泰 遭難者救助
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/06 20:32



■オープニング本文

 その飛空船は、物資を主に運ぶ貨物船だった。
 天気は快晴。航行も順調。このまま何事も無く目的地に到着できると思っていたが。
「不審な影を発見。‥‥竜です!」
 哨戒していた見張りが声を荒げた事から、俄に現場は色めき立つ。
「人影は無し。野生の竜か!?」
「いや、良く見ろ! あれでどうやって生きている!!」
 見張りの一人が怒鳴りつける。
 遠目からでは分かりにくい。しかし、近付くにつれ、胸から飛び出す肋骨、捻じ曲がった首、垂れた眼球が判別できるようになる。
「アヤカシか! 全員戦闘態勢に入れ!」
 船が慌しくなる。積荷が動かぬよう固定され、休んでいた者も叩き起こされる。
「竜で出る! 気合入れていくぞ!!」
 護衛たちも船に乗り込んだままでは戦う術が限られる。同行させた竜に飛び乗ると、死せる竜たちを阻むべく出撃した。


「現れた死竜は大小合わせて十体。内八体までは倒したが、そこでこっちも限界に達した」
 竜の死骸に瘴気が入り込んで生るアヤカシ・死竜。すでに死んでいるので傷を与えてもなかなか倒れず、平然と立ち向かってくる。
 元々護衛の数もそう多くは無かった。長引く戦闘の末に、船の一翼がやられ航行不能になってしまった。
「そのまま山奥に不時着。乗組員は全員無事だ。積荷も、アヤカシが好みそうな物はないので、後から回収できるはずだ。幸か不幸か、アヤカシがいるなら無茶な盗賊も出てこないしな」
 そう言って、その開拓者は笑う。
「船を乗り捨て、何とか追撃を躱し、近くの洞窟に逃げ込んだが、そこで出るに出られなくなっている」
 残った死竜たちは、人を襲おうと付け狙っている。深手を与えた筈も、ドラゴンゾンビの彼らは、一気に仕留めなければ、時間と共にすぐ回復する。
 対し、死竜との戦闘で護衛側は限界が来ていた。開拓者たちの傷が深く、竜を失った者もいる。治癒系の術を持つ者がいなかったのが、文字通り痛い。
「命に別状は無いが、それでも戦闘となると厳しい。なので、一番軽傷だった俺がギルドまで助けを求める事になったんだが‥‥」
 相手は口を濁す。
 飛び立ってすぐに、死竜たちに見付かり、竜は致命傷を負った。
 墜落を恐れた竜が決死の覚悟で飛行したお陰で、追っ手をふりきり、ここまで辿り着けたが。そこで竜も限界が来てしまった。
「あの辺りは人里も無かったから、死竜たちが墜落現場に戻っている可能性は高い。奴らさえいなくなれば、救助の飛行船も向わせられる筈だ」
 依頼者は何かを吹っ切るように頭を振ると、救出を頼む。
 現場の状況、遭難者たちの位置。そういった詳しい状況を聞き込むと、ギルドの受付は募集の貼り紙を出した。


■参加者一覧
神流・梨乃亜(ia0127
15歳・女・巫
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
鬼灯 仄(ia1257
35歳・男・サ
シエラ・ダグラス(ia4429
20歳・女・砂
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
煌夜(ia9065
24歳・女・志


■リプレイ本文

 泰の山中にて、落ちた飛空船。
 原因となった死竜が、周辺にうろつき獲物を狙う。
 動けない乗組員たちを助けるべく、知らせを受けた開拓者たちは竜を駆る。
 翼を広げ、風を受けて飛ぶその数は六体。
「死竜八体撃破、って凄まじい戦果よね‥‥。ひょっとして護衛についてたのって凄腕さんかしら?」
 煌夜(ia9065)は賞賛を向ける。
 ただその代償は大きい。飛空船は落ち、竜も失い、あるいは負傷し、動けずにいる。それでも、命あるだけよくやったというべきか。
「そして、残りは二体。すぐに倒して、救助の船を出せるようにしましょう」
 穏やかに笑いながら、菊池 志郎(ia5584)が前を見る。
 落ちた衝撃で飛空船は損傷したまま。破損状況や修復がどの程度必要かもわからない。どの程度の手助けが必要かも今は判断つかない状況。
 しかし、すべては死竜たちを消し去ってから。アヤカシがいては近付こうにも近づけない。


