【迎春】うちの王様応援し隊
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/22 20:55



■オープニング本文

 大アヤカシ炎羅に勝利した緑茂の戦い。
 以降、様々なアヤカシを打ち倒し、その姦計を破り、魔の森の縮小へとつなげてきた。
 しかし、アヤカシの横行はやまず。潜む大アヤカシもどのくらいいるのか。さらには護大という謎も出てきた。
 一体何が起きているのか。

 そんな中、新年を祝して各国王が神楽の都に集う。
 遭都からわざわざ武帝が起こしになるどころか、他儀の王たちすらも集まるという。
 前代未聞というべきその事態に、神楽の都の民は騒然となった。


「一番人気は儀弐王さまだ! あの方の笑顔を見た日には、極楽浄土が約束されるという」
「布刀玉さまに決まってるでしょう。まだお若く、将来有望株間違いなし」
「ここはジルベリアの皇女さまやろ。いやぁ、一度踏まれてみたいなー」
「渋さの天輪王さまが一番に決まっておろう」
「だったら、大伴さまのが……っていない!? 何故!? オーマイガーッ!!」
 正月の熱気もそろそろ冷めたはずなのに。どうにも浮かれて騒ぐ市井たち。
「って、何に騒いでいるのやら」
 半ば呆れているのは酒天童子。
 開拓者ギルドはいつも賑わっているが、どうもその賑わいが違う。
 錦絵やら黄表紙本やらを手に何やら熱心に見入り、口々に言い合っている。
 王様が集う、ということでここぞとばかりに商売に乗り出す商人たち。どの王様にちなんだ品を多く用意すればいいか。だったらいっそ人気投票をしちまえーと、この企画。気付けば開拓者枠も設けられ、ギルドも絡んでと、あちこち巻き込み盛り上がりを見せる。
「ノリが悪いな。お祭り騒ぎは好きだろ」
 普段であれば、率先して騒ぐような酒天である。
 首を傾げるギルドの係員に、軽く酒天は肩をすくめる。
「絵姿を見て騒ぐだけだろ。屋台も増えて賑やかに飲み食いできるのはありがたいがな」
「一番取って顔が売れたら、さらにおごってくれる人も増えるだろうよ」
「出るのは基本王様だけだろ。――いや、開拓者たちによる舞台発表もあったか。ふーむ」
「何言ってるんだ、お前さん。王様枠で名前が出てるぞ」
「はあああ? 何でだ!?」
 指摘され、酒天は目を丸くして声を荒げる。周囲が不審そうに振り返るような勢いだった。
 係員が手持ちの資料を指し示す。確かに名前が入っている?
「武天の綾姫も入っていらっしゃるようだし。王族なら問わずじゃないのか。そこらは緩いんだろ」
「いやいやだからって、俺、王じゃねーしー。ったく、しょうがねぇな。責任者どこだ。抗議してやるっ」
「別にいいだろ。所詮はお祭り。そもそも、開拓者枠で騒ぐ気にもなったんだろ」
「それとこれとは別。武帝らと同列で見られるのが嫌なの。せっかく面倒で厄介を押し付け身軽になれたのに、勘違いする奴でも出たらどうする」
「何てことをおっしゃいますかー!!」
 そこに飛び込んできたのは修羅の集団。着ている衣装からして、どうやら陽州から来たと見る。

