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■オープニング本文 とある山のキャンプに出かけてみた開拓者たち。 複数形になったのは、相棒たちと一緒だからだ。私用で来ているので、普段留守番の相棒も合わせて皆一緒ににぎやかに。 キャンプ場についてみると、同じ目的の開拓者や相棒たちもいっぱいいて、だったら皆で騒ごうかと、開拓者たちはふもとの街まで買い出しに行ってしまった。 相棒たちだけで御留守番。別に無理なことはない。御主人が帰ってくるのを待つだけ……だったが。 どこで天気を見誤ったか。 開拓者たちが麓の街で買物をし、さて戻ろうと店を出てみると横殴りの凄まじい暴風雨。雷が轟き、たまに山にも落ちたりしている。 唖然とするも手の打ちようが無く。開拓者たちはただ空を見上げる。 「最近急な雨が多いねぇ。しかも降ったら酷い降り方で嫌になるよ。しばらくすると止むだろうけど、それまで雨宿りしておいき」 地元のおばちゃんがお手上げ状態で告げるのを、開拓者たちは仕方なく聞き入れていたが。 「大変だー。土砂崩れで道がふさがれた!!」 入ってきた報告に、一同騒然となる。 幸い、土砂崩れに巻き込まれた人はいない。けれど、完全に道はふさがれていて、復旧には時間がかかるという。 だが、開拓者たちは喜べない。 その間、道は使えない。ふさがれたのはよりにもよって、キャンプ場に通じる唯一の道だったのだ! ● 「どうしよう」 キャンプ場には相棒たちをおいたまま。彼らを一体どうすればいいのか。 迎えに行きたい。けれど、道は無い。ここを越えても、その先で道が崩れたりしてないだろうか。 だとすると、山中を無理矢理進むか。しかし、整備もされてない山を行くのも危険だ。縦穴や崖に急勾配。雨によるぬかるみに、落雷による倒木も予想される。遭難してしまう可能性は十分ある。 空を見上げると、雲が凄まじい勢いで彼方に流されている。風が強い。この辺りでは、雨が収まっても数日は妙な風が吹いて荒れるらしく、飛翔する相棒がいても空を飛ぶのは危険だろう。 とすると、信じて待つべきだろうか。そもそも下手に迎えに行けば、すれ違う可能性もある。キャンプに来たので多少の備えもしてあるが、水は井戸だし、そもそも長期戦は考えてきてない。さて持つだろうか? 「どうすればいいんだー」 大事な相棒たちと離れてしまい、開拓者たちは大いに悩む。 そして、それは相棒たちだって同じこと。 話す相棒も話せぬ相棒も、皆思いは同じだった。誰の相棒関わらず、顔を突き合わせて緊急会議。 雨ざーざー、雷ごろごろ、風びゅーびゅー。テントは吹き飛ばされそうなので、管理用の小屋の周囲に避難はしてみたが、それで不安が晴れる訳でない。 大きな物音がしたので帰ってきたのかと思えば、道に土が流れてきてたり、木が焼け焦げて倒れていたり。 うろたえている内に、雨風は少し弱まってきた。 けれどご主人は帰ってこない。 もしかして、途中で何かあったのかも。 様子見に行きたくても、道はぬかるみ崩れた土砂は泥の山。風は強く、飛べる相棒も決断をためらう。 無理していくか、それとも待ってみるか。 「あれ、これ道じゃね?」 そんな中で、誰かが発見した細い道。来た道とは違うけど、どこかに通じているのかもしれない。文字が読める相棒がいるなら、「立ち入り禁止」の札を見つけただろうけど、何故入ってダメかは分からない。 長く使ってないようで道は草茫々。でも、下まで続いている……ように思える。 行くべきか、行かざるべきか。待ってたら帰って来るのか。それとも、ふさがれた道をなんとか飛び越えてみるとか? 雨は止んだが、風は強く。 伝達手段も思いつかないまま、主人と相棒、離れ離れ。 さて、これからどうしよう? |
