【流星】希儀 砂浜の攻防
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/02 21:28



■オープニング本文

 夏到来。
 冬場でもさして寒くならなかった希儀だが、四季の移ろいはそれなりにあるらしい。
 照りつける日差しは、確かに夏になってきている。ただ天儀のような蒸し暑さも無い分、過ごしやすいかもしれない。
 何より天儀の騒動もここまでは届かず。
 白い砂浜、青い海は穏やかにそこにある。
 だったら、避難や療養も兼ねてもっと多くの人に尋ねてもらい、のんびり海を楽しんでもらってもいいんじゃないかと考える移民たちもいるようで。

「と思って海岸整備してた矢先、砂浜にアヤカシが出ちまってなぁ」
 開拓者ギルドへの報告として現れたその移民は、困り果てていた。
 大物は倒されたが、それでもアヤカシは跋扈している。
 確認されたのは、よりにもよって砂粘泥。外見は砂の山のようなアヤカシで、砂浜に潜まれると外見では探りにくい。そこでうっかり踏み抜こうものなら、即座に体内に包み込んで獲物を飲み込もうとする。
 時には、複数が合体して巨大な一個体を形成。巨大になりすぎると中級アヤカシ並の力もつけるやっかいな相手でもある。
「せっかく人様に楽しんでもらおうと思ったのに……。今のままでは、こちらの生活圏も脅かされない」
 相手はアヤカシ。いつまでも一所にいるとは限らない。人の気配を嗅ぎ付け、移動する可能性は大いにある。
 そうなる前に、叩き潰しておきたい所。
 ギルドへの依頼を承ると、同時に開拓者たちに伝達する。 
「ちなみに。水着は貸し出し準備が整っているから、何なら海岸で遊んでくれてもかまわんぞ」
 移民からのありがたい申し出。
 昼は夏の炎天下。砂浜に紛れた敵を重装備で地道に探しては、幾ら天儀より涼しいとはいえ、暑さで倒れかね無い。適度な水分補給と熱冷ましは必要になるだろう。
 当たり前だが、海のそば。水着で飛び込めば、暑さ対策も簡単だろう。日焼けは怖いが、それは傘でもさせばいい?
 勿論、夜に行う手もある。昼と違って海風で気温も下がり過ごしやすくなる。
 だが、ここの砂粘泥たちはどういう訳か、日が沈むと沖の方へと行ってしまうらしい。夜明け頃にはまた砂浜へと戻ってきて人を襲うようになる。
 夜間に人が出歩かないせいなのか、他に理由があるのか。アヤカシの生態などわかったものでは無いが、とにかく夜に退治使用と思えば海に潜った上で、砂の中に潜む奴等を見つけねばならなくなる。
 海中深くの敵を探すには、やっぱり水着で泳ぐ方がいいか?
 いつどこでどうやって倒すか。その判断は開拓者たちにゆだねられている。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
レイア・アローネ(ia8454
23歳・女・サ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
門・銀姫(ib0465
16歳・女・吟
王 娘(ib4017
13歳・女・泰
月・芙舞(ib6885
32歳・女・巫
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武
加賀 硯(ic0205
29歳・女・陰


