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■オープニング本文 新年あけましておめでとうございます。 ……の前に。 大みそかの夜には、ごんごんと鐘をうって煩悩祓い。響く音色を聞きながら、天儀の人々は厳かに初詣に出向いていた。 神社も忙しいが、寺だって忙しい。 年が明けても、所によれば煩悩を祓う意味で年が明けても続けて鐘をうつ風習がある所も。 参拝客の対応だってあるし、普段からの務めも当然変わらず。時折響く鐘を聞きながら、忙しさは旧年から明けても変わらず。 正月も過ぎて、やっと一息ついた頃。 坊主たちが慌てて開拓者ギルドに駆け込んできた。 「うちの寺の鐘が盗まれました!!」 「わ、私の寺もです!」 「実はうちも……」 依頼者たちの寺は同じ地域にある。とすれば、おそらく同一犯の仕業。すぐに手広く話を集めてみると、鬼たちが鐘を奪っていったという目撃情報が入った。 「どうしてアヤカシが鐘を持っていくのだ?」 「鐘がうるさかったとか。人が群がって大事そうにつくので宝とでも思ったか」 「今更か」 「アヤカシは初詣とか関係ないでしょうからねぇ」 口々に言い合うも答えは出ない。もっとも、アヤカシの心情など知る必要も無い。奪われた物を取り返すだけだ。 さっそく、開拓者たちが集められ、説明が加えられる。 「アヤカシは郊外にある襤褸寺に巣食い、鐘を持ち込んでいるようだ。首領として単眼鬼。こいつが手下の小鬼たちに命じて周辺の鐘を奪ったようだ」 鐘の大きさは様々。大きいと重さもそれなりになる。手下たちは数が多く、纏まって重い鐘を運ぶ時もあれば、いくつかに分かれて小さな物を狙ったりと随分忙しく働いたようだ。 繰り返すが。何故そんな一生懸命なのかは分からない。 ともあれ、小鬼たちのがんばりにより、瞬く間に周囲の寺から鐘が奪われた。 もう奪われる鐘は無い。 だが、これにて一段落……なんてならない。 「新たな鐘を狙って場所を移すか、あるいは鐘以外の物を狙って活動を始めるか。場所を移すにしても新たな被害が出るのに変わりなく、また奪った鐘をどうするのかも分からない」 小鬼は猿程度の頭しかないが、単眼鬼は言葉こそ通じないが知恵は回る。鋳潰して鉄棒に変えるぐらいは思いつくかもしれない。そうすると、敵に武器を渡してしまうことになる。 そんな知恵を思いつかなくても、どこぞの崖にでも放り捨てようものなら、寺の者が嘆き悲しむ。 「いずれにせよ、鐘を取り戻して欲しいという寺からの要請だ。やつらが次の行動に出る前に無事に取り戻し、そしてアヤカシを殲滅せよ」 寺に必要な鐘を傷つけてはならない。そして、アヤカシを見過ごす訳にもいかない。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
弥十花緑(ib9750)
18歳・男・武
島津 止吉(ic0239)
15歳・男・サ
メリエル(ic0709)
14歳・女・吟
昴 雪那(ic1220)
14歳・女・武 |
