【魔法】守れ、秋の味覚
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/28 20:17



■オープニング本文

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


「柿が食べたいもふ」
 そうもふらに頼まれた。
 木登りできないもふらに代わり、柿を取ってやろうと山に入った開拓者たち。
 が、どこを探しても実が見つからない。――木はあるが、実が無いのだ。それどころか、栗もきのこも何も見当たらない。
 つい先日までは、収穫を楽しみに待つほど目についた。これは変だと騒いでいると、高らかに笑う声が一同にふりかかる。
「おーほほほほ! 悠久の時を越え、ここに復活、酒天童子。なお呼び名はサケゾラ ワラベコであり、どこぞの呑んだくれ修羅とは無関係ですから!!」
 よく分からない自己紹介を済ませると、童子は苦々しく語りに入る。
「憎むべきは朝廷! 恨むべきは朝廷! 人のこと酢漬け塩漬け酒漬け味噌漬けに封印した挙句、五百年も放ったらかし! 花の青春、樽の中で過ごす側の気持ちにもなれってものよ!! なので、奴らに復讐する妙案を思いついてみました! すなわち! 秋の味覚食べつくし!」
 ……それのどこが、復讐なのか。
 そう言いたげな一同を察したのか。すんなりと理由も話してくれる。
「何かと風流を気取るヤツラは旬の食材が好きなのよ。つまり、秋の味覚を食い尽くせば、ヤツラは平凡な普段食でがっかりすること間違いなし! わざわざ乗り込まずともヤツラへの復讐はなしとげられるってもんよ!」
 またもや高笑い。
 ずいぶん安っぽいいやがらせだが、童子はやる気満々だ。
「そんな邪悪なことは許さないもふ! 開拓者さんたち! もふに代わって、あいつを成敗するもふ!」
 憤るもふらに、開拓者たちも腹を決める。
 朝廷への忠義だけではない。秋の味覚を食い尽くされてまず困るのは庶民だ。もちろん、自分たちもそれに入る。
 ここは童子を捕まえて、改心させるか、味覚を味わえなくなるまでどうにかしなければ。
 が、殺気立つ開拓者を前にしても童子は余裕を失わない。
「ふふふ。何故計画をべらべら喋ったか。それは邪魔なんてさせないからよ! 偉大なるかぼちゃ大王よ、我に力を!! パンプキンマァジーーーック!!」
 謎の呪文と共に杖を振り上げれば、ぶくぶくと周囲が泡にまみれる。
 その泡を夢中でかき分けると、仲間がいない。それどころか、泡をかきわける自分の手もハサミに変わっていると気付く。
 なんと、開拓者たちはカニにされてしまった!!
「うっ! 何だか美味しそうだけど、冬の味覚は後回し。さあ、待ってて秋の味覚。すべて食い尽くしてやるわ!」
 不自然に目をそらすと、童子は都へと走り去っていく。
 このままでは都中の秋の味覚が童子によって食い尽くされ、邪魔する者はカニに変えられてしまう。
「もふ、どうしたらいいもふ?」
 おろおろとしているもふらさま。
 その姿を見て気付く。童子の魔法がかかっていないようだ。
 人間以外には効果は無いのだろうか。だとしたら相棒たちの助けを借りたら、どうにかなるかもしれない!!
「……おなかすいたもふー」
 そんなもふらは、なんだか妙な視線を開拓者たちに向けている。
 横歩きでカニカニ歩きながら、開拓者たちも都へと急ぐ!


■参加者一覧
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
小苺(ic1287
14歳・女・泰


■リプレイ本文

 カニ。
 硬い甲羅に、多足でハサミを持ち、横に歩く水辺の生物。
 年中取れる代物ながら、冬の味覚で鍋と食べるイメージが強い。基本的には美味しそう。
「わらび粉だか腹ぺこだか知らないけど、何故カニなの? どうしてカニなの? でもカニ鍋になってもふらに食べられる最期も悪くないかな……」
 つぶらに変わった目が悲壮感を漂わせる……かも今一理解しがたいカニの姿。
 妙な覚悟をフェンリエッタ(ib0018)は決めている。
「神父様あぁぁぁ。何故そんな姿に!? ……あ、でも。私も迅鷹だった気がするから、言えた義理では無いのかしら」
 エルディン・バウアー(ib0066)を探して、山に入ったカラクリ少女のケルブは、銀髪をなびかせて金色のズワイガニに駆け寄る。
 じっと見つめる赤い目は最初こそ驚きの表情を表していたのに、徐々になんだか捕食者のそれに変わってくる。
 気付いたエルディンは怯えながらハサミでガード。
「そんな目で見ないでくださいよ。かくかくしかじかのこういう訳で、酒天童子を捕まえて私を元に戻してください」
「わ、分かったわ。でもこれは神父様の為じゃないわよ。あくまでそのままではどの腕と組んで歩けばいいかも分からないから……でもなく! と、とにかく、急いで都に向かうわ!」
 泡を吐きつつ事情を説明するエルディン。
 表情硬く頷くと、ケルブはカニなエルディンを抱えて、都へと飛ぶような速さで駆けて行った。

