|
■オープニング本文 とある天儀の片隅で。 おじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある日のこと。おばあさんは山へ芝刈りに。おじいさんは川で洗濯をしていると、大きな桃色のもふらがどんぶらこどんぶらこと流れてきました。 あまりにのんきに浮いているので、おじいさんはそのまま見送ろうとしました。 「助けてもふ」 まったく困ってないいつもの調子でぽそっともももふらは言いました。 「あ、やっぱり助けるんかい」 しょうがないからおじいさんはもももふらを助けました。 岸にあげられたもももふらは、おじいさんにつれられて家に招かれました。 出されたきびだんごを山盛り食べると、げふっと満足そうにげっぷをしました。 「もふー。助かったもふー。山でお弁当を食べてたら、落ちたおむすび追いかけて川に落ちて流されたもふー。このまま海行って沖まで流されて端から落ちたらどうしようと思ってたもふ。ところでおむすびは助けてないもふ?」 「さすがに魚のえさになってると思うのぉ」 食べた後でももももふらは食べ物を心配は忘れません。元気そうで何よりとおじいさんとおばあさんは思いました。 「もふもふ。それは仕方ないもふ。もふが助かっただけでも十分もふ。でも、このまま帰るとご主人に怒られるので、何かお礼がしたいもふ」 もももふらの申し出に、それでは……、と、おじいさんおばあさんは顔を見合わせました。 「実は婆さんが芝刈りなんぞする山で、最近小鬼を見かけるようになったんじゃ。婆さんこう見えても志体持ちでのぉ。幾度か葬ろうとしたが、寄る年波には勝てず。また小鬼もすばしっこくてすぐに逃げちまうんじゃ。今は婆さん恐れてこっちに手を出してこないが、その内仲間でも呼ばれたらさすがにまずい。なので、そうなる前になんとかせにゃと思うておったんじゃ」 「もふ! 分かったもふ! 助けてもらったお礼にもふがきっちり片を付けるもふ!!」 二人から悩みを打ち明けられると、もももふらはもふもふの胸をぐんとはって力強く宣言しました。 そして、もももふらは開拓者ギルドにやってきました。 「鬼退治に行くからきびだんご作ってもふ」 受付用の卓に顎を乗せて、もももふらはのんびりと告げました。よだれもたらしてる辺り、目的を間違えてるようです。 もももふらに付き添ってきた二人の乙女も頭を抱えてます。 「いやそうじゃなくて。普通に山に出る鬼退治を依頼すればいいだけでしょうが……」 「もももふらを助けてもらったんだしー。依頼料とかもこっちで負担するよー。という訳でお願い」 困り顔でミツコも深々と頭を下げます。 「もふー。それじゃだめもふー。もふが助けてもらったんだから、もふがお礼をしなくちゃダメもふー。きびだんごももらったもふー。美味しかったもふー」 ごろごろ床を這いまわるもももふらに、周囲は困り顔。 少し考えてギルドの係員は言いました。 「だが一理あるな。助けてもらった当人……いや当もふらが人任せで知らんぷりというのは、どうなのだろう。幸い小鬼は一体だけなのだろう。見届け役として付き添うぐらいしていいんじゃないか?」 開拓者数人がいけば、小鬼一体ぐらいどうということもありません。 むしろ変なやる気を出してるもふらの方が厄介かもしれません。が、その程度の足手まといをどうにかできないようでは、これから先の決戦も乗り越えられないような気がします。 開拓者ギルドに依頼が出されました。 「山に出没する小鬼を退治。討伐にはもふらが付き添うので注意されたし」 「もふ! がんばるもふ! いっぱい退治してきびだんごいっぱいもらうもふ!!」 小鬼は一体だけです。 もももふらのはりきりように、開拓者たちは不安になりました。 そして、もももふらの叫びを聞いて、他のもふらたちが一斉に声を上げました。 「「「「もふー。きびだんごくれるならもふたちも行くもふー」」」」 「あんたたちはお留守番!!」 ハツコの静止に、もふらたちがしょぼくれます。……もし、ついてきていいなら喜んでついていくでしょう。その結果どうなるかは、お察し下さい、ですが。 |
