【AP】天儀終焉モフラデス
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/17 23:08



■オープニング本文

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 桜舞い散るとある天儀っぽい世界。
 一人の修羅が高らかに笑う。

「をーほほほほ! 悠久の時を越え。ここに復活、酒天童子!! なお呼び名はサケゾラ ワラベコであり、どこぞの呑んだくれ修羅とは無関係ですから!!」
 都を見下ろす高い塔の上。距離にも風にも負けじと響く声に、道行く人の足を止めるには十分。
「封印された幾百年! 憎むべきは朝廷! 恨むべきは帝! 長々長々暗くて狭い所にきゅっと閉じ込められ続け! おかげで全然成長できずにこんなちっちゃいまま! 本当ならこの倍は身長伸びたはずなのにーっ!」
 悔しがる童子。
 そうだろうか? と首をかしげて、実際突っ込んだ通行人も幾人かいたが。塔の上まで声を届けるほどでもない。
「小さい恨みをビッグに返す! という訳で、ベコは見つけました! かつて天儀を壊滅寸前まで追い詰めた伝説の存在を! いでよ、最強もふら・モフラデス!!」
 童子が手を振り上げると、空が陰った。
 ――いや。
 まるで天に聳えるがごとき、巨大なもふらがのっそりと童子のそばに並び立つ。
 通常のもふらさまの何倍あるのか。二十倍――いや、三十倍か。
 その大きさに、通行人たちはただ呆然と見上げるしかない。
 ぽかんと口を開ける地上の人々を、童子は高みから満足そうに見下ろしている。
「さあ、モフラデス! 手始めにこの都を蹂躙しちゃいなさーい!」 
「えー。めんどくさいもふー。いやもふー」
 意気揚々と命令を下す童子。けれども、モフラデスは億劫そうに「へっ」と息を吐くだけ。
「何言ってんの! 封印を解いてフルーツ盛り合わせをたべさせた恩を忘れたってーの?」
「忘れてないもふ。でも、いやもふー。面倒くさいもふー」
 怒鳴りつける童子を、気にもとめず。
 モフラデスはその場でごろりと横になる。
「え、ちょっとおおおおお!」
 その衝撃で塔はあっさりと崩壊。童子の姿は瓦礫に埋もれ……消えた。

 その日、人類は悟った。
 大きくなってももふらはもふらなのだと。
 むしろ怠惰で自分本位で気まぐれだらだらな性格がパワーアップしてるのだと。


 以来、モフラデスはあまり動かない。そこでごろごろもふもふしている。たまに誰かが置いたお供えを食べている。
 無害と言えば無害。
 とはいえ。モフラデスを放っておく訳にはいかない。
「日当たりが悪くなって洗濯物が乾かない。ごろごろされる度に地響きがする。当たりが悪いと近隣建物が倒壊する。寝言がうるさい。いびきが響く……などなど、苦情がギルドや朝廷に数々寄せられていた。それが目に見えて減ってきている」
 苦情が減る。
 通常ならいいことだ。なにかモフラデスに改善が見られたか、それとも付近が折り合いをつけたか。
 だが、今回はそんなことではない。
「これこそがモフラデスの恐ろしさであり、封印された理由。だらだらもふもふしている姿を見ていると、なんかもうこっちもやる気なくして和んでどうでもよくなってしまってやがては怠けたくなってごろんごろんという……」
 巨大ゆえにどこにいても目に入ってしまう。さらにはモフラデスに倣ってごろごろしている人を見ていると、こちらもいろいろばかばかしくなってくるという悪循環。
 そして、その悪循環はやがて世界に広まり、みんながごろごろしだすかもしれない。
 それは争いの無いとても平和な世界……かもしれない…………が。
 それでは仕事にもならない。なので、時の帝が封じたのだという。
 かくて、天儀は忙しい世の中になった。
 だがその封印は解かれた。放っておけばまたごろごろもふもふの平和ボケした世界が訪れるかもしれない。
「それもいいかもしれないけれど。嫌だというなら……後はがんばれ」
 投げやりな言葉だけを残してギルド休業。
 都にあふれるだれた雰囲気、休み続ける人々。もふらはとっくに怠けている。
 このまま怠惰な生活を送るか、それともモフラデスをどうにかしてめまぐるしい生活を取り戻すか。
 