■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
猪 雷梅(ib5411)
25歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471)
25歳・男・砲
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
ジャミール・ライル(ic0451)
24歳・男・ジ |
■リプレイ本文 キャンプに赴き、そこで出会った開拓者たちと話が弾み、共に麓の街へ買出しに出かけた。 買い物済んで、さあ戻ろうという段になって。ようやく外の異変に気がつく。 「俺の名はダイリン! 人呼んで赤い花のダイリン様……よ……。っていうかどうしてこうなった……」 普段は強気で前向きな赤い花のダイリン(ib5471)だが、この時ばかりはさすがに弱った表情で空を見上げた。 いつの間にか豪雨となっており、雨宿りを余儀無くされた。ようやく止んで、急いで戻ろうとすれば、なんとキャンプ場への道が土砂崩れで塞がれたという。 開拓者たちは無事なので、このまま帰ることも出来る。荷物は、土砂が取り除かれた後、取りに来ればいい。 が、キャンプ場に大事な相棒たちも残したままだ。さすがに置いて帰ると後が怖い。 「ついてねぇなぁ。ま、うちの春雷はこの程度じゃあ動じねぇだろうよ。こっちは酒盛りしながら待つってのもありかもなぁ」 まだ不安定な空模様。それを吹き飛ばすような豪気な笑いをあげると、猪 雷梅(ib5411)は酒の準備を始める。 「折角の休みだったんだが、これでは休めないな……。カティなら大丈夫と思うけど」 骨休めのはずが、とんだ難儀を背負い込んでしまった。 心配そうにしていた鞍馬 雪斗(ia5470)は、なびいて乱れる髪を押さえる。 木々は枝葉を鳴らして揺れ、空は雲が千切れんばかりに流れて行く。雨は止んだが風がきつい。時折、立っていても飛ばされそうなほど強い風が吹きつけてくる。 「せめてこの風が無きゃな……。災難というには、軽いけど」 人妖のカティでは飛ばされるのではないか。吹けば飛ぶような信頼は築いてないが、物理的に飛ばされて怪我をされて欲しくは無い。 「あいつ……、迷惑かけてなきゃいいけど」 竜哉(ia8037)も、迅鷹の光鷹を思う。 「焦ったって、どうにもならねぇよ。なんか甘いもんでも食って落ち着きなって」 他の開拓者に比べ、ジャミール・ライル(ic0451)はのんびりと構えている。 迅鷹のナジュムとは、普段から互いに干渉しない。ここに来てもそれを崩すつもりはない。 大体、ナジュムならふてぶてしく過ごしていると想像つくのに、自分だけが慌てるのも変な話だ。 「そうはいっても、向こうが一体どうなっているのか」 竜哉はキャンプ場の方に目を向けるが、さすがにここからでは様子は窺えない。 無事なら、キャンプ場には他の開拓者の相棒もいる。彼らと一体どう過ごしているのか。 「今は相棒の無事と……皆の相棒に迷惑をかけてないか、祈るしかないな。こっちは再開を願って、復旧を手伝おう。どのみち見過ごせるものでもない」 「そうだね。それも開拓者の仕事……。もっとも、今回は依頼じゃないから無報酬になるのかな」 肩を竦めたウルグ・シュバルツ(ib5700)に、雪斗がそれも仕方ないと軽く頷く。 土砂崩れの手伝いを申し出。麓で待つならその間の宿も欲しい。 それらの交渉を重ねている内に、ジャミールがあることに気付いて周囲を見渡す。 「……。そういえば。さっきから二人ほど姿を見なくなったような?」 村にいた開拓者は六人のはずだが、いつの間にかダイリンと雷梅がいなくなっていた。 