節分 鬼と神と鳩
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 18人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/16 21:41



■オープニング本文

 天儀には、神の使いとされるもふらがいる。
 そして、鬼と呼ばれる修羅が現れた。
 鬼遣らいの日とされる節分が近くなる中、周囲の動きも慌しい。
 さてどうなるのかなーと半ば他人事で開拓者ギルドの係員は様子を窺っていたが。

「おっし、節分やるぞー」
「もふー♪」

 虎縞模様のもふらにまたがり、ジルベリア風ドレスに身を包んだ酒天童子が豆持って現れた時。一体どうすればいいのだろう‥‥。
「順番に行こう。まず、その格好は何だ?」
「お化けだ」
 言われて、係員は思い出す。
 節分に、年齢や性別など普段と違う姿をとる事で、災厄である鬼を驚かせ追い払う風習である。元は年齢に即しない髪型に変える「お坊髪」としたのが「お化け」に転じたとも。
 勿論、もふらの虎縞も地毛ではない。染料で塗り分けている。
「‥‥何故ドレス?」
「年齢にそぐわない衣装とか言われても、そもの年齢が最早何が何やら。なんで、異性装。驚かせる事が厄払いになるのだから意表をつくべしと言われた」
「もふ」
 誰の入れ知恵か。
 ま、本人たちが全く気にしてないなら別にいいだろう。
「次。節分って事は『鬼は外、福は内』だが、それでいいのか?」
「別にいいぜ。出て行っても」
「待て待て、それは困る」
 澄ました笑みを浮かべてギルドを出て行こうとする酒天を、慌てて係員は止める。
 嫌がらせ、という理由だけでとっととどこかに行きかねない。が、それをされて困るのは監視目的で留め置いてるギルドの方だ。
「この世には『鬼は内、福は内』という風習もあるもふよ」
 不適な笑みを浮かべて、もふらが告げる。
「便利だよなー、というのはさておいて。普通は『鬼は外』だろうし、それでいいんじゃね? 修羅は修羅であって、災厄の鬼とは違うし気にする事ないだろ」
「災厄として封じられてた当人が、どの口開いてそれを言うか!?」
「あっはっはー」
 軽い口調の酒天に係員は頭を抱えるが、やっぱり当人が気にしてないならいいのだろう。
「で? 『鬼は外』で豆持ってきたって事は、お前さんに豆ぶつけろと?」
「違うもふ。節分の鬼はもふたちもふ。他のもふらにも声をかけているもふ」
 もふらが割り込んでくる。
 よく見れば、頭上に角の装飾。牛と虎で鬼の仮装か。
「アヤカシの攻勢に、謎の襲撃! 何かと物騒な昨今の不安を振り払うべく! 全力で豆を撒いて厄払いもふ!!!」
「だからといって、もふら様にぶつけるのは何か違う気が‥‥」
「大丈夫だ。見てろ」
 酒天がもふらから下りると、持って来た豆を全力で振りかぶる!!
「鬼は外ーっ!!」
「もふーーーっ♪♪」
 宙を飛んだ豆にもふらが喰らい付く。取りこぼして地面に散った豆もぼりぼりとそれは美味しそうに!!
「ただ豆が食べたいだけかーっ!!!」
 撒かれる側の方が食べ易い。そういう事らしい‥‥。
「豆は自分の歳だけ喰うもんだぞ!?」
「そんなの数えてないもふ」
 豆を頬張りながら、さらりと流すもふら様。
「という訳で、もふらが鬼の豆撒きをするが、ここで問題が起こった」
「問題?」
 淡々と酒天は豆を撒く。それをもふらが頬張っているが、そこにばさりと羽音。
 見れば、一羽の鳩がもふらの食べ残しの豆を突付いている。
 見る間に、二羽、三羽、十羽と増え‥‥。
「痛いもふー」
 もふらの背に飛び乗ると、いきなり嘴をその中に突っ込む。どうやら毛に埋まった豆を狙っているようだ。
 嘴で突付き、鍵爪で掴み。もふらが暴れれば驚いて逃げようと翼広げて同じく暴れ。もふもふの毛に足が絡まろうものなら、被害はさらに大きく、辺りに羽毛が散らかる。
「豆狙って鳩が来るんだなー。今、冬で餌が少ないからだろうけど」
 もふらが暴れると、毛にさらに豆が絡み。その豆狙って鳩が襲撃し‥‥。
 白い鳩は平和の象徴というが、ある意味平和な光景である。まぁ、白くない鳩の方が多いが。
 見かねて係員が鳩を追い払うも、奴らは少し離れた屋根の上に止まり様子を見ている。
「ついでに鴉とかも来る。噂でも聞きつけたか、ケモノも混じる事があるので要注意」
「もふー!」
 鳩を眺める係員の後ろで、もふらが大きな鴉から豆を狙って突付かれ、以下略。
 本当に困ったものだ。
「室内でやるというのは?」
「あの巨体が群をなして暴れ回るのにか?」
 案外大きいぞ、もふらさま。
「並べて口に豆を放り込めばいいだろ」
「それは豆まきじゃないもふ」
 そこは何か譲れないものがあるらしい?