 ……なんか悩むのも面倒になってきた。


■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

 後はがんばれ。
 その言葉を最後にギルドの係員は崩れ落ちた。
 死んだ――訳では無い。
「これ、しっかりせんかっ!」
「うわー、だりー。ごろごろしてー」
 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が許すも、係員はだるだるな表情で転がるばかり。
 ふと気付けば。ギルド内では一般人は勿論、開拓者たちもやる気無く寝こけたり、もそもそと動くばかり。外に出ても人影乏しく、いてもギルド内と様子が変わらない。
「なんということじゃ。もしや妾以外……全滅……? いや!」
 リンスガルトはギルドに戻ると、風信機を探す。
「各国に通達! モフラデスが出現した! 至急対策の協力をお願いする。このままでは……全世界が滅びてしまう!」
 世界は広い。まだ出現場所から程遠い場所は、影響が出てないはず。
 そう計算して、リンスガルトは各国に支援を要請。思った通り、向こうはまだまともな反応。すぐに対応を考える、と応えてきた。
 その頼もしい言葉に安堵しながら、リンスガルトは通信を切る。
 後は彼らに任せ、自分は布団でゆっくりと……。
「……っていかん! 妾までだらだらしてる場合ではないのじゃ!」
 自分を叱咤すると、リンスガルトは急いで滑空艇・Suを用意する。
 だらけてるモフラデスを振り払うように加速すると、各国に直接交渉・対策会議を行う為に飛び去った。


 モフラデスの巨体はどこにいても目につく。人の口にも戸は立てられない。
 瞬く間にモフラデス出現は広まった。
「でっかいもふら様がいるんだって! 見に行こうよ!」
「行こう行こう♪」
 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)も滑空艇改・白き死神で飛び出せば、他の相棒たちも喜び勇んでついてくる。
「うっわー。でっかーい♪」
 空から見てもモフラデスは大きい。飛び越えるにはそれなりに高度を上げねばならず。そして見下ろす巨体はのびのびとくつろぎ、まるでもふら毛が草原のように風に吹かれている。
「でっかいね! で、今日はこれを殴ればいいの?」
 羽妖精・大剣豪が剣呑に腕を振り回して気合を入れるが、ルゥミはあっさり首を振る。
「殴らなくていいんだよ♪ もふもふしよう」
 にっこり笑うとそのまま高度を下げてモフラデスに直接ダイブ。ふわふわの毛がいいクッションとなって傷一つない。
 微動だにしないモフラデスに乗って、毛に埋もれるとそのまま横になる。
「ルゥミ、いもむしみたいだよ!」
 転がるルゥミを羽妖精が笑うが、その彼女もリラックスした表情でルゥミの隣に転がる。
 霊騎・ダイコニオンもふわりとあくびをするとモフラデスに身を添わせ、甲龍・トントゥはだらしなくひっくり返って目を閉じ、迅鷹・スターダストもその下あごに止まって眠りについている。
「あたいも眠くなっちゃった……。おやすみなさーい」
 大きなあくびをすると、ルゥミはモフラデスの長い毛にくるまりあっという間に寝息を立てる。その傍にぴたりと寄り添い、羽妖精も目を閉じ静かな息を繰り返すだけになっていた。

 そして地上でも。
「巨大なもふらとは面妖な……。すぐに調査に向かうでござる!」
 巨大もふらを目にして、霧雁(ib6739)が手早く仕度。飛び出していく。
「霧雁が勤労意欲に目覚めただと!? こりゃ儀でも降るんじゃねえか?」
 その手際の良さと素早さに驚いた猫又・ジミーが不安げについていく。
 間近で見るとまさしく山のようなモフラデス。見上げながら、霧雁が目に強い光を宿していた。
「なんと大きいのでござろうか。そして聞きしに勝る怠惰への誘い……。これは堪らぬ」
「……って寝るのかよっ!」
 猫又の目の前で、主はいそいそと茣蓙を敷く。茶菓子に弁当飲み物付でモフラデスと一緒にごーろごろ。ジミーの分も用意されているのはいいのか、悪いのか。
「てめぇ、さては始めからデカもふらを口実にごろごろするつもりで来やがったな! こら、起きて仕事しね……え……」
 普段からのんべんだらりな霧雁。いい居場所を得たとしてすっかりくつろいでいる。
 咎めるはずのジミーも雰囲気に呑まれ、いつしか体丸めて霧雁と一緒に食べ散らかしている。
「はは。心地よいでござる。拙者、家にいてもごろごろ。此処でもごろごろ。通常運転という奴でござるよ」
「言われてみりゃその通りだ。――おい座布団、行くぜ」
 のんびりと告げる霧雁に、ジミーは軽く伸びをした。かと思うと、いきなりフライングダイブ。霧雁の腹の上にどすんと落ちる。
「ぐえぅっ!!」
 さすがに霧雁も奇妙な声を上げるが、ジミーは構わず腹の上で寝転がる。
 猫又の重みで白目剥いていた霧雁。抗議も出来ずに瞼を閉じてがくりと力を抜いた。気絶したのではなく、
「ぐがー」
 気持ちのいいいびきが、春の暖かい風に混じっていた。

