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■オープニング本文 陽気訪れる天儀。 二人の乙女がもふらを襲う。 ● とある天儀のもふら牧場。ミツコもハツコもその他大勢引き連れて、もふらたちを押さえ込む。 「ミツコ! しっかり押さえて」 「うえええ、もふらさま暴れないでよぉ。暴れた方が痛いよぉぉお」 刃を手にしてハツコがもふらに迫る。暴れるもふらを、ミツコが宥め、その他大勢必死で押さえつける。 「いーやーもーふー。殺されるもふ〜!!」 が、そこは必死のもふらさま。そして、ここのもふらさまは人ほど大きい。 強引に振り払うと、仲間のもふらともども走り出す。 「逃げるもふ!」 「新天地求めて走るもふー」 「ここは鬼しかいないもふー!」 涙こぼして全力疾走。牧場の柵も破壊すると外に向かって大脱走。 「あー、こらー!! 戻ってきなさーい」 「もふらさまー。行かないでぇええええ!!」 人間たちが止めるのも聞かず。もふらは外へと駆け出していた。 ● 「という訳で、うちのもふら早いところ見つけてちょうだい」 今日も賑わう開拓者ギルド。疲れた様子でミツコとハツコが入ってきた。 「そんな殺気立たなくても、腹が減れば勝手に帰って来るだろ。……おまえさんらがいぢめたりしないなら」 「いじめじゃなくて、お仕事なの!」 意地の悪い言い方をする係員に、ミツコが頬を膨らませた。 「至急にうちの子たちの毛が欲しいっていうお客さんがいるの〜。で、毛を刈ろうとしたら暴れて逃げちゃったんだよぉ〜」 「どんだけひどい腕前なんだ」 「まさか。毛狩りして寒くなるのが嫌なのよ」 ハツコが鼻で笑う。 季節は春……とはいえ、まだまだ気温は寒くなったり、風は冷たかったり。 毛を刈っても一日もすれば戻る。室内にいれば気温も気にはならない。毛布もある。――が、それでも寒いというのは嫌だったらしい。 「お腹がすけば戻ってくると思ったけど、一日たっても戻ってこないし。どうやら、都郊外のなじみの場所に逃げ込んだらしいのよ。ほとぼり冷めるまで逃げるつもりね」 至急という以上、日が経てば用無し。そうすれば毛狩りも当分無いと踏んでだろう。 「もふらさまのことだから、逃げるのに夢中で毛狩り忘れて鬼ごっこかかくれんぼしてる気分かもね」 さもありなん。 とにかく、捕まえなければ話にならない。お客さんだって待っている。 「あたしらが行くと逃げちゃいそうだし。全力出されると、さすがに手に負えないわ。毛狩りの時におやつで釣ろうと罠作って失敗してるから、当分警戒して同じ手は使えないでしょうしね」 「どれだけ疑心暗鬼にさせてるんだよ」 「だから、代わりに捕まえて毛の回収してくれない? 容赦なく丸刈りで、根元から綺麗に長めに切ってね。時間も無いから手早くお願い」 「でも、もふらさまには怪我無くね。――シャレじゃなく」 毛を刈るもふらは赤青黄緑桃黒の六体。大きさはいずれも2m級。 世には野良もふらなどもごろんごろんしているが、毛並みが違うので見分けはつくだろうとのこと。よそさまのもふらは怪我は勿論毛を刈るのも駄目。 「とりあえず逃げた場所は東西南北分かれてる。目撃証言によると、緑もふらは東にある森の中に入ったみたい。赤もふらと黄もふらは南にある富豪宅でこっそりかくまわれてるらしいのよね。青もふらと桃もふらは西の温泉街でくつろいでいるだとか。で、黒もふらは北にあるもふら牧場に紛れ込んでるって話。 でもって丁稚に見張ってもらってた所、その後、青もふらは桃もふらと喧嘩してどこかに移動。当分顔は見たくないってな具合までいったみたい。こないだ、赤もふらとも喧嘩して困ったものだわ。こっちも今は顔を合わさないでしょうね。でも絶対他の誰かとは一緒のはずよ。そういう子」 「赤もふらもね。この所他の子とは距離をおきたい気分らしいのー。ってことでー、『ここには戻らない』とか言っちゃって黄もふらとはすぐに分かれて出てったってさー。あ、うちの子以外とは仲良くやる子だよー」 「そして、黄もふらは丁稚の監視に気付いて蹴倒して逃走。