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■オープニング本文 理穴に現れた大アヤカシ・炎羅。これの撃破に成功して以来、人間側は少しずつ――けれど確実に領土を取り戻してきた。 同じ理穴内でも、近年、氷羅・砂羅の討伐に成功。理穴東部を浸食していた魔の森は主を失い、焼き払われつつある。 さらには冥越の奪還も始まり、これが終われば世はかなり平穏になるとは期待されている。 とはいえ、大物が消えても小物はまだまだ残っている。 魔の森もそう簡単には燃えないし、一気に燃やせばそれはそれで範囲が広い分、火災の心配をしなくてはならなくなる。 小さくなる魔の森内部では、一発逆転を狙う――あるいは逃げそびれたアヤカシたちが、まだまだ息を潜めていて、時折戦闘にもなる。 「冥越での戦闘に国軍も動いている。自国を守る兵力が少なくなっている。気を付けて事にあたらねば」 「とはいえ、もうめぼしい相手はそういないだろうがな」 今回、焼き払いを決めた区画。理穴の兵たちはもはや慣れた段取りで瘴気の樹木を斬り倒し、油を撒いて火を起こす。 作業中、アヤカシの襲来が無いか常に気を配っている。けれど、魔の森の近くとあって、やはり注意はどうしても魔の森の奥、そしてその近辺に向けられる。 見張りが気付いた時には、それらはかなり現場に接近してきていた。 「あれは、何だ!?」 ふと顔を見上げた兵の一人が彼方を指す。そちらは冥越方面。白い波を跳ねるように、海を渡る影がある。 「あれは……奏蟲か!」 飛行は短距離しかできないが、それでも必死で羽を動かし飛んでくる。数はざっと五十以上。 「巣を攻められて逃げてきたのかよ」 「面倒な。内地に飛ばれる前に叩くぞ!」 人の気配に惹かれたか。単にそこが上陸しやすいからか。わずかに残る魔の森に逃げ込みたいのか。 奏蟲たちは一直線に兵士たちに向かってくる。 武器を構え、術を仕掛ける準備を行い、奏蟲たちが射程内に入るのを待ち構えていたが。 「待って! 森の奥からアヤカシの反応が!」 声を上げると同時、森の中から矢が飛んできた。 「くそ!」 居掛けられた方角に矢を放ち返す。木の陰から飛び出し動いたのは草小鬼。下級の下っ端だが隠密に優れ、今もすぐに別の木の影へと身を隠してしまう。 「数は三十……四十!? まさか奏蟲と示し合わせて?」 鏡弦で位置を探った兵が唇を噛む。 「いやそんな面倒はしないだろう。奏蟲が来てるのに気付いて、調子に乗って出向いてきたんだろ」 「というか、まずいぞ。火が!」 森の陰から矢が飛んでくる。そちらに応戦している内に、いつのまにか油に火が移り勢いを増している。 魔の森が燃えるのは結構。だが、制御できない火は危険極まりない。 「消せ! 一旦消火しろ!」 「やってます! けど、ああもう邪魔しないでよ、馬鹿アヤカシ! あんたらの住処が燃えてるんでしょうが!!」 「奏蟲、来ます! 留められません!!」 上陸した奏蟲はさっそく目の前の獲物――兵たちに手を出す。 奏蟲自身はさほど強くない。が、味方――つまりは草小鬼たちの身体能力を引き上げる音色を奏でる。 援護を受けて、さらに草小鬼たちは矢を射かけてくる。能力が上がった所で知れているが、うまく森の陰に隠れて姿を見せない。 火の勢いも止まらず。充満する煙で視界も悪くなり、しかも油が流れたか奏蟲の羽で煽られたか。予定外の方向へと広がり始めている。 さらに奏蟲が混乱を引き起こす音色を奏でる。 草小鬼と奏蟲に対処し、さらに広がる火を消す。 「手が足りん! 誰かギルドに応援を!」 指示を受けて、兵たちがギルドに走った。 そして、開拓者ギルドにいた開拓者たちに至急の連絡が入る。 「理穴東部の魔の森を焼き払っている現場が混乱している。草小鬼も奏蟲も強くはないが、数は多い。さらに現場の消火作業も必要でとごたついてしまっている」 アヤカシを調子付かせるのもまずいし、火が予定以上に燃え広がるのも良くない。 現場に赴き、兵と協力して騒動を納めてほしい。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
桂樹 理桜(ib9708)
10歳・女・魔
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
シマエサ(ic1616)
11歳・女・シ |