「そして、さらに問題があって」
「まだあるのか!?」
 酒天が巻き寿司を取り出す。七種の具を詰め込んだいわゆる恵方巻きである。
「恵方を向いて無言で喰うのが習いだが、食べてるともふらが邪魔しにくる」
「もふもふ」
 鬼だからではなく‥‥どうやら食べたいらしい。興味津々に顔を寿司に持っていく。
「なので、鰯の頭を刺した柊で邪魔する」
「臭いもふー」
 鰯頭付きの柊を鼻先に突きつけられ、もふらが顔を背ける。でも目は寿司を追っている。
「でも、一体ぐらいしか祓えないし、時間も短いのでその間に頑張って喰わなきゃならんという結構過酷仕様。もちろん恵方を向き続けて無言のまま、両手が塞がるので茶も呑めんという‥‥」
 太巻き一本。早々と喰えるものでは無い。
「普通に追い払えばいいんじゃ」
「それは節分にならないもふ」
 そこは譲れない何かが、やっぱり以下略。
「というか、食わせてやったらどうなんだ?」
「こっちの喰う分が無くなるぞ?」
「他人の御飯のが美味しそうもふ」
 にやりと笑う酒天ともふら。
 面倒な節分である。
「ま、豆も寿司も柊もこっちで用意するから心配するな。鳩に気をつけて、気楽にやりゃいいじゃん」
 豆を突付いてギルドに入ってきた鳩一羽。他の職員が追い払うと、飛び立つ際に糞を落とす。食べたら出すのは当たり前。
 がっくりと肩を落とす職員から、係員は目を逸らす。
「節分で騒ぐのはいいんだが‥‥各地の修羅襲撃もハッキリしない中でこんなのんびりしていていいのか?」
「年中行事は必要だろう」
 きっぱりと言い切られる。
 どうやらそういう事でいいらしい。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 九法 慧介(ia2194) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / リーディア(ia9818) / 明王院 千覚(ib0351) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / 无(ib1198) / ケロリーナ(ib2037) / ルー(ib4431) / 遠野 凪沙(ib5179) / 緋那岐(ib5664) / 白仙(ib5691) / 雪刃(ib5814) / 紅劉 蒼姫(ib5913) / 山奈 康平(ib6047


■リプレイ本文

 世の災厄を祓い、福を願う節分。
 場所によっては厳粛な行事を執り行うが、民間では概ね遊び半分に豆を撒きあう。
 後は巻き寿司を食べたり、鰯を食べたり飾ったり。
 そんな節分を今回取り仕切るのはジルベリア風ドレスの可憐な少女。
「綺麗なドレス。着てみたいなー」
 豪華な衣装に礼野 真夢紀(ia1144)は見とれる。
 何となく顔に見覚えがあった柚乃(ia0638)だったが、それが誰か気付いた時、思わずがっしと頬を掴んで覗き込む。
「どうしたの?」
「それはこっちの台詞だ。いきなり何する」
 問い質す柚乃。返す声は少女らしくない。
「わわ! 今日は酒天おねえさまなのですねー☆」
 横合いから、笑顔振りまきケロリーナ(ib2037)が正体言い当て抱きしめる。
 ドレスの主は修羅の王・酒天童子である。けっして女王ではない。
「お前‥‥何か間違ってね?」
「そんな事無いですよ。ちゃんと着れてますよ〜」
 なんと告げてよいのやら。
 とりあえずそれだけ言った緋那岐(ib5664)に、ケロリーナは衣装を検分して微笑む。
「素敵な衣装ですね」
 じっと眺める遠野 凪沙(ib5179)は、何からいうべきか迷っている。
「‥‥。女装や奇抜な格好をされる方は他にも沢山いらっしゃいますし、個人の感性ですしね」
 和奏(ia8807)はあっさり納得してしまった。
「じゃなくて、お化けなの! 趣味でやるか!!」