最近過激に元気なんだよねー。このところ、硫黄の匂いが嫌とか言い出したから温泉街には近付かないだろうけど……」 「黒もふらは、疲れたから温泉街に行くとか言ってたらしいけどねー。分かりやすい子」 「丁稚らに気付いたらしく、今はそれぞれなりを潜めちゃったけど。でも東の森では、『もふたちも合体すると緑になるもふー』なんぞという暢気な声を聞いたから、どこまで真剣なんだか」 「以上の情報を元に、うちのもふら刈ってくださいな♪」 「面倒くさい。というより、四箇所のどこかにいるなら押し込んで捕まえればいいだけだろ」 うんざりとする係員に、ハツコも苦笑い。 「まぁね♪ もっとももふらさまたち、今は人見りゃ逃げるし。牧場主さんと富豪さんには何をどう言ったのか、あの人たち知らぬ存ぜぬでかくまう気満々なのよ。聞く耳もたないし」 もふらの誘拐として届け出る手もあるが、それは今後の付き合いにも響く。出来れば穏便に済ませたい。 「温泉街は観光客も多いし、あそこ湯気が霧みたいになってて視界が悪いのよ。それもウリなんだけどね。森も視界が悪いって事で、こっそり静かに逃げるぐらいはするでしょうね」 遊んでるようで考えてもいる。捕まえるのは少々面倒かもしれない。 「時間的に東西南北どれかに行ったら、捕まえて毛狩りして戻ってきてで手一杯かしら。とにかく手に入れてね」 「そういや、お前のところには他に白いもふらもいたよな? そいつはいいのか?」 「白い毛は余ってるから別にいらないと言われて、家でいじけてる」 それもそれで可哀想だ。 |
■参加者一覧 / エルディン・バウアー(ib0066) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 黒曜 焔(ib9754) |
■リプレイ本文 ●北の幸せ牧場 右を向いてももっふもふ。 左を向いてももっふもふ。 もちろん前を向いてももっふもふで、後ろももっふもふもふ。 「ふあああああ。もふらさま、かぁあぁいぃいいいいい!」 締まりのない口元に、伸び切った鼻の下。 実に人様には見せられない表情で、ラグナ・グラウシード(ib8459)は恍惚と悶えていた。 背中のうさぎのぬいぐるみと相まって、まさに不審者同然。 牧場所属の小型中型のもふらたちが警戒心露わに先ほどからラグナを見ている。もっとも、彼らはラグナが不審者でなくても、見つめるらしい。 ここの所、誰に対してもずっとそうで、牧場主も首を傾げていた。 「はわわわ。もふもふだあぁ」 けれど、当のラグナはそんなこと気にせず、己が欲望に従い、小型のもふらを抱き上げると、思う存分顔を埋めてもふもふと堪能している。さすがに迷惑そうに小もふらは暴れるが、手放しても逃げるでもなく、襲うでもなく。 もふもふし放題で、ラグナは笑いが止まらない。 「そうだ! もふらさまにおやつあげるお! とびきり美味しいの持って来たお!」 いそいそと、荷物からクッキーを取り出すと、もふらたちが目を輝かせた。 「もふもふ。意外にいい人もふか?」 「大丈夫そうもふ? 無害もふ? 追手じゃないもふ?」 当事者たちはひそひそと――、その実傍から丸聞こえでもふらたちは、クッキーもぐもぐ頬張りながら話し合いだす。 その様を幸せそうに眺めるラグナだが、肝心の探しているもふらは見当たらない。どこに隠れているのか。 このままではクッキーがすべてなくなってしまう。そうすると次の菓子を用意するべきか。同じクッキーにするか、もしくは違う菓子にしてみるか。春らしく桜餅とかいいかもしれない。とすると、それに合うお茶は緑茶か紅茶か。桜の下でもふら一同でたっぷりもふもふしてもらいながら、みんなでお茶会とか……。 と、あらぬ方向に行った思考のままもふらたちをぐるっと眺め。 (おやおや?) 少し数が足りないと気付いた。 慌てて行方を捜すと、牧場隅にある物置のような場所に向かっている。 「あそこの物置には誰かいるのかい?」 「もふもふ。誰もいないもふ」 「そうもふ! よその牧場の赤もふらが逃げてきてるなんて全然無いもふ!」 