 聞いていた予定空域に入る。
 一円に人里は見えない。鳥の姿も少ない事が酷く不気味だ。本能的に逃げ去ったのか。
「見て! あそこ」
 神流・梨乃亜(ia0127)が指した先。ぼっかりと大きな穴があった。
 突き出した岩山に挟まれるように、倒れた木々が折り重なって一直線の筋を描き、その先には不自然な着陸をしている飛空船。
 周囲に人のいる感じは無い。が、空からでは分かりにくいだけ。
「見た感じ、特に異変が起きた感じは無いが」
 救援を求めに出て、今辿り着くまでの間。事態が起こるには十分な時間だ。
 何か悪い事が起きていなければいいかと羅喉丸(ia0347)が心配した矢先。
 木々が不自然にざわめき、土煙が舞う。
 飛び出してきたのは、二頭の竜。形は共にいる竜たちと同じながら、その姿はどう見ても死んでいる。
 先の先頭で受けた傷なのか。ぱくりと割かれた肉から血は流れる事無く。剥けた皮膚をたなびかせた虚ろな視線を向けて、まっすぐに開拓者たちへと向かってくる。
「すんなりと救出に向かわせてはくれないか」
 羅喉丸が小さく舌打ち。
 怪我の具合はどうなのか。何か不都合が起こっていないか。気にかかる事はあれど、それは全て後回しにされる。
 必ず行くからと、無事を祈るしかない。
 それも、彼らを殺れば大きく憂いが晴れる。
 迅速な行動が必要だった。
「やれやれ、しぶとそうな相手だ。長引かせるのも面倒。一気に倒しちまいたい所だな」
 ちらりと鬼灯 仄(ia1257)は目配せをする。
 事前に行動は打ち合わせている。
 梨乃亜が神楽舞「防」を舞う。
 防御を上げ、暗黙の内に意志を交わすと、志郎とシエラ・ダグラス(ia4429)が離れる。
「酷い姿。‥‥戻してやれぬのなら、せめて、安らかな眠りを」
 恐れずこちらへ飛んで来る死竜に、シエラは悲しげに目を伏せる。
 龍はすでに死んでいる。生き返らせる事は叶わない。ならば、せめてその歪んだ生に終止符を打ってやるべき。
「それが龍と共にあるものとしての責任‥‥。パティ、行くよ!」
 願いを込めて、シエラは駿龍・パトリシアを促す。
 駿龍にしては気性の荒い龍らしく、物怖じする事無く死竜に接する。
「先生、無理はしないように」
 負けじと、志郎の駿龍・隠逸も続く。
 声をかけると、隠逸がじろりと眼光鋭く志郎を睨む。
 右の目の上に入った大きな傷を始め、体の至る所に爪痕が刻まれている。
「ひよこに心配されるまでも無い」
 と云った態度で、ふんと鼻息を荒くすると、死竜の一体を眼前に捕らえる。
「パティ、ソニックブーム!」
 パトリシアが純白の翼をはためかせる。
 巻き起こる風が衝撃波を生み、あるいは死竜を捕らえ、刻む。
 シエラは刀「翠礁」を抜くと、練力を集中。
 飛び回る龍の背にあっては、武器を振るうのも易くは無い。どんなに相棒と息が合おうと、やはり地上に比べて狙いが付け辛い。
 十分に死竜の動きを読むと、桔梗を放つ。相手がでかい分だけ、まだマシか。
「不知火!」
 志郎が印を組む。途端、死竜の周りに炎が沸き起こり、その死肉を焼き付ける。
 肉の焦げる臭いが周囲に満ちるも、死竜は大きく翼をはためかせる。
「シャアアア!!」
 死竜は吼えると、そのまま突っ込んでくる。
 傷は確かに入れた。さらに痛ましい外見と化しているが、それを気にする様子も無い。
「回避!」
 告げる間も無く、パトリシアも隠逸もその場から動いている。
 高速回避はどちらも利用している。華麗に躱すと、その場から少し距離を置く。
 死竜は、見つけた獲物を逃がすまいとその後を追う。


