寺のクラゲ
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/09 23:45



■オープニング本文

 とある場所のとある廃寺。
 住む者無く、傷むばかりの荒れ放題。このままではケモノや下手するとアヤカシの棲家にでもなりかねない。
 そうなる前に、いっそここに村の蔵でも建てようかと、取り壊しが決定した。
 
 日にちを決めて、村の衆が寺を整理整頓。壁を壊し、柱を崩していたのだが。
「危ないぞー、逃げろー!」
 思ったよりも傷みが進んでいたようで、さほど手を入れない内に一気に倒壊した。
 幸い怪我人なし。
 もうもうと上がる土煙に、壊れた屋根や折れた柱が見え隠れする。
 その中に、高々と湧き上がる水柱。

「温泉だ! 温泉が出たぞー」 
 

「という訳で、跡地を整備して、温泉を作ったんじゃケド、ちぃと困った事になってな」
 開拓者ギルドに、村から来た代表が現れた。
 折角の温泉。活用せねばと、水まわりを整備。温泉場として村で使用することになった。

 が。

「工事に失敗して、風呂にクラゲが入ってしもたんよ」
「は?」
 寺には池があった。そこにはいつの頃からか、ケモノのクラゲが住み着いている。
 そういう意味では、寺はとっくにケモノの住処なのだが、このクラゲたち、浮かんでいる以外は何もしない。毒針すら持ってないのだから無害もいい所。むしろ癒し系である。
 なので、村の人もここには手を加えないつもりだった。
「温泉が少し熱かったのと、どうせなら景色のいい所に浴場を作ろうと、湧き出した位置から浴場は少し離し、湯を引いて冷まして注ぐようにしたんよ。で、その引き込む道筋の傍に、池があるのじゃが」
 大浴場に引き込むはずだった温泉が、うっかり池に大量に注いでしまい、溢れかえってしまったのだ。
 溢れた池の水はそのまま温泉を引き込む為の水路を伝って、風呂に注ぎ込まれてしまった。
 クラゲたちも一緒に‥‥。
「何とか風呂と池は直したんだが、流れたクラゲが風呂に溜まってしもたんじゃ。しかも大量に」
 風呂に浮かぶクラゲの数は一体どれほどか。
 しかも。温泉が良かったのか悪かったのか、クラゲたちは池にいる時より巨大化してる始末。
「そうなっても悪さはしないんじゃが。折角作った風呂がクラゲに占拠されて、使用できんというのはちとつまらんでな」
 がっかりと肩を落とす代表。
 なので、その風呂にいるクラゲをどうにかして欲しいとギルドまで赴いたのだ。
「その場で始末してしまえば話は早いかもしれんが、寺にいたクラゲなのでどうも殺傷は縁起悪そうでのぉ。できれば、池に戻して欲しいんじゃ。しかし、妙に増えた分池に戻してもいっぱいになるかもしれん。そうなると、他にクラゲが住めそうな池となると、山の上に大きな池があるけどのぉ」
 もっとも、傾斜のきつい坂道を五町ほど登らねばならない。
「ちなみに、これが問題のクラゲじゃ」
「‥‥でかいな」
 二つの樽に入った二匹のクラゲ。
 池から拾ってきた方は、傘の直径1尺ほど。だが、温泉に使った方はその倍ほどあり、厚みも増している。
 持ってみるとずしりと重く、一貫はありそうだ。
 しかもクラゲは濡れている上ぐにょぐにょの掴み所が無く、持ちにくい。
「危険は無いだろうが‥‥。まじめにやると力仕事だな、これは」
 実際にクラゲをどうするか。
 開拓者たちに任される事になる。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
露草(ia1350
17歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
クレア・エルスハイマー(ib6652
21歳・女・魔


