アツいヒ
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/31 22:50



■オープニング本文

 立秋過ぎても何とやら。
 残暑厳しく、日は照り付けるばかり。
 夕暮れ過ぎても気温は下がらず、寝苦しい夜が続く昨今。

「あー、あっついなぁ」
 蒸し暑い部屋で、蚊帳を釣ってごろ寝。眠いのだが、目を閉じても寝付けない。少しでも涼しくなる為、団扇を仰ぐも疲れるし、動きながら寝れない。
 家の戸は全部開けて、なるたけ風を入れようとする。微々たるものだが空気が篭るよりマシか。
 ぶっそうといわれる程、価値あるモノなど何も無い‥‥はずだった。
「あー、あっついあっつい」
 男はやっぱり寝れずに汗を拭きつつ団扇を仰ぐ。
 自然と言葉が漏れるも、涼しくはならず。
 のっそりと起きると、水でも飲むかと土間の水甕に向かう。
 柄杓でぬるい水をすくってみると、
「アツイィ」
 そこに声がかかる。ぎょっとして振り返るが特に誰もいない。
 暑さが頭に来たかとまた知らん振りで蚊帳に戻り、また横になる。
「アツイ、アツイィー」
「誰だ!?」
 今度ははっきり聞こえた。
 さすがに寝ていられず飛び起きる。
 すると蚊帳の周囲に、無数の青い火がともっていた。だが、それだけの数があるのに、全く熱くない。
「アーツゥイィイイイイ」
 声が響いた。いや、声なのか? 炎が揺らめく度に風のように鳴っている。
 一気に目が覚めて、飛び起きる。が、周囲を囲まれてどこに逃げられるというのか。
「イイィィィ」
 火たちが、蚊帳を突き抜けたが、やはり燃えることは無い。
「アツイ、アツイィィ!!」
「ひいいい、助けてくれー!」
 はいつくばって逃げる男の背中を火が激しく叩く。
 叩く度に激しく火は燃え上がるが、男の背に異常は無い。
「助けてくれえええ!」
 ただ、痛みはあるのか、苦痛に歪んだ顔で助けを求めに飛び出す。
 しかし、表に出てみると、近所の人たちももやはり火に追い立てられて逃げていた。
 村のあちこちで、人々が悲鳴を上げている。 
 闇夜に揺らめく炎は、そんな事は気にせず。人を追い回し、建物を叩き、四方へと散ったり集まったりと自在に飛び回る。


 そして、開拓者ギルドに依頼が出される。
「ある村で鬼火が暴れている」
 ギルドの係員は開拓者を前に説明を始める。
 アヤカシは、街のあちこちをふらふらと飛び回る。その数は五十ほどとかなり多い。
 気ままに村を飛び交って、たまに人を襲う。
 弱いアヤカシなので攻撃力は低い上、この村にいる奴らはトドメを指すほど攻撃に執着していない。適当に切り上げると、またふらふらと彷徨いだす。
 しかし、受けたダメージは蓄積するし、昼夜問わずにいつ襲い掛かってくるのか分からないので気も休まらない。
 体力が落ちれば、鬼火に倒されずとも連日の暑さに効しきれずに倒れてしまう。
 あるいはそれを楽しんでいるのか?
「このままでは村の生活がめちゃくちゃだ。重大な事が起こる前に、この鬼火たちを殲滅して欲しい」
 火のアヤカシではあるが、実際は燃えず光の塊のようなものらしい。
 どうすると尋ねる係員に、開拓者たちは対策を検討しあう。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ティンタジェル(ib3034
16歳・男・巫
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
樋速(ib3710
25歳・女・泰