■参加者一覧
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
焔翔(ic1236)
14歳・男・砂
シマエサ(ic1616)
11歳・女・シ |
■リプレイ本文 助けてくれたおじいさんおばあさんに報いる為、もももふらは小鬼退治をすることにしました。 仲間のもふらたちも協力を申し出ました。けど、危険な旅です。 皆で行くべきか。もももふらは開拓者たちに相談しました。 「もふらが一杯で賑やかだぜ! 折角だし、みんな連れていこーぜ! 小鬼見つけるのも、人手……つーかもふら手が多い方がいいだろうしさ」 焔翔(ic1236)が元気に告げると、他の開拓者も賛成しました。 少なくとも、反対意見はありません。 「もふらさまと鬼退治……。なんて心躍る依頼なのだ……! もふらさまたちがとてもやる気に満ち溢れて……、この際だ、皆で行こうではないか!」 黒曜 焔(ib9754)も目を輝かせています。、猫耳も尻尾も、生き生きと弾んでいます。 その中で、少し不安な顔をしているのは日依朶 美織(ib8043)。 「賑やかになりそうですけど……でも、大丈夫でしょうか。うちにももふら様はいますけど、戦闘や追跡で役におは思えないんですけどね……」 身近で見ているからこその心配。それは当然の事。 でも、やっぱり皆は気にしていません。 「こんなにお手伝いさんがいたら、小鬼なんてすぐにやっつけられますにゃ♪」 「ありがとうもふ! がんばるもふ!」 「きびだんごいっぱい食べるもふー♪」 シマエサ(ic1616)が猫耳震わせ、やっぱり元気に告げます。もふらたちもおしりをふりふり、やる気を見せます。 ただ、やっぱり何か間違えてるような気がします。 ● 敵は一匹。志体持ちとはいえ、年老いた婆が動き回れるような場所。 おじいさんやおばあさんから小鬼の情報を詳しく聞くと、早速開拓者ともふらたちは現場へ向かいました。 普段からご老体が使っている道をてくてくと。 「なにかいい匂いがするもふ?」 途中で、くんくん、と鼻を動かし、もふらの一体が焔を探ります。 「腹が減っては戦はできぬという……。という訳で、おむすびを用意したよ」 もふらさまの為の品。菓子類も用意して、と、実にもふら思いです。 が。そうと知ったもふらさまたちは早速声を張り上げ、転がりだしました。 「もふー、お腹すいたもふー。鬼退治は、腹ごなしにするもふー」 そのうち、本当にお腹もぐーぐー鳴らしだします。便利なお腹です。 「もふらさま。静かにしてくれないと、小鬼に気付かれてしまいますよ。そうしたら、おばあさんのきびだんごも食べられなくなりますよ……?」 静かにするよう美織が諭すと、途端にもふらたちは口を閉じました。お腹もなりません。そのままシャキシャキ歩きだしました。 「それでは、よっこらしょ……。ああ、重いなぁ」 擬装用の芝刈り道具を担ぎなおすと、焔は耳も尻尾もだらりと垂れ下げ、くたびれた様子でよろよろ歩き出します。 「もふ? 荷物なら持つもふよ」 「いやいや、これは演技でね。こうしていれば、ただの芝刈り要因として鬼退治に来たとは思わないだろ?」 だから大丈夫、と笑うと、もふらは分かったような分からないような顔つきで頷きました。 しばらくすると、小鬼の目撃現場に到着しました。手入れの行き届いた山のようで、歩く道もきれいに整理されてます。 「戦闘の跡が……。おばあさんもがんばったのですね」 木についた刃の跡を美織は見つけました。さっそく逃げた先がどこか、美織は足跡を探そうとします。 焔翔はバダドサイトで周囲を見ます。辺り一面山の景色。どこもおかしなところはありません。 シマエサは耳をすませました。遠くの音まで拾えるよう、超越聴覚も使って集中します。 見ていたもふらたちも真似して、辺りをきょろきょろしたり耳を動かしたりしていました。が……。 「見つけたもふ!」 一体のもふらが突然走り出しました。