く物はいなくなる。
 川に渡した網を確認してみれば、破られた箇所は無い。飛んで逃げたなら、駿龍や迅鷹たちが即座に飛んで始末しただろう。
「けどまだ潜って隠れてる可能性もあるからね」
 深い池の底、藻の影、岩の下などに潜んでいる可能性はある。
 リィムナは舟を動かすと、あちこちで撒き餌を施す。一匹、二匹とやはり飛び出てくるアヤカシはいたが、もはや敵ではなく、適時対処して瘴気に還す。
 ぐるっと一回り。念の為にさらに一回り。何もいなさそうと分かっても、リィムナはセイントローブなどを脱ぎ、水着になって池に飛び込む!!
「念には念を入れて、だね!」
 薄手の紺色ワンピースで元気に泳ぐと、大きく息を吸って池の底の様子を調べにいく。
 目一杯泳いで回るが、それでも反応無しと判断すると、村に報告に向かう。

 アヤカシがいなくなったと聞き、村人たちは一斉に胸を撫で下ろす。
 池に集まる村人たちを遠目に、マハは軽く肩を竦めていた。
「さっきの内に遊ばせておくべきだったかな?」
 せっかくの広い池。仕事が終わればこの遮蔽物の無い空を思う存分飛ばせて、日頃の発散をさせようと考えていたが。
 村人たちは池の傍で泣き崩れている。知らず近付き無くなった村人を偲び、現場を見て遺族が感極まったらしい。さすがにその傍で騒ぐのは憚られる。
「これ以上、用は無いみたいだし、暑いからもうさっさと帰らせてもらうわ」
 風葉は村人たちに、小さな礼を取ると、後は振り返らず帰路に着く。
「‥‥。そういえば、魚拓を忘れてますわ。こういう時は制した証に取るものと聞いてましたのに」
 こちらも帰り仕度を始め、用意していた紙と墨を見つけて、マリーは残念がる。
 アヤカシは死ねば瘴気に還る。やるなら戦闘中がいいのだろうが、それはそれでのんびり型押しなどする暇など無かった。下手に捕まえて噛み付かれても、いらない手傷を負うだけだ。

 池は食い荒らされ、普通の魚はほとんど見かけなくなっていたという。
 けれど、時間はかかれどいつかはまた元に戻り、村人の生活を助けるだろう。