|
■オープニング本文 夏。 待ちに待った祭りの季節。 アヤカシがうろつこうが何のその。楽しみは捨ててはならぬと、各地で様々な祭りが催されている。 泰でも、例年通り帝都・朱春で行われる猫族の儀式『三日月は秋刀魚に似てるよ祭り』に向けて、すでに準備が始まっている。 この日を心待ちにしているのは猫族だけではない。 行われる送り火の華麗さに心躍らせるのは皆同じ。天帝からお褒めの言葉をいただくのは一体どこか。競い合う三地域の仕掛けの数々を見物しようと、狙って訪れる観光客も数多い。 人多ければ儲ける機会。観光客目当てに、屋台だ限定品だと地元民も大わらわ。 その中でも、秋刀魚の祭りの主役はやはり秋刀魚。 奉納物として用意される他、屋台でも数多く売られる。この日消費される秋刀魚の量は半端なく、それに当て込んでにわか商人も増えたりする。 ● 「というのに、秋刀魚が獲れないニャー」 開拓者ギルドに猫族の青年が飛び込んでくるや、依頼がしたいと泣いて訴える。 ちなみに、猫族とは単に猫や虎の獣人が多いのでそう呼ばれるが、少数ながらも他の動物に似た獣人もいる。 目の前の青年はどう見ても犬耳犬尻尾。ニャーニャー泣く姿は違和感がある。……それ以上に、その歳で猫語はねーだろーと心でギルドの係員は突っ込むが、声には出さない。あくまで胸の内。 そんな係員の心中など察することなく、青年は窮状を口にする。 「ニャーは祭りで屋台を出すべく、とある漁港の漁師さんから秋刀魚を買うことを前々から約束したニャ。けど、ここ最近になって漁場で秋刀魚を獲ってると、巨大な海鳥が十羽ほどやってきて秋刀魚を盗ってしまうそうニャー」 海に海鳥は当たり前。魚の群れを探す目安にもされたり、漁師とも縁が深い。 だが、その海鳥たちは漁を終えた船を狙い、人を海に落とすと獲り終えた秋刀魚を食い漁っていく。 海鳥は翼広げれば一丈を越すかなりの大型。それが群れをなして船を襲い、器用に秋刀魚を捕えた水桶を壊して餌を漁るというのは、ちょっとふつうでは考えにくい。 どうやら海鳥のケモノのようだ。 そんなものがうろついていては、とてもじゃないが穏やかな漁とはいかない。いや、漁自体は何とかできるが帰港で邪魔をされる。 売り物にできないなら、どれも同じか。 「今更他の漁師さんから魚を買おうにも、大体他の店に抑えられてしまってるニャ。このままではろくな秋刀魚が売れないニャー。……それに漁師さんも困るニャ」 最後、あからさまに付け加え。 「だから、お願いにゃ。漁師さんに同行して、海鳥たちを追い散らしてほしいニャー」 なんとなく打算が見え隠れする依頼人だが、放っておく訳にもいかない。 「漁師たちからも船や漕ぎ手、その他必要な道具があれば出来る限りの協力をするという約束は取り付けてるニャ」 だが、相手はけっこう大きく。さらに空を飛ぶ。 「やはり相棒の助けは借りた方がいいだろうな。同行を許す。場所も場所だ。念の為、ギルドから水中呼吸器の貸し出しも行おう」 たかがケモノ、されど海鳥。油断すれば、開拓者といえど突かれて痛い目にあうだろう。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
野分 楓(ib3425)
18歳・女・弓
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂 |
■リプレイ本文 泰。 毎年恒例の行事『三日月は秋刀魚に似てるよ祭り』に向け、都は賑わいを見せる。その忙しさは地方にも広がり、準備の為にどこもかしこもあわただしい。 その漁港でも、例年であればまだ暗い内から海に出て、山のような秋刀魚を船に載せて帰る船が多数。 だが、今回は出る船よりも、停泊している船が多い。出しても港近郊で漁を済ませている。 それというのも、巨大な海鳥ケモノたちが漁直後の船を狙って襲撃し、せっかくの獲物を横取りしてしまうからだ。 そこで開拓者ギルドに依頼が出された。 そして、漁師たちは漁船を沖へと向かわせることになった。その船上にいるのは、漁師たちばかりではない。 