その後を、他のもふらたちも追いかけます。 「ええ!?」 シマエサは驚きました。彼女の耳には何の音も聞こえません。 では、と、焔翔を見ますが、彼も首を傾げています。鬼らしき姿は見えませんでした。 慌てて開拓者たちはもふらたちの後を追います。どの道、彼らを放ってはおけません。 とある木の前でもふらたちは止まりました。誰の目にも小鬼の姿は確認できません。 代わりにそこにあったのは、たわわに実った野生の桃でした。見つけた物が違います。 「美味しそうもふー。食べたいもふ!」 まだ少し硬そうでしたが、もふらたちは気にせず、よだれを垂らしています。 「もふが見つけたからもふが一番もふ!」 「もふの方が早かったもふ!」 挙句に喧嘩を始めました。 どのもふらも人の背丈ほどある大きさです。どっすんばったん、大騒ぎです。 「にゃー! うるさいにゃん! うるさいと小鬼が逃げちゃうにゃ! きびだんごも逃げちゃうにゃよー!!」 だから、静かにするにゃん、と、と耳を抑えてシマエサが叫びます。 途端にもふらたちは黙りました。やはり素直です。 「だが、これだけいればもふらがいれば非戦闘員だと判断されないだろうか」 焔の言う通り。大きな色とりどりのもふらが七体に、開拓者四名。芝刈り道具。 鬼退治に行く面子ではなさそうです。普通の人が見ても、芝刈りの手伝いです。 そういう判断をアヤカシもしてくれるかは分かりません。念には念をいれてもいいでしょう。 ● 「近くにはいると思いますにゃん。ほら、鳥や獣の声が聞こえないですにゃん……」 シマエサが静かにするよう諭して、その耳を立てます。 際立った音は聞こえません。静かでした。静かすぎました。 それは、何かを恐れて鳥や獣が姿を隠したという事です。 その何かは、この場合は一つしか考えられません。 「ほらほら、お前たちも。なるべく静かに探してくれよな。おやつがたくさん欲しいなら、小鬼をやっつけねぇとな。あと、迷子にはなるなよ」 用意していたお菓子で釣りながら、焔翔はもふらたちを誘導します。 口をもぐもぐ動かしながら、もふらたちも開拓者たちを手伝い、周囲を探り出しました。 最初に気付いたのはシマエサでした。 見つからないよう近付いてきたようですが、山の中は木がいっぱい。音を立てずに進むのは、難しいでしょう。 即座に駆けだすと同時に、棒手裏剣「蝶翅蜉蝣」を投げつけました。手裏剣は近くの木に刺さりましたが、その陰から大きな物が飛び出てきました。 子供のようで、角をはやした修羅の悪ガキにも似ていました。が、にじみ出る醜悪さは、修羅ではありえません。 美織が、特徴を素早く確認します。 「衣服……武器……。聞いていた特徴と同じ……。あいつがうろついていた小鬼です!」 見つかった小鬼はすぐに逃げ出しました。開拓者たちはすぐに追いかけます。 「もふらさまも追いかけて!」 焔が持っていたおむすびを小鬼に投げました。小鬼は攻撃されたと一瞬びくつき、それがおむすびと分かってさらにうろたえました。意味が分からなかったようです。 もちろんおむすびにやられる小鬼ではありませんが、何かの危険は感じたのでしょう。飛んできたおむすびを回避しようとしました。 そこに、もふらたちが突っ込んできました。 「危ないもふ!!」 普段のゆったりした動きはどこへやら。七体のもふらがおむすびまっしぐら。小鬼を撥ね飛ばすと、もももふらが一歩抜きんでて土にまみれる前のおむすびをぱくりと救出しました。 ゆっくり咀嚼して呑み込んだ後、 「もふ! 食べ物を投げちゃダメもふ! 落としたら大変だったもふ」 「申し訳ない」 きりっ、と焔を睨みつけます。正直に焔は謝りました。 「じゃなくて! 小鬼が逃げちゃいますよ」 美織が声を上げます。小鬼はかなり飛ばされましたが、その割にたいした怪我も無いようです。起き上がると、そのまますたこらまた逃げ出しています。 開拓者たちももちろん追いかけますが、日頃うろついてるだけあってか、小鬼もうまく地形を利用してなかなか差を縮められません。 「このままではらちが明かない。