■リプレイ本文 理穴のギルドに飛び込んできた依頼。 魔の森の傍でアヤカシと交戦ぐらいは想像に難くないが、今回はさらに状況が悪い。 救援に向かった開拓者たちは、空に広がる煙の量に目を見張る。 現場に近付くにつれ、勢いを増す炎、木々を埋めるように広がる黒煙、熱を帯びた風が景色を支配していく。 ● 「にゃにゃ、火事ですにゃ! 初めての依頼なのに、ハードですにゃ!」 「猫さん、落ち着いて。――まずは火事に対処しないと」 猫の耳と尻尾の毛も逆立てて驚くシマエサ(ic1616)を、桂樹 理桜(ib9708)は現場を見渡す。 魔の森焼却の最中に現れた奏蟲たち。 煙が蔓延する空を我が物顔で飛び回るそれらの合間を縫って降り注いでいる矢は森の奥から。 山火事ももちろん対処が必要。 そして、それらを本来抑えるはずの理穴の兵士たちは右往左往し、あるいはぼけっと突っ立っている。このままではアヤカシの餌食になるか、山火事に飲まれるか。こちらも放ってはおけない。 「もう大丈夫だ。アヤカシはこちらで引き受ける。落ち着いて、まずは消火に当たってほしい」 現場に飛び込むと、羅喉丸(ia0347)が声を張り上げる。 援軍の到着に、兵士たちははっとしてほっとした表情を作った。 「よし、分かった。皆、水を運べ!」 「待て、それ油だ――!」 「えっと、これを……何するんだっけ??」 とはいえ、混乱状態は簡単には収まらない。 奏蟲が景気良く高らかに音楽を奏でている。近付けば逃げる癖に、隙あればその音色で混乱を引き起こしてくる。面倒な相手だ。 矢も次々と降り注ぐ。草小鬼自身は森の奥で姿を見せず、うまく立ち回っている。 「大丈夫だよっ……理桜がついてるから……」 混乱した兵士を理桜は抱きしめ宥める。が、音色の誘惑も厳しく不意に暴れる兵士もいる。その味方に対してどう扱うべきか。判断着きかね、混乱してない兵士はうろたえている。開拓者の指示には従おうとするのも、信頼というより何をすべきか分からないから、といった風だ。 「混乱もだが、経験の少ない兵士が多重攻撃で浮足立っているな。専念できる状況にしなければな」 たなびく煙が目や鼻を襲う。 ごほん、と咳払いをすると、草薙 早矢(ic0072)は、強弓「十人張」の弦を鳴らす。 奏蟲とはまた違う音が広がり、アヤカシの居場所を暴き出す。大まかな居場所を突き止めると、今度は矢を番えて放つ。 「ギャ、ギャ、ギャ!」 目の前に飛んできた矢に、草小鬼が驚き騒ぐ。隠れて囲み、混乱している相手を一方的に追い詰めるだけと油断していたようだが、動揺して動けば位置も知れる。 一撃目を外しても、二撃目は確実に狙いを定めて早矢はアヤカシを仕留める。 「きっしょー、火災とかアヤカシとかどっちかだけでも大変だってのによぉ」 炎や煙に軽く悪態つくと、やや離れた位置でルオウ(ia2445)は棍棒「石の王」を大きく振り回す。 身の丈を越える巨大な棍棒は野太いうなりをあげながら、周囲にあるすべてを力任せに粉砕する。 危険を察知した奏蟲は一足先に空へと跳ねる。逃げ遅れた奏蟲は容赦なくまとめて砕くが、逃げた奏蟲に固執して追う真似もしない。 今は火災を止めるのが最優先だ。類焼を防ぐ為、周辺の木々を次々と倒していく。 「森に沿って伸びているけど、火勢は強くない。このぐらいなら!」 理桜は炎に向けてブリザーストームを放つ。強烈な吹雪が炎の熱を和らげ、煙に白い煌めきが混じる。全部をいきなり消し去るにはいかなかったが、火の勢いは格段に弱まる。 「混乱は厄介ですけど、すぐに何とかいたします。皆さんは冷静に鎮火に行ってください。意図しない方に流れた火を抑えれば、あとは当初の計画通りで行動の余裕もできるでしょう。絶対に対処できますっ!」 フェルル=グライフ(ia4572)が、混乱覚めぬ兵士に激を飛ばす。 戸惑いながらも、兵士はやるべき事を思い出し、慌てて消火に動く。そんな兵士たちを、フェルルは氷咲契で支援する。 ● 消火活動であっても人が動くのは気に入らないのか。アヤカシたちの動きは止むどころか、一層激しさを増す。 気を引くために、フェルルやルオウが咆哮を上げる。 注意を惹かれて飛び出たアヤカシを、すかさず早矢が射、シマエサが天狗礫を投げつける。 「隠れてないで、堂々と勝負してもらおうか」 羅喉丸が一瞬にして間を詰めると、大きく足を踏み出す。 その一歩を中心に、衝撃波が大地に広がる。音を上げて木々が倒れ、視界が開ける。わずか射程を逃れ得たのか、目を丸くして立ち尽くす草小鬼が露わになった。 さすがに無傷でもない。負傷しながらも、慌てて歪な矢を番える草小鬼。だが、放たれる前にフェルルが真空刃を振るった。見えない刃は的確に草小鬼を捕えて切り刻む。 その手からはあらぬ方向へと矢はすっ飛んで行き、音を立てて草小鬼が倒れる。 「敵はこっちの動きにまで対処しきれてないですにゃ。所詮、蟲と猿。