■リプレイ本文 アヤカシ被害も様々だ。 人を襲い、命を奪う事態に比べれば、今回の事態はうんと温い。 「でも鐘を集めるなんて、おかしなアヤカシさんですね。イタズラみたいですけど、返して貰わないと皆さん困ってしまいます」 今回の依頼を聞き、首を傾げたのはメリエル(ic0709)だけではない。 「なんと迷惑な連中じゃ。この代償は高くつくぞ」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は、呆れながらも強く言い放つ。 「アヤカシも妙な物に目をつけたものね。……うぅん、妙と言ってはお寺さんに失礼ね」 やれやれと嘆息つくフェンリエッタ(ib0018)だが、すぐに自分の失言に気付く。 申し訳ないと謝る。が、それは分かってる、と、昴 雪那(ic1220)は頷く。 「悪いのはアヤカシ。私も武僧として、鐘が大事な物だという事はよく分かっています。それを奪うなんて、悪戯が過ぎますね」 「寺っちゅうもんは、要するに社会をつなぐ共同体じゃ。大晦日の鐘つきだけじゃねえ、時刻も知らしてくれちょる」 言って島津 止吉(ic0239)は、弥十花緑(ib9750)が曳いている台車を見つめる。 そこにもまた鐘。これはリンスガルトが事情を話して別の寺から借りてきた品だ。勿論これもきちんと返さなければならない。 一日の生活を鐘の音に頼る人もいる。寺だけの問題でも無いのだ。 「よくまぁそれだけの数を集めた物だな。持ち帰るのも一苦労だ」 「すごく大きな物もあるようです。……用意した車で持って帰れるでしょうかねぇ」 うんざりとしている琥龍 蒼羅(ib0214)に、花緑は不安そうに車を見る。 小さな物一つなら台車でも運べる。それぐらいなら例えば鬼たちの隙をついて奪い返す、という手も使えたかもしれない。 しかし、数が纏まると重量もそれなりに。さらに奪われた中には大きな鐘もある。 運び出す間に、鬼たちも黙ってはいないだろう。 先に鬼たちをどうにかする必要がある。本当に迷惑ばかりかけてくる奴らだ。 「ところで、あの……こんな時になんですけど。オバケとアヤカシは違うのですの?」 言いにくそうに尋ねてくるメリエルに、一同、顔を見合わせ、少し首を傾げて考えてみた。 アヤカシといえば瘴気の塊であり人類の敵。オバケは単なる怪談話。大体そんな感じだろう。 ● 鬼たちのいる拠点は分かっている。数も多い。ほとんどは小鬼だが、彼らを率いる単眼鬼の存在もある。 正面から飛び込んでも、戦って勝つ自信はある。だが、取り戻すべき鐘を戦闘に巻き込み、傷つける可能性もある。 なので、少し離れた場所で持ち込んだ鐘をつく。その音に誘われ、鬼たちが出てきたところを上手く立ち回り、殲滅させることとする。 寺の山門に崩れた壁。その奥にひそむ襤褸寺に、おそらく単眼鬼はいるのだろう。 庭をうろつく小鬼の姿も見える。彼らに見つからないよう、鐘を適当な枝に吊るしてしまう。 「作戦に異は無い。それでは、やるぞ」 突き棒までは用意する暇も無い。北条氏祗(ia0573)が、手頃な太い枝を手にすると布を巻き、銅鑼のように力を込めて叩いてみた。 慣れてないのもあって、情けない音が鳴る。それでも周囲には響いた。 好奇心たっぷりに鐘を見ていたメリエルも、気を取り直してフルートを口に当てる。 笛から響き渡るはずの音色は、けれど開拓者たちの耳には聞こえない。それはアヤカシだけが耳にする。 鐘の音と、怪の遠吠えと。 聞きつけ飛び出してきたのは、まず小鬼たちだった。 「ぎゃぎゃぎゃ!」 小鬼はすぐに獲物を見つけた。――その獲物が、開拓者か鐘か、あるいは両方かは分からない。 奇声をあげ、小鬼たちは武器を振り上げ、一斉に向ってくる。 「一旦後退! 奴等が全部出てくるのを見計らってしとめるのじゃ」 リンスガルトの声に合わせて、開拓者たちは立ち去ろうとする。 けれど、小鬼もせっかくの獲物を逃がす気は無い。 追ってくる小鬼たちを、まずは軽く牽制。