【天照】食料送りたい
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/30 13:17



■オープニング本文

●うごめく者ども
 墓所を巡る戦いの火蓋が、斬って落とされた。
 護大派は墓所を守護する都市に立て篭もって激しい抵抗を示したが、連合軍はこれを退けて前進しつつあった。初戦は開拓者たちの勢いが敵のそれを上回った、と言えるが、こちらの弱点はもっと別のところにあるのだ。
「食料や水の手配はどうか」
「できる限り絞ってもこれ以上は……やはり、多少無理をしても墓所まで届けねばなりません」
 瘴気渦巻く地平線を見渡し、ギルド職員が答える。
 旧世界における最大の懸念は墓所における物資の欠乏にあった。瘴気に沈んだこの世界で、清浄な水や食料を入手することは難しい。その全ては精霊門を通じての転送に頼っており、転送してきた物資は墓所で戦う味方の元まで届けなければ意味が無い。
「腰兵糧だけでは、いつまでも持たんぞ……」
 背後に積み上げられた物資を見やって、将が頷いた。
「護衛に志願する者はいるか。何としてもアヤカシの妨害を退けてくれ」


 世界の命運をかけたこの一戦。
 誰もが各国軍及び開拓者たちの動向に注目している。
 もちろん、都の住人たちも例外ではなく。
 神楽の都の片隅で。乙女たちともふらが話し合う。

「兵糧が難儀してるそうで」
「物資はあるけど妨害があるようだよー」
「もふ。届けられないなら無いも同じもふ。これは困った一大事もふ」
 ミツコにハツコにもふらたち。と、数は多いが顔を合わせた所で力にはならない。
 志体持ちではない一般人が出来る事は限られる。もふらたちの出来る事は……ある意味限られる。
「そもそも出かけた人数多いしね。全員が一日一食で過ごしたとしてもどのぐらいの量が必要になるのか」
「人以外にも相棒にも食料は必要だよねー」
「もふもふ。一人が一回の食事で一俵食べるとすると、相棒も一緒で二俵。千人が三食食べて行動すると……二日で一万俵越すもふ! 大変もふ!」
「わー。もふらさま、よく計算できたねー☆ えらーい♪」
「の前に。……そんなに食べるのはあんたたちぐらいでしょうが!」
 ほめられて胸をはるもふらに、笑顔で頭を撫でてあげるミツコ。ハツコは間違いを訂正するが、相当量が必要というのだけは否定できない。
「もふ。妨害だけで遅れて届くならいいもふ。でも、戦闘とかで奪われるのもあるかもしれないもふ」
「食料が多くて困ることは無いよねぇ。お腹いっぱい食べられるし。その方が力も出そうだし」
「ま、冬越しの貯えが減ったり春の種籾が無くなる事態にはなってほしくはないけどね」
 しかし。この戦で負ければ来年があるかも分からない。ここが正念場なのは確かだ。

 そして、開拓者ギルドに二人ともふらたちが現れる。
「追加の食料を送ろうと思うのー。今は秋で食料も豊富だからー、手配は割と簡単に出来るしー。でも、手に入れたからって生魚一万匹とか前戦に送られても困るよね? 生臭いし調理も手間かかりそうだし」
「なもんで、持ち運びに便利で、もしかの長期に備えて保存がききやすい物がいいと思うのだけど、どんなのがいいか助言が欲しいのよ。物によっては加工方法もかな。結構急ぐから数日内で作れる物に限られそうだけど」
 勿論、大勢の食料分を数名で調理するのは厳しい。だが、それに関しても協力をしようとする一般人は多く、望めば手は尽くせるらしい。
「人間たちばかりじゃないもふ。相棒たちへの食事も忘れないでほしいもふ!」
 食事不要の物や好んで接種せずともいい種もいる。
 だが、美食家の種もいれば貪欲に何でも食べる種もいる。
 数を用意しておいて損も無いだろう。
「もちろん味も大事もふ。もふが責任をもって味見をするもふ」
「もふもふ。せっかく手に入れた食材が腐ってたりしては一大事もふ。もふはしっかり毒見をするもふ」
「もふー。ではもふは産地別の味の違いを研究してみるもふ」
「……こいつらは十分に隔離しておけ」
 ドヤ顔で張り切っているもふらたちだが、口の端から光るものが垂れ流されている。
 胸中察した開拓者ギルドの係員は頭を抱えて注意を入れるが……、言われなくても野放しには誰もしないだろう。調達した食材を片端から食べられかねない。


■参加者一覧
/ 十野間 月与(ib0343) / 明王院 未楡(ib0349) / 御鏡 雫(ib3793) / 蛍火 仄(ic0601


■リプレイ本文

 護大との戦い。
 その結果でおそらく天儀の――いや世界の命運が決まる。
 となれば、非力な身でも何かしたいと思うのは当然か。しかし、素人故に手の出し方を思いつかないのは致し方ない。
 ならば、玄人に話を聞くまでと、開拓者たちに声がかけられた。