落ち着けば大丈夫ですにゃ。――落ち着けば!」 シマエサは早駆で駆け回ると、情報を逐一報告。超越聴覚で隠れている相手も把握し、必要とあれば駆り立てる。 開拓者たちの加勢を受けて、ようやく兵士たちは落ち着きを取り戻していく。 「近くに川とか滝とか無いのかよ」 「あいにく。向こうに海が見えるぐらい」 「さすがにそれは塞き止められないからなぁ。――まぁいいさ。こっちに出てきやがれ!」 ルオウが尋ねるが、兵士たちは首を振る。確かに水源は特になく、用意した桶や掘り起こした土砂を撒くのが手っ取り早そうだ。 火の勢いは、さらに理桜がブリザーストームを続けて撃ち続け、収まりつつある。再燃する可能性はあるが、落ち着きを取り戻した兵士たちは、さすがに機敏に動く。手慣れた消火に、少なくともすぐにどこかに飛び火する心配はないと判断する。 「とすると、後は邪魔ものを消すのみだね!」 練力は残してある。理桜が放つのは変わらずブリザーストームだが、その対象は炎ではなくはっきりとアヤカシたち中心に。 隠れようが関係なく、障害物ごといると思しき範囲に向けて吹雪をまき散らしていく。 消火活動が進む一方で、アヤカシたちの動きはますます際立っていく。 ルオウは咆哮でアヤカシを呼び寄せると回転切り。羅喉丸は崩震脚も敵も障害物もまとめて吹き飛ばす。倒れた樹木も燃え移る前になるべく撤去。 「手隙になった兵士はこちらの援護を。無理はせず、距離はとってください」 「フェルルさん、上ですにゃ!」 指示するフェルルに、シマエサからの警告が響く。顔を上げれば、奏蟲が落下してくる。攻撃してきたのか、目測を誤っただけか。どちらにせよ、このままでは潰される。 とっさにフェルルが飛び退いた。その場所に、羽を震わせ奏蟲が降り立つ。目の前のフェルルを見つけると羽を動かそうとしたが、それより早く理穴兵から矢が届いた。 「やはり冷静になれば、正規兵は力を発揮してくれますね」 「だが、雑魚と侮れば思わぬ不覚を取る。油断は禁物か」 ほっとするフェルルに羅喉丸は重々しく告げると、崩震脚で周囲を蹴散らす。 遮蔽物が消え、視界が開ける。動きやすくなったが、身を隠すために草小鬼が後退している気配もある。 奏蟲たちは距離は取るが、隠れようとまではしない。飛び立つ奏蟲を目視で狙い、シマエサは次々天狗礫を浴びせる。 粗方の場所は範囲攻撃で粉砕。多くのアヤカシも巻き込まれて散り逝く中、残ったアヤカシ――特に草小鬼たちは、次の手を考える。逃げるか打つか。どちらにせよ、見つかってはならないと息すら潜めていく。 「草小鬼の位置、分かる人は教えてほしいですにゃ」 完全に物音立てずに潜むのも困難。少しでも音を立てようならシマエサが即座に走り、忍刀「鴉丸」で切り付ける。 けれど、すべてに対応するのもまた難しい。 要請を受けて、理穴の兵や弦を鳴らす。範囲が重ならないよう、互いに距離を取る。 「あちらと、あちらの陰に」 「分かった」 示された方角に、ルオウは飛び出す。振り回される棍棒は、確実にアヤカシたちを仕留めている。 早矢もまた鏡弦を掻き鳴らす。隠れているアヤカシを見つけては、逃すことなく仕留めていく……。 ● たくさんいたアヤカシはみるみるとその数を減らしていく。 形勢は逆転し、今や開拓者と理穴兵たちがアヤカシを囲み、追いつめ。統制のとれないアヤカシたちはうろたえ、ろくな反撃も出来ない。 「これで、最後……ね!?」 森の奥へと逃げようとした草小鬼を見つけて、理桜はホーリーアローを放つ。 草小鬼が倒れた所で、さらに兵たちからの矢が次々と刺さり、矢襖のまま動かなくなる。 早矢が弓を鳴らし、シマエサも耳を澄ますが、異変は無い。 「となると、後は消火だ。どうなった」 「無事に消し止められました。倒木がいくつか残りましたが、これはまた改めて」 「ついでだ、それもどけちまおう」 羅喉丸が尋ねると、明るい声で理穴兵が答える。 ルオウは強力を使うと、叩き倒した木々を一つにまとめる。 残して何かに利用されてもつまらない。それらには残った油を撒いて火をつけ、消滅を図る。 敵襲に気を付ける中、炎はゆっくりと大きくなり、煙を上げる。狼煙のように。 「……。平和を取り戻すまで、後もうひと踏ん張りですね」 粉砕されて拓けた魔の森をフェルルは見渡す。大アヤカシを失った以上、ここにはもう瘴気の木々は生えず、数年後には元の森の姿を取り返すだろう。 対岸の冥越は、ここからでは異様な姿が見えるばかり。さらに向こうの様子はうかがいしれない。 だが、いずれはここのように大アヤカシを倒し、土地を取り返し清められ、昔の姿を取り戻すに違いない。 きっと――。 |