「美味しそうもふー。ちょっと美味しくなさそうなのもいるもふ?」
 柿は残念だが、それより美味しそうに変身した開拓者たちを、幸せそうに見ていたもふら。
 その視線が、一点に止まり、そのまま首を傾げる。
 そこには確かにカニがいた。勿論それもルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が変身させられた姿。
 だがその姿はあまりに巨大な上、形は甲殻類でもまとう外観は硬質で金属的に見えた。どこぞの大型看板のようでもある。
「あははは、カニにされたよ。 カニカニ〜! ……って。あれ、動けない?」
 変化しても動じる事無く、むしろおもしろがって笑っていたルゥミ。
 けれど、動こうとしても動けない。はたから見ていても、動こうとしている気配はあっても、微動だにしない。
 意識はある。話せる。――でも動けない。それは、さすがに困る。
 何とかしようとルゥミはがんばるが、それでもやっぱり動かない。
「落ち着くのじゃ、ルゥミよ。どうやらお前はロボのパーツに変えられたようじゃ」
 解析を終了した滑空艇・白き死神が、滑空艇形体から人型形体へと変形し、事情を伝える。
 老人の外見をした白き死神は、静かにその手をルゥミに添える。
「この姿であればこそ叶う。今こそわしと合体し、ワラベコとやらを追いかけるのじゃ!」
「パーツ……。そうか! うん、分かったよ、白き死神!」
 疑う必要も無い。強く答えると、ルゥミと白き死神の声が高らかに和する!
「「合体!!」」
 エフェクトがかかり、パーツが複雑に変形すると、白き死神と一体化。
 瞬く間に、背中から四対の脚と一対のハサミが生えたロボが完成した。
「ゆくぞ!」
 言うが早いか、空へと飛び立つ。
「にゃー。待って欲しいにゃ。小苺も連れて行って欲しいにゃ。あのちんちくりん、許さんにゃ!」
 小苺(ic1287)も怒りのハサミを振り上げながら、駿龍・舞風(ウーフェン)に騎乗する。
 とはいえカニが乗るには龍は大きすぎ、手綱を持つにはハサミも不便。それを助けるのは神楽の都で知り合った猫又さんだ。
「猫又さん、いずれ相棒に欲しいにゃ。でも、今は応援を頼みたいにゃ。報酬もちゃんと後でご馳走するにゃ」
 友情を感じたか、ご馳走に釣られたか。ひとまず小苺の申し出を猫又さんは了承した。
 持つべきモノは良き友か。猫の手ならぬ、猫又の手は十分役立った。
「グァウ!」
 一声かけると、カニと猫又を振り落とさないよう丁寧な飛行で舞風は都へと飛び立つ。
 