「ダメですよ〜。その格好ではおしとやかに動きませんと。こんな感じです〜」
 ドレス姿で大股開いて拳まで作る酒天に、ケロリーナは礼儀作法の見本を見せる。
「節分お化けで、普段と違う格好で鬼を驚かす、だったけ? 面白そうだから、私もやってみたよ。エスコートする騎士みたいでしょ?」
 ジルベリアの騎士風礼装で登場した雪刃(ib5814)。
「手を出すのは嫌ですよね?」
「格好が格好だし、今だけな」
 尋ねる雪刃に、酒天は済ました顔して手を借りる。
 女性扱いはよくても、子ども扱いは拒否。面倒な御仁である。
「女装して驚かせて厄払い‥‥。節分にはそんな風習もあるのですか。でも、今年はちょっと無理そうですし‥‥よし! 来年、旦那様にお願いしてみましょう♪」
 違う土地には違う文化があるもの。
 並ぶ二人にリーディア(ia9818)は、来年への決意を固める。
 ‥‥旦那、いい災難かもしれない。
「しばらく会ってなかったからどうしてるのかと思ってたけど、心配するまでもなく元気にやってるみたいね。‥‥女装は元気過ぎるかな、少し」
「女装ゆうな、お化け!」
 ルー(ib4431)は、眉間に思わず出来てしまう皺を伸ばす。
 聞きとがめて酒天が訂正を入れるが、何がどう違うのかよく分からない。
「いくら融和するのが文化とはいえ‥‥、幾らなんでも混ぜすぎじゃ?」
 節分に統一されてるだけマシなのだろうか。豆まき、寿司食い何でもござれ。
 節操無さに无(ib1198)も呆れるしかない。
「酒天さんは、各地の修羅襲撃騒動でつのる人々の不安や恐れに対して、自ら追儺の対象になるおつもりなのでしょうか?」
 明王院 千覚(ib0351)は酒天の考えを読もうとするも、もふらたちは聞きとがめる。
「もふ? 追われるのはもふたちもふ〜」
「豆は渡さないもふー!」
「負けないもふー!」
 虎縞に染まって牛角つけたもふらさまたちが気合を入れだす。
 毛を逆立てるもふら様たちの勇姿に柚乃が思わずぎゅっと抱き付き、緋那岐が全力で逃げ出す。
「出来る事なら追儺で追われるモノなど無く、須く手と手を取り合って歩んでいけると良いのですけど‥‥」
 もふら様を宥めながら、千覚は憂う。
「でも、奴らは払わねばならないもふ!」
 むっとしながらもふら様が見つめるその先は。大きな木にびっしりひしめく鳩の群。
 開拓者たちを警戒して今は近付かないが、豆を狙っているのは十分分かる。
「夜には出来ないんですか?」
「‥‥。その手があったか」
 真夢紀の提案に、酒天はぽんと手を打つ。
 鳥は鳥目。ただの鳩なら夜には活動できない。そんな単純な事を忘れていた。
「夜は豆が見えないもふー」
「食べ損ねるもふー」
 しかし、もふら様たちが泣く。
 微量な明かりで小さな豆に喰らい付くのは、取りこぼしも多くなるかもしれない。
「突付かれるより食べる方がいいのですか」
「寄せ付けなければいいもふ! 頑張るもふ!」
 真夢紀に、もふらさまは珍しいやる気を見せていた。


 節分といえば、やはり豆まきが無くては締まらない。
 広場に大量の豆持ち込んで、景気よくばら撒く。
「おーし、行くぞー! 鬼はー外ー! 福はー内ー!」
「「「「「もふーーーーー♪」」」」」
 なじみの掛け声と共に豆を投げれば、狙って鬼役もふらたちが走り回る。
 ‥‥何か違う気がするが、それはまぁ仕方ない。
「鬼は外より、鬼は内ですね」
 追われる鬼ばかりではないのだ。
 千覚は、鬼も福も招くよう豆を撒く。
「開拓者になって良かった‥‥」
 感慨にふけるのは和奏。諸所の事情で、豆撒きはさせてもらえなかったそうな。
 嬉々として豆を撒けば、もふらが奔り、鳩が舞い降り、鴉がつつく。にぎやかである。
「ブブゼラは、さすがに迷惑になっちゃうかな?」
 都の中の一角。近くには住宅地も並ぶ。
