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■オープニング本文 蒸し暑い日が続く夏。 けれど、夜祭りが多いのもこの時期だ。連日のようにどこかで、花火や盆踊りやと祭りが催されている。 それは毎年繰り返される光景。 その村では、夏のこの時期になると、小さな灯篭舟を夜の川に流す風習があった。 祭り、のような華やかはない。が、故人を悼み供養する意味からして厳かな雰囲気こそあれ、騒乱は似合わない。 アヤカシの動きも活発な今、近隣からも亡くした家族親戚……恋人友人などを憂い、せめて安らかであれと村の行事に足を運び、参加する者も今年は多かった。 川を流れていく小さな灯篭。離れていく故人を思い、川一杯に浮かんだその数に胸を痛めながら、その場にいた人々は流れていく灯りを見送っていたが……。 「何、あれ?」 静かに見ていた人の中から、不意に声があがった。 川の流れに合わせて動く炎。それは淀みにつかまり、止まることはあったが、すべて一方向に動いていた。 なのに、川をさかのぼって動く炎があった。数は十か。 よくよく見るとそれは川のずっと下流から訪れてくるようだ。夜の闇に小さく灯っていた炎は見る間に大きさを増して近付いてきていた。 「あれは」 それは炎の塊。鬼火玉の類かとも思ったが、大きいものでは人の身の丈を優に越す。 夜の闇を煌々と照らし、流れる水面に姿を映す。 炎の集団は川をさかのぼり訪れると、流れる灯篭の上を通り越し、流した人々に迫る。 炎はたちまち人を囲むと、ぶつかり、炎を吐き散らし、攻撃を始めた。 「きゃああ!!」 下流に近い群集から悲鳴が上がる。 厳かな行事とはいえ、見物人も多かった。逃げる人々がてんでに騒ぎ、たちまち辺りは混乱状態になった。 吐き出された炎は、人を燃やし、転げ回る人を助けようとした人が逃げる人を遮る。あるいは炎が燃え移り、さらに悲鳴が増える。川に飛び込んでもそこに炎がふってきて体当たりで水に沈めようとする。 逃げる人たちの上空を飛び越えて先回りした炎が、火を吹きかけ、さらに逃げ場を失った人々がてんでに逃げ惑う。 厳かなはずの行事は、一転して炎の騒乱に包まれた。 何とか逃げきった人が、ただちに開拓者ギルドに連絡を入れた。 要請を受けたギルドは、すぐに開拓者たちに人々の救出に向かうよう動き出す。 「出たのは自爆霊だ。知らせの通り、空を飛び、炎のアヤカシで火をふいたり体当たりをしたりする。――それ以上に厄介なのがこいつらはある程度弱ると自ら爆発して周囲を道連れにしようとする。数も多い上に、人もいる場所で自爆霊されてみろ。惨事は免れない」 小さいものなら接触されなければ巻き込まれることは無いが、それでも志体持ちであっても危険な威力を持つ。 大きいものになると辺り一体に被害を撒き散らした上で、その威力も倍以上に増えると推測される。鍛えた開拓者であっても大きな痛手となるだろう。 当然志体持ちでない一般人が巻き込まれればひとたまりも無い。 自爆とは自死だ。それでアヤカシも滅びる。かといって、巻き込まれるのは勘弁したい。 「現場には逃げ遅れた人が多い。彼らの生命を優先しつつ、ただちに事態の収束に赴いてくれ」 厄介な敵に、守るべき民もいる。 少しでも手を増やす為に、相棒たちを連れて行く許可も得て、開拓者たちは現場へと急ぐ。 |
■参加者一覧
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
来須(ib8912)
14歳・男・弓