 ……気付けば、カニはフェンリエッタだけ。
「どうしようか」
 むなしく空を見上げていたフェンリエッタに、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)のもふら・KVが告げる。
「もふ。とりあえず鍋に入るもふ?」
「カニ鍋禁止ー!」
 その間に、人妖のウィナフレッドが飛び込んできた!
「な! どうしてウィナがここに居るのかしら!?」
「それは……かk、蟹リエッタが心配で!」
 という割に、目をそらしている。こらえるように頬もひくつく。
 その意味を察して、フェンリエッタはハサミを鳴らす。
 だが、そこで問答してる場合でも無い。
 そばには又鬼犬もフェランが尻尾を振って待機。さらに木では迅鷹のブランスィーカもなにやら青い瞳に怒りを燃やしている。
 彼らの思いを受けて、フェンリエッタも胸の内を決める。
「そうね。……さるかに話はあるまいし。ああ、そうね、あの悪戯猿に因果応報の意味を思い知らせてあげましょう。――やられたらやり返す!」
「倍返しだ!」
「ワウ!」
 声高らかに宣言するフェンリエッタ。人妖の声が重なり、又鬼犬も高らかに吠え、迅鷹も激しく翼をはばたかせる。
 その思いは同じ。けどフェンリエッタが口から泡をふく姿を見て、ウィナフレッドはやっぱり目をそらした。
「そうじゃ! 折檻して思い知らせてくれようぞ!」
 更なる怒りの声が響くや、大岩が一つ粉砕された。
 そのそばにいたのはカニ……ではなく、人間大のシャコ! リンスガルトが変身させられた姿であった。
「ぐあぁぁあ! 妾の美貌が台無しでは無いかああぁぁ! 目が、目が腐るかと思ったぞよ!」
 一体魔法がどう作用したのか、彼女だけカニでない。
 シャコ姿のまま、リンスガルトが悶絶する。
 その様をKVはじっと見つめている。――よだれも見えるのは何故だろう。
「ようやくこの姿の扱いにもなれた。岩をも砕くこのシャコパンチで、たっぷり折檻して、妾を元に戻させるのじゃ! このような姿にしたこと、死ぬほど後悔させてくれようぞ!」
 怒りと恨みとその他もろもろの感情を噴出させて、リンスガルトもまた都へと赴いていく。
「……はっ。リンスガルトお嬢様、待ってくださいもふー」
 なにやら幸せそうに見ていたKVが、我に変えると急いでリンスガルトの後を追う。
 フェンリエッタも相棒たちの手を借り、童子の捜索に乗り出す。


 何とか都まで戻ってきた開拓者たち。
 一体、童子はどこで秋の味覚を食い尽くしているのか。
 リンスガルトは、シャコらしく飛び跳ねながら神楽の都を駆け巡る。
 神楽の都人たちは奇異の眼差しで見ているが、それにはリンスガルトは意に介さない。
 そして、
「大きなエビもふー。美味しそうもふー!」
「えぇい、邪魔するでないわー!! ついでにいえばエビでは無い! シャコじゃ!」
 目を輝かせて走ってくるもふらにも、容赦の無いシャコパンチ。虹色に光るよだれをたらしながら、大きなもふらが手高く舞って地面にダウン。
 その容赦のなさに、さすがのもふらたちも恐れおののく。

「こっちにはカニがいるもふー!」
 カニと聞き、もふらたちが一斉に走り出す。パンチに倒れたもふらも即座に起き上がる。
「ちょっと、こちらに来ないでちょうだい! ああ、空を飛べないって面倒だわ」
「ケルブ、そんなに私を振り回さないで下さい。脚が取れ……」
 カニエルディンを抱えるケルブに、もふらが群がる。蹴散らそうとケルブが奮戦しているが、武器代わりにか思わずエルディンを振り回している。
 哀れエルディンは目を回しながら、泡を吹いている。
「カニに手を出したら鍋の出汁にしちゃうよ」
 同じく見つかったカニフェンリエッタを守る為、ウィナフレッドが叫ぶ。
 彼らを背に乗せて、移動の足となっていたフェランも牙を見せる。――そちらは単に退屈してのあくびかもしれないが。
 けれど囲むもふらは減らず、噂が広まったか、むしろ増えていくばかり。
「あのあの。もしもですね! 酒天童子を見つけて私が元に戻ったら、教会でお菓子をたっぷりご馳走しますよ。だから協力してくれませんか?」
 早く元に戻りたい。
 その思いで、エルディンはもふらたちを味方につけるべく交渉する。
 ケルブに振り回されるのも困るが、囲むもふらたちの視線も怖い。
「もふ? それなら向こうでマツタケとさんまを焼いて、栗ご飯を頬ばって秋の食べつくしをしている子がいたもふ」
「それだわ! そこに案内して!」
 首を傾げるもふらに、フェンリエッタが泡を飛ばしてハサミを振り上げる。
 もふらに案内されて、急いで現場へと向かった。


