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■オープニング本文 新天地発見から二年が経過。 遺構を再利用し、天儀からの支援も都度行っているが、それでも開拓は楽ではない。 未知なる儀での未知の生活。それもようやく勝手が分かってきたかという頃か。 今年もハロウィンがやってきた。ジルベリア経由で入ってきたこの習慣は、天儀でも祭りの一種として広まり、そのまま希儀にも伝わっている。 何より、忘れたくてもこの時期になると騒ぐ奴らがいる。 「ヒャッハー! オイラ達の季節が来たゼェエエエエ♪」 「お菓子! お菓子! お菓子をよこせ!」 「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞお〜♪」 妖精・提灯南瓜。この時期になると普段見るよりも明らかに数を増やす。ちゃっかり希儀にも住み着いており、やっぱり他の儀同様に騒ぎ出す。 その騒々しさは正直迷惑。だが、お菓子をあげればおとなしくなるだからと、あらかじめ提灯南瓜用のお菓子を準備する。案外、この騒動を楽しみしてたりもする。 その街でも、今年も現れるだろう提灯南瓜の為に、和菓子洋菓子いろいろと作り上げていたのだが。 「おや? 倉庫に置いていた妖精達のお菓子はもう出したのか?」 街の共同倉庫が空なのを見て、住人が首を傾げた。 「いや。まだ用意してないぞ。どこにやったんだ?」 「もふもふ? 不思議もふ? もうなくなったもふか?」 仲間に聞くが首を傾げるばかり。もふらたちも顔を突き合わせると、満足そうにげっぷをしている。 ……。 もふらの腹はぱんぱんで、顔には笑みを浮かべ、何やら甘い匂いを振りまいている。そして口の周りについた菓子くずや餡子の量たるや! 「まさか! もふらさま、菓子を食ってしまったのか?」 「もふぅ、ランタンばかりずるいもふ! 今年はもふたちの番もふ!」 驚愕する住人を前に、悪びれることなくもふらさまは駄々をこねる。 へそをまげたもふらさまも厄介だが、それ以上に住人達は慌てふためく。 「落ち着け、簡単な焼き菓子程度ならすぐに出来上がる! あるだけ作って何とか間に合わせるんだ」 「しかし砂糖が切れてたはず。甘くない菓子で、奴ら満足するか?」 「それなら大丈夫。精霊門を通じて、砂糖を持ってきてもらうよう、注文してある。今日の配達で届くはずだ」 それならばと、急いで在庫を確認して、何が出来るかを考える。 程無くして、定期的に訪れる行商人が予定通りにやってきた。事前に頼んでいた品をいつも通りに届けてくれたのだが。 「おい、砂糖はどうした!? 水飴も無いのか! 他にも足りない品があるが、それは後でもいい。とにかく今は甘味がない事には」 「そ、そうは言われても私どもはここにある発注書通りに品を用意してお届けしただけです。間違いはないはず……」 荷を確認して住人達はさらに慌てる。 行商人も発注書を手に反論するが、負けず劣らずおろおろとしている。 「あ、この紙、美味しいメェ〜。気に入ったメェ〜」 その行商人の手から、ひょいと発注書が抜き取られる。 見ると、小さな山羊のぬいぐるみのようなのが、周囲の視線構わずもしゃもしゃと発注書をそのまま食べた。 妖精・山羊珠。こいつらも天儀から希儀に渡り住んだ精霊だ。 普段はひっそりと人目につかない土地で暮らしているが、たまに現れては紙を食う。 「……そこの八木珠。もしかして、前にもその紙をこの街で食べなかったか?」 「何日か前に食べたメェ。気に入ったから、また来るのを楽しみにしてたメェ」 悪気もなく、笑顔で告げる山羊珠。 白やぎは人々に笑顔を、黒やぎは人々に幸運を運ぶ、と伝えられるが、今は到底そうは思えない。 「どうするんだー。次の荷ではとても菓子作りに間に合わん!」 