「それが、二人して何やら大慌ててで山に入ったようなんです」 心配そうに雪斗が告げる。見ていた人の証言では、最初ダイリンが山へと入ろうとして雷梅が止めていたようだが、いきなり声を上げると今度は雷梅の方がダイリンを連れて山に飛び込んでしまったらしい。 道は土砂崩れで塞がれている。なので、道も無い所からキャンプ場へと向かうつもりなのか。 先の雨で土はぬかるんでいるし、雷の倒木もある。慣れた者でもけっして楽な手段ではない。 「それだけ相棒が心配だったか」 「開拓者なのだし、無茶はしないと思うけど……」 何やら感心したようにウルグは告げ、竜哉はかすかに首を傾げる。 二人の行方も気になる。が、追っていくよりも土砂崩れやすれ違いを心配し、彼らは麓で待機を選ぶ。 相棒が心配になった雷梅とダイリンは、山の道無き道を行く。 ただし、『相棒が心配』にもいろんな意味がある。 「何つっても、あいつの食い意地の張りっぷりは折り紙付きだからな。うちに来るきっかけも俺の畑の果物がつがつ食ってたところを捕まえたのがきっかけだからな」 羽妖精の白葉との出会いを思い出し、ダイリンは表情を険しくしていた。 見越して、キャンプには御菓子も持参している。食い意地のはった相棒は、恐らくそれを食べながらおとなしくしているだろう。……ただ、それが無くなった時、次に何に目をつけるか。 「あいつに馬肉になってもらっちゃ困るんだよ! 視界は悪いが、登れねぇ訳じゃねぇ。ダイリン、急ぐぞ!」 大まかな方角だけを頼りに、雷梅は立ちふさがる崖にも負けじと手をかけ登っていく。 雷梅の霊騎・春雷との初対面時、白葉の第一声は「馬肉」だった。 春雷は、雷梅と幾度となく喧嘩を繰り返した気性の荒さを持つ。小さな羽妖精相手に、遅れをとるはずがない。 ……のだが。万一もある。相棒しかいない今の状況。いったい何をしでかすか。 だが、やはり無謀すぎたか。 崖の途中で、雷梅が足を滑らせ、その体が宙を浮きかける。 とっさに後に続いていたダイリンが下から支える。それで雷梅は事無きを得たが、代わりにダイリンが姿勢を崩してしまう。 「くそ。俺なら平気だ! 先に行け! 相棒の所へ急ぐんだあぁ!」 「ダイリーーーン!」 言うが早いか、ダイリンが手を滑らせ崖から滑り落ちていった。雷梅が手を伸ばすが、勿論届かない。 張り出した木の枝が邪魔をしてどうなったかは分からない。だが、ダイリンならきっとうまく対処して、無事でいるだろう。 「……。くそっ! 来なかったら承知しねぇからな!」 悪態をつきつつ、雷梅は崖を登る。今は信じて進んだ方がいい。そう判断した。 ● 豪雨となり、雷鳴が響き、暴風が吹き荒れる。 そうなっては外で待つのも難しく、屋根のある場所に相棒たちは集まる。 あまりの天候に、鬼火玉の咲焔は目を輝かせて、浮かれ気味にあちこちをうろついている。 時折強い突風に吹き飛ばされそうになり、慌てて他の相棒が抑えるが、それも寸の間目を離せばまたふらふらとしている。ウルグがいなくても平気なのはいいが、周囲の方が面倒そうにしている。 咲焔がうろつく以外はこれという騒ぎもなく。やがて、雨は止んだ。 が、どんなに待っても主人は戻ってこない。その気配すらない。 さすがに痺れを切らして、道まで様子を見に出た相棒は、その道が土砂崩れでふさがれたとようやく知る。 「どうしましょう?」 「とりあえず、食べる」 他の相棒たちの様子をうかがう人妖のカティ。主人の雪斗に似て、真面目だが自らが率先して行動を起こす性格でも無い。 羽妖精の白葉は気にせず、ダイリンの荷から菓子を引っ張り出し、さっそく空にしようとしている。 竜哉の相棒の光鷹やジャミールのナジュムといった迅鷹たちも、それぞれで羽繕いをしている。 