「ケモノも生きてるんだし、秋刀魚を食うこと自体は問題ないと言うか当たり前なんだが。――漁師さんが苦労して獲った獲物の上前をはねようって魂胆はいただけねえ。そんな不心得者には、相応の報いを受けて貰わねえとな」 揺れる船に興奮しているのか、鼻息荒い翔馬・プラティンをクロウ・カルガギラ(ib6817)は宥める。 秋刀魚漁には不似合いな気品のある白馬。だが、その乗船を咎める者も無い。 狙うは秋刀魚。――そして、それを狙う海鳥ケモノ。 「海鳥も生きるためとは言え、こちらも依頼なんでな。依頼人にとっても書き入れ時だろうしな」 「全くその通りにゃ。祭りを逃しては秋刀魚の売り上げも大きく違ってしまうニャ。ささ、早い所邪魔物に目にモノ見せてやるニャー!」 羅喉丸(ia0347)に大きく頷くと、商売っ気丸出しに依頼人がけしかけてくる。けしかける本人は港で留守番するのだが。 「鳥たちが来るのは漁の後。ならば、普通に漁をしてもらい、帰りに寄って来たところを迎撃、だな」 計画を確認するからす(ia6525)。 漁となると、開拓者だけでは無理がある。漁師の協力は必要。 「漁師さんたちには悪いけど囮をお願いします。誘き寄せなければ退治するのも難しいしね……」 「おうよ。こっちには構わねぇでとことんやってくれ」 頭を下げる野分 楓(ib3425)に、漁師たちは何事も無く笑う。 屈強な海の男たち……とはいえ、手に余るからギルドに依頼が回って来たわけで。ついて来れば戦闘に巻き込まれるのに、不満をいう者はいない。 それだけ海鳥たちの所業に怒っているのだ、と分かる。 「放っておけば、漁師さんにもいつ危害が及ぶか分かりません。――さっくりいきましょ、さっくり」 柚乃(ia0638)がにっこりと素敵な笑みを浮かべる。 知恵を持つのはいいが、手を出してはいけない分別もつけるべきだった。姑息な海鳥には相応の報いが必要。 ● 特に目印も無い海の上。 けれど、漁師たちは漁場を知り尽くしている。 長年の勘や潮の流れを巧みに読み、沖に出て海中に網を投げれば、引き上げる時には大量の秋刀魚が船へとあげられる。見事な手際だ。 同船しているなら、見ているだけという手は無い。 「手伝えることがあるなら遠慮なく言ってほしい。漁は不慣れだが、体力には自信あるから力仕事は任せてくれ」 出来ることがあればと開拓者たちも手伝いを申し出ていた。 珍しそうに海を見ていたクロウも、慣れぬ手つきながら、指導の下、こき使われる。 漁が始まれば、やることは案外多い。道具の手入れに、船の掃除。魚の選別。時には紛れ込んできた鮫を追い払ったり。 相棒たちはその間も警戒を続けていた。その中で、すっと伸びるは猫の手ならぬ仙猫の手。 「桜華、魚をとったらお仕置きじゃからの」 じろりと神町・桜 (ia0020)に睨まれて。仙猫・桜花は全身の毛を逆立てる。 「ちょっとこう……ダメそうなのを一匹ぐらい……。いやいや、何でもないにゃ! 警戒に行ってくるにゃー!」 慌てて船の屋根へと飛び乗り、空へと警戒の目を向ける。 秋刀魚の群れを察してか、周囲には海鳥が無数に飛び回っている。ただし、その大きさは一般的なものでしかなく、船の魚に目をつけても警戒して寄っては来ない。 その鳥たちのさらに上空には、轟龍・ヒムカと駿龍・風雲が円を描くように飛び続けている。 背には柚乃と楓を乗せ、それぞれで警戒している。 隠れる場所の無い海の上。だが、まだ巨大な鳥の姿は見えない。柚乃は超越聴覚で探るが、それらしい声も羽ばたきもなかった。 「いつもはどう来るのか?」 羅喉丸が確認するも、漁師たちは首を横に振る。 「それがよく分からん。ただ、帰ろうとする頃になると不意に飛びかかってくる。おそらく遠目で船を確認すると、海に潜って近付いて来ているのだろう。」 「水中からとな。――だが、そんな小細工通用せん」 不敵にからすが笑う。 その直後。穏やかなはずの海が、突如、飛沫を上げて大きく噴き出した。 見事な水柱。その激流に絡めとられ、もがいているのは巨大な海鳥。 周囲を飛び交っていた海鳥たちが驚いて逃げる。それらと明らかに大きさの違うそいつは、漁師たちを悩ましてきた奴らに違いない。 