雪那が薙刀「守護神」を振り上げ荒童子に攻撃させると、花緑も大薙刀「岩融」を掲げて瞑目し、火炎の幻影がほとばしる。 我先にと先頭を走ってきた小鬼たちが次々に狙われる。さらにフェンリエッタが風神を飛ばせば、纏まった数があっという間に傷だらけになる。 攻撃を受けて、小鬼はさらに激昂した。それを確認してから、一旦開拓者たちは退く。 小鬼は追いかけてくる素振りも見せたが、一体が鐘に近付くと「ぎぃぎぃ」と不快な声を上げて仲間を呼び集めだした。 鐘をどうするか。開拓者たちを追うべきか。小鬼たちは彼らなりに迷いだす。 惑う彼らの態度はまたすぐに変わった。 その注意が向いたのは、彼らが出てきた寺の方。そこにひときわ巨大な鬼が姿を見せていた。 一つしかない目をぎょろりと動かし、小鬼たちを睨みつける。表の騒動が気になり様子を見に来たか。 その周囲にも、引き連れた小鬼がいる。だが、その周囲に盗んだ鐘は見当たらない。……さすがに持ち歩きはしないだろう。 ならば、注意すべきは持ち込んだ鐘一つ。この時を狙わぬはずがない。 「行くぞ。道は開く」 蒼羅は斬竜刀「天墜」に集中させた練力を、振ると同時に解放する。先ほどまでの撤退の小芝居にあわせた注意引きとは違う。手加減など無い攻撃に、途端、渦巻く風が単眼鬼の元まで伸びていく。 直線状にいた小鬼は、刻まれ悲しい叫びを上げた。 巻き込まれなかった小鬼も何があったか理解できず。攻撃をかわすように、さっと道を開けてしまう。 止吉は走ると、猿叫、剣気で小鬼を竦ませる。態勢整わない小鬼の群れは、一体でも動きが鈍れば、全体の動きがさらに混乱する。 リンスガルトは小鬼たちを無視して、殲刀「秋水清光」を引き抜き、単眼鬼へと迫る。 向ってくるのは明らかに敵。単眼鬼は大太刀を手にすると応じて構える。さらに周囲の小鬼も身構えたのを見て、リンスガルトは一歩強く踏み抜いた。 崩震脚で地を踏み抜く。味方を巻き込まない距離はある。すさまじい衝撃波が周囲に広がり、単眼鬼も囲んでいた小鬼たちも飲み込む。 そして、やはり小鬼を無視して、止吉が単眼鬼めがけて駆け込み、刀を振るった。 「チェエエエストオオオオ!!!」 二の太刀いらずの示現流。防御も考えず、刀「虎徹」を最上段から全力で振り下ろす。 だが、さすがは中級か。辛うじてその一撃を受け止める。 けれども止吉と揉める間に、さらにリンスガルトが飛び込んできた。 単眼鬼は止吉を力任せに押し返し、リンスガルトを迎え撃つも時すでに遅し。 「ガハッ!」 間に合わず、刃が深く単眼鬼を切り裂いた。 ● 鬼の仁義は分からない。が、首魁が危ないと判断すると、開拓者を排除しようと奮い立つ小鬼も多かった。 開拓者との力の差は明らか。けれども数ではまだ鬼たちが勝る。その打算も働いてのことだった。 今だ力を振るう単眼鬼に、リンスガルトと止吉が機を狙う。そこをさらに狙おうとした小鬼たちの前には雪那が割って入った。 「止まりなさい。私が相手になります」 単眼鬼との戦いの邪魔はさせない。それもまた重要な支援。いきり立つ小鬼を烈風撃で斬り弾く。 戦いの最中、傷を負うこともある。志体持ちは頑丈と分かっていても、雪那は一瞬それに気を取られる。主人を守ってきたからくりとしての感覚が抜け切らない。 だが、覚戒を使うには精霊武器が必要。今は武器を持ち替えている暇は無い。せめて余計な傷を付けさせないと、華麗に薙刀を振るう。 小鬼は単眼鬼を助けに行きたいが、その間合いに踏み込めない。 だが、薙刀の長さには限度がある。 