■リプレイ本文

 寺から溢れ、温泉に流れ込んだクラゲたちをどうにかして欲しい。
 その依頼を受けて、現場に赴いた開拓者たちだったが。
 クラゲ以上の問題児がちょいと混じっていた。
「はい! わたくしドグーロイドのミーアなのです! ついこの間、工房から『ろーるあうと』した新型なのです! マスターにデザインしてもらったこのボディが轟き叫ぶのです!! みなさん、よろしくおねがいするのです!」
 説明しよう!!!
 形式番号・MBD−01ことドグーロイドのミーアは、村雨 紫狼(ia9073)の溢れ出る萌え知識が総動員され、満を持して世に放たれた完全人型土偶ゴーレムなのだ!
 近くで見れば確かにからくりっぽさが残るが、遠くから見れば気にならない。
 その萌え萌え女性な外見は、所謂『土偶』を思い浮かべてしまった人たちの目を点にさせる事間違いなし。
 しかし。
「‥‥。つまり、良く出来た等身大ビスクドールですのね」
「なるほど」
 少し考え、思いついたクレア・エルスハイマー(ib6652)に、一同、納得と手を打つ。 
 素焼き人形の世界も奥が深い。
「マスターと工房の情熱を、そんなざっくりした説明で納得しないで欲しいのです〜」
「それで、その『ますたー』はどこにいった。先程から姿が見えぬが?」
 座り込んでのの字を書くミーアに、からす(ia6525)は不審な眼差しで周囲を覗いつつ問いかける。
「マスターは、『観賞用で露天風呂に何匹かクラゲを残せるかどうか聞いてみるぜ!』と村の人たちとの交渉に赴いたのです!」
 立ち上がって敬礼するミーアに、他の開拓者たちが顔を見合わせる。
 確かに、クラゲを多少温泉に残して名物に出来ないかと話はしたし、その為に村人たちに了承を取る必要もある。
 が、承諾をとるだけでそんな時間がかかるだろうか。
 何かある。
 多少なりとも紫狼を知る者なら警戒を抱いても当然というもの。
「大丈夫です、その間は、ミーアががんばってお手伝いするのです! クラゲさんをお日様に当てて小さくしたら、池まで運ぶんですよね? ミーアもちゃーんと準備してきたのですよー!」
 開拓者たちの不信を、どう受け止めたのか。
 力説するミーアは、自信満々に装備したドリルを掲げる。
「あの、それだとお風呂まで壊しちゃうと思うんだけど」
「ダメなのですかーっ!?」
 柚乃(ia0638)の指摘に、打ちのめされるミーア。
 落ち込んだり立ち直ったりと実に忙しい土偶ゴーレムである。


