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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● 天儀暦……から数えると、一体どのくらいの年月が経ったのか。 千や二千ではきかない。もしかすると、一万年は経過しているかもしれない。伝説、と呼ぶには各地に不可思議な伝承は残り、何より証拠が今も空に浮かぶ。 「当時は『天儀』と呼ばれたそうですよ。他にも小規模ながら大陸や島が幾つか……。いやはや、国どころか、大陸ごと空に浮かべようとは」 とある大巨大企業が、研究機関ばかり集めて出来た街がある。 その中心には、まさしく天に貫くほどの巨大な本社ビルが象徴のように建っている。 最上階は、会長室。贅をこらしたその部屋で、若くしてトップに立ったその男はさらに空を見上げて告げる。 視線の先には、巨大な影が太陽を横切ろうとしている。 儀。そう呼ばれる巨大な陸地には山があり川が流れ海すら存在している。 伝説の時代、人々はそこに住んでいたという。今は世界政府の承認無しに立ち入りを許されない地。しかし、眺めるだけならこうしていつでも可能だ。 「当時の人々は、それほどの技術を持っていた。だというのに、今や我々はその恩恵を捨て、地に這いずり回っている。何故か」 「地に足をつけずに人は生きていけないという事ですよ、ミスター」 男の前では、黒服たちが女を拘束していた。手足をおさえる力は容赦なく、けれど女は男を気丈に睨みつける。 「あなたがこの地下に、密かに精霊力を汲み上げる施設を作り上げているのは把握済みです。そこで生まれる力を用いて、この周辺一帯の施設を動かし、さらなる技術を作り上げていることも。――これは世界法に対する重大違反です!」 「そんなこと、言われなくても分かっている」 平然と男は鼻で笑う。あまりの傲慢な態度に、女は次の句が言えず、ただ口を動かす。 「かつて人々は精霊力と呼ばれるエネルギーを利用し、生活を豊かにさせ、あの儀すら作り上げた。人々を強化する強力な力。――過去持ち合わせていた技術を、何故捨て去るのか。全く理解できない」 「弊害があるからです、ミスター! これ以上精霊力を使い続ければ、生じた瘴気でこの界隈は勿論、地上すべてが腐敗します!」 「残念ながら、便利なだけの技術も無いのだよ。だが、人々は偉大だ。生じた弊害も克服する技術も開発中だ」 自身たっぷりに男は宣言する。 しかし。 それを待っていたかのように、部屋の灯りが落ちた。いや、その部屋だけではない。本社ビル……地上のあらゆる施設が次々と照明を落としている。 さすがの男も慌ててどこかに連絡を取った。 「何だ! 何が起きた」 「精霊力の配給系統に異常が生じました。ただちに非常電源に切り替えます」 けれど、その後しばらくしても何の変化も無い。 「コントロールルームがメイン、サブともに応答しません。これは一体……きゃあ……」 雑音の後、通信は切れた。見計らったように、会長室の扉が開き、武装した者たちが乗り込んでくる。 「こちら世界警察です。オーバーテクノロジー無断使用の罪で会長には逮捕状が出ています。おとなしく連行されるなら……」 言い終わる前に、黒服が動いた。拘束していた女を捨てると、警察たちへと殴りかかる。 けれど、警官の一人が前に飛び出ると、たった一人で二人を制圧する。 「無駄です。ここに来た彼らは志体持ち――あなたが好きな古代の言葉で言えば、開拓者としての力を持ち合わせています。一般人であるあなたたちでは相手にはなりません」 捕まっていた手首が無事なのを確かめながら女は告げる。 そこで下の階で爆発が起きた。突き上げる衝撃に、皆がバランスを崩す中。一人耐え忍んだ会長が部屋を飛び出していく。 「待て!」 ただちに警官が追いかけようとしたが、それを女が止める。 「放っておきなさい。外にも警官はいるし、ヘリも用意している。それより……」 言うが早いか部屋の資料に飛びつく。携帯用のパソコンでデータを洗い出す中、また通信が入った。 「こちら最下層、警備室。