「わわわ私どもは知りませんよ! ははは発注書が無かったのは、くく喰われたなどとと、山羊珠のせいで私どもの責任ではごございません! ととととりあぁえずずずう今回運んだ私どもの代金うぉをい!」 ついに打つ手が思いつかず。住人達は慌てふためき、行商人まで騒ぎ出す。 「メェー。美味しい紙もっとー」 「美味しい菓子もっともふ〜」 「お前たちは黙ってろーっ!」 同じく騒ぐ山羊珠ともふらに、住人達が怒鳴るも効果あるのかどうか。 それに、騒ぐだけでは解決にならない。 それどころか騒ぎ聞きつけ、早々と提灯南瓜たちが現れる。 「ほぉおお。菓子が無いのかー」 「菓子が無いなら仕方がない」 「そうだ、我々の」 「悪戯ターーイム!!!」 状況を理解するや、それはそれでと無邪気な笑みを上げて、提灯南瓜たちが街中に散らばる。 かくて、街のあちこちで落書きがされる。空から小石や火の粉が降ってくる。通りの角から驚かされる。ゴミ箱はひっくり返され、犬の顔に眉毛が足され、乾いた洗濯物が床中に散らかされる。 一つ一つは他愛ないし、怪我を負わせるほど酷い悪戯も無い。だが、一体どれだけやってきてるのか、数が途方も無く、ひっきりなしに悪戯三昧。これではまともな生活もできない。 その内、気が済めばやつらもまた元の生活に戻っていくだろうが、それがいつになるやら。待ってなどいられない。 「開拓者だ! 開拓者ギルドに連絡だー!!」 かくて、ギルドに依頼が出される。 街で悪戯を繰り返す提灯南瓜たちをどうにかしてほしい、と。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) |
■リプレイ本文 依頼で呼ばれ、希儀のとある街に駆けつけた開拓者たち。 お菓子をよこせと提灯南瓜が騒ぐ。そのお菓子ほしさにもふらがうろつき、紙が欲しくて山羊珠も姿を見せている。 「おお、なんとかぁいらしい」 可愛らしい彼らが賑やかにしているのを、ラグナ・グラウシード(ib8459)はデレデレに頬を緩ませて見とれている。 「あぁ〜、おうちに連れて帰りたいお〜。ねぇ、うさみたん、見てなのだぉ! かぁいいお仲間がいっぱ……うおぎゃあああああああ!」 背負ったうさぎのぬいぐるみに話しかけるべく振り返る。 しかし、そこにいつも仲良しなうさぎの顔は無く。目も耳も何もない、のっぺりした白い顔と面突き合わせることになった。 「落ち着いてよ。くりぬいた蕪でつくったお面だってば」 変わり果てたうさぎに驚愕しているラグナに、リィムナ・ピサレット(ib5201)が呆れた声を出す。 冷静になると単純なイタズラ。蕪を外すといつものうさぎが顔を出す。 「うけけけけけ! トリック トリック あーんど トリック!! お菓子をくれないならイタズラだー!」 笑いながら提灯南瓜たちが街を飛び交っている。 一体どれほどの数がこの街に入り込んでいるのやら。お菓子をくれないのでそこかしこしで暴れっぱなし。有言実行も時には困る。 「ハッピーハロウィン♪ ……でしたっけ? でもこんなに騒がれては落ち着いて楽しめません。くぅちゃん、大丈夫ですか?」 街の惨状に、柚乃(ia0638)がため息。久しぶりに希儀に訪れ、山羊珠やもふらたちに癒されようと思いきや。 少し目を離しただけで、連れていた相棒はリボンです巻き状態。八曜丸も藤色のもふ毛がカボチャ色に染め変えられていた。 いずれも少しの手間で元通りになるとはいえ、頻繁に起こればやはり面倒。自身も気を付けないと、落とし穴に落とされそうになったり、頭上から網やら土やら降ってきたりと、和んでいる時間も取れない。 「もうっ、かぁいんだけど、わるい子ばっかりだよっ!」 依頼とはいえ、戦闘するような緊迫感は無い。普段のぼんやりがうっかり顔を出すや、色のついた水をばしゃりとひっかけられる。 真面目なエルレーン(ib7455)としてはこの無秩序は我慢がならない。早速この事態を鎮めるべく動き出す。 ● 「ま・ず・は、悪戯南瓜たちを鎮圧だ! サジ太、来て!!」 