「なんだぁ!?」 ケモノ出現はある意味想定内。だが、水柱はどういうことか、と目を丸くする漁師。 「ようやった、魂流!」 対照的に笑うからすは、すでに呪弓「流逆」に矢を番えている。水柱にもまれて取り乱している海鳥が体勢を整える前に、射掛ける。 海鳥が金切り声をあげると同時に、海からまた何かが飛び上がってくる。 塊は翼を広げ、風を捕えてそのまま空へと舞い上がる。 現れた海鳥の姿は九羽。波間でもがく一羽と合わせて、聞いていた数と合う。 その後、波間からはさらに小さな顔が飛び出てくる。ミヅチの魂流だ。船周辺で海中から漁を助けて周囲を警戒していたその相棒も、空に逃げられては手も足も出ない。 射程からも逃れて船の上で飛び交う彼らを、海から魂流が不満そうにミューミュー鳴く。 水中からの接近失敗。海鳥たちにすれば、空に逃れて一旦態勢立て直し。再攻撃をどうするか、船上を旋回しながら考えているようだ。 しかし、のんびり出来る暇は無かった。そのさらに上から、すでに海鳥たちに次の攻撃が迫っている。 獲物発見。ならば次の行動は攻撃あるのみ。 高空から見張っていた龍たちが、急降下を始めた。 楓は落下の勢いそのまま、殴りつけてくる風もかまわず、風雲の背でロングボウ「流星墜」に矢を番える。 狙い定めた獲物が見る間に近付く。 乱暴な移動にも体をぶらさず、駿龍の背から矢が放たれた。 矢は加速し、あっという間に海鳥一羽を射抜く。 ぎゃあ、と悲鳴を上げる。間もなく、続けざまに楓は矢を放つ。矢衾になった海鳥を、零距離に達した風雲の爪があっさり捉えた。 さらに別の海鳥には、共に降ってきた轟龍が食いついていた。 勢いのまま海面近くまで落下するが、ぎりぎりの所で浮上。その口では海鳥が哀しげな叫びをあげてもがき続けている。 鼻先で暴れられ、手こずったヒムカが海鳥を離す。 傷付いた体ではすぐに対応できず、海鳥は海に落ちた。そこに轟龍の背から冷気の氷刃が注がれる。 「群れているうちに纏めて退治、ですっ!」 轟龍の速度にも振り落とされず。背から柚乃が叫ぶ。 海から攻撃され、空からも狙われ。海鳥たちはこれまでにない展開に、完全に慌てふためいていた。 「頼んだよ、風雲。逃がさないで」 楓が手綱を引くと、駿龍はその翼を広げ、海鳥を囲うように周囲を大きく回る。 「こっちからも頼むぞ、ネージュ」 「承知。妖精剣技の奥義、見せましょう」 船上では構える羅喉丸の傍から、上級羽妖精・ネージュが飛び出していった。 背の翼が虹色に輝けば、ぐんと高度を上げる。細身の剣を引き抜くと、遠ざかろうとする海鳥に巧みに回り込み、突き入れ、一息に薙ぎ払う。 逃がさぬように。そして、船にいる仲間たちの手が届く位置へと追い込む。 「行くぞ。準備は出来ているな」 クロウが飛び乗るや、翔馬はいななき一つ、船から飛び出した。 そのまま海へとざぶり……とはならず。泡立つ波の上に着水するや、地上と変わらない走りを披露する。 龍や羽妖精に追い立てられ、海鳥たちの高度は下がってきている。 クロウはプラティンと一体となり、姿勢を低く保ちながら海鳥を数える。 先ほどに比べて数羽足りない。撃墜されたふりをして、逃げ場を海に求めて潜った奴がいる。 空はもちろん、海中にも目を向ける。 水柱が上がった。ミヅチがまた一羽追い込んだのだろう。上がる水しぶきと波がぶつかり、水面が派手に白く濁る。 その中から、さらに別の海鳥が飛び上がってきた。 逃げる為か、それ以外の目的があったからか。推測する暇も無く、クロウは宝珠銃「ネルガル」の引き金を引いていた。 轟音と共に海鳥の血と羽根が散る。再び海鳥は海へと戻ったが、それはただ落ちただけ。 魂流がたちまち海鳥に攻撃を加え、その隙に再装填。もう一度引き金を引くと、今度は銃の名において冥府へと導く。 海鳥が動かないのを見ると、空の海鳥たちへと距離を詰めるべく、クロウは翔馬の翼をはためかせていた。 ● 追いつめられたケモノは、命がけで活路を見出そうとする。すなわち邪魔の排除。 死に物狂いで開拓者たちに挑むが、元より大きくなっただけの海鳥。さほど攻撃に長ける訳でも無い。 