「閉じ込められて苦節五百年。昔からの遺恨はこの際水に流しましょう。だがっ、しかしっ。陽州では古来より王と仰ぐは酒天さまのみ! 次代が現れぬ以上、あなたさまを置いて他なし!! それを勝手に朝廷に座を渡した、後は知らぬなどというわがまま、まかり通るとお思いかっ!!」
 酒天の前で必死に熱弁。
 その相手を酒天は冷たく指差す。
「……ほーら、こういう頭の悪いのがいるんだぞー」
「悪いとはなんですか! 頭が硬いと仰ってください!」
「どっちにせよ悪いわっ!」
 声を荒げる修羅に、酒天も怒鳴り返す。どっちもどっちだと、係員はそ知らぬふりをしかけたが、ふと生じた疑問を口にする。
「そういや、お前さん。王様会議とか神事には?」
「行く訳ねーだろ。呼ばれたって行くか、あんなもの」
 へっ、と鼻で笑い飛ばす酒天。
 帝がいるだけでも堅苦しさは抜群なのに、そこに他の儀の王まで来るとなれば居心地の悪さは抜群だろう。
 想像するだに係員すらうんざりする。
「そちらは長老方が上手く立ち回っておりましょう。酒天様にはこちらをがんばってもらいます。是非是非その魅力を世間に知ってもらい、王さま一番という事実を内外に突きつけてやりましょう!!」
「ちょおおっと待て!」
 あれやこれやと言い合い飛ばしあい。
 そこに割り込んできたのは、別に修羅でも無い通りすがりの一般人。
「さっきから聞いてりゃ聞き捨てならねぇ。普段出会うかも分からない王様方を出し抜き、人気を得ようなどとは!」
「俺はやるとは言ってないっ!」
 どうやら他国のものらしい。推してる王様がいるのか、怒りも露わに修羅たちに詰め寄る。
 酒天は否定を入れようとするが、それを素早く修羅たちが止める。
「ふっ、機会を逃さず攻めるのも戦というもの。酒天様には羽根付き衣装でド派手に決めてもらい、もふらさまで街中練り歩いていただく!」
「誰が着るかぁあああああ! そんなさらしは嫌じゃ!」
「そうそう、機会は平等ネ。というわけで、酒天には是非春華王さまに扮して、あの方の良さを触れ回ってもらうヨ」
 するりと酒天の背後に忍び寄った泰国出身らしき猫族が、そのまま彼を拘束する。
「待て、それはずるいぞ!」
「そうだ、彼には巨勢王への恩を語ってもらい、かの方の内面を広く知ってもらうぞ!」
「えぇい、綾姫さまをつれてきておいて何をいうか。それで宣伝は十分だろう。ここは何かと誤解の多い興志王をだな……」
 いつの間にやら、周囲に人が群がり、あれこれと口々に言い合う。

 その間に、そっと酒天は拘束を外すと、そのままギルドを後にする。
「……! 酒天童子が逃げたぞーっ!」
「逃げるに決まってるだろ、ボケっ!!」
 気付いた誰かが声を上げると、捨て台詞を残して瞬く間に酒天は走り去る。
「どうした何事だ!」
 事情を知らない他の者たちもさすがに騒ぎに気付く。
「酒天童子を捕まえると、奴が捕まえた人が推す王様の宣伝を無料でしてくれるそうだぞ」
 誰かがすごい適当な説明をした。
「違いますぅ。酒天さま、嫌がっておられて……」
「ほほぉ、それはいいことを聞いた。ここは是非武帝さまを持ち上げてもらうか」
「勝手なことをされては困る。妙な推挙をされるぐらいなら、いっそ酒天にはずっと逃亡しておいてもらうか」
「待ちな。そういって、酒天を独占して何しようってんだい?」
 それがそのまま尾ひれがついてあっという間に広がる。
 それぞれの思惑がさらに適当にくっついて、さらにさらに事態は混沌とする。
 ともかく、酒天を探し出さねば意味が無い。宣伝してもらうか、宣伝するか、それを妨害するか、保護するか。ともあれ、事態は彼次第だろう。
 
 慌てて酒天追いかけ、出て行く開拓者たち。その様を見ながら、係員は茶を一服。
「まー、お国自慢を張り切る奴らはどこにでもいるからなぁ」


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 日依朶 美織(ib8043


■リプレイ本文

 アヤカシ横行の不安を払拭する為か、それとも単にお祭り好きなだけか。
 ともあれ、神楽の都では王様総選挙で盛り上がっている。
「こういうの本当は興味ないんだけど……。知った仲だし、お祭りだし。誰にしよう」
 どの王様に票を入れるかで、柚乃(ia0638)はあれこれ思い悩む。
 庶民には縁遠い王様たちも、開拓者だとお近づきになる機会はしばしば訪れる。
 やはりここは同性の王様。けど、その中でも綾姫にするか、はたまた神の巫女さまにするか。
 うんうんと悩みつつも、ふらりと祭り用の屋台街に迷い込む。
「酒天はどこだぁあああ! 捕まえて慕容王さまの応援をさせるぞー!」
「何を言う! 奴にはセベクネフェルさまの立て看板を作らせるんだ。邪魔をするな!」
 なにやらばたばた周囲が騒がしいが、それにはまったく構わず柚乃は思案に暮れる。投票以外で気になるのは、騒ぎに釣られ何やら連れている提灯南瓜が浮き足立ちかけていること。それぐらいだ。