 試しに、琉宇(ib1119)がブブゼラを鳴らすと、驚いて鳩が逃げた。
 ついでに、犬が遠吠えを始めて、子供の泣く声も聞こえる。
「止めた方がいいようです」
「だね?」
 別の騒動が起きそう。凪沙が止めに入ると、琉宇もブブゼラを離す。
 しかし、何もしないと鳩は餌を目当てにどんどんと集まってくる。
「なんだか動物さんに餌付けしてるだけのようにも‥‥」
 足元に豆撒けば、大人しく突付きにやってくる。
 群がる鳥たちに、リーディアが和んでいると、悲鳴が上がった。
「痛いもふー」
 見れば、一緒に来たもふらのもふリルさんが鳩に突付かれている。薄黄色の体毛は、鬼役として今は虎縞が塗られているが、その中にさらに灰色の塊が埋まりぎみ。
 涙目になっているもふリルさんを慰め、鳩を解放する。
 鳩は遠くに飛んでいったが、他の鳩たちはまだまだ沢山寄ってくる。
「事前にお腹いっぱいになるように、豆いっぱい撒いておいたんだけど‥‥。向こうの方が多いですね」
 しょげる真夢紀。どうやら口コミ(?)で話が広がったか、かなりの鳩が餌を食べにやってきていた。
「ものは考えようだよ。お豆を鳩が食べてくれるなら、後で掃除しなくていいし、そんな風に考えてみたら?」
「豆掃除はなくなるが、羽毛と糞が大変だぞ?」
 琉宇の考えに、酒天は首を傾げ。
 こつこつとまめに食べてくれる鳩たち。
 だが、鳩たちが幾ら場に慣れようと、ぼーっと食べてばかりではもふらに踏まれる。時には空にも逃げ出すし、羽ばたけば羽毛が舞い散る。
 ついでに、目方を減らす為に出すモノも出す。
 空からの落し物。さすがに開拓者たちは、巧みに躱している。が、もふらさまは避けきれてない‥‥。
 さらに、鳩だけならまだしも。おこぼれを狙って黒羽の鴉や、規格外の大きさの鳥たちまで現れる。
「鳩はともかく、鴉は賢い。放置しておけば虎視眈々と狙ってくるだろう。‥‥親玉を説得出来ればいいが」
 からす(ia6525)が干し肉を見せると、その持った手から鴉ケモノは颯爽と肉を奪っていく。
 无が観察用に人魂を放つも、模した小動物も餌と思われたかあっという間に食いつかれている。
「まぁ、普通よりちょっと強そう程度で性質も大して変わらないみたいです。放っておいてもいいでしょうけど」
 无は呪縛符で捕まえたケモノをじっくり観察。好んで人を襲う気配も無いので解放する。
 が、すぐに豆を狙ってもふらを攻撃。危ないといえば危ない。
「説得する言葉も無しか。仕方ない」
 からすと鴉。同名の誼で乱暴な事はしたくなかった。
 けれど、やはり人とケモノの差は埋まらないのか。
 呪弓「流逆」を手にすると、からすは矢を番える。肉をうまそうに食べてる鴉ケモノをやや外し上空に射る。
 飛んでいった矢に、鴉ケモノは驚いて飛び立ち、さらに距離を置いて止まった。
 鴉ケモノは不満を露わに翼を羽ばたかせている。さすが、ただの鳥とは違い気骨がある。
「あまり人の物を勝手に食べてはいけないよ。でなければ人から相応の報いを受ける事になる」
 からすが鴉ケモノを叱りつける。
 その後ろでは、鳩たちはてんで別方向に集まり、我関せずで、豆やもふらを突付いている。
「もふら様が突付かれるのは可哀想かな。それも楽しんでるみたいだけど」 
「楽しくないもふ。痛いもふ」
 えぐえぐと涙目でルーに訴えるもふらさま。でも、口は豆でもぐもぐ。
「ま、これも試練だ。がんばれ、もふ公。それ、鬼は外ー!」
 口先だけで慰め、豆撒く酒天。投げる豆の先は、もふらの口というより背中に向けて。もふもふの毛皮に埋まった豆を狙って鳩が寄ってくるのを笑う。
 どう見ても状況を楽しんでいる。
 そんな彼にも、豆がぶつけられる。
「誰だ!」
「くっくっく! 今こそ、弓術士の本領発揮ってなぁ!」
 颯が豆を頬張り、栄養補給。‥‥なんか口元の笑いがイッちゃってる気がするのは気のせいか。気のせいに違いない!