 料理店が立ちならぶその場所は、なんとも腹を刺激する美味しそうな香りが漂っている。
 においに釣られたもふらたちが、ごろごろとしているなんとものどかな通り。なのに、今はそこかしこで悲鳴と罵声があがっている。
「このままではすべての食材が食い尽くされてしまう!」
「畜生、金払え!」
 店主が口々に涙目で訴える。その中心には酒天童子の姿があった。
 店に置かれた食材を次々に胃袋に収め。けど外見が変わらない異次元仕様。
 たまりかねた店の者が、抗議でも入れようものなら即座に杖を一振り。たちまち、うるさい外野含めてカニに変える。
 カニが右往左往すると潰さないよう見物客も慌てるし、もふらも興味深くおいかけまわして騒動を大きくしている。
「ふん。これも全ては復讐の為。文句があるなら、朝廷に言いなさい!」
「ふみゅふみゅ。つまり、封印されたことを恨んでいるのにゃね」
 箸を休めず、食べ続ける童子。
 その隣では、小苺や舞風、猫又さんとそのお友達がサンマ料理を食べている。
 見つけたのはいいが、小苺がまずやったのは白旗を振り上げること。
 要はさっさと降参したのだ。
 その際サンマ料理を要求した所、あっさり分けてくれた。一人で食べるのに飽きていたらしい。
「でも、もし封印されなかったら、今ここにはいなかったにゃ。それがイヤなのかにゃ?」
 首を曲げようとし……カニのままなので、出来ず。小苺はなんだか身悶えたように脚をばたつかせる。
「それはそれよ。柿も栗もマツタケも美味しいけれど。それはすなわち、封印された期間、しっかり旬の味を食いそびれていたということ! そんなの許されようか!! かくなる恨みをぶつけるべく、さて、次はどこの店を食べてやろうかしら♪」
 童子の握った拳がばっかり箸を割る。 舌なめずりをして、並ぶ店舗を見渡す。
「そういうものなのかにゃ?」
 大変そうにつぶらな目で見上げつつも、小苺はせっせとサンマをほぐすハサミの動きは止めない。

 そこに空から無数のビームが降り注ぐ!

「見つけたよ、ワラベコ! おとなしくこの体を元に戻……ってあれぇ?」
 空から降りてきたルゥミ合体の白き死神。カニ合体をしたまま童子に詰め寄ろうとした。
 が、すぐに異変に気付く。
 童子には怪我も何も無い。代わりに、周囲でうろついていた店主やなにやら剣呑に目をぎらつかせている。
「朝廷がなんぼのもんじゃー!」
「労働者の力、思い知れー!」
 口々に朝廷への不満を出し、武力行使に飛び出していきかねない雰囲気。
「蟹光線は団結して王朝を打倒し、革命を起こしたくなる衝動に駆られる効果がある。40体の目標を追尾し、10対の目標を同時攻撃可能なところを、童子一人にすべてぶつけたが、どうやらすべてあの杖の魔法ではじいたと見る。――マルチロックオンシステムにエラーは無い。百発百中の精度を、魔法で誤射にするとは」
 事態を察し、白き死神に、焦りに似た雰囲気が混じる。
 このまま光線を放ってもまた同じことが起きる。やがては徒党を組んで、本当に王朝を倒しかねない。
「おーほっほほ。策士、策に溺れるというヤツ? 手下を増やしてくれてありがとう♪ さあ、あんたたち! 皆で秋の味覚を奪うのよ!」
「うぉおおう!」
 高らかなに笑う童子に答え、朝廷撲滅に燃える一般人たちが次々と店を襲い、秋限定料理を作り始める!

「さようなこと、許さぬぞ!!」
 その頭上を軽く跳び越し、特大のシャコ……ではなく、リンスガルトが降って来る。
 落下にあわせて、ハサミを繰り出す。強烈なパンチを、しかし、寸前で童子は避けた。空振りしたパンチは地面をえぐり、土砂を巻き上げる。
「ジャブ! フック! ストレート! アッパー! クロスカウンター! テリオス! ファントム! 行くわよ、レインボー!!!」
 かわされても、次々と繰り出される必殺のハサミ。
「見つけたわ! 神父様を元に戻しなさい!」
 そこに、ケルブが現れた。動くのに邪魔な荷物を投げ捨てると、限界突破を行った上で、童子に突壊攻をしかける。
「うぐっ!!」
 二人相手はさすがに荷が重かったか。パンチと突撃の二手を受けて、童子の体が宙に飛ぶ。
 ひらり、屋根の上に降り立つと、そこからリンスガルトとケルブを睨みつける。立ってはいるが、ダメージは入っている。 
「シャコとからくりが生意気な! 邪魔をするなら容赦しないんだから!」
 忌々しげに童子が杖を突き出す。

 そして、飛び出してきた迅鷹があっさりと杖を奪い去る!