「いたぞ! 酒天だ!」
「待ちやがれ!」
 口々に荒々しく言葉を吐きながら、集団が道を走り回っている。
「待てといわれて待つ馬鹿がいるかっ!」
 その行く手にいるのは酒天童子。小柄な身を機敏に動かし、上手く逃げ回っているが、何分追っ手も多い。中には総選挙応援はそっちのけで、大掃除の手伝いや店の配達といった雑用を押し付けようとするのも混じっている。いい迷惑だ。
 巧みに都を逃げ回る酒天だが、その行く手からも追い回す声が聞こえだす。来た道を戻ろうとしても、そっちからも人が来る。
 万事窮すと、立ち止まった所。腕を不意につかまれた。
「待て待て。俺は味方だ。信じろ」
 腕をつかんだのは、羅喉丸(ia0347)。とっさに殴られそうになったのを難なく止める。どころか、そのまま放り投げて後ろで荷ほどき中の荷車に突っ込む。
 羅喉丸がそのまま荷物を整えて酒天を隠した所で、前方後方迫ってきていた追っ手が目の前で鉢合わせした。
「王はどこ行った!?」
「屋根をのぼって向こう側に」
 顔を真っ赤にして形相を変えている修羅に、羅喉丸はさらりとあらぬ方向を示す。
「相変わらず逃げ足だけはすばやい。だが逃がすものかー!」
 修羅先頭に、お祭り気分の集団があっという間に砂煙上げて去っていく。
「助かったぁ。ありがとよ」
 地響き去ってしばらくすると、うんざりした表情で酒天は這い出してくる。
 確かにあの集団に追い回されるのは、ご苦労なことだと羅喉丸も同情しきり。
「しかし。民あってこその王等と言ったりするが、そういう意味では民に慕われるいい王だったのか」
 何かとお騒がせの御仁だが、こうも追い回されるには相応の理由があるのか。
 ふと羅喉丸が呟くが、酒天はそんな訳無いと苦りきった表情で手を振る。
「俺の時代なんぞ五百年前に終わってるんだぞ。当時を知る奴なんざいる訳ない。必要以上に美化した伝説にふりまわされてるだけだろうよ」
「おまえさんがそれを言うのかい」
 当人のうんざり口調に、羅喉丸は苦笑を禁じえない。確かにそんな年月が経った評判なんて良くも悪くも変容しているに違いない。少なくとも、今目の前にいる修羅から威厳めいたものは感じられない。
「さてと。ここで立ち話も目に付くだろう。どうだ、俺が厄介になってる拠点でしばらく身を隠さないか? 酒とつまみぐらいは出せると思うぞ」
「お、いいな」
 羅喉丸の申し出に、酒天は飛びつく。
 追い回されるのに飽いただろうし、酒とつまみも魅力と見た。
 しかし。
「酒天さま、見つけましたあああ!」
 移動する前に高らかに告げられる声。びくりと酒天が震えて振り返ると、そこには縄を振り回す修羅がいる。と思えば、あれよあれよと仕事を押し付けようと駆け込む人が、野次馬引き連れ駆け寄ってくる。
「悪い、また今度にさせてもらうわ」
「分かった。せめて時間は稼いでやろう。達者でな」
 執念深い追っ手に、酒天は急いで逃げ出す。
 羅喉丸は軽く肩をすくめると、追い込む人たちに目を向ける。
「時間は稼ぐと言ったが、この人数相手はきついか。だが、容易く通す訳にもいかなくてな」
 声を立てて走り回る人たちに向けて、羅喉丸は荷車で遮り通せんぼ。乱れた軍勢の中に飛び込むと、さらに先に進もうとする人たちの足を引く。
 傷を付けるわけにはいかない。あまり騒ぎを大きくしすぎても、警備の邪魔になる。手加減加えながらも、しばらく修行代わりの乱戦を繰り広げていた。


