桃色長屋の攻防
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/30 19:29



■オープニング本文

 夏の暑さに閉口するが、洗濯物が乾きやすいのは利点といえる。
 水は大事にというものの、汗と埃をぬぐっていると、下手すりゃ一日中洗い物が必要になる。

 さて、とある地域の片隅に。桃色長屋と呼ばれる場所があった。
 五件一棟。それが四列並んだ区画がそう呼ばれる。
 平屋作りで、中は土間と四畳ぐらいの広さ。まぁ、大抵の部屋が一人暮らしなので、十分だろう。
 何故そこが桃色長屋かといえば、別に色が桃色な訳でない。住んでいる人間が桃色なだけだ。

「きゃああー! 奴らが来たわ、皆助けてー!」
「もう、にくたらしいわね。これでもくらいなさぁい!」
「いやん、あたしに水かけてどうするのよ!」
「ダメよぉ。皆で心を合わせてあいつらを追っ払わないとぉ!」
「いったぁい! 引っかかれたぁ!」
 長屋の共同区域。長い竿竹の周りを右往左往するのは見目麗し‥‥くない乙女‥‥に見える男たち。
 乙女な装いはしているものの、体格は立派な男のもの。中には御手入れがまだなのか、まばらに生えた髭やぶっとい足の毛が見える。
 その頭上をカァカァと飛び回るのはカラスたち。しかし、けばけばしく逆立った羽根は単なるカラスでは無い。
 異形とはいえ、アヤカシでもなく。ケモノのカラスたちだった。
「カァカァァ」
 笑うような鳴き声でカラスは戦利品を運んでいく。
 後に残るは乙女な男たち。その傍で、からんと空の竿竹が落ちる。
「くっ、こうなったら‥‥」
 泥だらけに成り果てて、乙女男たちは立ち上がる。


「助けてちょうだいよぉおお!」
 オカマが大挙押し寄せ泣く開拓者ギルド。
 異様な光景に、受付卓からそっと人が消える。相手しなければならない受付係は、心で泣きつつ笑顔をつくって対応する。
「えっと。ケモノのカラスたちが長屋に押し寄せ、洗濯物を奪っていくので何とかして欲しいのですね」
「そぉよぉ。全部で十羽ほど。洗濯物を干すと、どこからともなくやって来て持って帰ろうとするのよぉ。だからって、室内干しなんてしたら、家が狭くなるし、乾きにくいじゃない」
 オカマたちのその言葉に、受付は素直に頷く。
 こうも天気がいいのに、埃っぽい家の中でわざわざ干したくは無い。
「分かりました。では、十羽のカラス退治を募集してみます。‥‥でも、洗濯物なんてどうして欲しがるのでしょう?」
 首を傾げる受付に、ぴたりとオカマたちが泣き止む。
 複雑そうな顔で、互いを見合わせた後、肩を竦めて受付を見た。
「仕方ないわねぇ。特別に見せてあ・げ・る」
「?」
 どこか楽しそうにオカマたちは微笑むと、他からは見えないように受付を取り囲む。
「ほら、見て見て〜♪」
 さっと足を広げると、ひらりと着物の裾を片方だけ開く。
 はだけて見えるは腰を締める褌。
 金や銀の色鮮やかに凝った刺繍や、薄く削られた石がちりばめられて、とても美しい。
「自前の勝負褌よん。あたしたちの間ではやっていてね。ほら、ここの石とかくっつけるのとても苦労したんだからぁん♪」
 ぽっ、と頬を赤らめるオカマたちに対して、真っ青な顔で倒れそうになっている受付。
「あの。でもそれじゃ、その褌を普通の褌にすれば、カラスたちは来なくなるのでは?」
 至極最もな事を受付は言うが、
「何よ、あんた! オカマはお洒落しちゃダメっていうの!?」
「女じゃないからって馬鹿にしないで! 並の女より、ずっと女らしくしようとしてるんだからね!」
「見えない所におしゃれするのがおしゃれなの! なんでカラスの為にあたし達が下がらなきゃダメなのヨォ!」
「オカマ差別だわ! 人権侵害よ!」
「あ、いえ。よーく分かりました。どうぞオカマいなく」 
 途端、目を三角にして怒るオカマたち。
 受付は力なく宥める。
 思わず手を滑らせて真っ黒にした紙は捨て去り、改めて募集要項を、震える手で書き連ねる。
 そして張り出された依頼文は、ミミズがのたくったような珍妙な文字が並んでいた。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
鷹王(ia8885
27歳・男・シ
ニノン(ia9578
16歳・女・巫
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
リア・ローレンス(ib1791
17歳・女・騎
蒔司(ib3233
33歳・男・シ