「ふえ? ……ええええぇ!?」
 からになった手にしばし呆然。
 取り返そうと童子が手を伸ばすが、その頃には迅鷹は更なる高みから羽ばたきで風を起こして妨害。そのまま逃げさる。
「よくやったわ、アスカ」
 舞い降りた先は、フェンリエッタは褒める。泡がシャボンのように輝いて弾く。
「ちょっと、返しなさーい! 人の物を取るのは泥棒!」
 屋根の上で童子が怒るが返す訳がない。
「あなたに言われる筋合いは無い!」
 真っ当な台詞と共に、ケルブが壁を蹴って駆け上がってくる。突撃の勢いのまま屋根を粉砕する。
「くっ、このままでは不利。ここは戦略的撤退を……」
「させないにゃ!」
 地面に降り立ち、逃げかけた童子に迫ったのは、先ほど仲良く秋料理を頬張っていた小苺だった。
 多足の脚で仕掛ける疾風脚。油断があったか、童子の動きが鈍る。
「何すんのよ。サンマ分けてあげたじゃない!」
「にゃふ、猫は気まぐれにゃ♪」
 悪びれなく告げると、すかさず空気撃。
 何とか耐えたが、そこにすかさずケルブが突っ込んでくる。
 避け切れず、吹っ飛んだ童子が地に倒れる。
「白き死神! 接近してアーマーパージ!!」
 好機と見るや、ルゥミは童子に近寄り白き死神と分離。そのまま、倒れていた童子に強制的にパーツに組み込む。
 もちろん、童子との合体は正規では無い。たちまちまともに動けなくなる。
「離しなさいよぉ」
 と言われて離すはずもない。
「押さえてる今の内に!」
 もがく童子に、リンスガルトが怒涛のパンチを決め、カラクリ少女やなぜか等身大になっている人妖、迅鷹も加わって一斉おしおき大会が繰り広げられる。

 その勢いに乗り切れず、フェンリエッタは又鬼犬と一緒に遠巻きで騒ぎを見守っていた。
「はぁ、すごいわねぇ。もう仲良くカニ鍋でいいと思うわ」
「そうもふ。御鍋も美味しいもふ」
 KVも同意し、鍋の具を分けてもらっている。
 蟹光線で童子に同調した人々も、助ける気持ちは無いらしい。巻き込まれると危ないという意識は残っているのか、仲良く鍋をつついていた。
「そういえば、神父様は……」
 ふと気付いたケルブが自分の手を見る。抱えていたはずの神父様はいつの間にかおらず。どこにやってしまったかと周囲を見渡すと。
「あぁぁあ、熱い。あーついーーー。神よ――、お助けを――」
 秋の味覚が放り込まれた鍋の中、見事にはまって煮えている黄金の冬の味覚を見つけてしまう。
「きゃああああ! 食べないでぇえええええ!!」
「もふ?」
 珍しいカニだと口にくわえたKVに全力疾走。何とか主人を取り返す。


「あうあう。魔法よとけろ〜」
 童子が返してもらった杖を振る。皆からぼこぼこにされて逆らう気力も無い様子。
 カニになっていた開拓者たちは、こうして元に戻りほっと胸をなでおろす。
「はぁ、ひどい目にあったものです……」
「神父様、しっかり。でも、美味しそうでしゲフンゲフン」
 湯だって疲れ気味のエルディンを支えるケルブ。
「ところで、ウィナはどうして等身大なの」
「キノコチョコ食べたらこうなったの」
 目線が同じになった人妖にフェンリエッタが首を傾げる。その動作も久しぶりに感じながら、満足そうに笑っている相棒たちを見つめる。
「蟹光線の効果も切れる。ひとまずは解決じゃ」
「とすると、後は残った秋の味覚だね」
 白き死神とルゥミの言葉通りに正気に戻る一般人たち。戻らないのは、食い散らかした秋の味覚。
 きちんと食べられたならしょうがないが、調理途中など中途半端に放置されてるのも多い。放っておいては捨てるぐらいしかない。
「もふもふ。でも美味しいもふ。皆で食べるもふ」
 KVは作りかけの料理にも気にせず鼻を突っ込む。
「そうじゃな、仲直りの意味も込めて。童子もどうじゃ? 残念ながらカニは無くなったがの」
「でも、サンマはやっぱり美味しいにゃ。舞風もそう思うにゃ?」
 リンスガルトが笑って告げると、エルディンが密かに身震いする。
 小苺はっさとサンマを頬張り楽しんでいる。舞風や協力してくれた猫又たちにも振る舞っている。
「ふ、ふん! ここは負けを認めてやろうじゃない。でも復讐を諦めた訳じゃない! いつか必ずやっつけてやるんだからー!」
 あからさまな捨て台詞を吐いて、童子は一目散に逃げていく。
 いずれまた何か騒動を起こすかもしれない。が、あれだけ仕置きされれば当分は出てこないだろう。

 迷惑な夢も、いずれ目覚めて消える。消える前に、今は訪れた秋の楽しみを満喫だけだ。