リィムナが呼びかけると、提灯南瓜たちに囲まれていた相棒が待ってましたと同化する。背に翼を広げてリィムナは、さっそく手近な提灯南瓜たちに夜の子守唄を仕掛ける。 「早く! 眠っている内に縛り上げて、檻にでも放り込んで!」 「分かった」 リィムナが声をかけると、街の人たちも慌てて縄を用意し、眠る提灯南瓜を捕獲していく。 「ヘイ、そこのガキンチョ! 俺たちの仲間に何するだー!」 それを黙って見ている提灯南瓜たちでもない。自分らの悪戯は棚に上げ、仲間を救おうと詰め寄ってきたが。 リィムナが動くまでも無く。詰め寄った先からばたばたと眠りこけている。 「おいたはダメですよー。いつまでも暴れるなら、眠らせますからねっ」 メっ、と、眠りこけた提灯南瓜を叱りつけるのは、一匹の山羊珠……としか見えないが。実はラ・オブリ・アビスで変化した柚乃である。 山羊珠から仕掛けられるとは思っておらず。提灯南瓜たちも油断してる傍から眠らされていく。 「地上からはこちらが仕掛けます。上空からはお願いします!」 柚乃は天狗駆も使用し、ひっくり返った荷車やらゴミやら家具やらも軽く乗り越え。悪事を繰り返す提灯南瓜たちを眠らせていく。 ● 転がる提灯南瓜を捕まえ押し込めて、悪戯する者は徐々に減っていく。 捕まえた提灯南瓜たちも檻に放り込んだままにもしておけない。 「出せー。不当逮捕だー」 檻の中で騒ぐ提灯南瓜たち。檻を壊そうとする勢いに、リィムナは砕魚符を取り出す。召喚した巨大な魚をガツンと一発殴りつける。 「今から美味しいお菓子を用意してあげるから、すこぉしそこでおとなしくしていてね」 にっこり笑って諭すと、さすがにびびって黙る提灯南瓜たち。 だが、粗方片付いたと思った頃に、様子でも見に来たか、別の一群が現れ事情を知るやまた暴れ出している。 やはり、菓子を渡さねば終わりが無いか。 「堂々巡りですねぇ。多少のお菓子はあるのですが……」 「もふもふ。美味しいもふー」 「食べちゃダメですー」 柚乃が荷に入った甘味を取り出すや、目ざとく見つけたもふらたちが突進。あっという間に平らげてしまう。 「どの道、あやつら全員を満足させられる量となるとどれだけのものか。――せめて砂糖がきちんと仕入れられていたら…」 がっくり肩を落とす街の住人たち。行商人は再発注を急いでいるようだが、いつになるかは分からない。元凶の山羊珠はこの事態もどこ吹く風で、変わらず注文書をむさぼっている。 「砂糖はないのか……。じゃあ、こーゆうのはどうかなっ? くれぇぷしゅぜっと……だったっけ?」 エルレーンが皿にかけられた布を取る。 「……。いや、幾らランタンとはいえ、炭は食わんだろう」 「それは失敗作! 成功したのはこっち!」 白い皿には黒い物体。どう見ても食べ物に見えないそれに住人は顔をしかめるが、エルレーンは慌てて別の皿を持ってくる。 小麦粉と卵を混ぜて薄く皮状に焼き、果物と果実酒で煮る。見た目はおいしそうだが、果たして味は。 「ふむ。果物の甘みがいいな。これだと気に入ってくれるかも」 試食した住人も思わず唸る。 実りの秋で、果物なら割と簡単に手に入る。用意された果実に、だが、柚乃の表情は少し浮かない。 「果物の樹糖漬けは考えましたが……。漬けておく時間が対して取れないのでかけるだけになるとしても、そもそも手持ち分では到底足りないでしょうね」 それなら、とリィムナが用意してきた資料を広げる。 「ツタの樹液を絞って煮詰めれば、甘葛煮というシロップが出来るよ。それを使えば」 事前に図書館から借りて来た書物を示すが、住人は首を傾げる。 「天儀と希儀では植生も違うからなぁ。――いや、だが似てはいるんだ。誰か詳しい奴がいるか!」 あきらめてはダメだと、掃除中の住人たちにも声をかけ、樹液を手に入れられないかを模索し始める。 提灯南瓜たちをおとなしくさせられるだけあって、街の人たちも私用仕事を一旦やめても菓子作りに協力してくれる。 