■リプレイ本文

 ケモノカラスに狙われた長屋。
 その対策を依頼されて向かった開拓者は七名。
 アヤカシほどの脅威でもないからか、緊張感は特に無く。中には脱力している者もいる。
「褌を狙うカラスですか‥‥。しかも所有者がオカげふげふ、もとい、乙女さんと。最近のケモノは妙なものを好むんですね」
「妙って何よ! あたしたちの大切な物なんだからね!」
「あー、着用中の物は見せんでよいぞ」
 ルエラ・ファールバルト(ia9645)に詰め寄るのは、確かに装いこそ華やかな乙女たち。
 しかし、体格といい、声といい、喉仏とか髭とか筋肉とか。体はがっちり男たちである。
 口を尖らせて、ちらりと裾をめくると中から覗く綺麗な褌。
 行儀が悪い、とニノン・サジュマン(ia9578)が窘めると、ポッと頬を赤らめて慌てて居住まいを正す辺り、中身はさらに女の子のようだ。
「それで、狙われるという品をちゃんと見せてもらえぬかの。勿論、使用前の物じゃ」
「んもう、分かったわよ‥‥。はい、これ」
 ぴらりと棚引かせるは確かに褌。
 裾から覗かせた分だけでも、刺繍や装飾が素晴らしいのは覗えたが、改めて見ると図柄の華麗さや技の秀逸さがはっきりと分かる。
「凄いです! 下着にまでそんなに気を使うとは‥‥尊敬します。ぜひ刺繍のやり方を教えてほしいです!」
「いいわよぉん。でも、その前にあのにっくき黒い悪獣に、正義の裁きを与えてちょうだい!」
「任せて下さい! 盗られた褌も、取り返しますから!」
 ぎらりと目を光らせるオカマたちに、リア・ローレンス(ib1791)は尊敬の眼差しを向けたまましっかり頷く。
 初めて見る人種(?)に、寄せる思いはいかほどかは分からないが、まぁ悪くは無さそうだ。 
「確かになかなかのものじゃ。‥‥わしも腰巻をキラキラにしてみようかのう」
 糸で巧妙に縫いつけた石の欠片が陽の光を浴びてより煌いて見える。ニノンも感心するばかり。
 裏返しで干せばと思ったが、裏を返しても刺繍糸は通っている。石はさすがに無いが、風でめくれる事もあるだろう。
 とはいえ、今はそれについては口を閉ざす。
「カラスは光り物を好むと言います。ケモノとはいえその習性は変わらぬようで、故に狙われてしまったわけですね」
「そうみたい。嫌よねぇ、あいつらの為にがんばったんじゃないのに」
 珠々(ia5322)が告げると、しゅんと依頼人たちは項垂れる。
「褌でも飾ればカラスが欲しがる物になるっと‥‥」
 ブラッディ・D(ia6200)はそんな彼らをじっと見つめる。
 大の乙女な男たち御愛用の褌。
 カラスは人間の美醜など気にしないだろうから、それはそれで構わないのだろうが、奪われているのは男の褌‥‥。
「深くツッコんだら負けだな、うん」
 何故か顔を蒼くしてブラッディは目を逸らす。
「ジルベリア風に言えば、デコレーション褌‥‥略してデコ褌(ふん)、ちゅうとこかのぅ。思い入れのある着衣を奪われるいうんは、素直に気の毒やしな。できる限りの事はやってみるき、心安ぅに」
 心が乙女の男子だろうと、断る理由にはならない。
 そう告げる蒔司(ib3233)は、素直にそう告げる。
「ありがとう。頼みにしてるわ☆」
 目を潤ませ、手を組んで微笑む依頼人たち。これが本当に年頃の乙女たちだったら可愛らしい仕草になっただろう。