■リプレイ本文

 話を聞き、開拓者たちは現場に駆けつける。
 問題の村はすぐに分かった。
 ゆらりと揺れる炎。風に逆らい、飛び交う様はやはり異様。
 数が多いので、あちこちが燃えているようにも見える。が、鬼火の炎は引火しないという話なので、その心配は無い。実際、煙は上がっていない。
「だー、こう毎日毎日暑いっちゅうのに、燃えとるんや無いわ! 暑苦しい!!」
「ただでさえ暑い季節に、わらわらと暑そうなナリして好き勝手してんのなんてむかつくなぁ‥‥」
 思わず叫ぶ天津疾也(ia0019)に、ブラッディ・D(ia6200)も不機嫌に同意。
 鬼火は、外見こそ炎だが熱くは無い。が、視覚的には十分だし、残暑厳しいこの頃、見ているだけでも億劫になる。
「もう月も変わるというのに。怪談だったら、その時、一瞬暑さを忘れるけど。四六時中じゃ鬱陶しすぎます」
 マーリカ・メリ(ib3099)も不機嫌になる。
 しかも、怪談と違ってこの鬼火は攻撃を仕掛けてくる。ただ体当たりを仕掛けてくるだけだが、十分に痛い。志体を持つ身ならなおさらだ。
 アヤカシというだけでも気味が悪い。恐れて村人は出歩かず、家に閉じこもっている。
「村中我慢大会」
 とは、依頼を聞いてからす(ia6525)が抱いた感想。
 それも楽しそうだが、相手の都合を考慮せず強制参加させるのはいただけない。
「これ以上夏バテする前に、とっとと倒しちまうか」
 ブラッディにからすも頷く。
「祭は終わり。片づけを開始しよう。後夜祭は不許可だ」
 提灯飾りのようにあちこちに散らばった鬼火だが、いつまでも出し続ける訳にはいかない。
 からすは竹水筒の冷茶を呑むと、気を締めて鬼火を睨む。


 鬼火の行動に一貫性は無く、さらに村中に散らばっている。
「敵が一箇所に集まっていないのなら、全員で行動しても効率が悪いな」
 村の様子を見て、琥龍 蒼羅(ib0214)は改めて思う。
「では最初の予定通りに、二人一組で四方から中央に囲んで潰して行くか。私たちは南か」
 言って、樋速(ib3710)はマーリカを伴って歩き出そうとしたが。
「あれ、南って私たちじゃなかったですか?」
「そうだったか?」
「ですね」
 ティンタジェル(ib3034)に指摘され、マーリカも頷く。
 樋速の表情は軽く曇った程度だが、その尻尾と耳がぺたんと寝る。
「今から大変なんだから気合入れて。また後で会おう」
 その尻尾を元気付けるように掴んでぶんぶん振ると、ブラッディは笑ってからすと西に向かう。
「誰も亡くなってないのが、不幸中の幸いですが、そのような事態を放っておけません。急ぎ鬼火を打ち倒しましょう」
 そして、橘 天花(ia1196)は疾也と東方面に向う。


 村の中は、鬼火が彷徨い人が減っている他は普通に生活していた。
「アツイ、アツイー」
 風に乗って聞こえるのは鬼火の声。
 更にその声に混じって、人の悲鳴が起きる。聞こえた悲鳴に村人は身を竦ませるも、そそくさと用事を済ませて立ち去っていく。その頃には悲鳴は止み、全然別の場所で似た騒ぎが起きる。
 それがひっきりなしに行われている。対処しようにも、村人たちには鬼火の動きがつかめず、手をこまねき諦めの雰囲気が充満していた。