 浴場は見晴らしのいい場所に作られていた。そこからなら、村を一望できる。
 風呂は大きく、十人ぐらい余裕で入れるのではないだろうか。
 だが、今は人の入る余地はほとんど無く。代わりにクラゲが鮨詰め状態。
「ほらいつきちゃん、これがクラゲですよー」
「きゅうきゅうですのー」
 一匹を露草(ia1350)がつつくと、真似して人妖の衣通姫も小さな手でクラゲの傘をつつく。
 水の跳ねる音だけをさせ、クラゲは揺れる。
「ぷにぷにー」
 害は無いと分かったか、衣通姫はさらに大胆にクラゲを叩く。クラゲの傘が凹むがそれぐらい。特に反撃も無く、触手に刺される事もない。
「なんというか、温泉のお湯でもふやけるだけで死なないという辺り、タダモノクラゲじゃないですね」
「いや、タダのクラゲは温泉でふやけたりしないと思うが?」
 露草は微笑むが、ロック・J・グリフィス(ib0293)はしかめっ面になってクラゲを見つめる。どうやら彼の美意識にはそぐわぬらしい。
 同じく突付いても見るが、表情は微妙なまま。
 大胆にもクラゲに乗って弾み出した衣通姫には、思わず賞賛にも似た眼差しを向けている。
「ちょっと失礼しますわね。‥‥結構重いです」
 クレアは試しに一体をそのまま持ち上げてみる。持ち上がるが、魔術師で女性のクレアにとっては結構ずっしりとした重みを感じる。
「きゃあ!」
 おまけにクラゲはふやけて掴みづらい。
 手が滑り、クラゲが湯船に落ちる。派手な水飛沫が上がり、頭からお湯を被る。
 風呂の波にクラゲも波打ち、足を滑らせた衣通姫を思わず露草が拾い上げる。
「浮かべますのー」
「そうですわね、つい」
 きょとんとする衣通姫に、露草が軽く頭を下げていた。
「重い上に、滑りやすいですのね。盥のような容器に入れれば運びやすくはなりますが‥‥」
 水を払い、クレアは風呂に戻ったクラゲを見る。ぞんざいな扱いになっても怒りもせずに、揺れる波紋に身を漂わせている。
「リューベック、お願いできますか?」
 盥で運べば、気をつけても水の重みが加わる。
 元いた池はすぐそこに見えているが、それでも重い物は重い。
 なので、力仕事を連れてきた炎龍にクレアは頼むも、相手は若干不満そうにしている。好戦的な炎龍とっては、やはりおもしろくない仕事なのかもしれない。もっとも、断固拒否の構えも無く、どこかしょうがないなと言うような目でクレアに返事をしていた。
「運搬は私のX(クロスボーン)でも行おう。だが、この数全てはあの池に戻すのは無理だ。とすると、山の上にある池に運ぶ事も視野に入れねばならないな」
 駆鎧の入ったアーマーケースを示し、ロックは優雅に笑みを向ける。
 クラゲがふやけた分、元の池には収まりきらない。村人に紹介した池は先に見てきたが、容量は充分。だが、山を昇り降りする分手間がかかる。そうすると気になるのは練力による稼働時間だ。
「八曜丸もお手伝いしますから、大丈夫ですよ。ね?」
「おいら、がんばるもふ」
 柚乃の傍でのんびりしていた金色のもふらが、話を振られ、やはりのんびりと立ち上がる。
 のんびりながらも、どこか張り切って見えるのは‥‥。
「頑張ったら、その分美味しいものあげるね」
 言って微笑む柚乃に、ぶんぶんと尻尾を振っている。やはり報酬は大事らしい。
「花月もクラゲ運びをよろしく‥‥って、痛い痛い! 芋羊羹いらないんだな!?」
 不満げに水鏡 絵梨乃(ia0191)の頭を小突いていた迅鷹は、最後の一言でぴたりと動きを止める。
 しばし目だけで会話。やがて花月は絵梨乃から離れると、近くの木の枝に止まる。了承したらしいが、羽根が逆立っている辺り不満は多少残るらしい。
「クラゲの方が重そうだからねぇ」
 心中を察して、九条・颯(ib3144)は自身の迅鷹を見遣る。
 ブライは一体どこで手に入れたのか、やはり木の上で蜜柑を一つ器用に足で剥いて食べている。見つけた八曜丸が羨ましそうに見上げている。
 そのもふらと比べてみても、体格差は歴然。クラゲの数も多いので、あからさまな重労働を厭う気持ちは多かれ少なかれ起こる。
「このまんま運べとは言わないよ。ちゃんと軽くしてみるから」
 絵梨乃が慌てて言葉を足すと、ようやく花月も納得して絵梨乃と向き合う。
 少しでも、負担を減らせるなら減らしたい。
「まずは水気を飛ばして軽く出来るか試してみるか」
 黄金の竜翼をはためかせると、颯は長い尾もピンと張り、気合いを入れて笊でクラゲを掬う。
「勿論、ミーアも頑張るのです!」
 腕まくりの格好をしてミーアも張り切る。華奢な外見ではあるが、土偶ゴーレムとしての性能に期待してもいいのだろうか。ドリルは置いてくれたが、むしろ性格面での不安は残る。