「理想を言えば限が無いですし……。最低限の部分について、考えておきましょうか」
 あれこれと考える明王院 未楡(ib0349)だが、結局何かをあきらめたような素振りも見せる。
 戦場では何が必要になるか、ほんのわずかな違いが勝敗を分けることもある。まして今回は瘴気にまみれた世界。現地調達は不可能と見られている。
 だが全てを備えていては時間がかかりすぎる。
「水瓶用意、樽用意〜! で、水入れる前に煮沸した方がいいんだよね?」
 大量の瓶や樽を荷車に乗せるよう指示し、ミツコは未楡に同意を求める。
「そうです。水は不可欠ですし、なるべく日持ちさせたいですね。水瓶や樽は煮沸消毒をした上で、度数の高いお酒で拭いておいて下さい。――そうそう、お酒も飲み水代わりに使える場合もあります。度数の低いエールやワインも御用意願えますか?」
「分かった。ちゃんと指示しておくわ」
 未楡の助言を忘れないよう手帳に記しながら、ハツコがしっかりと頷く。
「睡蓮も今回の内容や皆の意見をまとめてちょうだい。他の人にも分かるよう、要点纏めて丁寧にね」
 十野間 月与(ib0343)は、連れてきた上級からくり・睡蓮にも記録を手伝うよう求める。
 依頼者は二名ともふらがいっぱい。けれど、彼らだけで準備しきれる物でもない。今この場にいない人たちにもすぐ扱えるようにしておかなければ、それだけ遅くなる。
「飲み水に関してはこんなもの? 食料はどう用意すればいいのかなぁ?」
 首を傾げる依頼者たちに、開拓者たちも考える。


「ひとまず、人の口に入れる物はお二人が詳しいので、私は相棒たちについて考えてみましょうか」
 月与と御鏡 雫(ib3793)を認めて、蛍火 仄(ic0601)はもふらたちに目線を移す。
 もふらに限らず、戦場では相棒たちの働きも重要。その動きを十分に生かすには、やはり食事をおろそかにしてはならない。
 空戦を行うための龍や鷲獅鳥。忍犬、猫又などを伴い飛空船に乗る者もいる。人以上に、相棒たちは多様で、食する物も様々になる。
「保存性をや運搬性を考慮すると干魚・干肉が妥当でしょうか。ただ、人用とは別に朋友用に塩や香辛料を最小限に抑え、荷にも明記して相互に間違って口にしないように注意しないといけませんね」
「纏めちゃダメなの? もふらさまは何でも食べるけど」
「もふ、好き嫌いはダメもふ」
 聞いていたミツコが首を傾げる。
 何やら自慢するように顔を上げたもふらに、仄は軽く微笑んだ。
「そういう事ではないのですけどね。体の大きさの差もありますから、刺激物や塩分など考慮した方がいい朋友はいるでしょう」
「誰も彼もがもふらさまみたいに、図太くは無いという事よ」
 嫌味を言うハツコに、もふらはきゅうと首をすくめた。
「草食の朋友には申し訳ないけど、干草は物資搬送時の緩衝材として詰めておけば、荷をまとめられ、多少は手荒に扱えるかと思います。人用の現地調理用野菜と一緒に運搬してもらい、適した野菜を選んで与えられるように配慮した方が良さそうですね」
「干草は用意できると思うよ。干渉用に使うならさらに効率良くまとめられるかなぁ」
 やってみないことにはどうなるか分からない。けれど、安全に届けられるようならそれでいい。
「果物や野菜類は切り出し大根の要領で薄く切って干して利くかねぇ。そういうのは乾燥させた方が保存性塗料を運ぶ上では必要かねぇ」
 運ぶ食品には雫が口をはさむ。
「けど、根菜類とか日持ちするのは生も送ってほしいかねぇ。合戦の仲間たちもだけどさ。投降した護大派の人たちにアプローチしている人たちも考えると、保存食ばかりじゃどうにもならないしねぇ〜」
「そういう心配もあるのかー」
 考え込む雫に、ミツコも息をつく。
 交渉材料に人心掌握。食の魅力は多岐に渡る。やはりただ集めて終わりだけにはしたくない。
「加工しちゃうと栄養不足になるものも少なからずあるからねぇ。それと、薬膳。軽微な体調不良位ならそれだけで抑えられるしねぇ」
 医師の雫としては、栄養や健康も気になる。揃えられるなら、今の内に頼んでおきたい。
「でも、薬膳料理って結構手広くいろいろ使うよね。泰の人に聞くのが詳しいかな」
「分かった。そういうことなら、後で必要な物を見積もってくるかねぇ」
 首を傾げるミツコたちに、どうやら指導した方がよさげと雫は判断。適当に妙な物をつかまされても困る。

