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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 暑い日が続く天儀では、 二人の乙女ももふらもだれる。 ● 「「という訳で、後は任せた」」 「もふ」 「こらこらこらこらーっ!」 開拓者ギルドに来るや、ぽんと紙の束を渡して帰ろうとするミツコとハツコともふらたちに、ギルドの係員は慌てて呼び止める。 「一体、何の話やらと思えば‥‥例のもふらさまの特訓の仔細か」 ぱらぱらと紙の束をめくり、ようやく合点がいく。 「そ。ギルドの方でも調査してもらえるんでしょ? という訳で、今までこっちでやった事とかは纏めといたわ。もふらさまなんて食って寝て荷物引っ張って寝て転ぶぐらいしかできない生き物と思ったけど、やろうとすればやれるのね」 「はーちゃん。もふらさま好きだよね?」 「勿論よ、何で?」 容赦なく言い立てるハツコに、ミツコが少し首を傾げる。が、ハツコは全く変わらない。だったらいいやとミツコも目を逸らし、もふらさまを見る。 そして、ハツコとミツコは顔を見合わせると、もう用は無いとばかりにギルドを去ろうとする。 「帰るのか? 依頼報告書も上がってきているから大体は分かってるつもりだが‥‥。しかし、これを見ても、もう少し煮詰めていい部分があるように思えるが、それはいいのか?」 係員が首を捻ると、二人が揃ってお手上げをする。 「ほらー、みーちゃんたちってかよわい一般人でしょう? だから、牧場の防衛の為にももふらさまに頑張ってもらおうと思って特訓してもらったけど、その特訓がどれだけ有効か分からないし、どう特訓を広げていいかも分かんないじゃない」 「助言しようにも知識も無いしね。まぁ、大雑把にもふアタックの動きは出来てるし、もふらの癒しは可愛いしで、もういいんじゃないかって事にしたの」 笑うミツコに、ハツコも苦笑しつつ頷く。 「いいのか、本当に?」 だが、係員の方が浮かない。せっかくもふらが運動するという貴重な体験をやらかしているのだ。もう少しだけでも根を詰め、完成度を上げていいのではと思ってしまう。が、貴重な資料自体は手に入ったのだから無理にとは言えない。そこは所詮客商売。依頼者自身の問題だ。 尋ねる係員に、あっさり二人ともぶんぶん首を縦に振る。 「それにねー、もふらさまたちがもう暑くってやってらんないってうだってるのー。こんなだれだれの状態で動いても、怪我するだけだもん。そっちのが困っちゃう」 「見てる方だって、炎天下の中、がんばってるもふらたちを横目に冷たい氷をかっ喰らうのは気が引けるしねー」 「いや、そこは一緒に頑張れよ」 「やーよ、暑いもん」 眉間に皺寄せ軽く睨む係員に、ハツコが頬を膨らます。 「という訳で、特訓は終了〜☆ それにここは神楽の都だもん。アヤカシが襲ってくる事なんて早々無いし、もし来てもここに駆け込めばいいもんね☆」 「そうそう、覚えた所で使わないなら意味無いわ」 「もふもふ。もうしんどいのは嫌もふー」 気軽に笑い合うと、それで話は終わりとギルドを去って行く。 「終了ねぇ‥‥」 その姿を見送った係員。残されたもふら特訓の書をぱらぱらとめくる。 けっして大きくはない本には、小さな文字でこれまでのもふらの動きや傾向、対策が丹念にびっしりと記されていた。少しの余白も許さないような、真っ黒い頁が続いていたが、唐突に真っ白な頁が差し込まれていてそれで終わっている。 白い頁には、隅っこの目立たない位置にごく小さく、 『みーちゃんたちが帰ったら、もふらさまたちに見つからないよう炙ってね☆』 と書かれていた。 