 掬ったクラゲは笊の目を塞ぎ、結果、したたる水がなかなか落ちない。
 そのまま持つとクラゲが滑るのは先の通り。
「地味に面倒臭いケモノだね」
 颯が頭を抑える。楽な方でクラゲを持ち出すつもりがどっちもどっちだ。
「とりあえずは乾燥の為に風呂の外へ出せばよいだろう。ならば任せよ」
 からすは頷くと、ジライヤを召喚。呼び出された峨嶺はからすを見ると、破顔した。
「やあ、お嬢。ワシを呼び出すとは何事よ?」
「実は、かくかくしかじかでな」
「‥‥て、それじゃ判らないけど、まあ状況を見れば大体判るわ。――お嬢の頼みに、美味し酒とあらば!」
 真面目な顔で説明するふりをするからすに峨嶺は呆れ、周囲の様子から事情を察する。
 嬉々として風呂に飛び込むと、手当たり次第に放り出す。
 さすがはジライヤ。濡れるのも厭わずクラゲに手をかける。
「少数は残しておくのでしょう?」
 派手な動きに面食らいながら、クレアはふと尋ねる。
「掃除も必要じゃろ。まずは全部上げてしまおう」
 召喚に集中しながらも、からすは風呂の様子を見て答える。それを見た峨嶺も頷き、ますますクラゲ掬いに精を出す。
「あまり傷をいれぬようにな。クラゲが弱って死んでしまうと元も子も無い」
 峨嶺とは別に、ロックもクラゲを運び出す。ただやはり大クラゲはあまりお気に召さぬ様子。
「こんなものか。ご苦労様、一旦戻っててくれ」
「なかなか良い湯だから、早く楽しむと良いぞ」
 風呂の中が片付いたのを見て、からすは峨嶺の詠唱を止める。労いの言葉を受け、峨嶺は笑うとその姿は消えた。
 外に出されたクラゲは綺麗に整列され、順次乾燥を試みられている。
「どれも一応縮んではいるね」
 普通に日干し、冷水につける、温泉と水と塩水を混ぜた水につけてみる、と様々な手段でクラゲを試す颯。
「水でも小さくなるけど、一番早いのはやっぱり日干しかな?」
 絵梨乃は首を傾げる。全くどんな生態をしているのやら。
 問題は、クラゲの生命にどの程度の影響があるのかが良く分からない。
「どこが痛いとも苦しいとも気持ちいいとも反応しませんからねぇ?」
 治癒符を用意する露草だが、困惑顔を浮かべている。
 クラゲの数は多いが、心配する練力不足は元寺に加護はもう無いらしく瘴気回収が問題無く行えた。
 ただ、肝心のクラゲがよく分からない。
 乾かしすぎると死んでしまうのは当然だが、一体どの程度で痛手になっているのか。干しても漬けても、やっぱりクラゲはただあるがまま。
「大きさが半分ほどになったら要注意だろうけど、元の大きさ程度までは大丈夫かな? 急に痩せると人間なら体に負担がかかるけど‥‥」
 クラゲを叩いてみたりひっくり返したりと、颯は熱心に視る。
「干して塩蔵すると高級珍味になったりしますが」
「それはさすがに」
 小さくなっていくクラゲに、柚乃が口を出す。食用かどうかは別にしても、さすがにそこまでやる訳には行かない。珍味の言葉にぺろりと舌を出した八曜丸に柚乃は笑いかけ、帰ってからの御馳走を約束する。
「村人たちは、クラゲを生かしたいのだからな。ひとまず運べそうなクラゲから運び出すとしよう」
 ロックも苦笑すると、アーマーを準備する。
 クラゲを樽に入れ、その樽を大八車に。まだ水気で重いそれを稼動した駆鎧で難なく運び出す。
 元いた池はすぐにいっぱいに。小さくしたとはいえ入りきらないクラゲも多かった。
「ふぅ、ではこちらをお願いしますわ」
 大八車の樽にクレアがクラゲを運びこみ、いっぱいになるとリューベックが引っ張っていく。
 山の上の池までは整備されていない細い道が続く。そこを炎龍と駆鎧ともふらが行き来するのは結構窮屈があった。
 なので、クレアは空からの運搬をリューベックに頼む。
「この重さなら花月も何とか行けるよね?」
 大八車はさすがに無理。持ちやすそうな桶に小さなクラゲを入れると、絵梨乃は花月に持たせる。
 翼を震わせ、迅鷹が舞い上がる。多少重かったのか、少しふらついたが全く弱音は見せず、炎龍の後を追い池に向かう。それほど魅力か芋羊羹。
 池につけば、運んだ樽を大八車から傾け、柚乃はクラゲを池に放つ。
「八曜丸、そっちを押して下さい。‥‥せーの」
「もふー」
 村人が頼むだけあって、山の上の池は広さも深さも充分。音を立てて流れ込むクラゲは、その流れに乗って、すぐに池に広く浮かぶ。
「本当は、住み慣れた土地に居続けられたらよかったのですけど」
「でも、気持ち良さそうもふ」
 クラゲたちに、柚乃はそっと手を合わせる。
 そこを気に入ったか、不満はあるのか。やっぱりクラゲはただ漂うだけだった。