クッキー効果で仲良くなったが、それでも仲間を守ろうとするもふらさまたち。 バレバレな態度に心ときめかせつつも、残っているもふらたちにクッキーを渡して気をそらせ、ラグナはその後を追いかけた。 近くで見ても物置だ。牧場の手入れや掃除をする為、それなりの大きさはあるが、つくりとしては粗末な物。 「もふもふ。苦労かけるもふー」 「心配御無用でもふ。うちのご主人もゆっくりしていいって言ってたじゃないかでもふ」 「じっくり考え事したい時だってあるもふ」 中から声が聞こえる。うち一匹は先ほど聞いたもふらたちの誰とも当てはまらない。 中を覗けば、やはり、牧場のもふらとは違う大きさの赤いもふらがいた。 牧場のもふらたちが戻っていくのを見届けた後、入口に回って、そっとクッキーだけを差し出す。 「もふもふ? 牧場主さん、差し入れもふか?」 のこのこと出てくる赤もふら。 「えいっ、ごめんお!」 涙を飲んで、用意していた網をかける。 「もふー! 誰もふかー!」 「ごめんおっ! 許してほしい、もふらさま……。それもこれも、君たちがそんなに魅力的にもふもふしているからいけないのだよ!」 「あーれー、ご無体なーもふー」 網でもごもご悶えるも、絡まって動けない赤もふら。 ラグナは何気にもふもふを楽しみつつ、赤い毛に鋏を入れていった。 ●東の森で 春の芽吹き。野生の桜が色つく他、落葉樹も緑を付け始め、目を和ませる。 地面からもこれからの季節を楽しむように、さまざまな植物が顔を出してきている。 もふらたちならご飯には事欠かないだろう。耳を澄ませば川のせせらぎも聞こえる。 そんな中、エルディン・バウアー(ib0066)は森の中を進む。 「さて、ここら辺りでいいかな」 人よりも大きなもふらなのだ。よほど隠れるのがうまくなければ、どうしたって移動の痕跡は残る。しかも複数いるようで、じゃれあったような痕跡も見つかった。 ……隠れる意思があるのかも何だかわからなくなってきた。 視界に見える範囲にもふらたちの姿はない。 今の内にと、エルディンは用意していたもふら人形を設置する。 もふらそっくり。だが、張りぼて。くっついてるもふ毛は、相棒の毛を使用している。手触り抜群。ちょっと見では張りぼてとは分からない。 毛を刈り取った相棒もふらも、翌日には大体生え揃い、元気にしている。 (確かにまだ寒くなる日もあるので、油断はできませんけどね) 春の陽気はずいぶん気まぐれ。人間でさえ、衣替えはとっくに済んでいるが、日によっては冬服を引っ張り出す時もある。 それを思えばやっぱりかわいそうな気はする。が、これも仕事。 適当な場所に身を隠すと、エルディンはもふらたちに聞こえるよう、声を上げた。 「もふ〜。一人じゃつまらないもふ〜、誰か一緒に遊んでもふ〜」 張りぼて中心にムスタシュィルを設置。どこから近付かれても分かるようにしている。 もっとも、必要無かったかもしれない。 がさごそ、と枝葉が鳴る。目を向けると、隠れているつもりらしいもふらたちの姿を見つけてしまった。 緑黄青の三体。なんとなく森の色に溶け込んでいるのは偶然か。 隠れるのは下手だが、警戒心は忘れてないらしい。 「もふ! 誰もふか! そこにもふたちを刈り取ろうとする人がいるもふか?」 なるべく距離を置いて、問いかけてくる。 「そんな人はいないもふー! 迷子になってて困ってたもふ。顔を見せてほしいもふ」 白々しい演技だが、もふらたちには十分。 顔を見合わせたもふらたちは、のこのこと張りぼてに近づいてくる。あまり近付きすぎ、気付かれても面倒。 射程に入ったところでアムルリープをかける。 「もふ? みんなどうしたもふか? 春は眠いもふか? ぐー」 突然眠りだした仲間を不審がるも、最後のもふらもそこで寝入ってしまう。 「それではさっそく」 鋏を手にして、もふら毛を刈り込んでいく。さすがはもふらさま。一度寝入ると、なかなか起きない。 ……と思ったら。 「くっしゅん。寒いもふ……って、ひどいことになってるもふーっ!」 