ならば近付かず、もっと遠くから狙い撃ってやろうと、弓持ちの小鬼は素早く樹に登り、枝の影から開拓者を狙う。 けれど、それも叶わない。 「見逃すと思うのか」 蒼羅が頭上の敵に向けて瞬風波。蔓延る枝ごと小鬼を切り、地に落とす。 落ちた小鬼は受身もとらずに地面に叩きつけられる。痛がって泣くが、態勢を立て直す前に蒼羅は簡単にトドメを刺す。 助けに来ようとしていた小鬼たちに感心しつつも、やはり纏めて風で斬る。単眼鬼との戦いの邪魔をさせないこと。それには数を減らすのが一番手っ取り早い。 弓を持たなくても、石を飛ばす物もいる。持てる石は限りがあるが、当たれば痛いし目にでも入ればとんでもない。そういった者から早めに潰していく。 フェンリエッタも殲刀「秋水清光」を両手で構えて、鬼の分断を図る。 数が多い。だがそうと分かって油断さえしなければ、個の実力など微々たるもの。連携させないよう、全体を見てフェンリエッタが指示を飛ばす。 近寄れず、離れて攻撃しようにもやはり手が出せず。劣勢と感じた小鬼から怖気付き、逃げ腰になる。 が、逃げてもまたどこかで被害を繰り返すだけ。 「勿論、逃がしませんよ」 花緑は大薙刀を振り回して小鬼たちの逃亡阻止を優先させる。 護法鬼童と烈風撃を巧みに使い分けて、小鬼を散らし、退路を断つ。 とはいえ、小鬼も必死。何とか対抗しようとその頭で考えたのだろう。なんと重い鐘を投げつけようと目をつけた。小ぶりの鐘だが、小鬼一体では無茶も過ぎる 「って、こら!」 花緑が声を上げるが、それに後押しされたように小鬼は必死の形相で鐘をつかもうとする。 けれど、鐘に手を伸ばす前に、気付いたフェンリエッタが背後からしとめる。倒れた小鬼の手がぶら下がった鐘を揺らしたがそれだけ。 「はぁ、良かった。借り物を壊す訳にはいきませんし、かといって投げられてたらさすがにどこか痛めるところやったです」 瘴気に還る鬼を見つめながら、花緑は思わず胸を撫で下ろす。 いざとなれば、受け止める気だったが、さすがに志体持ちでもこの重量は痛い。 「かなり数は減らしたわ。もう少しという所ね」 戦場を見渡したフェンリエッタに、花緑も頷く。 残ってる小鬼も傷だらけだ。連携も采配も何もなく、ただがむしゃらに反撃してくるだけ。それはそれで厄介だが、そのやけくそも含めて片付けるのは時間の問題となっていた。 ● 氏祗はスターレインボウを構え、ガドリングボウを単眼鬼目掛けて放つ。 素早く射られた三本の矢は、それ故対象に狙いを定める暇は無い。それでも氏祗の技量なら十分しとめることはできただろうが、単眼鬼も大したもの。巧みに周囲の壁や枯れ木、小鬼すらも盾にして立ち回る。 リンスガルトと止吉の猛攻にもなんとか耐えているが、力量は明らか。その為、死に物狂いになってる気配もある。 隙を見せればすぐに逃げ出すかもしれない。が、隙につけこめれば一気に仕事は終わる。 メリエルは自分のできることをするだけ。そう決めて剣の舞を奏で、精霊力を与えて皆の攻撃を支援していた。 だが、ふと思いつく。 単眼鬼の動きを見計らって演奏を止めると、「わー」とそちらに向けて大声を出した。 貴女の声の届く距離。その声は拡散せず、狙った相手へとそのまま届く。ただそれだけの術。 だが、効果はあった。途端に単眼鬼は驚き、メリエルのいる方へと太刀を振るった。思わぬ所から声が聞こえて、不意をつかれたと思ったのだろう。が、実際にはメリエルとの距離はかなりある。 何も無い場所に大太刀を振りぬき、その態勢は大きく崩れた。