確か近くに崖があるので、そこに追いつめよう」 おばあさんから聞いた地形を思い出して、焔は素早く場所を指示します。 「でも、この人数では……。もふらさまも包囲してくれたら、楽でしょうけど」 美織がもふらを見ますと、心配無用と焔翔が菓子を取り出します。 「もふらさまだって、やる気があれば何でもできる! さあ、残りの菓子を全部やるから言う事聞いてくれ!」 持っていた菓子を全部見せて頼み込むと、もふらたちの目の色が変わりました。 「きびだんごまであと少し! いくぜっ!!! 魚鱗の陣形で突撃だー!」 「もぉっ、ふぅうううううううう!!!」 ここまでやる気になったもふらがいたでしょうか。焔翔の指示の下、△の並びになると、先を上回る勢いで走り出しました。 猛然と駆けるもふらさま。鬼気迫る七色の巨体に、小鬼が涙目になって奇声をあげました。 「ぴぃぎゃあああ!!」 先ほどは無事でしたが、かといってそうぽんぽん撥ね飛ばされるのも嫌です。全力で走り出すと、地形を利用しようという考えすらもう思い浮かばないようです。速度はあがりましたが、移動は読みやすくなりました。 「では、こちらも」 辺りは太い木がたくさん。美織は三角跳を使って、巧みに小鬼の行く手に回り込みます。焔が天狗駆で足元気にせず駆け回れば、シマエサも手裏剣を投げて小鬼を牽制します。 焔翔に従うもふらに追い回され、小鬼はフラフラ。それでもに必死に逃げていましたが、やがてその目の前に崖が立ちはだかりました。 慌てて迂回路を探そうとしましたが、そこには美織がすでに回り込み、手裏剣「鶴」を構えていました。別の場所でも、シマエサが忍刀「鴉丸」に武器を持ち替えています。 引き返そうにももうもふらさまが取り囲み、後方から焔翔が魔槍砲「瞬輝」で狙いをつけていました。 追いつめられたことを小鬼はようやく悟りました。 やけくそになって暴れ出そうとします。その前に、焔が太刀「天輪」に精霊力纏わせ、一撃入れました。 「ギヤアアア!」 それだけで、アヤカシが大きく裂けます。 「突撃―!!」 もふらたちが高くジャンプ。空中でくるりと回転すると小鬼へと体当たりを繰り出します。見事な動きは、食べ物目当て、なだけでしょうか。 ぼろぼろになった小鬼に、焔翔がストライクスピアでとどめを刺しました。威力を高めた魔槍砲に貫かれ、小鬼は二度と立ち上がりませんでした。 ● 小鬼が動かず、瘴気が上がるのを確認してから、開拓者たちはおばあさんの所へと戻りました。 失敗するなど思ってもおらず、おばあさんたちはきびだんごを用意して待っていました。成果を報告すると、満足そうに頷いています。 「ご苦労様。さぁ、残ったおむすびや菓子も食べてくれ」 きびだんごをほおばるもふらたちに、焔は手持ちの食べ物を差し出します。 さらに喜ぶもふらたちを見て、焔の頬も緩んでいます。 「美味しいきびだんごですね。よろしければ、作り方を教えていただけませんか?」 愛する夫に食べさせたい、と美織が申し出ると、快くおばあさんは台所へと案内していきます。おかげできびだんごがさらに増えました。 そんなもふらたちを笑いつつ、焔翔も負けじときびだんごに食いつきます。 「にしても、いろいろ疲れたぜ」 「本当ですにゃあ。でも疲れた後の団子は美味しいですにゃ。お腹もいっぱいで……眠くなってきた……にゃ……」 きびだんごを御馳走になっていたシマエサですが。 その内、手が止まり目が閉じ、気付けばおじいさん宅の縁側で眠り込んでいました。 そろそろ帰ろうと起こしますが。起きる気配がありません。 「もふもふ。仕方ないもふねー」 口ではそう言いながらも、もふらたちはシマエサをひょいと背中に乗せます。その際、シマエサがご主人へのお土産として包んでいたきびだんごにすごく興味を示していましたが、それは周囲が止めました。 ……やはり下心があったのでしょうか。 良いことをして、お腹もいっぱい。 「御恩返しできたもふー」 満足そうにしているもももふらと仲間たちに、開拓者たちも軽い足取りで都へと帰っていきましたとさ。 |