新春 演舞場・樹理穴
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 易しい
参加人数: 18人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/15 17:46



■オープニング本文

 理穴の首都・奏生。その一角に演舞場・樹理穴はある。
 古くから伝わる樹理穴踊りを守り、広める事を目的とした施設ではあるが、実質単なる遊興施設と化している。
 それでも演舞場の店長は伝統芸能の尊さを謳い、日夜踊りの為に営業を続けている。

「あけおめ〜、よね〜♪ 新年のめでたさを皆様と共に寿ぐべく、樹理穴屋外演舞をやっちゃうわよ〜ン♪ ざっとかかる出費をここに纏めてみたから、よろぴく〜♪」
 年末年始に合わせて正月仕様。それでも、曲は相変わらず激しく速い賑やかな演舞場の裏で、喜色満面に店長が宣言した。
 ちなみに見た目四十代で髭面のおっさんである。
「馬っっっっっ鹿じゃないですか?」
 聞いた途端、経理の眉が吊りあがった。
 真剣な怒りに触れ、店長は身を震わせて隅に逃げる。 
「え、え? でも経営は大丈夫なはずでしょ? 確かに一時期はどうなるかと思ったけど、何とか持ち直したしー」
 炎羅討伐により、首都からもずいぶんと故郷へ帰る人があった。
 人がいなくなれば、客も落ち込む。演舞場も経営が苦しくはなったが、人の動きが一段落つくと、どうにか細々とした賑わいを取り戻していた。
「一段落ついたからって、アヤカシの脅威はまだ続くのよ‥‥。そんな人々の不安を払拭し、真の平和を祈願するのが樹理穴踊りの意味! 瘴気消滅魔の森撤去アヤカシ撃破を願って初踊りっていいじゃない」
「屋外、でなければ」
 経理は痛そうに頭を押さえる。
 それを意外そうに店長は見ている。
「どうしてよ! 樹理穴踊りはねー、森の再生を象った踊りなのよ!? 高く伸ばす腕は健やかに伸びる樹々を表し、その手にある羽根扇は羽ばたく鳥を示す。自然と一体化する衣装を身にまとい、揺れる動きは逆風にも負けない枝葉のように!! 本当はアヤカシ退散を願って夜通し行うものだけど、新春の昼間に行って新年のパワーを身に受けるって作法もあるのよ!?」
「だからといって、真冬の外なんて客が来るとお思いですか!?」
「楽な祈りで願いが叶うとでも!?」
 力説する店長だが、経理の目は変わらない。
 樹理穴踊りは女性が裸同然の衣装を着て高台の上で踊る。当たり前だが、冬の外でこれをやると風もまともにあたって非常に寒い。
 しかも、演奏する楽団たちも当然手がかじかんで普段どおりの演奏は出来ない。周囲が開けているので音響も心配。
 それで人が来るかと言えば‥‥かなり無理では?
「さらに、その間の楽団員や給仕係は!? 彼らだって正月なんですよ」
「そりゃ、賃金の割り増しぐらいするわよぉ。それを含めて相談してるんじゃな〜い」
 大丈夫そうに告げるが、経理の目は不審のまま。
 正月をわざわざ仕事しようという酔狂なものは果たしてどの程度いるのか。独り身ならまだ気安いだろうが、家族がいるならそちら優先になる。
「とにかく、新年にぱーっとめでたいことをして注目を集めれば、来年の経営も上々で間違いなし! 人々が幸せになれて、私たちも幸せになれる。これぞめでたき事かな、じゃな〜い」
「成功すればですけどね。とりあえず必要経費は計算しますので、他の方への連絡は店長御自身でお願いします」
「分かったわ〜。ヨロシクね〜」
 言っても無駄そうなので、嫌そうに経理は承諾する。
 喜び勇んで店長は出て行く。