電源が落ちて凍結ルームで隔離していた化け物たちが逃げ出し暴れています! 交戦するも警備はすでに全滅。わ、我々では。至急応援を。会長、応答してください! 助けて、か――きゃあああああ!!」 断末魔の悲鳴を上げて通信が途絶えた。切れる直前、何とも言い難い異形の声が響いていたのをその場にいる誰もが聞いていた。 「今のは……」 女がパソコンを閉じる。 「精霊力の使い過ぎで、すでに瘴気からアヤカシまで生み出されていたようだわ。会長はそれを地下の一角に閉じ込めていたようよ。――さらにこの混乱で機器に異変が起きて、精霊炉が暴走を始めている」 先の爆発はそのせいでもあるようだ。が、事態はもっと深刻だと女は告げる。 「このままでは精霊力が大量に消費され続け、残された瘴気がこの地上にあふれ出る。アヤカシが生まれ、魔の森が形成され……すべてを元に戻す為に彼女が目覚める」 女が震えた。恐ろしい物を見るかのように、目が見開いている。だが、その恐怖もすぐに消え、警官たちへと向き直った。 「このビル最下層に精霊炉がある。そこには非常停止ボタンも設置されている。それを押せばおそらくこの暴走は止まる。けどそれには、解き放たれたアヤカシたちを潜り抜けて行かなければならない」 「それでも行くのだろう?」 誰かの言葉に、女はきっぱりと頷いた。 「前から不思議だったが、何故キミはこの事態にそこまで入れ込む? 危険が好きという訳でもないだろう」 さらに聞かれた問いかけに、女は戸惑う素振りを見せた。 「よくは分からない。でもこうしなければならないように思うだけ。私はキズナ。人を信じ、その世界を守る。そうしなければならない……いいえ、私が守りたいの。その為に、護大はもう目覚めさせない」 女――キズナは顔を上げると、ビルの見取り図を探し出す。 最下層から来る異変。それを食い止める為に。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ヘスティア・V・D(ib0161)
21歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ビル内に人気は無い。エレベーターは二基だけが稼働していた。 黄色い幼稚園バッグから携帯機を取り出し、リィムナ・ピサレット(ib5201)は管理情報をパネルに映す。 「一つは地下突入中でちゅね。上がってる方は……あ、下ろちまちょ♪」 小さな指で画面を叩くと、上昇エレベーターが下降へと変わった。 「さすがリィムナ。見事な手際じゃ」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は、恋人にして親友を手放しに褒めたが。誰かが近付いてくるのに気付き、共に柱の陰へ隠れた。 「隠れても無駄……何だ、おぬしらか」 来たのはからす(ia6525)だった。双方、警戒を解く。 「二人とも多次元世界を移動し高次元霊的存在となったと記録されたはずだが……。実体化はいいとして、何故園児? 服まで揃えて」 じっと見つめてくるからすから、リンスガルトが真っ赤になって顔を背ける。 園児服に園児帽に通園バッグ。二人とも状況にそぐわない。 「ちょっとした手違いじゃ。あまり見てくれるな」 「今回ここの異変を察知してね。受肉に手違いがあっちゃけど、記憶や能力は昔同等に調整済みだし、この姿も可愛いからオッケー♪ ――そっちこそ昔のまま?」 「転生体とか魔女とか皆好き勝手言われている」 からすは肩を竦めてはぐらかす。 その時、下降させたエレベーターが到着。中にいた男を見るや、からすは呪弓「流逆」に矢をかけ正確に服だけを射抜いた。 「政府機関から来たよ、会長殿。もっとも、きみには天儀から来たという方が分かりやすいか。――精霊力の順調な回復を確認できた礼だけは一応言っておこうかな」 休暇中だったのに、とからすは小さく付け加える。 会長を拘束すると、表の警察隊に任せ。三人はそのエレベーターで下降していった。 ● キズナを始め、何人かが最下層直通エレベーターに乗っていた。 「何でしょう? 思ったより精霊の力が強い……?」 下降する箱の中で、柊沢 霞澄(ia0067)が首を傾げた。 