二匹目に取り掛かっていた時に、最初のもふらが盛大なくしゃみの後、状況を察して叫びをあげた。 「起きるもふ! 起きるもふ! ひどいことになって……すぴー」 急いで騒ぐもふらをアムルリープで眠らせるが、すでに遅し。 「もふ! 大変もふ! 逃げるも……くすぴー」 起きたもふらもやはり眠らせる。が、それとほぼ同時に刈り込んでいたもふらが走り出す。 急いでそちらもアムルリープをかけるが、興奮してるからか、なんと振り切った! 「もふー。みんなの犠牲は忘れないもふー!」 「逃がしませんよ」 すかさずアイヴィーバインドで捕獲する。伸びた蔓はあっさりともふらの手足に絡みつき、動きを鈍らせる。 「はい、捕まえました。駄目ですよ、仲間を見捨てて逃げては」 「それだけ嫌なことされてるもふ! 非常事態もふ! 助けて〜もふ〜」 なおも逃げようとするもふらを、エルディンはがっしり捕まえる。 「大丈夫。私はもふらを愛する神父。手荒なことはしません」 にっこりとほほ笑むとエルディンは、今度こそアムルリープを仕掛ける。 あとは起きたら眠らせるの繰り返し。すでに刈ったもふらはぐったりとおとなしくなるので楽な物だった。 「それで? 他に森に逃げ込んだもふらはいませんか?」 「いないもふー」 すっかり気落ちして疲れ切っているもふらたち。もふ毛を刈り取り、一回り小さくなったので余計に侘しく見える。 情報のお礼もかねて牧場に美味しいお土産を届けると約束すると、少し気を良くしたようで細くなった尻尾を振った。 毛を刈り取られたらもう逃げる必要もない。刈り取った毛と一緒におとなしくもふらも依頼人の牧場へと帰っていく。 ●西 温泉街 硫黄の独特の臭気に、熱を含んだ湿気が漂っている。 観光客らしき人影も見えるが、そこかしこから漂っている湯気のせいか、霧がかかったようになっている。 そこかしこで沸いている温泉のせいか、割合暖かい。もふ毛脱ぎ捨てても、ここなら平気だろう。 「見えにくいおかげで、道具を隠し持つのも楽だけどね」 黒曜 焔(ib9754)は手元の毛刈り道具を確認。もふらを発見次第、いつでも作業にかかれる態勢は整えておく。 「ここはどうやら二匹いそうだからねっ。楽しみだなぁ」 エルレーン(ib7455)も捕獲網を準備。 依頼人から聞いた話を整理してみると、ここには複数のもふらが逃げ込んでいる可能性が高い。 こちらも二人とは言え、観光客の目に止まる前に手早く済ませたい。下手に騒がれるとどんな誤解をもたらすやら。 さっそく観光客を中心に、聞き込みを開始。ほどなくして、いい情報が聞こえてくる。 「そのもふらなら町外れの源泉近くで見かけたよ。ただ、傍には来てくれないけどね。お菓子を上げようと思ったけど、近付いたら逃げちゃうし」 ひょいと肩を竦めた観光客に、二人はどちらともなく顔を見合わせる。 普段のもふらさまらしくもない。どうやら本気で期日まで距離を置く気のようだ。 「外湯も結構あるし。試食みたいなのも置いてるからねぇ。近寄らないまでも、食べ物を分けてくれる人もいて、のんびり湯治を決め込むつもりかな」 かくいう焔も、いつの間にやら冷やしたわらび餅を口にしている。 風呂上がりの温まった体に冷たい物を、という訳でか、あちこちで目にできた。もちろん普通の食事や土産の菓子もある。 宿泊設備にこだわらなければ、源泉からあふれる湯があちこちに流れている。遊ぶなら実にいい所だ。 「どーせ夏になったら暑いんだから、今の内にさっぱりしちゃえばいいのに」 手をうちわ代わりに仰ぎながら、エルレーンも呆れる。 どうやら人込みは避け、温泉街の中心からは外れた辺りをうろついているらしい。 さらに付近で聞き込みをした結果。ようやくもふらたちの居場所を探り当てる。 いたのは桃黒もふらさまたち。大きさからしても、依頼人たちのもふらに間違いない。 源泉から川に注ぎ込む湯にのんびり浸かって、気持ちよさそうにしていた。 「……本当になんで逃げてるのかしら」 「もふらさまにはもふらさまの都合があるのだろうね」 のんきさを見せるもふらたちに、エルレーンはますます呆れ、焔も苦笑いを漏らす。 