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ――ただちに事態の収束に赴いてくれ。 開拓者ギルドでそう告げられ、赴いた現場で開拓者たちが見たのは、飛びまわる火に逃げ回る無力な人々だった。 「人の多い時期はこれだから……」 うんざりと来須(ib8912)は川の状況を見る。 巨大な火の塊が、文字通りあちらこちらに飛びまわっている。もちろん自然現象ではない。 安全な場所へ逃げようとする人々を追い回すアヤカシたちの仕業だった。 故人を悼む水と火の儀式。その原因にはアヤカシが絡んだ事態も少なからずあるだろう。そこにさらに乗り込んでくるとはなんと無粋なアヤカシか。 「送り火はなんて言うんだっけ。川が燃えてるだったか?」 「静花にしては風情のある言葉選びですね」 何 静花(ib9584)に、相棒のからくり雷花は真面目なのか皮肉なのか分からない口調で、けれどきっぱりと断言していた。 「んじゃ、避難誘導は任せたぜ!」 一声かけると、ルオウ(ia2445)は滑空艇改シュバルツドンナーで現場に乗り込む。 駆け込んだ方角から、さらに逃げ惑う人々を軽く跳び越し、向こう側に回る。 飛びまわる炎は自爆霊。さほど強いアヤカシでもない……のだが、命が尽きると判断するや自ら爆発するという厄介な技を使う。 ただ、攻撃するだけでは人々を巻き込む。 まずは引き離すのが大事、と、咆哮を上げた。つられた敵をさらに人から離れた場所へと誘導する。 「カルマにもお願いするよ。時間稼ぎをよろしく」 主からぽんと首を叩かれ、空竜カルマは一声高く鳴く。 飛び込む相棒を頼もしく見送りながら、ユウキ=アルセイフ(ib6332)は地上で人々の避難に向かう。 アヤカシたちの注意がそれている内に、この場から一般人を逃がさねばならない。 カルマが自爆霊の気を引き遠ざかったのを見極め、すぐに戻って来れないようアイアンウォールを立てて回る。 「もう大丈夫、落ち着いて行動して下さい。怪我をした方は遠慮なく申し出て」 鉄の壁の陰から、ユウキは避難する人たちに呼びかける。治療が必要な怪我人には、レ・リカルをかける。 最も今はのんびりと癒している場合でもない。動ける内は早くと、避難を呼びかける。 分厚く頑丈な鉄の壁で区切っても、自爆霊は空を飛ぶ。跳び越されては意味が無い。 高く飛びあがった自爆霊が壁の上からユウキたちを覗くと、そこから火の粉を撒き散らす。 小型のアヤカシで力は無い。降り注ぐ火は、開拓者であれば防ぐのは容易かった。 「あ、熱ぅ!!」 だが、一般人には手酷い痛みになる。着物や髪も時には焼け焦げ燃えて、ユウキが慌てて消し止める。 そこに、壁を回りこんで一回り大きな新手が現れ、飛びかかってくる。 とっさにユウキは身構える。その前に迅鷹が割って入ってきた。 迅鷹はまといつくように自爆霊の周囲を飛びまわると、別方向へ行くよう、飛んで注意を逸らす。 「大丈夫か? 安心して治療に専念してよ。そっちには絶対に行かさないからさ!」 「わ、分かった」 力強い笑顔を見せてケイウス=アルカーム(ib7387)は、迅鷹のガルダに指示を出す。 追い回される人を見つけてはガルダに邪魔をさせ、自分は逃げる人を誘導する。 なるべく遠くへ、出来るだけ早く。遠くでうろたえている人にも、術で声を飛ばして逃げ道を伝える。 そんなケイウスの姿に、何故かユウキは懐かしいものを感じる。 一体どうして。いつ、何処で――と、記憶をたどりかけ……。はっと我に返り、急いで思いを振り払う。 今は思考にふけっている場合ではない。人々を逃がすのが先で、怪我人を癒すのが大事なのだ。 考えることは後でも出来る。皆と共に、ユウキは惑う人々を救いにかかる。 「大丈夫だよ? 怪我は無い? もう怖くないから、がんばって走って」 雷花は子供を中心に付き添い、怪我人があればユウキの元まで運ぶ。 こちらは相棒が避難誘導を行い、主人がアヤカシの注意をひきつけている。 静花はそこいらの小石を拾うと、手当たり次第に自爆霊に投げ付けている。小石といえども、開拓者が投げればそれなりの威力にはなる。邪魔をされて怒ったらしい自爆霊たちが、静花の周囲に群れを為した。 「回避は本業だ。特に面と向かったこの状態で、お前たちに捉えられるほどぬるい相手と思うな」 ぶっきらぼうに言い放ち、静花はふらりふらりと酒に酔った足取りで、自爆霊の攻撃を見事にかわす。 とはいえ、数が多すぎてもやはり面倒臭い。 「まずは一体。試しに倒させてもらう」 避難している人たちから大きく離れる。