天儀の巫女として。今回のような事態に人々を護り助けとなるよう、精霊の力で時を止め生かされる道を選んできた。その責務と恩を果たすべく、今、力を振るう。 地下に降りる程、瘴気は強くなるはず。魔の森発生も予想していた。 けれど、不自然な精霊力の流れは一体何か。それが瘴気を一部退けている。 皆に注意を促し、冥護の法を予めかけておく。 「まもなく最下層だ」 表示を見ていた羅喉丸(ia0347)が、金剛覇王拳の装備具合を確かめる。 霞澄たちと違い、彼は『羅喉丸』という開祖の名を継いだに過ぎない。地下突入も反対を受けた。が、行くと押し通したのは自身で晴らしたい疑念があったからだ。 やがて、箱が止まり、扉が開く。 待っていたのは人の集団だった。降参を示す動きに、羅喉丸は指示を求めた。キズナが頷く。 「ありがとう。俺はリューリャ・ドラッケン。ここの雇われ技術者だ」 中の一人――リューリャ・ドラッケン(ia8037)が代表で、礼を述べた。 「精霊炉の異常でアヤカシが暴れてね。精霊力を運ぶラインを一部破壊し噴出させて瘴気を退け、何とかここまで逃げて来た」 ああそれで、と霞澄は納得する。不自然な精霊力はそれだ。 「異常を止めるには精霊炉の停止が必須。けど周辺のアヤカシを倒すには力不足だ。それで助け手が来るのを待っていたのだよ。ああ、他の連中は地上に帰してあげて欲しい。精霊炉までの案内と操作は一人で十分だ」 「単なる技術者、には見えない人もいますが」 キズナと霞澄の目が集団の奥にいたケイウス=アルカーム(ib7387)とヘスティア・V・D(ib0161)に向けられる。ヘスティアに至っては、十八の外見に合わないぼろぼろの服を着ていた。 「見学中に俺はビルで迷って……いつの間にか……化け物が……」 言いながら、ちらりとヘスティアはリューリャを見た。リューリャは何も言わずに顔を背ける。 「俺は実験体さ。志体持ちだとかで目をつけられ、精霊力を操る実験に参加した」 ケイウスの告白に、非難の目が研究者たちに向けられた。精霊力や瘴気を扱うのは勿論、人体実験など! だが、それをケイウスがかばう。 「いや、俺が志願したんだ。会長の試みが世界や人類の為になると信じていた。それが……こんなことになるなんて……」 唇を噛み締める。世界の戒めを破った罰は、あまりに大きな災禍として降りかかろうとしていた。 ● 破壊の音を立てて分厚い金属の壁が壊された。現れた有象無象の異形の姿に、技術者たちが悲鳴を上げる。 「あれが、アヤカシか!」 羅喉丸が目を瞠る。破壊された壁をくぐり、殺意が雪崩れ込んでくる。食い止める為、羅喉丸が距離を詰め、拳を繰り出す。 分厚い金属さえ破壊した屈強そうなアヤカシが、その一撃で吹き飛んだ。 「これが……開祖の振るった志体の力か」 羅喉丸は歓喜に震えた。 開祖『羅喉丸』は実在が疑問視されていた。語られる活躍の多さに、複数人いたと唱える者や、実は存在すらしない嘘と否定する者すらいる。 違うと声を上げようにも、伝えられた開祖の型は、嘘を裏付けるように伝承よりはるかに劣る威力しかなかった。存在証明は至難に思えた。 それが。精霊力と瘴気の交わるこの場で志体も活性化したか。確かに開祖と同じ力を得た実感が拳にある。 「早く乗って。残れば命の保証は出来かねます」 足手まといになる研究員を霞澄が誘導する。 「俺は行く。きっと力になれるさ」 軽い口調とは裏腹に、ケイウスは赤いブローチを硬く握りしめる。精霊力制御に使われていた道具の再現らしい。 「ちょっと通してもらえないかな……なんて、言葉は通じそうにないね」 ブローチを付けるとケイウスは高らかに歌いだす。途端、重力波がアヤカシたちを襲い、動きを押さえつける。 いける、と判断すると、軽快なリズムを歌いだす。泥まみれの聖人達は、羅喉丸たちに力を与えていた。 「さあ、あなたも」 キズナがヘスティアに手を伸ばす。しかし、迷うようにヘスティアは口の中だけで何かを呟く。 その時、天井近くが崩れ、瓦礫が降ってきた。 「危ない!」 気付いたヘスティアが身を挺してかばう。下敷きにはならなかったが、箱からは遠ざかる。 新たなアヤカシが姿を現した。