声がしたのに誰もいない驚きも重なり、単眼鬼の動きが乱れる。 それはどうしようもない隙に繋がった。 得たり、とリンスガルトが笑う。脚絆「瞬風」の力も借りて死角に回り込むと、脚を執拗に斬り付ける。 単眼鬼もすぐにリンスガルトを払おうと大太刀を振るうが、その攻撃を八極天陣で身構えていたリンスガルトはあっさりかわす。 「見た目によらず機敏なようじゃが、如何に貴様が武器を強化しようが無駄! 我が動きを捉えるなど出来ぬわ!」 嘲るように言い放つと、言葉は分かったか、単眼鬼が一つ目を歪めて大太刀を振るおうとする。 単眼鬼が間合いを詰める前に、動きが鈍った。フェンリエッタの呪縛符が絡まったのだ。 間合いを詰めたのはリンスガルトだった。倍以上ある単眼鬼の身を蹴り付け駆け上がると、百虎箭疾歩の要領でその勢いのまま刃で斬り上げ、中空で刀を返すと最上段から振り下ろした。 懇親の一撃は、傷ついていた単眼鬼にさらに痛手を負わせた。 ふらつき前のめりになる単眼鬼に、もはや力は無い。下がった首目掛けて、止吉は示現の刃を振るい落とす。 一刀で、単眼鬼の首が飛んだ。 「大賞首、とったどおおお!」 ごろりと転がった大首を止吉は掴みあげると、四方に響き渡る声で高らかに宣言した。 ● 首領がやられ、アヤカシの敗北は決定した。 残った小鬼はもはや片手で数えられるが、彼らは一様に震えて一も二もなく逃げ出し始めた。 「だから。逃げられると思うなよ」 余計な手間をかけさせられ、蒼羅が軽く顔を顰める。けれど、行動は素早い。たちまち間合いをつかむと、逃げる小鬼を纏めて仕留めていた。 「皆様、お体は大丈夫でしょうか」 雪那がどこか緊張した口調で、気遣ってくる。人であったら血相変えていたかもしれない。 単眼鬼相手も小鬼相手も、完全に無傷の勝利とはいえない。フェンリエッタと共に治療に当たる。 少しの休息をとった後、いよいよ廃寺へと足を踏み入れる。 残党がいないか辺りを確認するが、その気配は無い。 花緑はそのまま墓地の裏手へ慎重に進む。 「――お騒がせしました。これにてできたご縁です。後ほど、改めて参らせて貰いますよって」 花緑は心を静めて手を合わせる。 並ぶ墓石は崩れかけている。廃寺になる前にたいていは供養できる寺に移されているのだが、縁無くそこに居続ける場合もある。 それは後ほどきちんと調査するとして、花緑は寺の中へと向った。 外同様に荒れ果てた寺は、鬼たちが居座ってた痕跡を残している。 そして、広いお堂には奪われた鐘が無造作に転がされていた。 「目立つ破損は無いようね。――それにしてもあの鬼たちは本当に頑張ったわね。ちょっと感心しちゃうわ」 状態を確認してほっとしつつ、フェンリエッタは軽く肩を竦めてしまう。 一度に運ぶのはさすがに無理。巨大な鐘はさすがにこの人数でも運べそうに無い。 とりあえず運べるだけの鐘を乗せると、念の為の見張り役を残して、一同は一旦近くの人里へと向う。 鐘を奪われ鬼が出る、とあって、近くの里は報告待ちの依頼人がやきもきして待ち続けていた。 そこへ鬼を無事退治し、事情を説明すると、二つ返事で人手やもふらを用意する。 かくて、鐘は無事に廃寺から人里へと戻され、各寺へ送り届ける手筈も整えられる。 寺に戻ると僧侶は喜び、早速戻ったことを皆に伝える為、鐘が元通りに設置され、鳴らされる。 「いい音ですね」 遠くの山にも響く重厚な音に、メリエルはしみじみと告げる。 時と共に、その音も広がる。脅威が去った。その報告と共に――。 |