 カラスが現れるのは、彼らが住む長屋。
 当然、当ての無いカラス探しよりも、そこで待ち構えるのが手っ取り早い。
 開拓者たちも作戦を練ると、さっそく行動に入るが‥‥。
「その前にしかと言っておこう。下着を堂々と干すなど『男』が抜けきっておらぬ証。立派なオカマになりたいなら恥じらいを持つのじゃ! 大体何じゃ、その足の剛毛は! 乙女に手抜きは禁物じゃぞ!」
 日当たりのいい場所は得てして見晴らしもいい。裏口に干す家もあるが、入り口にずらっと並べるというのは確かにいかがなものか。
「だってー。干す場所が他に見つからないんですものぉ。それに足のお手入れも今朝やったのよぉー。でもすぐに目立っちゃうのよぉ〜〜」
 ニノンに怒られてしょげている。オカマもなかなか大変なようだ。
「まぁまぁ。確かにいろいろとなんつーかこう思う所はあるが。褌目当てでカラスがこの長屋に集中してたお陰で、他の場所での被害が減っているんじゃないか? つまり、役に立ってるんだよ。あんたらは」
 恵皇(ia0150)が言葉を選びながらも、オカマたちを励ます。
 やさしい言葉に、オカマたちの目がうるっと滲む。
「ありがとう。そんな事言ってもらえるなんて、感激〜〜〜」
 飛びついてきたオカマを、とっさに避けてしまったのは恵皇の罪では無い。

 カラスは褌を干していると、どこからともなくやってくるという。
「普段使ってる竿を使う必要は無いでしょう。こちらの待ち伏せと囮設置に適した場所を探しましょう」
 珠々は長屋の周囲を見て回る。だからといって、あまり遠くにぶら下げても、カラスがくるかも分からない。他の住人に被害が及んだりしなさそうな場所を決めると、そこに新たに物干し台を設置する。
「あんたらの大事な褌だが、囮に使わせてもらうぞ。簡単に持ち去られ無い様、端を竿やらに縛り付けておいてくれ」
「あら、あなたやってくれないの」
 指図だけする恵皇をどうとったのか。オカマたちは不思議そうにしている。
「いや、さすがに俺たちが扱う訳にもいかないだろ。それは勘弁な」
「やだもう照れちゃって、かーわーいーいー」
 取り囲まれて身を振るわせられる恵皇。依頼人と思えば滅多な事も言えず、とりあえず機嫌を損ねぬように曖昧に笑う。
「そちらのお兄さんも。屋根の上は熱いでしょう。傘は大丈夫? 水はいかが?」
 屋根の上で、蒔司は超越聴覚と目視でカラスの来襲を警戒している。
 日の熱さも去る事ながら、屋根には痛みが多く下手に動けば踏み抜きかねない。後で修繕が必要と、その算段も頭に描く。
「大丈夫や。それよりカラスらが来るかも知れへんし、お‥‥姉さんらも注意しといてや」
「はーーい♪」
 ルエラも心眼を用いて気配を探す他、リアたちも隠れながら警戒を続けている。
 にも拘らず、男性陣が妙にもてているのは‥‥乙女だから仕方ないか。
 そして、長屋の一角では。土間を借りてニノンたちが鳥もちや焼き鳥の下準備を行う。
「でも、あんたたちもえっぐい事考えるわねぇ」
「‥‥褒め言葉ととっておこうかのぉ」
 笑顔で告げられ、ニノンは曖昧な笑みで礼を作る。
 一緒にカラス用の細工を作るオカマたちは、何か怨念も込めていそう。