言葉通りに帰ったのを確かめてから、用心の為にさらに時間を置く。 そろそろ彼らも家についてだらけ出したと思しき頃に、他の職員に断りを入れて席を外すと、ギルドの奥に係員は戻った。 周囲にもふらがいないのを確認すると、綴じていた紐を外す。 すると、本の隙間から金子が落ちてくる。それを袂に入れると、白紙の頁を明り取りの蝋燭に掲げる。 すると、白紙から文字が焦げ出てきた。 炙り出しだ。 『≪みっしょん≫ 牧場のもふらさまたちを襲って☆ 開拓者の皆のおかげで、もふらさまも素敵な動きができるようになりました。ありがとうございます。 でも、やっぱりもふらさまはのんきでやるきがない子です。 今の状態をこれ以上つづけても、向上は無いとみーちゃんは考えました。 なので特訓は終了とします。 と、すでにもふらさまたちにも告げています。油断してもふもふごろごろ怠けているところを、アヤカシに化けた開拓者たちで襲って下さい。 逃げ場も断ち、絶対絶命のぴんちに追いこみ、それとなく例の技を繰り出すよう仕向ければ、さすがのもふらさまたちだって、本気のやる気で技をくりだしてくれるに間違いないです! これまでの特訓で、動き自体はじゅうぶんますたーできてるはずです。 何かぎこちなかったり威力がなかったりするのは、恐らく人がいると無意識にも頼ってなまけようとしたり、遊び感覚が出てるからです。 やる時はやれるんだぞ、ともふらさまたち自身にも分からせるのです! 化けるアヤカシについては、この間見せた「まるごとふらも」をギルドに置いてますので、あれ使って下さい。 いつ、どうやって襲うかは任せます。でもなるべく建物とか怖さないでね☆ みーちゃん、怒られるから☆ 人がいると頼ろうとするので、なるべくいない時を狙うのがよし。 例え開拓者さんたちがやられても、治療代とかはちゃんとこっちで用意するから大丈夫。万が一死んだら葬式代は奮発します。 でも、もふらさまたちには怪我や事故が無いよう配慮して下さい。かわいそうです。 では、気をつけて頑張って〜☆』 「『追伸。このあぶり出しは、全部読むと証拠隠滅の為自動消去されます☆』だぁ〜? 一体、何をい‥‥うぉっ!?」 最後まで読んで苦笑した係員だったが、途端にあぶり出しの用紙が火を噴いた。 思わず手を離してしまうと、あっという間に紙は燃え尽き、床につく頃には灰に変わる。手にも火傷は無い。 「どんな仕掛けを使ったあの小娘ども!?」 可燃物がそばにあったら危ないじゃないかと、ちょっとどきどきしながら係員は悪態をつく。 とはいえ、依頼料もしっかり添えてあった訳で。 「まぁ、本当にこの特訓や技が有効そうなのか見る為にも面白そうだな」 書を片手にそう呟くと、灰を集めて床を水拭き。 後始末を済ませると、もう一度ギルドの表に出て開拓者たちを呼び集め出した。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
ラムセス(ib0417)
10歳・男・吟 |
■リプレイ本文 受け取ったまるごとふらもを柚乃(ia0638)は、じっと見つめる。 「上級アヤカシとかは人型をしてますし‥‥べつに無理に着なくてもいいのでは」 ちなみに下級アヤカシにも人型はいる。屍人とか鬼とか。幽霊などもか? それを思えば、わざわざまるごとを着込む必要は無い気もする。 もふらに似るがもふらにあらず。可愛くないその外見に夏には堪える素材。着るのが躊躇われるのは無理も無い。 「もふら様は、気が向いた時に我が子と千尋の谷に赴き谷底で遊んだ後、上がれなくて人を呼ぶと言うデス‥‥。あれ、違ったデス?」 ラムセス(ib0417)は首を傾げる。