霞澄が精霊砲で退けるが、一時的でしかない。 研究員たちは、脱出を優先し扉を閉めた。階数がすぐに上昇していく。 「仕方がない。――先を急ぎましょう」 ヘスティアの手を取ると、キズナは立ち上がる。 リューリャを案内に、一同は精霊炉へと急ぐ。 何を絶つか……個々に抱える思惑を知らないままに。 ● 遭遇したアヤカシを難なく退け。一同は精霊炉近くに着く。 「非常停止ボタンは炉の上か。その前にアヤカシをどうにかしなければ」 物陰から羅喉丸が様子を窺がう。周囲に滞る瘴気でアヤカシの数は増える一方。雑魚でも増えすぎれば危険が増す。 「退路を俺が守る。炉は任せた」 ケイウスの決意を、キズナが反対する。けれど、ケイウスも譲らない。 「全部倒している暇はない。むしろ炉を止めれば瘴気もアヤカシも止まるはずだ。――俺は大丈夫! そっちにも絶対行かせない」 会長に直接文句の一つも言ってやりたいからね、と変わらない口調で場を和ませる。 それしかない、と腹を決めると、行動は早かった。 まずは霞澄が閃癒でこれまでの傷を癒す。 「では参りましょう……。精霊さん、力を……貸して!」 杖を構えると、祈り、精霊砲を撃つ。出来たわずかな隙に一同は駆け込む。 「約束したからね。ここは通さないよ」 一拍置いて追いかけて来たアヤカシに向け、ケイウスは留まり重力波を乱打する。 撃っても、撃っても敵が湧いてくる。終わりの無いように。それでもケイウスは退かない。 (もちろん怖い。でも俺だって、危険を冒してでも世界を守りたいって気持ちは同じだよ、キズナ) だから負けない。 ● すでに入り込んでいたアヤカシを、羅喉丸たちが始末。 その脇をすり抜け、制御室に飛び込む。複雑な機械をリューリャが操作すると、稼動音が途絶えた。 「止まった?」 「心配なら、こちらから直接確認できる。狭いから一人だけ」 リューリャは顔色一つ変えずに炉内部への扉を開き手招いた。促され、のこのこやってきたキズナを、そのまま炉の中へと叩き落とす。 落ちかけたキズナは、かろうじて手すりにしがみついた。 「何を」 這い上がろうとするキズナを、リューリャは踏みにじる。 「この炉を理論、構築したのは俺だ。『キズナ』も『護大』も調査済み。――偏った精霊力だけの空間で『彼女』が何を感じるか。実に見ものだと思わないか」 この後に及んでもリューリャは実に冷静だった。 終わるのはあくまで人の、『人が主導する世界』。不可能はないと錯覚し増えすぎた人類は、天敵たるアヤカシの存在を知り、己もまた唯の捕食される生物だと身の程を弁えるべき。その為に必要だと割り切っている。 「そんなことはさせないよ」 幼い声が届くや、リューリャが血反吐を吐いた。 現れたのは、からすたち。リィムナの黄泉より這い出る者の仕業だった。 のたうちまわるリューリャを羅喉丸たちが抑え、キズナも引き上げられる。 「遅くなってすまない。このお子達がトイレだと騒いでなぁ」 「お、幼い体故の非常事態じゃ。仕方なかろう」 呆れるからすに、リンスガルトが真っ赤になる。 「でも、備えあれば憂い無し♪ 決壊してももう安心♪」 「う、うむ。助かったのじゃ」 リィムナの腰からちらりと見える紙おむつ。同じ物をリンスガルトも履いている。 「でも遅かったかな。炉は止まったようだし♪」 「良いではないか。大事に至らず、ほっとしたわい」 後始末は任せた、と、リィムナとリンスガルトの姿が薄れる。元の霊的存在に戻ろうとしているのだ。 名残惜しそうに皆が見送る中、ヘスティアがいきなり動いた。 「来い!!」 呼び声に応え、飛び込んで来たはアヤカシたち。満ちる精霊力にもひるまず牙を剥く。 同時にヘスティアも動いていた。アヤカシに目を奪われた一瞬、キズナを抱くと炉の内部へとダイブしたのだ。 怒号と悲鳴が交差したが、落ちるヘスティアとキズナを救う手は無かった。 ● すさまじい爆発が起き、ビル一つが消えた。 降ってくる瓦礫。皆、命があったのは何の加護か。深く抉れた爆心地から起き上がったのは、志体持ちだけではなかった。 異形の巨人――護大の姿を認め、一同は息を飲んだ。 「しっかりちて。無理矢理目覚めさせられたに過ぎないよ!」 