静花は周囲に注意を呼びかけた上で、ついて来た一体に素早く爆砕拳を放つ。 拳に気合いを込めて放つ鋭い突き。相手に触れるや、爆発を起こす技だ。 狙いは違わず。自爆霊のど真ん中を打ち抜き、放った気がアヤカシの身を震わせる。 と同時に、静花は瞬脚で一気にその場を離脱した。間髪入れずに自爆霊が震えると、音を立ててその身が四散した。 派手な火花を散らし、熱が風となる。上がる風圧が地面も抉り、河原の小石が飛び散った。 その破片から身を守りながら、静花はその威力を確かめる。 狙ったのは極小さい自爆霊のはず。だが、その威力はまともに浴びていたら痛いではすまなかったかもしれない。 「本当に厄介な相手だな。小型であれなら、大型の奴はどうなるんだ?」 忌々しげに、来須は相対している自爆霊を見る。大きさは自分の身の丈のさらに倍以上はある巨大な自爆霊。吐き出す炎も、小さな自爆霊がふりかける火の粉よりも苛烈で威力が違う。 見た目こそ派手だが、動きは遅い。その気になれば、いつでも攻撃に転じて始末できそうだ。が、遅いと侮り手を出せば、周囲一帯が弾け飛ぶ。 倒すには距離を置く必要がある。迅鷹のレアスに風斬波で気を引いてもらい、少しそれからは距離を置く。 「接近戦を旨とする我らには厄介な相手となりそうですな、姫様」 からくりの武蔵 小次郎がうむむと唸り、主の皇 りょう(ia1673)に呼びかける。 「その呼び名は止めなさいと……。いえ、そんな事よりとにかく今は避難が先。武蔵殿、誘導を頼みます」 自爆霊相手にりょうは、豪刀「清音」を振って挑発する。その隙に、小次郎は腰が抜けて動けない老人を助け起こして送り出す。 「姫様も無理はなさらず。万一の自爆対抗手段は考えておりますな」 「……」 一瞬、りょうの動きが止まる。 答えず、目を逸らしながらりょうはその場から立ち去る。すぐに自爆霊は追ってきた。 もし自爆されたらどうするか。急行したのであまり対策は練れていない。まぁ、今の所はこうして自爆しない程度に注意をひきつけつつ、相手をして留める程度で大丈夫だろう。 「本当に厄介な相手です」 忌々しげに小さく告げると、りょうは注意を引きつつ川の方へと引き寄せる。 ● 逃げる人を追って、自爆霊もまた河原から人里へと動こうとしていた。 そこに割って入った開拓者たち。 知能はほとんどなく、本能のままに動く低級アヤカシ。故に刺激すれば、簡単に挑発には乗ってくれた。しかし、迂闊に倒す訳にもいかない。 人の多い内は巻き添えを懸念して回避に徹していた開拓者たちだが、やがて粗方の避難が終われば、少しでも敵を減らした方が安全になる。 「人に当てない場所まで追い込め」 来須の指示で、レアスが自爆霊の注意を人のいない方へと誘い込む。 万一でも逃げ遅れている人の方に行かないように。距離を計ると、来須はアーバレスト「ストロングパイル」を構える。 「しっかし重いなぁ。なんでこんなもん持ってきたんだっけ……」 首を傾げて自分に文句を言いつつ、鷲の目でレアスと戯れる自爆霊に照準を合わせる。 相棒を巻き込まない瞬間を狙い、矢を放つ。圧縮された空気に押し出されて、矢は恐るべき強さで自爆霊を射抜く。 途端に、爆音を上げて一体が弾け飛んだ。派手な爆発は予想以上で、レアスが甲高い悲鳴を上げてさらに距離を置いた。 そばに自爆霊たちも巻き添え食ったか、ふらふらとしている。 「要は自爆させなきゃいいんだろっ!」 愛機で上空を制しながら、ルオウは隼人で先制。爆連銃で連射する。 畳み込む攻撃で、手負いだった小さな自爆霊は爆ぜる暇もなく消滅する。が、少しでも隙を残せば瞬く間に爆ぜてしまう。 「自爆される前に討つ……とはいえ過てば、危険極まり無い」 炎対策で、川の浅瀬で自爆霊たちを引き連れていたりょう。 豪刀「清音」で斬りかかるが、わずか仕留めきれず。自爆を許してしまう。 りょうは川の中から起き上がると、髪からの雫を振り払う。 自爆される前に斜陽で相手の攻撃を下げ、川に伏せて水で衝撃と熱を防いだ。が、それもどこまで通用するか。 