まぁ、そういう伝承があるかは分からないが、もふらさま割とそういう所がある。 「とにかく試練の時デス。たんぽぽさんと一緒に頑張るデス〜」 気にせずまるごとふらもを着込んで、ラムセスはまるっと拳を握る。 そんなもふらが本当に戦えるのか。いや、戦わないにしろ、何らかの形で技を使いこなせるのか。 調べるべく、開拓者たちはもふら牧場に赴く。といっても、そのまま乗り込めばまたお遊び感覚でふざけかねない。本気を見るには、誰にも頼れない状況で技を繰り出してもらわねば。 という訳で、依頼人のミツコとハツコの指示の元、開拓者たちはアヤカシ扮装。 「そんな嫌そうな顔しない。芋羊羹、上げないよ」 アーニャ・ベルマン(ia5465)からアヤカシメイクをしてもらっている迅鷹の花月だが、暴れはしないが不満そうに主人を見つめている。気持ちは分かるとしながらも、水鏡 絵梨乃(ia0191)は宥めて我慢してもらう。 「以前あいつらの前でアヤカシメイクしたことあったからな、少しはデザイン変えろよ。糊は使うな! 剥がす時に痛いだろ!」 「糊は水でふやかせば取れますよ。それより墨がね‥‥染まったらどうしましょう?」 「おいおいおい、勘弁してくれよ〜」 猫又ミハイルのうるさい注文にも応え、アーニャは竹ひごや和紙、墨などで開拓者たちは勿論、他の相棒たちもアヤカシ風に仕立てていく。ミハイルもぺたぺたと手足や尻尾の先、口周りの白い部分すらも真っ黒に塗られ、若干御機嫌斜め。 「まったく、世話の焼けるもふらだぜ。無理して戦わなくても、牧場に忍犬を二〜三匹飼っておけば済むじゃないか」 墨を乾かす為、じっとしているミハイルだが口は止まらない。 「確かにね。もふらさまが頑張るよりも、即座に頼りに出来るわよ」 御陰 桜(ib0271)が大きな胸を誇らしげに張ると、忍犬の桃(もも)♀のお腹をもふもふと揉む。そうしているとデレデレのわんこになる桃だが、普段の修行は欠かさない実に努力家。そんな桃でなくても、忍犬自体厳しい修行の末戦闘補助、伝令、諜報役として活躍してきた実績を持つ。牧場警備ぐらい訳ないだろう。 けれども、聞いてた柚乃は首を傾げる。 「それだともふらさまに技を覚える機会も無かった訳です。‥‥そうですね、もふら様が上手く使ってくれたら、今後の行動範囲‥‥同行範囲が広がりますっ。危険な場所に連れていくのは躊躇いますが」 じっともふらの八曜丸を見つめる。一緒にいろいろ歩けるのは嬉しいが、それで危ない目に合うのは胸が痛む。 「もふ? 大丈夫もふ。危なくないようにする為、技を考えたもふ。危険なんて無くなるもふ」 金色の瞳が自慢げに告げる。 「ともあれ、これで卒業試験ですか‥‥。卒業するのはもふら牧場のもふらであって、もふ龍ちゃんじゃないんですね? もふ龍ちゃんはもう卒業しているんでしょうか?」 「もふ龍、もふ龍アタック覚えたもふか!」 感慨深くしていた紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が、自身のもふらにふと悩む。 しかし、もふ龍も一緒にがんばって‥‥いや、彼ら以上にがんばってきたのだ。 もふら牧場のもふらたちにしても、彼らなりにやってきた。その努力はきっと花開くはず‥‥多分。 もし駄目だった時は、忍犬を牧場防衛策としてミツコたちに勧めよう。 「あ、たんぽぽさん。お手紙は届けられましたか?」 やってきた迅鷹はラムセスの頭上を回ると、持っていた紙を落とす。 広げてみると、大きな花丸が一つ。 襲撃をかけるのはいいが、その際ミツコとハツコが本当に勘違いして邪魔をされては双方にとって都合が悪い。