「来た!」
 と、声を上げたのは誰だったか。
 とっさに振り仰げば、すぐに接敵が分かった。
 夏が残る青空を悠々と飛ぶ黒い影。カァ、と鳴く独特の声。それでいて、普通のカラスとは違う歪な姿。
 一羽現れたかと思うとまた一羽。どこからともなく上空に集まり出し、やがて十羽が周囲に群れる。
 設置された特設物干し台には、囮のデコ褌がなびいている。
 開拓者たちは隠れて待機中。だが、いつもと違う事を警戒したか、カラスたちは空を旋回して降りてこない。
 このまま逃げるのか、と懸念もしたが。やがて勇気ある一羽がさっと物干し台に飛び込んで来た。
 揺れるデコ褌を掴むと、素早く飛び上がろうとする。しかし、褌は物干し台に括りつけられている。
 さらに物干し台には恵皇とニノンが釘や鳥もちなどをしかけて近寄りがたくしている。
 失敗し、すぐにカラスは上昇したが、少し待機しただけで今度は褌を毟り取る勢いで降りてくる。それを皮切りに他のカラスたちも次々褌を狙い出す。
「今ですね!」
 珠々は身を起こして埋伏りを解除。早駆で差を一気に縮めると、カラスたちに網を被せる。
「カァ!」
 カラスたちが鳴き喚く。最初は驚いていたが、そのまま器用に翼を広げると、網を払いのけと抜け出ようとする。あるいは、鍵爪や嘴で網を千切ろうとする。
 また、網を躱したカラスもいて、不機嫌な鳴き声を上げながら突付きまわそうとする。
 このままでは、脱出される。
「敵もなかなかやりますね。網も籠もきちんと作ってもらったのですが‥‥」
 さらにルエラが網を被せる。脱出までの時間は延びたが、それもどれ程持つや。やはりただのカラスとは手ごたえが違う。
「危険と思たら、下がっても構へんで」
「あら、いいのよ。セキネンノウラミ晴らさでか!」
 オカマたちも開拓者たちに協力して網を押さえる。蒔司が声をかけるも、ここがチャンスとばかりにオカマたちは一致団結して動く。
 それでも、カラスの力は強く。網に穴が開くと、そこから次々に逃げにかかる。
「さっさと籠に捕まえないと怪我人が出ますよ」
 興奮したカラスたちは、そのまま開拓者たちを襲いにかかる。グレートソードを振り回してリアが追い立てるが、空飛ぶ相手に苦戦気味。
「逃げられるぐらいなら、何匹か退治しちゃっていいかな?」
「無益な殺生はごめんじゃ。が、多少の傷なら後でわしが癒す」
 瞬脚でブラッディがカラスたちを押さえるが、空を飛びまわる分だけ向こうが有利。急いで用意していた籠に入れるが、そこでもカラスたちは暴れているので気が気で無い。
 脅しこめて、網から逃れ褌を取ろうと画策していたカラスに、ニノンが力の歪みを使う。何も無い空間が歪み、巻き込まれたカラスの体が捩れる。
「カアアア!!!!」
 酷い悲鳴が上がって、カラスが地に落ちた。そのまま飛び立とうともがくが、翼が歪んでのたうつだけ。
 この異変はさすがにカラスたちの許容を超えた。
「ギャア、ギャア!」
 鋭く泣き叫び暴れながら、逃げようと距離を置きだす。
「翼の無い鳥は飛べませんよね!」
 させじと、ルエラは苦無「獄導」を構えると、次々と翼を狙って打ち込んでいく。そうやって逃亡できなくなった個体から掴まえると、準備しておいた籠に放り込んでいく。