まだ間に合う、とリィムナは叱咤し、レ・リカルをかけて回る。片眼鏡「斥候改」で見る護大は精霊力と瘴気を複雑に取り込み、拡散を繰り返している。他は身動き一つしない。 それでも、力のバランスは崩れていく。本格的に目覚めれば、全てを戻そうと動き出すに違いない。 「そうなる前に、あいつを」 ケイウスが立ち上がる。 その前にアヤカシの群れが押し寄せる。指揮するは、異形と化したヘスティア。彼女の吐き出す瘴気からアヤカシが生まれ、魔の森すら形成されていく。 「護大を取り込み……、大アヤカシと化したのですか……! 何故……」 霞澄も味方を癒し、支援して回る。時には精霊砲で攻撃に回るが、ヘスティアに向ける感情は何とも苦い。 「元々、瘴気への耐性が強かったらしい。父母から無理に引き離され、瘴気を扱える個体にしようと様々な実験を施したのはそいつだ」 ヘスティアが、気を失ったままのリューリャを指す。 「おかげで下級アヤカシ程度は前から操れてねぇ。お前たちをなぶり殺してやりたくて、近付くにも一役買ってくれた。――にしても、そいつが俺の正体を黙ったままなのは何かと思えば、はははは、小賢しいことを企んでたんだな」 人を見下し、蔑み。アヤカシたちに命じる攻撃は非情そのもの。 「そいつの策略に乗るのは癪だったが、実にいい結果だ。お前らの方が……優しいよな」 対して、アヤカシを見る目はどこか優しい。けれども、そのアヤカシたちが倒されるのを気にしてもないようで、すでに何かが欠落している。 からすが弓を構え放つ。見事な腕前でアヤカシの移動を阻むが、落ちるそばからアヤカシの数は増すばかり。 ケイウスも他の味方を援護すべく、泥まみれの聖人達を歌い上げる。 「人を止め、道理も失ったか。せめて災厄となる前に逝くのじゃ!」 「俺はとっくに死んだ人間だ。戸籍も無い。さあ、遠慮なしに殺るがいい!」 駆け寄るリンスガルトに、ヘスティアは笑いながら無数のアヤカシを送りつける。 囲まれた所で、リンスガルトが崩震脚で一掃。神龍煌気で闘気を集めると、五神天驚絶破繚嵐拳がヘスティアを貫く。 「誰も……助けてくれなかったくせに……」 倒れたヘスティアから大量の瘴気が放出され、護大に吸い込まれる。 そして、護大が震えだした。 「倒すぞ。真に動き出せば、ここにいるメンバーだけでは手に負えん」 からすが月涙で矢を次々と護大に当てる。とはいえ、出現したアヤカシたちも彼らの動きを阻みにかかる。生じた魔の森は簡単に消えず、アヤカシたちの動きは増したまま。 襲い来る相手には、魔風を仕掛け。こまかな敵には響鳴弓。しかし、雑魚に構う間にも、護大の体の震えがさらに大きくなる。 その中で羅喉丸は冷静に構えると、アヤカシや護大を蹴りつけ高く高く飛び上がる。 「起承より始まりて、両儀に至り、転結に達す。天をも動かせし一撃を見よ」 かつて開祖が護大を倒した時のみ発動した――未完の最終奥義! 「天動転結拳!!」 開祖から脈々と受け継がれてきた志。心技体すべてをただ一撃に込める。 護大が『目』を開いた。果たしてそこに映る『世界』は何だったか。 探る暇もなく、ただ完全な一撃が全てを打ち砕いていた。 ● 全て失せた荒れ地で。今度こそ終わったと、リンスガルトとリィムナの姿が薄れて光と化す。 「皆の者、息災でな」 「また会おうね♪」 残された者の中で、からすが一番面倒そうな顔をしていた。 「この地は当分封鎖する。事件を闇に葬るよう、地上政府にも伝達。天儀に戻るは今しばし先か。――きみらも極刑を覚悟するのだね」 睨みつけると、縛られた会長たちは項垂れ、リューリャだけは嗤っていた。 「キズナはどうなったんだ?」 護大が消えた後、キズナは残った。けれど、深く眠り続けたまま。 目覚めないか、と、ケイウスは安らぎの子守唄を歌うが、変化はない。羅喉丸も首を振る。 一方で、霞澄は微笑んでいた。 「皆さんにはどことなく……、いえ、止めておきましょう……。でも一つだけ……会えて嬉しかったです……」 眠り続けるキズナの手を握りしめる。 「きっと、彼女も同じです……。出会う為に……きっと……」 心配げに見つめる一同に囲まれ、少しだけキズナが笑んだようにも見えた。 |