 それから数刻後。理穴のギルドに樹理穴店長が依頼に来る。
「人が足んないのよね〜。手伝ってくれないかしら」
 やはり、正月休みたい人が多かったようだ。


■参加者一覧
/ 恵皇(ia0150) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 村雨 紫狼(ia9073) / フラウ・ノート(ib0009) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / シルフィリア・オーク(ib0350) / ティア・ユスティース(ib0353) / 不破 颯(ib0495) / リア・コーンウォール(ib2667) / シータル・ラートリー(ib4533) / 如月 遥(ib5238) / 緋那岐(ib5664) / 白仙(ib5691) / リリアーナ・ピサレット(ib5752) / ノイ=キサラギ(ib5844


■リプレイ本文

 陽は昇れど空気は冷たく。風が吹けばなお寒い。
 見渡す限り、空き地である。
 地面は整備されて歩きやすく、障害物になるような物も無いので広々と遊べる。
 ‥‥で、あるが故に、風も吹きさっらし。
 周辺には背の高い街路樹も植わっているが、防風樹の役割は申し訳程度に果たす程度。冬の強風を阻める物ではない。
「はー‥‥。演奏できるっつーから来たけど、マジで寒みぃな。帰っていいかー?」
 悴まないよう、手に息を吹きかけ。
 それでもやる気減退は歯止めが利かず、ノイ=キサラギ(ib5844)はかなり本気でそう聞いた。
「だなー。正月手当てが出るからって、割りに合わん気が‥‥」
「風邪で寝正月は勘弁してくれよ」
「帰りにいっぱいやるか」
「お、いいねー」
 演舞場の従業員たちも乗っかって、中には本当に帰り支度を始める者も。
「こらー、そんな事じゃ明るい新年を迎えられないわよ!! ほら、早く設営しないとお客様が来ちゃうじゃなーい」
 寒さにもめげず、一人熱い店長。身を震わす面々の間を泳ぐように動き回る。やたら元気。
「ええと‥‥一種の寒行のようなもの‥‥なの、でしょうか‥‥」
「なるほど! ちぃ姉様が、お正月に神社の滝に打たれたりしたようなものなのですね。この寒いのに初踊りなんて何考えてるのだろうと思いましたが、それなら分かる気がします」
 首を傾げる和奏(ia8807)に、礼野 真夢紀(ia1144)がはっとする。
 違うような気もするし‥‥あってるような気もする。まぁ、この気温の中を薄着でいるのは荒行に近いか。
「寒さなら‥‥寒中水泳とかやってたから‥‥まだ大丈夫‥‥‥‥くしゅん」
 平気そうな素振りで給仕場の手伝いを始めていた白仙(ib5691)だが、吹いた風に身を震わせると大きなくしゃみをする。
 他の面々にしても、どこか縮こまっている。
 力仕事もする以上。放っておいては体が動かず怪我人もでかねない。
「まずは暖を取る事が先決か。思いつくのは巨大な焚火を用意すること」
 見回し、琥龍 蒼羅(ib0214)は、運び込まれていた木材を集め出す。
「火を使うなら、位置をしっかり考えておかないと風で煽られては大変な事になる。周囲に水の準備も必要だな」
「広場の外周に、布か何かで壁を作り風避けに出来ないだろうか」
「幕もだけど‥‥座席に座布団とか。横風に地面からの冷えを防ぐだけでも違うと思う」
 リア・コーンウォール(ib2667)が店長を呼び止め、防火対策に頭をひねり出すと、蒼羅や柚乃(ia0638)も意見を出す。
「酔った人や気分が悪くなった人の為の休憩所とか迷子の一時保護の為の施設も必要と思いますの。出来れば静かな所がよろしいのですが、どこにしましょう」
「調理用の食材はどこにおいてあるの? そろそろ作り出さないと開始時間に間に合わないよ」
「ああん、待って〜。一度に言わないで〜」
 迷子対策にシータル・ラートリー(ib4533)が尋ねると、調理場からはフラウ・ノート(ib0009)が駆けて来る。
 店長は慌てながらも会場設営の図面を作り、従業員を動かして指示を出す。
 風向きや人の流れも考慮し、様々な意見を聞き取りながら、中央に踊り台。奏者の位置、観客席と作り上げていく。
「温石も温めておきますね。奏者の方は指が悴んでは満足な演奏になりませんから。後は生姜湯とか柚子湯とかも用意しておきますから」
 焚火の一つに石を放り込んでおくと、真夢紀も慌しく調理場での作業に戻る。
「コロッケに串揚げ‥‥。出来れば片手で食べられるよう紙で包みたいのですが?」
「紙は高いからねぇ。食べ終わったら回収して使いまわし、足りない分なら皿になるかな?」
 油で揚げながら、からす(ia6525)も品切れにならぬようにと数を作っていく。