「食べちゃダメもふー! 豆はもふたちのもふー!!」
「食べたい奴は勝手にいんたぁせぷとするが良い! さぁ、喰らぇ〜い!」
 冬の空に向かって颯は、盛大にばら撒く。
 降り注ぐ豆の雨。そこには鳩も鴉もケモノも人も修羅も一切合切関係無い。
「ってこらー! 鬼は向こうだ、人を祓うな!」
 被った豆を払って怒鳴る酒天だが、その矢先に、別方向からまた豆を撒かれる。
「あ‥‥あれ? どこに飛んでったんだろう? もう一回‥‥ふくはーうち!」
 空になった手と付近を見つめ、白仙(ib5691)は首を傾げる。
 気を取り直し、豆をがっしと掴むと大きく振りかぶって、大暴投。
「わざとぢゃないだろうな‥‥」
 酒天に全弾命中。鬼役もふらは全然別の場所である。
「‥‥大変。でも‥‥もふらさまには投げたく‥‥ないし‥‥」
 白仙の白耳と尻尾がへたりと垂れる。
「俺はもふら以下かどわっ!」
 口を開いた矢先、酒天の頭がずしりと下がる。被った豆狙って鳩が群がっていた。
「頭来た! お前ら纏めて焼き鳥にしてやる!」
「攻撃はやりすぎ。なめられたら激化するみたいだから、逆に本気で怖がらせれば襲ってこないと思ってよさそうね」
 鳩相手に暴れる酒天を止めると、ルーは周囲の鳩たちに剣気を叩き付ける。
 身中から発せられる威圧は、相手を怯ませる技。だが、弱い鳩たちは危険を感じるや一斉に逃げ出す。
「自分で言ってたけど、修羅は鬼じゃない。だから、出ていく必要なんてない。ね?」
「ああ、分かってる」
 不機嫌な酒天に、ルーは諭すように笑いかける。


 厄払いも大事だが、福を招くのも大事。
 恵方を向き、円をそのまま食べる事で縁を為すとかで。巻き寿司一本、まるっと食べる。
「今日の飯だ。‥‥いや、今年こそ、我が家にも銭という福が回って来てもらいたいものだ!」
 用意された恵方巻きを貰い。恵方を向いて、山奈 康平(ib6047)は嬉々として大きくかぶりつく。
 途端、殺気を感じた。
 慌てず騒がず、康平は渡されていた鰯の頭付き柊を突き出す。
 事前に神楽舞・攻を鰯にかけている。士気を高められた鰯はその匂いを活性化‥‥したとは思えないが、そこらは気分の問題。
「臭いもふ〜」
 殺気の主。巻き寿司狙って近付いてきていたもふらさまは鼻先に嗅がされ、顔を背ける。
 してやったりと、胸中で笑う康平だったが、
「美味いもふ」
 気を取られている間に、別のもふらが反対側から食いついていた。
「なっ? よせっ、俺の飯を返せ!‥‥あ!」
 恵方巻きを食べてる間は喋ってはならない。口元を抑えるが後の祭り。
「喋ってしまった。福が逃げていく〜。‥‥おーのーれー」
 豆を掴むと、康平はもふらたちに全力でぶつける。お寿司を食べておやつもくれて、もふらたちは楽しそうだ。
「今年こそ福が来ますように。‥‥もふら様、邪魔しないでください」
 同じく食べようとする紅劉 蒼姫(ib5913)なのだが、やっぱり同じくもふらさまが狙っている。
 ついでに、準備しておいた酒は酒天が狙ってる。
 なんともあちこちから狙われて、どうしたものかと蒼姫は悩む。
「まずは‥‥豆を投げて鳩に気を取られ‥‥、鰯頭付き柊で防いでいる間に‥‥一気に食べ‥‥んんっ!!」
 知略を使い、白仙がもふらの気を逸らせ、その間に恵方巻きに食いつくが。
 太巻き一本、急いで食べようとすると胸に痞える。なかなかの難事業。
「福茶を用意した。いかがかな?」
 からすが差し出した湯飲みを無言で受け取り、白仙は流し込む。