 残る死竜一体も、その後を追うかの動きを見せた。
 が、その前に梨乃亜と駿龍・牙雷が割り込み、阻む。
「がーちゃん、きーっく!!」
 愛らしい声に答えて、牙雷が鋭い爪を死竜に向ける。
 しかし、死竜はその爪を躱すと、伸ばされた足に深々と牙を食い込ませた。
「きゃあ!!」
 そのまま首を振る死竜に、乗っている梨乃亜は振り落とされまいと必死に捕まる。
「離しなさい!!」
 死竜の上に煌夜の炎龍・レグルスが回る。金の翼を畳み、落下。
 鱗が羽根のようにも見え、さながら邪龍を捕らえる神鳥のように、レグルスは死竜の腐肉へと爪を突き立てる。
 割と扱いやすい気性をしている‥‥と云っても、そこは炎龍。攻撃に全く容赦が無い。
 攻撃された痛みよりもぶつかった衝撃で、死竜が牙雷を手放す。
 梨乃亜は手綱を繰ると、まずはその場から逃れ、体勢を整える。
「がーちゃん、大丈夫?」
 駿龍は鎧が薄く、傷を負いやすい。心配して声をかけるが、平気と言わんばかりにその翼をはためかせて応える。
「やはり、面倒な相手だな」
 仄が渋面を作る。
 竜二体の爪牙を受けたのだ。それなりに傷も入っている。
 だが、死竜は全く動じた様子が無い。羽ばたく翼も力強く、四人に向けて改めて牙を向けた!
「ばらばらに攻撃するな。連携し、一気に倒すぞ!」
 羅喉丸の体が赤く染まる。泰練気法・壱にて、身体を覚醒状態に追い込む。
 四体の龍が死竜へと突撃する。
 一体を二人が引きつけている間に、もう一体を素早く片付けてしまおうという寸法だ。
「シロ、守りを固めろ。気を抜くな」
 仄が告げると、甲龍・シロが一声鳴き、その鱗を硬質化させる。
 それでも敢えて死竜に接近する事はせず、仄は紅蓮紅葉を発動。ドラゴンファングを弓引くと、流れる矢と共に紅葉の如き赤き光が散る。
 仄が射掛けた矢が、死竜の体に刺さる。平然としたままだが、ダメージ自体は蓄積されている筈。矢が刺さったままでは、動きづらくも成ろう。
「後ろに回りこめ、頑鉄!」
 岩の塊のような龍が死竜へと飛ぶ。
 その硬い外見からは考えられない程、一直線に死竜の後方に回る。
 体当たりと同時に集中させた練力を相手内側に叩き付ける玄亀鉄山靠。
 甲龍を繰りながら、羅喉丸は己が身体をそのまま死竜にぶつける。
 さすがの死竜もその攻撃を受け止めきれない。
「押さえて!」
 大きく体勢を崩したところへ、煌夜はレグルスに掴みかからせる。
「はあ!!」
 刀「蒼天花」を抜き放つと精霊力を纏わせる。花が彫られた刀身からは、梅の香りと澄んだ気が漂う。
 白梅香は瘴気を祓う。レグルスが死竜を押さえている間に、煌夜はアヤカシを切り刻む。
「がーちゃん、もう一回! 行け行けゴーゴーやっつけろ!」
 さっきのお返しとばかりに、牙雷は死竜の首筋に食いつく。
 牙を食い込ませたまま、梨乃亜は龍の身体を急転換させる。
 今度は死竜が振り回される。首がねじれると、大量の腐肉が抉り取られる。
 支えを失ったか、だらりと首を落とす。
 死竜の高度が下がった。
 やったか、と淡い希望を寄せたが、
「――!!」
 声無き声で死竜が吼えた。
 その翼を大きく広げると、周囲の龍たちを払いのけ、極めつけは身体を転換して大きく鞭のように尻尾をしならせる。
「うわっ!」
「くっ!」
 弾かれた龍たちが空を落ちる。
 地表に行く前に、身体を動かし、大きく羽ばたくとまた空へと上昇。死竜を囲んで、睨みを効かす。
 死竜は威嚇するように見据えてくる。
 その頭は首の部分で奇妙に捩れ、天地逆さまになっていたけれども。
 羽音を立てて、死竜はまだ動く。
 目指すは梨乃亜と牙雷。
 やはり組みし易いと考えたか。いや、そんな頭で知恵があるか分からない。本能で悟ったか。
「させるものか!」
 退いた梨乃亜との間に、羅喉丸が割り込む。
 死竜の爪は、間に入った頑鉄を掴んだ。鋭い爪がその硬い硬質化した鱗すら食い破り、食い込む。
 しかし、死竜の飛び方はバランスを崩していた。間近で見ると更に分かる。痛みを感じてないだけで、身体はもはや限界に来ている。
「がーちゃん、気合入れるよ! 足手纏いなんて、冗談じゃないからね!」
 きっ、と梨乃亜は死竜を睨む。力不足‥‥いや、経験不足は分かっている。だからこそ、それに甘んじる訳にはいかない。
 牙雷が、応えて大きく吼える。
 掴んだまま動けない死竜の背を取ると、先と同じ辺りをもう一度噛み付く。
 かろうじて繋がっていた部位から硬い音がして、死龍の首が噛み切られる。虚ろな目から暗い光すら消えると、頭部が落ちていく。
 それでも、頑鉄を掴む鍵爪は離れない。生を憎む、その執念か。
「全身全霊の一撃、受けてみろ」
 羅喉丸が気を集中する。
 龍に纏わり、動かないならそれも結構。破軍で爆発的に攻撃力を増すと、
「はああああ!!」
 三叉戟「毘沙門天」を突き下ろす。
 刃はおろか、柄の部分にまで深々と死肉に食い込んでいく。
 死竜の身体を蹴り付け引き抜けば、反動で死竜の胴体部も遅ればせながらに頭を追った。