 開演時間が迫るに連れて、客もちらほらと集まってくる。
 ただでさえ祭り気分の正月最中。会場は娯楽求めた人の入りとなる。
「お寒い中、皆様ようこそおいで下さいました。寿ぎの舞にて皆様と共に理穴の平和を願いたいと思います。‥‥それではごゆるりとお楽しみ下さい」
 店長の軽い挨拶など、聞いてる人はどのくらいいたか。
 ともあれ、一礼して退室すると共に、奏者たちの演奏が始まった。
 躍動感溢れる軽快な曲調は、新春の雰囲気を明るく賑わせる。
「不束ですが、全力を尽くさせていただきます」
 きりっと眼鏡をかけなおすと、リリアーナ・ピサレット(ib5752)はお立ち台へと上る。
 人の入りがよくても、踊る者がいなくては何の為の踊り場か。
 賑わいを見せる為、また、上がるのを躊躇う女性を後押しする為、サクラもまた必要。一般客に混じって踊り出す。
 踊り場のすぐ後ろでは井桁に組んだ篝火。シルフィリア・オーク(ib0350)の提案で、命や太陽の象徴としてどうかという事。他にも防風目的で囲んだ壁には樹木を模して描かれている。
 踊り場周囲にも、雰囲気を損なわぬ加工をしてそれとなく暖を取るよう工夫されている。
 さらに、リリアーナは事前に身体を動かして暖めてある。
 幾ら暖を取る準備をしたとて、屋外早々と暖かく感じるものではないが、そんなものはものともせずに、リリアーナは踊り出す。
「演技に込められた想いも結構好きだよ。それに一心不乱に舞い踊る‥‥これはこれで気持ちがいいもんだしな」
 羽扇を振り上げて、シルフィリアも曲に合わせてひたすらに踊る。
 興が乗って来ると、巻いてたマフラーや肩にかけてたコートも投げて注目を呼び。リリアーナも頬を紅潮させ、艶っぽい表情を見せる。
 楽しそうな踊りは見ているだけで心浮き立つ。積極的な女性は我もと台上に上りだし、賑わいはいや増す。
 そんな踊る女性たちを、奏者の席から如月 遥(ib5238)は見つめる。
 巧みに演奏を合わせつつ、目線を観客席の方に移す。
 そこには台に上る気は無いが、じっとしてられずに踊り出す女性もいれば、飲食や歓談目当ての観客もいる。
「皆で声出し、手拍子、足拍子カモーン! ハイッ! ハイハイッ!! ロマンスハイッ!」
 村雨 紫狼(ia9073)が先頭に立ち、独特の掛け声と踊りで観客を巻き込み、演奏も台上の踊りも盛り上げている。
 男性客は台上には上れぬものの、おもしろがって踊りに群がっている。
 そして、
「よお、姉ぇちゃん。景気いいなー。俺っちとも遊んでくれやー」
「お客様、踊り子には手を触れないで下さい」
「ナンダヨ、けちけちすんな。‥‥あ、こら馬鹿、離しやがれ!!」
 明らかに赤ら顔ではやし立てる酔客を、恵皇(ia0150)は襟首掴んで引き離していく。
 ここまで露骨な客は稀だが、やはり女性目当てで訪れているっぽい男性客の姿は結構見かける。
 思う事は多々あるものの、とにかく今は皆に迷惑をかけたくは無い。その一心で、遥は演奏に集中しなおす。
 とはいえ、踊り続けるのも大変だし、演奏をし続けるのも大変だ。
 数曲奏でると、暖を取る為にも別の奏者と交代。
「さすがに。じっとし続けていると冷えてくる」
 冷たくなった指先に、遥は息を吹きかける。共に演奏していた奏者たちも、急いで後続と入れ替わっている。
 入れ替わりの間は踊りもしばし休憩となる。
 その間も、客の集中を途切れさせないよう踊り手たちは見事に舞い続けている。
「それでは、その間、私どもの踊りをお楽しみ下さい。‥‥早く平和が訪れるよう祈りを込めて」
 ティア・ユスティース(ib0353)はブレスレット・ベルを手に舞い始める。
 リリアーナは蛇拳のように身体をくねらせ、蠱惑的に。そして大きく跳躍を見せると、天を振り仰ぎ荒鷹陣。見事な一連の動作に、観客からは拍手も起こる。