「さて、これでもう大丈夫じゃ」
 ニノンが白霊癒でカラス含めて皆の傷を癒して回る。
 恩知らずのカラスたちは元気になった途端、籠の中でさっそく抗議の声を上げる。傷を作った原因も開拓者たちだが、そもそもそうなるような起因を作ったのはカラスたち。どっちが悪いのかは、この際横に。
「では、彼らの『教育』はお願いしましょうか」
「任せてちょうだい! さあ、どうしてやろうかしらん」
 ルエラが頭を下げると、地獄の鬼のような形相でオカマたちがばきばきと拳を鳴らす。気迫で負けたか、カラスたちがびくりと身を震わす。
「ここは‥‥丸焼きでいいでしょ」
「了解。では、羽根を毟るとしましょう」
 ブラッディの提案に、オカマたちも賛成。
 取り出した一羽を、珠々が抑えると、オカマたちを呼んで一緒に毟り出す。
 泣き叫びながらも丸裸にされたカラスは、哀れ、そのまま火にくべられる。
「えーと、下処理はしっかりと。火は炙るようにじっくり焼き上げる方が美味しいそうです」
 天儀酒で臭みを消し、調味料でしっかり味付け。リアが話すレシピ本の要点に注意しながら、焼き加減も絶妙にカラスの丸焼きが出来上がる。
「ほーっほっほっ! では、成功を祝して!!」
 高笑いと共に、オカマたちが丸焼きを千切り、口に放る。
「‥‥よくやるなぁ」
 恵皇が呆れる。
 カラスに恐怖を植えつけ追っ払う作戦を話した際は、「ひどーい」だの「かわいそう」だのとのたまっていたのに、いざ実行に移すとノリノリである。
 それだけ鬱憤が溜まっていたのか。
 ちなみに、食べた丸焼きは事前にニノンと作ったカラスに見せかけた偽の食用肉。さすがにカラス肉は抵抗があったようだが、
「まぁ‥‥本物も食べれなくはないですよ?」
「あら、そう?」
 躊躇しながらもリアが一口食べると、あっさり手を出す辺り、図太い。

 さんざんカラスを怯えさせ、数日晒し者にした上で、野に放つ。
「恐ろしい所であろう、桃色長屋は。お前らも骨まで食われてしまうぞ」
 ニノンが説教をするのもどこまで理解しているやら。長居無用とすぐに大空に飛び立つ。ただし数羽ずつ。
 長屋の住人の話や集まった様子を見るに、どうやらカラスたちは寝床がバラバラ。一度に多くを放つと、分散して正確に追えなくなる。
「ほな。追跡開始やな」
 蒔司、ブラッディ、珠々がカラスに続く。
 カラスは光物を巣穴に溜め込むという。とすれば、これまで盗られた褌もまだあるかもしれない。
「もし千切れていても、デコの材料は奪還できるでしょう」
 カラスにとって必要なのは褌でなく、その装飾のキラキラ。だが、それだってけして安いものではあるまい。取り返せば、やはり喜ぶだろうと珠々は言う。
 蒔司の提案で、あらかじめ逃がしたカラスには目立つ染料と鈴をつけてある。
 目視で存在を確認し、見失えば音を探し、時にはスキルで距離を縮め、目的の巣穴へと近付く。

 巣穴を見つけても、カラスがいてはまた面倒。それをどうするのかと少し揉めたりしながらも、取り返せるだけの褌は手に入れる。
「ありがとう。これで安心して洗濯出来るわぁ」
 新たな褌を干しても、カラスが来る気配は無い。どうやら本当に懲りたらしい。
「干し方を変えた効果もあるんだろうけどな‥‥。そもそも、あれはどうなんだ。並みの女より女らしく、とか言ってるけどな。女らしい女はそんなケバケバしいモノは身につけないぞ」
「そう? 結構好評よん」
 不機嫌そうな恵皇が神妙に告げるも、オカマたちは平気。
「なるほど、こうやって糸を通すと綺麗な花に見えるのですね」
「きらきらの褌‥‥つまりは見えない所のお洒落。‥‥苦無に飾りは、有りですか?」
「勿論よぉ。実益を損なわずに素敵な装いをするのもお洒落の内じゃないの」
 熱心に刺繍の仕方を教わるリアに、珠々も自身の武器をまじまじ見つめている。
「いや、まぁ。オカマがダメだとか言ってる訳じゃない。見えないおしゃれだって大事だ。ただ‥‥その努力を、何で他の事に活かせないんだ! ‥‥正直、間違ってるだろ、努力の方向性。なんで褌なんだよ‥‥」
「それが男女の美意識の差って奴なのかもねぇ」
「いや、違う。絶対違う」
 深々と嘆息する恵皇に、しみじみとオカマたちは告げる。
 カラス相手よりどっと疲れた。