「食べてる間は、他は襲わないだろうし。その間に、ね?」
 雪刃は食べている寿司をわざと奪われてみる。確かに食べてる間は大人しいのだが、大きな口でまるっと食べるとあっという間に他を狙い出す。
「うーん、お一人で食べて欲しかったんだけど?」
 真夢紀は長ーーーーーい恵方巻きを頑張って作ってきた。
 食べてる間は、無言でひたすら食べてもらうように。
 おかげでもふらさまはひたすら食べているが、長ーーい一本を皆で食いついている。評判呼んだのはこちらも同じか、野良のもふらさままで紛れ込んできている様子。
「恵方に向かって食べるのでしたね。福が来るといいな」
 こちらも獲られてしまった巻き寿司はそのままもふらに与え。
 美味しそうに巻き寿司を食べるもふらさまを、凪沙はそっと撫でる。
「本当ならもふらさまと一緒に食べたいよね。だったらもふらさまの分も用意したらどうなのかな?」
「ってか。どんなに用意しても端から上げてたら、喰える余地ないだろ」
 琉宇の提案に酒天は肩を竦める。もふらに優しい開拓者たちに困り顔。
「そこは、恵方巻きの太さとか長さとか調節することで、何とかなると思うんだけど‥‥」
「ちっちゃいのも美味しそうもふ」
「大きいのもがっつりいきたいもふー」
 分け合って食べようとすると、やっぱりもふらは目移りさせている。
「では食べやすい大きさに斬るのは?」
「だから、円を切らずに食べるのが大事なんだってば」
 和奏の申し出に、酒天は頭を抱える。
「ですかー。では、齧り付き易いよう上から持っていてあげましょうか。‥‥はい、鬼は外ー♪」
「寿司喰うか豆撒くかどっちかにしろよ」
 もふらたちに豆撒きながら対応する和奏。そのままでは鳩も寄ってくるので、さらに食べづらくなる。
 どっちかと言われたので、和奏はそのまま豆撒きに勤しむ。
「えと‥‥折角なので皆で食べようと、日頃の感謝に、心を込めて頑張りましたの。兄様の手解きを受けたけど、全部自分で作ったの」
 柚乃が八曜丸にも手伝ってもらい、大量の巻き寿司を運び込む。
「もふもふ。おいらたちがんばったもふ。だからちゃんと並んで食べて欲しいもふ」
 並べる間にも、もふらたちは興味深げに顔を近づけてくる。
 頑張った努力を知っているからこそ。藤色のもふらは、仲間たちの邪魔をしている。
「やはり、ここは自力でがんばるしかないのかねぇ」
 群がってくるもふらに、颯は両手に鰯付き柊を持ち、器用に手も使わず恵方巻きを食べている。
 首や身体を逸らせたりと見事な柔軟姿勢を取っているが、
「もふ」
 反った所にもふらがのっかかり、倒れかけた所で巻き寿司を美味しくいただかれる。
 それでも慌てず騒がない。
「‥‥獲られたらしょうがないねぇ。良く獲った! さあ、他の連中のも獲ってこーーーい!!」
「もふーーー!」
 颯から褒められけしかけられて。
 気分を良くしたもふらさまは新たなる標的へと突進する。
「こっち来んじゃねーーーっ!!!!」
 恵方巻き握り締め、緋那岐は疾走。豆を啄ばむ鳩も鴉も蹴散らして、広場中を走り回る。
 途中気がついて恵方巻きを投げ渡すが、疾走もふらは止まらない。豆ぶつけてみても喜ばれる限りで。
 さらには何かの遊びと勘違いした一部もふらたちは、そのまま緋那岐を追い回す。
 『食べてね』と柚乃から渡されたその一本。嫌とは言えず、受け取ってしまったのが運の尽きか‥‥。
「ふ、ふう。何とか完食できたようです」
 千覚は神楽舞「速」で俊敏を高め、何とかもふらを躱し、鰯頭の柊で退けている。