船に群がってくるのも、秋刀魚狙いではなく、単に自棄になったか混乱したかに過ぎない。 開拓者たちにとっては、厄介な相手であっても敵わない敵ではない。だが、船にいる漁師にとってはもちろん脅威のままだ。 「漁師方は、顔も出さずに隠れておられよ。……桜華。サボっているようなら海の中に行くかの?」 漁師たちの安全を確保しつつ、海に落ちてもいいよう、桜はサラシ褌の軽装で巴型薙刀「藤家秋雅」を構える。 一方で、だらだらと海鳥の相手をしていた仙猫は、海に落とされても困るとばかりに気合を入れ直す。 「まったく、お前らがいなければこんなことにはならなかったのにゃ! さっさと消えるのにゃー」 海鳥を睨みつけるや、突如起きた風にもまれて海鳥が姿勢を崩す。別の角度から近付いてきた海鳥には、黒炎を吐き出し追い払う。 八つ当たりもいい所。けれど、その働きを頼もしく思いながら、桜は遠くの敵には精霊力を用いて技を放ち、近くの敵には長刀を振るって応戦する。 「落ちても水中呼吸器は用意してあるから、対処は出来る」 「魂流にも救助を頼んである」 だから安心しろ、とでも苦笑する羅喉丸とからすに、仙猫は嫌な顔を作っていた。 幸い落ちる者はいない様子。漁師を狙おうとする海鳥は優先的に片付けられる。 泰練気法・壱で覚醒した羅喉丸は火炎弓「煉獄」を引き絞る。真武両儀拳で放った矢は確実に対象を射抜き、纏われた気が内部から対象を砕く。 「やはり獲物を選ばないというのは便利だな」 極めた奥義。その威力と成果を確かめると、さらに次を目指して弓を引き絞った。 本腰を入れて片付けにかかる開拓者に、海鳥ケモノはたいした抵抗も出来ず、海へと墜ちる。 中には必死に逃げようとあがく鳥もいたが、させじと駿龍たちが回り込む。 「効率が良いから漁船を狙ったんだろうけど、欲張ってやりすぎたよね」 楓が矢を射抜く。受けた海鳥は風雲に追い立てられ、少しでも逃げやすそうな場所を模索する。けれどそれが楓たちによる作為とは気付かず、船への距離が縮まった途端に矢や精霊力が貫いていく。 海鳥たちへの同情はある。楽して生きていたいのは別に人間だけに限らない。生物ならそれも自然。 だが、それでは漁師の生活が立ち行かない。追い払ってもまた戻っての繰り返しになるなら、少しでも危険を排除しておかなければ。 元気な鳥には柚乃がアムルリープをかけ。寝こけて落ちている間にも羽妖精が剣を突き付け、落ちれば水柱に飲まれ、クロウの銃声が響く。 全滅するまで瞬く間。 波に散らばる無数の羽根に、動かない海鳥たち。それもすぐに波が呑み込み、水底深く引き込んでいった。 ● 水葬として軽く手を合わせ、漁師たちは港へと船を戻す。 退治直後はさすがに神妙にしていたが、陸地が近付くにつれて船にも活気が戻ってきた。 久しぶりの大量の獲物。秋刀魚の山。祭りにも間に合い、港で待っていた人たち――特に依頼者が両手を上げて喜ぶ。 「やったニャ、やったニャ。これで秋刀魚で美味い飯が食えるニャー。ありがとうニャー」 開拓者に礼を言うのもそこそこ。依頼人は、早速港の人と商談の詰めに入る すぐに売る準備に入った港の人々。安全を取り戻した海で、これまでの遅れを取り戻そうと出航しようとする漁師たち。 あわただしく動き回る彼らに、開拓者たちはほっと胸をなでおろす。 「あ。とれたての魚をお裾分けしてもらえないでしょうか。もちろん代金はお払いします」 手際良く箱に詰められていく秋刀魚に、柚乃は依頼人と交渉開始。 「俺も秋刀魚を一尾買わせてもらおうかな。秋刀魚ってどう料理するのがいいんだ?」 興味深げに港の様子を見ていたクロウも、自身の財布を取り出し尋ねる。 桜花が桜を見上げる。 そこに港の奥から婦人方が声をかけてきた。 「皆様お時間はありますか? お食事を用意したのですけど。漁師飯ですが鮮度は抜群ですよ。もちろんお代はけっこうです」 どうやら秋刀魚を料理したようで、並べ、手招く。量からして龍たちへの準備も出来ているようだ。 彼らにしても久しぶりの秋刀魚。まずは感謝を込めたお礼ということか。 ありがたくいただく開拓者たち。 一足お先に訪れたお祭り騒ぎは明るい物だった。 |