 志郎はシエラと共に、一体を引きつける。
 共すれば向こうに合流しようとする相手に、状況に応じて攻撃もするが、相手は未だ動きを落とす気配無い。
「影縛りで止められたら、こちらも多少は楽になるのですが‥‥」
 空を飛ぶ相手には、影が切れて束縛できない。飛び回る死竜に攻撃は仕掛けられても、油断すると反撃を食らう。
 一人でもどうにかなりそうなら、自分だけが囮となり、シエラにも向こうの攻勢に行って貰おうと考えていた。
 が。さすがに死竜もしつこく、なかなか思うように手が空かない。
 志郎が刹手裏剣を投げつける。複雑な軌道を描いた武器は、相手の死角に突き刺さる。
 その手裏剣を刺したまま、シエラの眼前に、死竜は獲物を飲み込もうと口を広げた。
「くっ!」
 パトリシアを庇うように龍を操り、シエラはその牙を見る。
 噛み砕かれる寸前、身体を捻らせてこれを回避。同時、動きを見切って切り払う。
 大きな口がさらに大きさを増す。
 斬った舌が落ちていくのが見えたが、その程度どうともないのも最早承知している。
「炎を吐いたりしないのは、助かりますね」
 シエラが緊迫した面持ちのまま、死竜の様子を覗う。
 仕掛けてくるのは主に肉弾戦。このしぶとさでさらに遠距離攻撃も出来るのであれば、さらにてこずっていただろう。
 それでも、まだ不意をつく可能性もある。勝負が終わるまでは気が抜けない。
 ぺっ、と死竜が何かを吐き出した。
 それは腐った死肉だった。異臭と共に、べっとりと腐汁が飛ぶ。
 パトリシアから、ぶちっ、という音が聞こえる気がした。
「汚い物を吐きかけるんじゃねぇよ!」
 とでも言わんばかりに、死竜にふっかかる。
「パティ、駄目よ!」
 興奮して飛び掛ろうとする龍を、シエラは宥める。
 その隙に、死竜は上空を取ると身体をねじらせ、鞭のように尾をしならせる。
 叩きつけられ、シエラとパトリシアがよろめく。
 そこに噛み付こうと死竜を、しかし、レグルスが割って入る。
「ありがとうさん。怪我はどうだ?」
「大丈夫です。いけます!」
「そうか。けれど、易い相手ではない。気をつけてかかろうや」
 惹き付けてくれていた礼と共に仄が問うと、シエラが目を向け、志郎も頷く。
 神風恩寵で一通り傷を癒した仄。向かってくる死竜に、シロが盾として入る。
 ぶつかってきた死竜に、爪や牙を入れ、仄も矢を打ち続ける。
「レグルス、もう一踏ん張りですから」
 一体を倒し、龍も少なからず傷を負っている。
 近付き、深手を負うのも危険。そう判断すると、煌夜は距離を置かせ、刀に雷電を纏わせるとそれを離れた場所から振るう。
 孤立してなお猛々しく吼える死竜に、六人の開拓者たちが一気に攻め入る。