「ほな。虱潰しにいきましょか!」
 東から入った疾也は、刀「乞食清光」を抜くと手近な鬼火に斬りかかる!
 ふわふわと浮かんでいた鬼火は、氷のような刀身に割られると一瞬強く燃え上がり、瞬く間に消えうせる。
「一体‥‥二体‥‥」
 見つけた鬼火を片端から斬っていきながら、疾也はその数をしっかりと数える。
 何せ相手の数は多いのだ。最終的にどこかに討ちもらしが残っても困る。
「アアア‥‥」
 か細く風が抜けるような音を出しながら、鬼火が消える。
 後方につき支援を行う筈だった天花だが、今の所出番はなさそう。疾也の力量を思えばそれも当然と、天花は見守りつつ周囲の村民たちに注意を促す。
「開拓者ギルドから参りました。再びわたくしたちが声をかけるまで、しばらく家を閉め切って篭っていただくようお願いします。お怪我のある方がございましたら、お知らせ下さい。治療に参ります」
 大声で呼びかけると、期待を込めた返答と共に周囲が戸締りで慌しくなる。
「あー、くそ! 逃げんなや!!」
 ふと声を荒げる疾也。空を漂っていた鬼火がふらふらと刀の及ばぬ高さまで浮かび上がる。
 そのまま屋根に降り立つ。板を並べただけの粗末な屋根に体当たりをすると、その度に炎が大きく揺れ動く。
「屋根を壊して入る気かいな」
 疾也が勘付くと、刀を構える。
 が、動く前に鬼火の炎が急に膨れ上がった。
 否。新たに発生した炎が、鬼火を包む。
「真の熱さを知りなさい‥‥清らかなる炎を此処に!」
 天花の浄炎である。
 炎の体といえど、アヤカシはアヤカシ。精霊により生み出された炎によって、鬼火が消える。
「弱い相手も、侮ってはいけないという事ですね」
「せやな」
 二人、顔を合わせて軽く肩を竦める。
 何をしでかしてくるのか、目の前にいてもよく分からない相手だ。


 南から入ったのは蒼羅とティンタジェル。
「一体ずつ居合いを使用していては練力が持たんな」
 朱苦無を確かめてから、蒼羅は普通に刀「鋭嘴」を構える。近くは刀で、遠くは苦無を当てようという訳だ。
 村人たちに声をかけながら、中央に向かって歩き出す。
 村人たちの反応は東と同じだが、この場ではそれを知りようは無い。
 常に周囲に気を配り、襲ってくる鬼火があれば切り裂き、飛んでいるモノは貫き。向かってくる相手も、危なげなく避ける。
 蒼羅の動きは危なげ無い。
「はー、やっぱり必要無さそうですね」
 感心しつつも、肩を落とすティンタジェル。
 前衛として志士の蒼羅。後衛として巫女のティンタジェル。組み合わせとしては悪くは無いが、蒼羅と鬼火との力量に差がありすぎて、ティンタジェルは特にする事もなく。
 やはり自分を援護する方がいいと判断しながらも、今は練力を考えて様子見。
「アツイ、アアアツイツイ‥‥」
 呻く風を立ててふらふらと鬼火が飛んでいる。
「やっ!」
 注意しつつ、クリスタルロッドで殴ってみる。一瞬炎は散ったが、どの程度ダメージが入ったのかも分からない。
「ウァツツツツーー!」
「わわわわ」
 さすがに攻撃されたのは分かったようで、怒って膨れた鬼火が向かってくる。ロッドを振り回して凌ぐも、どうやらそれでは効果が薄いようだ。
「だったら」
 隙を見て、力の歪みを仕掛ける。
「アアアアア!」
 鬼火の体が捻られると、炎が大きく弾け飛ぶ。
 ほっとしたのも束の間。背中をどんと押された気がした。
 振り返ると、いつの間にか三体の鬼火が彷徨っている。
「アツイアツイ」
「アーーーツイ」
「アツイ」
「いたた」 
 じゃれつくように、ぽんぽんと背中にぶつかってくる鬼火。
 加護法を用いると、ぶつかってくる痛みは緩和したが、数の差でそれ以上抗しきれない。
 そこに、さっと刀が閃く。瞬く間に三体が消滅した。
「無事だな?」
 問うてくる蒼羅に、ティンタジェルが頷く。
 言葉少なに状態を確認すると、蒼羅は次に向う。
 その背をじっと見ていたティンタジェル。一つ嘆息ついて項垂れたものの、すぐに頭を上げ、気合を入れて蒼羅に続く。
 いつまでも今のままではいられない。経験が浅いのなら、少しでも多く積み上げていくだけだ。
 