雷鳴の霊騎・春雷も周囲は気にならないようで、時折たてがみを振るわせる程度。 どうやら、とことんマイペースな相棒が集まったようだ。 とすれば、このままとにかく主の助けを待つだけか。 麓で待っているかもしれないし、案外先に帰っているかもしれない。だが、ご主人全員誰も来ないとは考えにくい。一人ぐらいは事情を知らせに来るかもしれない。 そういう結論に至ると、それぞれすっかりくつろぎ始める。これから何か起こるまでは、さてどうして過ごそうか。 雨が止んでも風強く。 それすらも楽しむように、咲焔は他の相棒たちのそばをうろつきまわる。飛ぶ相棒たちを真似て飛跳躍で飛んでみたり、必要があれば火の粉で火もおこす。 炎の中に詰まっているのは、好奇心の塊のようだ。 湿気が気に入らず、ふてくされぎみの光鷹とは対照的に、あちらこちらへとふらふら飛びまわっていたのだが。 音を立てて、強い風が吹きつけてきた。 消し飛ばすような暴風を受け、咲焔は転がり流されてしまう。 「ピーーー!!」 目にしたナジュムがさすがに驚き、後を追う。山の中まで飛ばされ、危険な目にあうようなら見過ごせない。 が、幸い風が止むと咲焔も体勢を立て直す。驚いてはいるようだが、怪我もなく。落ち着けばまた好奇心旺盛にはしゃぎまわるだろう。 やれやれ、飛んだ取り越し苦労、とナジュムは枝に止まって羽を繕いだし……ふとそれに気付いた。 山にもう一つ道があるのを。 「道ですねぇ……。立ち入り禁止とありますけど」 知らせを受けて、カティは新たな道を調べ出す。 立て札は読んだ。『立ち入り禁止』とあるが、なぜそうなのかは分からない。 人魂で変化して少し行ってみるが先に続いているようには見える。ただ使われてないのか、荒れた形跡は見て取れた。 麓まで続いているのだろうか。が、そうでないのかもしれない。 実際どうなっているのだろうと、光鷹は空から偵察を試みる。 けれど、高速飛行で真上に飛びあがるも、しばらくすると吹く風に煽られてあらぬ方へと飛ばされてしまう。 地上から見ている方も慌てたが、何より慌てたのは光鷹自身だ。 風に乗ろうと翼を動かすも、乱暴な風は殴りつけるように迅鷹を飛ばし、どこかに運んでしまう。 金色の翼が山の中に消える。捜索に行くべきかと、うろたえる者も出たが、しばらくすると風に煽られない高度を保ち、妨げる枝葉は斬りおとしながら、迅鷹はどうにかキャンプ場へと戻ってきた。 「行けそう……ですか?」 「ギャギャギャ!」 尋ねるカティに、「やめておけ」と光鷹は押し留める。不快そうに羽毛を逆立てて、翼をしきりに繕う。ほとほと参ったようだ。 確実な道はといえば埋もれたままだ。ついでに確認に行くが、変化は無い。 カティも宙に浮ける。道がふさがれてもその上を飛んでいける。咲焔もそうだ。 それを阻むのが、気まぐれに吹きつけてくる突風だ。空に慣れた迅鷹たちですら飛ばされている。 暇を持て余したらしき咲焔が狼煙を上げるが、その煙を見れば風の強さが分かってしまう。 下手に道を外れると山は危険。外れなくても泥に埋まるのはちょっと嫌だ。 どうしたものかと迷っていると、ナジュムがおもむろに高く鳴いた。 「ケケー」 注目を集めると、そのまま小屋へと戻ってしまう。風を避け、これ見よがしにくつろぐ迅鷹。 「無理をしてもしょうがない。もうここはのんびり待つべきだ」 そう言いたいらしい。 咲焔はすんなり後を追い、真似して楽しげに弾みだす。 カティはちらりと光鷹を見る。光鷹は器用に翼で戻るよう促してきた。 やっぱり、ここで取る行動は一つらしい。 カティも頷くと、キャンプ場内へと戻った。 ● 道が通じるまでは、誰もやってきそうにない……と相棒たちは思っていた。 時間もかかるだろうしそれまで何をしようかと、半分諦めていたのだが。