 二体目を落とし、地上にてその死をきっちり確かめるや、志郎はギルドにまで取って返す。
 救援には、自分たちだけでは手が足りない。本格的な救助を行う人たちに、出発可能を知らせる為だ。
 飛び立つ前に、志郎は死竜たちの躯を見る。
 空中で砕けた龍たちは、瘴気の抜けた死骸をあちこちに四散させていた。
 その無残な姿は、より哀れを誘う。
「先生は、アヤカシに殺させたりしませんからね。死竜にも、させませんから」
 帰路の途中、志郎はそっと告げる。
 全力で移動する隠逸に、言葉は届いたのか。青灰色の龍は大きく翼を打つと、一直線にギルドへと駆ける。

 救助が来る間にも出来る事はある。
「警戒を続けておくわ。‥‥御苦労だけど、頼むわね」
 煌夜もレグルスに再び騎乗する。
 避難している開拓者たちが、龍を失った者もいるというのが気にかかっていた。
 それも死竜として蘇ったりはしないだろうか? 
 万一を考え、空から見回る。
 その他の面子は、聞いていた地形と目印を元に、開拓者たちは乗組員たちが隠れている洞窟を探し当てる。
「助けに来たよ。怪我してる人たちはどこ?」
 梨乃亜が声をかけると、ほっとした声が漏れて、塞がれていた入り口が開放される。
「お手伝いします」
 死竜たちに追わされた傷に、梨乃亜と仄が神風恩寵をかけて回り、シエラも傷口などを手当てする。
 志郎が携帯の医療薬を置いていった他、乗組員たちが持ち出していた荷にもまだ薬が残っていた。
「消毒用の酒だ。お楽しみは帰ってからな」
 漂う酒気にそわそわしているシロを、仄は笑って労う。
 その間、羅喉丸は入り口で、外を警戒し続ける。
 死竜の懸念はさる事ながら、他のアヤカシや危険なケモノも来ないと限らない。高い岩山や生い茂った木々が地上を邪魔し、空からだけでは見つけられない。
 煌夜と連絡を取ると、幸い、その心配も無い様子。
「動けるようなら、積荷の回収に向かいますか?」
 乗組員たちに声をかけると、気になっていたのだろう、一つ返事で飛空船に向かった。
 乗組員たちが船の整備や、積荷の点検を行っている間は、その護衛を勤める。
 そうしている内に、志郎が呼んできた後続隊も到着する。

 飛空船は直せるだけ直して曳航。龍や怪我人も、大事をとって搬送する。
「行くぞ!」
 出立の用意が出来ると、飛空船が浮き上がり、龍たちも飛び立つ。
 そのまままっすぐ帰らず、ほんのしばらくだけ、上空に留まる。
 この地で眠りについた龍たちに、黙祷を捧げる為に。