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■オープニング本文 冬も目と鼻の先に迫ってきた昨今。 秋の収穫を喜び祝う声は、今もそこかしこから聞こえてくる。 加えて今年は、もう一つ吉報が舞い込んだ。 護大消滅。 それが具体的に何を意味するのか。一般人では把握しきれるものではない。 分かるのはただアヤカシの大元がいなくなったという事ぐらい。 アヤカシ被害はまだ聞かれ、魔の森健在の地域も多く、その奥には未知のアヤカシも潜んでいるかもしれない。 けれども、新しい大アヤカシが生まれることはもう無い。魔の森が今以上に広がる心配はない。 対して、数々の強敵を撃破してきた開拓者及び統率するギルドは健在。この先アヤカシもいずれ駆逐され、魔の森の消滅も目に見えてきた。 明るい未来を思い描くのは当然であった。 「乾杯!」 その音頭は誰がとったか。そして何度告げられたのか。 それも最早どうでもいい。 収穫の喜びに加えて、将来の展望に、どこもかしこも浮かれていた。 希儀の一角でも収穫祭が行われている。新酒のワインを酌み交わし、収穫された食材で作られた料理が振る舞われ、旅のジプシーや吟遊詩人が舞い踊り、各地の情勢を歌い語る。 人集まればどこも騒ぎが起こり、そして開拓者万歳の声が上がる。 そして、また祝杯。 そんな地から、開拓者ギルドに知らせが入る。 受けたギルドでは、開拓者たちが集められる。 「希儀で収穫祭が行われている。開拓者たちにも是非来てほしいというお誘いだ」 飲めや歌えでこれまでの活躍を労わろう、という事らしいが……。 同時に、アヤカシについてや各地の状況について何か詳しいことを教えてほしいという事でもあるだろう。 飲み食いその他楽しむのは無料らしいが、おそらく、今後の天儀や各地の情勢なども根掘り葉掘りと問われ、その情報の見返りという意味合いがあると思われる。 希儀に移り住んだ者の中には、この機にまた各儀に戻ろうと考える者もいるかもしれない。 「かの地では真相も伝え聞く程度だろうからな。歓迎のあまりに、はしゃぎすぎたり、潰されないようには気を付けろ」 生の話には餓えている。深く考えずとも、酒の肴に冒険譚は恰好のネタではある。 開拓者と見るや、おそらく捕まって手厚い歓迎を受けるだろう。 祭りをどう楽しむか。それとも楽しめるのか。兎角、骨休めにはちょうどいい機会かもしれない。 |
■参加者一覧 / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 綺堂 琥鳥(ic1214) |
■リプレイ本文 秋の収穫祭は賑やかなものだ。それが今年に限って、例年にない盛り上がりを見せているように思えるのは、気のせいでもないだろう。 長年の憂いが大きな区切りを迎え、歴史が変わった。 飲めや歌えの大騒ぎになるのは当たり前だ。 リィムナ・ピサレット(ib5201)が高らかに声を上げて空を飛び回る。 「皆さーん! 旧世界での戦いで、護大は消滅! 儀の滅亡は回避されましたー! 後は魔の森をみんな消滅させ、アヤカシを殲滅すれば、人類への脅威は無くなりまーす!」 遺跡などでよく見られる、希儀の先住民が来ていたような衣装。膝丈ほどの短い長さのキトンを纏い、頭には月桂樹の冠、足にはカリガと呼ばれる皮製のサンダル。 そして、空を自由に行く翼は同化している輝鷹・サジタリオの物だ。人目を引くその姿から、はっきりと事の区切りを告げられれば、もはや疑うのも難しい。 会場のあちこちで、歓声が沸き起こり、乾杯や歌声で騒ぎが大きくなる。 「やったなぁ、もってけ泥棒!」 嬉しさのあまりか、過度のサービスをする屋台も見られる。