森や山に入って頭から泥だらけになりながらも、使えそうなツタを集めて来た。 「蜜は暗に混ぜて饅頭に。焼き菓子とか白玉にかけてもいいよね。煮詰める前のも、山芋と煮て芋粥したら食べてくれないかなぁ」 「菓子が欲しいのであって粥はどうだろうなぁ」 案を出すリィムナに、町人は慎重に答える。 何とかかき集めた材料。提灯南瓜の数を思えば、余裕があるとは言い難い。 「もふ、ダメならもふらたちがもらうもふー」 「美味しそうもふ」 だというのに、甘い匂いに惹かれたもふらたちはよだれを垂らして菓子の出来上がりを待つ。 「山羊珠はこっちのが美味しそうメェ」 そして、山羊珠は手伝ってくれている町の人用に調理法を書いた紙に手を伸ばす。 そっちは書き直せばいいとはいえ、それでまた食われてしまっては意味がない。 数を作らねばならない台所に、手伝いもせずうろつかれるだけでも邪魔になる。 「めっ!」 と、リィムナが鷹睨で威圧すると、たちまち退散する。 あまり酷いようならいっそ眠らせて、静かな場所に運んでもらう。 気持ちよさげに眠るもふらが運ばれるのを、柚乃は羨ましそうに見える。もふもふに埋もれて癒されたいものだが、今はそれよりも提灯南瓜たちだ。 果物を適度に斬ると、蜜で漬け込む。 「蜜が煮詰まりました! これで全部みたいですけど、後はどうしますか?」 「果物を煮たり焼いたりしてもいいよね♪ 熱を加えると甘みが増すよ」 リィムナの提案に、手伝いの女は次の支度にとりかかる。 ● 至るところから甘い匂い。 これなら提灯南瓜たちも喜ぶだろうと、早速提灯南瓜たちを閉じ込めている部屋へと持っていくが……。 「おーのーれー。菓子がくれないからイタズラしたのに、閉じ込められるとはお腹立ちだー」 「もふー。お菓子〜、お菓子〜。早く来てもふ」 「紙〜、紙〜」 部屋には、目を覚ましたもふらや山羊珠もいた。再度うろつかないよう、ひとまとめにしていたらしい。そして、さらにその中に交じり、 「はぁあああああ〜。極楽極楽」 まるで風呂に入ってるかのごとく、もふらと山羊珠たちに埋もれ、檻の中で騒ぐ提灯南瓜たちを締まりのない顔で見つめていたラグナの姿が! 「全く全然ちっともこれっぽちも見ないと思ってたら、何やってんのよ、ここで!!」 「おふぅ!!」 流れるような動作で、エルレーンは持っていた菓子を人に渡すと一気に間を詰めマグナを殴り倒す。 「なななななにってそれは……そう! 見張りだ! 話し相手だ!!」 「今思いつきましたよね、それ」 壁ぎわに追いつめられたラグナが、視線彷徨わせ冷汗垂らして弁明する。が、柚乃もきつい目で睨みつける。 檻が開けられ、提灯南瓜たちが解放される。 「でも、もうお菓子はあるからね! 皆で仲良く食べよう」 リィムナたちが菓子を並べると、待ってましたと提灯南瓜たちが飛びつく。 もふらや山羊珠も加わり、賑やかでもそれまでとは違う和やかなおやつの時間になった。 「うあああ。手伝いしなくてごめんよぉ。だから、交ぜて欲しいお。ほら、うさみたんからもお願いなんだお」 「いいわよ。私の作ったのが半分ほど残ってるから、これあげる」 なんとなく輪に入れず。隅でいじけるラグナに、そっとエルレーンが菓子を差し出す。 エルレーンの料理の腕前は成功五分、失敗五分。もちろん、成功した物は提灯南瓜たちに渡されている……。 そうこうする内に、他で閉じ込めていた提灯南瓜たちも解放されたのだろう。 次々とやってくる提灯南瓜たちに皆で菓子を配っていたが、 「トリック オア トリート! お菓子をくれたからイタズラはしないよ〜」 菓子を口に放り込むと、提灯南瓜は上機嫌でふらふらとどこかに去っていく。 「もう帰るのですか?」 名残押しそうに見送る柚乃だが、提灯南瓜は陽気に挨拶しながらも戻ってくる様子はない。 祭りももう終わり。 彼らが騒ぐのはまた来年――。 |