 クラゲを詰めて何度も運び、やがて数える程度だけ残す。
 このクラゲたちは湯船に浮かべ、クラゲ温泉にできないかとの提案。
 ただ、本当にクラゲと風呂に入って大丈夫なのか。まずは開拓者たちが先に試させてもらう。
 風呂の水は一旦止めて、綺麗に清掃。池の水が混入したからか、藻や土が結構入り込んでいた。
 排水の辺りは、クラゲが詰まったか早くも痛みが見える。ロックが丁寧に直していた。
 湯船の大きさは充分。ただ、本当に風呂があるだけなので、間仕切りも囲いも何も無い。
「って事は、やっぱり混浴?」
「無理! 絶対無理ですー!!」
 尋ねる絵梨乃に、柚乃は全力で首を横に振る。
 顔が真っ赤なのは頭の振りすぎか、羞恥か。あるいは両方か。
「美しきお嬢さん方の望みであれば、俺とXで衝立を作らせて貰うとしよう」
 高貴なる薔薇を掲げ、ロックは優雅に約束する。‥‥どことなく残念そうなのは、彼とて男なのだ。仕方ない。

 アーマーも稼動させ、大掛かりな衝立を作る傍ら、風呂の湯を戻し、クラゲも放す。
 放したクラゲはまた湯でふやけていくが、数も少ないので邪魔という程でも無い。
「これで実利があれば、クラゲの温泉生息も可能ですが。‥‥ですが、まずはお疲れ様ですね。後はお風呂上りにつめたーい一杯があればいいのですけど」
 注ぐ温泉は心地よく。
 露草は疲れを癒すように、のんびりと目を閉じる。
「酒が欲しいなら用意しておるぞ。‥‥おお、そうじゃ」
 酒を用意していたからすが、ふと手を休め、峨嶺を呼び出す。
「こう見えても雌だ。問題なかろう。‥‥今日はご苦労だった。後は練力が続くまでだが、ゆっくりしていってくれ」
「こう見えても、は余計じゃぞ」
 冗談めかして睨むと、峨嶺はするりと風呂に入る。
「やはり良い湯だわ」
 酒も渡され、上機嫌。ジライヤも喜ぶ名湯、という訳か?
 女性開拓者たちに相棒たちが寛いでも、まだ余裕があり、クラゲが漂っている。どれだけ大きな風呂を作ったのやら。
 だが、ゆっくり浸かっているとそこはかとなく問題点も見えてくる。
「排水の辺りに集まるな。風呂に満遍なく留めるなら、水の流れを考える必要あり、と」
 放してしばらくすると、クラゲは何となく一箇所に集まってしまう。
 湯船に浸かったまま、颯はクラゲを調査。風呂や辺りも興味深く観察している。
「大きさはこれ以上ふやけないようだけど、他に問題はある?」
 颯は集まるクラゲをまた風呂のあちこちに散らす。
「クラゲで美肌効果は期待出来ますかしら。そういえば、この温泉自体の効能は‥‥きゃあ!?」
 長い銀の髪を頭上で結わえて寛いでいたクレアが突然悲鳴を上げる。
 見事な肢体を手ぬぐいで隠すと、身構えて振り返る。
 そこにいたのは――クラゲだった。流れたクラゲが後ろからクレアに触れたらしい。
「びっくりしましたわ。いきなり触るから何かと思いきや。触手でしたのね」
 正体見たりて、ほっと息を吐く。