売上が大丈夫かと思うが、それも明日があるからか。 「今年も無事収穫が出来た。来年の収穫もきっと安心だー。よぉおし、乾杯だー。歌え、踊れー!」 「ん、踊りなら噛ませろ……もとい、任せろー……? いつもお仕事でしてるから……」 すでに酔いが回ってる親父が、さらにはやし立てる。 その声を聞きつけ、綺堂 琥鳥(ic1214)は短剣を手に設置されていた舞台に上がれば、見事な踊りを披露する。 踊り子が纏う派手な衣装に情熱的な動き。居合わせた吟遊詩人が祭りを盛り上げる演奏を始めると、そのリズムに乗ってますます琥鳥も華麗に踊る。 注目を浴びるには十分だった。 「いいぞー、脱げー」 酒の勢いもあって下種な言葉もたまに飛び交う。が、琥鳥の踊りは揺るがない。普段の無愛想も踊りに向ける真摯を示しているようで。 場の雰囲気は冷める気配はない。見事な踊りに、道行く人も立ち止まる。 盛り上がりを見せる祭りに向けて、リィムナは会場の真ん中に行くと空の上から朗らかに答える。 「平和な世界の到来。最強開拓者の活躍で、近い内にそうなります♪ そしたら、今度は人間同士の絆がもっと大切になる時代が来ると思います。みんな、儀に関係なく力を合わせて仲良くやりましょー♪」 空からはリィムナがそう伝える。 会場各所から拍手が沸き起こった。拳を振り回す人も言えば、隣の人と手をとりあってくるくる回り出す人も。 誰の表情にも笑顔が浮かんでいる。笑顔しかない。不安の影は微塵も無く、誰も彼もが明るい。涙を流す人もいたが、うれし涙だ。 祭りは始まったばかりというのに、浮かれ過ぎているの懸念はあるが、今ばかりは許されよう。 盛り上がってる様子を見届けながら、リィムナはそっと会場の隅に降り立つ。 「サジ、ご苦労様」 同化を解いた輝鷹は、なんでもないさと言いたげな短い返事をしてきた。 その頭を撫でていたリィムナだが、表情に堅い物が混じる。 (儀の滅亡は回避された。魔の森を焼き払い、アヤカシも駆逐も続いているけど、いずれは消えてなくなる) 告げたことは嘘ではない。 しかし。 (今迄、対アヤカシに注いでた力が何処に向くかって事……だね) 魔の森やアヤカシが消えた後、そこを何が埋めるのか。 一つの目標に向かい、各国各儀纏まってきた。纏まらざるを得なかった。その目的が達成され、次の目的となるのは果たして何か……。 リィムナは悪い考えを吹き飛ばすように頭を振った。 そんな先を考えても仕方がない。今はそれより、この祭りを楽しむのみ。 「行ってくるよ。サジはどうする?」 リィムナが相棒に語り掛けると、輝鷹は空へと舞いあがった。 自由に飛ぶその姿を見ながら、リィムナはラ・オブリでものすごいもふらに変身。祭り会場へと突撃していく。 「もふらの歌と踊りでお祝いもふー♪」 リィムナ自身は何ら変わることないが、周囲にはものすごいもふらがもふもふと歌って踊っているように見える。もふもふの毛を振りまきながら、一生懸命踊っているように見える様を、観客たちは和んだ目で見つめている。 「もふー。負けないもふー」 「何かもらえるもふか?」 「もふもふ。ワイン飲みたいもふー」 「巨大ケーキもらうもふ。がんばるもふー」 つられてやってきたもふらたちが、一緒になって踊り出す。ついでに話の尾ひれを勝手に広げ、妙な噂まで流していく。 「それでもあたしが一番だよ♪」 たくさんのもふらに埋もれそうになりながら、リィムナはバイラオーラも使ってやたら激しい踊りを披露。さらには、華彩歌を奏でると、辺りでは次々と花が咲いていく。 「おおお! 花だ、花見酒だ!」 「それより団子だ!」 秋の彩に加えて咲き誇る花々。騒ぐ口実をさらに得て、人々は祭りを楽しんでいく。 ● 一踊り披露した琥鳥は、他の踊り手に任せ。自分は小休止とばかりに会場の様子を見に、散策に赴いていた。 どこもかしこも似た光景で、浮かれて騒ぎまくっている。たまに喧嘩沙汰の大騒ぎも混じり、警備がすっ飛んでくることも。 それらを傍から楽しみつつ、こちらの屋台を覗き込んでは、そちらの遊技場で射的を楽しんでみたり。 そんな中。ふと会場の片隅がさみしいというぼやきを聞いて、琥鳥は占い所を設置。ふれこみも何もなく座っていただけだが、程無くして混雑に飽いた人が興味本位にふらりと訪ねてくるようになった。 「それではあなたの運勢を……。少し離れてくれないか? あと、涎はお断り……」 「もふ?」 中には、人以外の者も興味本位でやって来る。だが、料金を取る気はないので気ままな物だ。 時間の許す限り、分け隔てなくのんびりと応対。水晶を覗いては吉凶を占う。 「普段ならお金とるけど、今ならサービス。占いだけに売らないから……。ただ当たるも八卦当たらぬも八卦……、結果は気分次第……」 何とも結果は怪しげなものだが、受ける側も気にはしない。こんな時に悪い結果を聞きたくもない、ということだろう。 受ける側もそれなりの案件を持ち込んでくる。からくりの占いというのが面白いのか、時間と共に程よい列が出来る程度に客が入っていた。 「ふむ。お前さんは開拓者なのだろう。では、アヤカシが滅びるというのは本当かえ? わしらがもう奴らにおびえんでもええとか。もしかしたらまだ何か起こるのかのう」 「それは、占うまでもなく……。開拓者ギルドが全力を尽くし……、実現させる……」 中には開拓者と話すいい機会だと訪れる者もいる。 広報や風の噂では拭いきれない不安を口にし、実際はどうかの判断を仰ぐ。信じきれないのも無理はない。あまりにもアヤカシがいる時間が長すぎ、奴らが横行する生活が身近すぎた。 だますつもりなら容赦しないぞ、とばかりに挑みかかってくる客も多少はいた。 いずれにしても琥鳥の対応は変わらない。 愛想が無いのは仕方がないにしても、誠実さは忘れない。ごまかさず、嘘偽りがないことを真正面からぶつけて、淡々と必要な言葉を紡いでいく。 「そうかい。それが本当だったらええのぉ」 中には疑いを捨てきれない人もいる。それでも来た時の様子とは違い、どこか足取りは軽くなっていた。 ● 祭りは遅くまで続いた。日が暮れても、会場の至る所に篝火が焚かれ、子供は家に帰されても大人はまだまだ騒ぐ気配。 今日だけでどれだけの酒や食料が消費されたか。 歌い、踊り、喋り。飲んで食べて、と満喫し、開拓者たちは主催者に興奮冷めやらぬ会場を後にする。 いまだ騒ぎが続く会場をふとリィムナは振り返った。 移民が住む希儀では、どこの儀出身関係なく集まっている。異なる儀を過ごしてきた彼らが顔を寄せ合い、飲食共にし、笑い合っている。 それが一体、いつまで続くか。 そう考えてリィムナは考えを振り払う。今考えても仕方がない。 戦いは終わっても、やることはまだ残っている。そうならないようにするべきでもある。 琥鳥も人が途切れた隙に占いの道具を片付けると、希儀を後にする。 顔を合わせた客たちがお疲れと挨拶をしてくれる。笑いあう、その表情には不安など無い。 ようやく訪れた平和な世界。仮初でも気休めでも無い、真の喜びを享受できる、おそらく何千年ぶりかの時間。 祭りはいずれ終わる。だが、明日も明後日も人としての当たり前に生活できる時間は続いていく。 いつか、何かで、破られるまでは……。 「……ん、ともかく今はこの幸せが長く続くのを祈るだけ……」 賑やか音楽は続いている。楽しげな曲に足を動かしながら、琥鳥は祭りから日常へと戻っていった。 |