 だらけた声が響く都。時間が経過しても変化するのは太陽の位置ぐらい。モフラデスも通りの人も寝そべりだらけた姿のまま。
「師匠が戻らない……? 大変です、連れ戻さないと!」
 慌てるサライ(ic1447)が上げた叫びも、こんな状況ではどこか空しく響き渡る。だが、本人にとっては到底看過できる事態ではない。
「頑張ってね〜♪ でも、ついていった方が何だか面白いことが起こる予感が」
 飛び出していく主人に手を振って見送りかけた羽妖精・レオナールだったが。すぐ思い直し、後についていく。
 モフラデスの周囲にはだらけた人々が転がっていた。武器を持っている人は討伐を考えたからか。物騒な物も転がっているが、それを使って立ち上がろうとする人もいない。幸せそうではある。
「師匠! 見つけました!」
 その中で、目当ての人物(と猫又)を発見し、サライは人を押しのけ跨ぎ越し駆けよる。
 どう見ても休む気満々な準備に戸惑うが、それも霧雁なら納得できる。
「師匠――起きて下さい!」
 深く寝入っているのか、強く揺すってもなかなか起きない。
 しつこくしつこく起こし続け、しょうがないから無理やり目を覚まさせようと抱き起こした拍子に、霧雁のつけていたマスクが外れる。
 端正な顔が露わになった。思わずサライがどきりと顔を赤らめる。その動揺を悟ったように、霧雁がぼんやりと寝ぼけ眼を向ける。
「ん……あと十分……いや五分。いやいやここは一緒に寝るでござる」
 寝起きの潤んだ眼でじっと見つめると、霧雁はサライを抱き寄せ二度寝に入る。
 戸惑ったのはサライだ。
「え。し……師匠駄目ですよ。男同士、こんなところで! や、あ……でも……」
 寝乱れた霧雁は服もはだけて鎖骨やら肩やらを露出させている。さらには何を考えてか夜春まで使ってサライを誘う。
 どう対応したものか。混乱していたサライであったが、そこはモフラデスの傍。
「ま、どうでもいいですか」
 ふわぁとあくびをすると、霧雁に抱かれたまま、自分も身を寄せて寝入ってしまう。
「キ……キターーー! んはああああ! イケメンとショタの添い寝!」
 目を輝かせて羽妖精が騒ぎ立てるも、二人起きる気配なし。きゃあきゃあ悲鳴を上げて、じっくり堪能していたレオナールだが、じきにそれだけでは物足りなくなる。
「目の前で寝たってことは何してもOKってことよね!」
 その微笑みに色をつけるとしたら黒かピンクか。
 モフラデスの怠惰への誘因も彼女には通じず。いそいそと二人を自分好みに仕立て上げる。