予想をくつがえして、たどりついた者がいる。 道でも何でもない所から、枝葉を揺らして迫る陰があった。 野生動物かケモノか。アヤカシでなくても、山の生物は危険なものも多い。気付いた相棒たちは、緊張して待ち構えた。 「や、やっと。ついた、ぜええええ!」 転がり出たのは、全身泥だらけ。両手を上げて雄叫びも上げる彼女は、疲労の色はあるが動作はしっかりしていた。 「あ、嫁だー」 気付いた白葉が声を上げる。途端に、雷梅がきっと睨む。 「その呼び方はやめろチビ! まだ嫁じゃねー!」 「その内なるのね。じゃあ、いいでしょ」 「いや、それは……。ともかく、春雷はどこだ。まさかもう馬肉に……!?」 無邪気な言葉に振り回されつつ、雷梅は相棒を探す。 その声を聞きつけたか。すぐに春雷も姿を現す。無事な相棒を見て、雷梅はほっと胸を撫で下ろし。 そして、気付く。 「……チビ。さっきから何食べてるんだ?」 「春雷の人参。持ってきたおやつはもう食べちゃった」 「誰だよ……食われちまうとかいった奴は……」 春雷も食事だったか、口をもごもごさせて同じ人参をくわえている。のんきな仲がよさげな相棒たちに脱力し、雷梅はその場で引っくり返った。 あちこち擦り切れ、傷だらけ。ここに来るのがどれだけ大変だったか、よく分かる。 「ヒヒン」 御苦労、と言いたげに春雷は鼻を鳴らして、雷梅に顔を寄せる。 倒れたまま眠りそうになっていた雷梅は、うっすら目を開けるとその鼻先を軽く撫でた。 ● 雷梅から麓の様子、主人の様子を聞く。相棒たちは誰ももう憂い無く、おちついた様子でキャンプ場に留まった。 土砂を取り除くのも手間がかかる。とりあえずでも人が通れるようになるまでは、さらに数日かかった。 「おーい。皆、無事かー?」 久しぶりに聞いた人の声。竜哉の声を聞きつけて、光鷹は高く鳴いて飛ぶ。 双方から残る土砂を手早く片付けると、キャンプ場に残していた荷物と共に麓の街へと引き上げていった。 改めて、麓の街で互いの無事を喜び合う。 咲焔は、ウルグの周りをはしゃいで飛びまわる。この数日は、かなりいい休暇になったと見える。 「咲焔が世話になった。本当に……感謝する」 その間一体何をしでかしたか。他の相棒や雷梅に向けて、ウルグは素直に頭を下げる。 真似するように咲焔もお辞儀するようにくるりと回転しているが……、意味が分かっているのかは分からない。 「天儀には雨季は無いと聞いていたけど、分からないものだねぇ。これからは油断しないで天気を読むか」 反省を交えつつ、ジャミールは戻ってきた荷物を手にして帰路に着く。声はかけなかったが、少し間を置いてナジュムも空へと飛び去って行った。 「……こんなことは、二度と御免……ですが……。少し、楽しかったです」 「そっか。それなら十分だな」 穏やかに笑みを見せるカティに、雪斗もほっと息をつく。 安心しきった様子で共に家へと帰っていく。 これにて休暇休養は終了。大変な事態になったがそれもいい思い出とし、また依頼を求めて開拓者ギルドに足を運ぶ日々に戻っていく。 ……はずだったが。 「ねぇ、嫁ー。ダイリンどこ?」 主の姿が見えず。白葉が雷梅の袖を引く。 「ああああーっ!! 忘れてたあああ!!」 「ヒヒヒーン!」 呼び名へのつっこみも忘れて、雷梅が叫ぶ。あまりの声量に、春雷も身を震わせ驚いて鳴く。 その頃。遠い山の中では奇しくもダイリンも叫んでいた。 「……。ここは……どこだぁあああああーッ!?」 崖から落ちたダイリンは、やはり無事だった。 無事だったが、そこからどう進んだのか。まっすぐのつもりが、いつまで経ってもキャンプ場へはつかない。 叫び声は誰にも届かず、返事は自分の木霊だけ。 ダイリンが家路につくのは、さらに先の出来事となった。 |