「あー、寒ぃ寒ぃ。おーい、薪が足りねぇ。追加はどこだ?」
 演奏していたノイは、休憩になるや身を震わせ暖を取るべく焚火に直行。
 その際火の加減も見て回り、足りないなら薪を足したりくべたりと動き回る。
「ちゃんと調理場そばに纏めて積んであるさ。このくそ寒ぃ中で女の子躍らせるのは気が引けるしな」
「んま。なんて事いうの! この凛としたすずやかな空気の中で祈りの踊りを振舞うのは大切な祈りのお作法として‥‥」
 紫狼が告げると、聞きとがめて店長が説教を始める。
「だったらさー、RKT(リーケーツー)48とか名乗って集団コスプレアイドルって神楽でデビューとかいいんじゃね。ま、地元第一ってのもいーとは思うけどな!」
「こすぷれじゃないわよぉ! あぁんでも、纏まった踊り手を確保して地域の皆様と触れ合えばもっと人が来易くなるかしらん?」
「その方たちのお給金はどうされるおつもりで」
 店長の言い分は右から左に流す紫狼。逆に、店長の方が考え込みだすが、いつの間にやら算盤片手に経理が怖い顔で立っている。
「何事も、興味をもってもらえなければ継承していくことなんて出来ませんし。一番大切なのは込められた祈りや想い。どのような形であっても多くの人に知ってもらう事から始めたいですね」
 そんなやりとりを、微笑しながらティアは見つめる。
「贅沢を言えば。ケースバイケースで服装を変えられると助かるとは思うけどね」
 自然に近くあれと、袖丈短い薄着な衣装にシルフィリアは苦笑い。動いている時は気にならないが、こうしてただ待つ間はやはり寒い。
「寒さ対策でお酒を飲めば温かくなりそうですが‥‥踊れなくなってしまいます?」
 和奏は外からの寒さを防ぐより、中から温める方法を考える。
「少々ならいいと思いますよ。‥‥正体を無くすほどなのは神事に相応しくないと思いますけど」
 甘酒を配りがてら、真夢紀がちらりと視線を動かす。
「だから。ちょっとぐらい酌してくれてもいいじゃないか」
「困ります‥‥。あの、お給仕の仕事中なので‥‥」
 そこには盃を片手に、熱心に白仙を誘ってる男の姿が見れる。
 気弱な白仙では強引な申し出を撥ね退けられず、目と耳と尻尾が無言の助けを求めている。
「清めの喝に‥‥白霊弾?」
「いや一般人にそれは危ないだろ。それよりそろそろ交代じゃないのか?」
 構える柚乃に緋那岐(ib5664)が慌てて止める。
 その間に件の酔客は、フラウがアムルリープで眠らせ救護所へと強制移動。
「分かった。‥‥また後で」
 笛を手にし、柚乃は準備を始めている奏者たちの所へと戻る。