 干すぐらいの加工なら店でも売られている上、自分たちでも簡単にできる。加工しない物は当然そのまま集めて送ればいい。
 そして保存食に関しては、何やら厨房からいい香りがしている。
「美味しそうもふ。どんな塩梅か調査するもふ」
「だぁかぁらぁ。それはいいの。運搬の手伝いをしてきなさい!」
「もふぅ! 現場のもふらの健康の為に、もふがまず試されてみるもふー」
 目を付けたもふらが、並んだ材料を吟味と食し、調理途中は味見と食し、出来上がった品は即試食と悉く食いついてくる。手伝いというより、はっきりと邪魔だ。
 それを引き離し、宥め、時には追い出し……と、ばたばた騒ぎながら、なんとか保存食の完成と調理法の伝授までこぎつける。
「こちらの焼き大蒜辛味噌は、後ほど天日干しでしっかりと乾燥させてください。保存の利く調味料としていろいろな食事に合わせやすいでしょう」
 月与が団子状にした味噌を卓に並べて見せる。
 刻み大蒜に葱や生姜などの香味野菜を胡麻油で炒めた物に、味噌を加えてさらに炒める。
 味付けされた味噌はそのまま干し飯と一緒に食べてもいいし、湯に溶いて味噌汁などの汁物や鍋などにも使える、という訳だ。
「そして練り飴。擦り胡麻や黄粉などを水飴や蜂蜜で練って丸めた物です。これも湯に溶いて飲み物にできるでしょう。どちらも汎用性、携帯性、保存性に優れてるって意味では良いと思うのだけど」
 飴も固まり、並べられている。このまま口に含むのも美味しそうだ。
「私は、焼き菓子状の保存食のレシピ交流した物から。それと、こちらはパンを乾燥させた簡易スープの元になります」
 未楡は一見焼き菓子と、簡単に乾燥させたパンの欠片のような物を並べている。
「保存食には、蜂蜜、干果物、ナッツ類などを混ぜ、医食同源で考えても甘みと風味、栄養と兼ね備えた物になっていると思います。
 こちらの乾燥パンは、芋幹縄に倣い、濃いコンソメを吸わせてあります。湯に浸せば簡易スープに出来るかと思います」
 用意していた湯に一つ落とせば、ゆっくりとパンが開き、味をつけていく。
「なるほど。ジルベリアやアル=カマルの人たちはこっちの方がなじみやすそうよね」
 簡易のスープを興味深そうにハツコが啜る。
 戦闘中に贅沢は言えないとはいえ、できたら慣れた味を欲しいと思うだろう。美味い食は士気にも影響がある。 
「もふはこっちの方がいいもふ。これなら無限の力を発揮できそうもふ。甘い物は心にもいいもふ」
「だからぁ。食べちゃダメだってばぁ。他の人の見本も必要なんだからぁ」
 ぼりぼりと練り飴や焼き菓子を頬張るもふらさま。すべて食い尽くしそうな勢いに依頼人たちが慌てる。
「見本は作り直せますから。それよりも、これでいいならすぐに取り掛かる方がいいのでは」
「そうだね。人を集めてくる!」
「ほら、もふらさまも。材料集めに行くよ!」
「もふぅううう」
 月与の言葉でさらに騒がしくなる厨房。未練残しながら、もふらさまも食材集めや伝達に走りだす。
 戦場は待ってはくれない。必要な物が分かったなら、後は早急に手配するのみ。
 

 保存食は有志に連絡。人を集めると、依頼人や睡蓮が書き記した手帳や見本を元に数をそろえていく。
 買い集めた品をそのまま送る場合も、荷の衝撃を和らげるよう工夫して詰め込む。
「朋友用の荷はそちらに纏めて下さい。液体はなるべく乾いた物とは一緒にしないように。干草を詰めても壊れる可能性はありますから」
 荷の隙間に干草を押し込む仄。この干草もいざとなれば食料になる。おろそかに扱えない。
「荷が壊れて、せっかくの干物が湿気るのは簡便だねぇ。せっかくいい物集めて日持ちするよう工夫しても届けられても、無駄になっては台無しだねぇ」
 薬膳の材料には高価な物があり、薬と同等に扱う物もある。雫も荷が崩れないよう注意を入れていく。

 多くの人が奔走して、次々に物資が運ばれてくる。数日後にはそれなりの数が揃った。
 手続きを得て、精霊門まで物資を運ぶ。そこから先。一般人は立ち入れない。
「無事につくといいもふね」
 珍しくもふらも心配そうに、運ばれていく物資を見送っている。
 物資を運ぶまでも危険があり、戦場まで届いてもどれだけの人の腹を満たせるか。
 それでも、依頼人や手伝ってくれた人は少しでも力になれないかと真剣な思いは伝えられる。力不足でも自分たちに代り頑張ってほしいという、願いでもあり、応援でもあるのだ。