なので、たんぽぽに頼んで手紙で知らせてもらったが、どうやら上手く話は伝わったようだ。 「ほな、気ぃはって行きまひょか!」 雲母坂 芽依華(ia0879)は気合いを入れると、水着の上からまるごとふらもを着込み、牧場へと向かいだす。 ● 特訓はもう終わり。ご苦労様と牧場のもふらたちには告げてある その為、もふらたちはもう動かなくていいと、気を緩めきっていた。 連日の猛暑も重なり、だらだらと日陰で水辺で転がり放題。のんきなもふらの図、そのものだ。 「今日は特別メニューでスイカとカキ氷を用意したよ。皆仲良く食べてねー♪」 「もふ! 暑いもふー」 「こういう時は氷がいいもふー」 「スイカ、冷えてるもふー」 用意された食事に、もふらたちは大喜び。 そのままミツコとハツコはどこかに行ってしまうが、気に留める様子無く、さっそく涼を楽しもうともふらたちは殺到するが。 そのスイカをさっと、マスクをつけた妙な迅鷹が掻っ攫ってしまう。ちなみにたんぽぽである。 「何するもふか!?」 「もふもふ。かき氷もいただいたもふ。痛いもふ〜」 スイカをさらっていったたんぽぽにもふらたちが注目している間に、もふ龍が残った氷も攫えてしまう。 横取りは悪いというが、今回は仕方ないと本人も納得。まぁ、一応氷で頭がキーンとなったので、それなりの罰は受けたのだと思おう。 「酷いもふー。食べられたもふー」 「大丈夫。まだ倉庫に残ってるもふ」 落胆するもふらたちだが、しょうがねぇな、と食料がつまっている筈の倉庫に向かう。そこで待っていたのは、 「食料庫は我々が乗っ取ったもふ! 早くしないと我々が全部食べちゃうもふ〜☆」 まるごとふらもで顔は分からないまま、紗耶香がもふらたちに言い放つ。 その間にもせっせとラムセスと芽依華が、食料庫の中から食料を運び出している。 「あ、食べ物がー」 「スイカがー」 「氷がー」 暢気なもふらさまも、自分たちの食料を奪われるとあってはさすがに黙っていられない。 「今なら御飯食べ放題も‥‥ふも〜」 勝ち誇ったように告げるもふらのもふリルさんだが、外見はふらも仕様。語尾の言い回しに若干苦労している。 「ここはふらも一味が占拠したふも! この特別メニューはふらものものふも〜!」 リーディア(ia9818)が告げると、荷物をまとめて走り出す。 「では、私たちは行きますけど、ここはもふリルさんが見張っていて下さいね。食料を持っていくので、皆来ると思いますけど。念の為、占拠しておかねなければなりません」 「はいもふ〜。気をつけて行ってきてもふ〜」 小声で小さく頼むと、もふリルも分かっていると大きく頷き。 「たんぽぽさんお願いします」 ラムセスが頼むと、仕方ないと言いたげに迅鷹はやや重たげに網に入ったスイカをぶら下げ飛び上がる。 「ああ、待つもふー!」 空飛ぶスイカを負って、もふらが走る。開拓者たちも、もふらたちを先導するかのように今度はプールへと移動する。 こうも暑いと、水遊びもまた楽しい。 川からの水を引いたプールにも、もふらたちは遊んでいる。 しかし、そこにも魔の手が迫る(?) のんびりと浮かんでいたもふらたち。その上空に、甲高い音を響かせ矢が過ぎる。 「何もふ!」 びっくりしたもふらたちが、周囲を見渡す。 「もっふっふ〜。ここは俺たちが占領するもふ〜」 アーニャが夢魔の弓を構えて、堂々と宣言する。 「無力なもふらども、悔しかったらかかってこい〜」 「もふー。危ないもふー」 矢は当たらないように射られるが、狙われてるもふらたちにはそんなの関係ない。あちらこちらに逃げ惑うが、暑いからかプールの中を出たがらない。 