 演奏が始まると、途端に台上では女性たちが踊り出す。
「どんなところかと興味があった訳だけどさ。賑やかだねぇ」
 舞を嗜む緋那岐としては気になる所。
「そうのんびりしてる訳にはいかないぞ。踊りの合間に食事しようとお客が集中して捌ききれずにいる」
「うわっ、いつの間に」
 会場整理で見回っていた恵皇が見つけて声をかける。指し示したお食事処は黒山の人だかりが出来ており、緋那岐も慌てて手伝いに戻る。
「といっても。こっちも腹ごしらえぐらいしたいんだけどねぇ」
 コロッケをいただき、不破 颯(ib0495)は休憩中。これから時間までのんびり踊りを見物したかったのだが、その暇もないのかと肩を竦める。
「噂の樹理穴踊りで目の保養はこっちもしたいがな。何分、店長ががんばって人を呼んでいるらしい」
 恵皇もまた疲れた様子で苦笑する。
 人が多ければ、それだけ問題も出る。こうして少し話してる間にも、子供の奇声や大人の怒鳴り声も耳に届いてくる。
 しばしの休憩から演奏に戻ろうとした遥。その途中でいきなり尻尾を握られ、跳ね除けるように振り返る。
 そこには子供が一人立っていた。
「どうしたの? お父さんとかお母さんは一緒じゃないの?」
「分かんない。どっか行っちゃった」
 遥は周囲を見渡す。が、保護者らしい人影は無い。
「じゃあ皆と一緒にお父さんたちが来るのを待とうか」
 子供の手を引くと、迷子保護用の天幕へと案内する。
「あら、また迷子さんですか? 大丈夫、きちんと御両親の元へ帰れますわよ」
 出迎えたシータルに事情を話して託すと、シータルは笑顔で引き取る。
 親御の特徴を聞き出すと、会場警備に動く者たちにそういった人がいないか探すよう頼む。
「分かった。注意しておく。それより、こちらは具合が悪くなったそうだ」
「大変。そこでしばらく横になっていて構いませんわ。今、お水をお持ちします」
 蒼い顔でぐったりしている客を抱えるように運んできた蒼羅。
 迷子はさすがに親が気をつけているのか、どっと押し寄せてくるような事は無い。むしろ手を焼くのは大人たちの方だ。
 熱気に当てられて具合を悪くするのは仕方ないが、気が大きくなるのか小競り合いは割りとしょっちゅう起きていた。
「向こうが先にぶつかってきたんだろうが!」
「だから、それはもう謝っただろう」
「誠意が足りん!」
「まぁまぁ。こんな処では何だから、場所を変えてゆっくり話しあわないか?」
 相手を掴もうとした手を、リアは素早く両方掴み上げ双方ともに引き摺るように移動させる。
 さすがに武器を持ち出す事はないが、酷いと人込みの中でも取っ組み合いの喧嘩ぐらいはしかねない。
 楽しい催しの最中に、無粋な真似はさせられず、時にはリアも武力行使で治めて、救護所に隔離という手段を取らざるを得なくなる。
「やれやれ。見回りも油断がならないな。料理の方も手伝いたかったが余裕がなさそうだ」
「お気になさらず。早さ手軽さが大事でやってるから」
 見回りがてら調理場を覗く蒼羅に、からすは返答しながらも、山姥包丁振り回し手早く調理を進めていく。
「さあさあ、お客を待たせちゃいけないよ」
「はい。こちらのお客が豚汁と串揚げ。こちらはお汁粉を二つ。注文が決まった人はどうぞ。‥‥お客さん、お釣り忘れてるよ!」
 並べられる料理を、フラウも次々と渡し、注文をとっていく。


 鳴り止まない演奏に、踊り。騒ぐ場としては申し分なく、談笑の声も止まない。
 それでも陽が傾き出すと、帰りだす客の方が増えてきた。
「お名残惜しくはありますがそろそろ閉演時間となりました。今後も理穴の平和を願い、樹理穴は踊り続けて参ります!」
 じきに夜が来る会場で、店長は締めの挨拶を滂沱の涙を流して行う。
 客が帰っても、まだ片付けがある。
 持ち帰る物と捨てる物を選別。燃やせる物は焚火で一纏めに燃やしてしまう。
「お疲れ様ー。今日は助かっちゃったわ♪ 残り物で悪いけど、後はのんびりしてちょうだい」
 店長は開拓者たちに労いの言葉と温かい物を振舞う。
 日中は余裕がなかったが、その表情を見る限りどうやらうまくいったようだ。

 最後の焚火も念入りに始末し、広場を後にする頃にはすっかり夜になっていた。
 空には満点の星。壁も払ったので、より冷たくなった冬の風が吹き荒れる。
 それでも、気持ちのどこかに昼間のぬくもりが残っているようだった。