 遠くで鳴き続ける蝉の声。
 陽を受けて温まった土からも熱が立ち昇り、上からも下からも暖められる。
 北から入ったといっても、それで暑さが変わる訳無く。鬼火を探していては、涼しい影ばかりを歩いていける筈もない。
「ホーリーコート、かけました! フローズ! 止めお願いします! そこの鬼火、サンダー弾けなさい」
 飛ぶ鬼火を見つけるや、防御を固め、攻撃を仕掛けるマーリカ。
 鬼火を冷却すると、すぐに別の個体に雷を浴びせようとし‥‥スキル発動せず。
 活性化大丈夫ですか? ホーリーアローを覚えてます。
「あれ?」
 一瞬、マーリカの動きが止まる。
 その間に鬼火は攻撃に転じ‥‥る時間も無く、樋速がマーリカの動きに合わせて動いていた。
 凍った鬼火は再び動く前に拳で砕く。空振りに終わった別の一体も動きを見極めると、素早く拳を叩きつけ、間合いを取る。
 もっとも、腕を保護する霊拳「月吼」は宝珠によって回避も攻撃も高める。
 一撃で鬼火は大破。灰も残さず消え失せていた。
「大丈夫か?」
 周囲を警戒して、鬼火の動きが無いのを確認してから、樋速が声をかける。
「ちょっと失敗ですか。暑いですもん、あんまり考えたくないですもん。でも、大丈夫です。見つけ次第片付けていっちゃいましょう」
 早口で心情を吐露すると、ぐっと拳を握り締めるマーリカ。
「そうか。鬼火は人の精気を喰らうとは聞くが、流石にこれだけの数となっては洒落にならなさそうだ。喰らわれる前にこちらが喰らってやるとしよう」
「了解」
 しばらくすると、また別の鬼火を見つける。さくさくとマーリカが遠方の敵を倒し、樋速は飛び込み拳を入れる。
「フリーズ!」
 そして、マーリカが攻撃をしかけるも、発動せず。
 まぁ、手当たり次第に術をかけていては、練力が足りなくなって当然か。
「うわわわ」
 慌てて、エストラロッドからカッツバルゲルに持ち返る。
 その間にも、樋速は囲まれぬよう注意しながら、確実に鬼火を倒していく。
 体当たりしか能の無いアヤカシに遅れは取る気は無い。
 程無く目に付く鬼火を倒し、樋速はマーリカを見る。
「すみません。でも、みなさんの安眠を早く取り戻す為、アヤカシ討伐終わるまでは暑さにも負けてられません!」
 剣の具合を確かめてから、マーリカは意志も強く村の探索を再開する。
 その姿をじっと見つめる樋速。表情は険しいままだったが、尻尾が心配そうに揺れている。
 鬼火全てを食らうのとマーリカが熱気に喰われるのと。さてどっちが早いのだろう?