しょうがないので、直接追い出そうとアーニャと絵梨乃がプールに飛び込むが、 「‥‥水吸って重い」 「思う以上に、上手く動けないね」 まるごとふらもが濡れる上に、着衣のままの水の動きは結構きつい。 しかし、怪しいのが水に飛び込んできたので、こりゃしょうがないなとばかりにもふらたちもようやく陸の上に逃げ出した。 「ここはもう私たちの物だー!」 「もふー。ここはもふたちの水辺もふ! 出て行くもふー」 絵梨乃が宣言すると、もふらたちが水際から抗議する。が、それで引き下がっては依頼にならない。 「皆様、お待たせです。お食事をお持ちしました」 そこへ食料庫組が合流。そちらに集まっていたもふらもちゃんとついて来ている。 「これは御苦労様。早速いただくとしましょう。‥‥あああ〜、生き返る〜」 アーニャの叫びは演技では無い。 氷もスイカもリーディアが氷霊結で作った氷のおかげで、キンキンに冷えている。プールに足を浸し、氷を掻いてスイカを頬張る。炎天下の着ぐるみ作業をしていると、なおさらにその冷たさが身に染みる。 「ううう。ずるいもふー。それはもふたちの御飯もふー」 ミハイルにも配られたスイカに、羨ましげにもふらたちが見つめている。しゃくしゃくといい音を立てて食べる猫又に、じりじりと近寄るが、察知したミハイルが一足早く閃光を発する。 「まぶしいもふ」 「くくく、もふらなんて弱虫で何も出来ない役立たずだ」 したり顔で笑うと、ことさら美味そうにスイカを食べる。 「もふらは戦わないから楽ふも〜。ここが済んだら次は原っぱで食べるふも〜」 リーディアがこれ見よがしにスイカを並べる。忘れ物をした、とその場を離れるふりをすると、隙ありともふらたちが飛びつく。もっともありつく前にたんぽぽがやっぱりスイカを持っていってしまうが。 「攻撃できるなら攻撃してみろ、できないだろふも〜」 挑発するリーディアだが、まるごとふらもの下の素顔は真剣そのもの。決して遊びではない。 「もふ! もう怒ったもふー!!」 夏の暑さは、もふらも狂わせるのか。怒ったもふらが、気合いと共にふらももどきたちと対峙する。 「やる気になったようやないの。では、次の反応を見せてもらいましょか」 芽依華が炎龍・青紅に合図を送る。 プールのそばでずっと隠れていた青紅。じっと動かずにいた窮屈さと暑さからかここぞとばかりに雄叫びを上げる。 腹の底から響く重低音に、驚いたもふらたち。やがて、互いに目線を向け合い、無言で会話すると、どうぞどうぞと譲り合っている。 「うーん、積極的にこっちから手を出さないと駄目かな? 花月、優しくお願い」 絵梨乃に頼まれ、花月が飛ぶ。 譲り合ってるもふらの中から一体選ぶと、頭に降り立ち突付き始める。 「痛い、痛いもふ」 「やめるもふー」 振り払おうとするが、花月はひらりと逃げる。もふらに捕まるような相棒ではない。 「浄炎ってもふらに効くのでしょうか?」 援護しようとして、ふと柚乃が考える。万一効いて怪我されても困るし、効かなければ多分無視されそうだし。 「もふもふ。スイカの為、かき氷の為。がんばるもふ!」 いいように弄ばれて。 やがて一体が地面を掻くと、しょうがないと言わんばかりに走ってくる。飛ぶ気は無い。単にぶつかろうというだけか。 「ま、一番簡単な動きやしねぇ」 威力はどうか分からないが、とりあえず芽依華は横踏で避ける。避けるついでに、平手で軽くもふらを叩く。 他のもふらも真似して向かってくるが、これも皆して難無く躱す。相棒たちも挑発程度のちょっかいはかけるが、概ねはやはり回避中心。 はたから見てると皆でもふらと遊んでいるよう。 「こうなったら! もふの力を見せるもふ!」 しかし、もふらたちは真剣になってきている。 鼻息荒く、もふらが突進してくるとその勢いのまま飛び上がり空中でくるりと体を回転させる。