「クラゲさんもふやけると大きいですから、やっぱり邪魔と思う方も出るかもしれませんね。衝立も作りましたし、向こうとこちら、クラゲさんのいるいないで分けてもよいかも」
 クラゲをぽにぽに叩きながら、柚乃は男湯の方を見つめる。
 男はロック一人なので、風呂は半分にせず男湯の方がかなり狭くしてある。その狭い空間で美意識を見出せないクラゲと仲良く浸かるのはいかがなものか。という訳で、クラゲも入れない事にした。
 衝立は動かせる。実際どうするかは村人たちが決めればいいだろう。
 今は目に見える問題や利点を纏め上げ‥‥る前に、今日の疲れを癒す一時を楽しむ。
「そういえば、結局一人見当たらなかったな? 男湯はどうだ?」
「いや、こちらは俺だけだ」
 ふと颯はクラゲから目を外し、見渡す。衝立はあるが、声は通る。返って来たロックの声も、疑問が滲んでいた。
「マスターも頑張ってたのです。ミーアはちゃんと見てたのです! だから、お風呂も皆と一緒に入ればいいのに、恥ずかしがり屋さんなのです」
「ほ、ほう」
 まったり風呂で寛いでいたミーアが、紫狼の事を言われてると悟り急いで力説する。
 熱意はともかく、これでどこかにいるという事は確定した。しかも、風呂へ誘える程度は傍に。
 女性たちの目が険しくなる。
 その空気を呼んだように、風呂の近くで突然騒ぎが起こる。
「のわぁ! ああ、くそ! もう少し!!」
 甲高い鳥の声は迅鷹のもの。混じる男の声は‥‥紫狼である。
「よくやった、花月!」
 激しく紫狼を突付き倒す花月に、絵梨乃が声を上げる。後で芋羊羹もたっぷりあげよう。
「マスター発見なのです♪ 何をしてるのです? お風呂一緒に入るのです!」
 天真爛漫に誘うミーア。
「そうねぇ。今なら頭を冷やす氷風呂、頭を刺激する電気風呂、煩悩を汗と共に流すサウナがありますが、どれがよろしいですか?」
 手ぬぐいをしっかり体に巻きつけ、クレアも笑顔で紫狼を呼ぶ。ただし、その目は全く笑っていない。
「だが断る! 潜んでのノゾキこそ浪漫ニストなんだZE☆」
 己の信念ひたむきに。ある意味漢だぞ、村雨 紫狼。方向間違えてるけど。 
「分かりました。つまり全部ですね!!!!!」
 そんな漢の信念も、女の怒りに通じる筈無く。
 にっこりと笑んだクレアの表情が殺気に変わると、即座にサンダーが、フローズが、ファイヤーボールが紫狼を襲う!!
「いいのでしょうか」
「治療は可能ですから、大丈夫です」
「ですのー」
 聞こえてくる派手な戦闘音に柚乃は多少の心配をする。
 だが、冷静に符を見せる露草と無邪気な人妖に、頷いてまた風呂に隠れる。‥‥水着を着ているが、覗かれるのはやはり別。

「全く、無粋な」
 逃げ回る悲鳴から、衝立越しでも事情が知れる。
 苦笑しつつも、ロックは助けに行く気はさらさらなく。
 ここちよい風が吹き、景色も最高。ここに風呂を作った村人の気持ちがよく分かる。
「これもまた、風流というやつか」
 止まない雑音を頭から消し去り、のんびりと風呂を楽しむ。