 村の中心にてひとまず落ち合う開拓者たち。
 四組八名。全員が揃った所で狩った鬼火の数を報告しあう。
「東北南は何か似たり寄ったりの数やなぁ。足りんのは後十ほど。一番少ないところが酒でも奢るちゅうんはどうや」
 疾也の提案に、乗り気になったり肩を竦めたりと反応さまざま。だが、今は鬼火の行方についてだ。
「奴らが特定箇所に集まったとは考えにくい。西の数が多いのは、やはり鏡弦か?」
「かも。鬼火の明かりは視認しやすく独特の燃える音を鳴らしているが、物陰や軒下、家の中に隠れているのもいた。見過ごしはあったと思う」
 蒼羅が問うと、からすはあっさりと頷く。
「数は大体という事ですから、実際は差があるのでしょうが。こうも数が違うなら、やはり捜索すべきですね。家の中に入り込んでいないか、確認も取ってみます」
「ああ、再捜索に行こう」
 眉根を潜めるティンタジェルに、蒼羅が促す。
「こちらも東側を再度確かめて来ます。後、念の為夜にも確認を取った方がいいでしょう」
 天花が天を仰ぐ。
 日暮れて闇が訪れた方が鬼火たちの火が際立つ筈。ただ、灯り代わりの鬼火たちが消えた事で、村を歩くには暗くておぼつかない可能性もある。
「では、北だな。早く鬼火討伐をして村人に伝えてやらねば」
「はい、もう一息ですね」
 樋速が戻り出すと、マーリカも剣をぶら下げ周囲を見回す。
 道々、村人に家を出ないよう声をかけてきたので、通りを出歩くのは開拓者ぐらい。
 そして、この残暑の中、鬼火を防ぐ為に各家は閉ざされている。
「暑さで倒れてなきゃいいけど」
 戸締りの際、なるべく水分を取るよう、からすは注意して回ったが、それを村人たちがきちんと守れているかはまた別だ。
「こっちも早い所、残りを探すべきだね」
 樋速に手を振っていたブラッディが、からすに向き合う。
 西から来た彼らは再びそちらに引き返す。
 時折、鏡弦を使用。弓「緋凰」が掻き鳴らされる音が周囲に響き、
「後ろ」
 からすが告げるや、ブラッディが動く。
 路地の隙間から押し出されるように鬼火が飛び出してくる。それを躱すと、即座にブラッディは剣「増長天」で斬りつける。
 が、何の奇跡か。するっと鬼火は刃を逃れる。
「ウァツイ、アー、アツイ」
 ぶつぶつと文句のような唸りを上げて、そのまま通り過ぎていこうとする。
「村人の暑くて熱い怒りを代弁しよう」
 悪びれも無いその姿に、からすは矢を構えると心毒翔を使う。
 鏃に纏いつく黒い靄は心中の悪意の具現。放てば、鬼火に見事刺さり燃え尽きる。さしもの魔炎も念には叶わぬか。
「うーん」
 ブラッディは、自身の剣と消えた鬼火とを交互に見比べる。
 そこへ、ふらふらとまた別の鬼火がやってきた。
 ブラッディは目を細めると、すっと身を屈める。
 踏み込みは強く、速く。あっという間に鬼火の間合いに入ると、一息に攻撃を叩き込む。
「やっぱりただの偶然か。暑さで俺も参って来たか」
 燃えて散る鬼火。その姿を見届けつつ、ブラッディがぼやく。
「先を急ごう。片付けは隅々までだ」
 からすに頷くと、ブラッディたちはまた別の鬼火を探し始める。


 視認で、聴覚で、スキルで。開拓者たちは鬼火の姿を追う。
 残り僅かになって来ると、村のどこに火がいるのか分からない。
 村人たちにも聞き込みながら草の根を分けるように探し続ける。
 からすの鏡弦にも反応無くなり、日が暮れた頃に天花が村を一回りする。どこにも鬼火の姿は無いと判断すると、ようやく開放宣言を出した。
 家々が開け放たれ、篭っていた熱気が放出される。村が少し暑くなった気すらする。
「怪我をした方、具合の悪い方はおられませんか? 治療します」
 ティンタジェルが声をかけて回る。熱気に倒れた者もいたが、幸い水を補給すれば大丈夫な程度だった。
「鬼火だけに、少し毛が焦げるかと思ったがそうでもなかったな」
「よかったよ。折角の毛並みが焼け焦げだなんて考えたくも無い」
 一息つく樋速の尻尾を、ブラッディが楽しそうに毛並みを整える。
 体当たりによる痛みを受けた者はいたが、火傷を負った者はいない。火の害が無かったのは村の為にも幸いだ。
「皆お疲れだ。お茶はいかがかな?」
「それより酒や。結局、一番少なかったんはどこやねん」
 からすが冷やしておいた茶を振舞う中、疾也は鬼火退治の統計をとって酒盛りの準備を始める。
 いつしか、村人たちも混じりだし久々の夜を満喫し始める。
「夜の虫の音も楽しめるようになって、秋の涼しさもやってくるといいですね」
 日中の暑さにまけて、ぐったり倒れるマーリカもその喧騒には楽しそうに笑う。

 久々の開放で賑やかな中、耳を澄ませば蝉の声は無く、小さな虫の音が響いている。
 秋の気配も迫ってきていた。