もふアタックだ!! 「やった!!!!」 これまでの特訓の甲斐あり、その動きは見事なもの。ただ目標は外れ、開拓者飛び越しプールに落ちたけれども。大きなもふらが水に落ち、派手な水飛沫が上がった。 「うっ、やられたー」 わざとらしく絵梨乃が倒れる。実際は当たってもいないが、これで何かやる気を出して技を使い出してくれたらめっけもの。 思った通り。効果ありとみたもふらたちが、目を輝かせている。 「もふ! あいつの勇気に続くもふー」 掛け声は誰のものか。全員が一斉になって駆け込んできた。さすがに団体で走ってこられると怖いぞ、もふらさま。 慌てて避けるとそれに気付かないのか、もふアタックでジャンプして回転し、そして皆がプールに落ちる。 「って、単におまえら水に入りたかっただけだろう!?」 「あらあら」 はっと気付いてミハイルが叫ぶと、リーディアが目を丸くして泳ぐもふらたちを見つめる。 「ふぃー。暑いもふー」 ようやく入った水辺にもふらたちがくつろぐ。 「でも、一応もふアタックは使いましたし、戦う意思は見せてくれた‥‥デス? お次はもふらの癒しが見たいデス」 ラムセスはブレスレット・ベルをしゃんしゃんと鳴らしながら、スプラッタノイズを泳ぐもふら一体に仕掛ける。 「何か何だか分からないもふー???」 たちまち混乱状態になったもふらが支離滅裂な動きをとる。プールで暴れるもふらに、他の遊んでるもふらたちはいい迷惑だ。 「どうするもふー」 「歌でも歌ってみるもふー」 また相談すると、皆で合唱を始める。 「もふらの癒しも、大丈夫みたいですね‥‥。効果はよく分かりませんけど??」 紗耶香が歌に耳を傾ける。何か効果があるのか無いのか。 ラムセスの鈴の音に合わせてもふらたちが歌っている。それでいいのかとも思うが、今はこれ以上の判断は無理だろう。 ● 「くそっ、覚えてろよぉー」 効果はともかく。特訓の成果はあったと見て、開拓者たちは撤退を決める。 勿論、食料は置いて。 「御苦労様ー。氷とスイカはこっちでも用意してるから皆で食べてねー。お風呂もしてあるから、汗流すといいよ」 一体どこにいたのやら。撤退すると、ミツコとハツコが顔を見せる。 彼らがどうしてたかはこの際、どうでもよく。とにかく今は着替えだ。化粧落として、汗を流して、涼を取る。でないと暑くてしょうがない。 リーディアが用意した水を口にし、ようやく一心地つく。 「そういえば、このまるごとふらもどうしますか?」 「おいといても使いそうに無いし。いいよ、記念に持っといてー」 あっさりとミツコが告げる。正直貰っても使い道が少ないが、半ば強引に押し付けられた。 「もふらさまたち、よかったよー。これで牧場も少しは安心だね」 「でも、次に本当に何かあった時。もふらさまたちが動いてくれるかしら」 気にする桜に、ミツコはさらに告げる。 「自分たちで、不審者を撃退したと思ってるもん。調子付いてる間は、頑張ってくれるよ」 「どの道、本当に危険なら開拓者を呼ぶもの。それまでの間、少しがんばってくれればいいのよ」 見れば上機嫌でもふらたちは遊んでいる。 自分たちが食料と遊び場を取り戻したのだと、意気が上がっている。 「依頼とはいえ、彼らから盗った分の御飯はきちんとお返ししないといけませんね」 「甘くて美味しいもの食べたいもふ☆」 楽しそうなもふらにお詫びすべく、紗耶香は腕を振るう。 それらの結果も踏まえ、改めてギルドに報告書が出される。 アヤカシ闊歩し、賊暴れる昨今。 ついにもふらも動き出す‥‥かはやはりよく分からない。 「もふらはもふらだからなぁ」 ギルドの係員が頭を掻く。全てはもふらさまのやる気次第なのだ。 |