● 
 そして、どのくらい時間が経過したのか。
「そこにいるのはサライたちか!?」
「は、はい! って、うわあなんですかこれは!??」
 声をかけられて、サライが飛び起きる。
 声の主はリンスガルド。既知の仲で、その居場所も頭上を飛ぶ滑空艇からとすぐに分かった。
 戸惑ったのは自分の格好だ。
 霧雁に誘われ寝込んでしまったまでは覚えているが、気づけば二人してあられもない恰好で絡み合っている。
 すぐに犯人……いや、犯羽妖精には思い当った。恨みがましく睨むも、当の羽妖精は艶然とした至福の笑みで見返すのみ。反省の色はない。
「一体何が起きている? 何やら蔵倫指定モザイクがかかってよく見えないのじゃが」
「そこまで酷くは……。あ、でもでもちょっと待ってて下さい」
「えー、戻しちゃうの? もったいなーい」
 不満げな声を上げるレオナールをたしなめつつ、サライは急いで身支度する。
 その間にリンスガルトは滑空艇を操り地上へと降りてきた。
「間近で見ると実に大きいのぉ。だが、こちらも用意はできている」
 白い巨体を見上げるリンスガルトの後方。空に広がる無数の影。
 各国に要請した協力が駆けつけてきたのだ。
 大型飛空船からは人や相棒が飛び出してきて、作業にかかる。その動きが怠惰に乱れれば、ただちにまた別の団体が救助援護と機敏に動き回っている。
「モフラデスに罪はないとはいえ、ここに居座られては人類の明日は閉ざされる。そこで各国軍と連動し、モフラデスを人のいない小儀に移すことと相成った。そういうわけで、周囲で寝ている者はありていに言えば邪魔じゃ。共に連れられたくなければただちに起きよ」
「分かりました。僕も手伝います! 起こします! でも何だか力が……それに眠い……」
 リンスガルトの計画に、サライは手伝いを申し出るが、すぐにその体が気だるげに崩れる。
「手伝うならシャンといたせ! 空で怠ければ落ちるのみぞ!」 
「いたたた、わ、分かりました! もう寝ません!」
 気合一発二発。びしばしと鞭でたたくリンスガルトに、サライは涙目になりながら動き出す。
「イイわぁ♪ 私もサライを鞭でぴしぱししたぁい♪」
「馬鹿なこと言ってないで、師匠起こすの手伝ってくださいよ」
 鞭うたれる主に同情どころか、何やら目を輝かせる羽妖精。
 痛む尻をなでると、サライはひとまず隣の知り合いから起こしにかかる。
「ん? なんだ、場所を変えろと?」
 目覚めはした霧雁だったが、面倒そうに茣蓙をひとまず邪魔にならない場所へと移すと、すぐにまた寝てしまった。


 モフラデスを移動させる作業は速やかに行われた。
「ルゥミ……ルゥミってば。……ダメだぁ。起きないよ」
 モフラデスの上で寝こけていたルゥミも当然起こされる。が、相棒たちはどうにか寝ぼけ眼をこするが、当の主は全く起きる気配無い。
 大剣豪が必死に揺り動かすも、幸せそうな笑みのままその瞳は開くことがない。
「どうしよう。ルゥミを運ばなきゃあ」
 他の相棒に問いかけるも、皆しょうがないと肩を竦める。このままでは離れ島で怠惰な生活を過ごすしかなくなる。
 羽妖精と迅鷹ががんばって霊騎の背までルゥミを運ぶ。甲龍は滑空艇改を下す。
 ルゥミを連れて、その場を離れる。
 
「んふぁあああああ。何もふかー?」
 手足くくられ、飛空船によって空に持ち上げられれば、さすがのモフラデスも目を覚まして周囲をうかがう。
 暴れられてはさすがにまずい。魔術師や吟遊詩人たちによって眠りの術を継続してかけられる。
 抵抗するのも面倒なのか。モフラデスはつるされながらもすやすや寝息をたて、鼻提灯も作る始末。
 むしろそののんきな姿に運搬する班がだらけそうになり、その都度リンスガルトが鞭を振るう。
 予定の儀にモフラデスを安置すると、超巨大な風呂敷で儀ごと包み込まれる。
「これでおいそれと目にすることもない。人が進歩すれば、いずれ共存の道も開かれるかもしれぬ。それまでしばしさらばじゃ」
「争いは起きなくなりそうですが、働く気力もなくなってしまうのは困りますからね」
 どこか名残惜しげにリンスガルトとサライが告げると、風呂敷に『モフラデス封印』と書かれた白い布地を貼り付けた。

 モフラデスがいなくなった都では、正気を取り戻した人々が少しずつ目覚めていき、普段の生活を取り戻している。
「ん……ふああああ。よく寝たぁ」
「ルゥミ、おはよう。もうおそようかな?」
 ルゥミも気持ちよく起きると、相棒たちに笑いかける。
「すごく楽しい夢を見たよ! でっかいもふらさまの上で、みんなでお昼寝するの!」
 面白かったと笑うルゥミに、相棒たちも笑顔を向ける。
 静かな危機に陥っていたとは思えない表情。もっとも、大半の者がそんなこと考えもしてないだろう。
「そしてこいつも平常運転。――ま、怠け者なのは今に始まったことじゃねえからなぁ」
 顔を洗いながら、ジミーは主を見る。そこには普段と変わらない……そしてモフラデスがいた時とすら変わってない眠りこけた霧雁がいた。
「師匠〜。春先とはいえ風邪をひきますよ。――そういえば、ワラベコさんという人はどうしたんでしょう?」
 だらけた霧雁を起こしながら、不意にサライは思い出す。事の発端はあの修羅だったはず。
 後日行方を探してみたが、どんなに探してもワラベコの姿は見当たらず。
 どうやらモフラデスにひっつき、一緒に封印されたようだ。