■リプレイ本文

「青い空と青い海〜♪ まさに夏真っ盛りの現場〜♪」
 海を前に、門・銀姫(ib0465)は歌うように目の前の情景を語りだす。
 希儀は、大アヤカシを葬って以来大きな動きは無い。
 ならば、常に動乱にさらされている天儀からの癒しの場に出来ないかと、周辺の移民たちは海を手入れしていた。
「……のだけれど〜♪ 砂に擬態して潜むアヤカシが楽しさを恐れさせるんだね〜♪」
 広がる砂浜は一見すると綺麗だ。ゴミ一つ無く、付近の村人の仕事ぶりが分かる。
 けれど使えない。そこには砂粘泥が潜んでいる。
「そう手間取る相手ではないでしょうが、場所が少々問題ですね」
 加賀 硯(ic0205)が目を凝らすも、砂に潜むのを得意とする相手。どこにいるのか全く分からない。
 数も多いらしく、その総数は不明と来ている。
「ただでさえ、見つけにくいのに……。まぁ、こういった仕事がこれから先の私たちの立場を決めるのでしょうけど」
 やれやれ、と、三笠 三四郎(ia0163)は頭を振る。
「はぅぅ。早めに倒して海で遊びましょうですぅ。あ、あまり泳げないですけどぉ」
 獅子の耳と尻尾を震わせ、八甲田・獅緒(ib9764)がおずおずと――けれど、かなりの期待を込めて促す。
 すでに桃色の紐で縛るツーピースの水着にパレオをつけて、と海に向かう気満々に見える。
 ただ、その格好は遊ぶ為だけでも無い。
 遮る物のない砂浜。夏の日差しの中で仕事をするなら必要な格好だろう。
「天儀よりすごしやすそうだけど……、日差しはやっぱり強そう……。暑くなったら休憩所、あるいは海に……」
 王 娘(ib4017)は借りてきた大きな日傘を安全な場所に設置。
 幾ら開拓者が頑丈とはいえ、限度もある。アヤカシ退治に感けて、夏にやられたとあっては大変だ。
 水着姿なら、海にもすぐに飛び込める。
 娘もまた、白い線の入った紺のワンピース水着をつけている。黒耳猫尻尾を揺らし、そのまま水に飛び込みたい誘惑と戦っていた。
「私はどうしましょうかねぇ。水中の捜索が必要なら水着着用でもいいですけど」
 三四郎が休憩所として敷物も用意。岩塩や水を配置しつつ、首を傾げる。
 夜になると、たまに核を赤く光らせるのが砂粘泥。何の目印も無いより見やすいが、ここの砂粘泥たちは何故か夜には海へと潜ってしまう。
 もし、それを追うなら全身水着が必要と三四郎は皆に問うてみるが。
「やはり夜は危険だ。昼間にしよう。踏んで襲ってくるならそれでいい」
 海と日差しを見つつ、レイア・アローネ(ia8454)は告げる。その格好は黒ビキニで、あまり普段と変わらないようにも見える。
 が、比べれば水着の方が一段と際どくなっている。体が零れないか気になるのか、レイアはそわそわと水着をさりげなく調えたり、人目を気にしたり。
「ああ、視界の悪い夜に海の中に潜るよりはやり易いだろ。……服も、外套脱ぐ程度で構わないか?」
 頷く琥龍 蒼羅(ib0214)の方は、本当に普段と変わりない。海に入る気は無いからと、着替えなかった。
「それは自由で構わないでしょう。けど、日差しや熱にはくれぐれも注意して。直接肌に浴びるより何か羽織った方がいいでしょうし、砂浜も裸足で歩いて火傷するかもね。気分が悪くなったらすぐに休む事」
 月・芙舞(ib6885)は、用意された日傘のそばに、冷たい甘酒や井戸水を用意。水分以外にも塩分が大事と梅干も用意している。
 自身も、水着の上からアル=カマル式の上着を足元まですっぽりと被り、亜麻のヴェールで視界を確保、足には足袋をつけている。
 万全の体制を整え、いざ砂浜へと挑む。


 砂浜に降りれば、海はすぐそこ。だが、潜む砂粘泥はどこにいるやら。
「なるべく結集されないよう、ある程度はばらける方がいいですね」
 三四郎は告げる。
 数に囲まれず、勿論合体なんてさせない。各個撃破して数を減らすのが大事で、個々で動けばいい。
「でもぉ、アヤカシの位置が分からないと下手に移動もできないのでは?」
「踏めば襲ってくるのなら、逆にやりようもある」
 不安そうにしている獅緒に、レイアは頓着せずにきっぱりと告げると、砂浜に踏み込む。
 五歩程歩くと、足元の砂が吹き飛んだ。否、明らかに一つの塊となって、レイアに絡み付こうとする。
 即座にレイアは手にしたカーディナルソードを振りぬく。深紅の剣に炎纏わせ、砂粘泥は崩れたかに見えた。
 が、絡みつきにこそ失敗したものの、砂浜に落ちるや形を整え、もう一度付き纏おうとする。
 見た目、ダメージも入ったかどうか。
 ならば、次の一撃をと、無意識に間合いを取る為に足を引き、
「!」
 下がった先で、別の砂粘泥が絡みついた。足を取られて転倒。
「危ない!」
 娘がレイアの足元に気功波を放つ。ぐしゃりと潰れた砂粘泥から足を引き抜くと、倒れた姿勢のままレイアは戦塵烈波を放っていた。
 気合いと共に砂粘泥は崩れたが、構わずまだ襲い掛かってくる。
「動かないで下さいませ!!」
 硯からの厳しい声。呪本「外道祈祷書」を手に、氷龍が召喚されると一直線に凍てつく息が伸びる。
 二体の砂粘泥は凍りつき、そのまま砕けるように砂浜へと散った。