「やはり接近しては不利か」 飛びまわる自爆霊を回避しながら、静花は問いかける。負傷すれば、動きにも支障が出る。逃げ遅れて爆発に巻き込まれ続けたら、さすがに命に関わってくる。 「一撃で仕留められれば、それでいいけど。余裕を持った方がいいのには変わりは無いね」 粗方の避難が完了すると、ユウキは避難民の安全を静花の雷花に任せ、自身はカルマの背に騎乗。相棒と共に、空から制圧にかかる。 相棒が放つソニックブームに合わせて、短銃「サイレントワスプ」を放つ。 人が少なくなれば、目に付くのは開拓者ばかり。飛んで火にいるとばかりに、自爆霊の方から向かってくるのはありがたいが、巨大な火の塊はやはり手を出しかねる。 「先に無難な奴から仕留めていった方がいいか」 ユウキのアイアンウォールの陰から、ケイウスはガルダに頼んで何体かを集めさせると重力の爆音を放つ。 疲弊していた自爆霊たちは纏めて重低音の音色に押さえつけられ、次々と爆発四散していく。 川辺に上がる水飛沫に、炎が散る。 ● 目ぼしい小物を葬っても、危険と思しき大きめの自爆霊がまだ残る。残り三体。 「奴らはなんとか自爆前に片付けたいが……。なんにせよ、そろそろ終わらせよう」 ケイウスが詩聖の竪琴を掻き鳴らす。軽快なリズムを刻む泥まみれの聖人達は、味方の攻撃力を上げる。 「誘爆して纏めて自爆されてもどうなるか。適当に離す必要もあります」 「川が荒れても困る。水辺からも離した方がいい」 他の自爆霊たちと距離が近いと判断して、静花は軽く自爆霊に攻撃。追いかけてくる自爆霊を連れて、軽い足取りで連れて行く。 来須の指示に従って誘導すると、狙った場所で即座に瞬脚で離脱。 慌てて追いかけようとした自爆霊を、レアスが風斬波で刻みさらに離脱。敵が惑っている隙に、来須は矢を打ち込む。 途端、派手な轟音と共にアヤカシが自爆した。閃光で一瞬目がくらむも、体勢を崩すほどでもない。 アヤカシがいた場所には大きな穴が抉れている。小さい自爆霊たちとは比べ物にならない威力と範囲に、改めて開拓者たちはぞっとする。 「姫様!! ご無事でございますか!!」 「離れなさい。さすがにそいつは任せるに限ります」 りょうが手を出しかねていた大きな自爆霊を、駆けつけた武蔵が獣鎖分銅で動きを邪魔する。 けれどからくりとはいえ、接近戦がまずいのは変わりない。 相手を見極めるのもまた技量。りょうと共に、武蔵も呼吸を合わせると距離を置くべく大きく後退する。 「安全な場所まで誘い出してやるよ」 ルオウが咆哮を放つ。大きかろうが小さかろうが、元々の能力も知性も低い相手。たちまちつられてシュバルツドンナーを追い回す。 十分空に上がった所でルオウは後方噴射で自爆霊の動きを一時止めて、自身は一気に加速。去り際にアヤカシを撃ち抜いていく。 また一つ、アヤカシが派手に爆ぜ散る。 「そして、最後だね」 残る一体もユウキがカルマのソニックブームと共にアイシスケイラルを放つ。 鋭い氷の刃が自爆霊に刺さるや炸裂。その冷気を掻き消すように、炎が乱れ飛んだ。 こんな時でもなければ、花火を思わせるほど儚い場違いな美しさ。 やがて、その火が消えると、辺りは夜の暗闇だけが残った。 ● 避難した人々の世話に奮闘していた雷花は、戻ってきた主人たちにほっとした雰囲気を見せる。 「こちらは問題ありません。出来る手当ては行いましたので、後はお願いします」 寝かされている人には主に火傷が目立つ。 用意していた清潔な水やギルドから借りた道具で応急処置は行えた。が、中にはそれで済まず、そういう者には改めて開拓者たちで治療に当たる。 その間、新手の襲撃を懸念して外も警戒し続けたが、襲撃も特になく。 そうして、傷を癒しても心の傷となった人もいるだろう。そういうのは治すのは難しい。 「ガルダもお疲れ様」 新手や取りこぼしを警戒し、念の為見張りをしてもらって迅鷹をケイウスは十分に労う。 故人を悼む儀式。そこに訪れた恐怖はいかにして拭われるのか。 感謝し泣き笑う人たちに安心するように告げると、開拓者たちは都へと戻る。 |