 妙な騒ぎにやっぱり釣られ。いつの間にか提灯南瓜が消えていた。放ってくとどこでどんな悪戯をすることやら。
「くぅちゃーん。どこ行きました?」
 探し回る柚乃の肩に、男の手が伸びる。無粋な手を、しかし寸前でかわし、柚乃は相手を見据える。
「逃がさんぞ、酒天童子! ……あ、いや失礼。しかし、その衣装はどちらで?」
 鼻息荒く告げた男だったが、人違いをすぐに悟ってわびを入れてくる。
 しかし、すぐに立ち去るでもなく。怪訝そうに柚乃を見つめていた。
 柚乃の今の衣装は、酒天が着ていたものと似ているらしい。通りでたまたま出会ったリンスガルト・ギーベリ(ib5184)から渡され、特に断る理由が見当たらず、着用している。
「あちこちで似た子供がいると思えば、そのような協力者が」
 隠す必要も無いので素直に告げれば、男は面倒そうな顔になって立ち去った。
 それを見送った後に柚乃も、相棒捜しにまた歩き出す。


「では、この衣装をつけて走り回ってくれ。妙な輩が追ってくるが、しつこいなら遠慮なく警備に突き出してよいぞ」
 リンスガルトは、酒天に似た背格好の子供に衣装を託す。その甲斐あってか、追っ手は混乱。面倒になって、止める者も出てきた。
 あとは、哀れな御仁を確保して、ほとぼり冷めるまで安全な場所に連れ出すだけ。
 しかし、肝心の酒天をリンスガルトが見つけられない。
「一体どこをうろついているのやら」
 都をにぎわす騒動。そこを吹き抜ける風の冷たさに、リンスガルトは軽く身震いした。
 
 日依朶 美織(ib8043)はギルドなどに立ち寄り、酒天が行きそうな場所を聞き込む。
 しかし、出向いてみても追う側とて予想して待ち受けている。そうあるのを酒天の方も予想して姿を見せない。
「なかなか難しいですね」
 超越聴覚で耳をすますも、何も無い。
「もうどこかで安全安心に過ごしてるのかなぁ。それはそれで、せっかくお膳立てが無駄になるのはなぁ」
 同じく超越聴覚で聞き耳立てるリィムナ・ピサレット(ib5201)だが、口調に諦めが半分入りだす。
 それを繰り返し、別の場所を探してみようかと立ち去りかけた時、
「おわ!」
 小さな悲鳴が届いた。
 はっとしてそちらを探れば、何故か提灯南瓜が笑いながら去っていく。
「どこの悪戯南瓜だ! せっかくの酒がこぼれちまっただろ!」
「見つけました!」
 一体何をされたのか。ひっくりかえって怒っているのは、間違いなく酒天童子。
 向こうも見つかったと気付くや、素早く逃走にかかる。
「追うのは任せるよ。他の人はこっちで押さえてみる。また後で」
 言うが早いか、リィムナはあらぬ方向に向けて酒天がいたと叫ぶ。

 任された美織は、早駆も駆使して逃げる酒天を追いかける。
「待って下さい。私は味方です! 担ぎ上げたり宣伝したりしません!」
 声をかけるが、その言葉をどう信じていいのか。証明するには、ただ誠意を込めて説得するしかない。
 酒天も必死。距離を詰める美織を巧みにかわして逃げ続ける。逃げ切れず、追い詰められず、双方なかなか決定打が打てなかった。
 が。
 走り回る内に、リンスガルトがいる辺りまで移動していたのに気付く。
「リンスさん、捕まえて下さい!」
 声を上げた美織に答えて、路地から瞬脚で飛び出し酒天に迫る。
「分かっておる!」
 熟練開拓者二人に他方向から襲われては対処も難しい。
 逃がすまいと二人して酒天にのしかかる。無事捕まえたが、さすがに重そうである。
「本当に味方です。大丈夫信じてください」
「そうじゃ。汝の為にいろいろ手間をかけさせてもらったのだ。感謝しろとは言わないが、少しは信用して欲しいのじゃ」
「分かった。分かったからひとまず降りろ!」
 ばたばたともがく酒天を、せめて説得の間は逃さないように慎重に解放した。


 ほどなくリィムナも合流し。改めて三人、酒天に同情してこの騒ぎが静まるまで身を隠せる場所を手配したと説明する。
 その手筈には酒天もありがたく頭を下げたが。
「却下」
 移動手段は冷たく一蹴した。
「なんで!? あたしたちや相棒たちみんなで全力で守ってあげるって言ってるんだよ!? 目立たず騒がれず速やかにここから抜け出せるいい手段じゃないか!」
「だからといって、何でもふらに化けにゃならん。よつばいで歩いていけと?」
「語尾にもふもつけると完璧だね」
 じろりと不機嫌丸出しで酒天が睨む。
 リンスガルトと美織にはそれぞれ相棒もふらがついている。そしてリィムナはまるごともふらを用意してきた。
 もふらに紛れて移動しよう、ということだそうだ。
「あたしの相棒というふりでさ。背中に乗せていけとか言わないから」
「当たり前だ」
 説得を試みるももふらのふりも楽では無い。