 忍犬ぽちも、鰯の匂いを気にしながらも口に咥えて主人を守る忠義ぶり。
「こっちで食べますけど、もふら様たちもいかがですか?」
 千覚は折角なので持参したチョコクッキーを見せて、もふらの気を惹く。
 どうしても無理ならそのチョコクッキーで誘導しようと考えていたが、食べられたなら後は美味しくいただけばいい。
「けろりーなはチョコロールケーキを持ってきました〜。酒天おねえさまも一緒にどうぞ〜☆」
 ケロリーナが差し出したのは、ケーキ生地にココアを練りこみ、生クリームとフルーツのたっぷりの上等な一品。
「ってか、それ恵方巻きじゃねぇし」
「え〜? でも、形は似てますよね〜」
 見た目は確かに似ているが、酢飯とは明らかに違う甘い香り。
「最近はジルベリア風でそのけーきを食べるのもありらしいもふー。ようはまるっとそのまま縁を結ぶのが大事もふ」
「へー。じゃ、いただく」
 興味はあるのか。酒天がケロリーナからケーキを奪う。
 そのケーキを狙い、じりじりともふらたちは包囲網を敷き始める。
「節分って激しいですのね〜」
「もふー」
 酒天ともふらたちの攻防を見ながら感心している御主人ケロリーナに、もふらのもふらてすも目を丸くしている。
「結論。ろぉるけぇきとやらは酢飯よりも潰れやすい! ってかもう、こうなると節分じゃなくて、単なるお茶会のような?」
 もふらにやられたか。顔を生クリームだらけにした酒天が、口直しに酒を煽る。
「‥‥それ、僕が用意したお酒ですよね」
「気にすんな。代わりに飲んでる間はもふら払っといてやるから」
 首を傾げる蒼姫に、酒天は当然と告げる。
「お茶会ではなく、呑み会だろう。鳩には豆で、酒天には酒。‥‥甘納豆に食いついたのはもふらさまだけ、と」
 報告書の端に、記録を認める无。
「一緒にするな!」
 酒天は怒鳴りつつも、无の差し出した酒はしっかりと受け取る。


 さんざんに食べて騒いで暴れて。
「疲れたもふー」
「お腹一杯もふー」
 広場あちこちでもふらたちが横になって寛ぐも、地面に落ちた豆を巻き込み鳩の襲撃を受けている。
「節分って過酷な行事なのですね」
「違うもふー」
 息をついてるリーディアに、もふリルさんは鈴を鳴らして否定する。
 ‥‥ジルベリアの方々にどうにも誤解を与えた節分である。
「でも、確かに豆掃除の必要はなさそうだな。後の事は‥‥自然に任せるか」
「え?」
 広場に散らばった豆は、今はこつこつと鳩たちが突付いている。まぁ、放っておいても豆なので、困る事は無いか。
「もふもふ。では、もふたちは帰るもふー」
 豆も寿司も無くなると、お祭りはお開き。鬼役もふらたちは染料を落としてもらうと、順番に上機嫌で帰っていった。
「お前ももういいだろう。そろそろねぐらに帰るがいい」
 からすの言いつけが分かったのか。鴉ケモノは一声大きく鳴くと、彼方へと飛び去っていった。
「疲れちゃった。柚乃、温泉、入りたい」
 八曜丸によっかかり、柚乃も一息つく。
「無駄に疲れたなぁ。一応これ借り物なんだが、いいのかぁ?」
 酒天がドレスを見遣る。
 鳩やらもふらやらに絡まれたので、結構泥だらけになっている。別に衣装でなくても、概ね誰もが槌だらけの羽だらけ。
「洗い賃がもらえるなら、皆の衣装も洗うぜ!」
 ここは稼ぎ時の予感。康平は声を張り上げ、洗濯を請け負う。

 厄を祓えたか、福は取り込めたか。それは心の持ちようか。
 アヤカシが横行し、胡乱な話の尽きない昨今。来年の運気がこれにて上々になるよう、誰もが願うばかりである。