けれども、観光客らしき人影が近づこうとすると、さっさと逃げてしまう。逃亡中というのは忘れてないようだ。 とりあえず観光客装い、そのまま靄に紛れて近付ける所まで近付く。 「わあ。かわいいもふらさま……って、声を上げると警戒はするのね」 はしゃいで近寄ろうとするエルレーンだが、接近に気付くともふらたちはやっぱり逃げる。温泉場が気に入ってるのか、靄に隠れてそう遠くまではいかないでいるが、無理をすればどこに行ってしまうか分からない。 「さて、どうしよ」 幸い、向こうもこちらが追手とまでは気付いてないようだ。視界の悪さもあって、二人すっかり観光客でしかない。 「それでもこれ以上は無理。……とすると、後は強行あるのみだねぇ」 焔は心覆も使って極力気配を消すと、エルレーンから離れ、もふらの向こう側へと回り込む。 のんきそうに風呂に浸かってるもふらさま二体。 流れる川は泳げそうだが、さすがにまだ水は冷たいだろう。温まった体で飛び込むとも思えない。飛び込んでももふらさまはどこまで流されるかわからない。とすれば、逃げ道は川沿い。ちょうど追い込みやすい。 「さあ、見つけた! もふらさま方、その毛いただくよ」 エルレーンの位置を確認すると、焔はわざと声を上げて姿を見せ、走り出す。 河原の悪路も何のその。天狗駆で全く間にもふらたちへの距離を詰めた。 「もふ! しまった、追手もふ!」 「逃げるもふ!」 当然気付いた二頭は慌てて逃げる。 焔から遠ざかろうと走り出すが、そちらはすなわちエルレーンがいる方向。 待ってました、とエルレーンが持っていた網を投げかける。狙い必中、見事にもふらたちを絡めとった。 「あ〜れ〜。誰か助けて欲しいもふ〜。もふら狩りもふーっ!」 「いやもふー。丸刈りはいやもふー」 暴れるせいで必要以上に網に絡まっている。無理矢理にでも網を破ろうとするもふらさまたちを、焔とエルレーンはそれぞれで押さえつける。 「人聞きの悪いこと言わないの。そんなこと言うもふらさまはどう刈り込んでやろうかな〜♪」 含み笑いを浮かべながら、エルレーンは鋏を手にする。 「いやぁ、楽しそうだねぇ。――あ、ご心配なく。単なる毛刈りの時期ですから」 網に絡まりながらも逃げ出そうとするもふらを、焔はのんびりと抑え込む。 声を聞きつけたか、通りすがりの観光客たちが集まってきたが、そちらへの説明も付け加える。 「違うもふ! まだ早いもふ。寒いもふ!」 「ほらほら、暴れちゃだめよ〜。動くといたいぞ〜」 実際、網に絡まってる上じっとしてくれないので、随分と危なかっしい。 手元が狂って肉まで切らないよう。あるいは網を切って逃げ出さないよう。 もふらが観念しておとなしくなるまで、エルレーンは四苦八苦しながら毛を刈り込んでいった。 ● 「ちゃんと刈り取ってくれたんだ。ありがとう♪」 「よし、急いでこれを整えるわよ。先方様をこれ以上待たせちゃ悪い」 もふら牧場に戻り。刈り取ったもふ毛を依頼人たちに渡す。 お礼そこそこ、忙しく動き出す依頼人たち。 「桃黒ちゃんは温泉の匂いもついてるから、落とすのも大変だろうねぇ」 あとはもうやることが無い。焔は同情しつつも、のんびりと告げるのみ。 「もふー。疲れたもふ」 そして当のもふらたちはと言えば、白もふらを除き、ぐったりとへたり込んでいた。 「もふもふは無くなったなぁ……。もちもちにはなっているけど」 刈り取られた姿を残念そうに、ラグナは見つめる。 きれいに刈られていたらまだよかったが、何せもふらさま、暴れる動く。寝てる隙をついた青黄緑は少しマシという程度。 「これに懲りたら、主人のいうことをちゃんと聞くことね」 「もふふふ」 エルレーンがたしなめると、がっくりと六体はうなだれる。 「ま、明日にはまた生えそろうはずです。今はこれで気を紛らわせてください」 ちょっと不恰好になったもふらたち。 慰めるように、エルディンが用意した土産菓子を渡す。 もふらたちは深く深くため息をつくと、ぶるりと大きく身震いをした。 |