 結局話し合いの末、寝こけたもふらのふりをして借りた荷車で運んでしまおうとなった。

「大丈夫でしょうか」
 荷車を運ぶのは、牧場から借りたもふらたち。心配する美織をよそに、運び役のもふらたちですら、交代で荷台をごろごろしている。
「これだけもふらに埋もれていては誰も気にすまい。汝らもご苦労様じゃ」
 酒天や他のもふらたちを挟んで歩く自分のもふらや美織のもふらをリンスガルトが労わる。褒められたのが嬉しいのか、さらに胸を張って歩くもふらたち。
 彼らに笑いながら、美織はそれでも周囲に目を向ける。不意の押しかけに対処する為だが、幸いとがめられることもなく目的地へと辿りついた。
 着いた先はもふら牧場。広い敷地に先ほどの喧騒は届かず。もふらたちは各々くつろぎだす。
「やっと着いたか」
 酒天が、荷車から降りて背を伸ばす。妙な追っかけから解放されて、ようやくこちらもくつろげたようだが……。
 ばたりと、もふらたちの厩舎の戸が開いて。牧場関係者が顔を出す。
「へいほー。これで全員揃ったの? お手伝いありがとね。じゃ、とりあえず、風呂場の掃除からお願いね☆」
 開拓者たちの顔を見渡すと、喜び勇んで仕事を言い渡してくる。
 それに「分かった」と、いい調子で答えるリィムナ。リンスガルトと美織も異論は無い。
 あるのは唯一。何を言われたか分からないといった顔で、酒天が突っ立っている。
「ささ。かくまってくれるんだから、お礼に暫く働いてね?」
 見事な笑顔でリィムナが酒天の背中を押す。
「聞いてねぇよ、そんなもん」
「今言ったからね。大丈夫、あたしも手伝うから♪」
 牧場を借りる代わりに、無償の労働力を提供する。そういう手筈だと、そもそもからついていた。が、リィムナは隠していた。あえてそうしたのは……単なる意地悪か茶目っ気か。
「リィムナだけではない。我もしっかり働かせてもらうぞ」
 リンスガルトが凛々しく宣言するも。もふらたちに埋もれてすっかりもふ毛を堪能しているとしか見えない状態。
「いや、もう絶対やる気無いだろ」
「いやいやいや。これももふらたちの毛並みを調べるという大事な仕事の一つなのじゃ」
 がっくり肩を落とす酒天に、リンスガルトが口調だけは真面目に伝える。
「でも、ここなら追っ手が来ても不法侵入で叩き出せますからね」
 笑いながら美織は、箒や雑巾を差し出す。
「あー、もう。ありがとよ」
 本当にどこまで感謝の念があるのか。いささか疑問に思う荒っぽい口調で、酒天は掃除道具を受け取った。


 どうやら酒天は逃走成功したらしい。追う側も相手がいないことには興が殺がれ、野次馬も解散。
「酒も用意しているというのに、まだ見つからんのか!」
 一部熱心な修羅が血眼で捜しているが、概ね都は単なる祭りの賑わいを取り戻していた。
 歎く修羅たちをたまたま目にして。ふと柚乃は小首を傾げる。
「王様でいれば、好きなだけお酒が飲めるのに」
「その代償に仕事仕事で机に縛りつけだぞ。やってられるか」
 答えを期待せず呟いたが、何故か聞き慣れた声で返答があった。
 驚いて振り返ると、これまたなぜか悪戯から帰って酒臭くなっていた提灯南瓜が、路地裏から伸びた手に小突かれていた。
 あっと驚く間もない。少し追いかけたが、どこにも姿は無かった。
「そこの娘。酒天様をご存じないか」
「酒に釣られてかここにいたようですよ。どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてあげてくださいね」
 尋ねてきた修羅に、少し声を荒げて柚乃は告げる。

 祭りの騒ぎはまだまだ止まず。誰が一位を勝ち取るのか。それは本人たちの魅力次第であればいい。