「そこかしこ砂粘泥だらけね。迂闊に動くといつ踏み抜くか分かったものじゃないわ」
 改めて。
 瘴索結界で位置を確認した芙舞が、黙苦無を投げる。
 砂に刺さるや、その砂が盛り上がる。次々と黙苦無を刺していき目印をつけるが、それで明らかになった数の多さには改めて皆で頭を抱える。
「それでは〜♪ ここら一帯で判明した分だけでも〜♪ 押し潰してしまいましょ〜♪」
 折角投げた苦無も、すぐに砂粘泥は飲み込もうとしている。
 目印が無くなる前にと、銀姫は平家琵琶を掻き鳴らす。
 重低音が辺りに響く。攻撃と同時に動きも鈍らせた砂粘泥たちに、獅緒は素早く迫る。
「砂浜から消えてくださいですぅ。ここは皆で遊ぶための場所ですよぉ!」
 崩れやすい足場も天狗駆で苦にもせず。片手に仕込み杖「藤家延広」、もう片方に仏刀「烏枢沙摩」を構えてアヤカシへと突き立てる。
 伝わってきたのは単なる砂に突き刺さる程度の抵抗。
 途端に、砂粘泥が跳ね上がった。その身に武器は突き刺さっているが、やはりそれによって何が変わったようには見えない。
 武器を引き抜こうとし、けれどそれが動かず逃げるのが遅れた。直接の攻撃は避けられたが、獲物を逃すかとよりにもよってパレオに絡まれた。
「ふぇ? きゃああ!」
 布一枚。剥ぎ取られそうになり、獅緒が叫ぶ。
「昼間だと核が分かり辛い。物理攻撃も効果はかなり薄いようだな」
 慌てる獅緒に構わず、冷静に分析。蒼羅は斬竜刀「天墜」を振るう。
 漂う海の香の中に、ほんの一時無いはずの梅の香が混じった。刃に触れるや、驚くほど簡単に砂粘泥は二分され、崩れ落ちる。
「知覚攻撃だとあっさり決まりますね。姿形どうあれ、粘泥は粘泥という訳ですか」
 精霊槍「マルテ」を担いで、三四郎が弱る。
 精霊槍で突いてもさて、どのくらいの痛手になるのか。
 物理が効き辛かったとしても、全く効かない訳でも無い。長期戦覚悟でやりあえば、いずれ仕留められる
 とにかく、今は一匹でも取りこぼさないよう確実に見つけようと、探索に向かう。


 砂粘泥を見つけては退治する地道な作業。砂浜が広いだけに、どうしても時間はかかる。
 発見にはやはり芙舞の瘴索結界が役に立った。瘴気の反応を知らせ、必要とあれば自身も浄炎を放ち、砂粘泥たちを始末する。
 それ以外にも、蒼羅は心眼を、銀姫は超越聴覚を使う。
 隠れた殺気を見極めるのは勿論、奴らとてじっとはしていない。微妙な砂の鳴る音を聞き分けると、重力の爆音で潰していく。 
 浅瀬では、三四郎やレイアが動いていた。三四郎は動く先に槍を突き立て、レイアも足運び慎重に砂粘泥を探す。手探りで時間もかかるが、頼ってばかりも入られない。
「昼は砂浜。とはいえ、水にも潜るならこの辺りも十分注意が必要だ」
 実際、何度も砂粘泥に遭遇した。
 見つければ即座に応戦。各人距離を置いていても、何かあれば術で対処出来る距離は保っている。十分応援を期待できる。
「でもまぁ。さすがにずっと動き回ってると、倒れそうですよぉ……」
 そうやって三四郎たちが安全を確保した浅瀬に、獅緒が勢いよく飛び込んできた。
 ばててきた体は頭から波に飲まれ、どっぷり海に浸ると、濡れた体を起こして気持ち良さそうに水気を飛ばす。
「休憩は忘れないように。水分の他、塩も大事なんですよね」
 布を海水で冷やすと、三四郎はまた首にまきつける。日光を遮るのも予防の一つと露出は抑えている。
 多いなら多いで素直に海に飛び込み、火照った体を冷やした後は休息所に戻って水や塩を補給。
「本当に暑いですねぇ。泳ぐのならば、とてもいい気候なのですけども」
 ふぅふぅ息をつきつつ、硯は着物を脱ぐ。
 下にはきちんと水着を着用している。藍色ビキニは何故か村の人が熱心に奨めてきたらしい。が、そのままは抵抗があったのだ。
 が、こうも暑いとなりふり構ってもいられなくなる。――いや、やはり羞恥はぬぐいきれず、着物一枚をマントのように肩から羽織る。
 何せ、スタイルのいい若い女性が多いのだ。無粋な目はないが、それでも比べられるのは気になってしまう。
 きちんと着物を畳んで休憩所に置く。
「甘酒は夏場の栄養にもなりますから」
 休んでいた芙舞が甘酒を渡す。
 定期的に休み、喉を潤す。その間も気は抜かない。
 知らぬ間に休息所が占拠されても困る。周辺の砂粘泥は特に注意して排除を続ける。
「にしても、多いよねぇ……。いつ終われるのか」
 波間に漂い、誰に告げるともなく娘は呟く。
 取りこぼしの砂粘泥に襲われ、慌てて霊剣「御霊」で防ぎつつ、距離をとって気功波で崩し……たのはいいが、そこが波打ち際で、波に足を取られて滑らせてしまう。
 砂粘泥は他の仲間が肩を付けてくれた為、波に浸かったのも幸いとそのまましばし揺らぎを楽しんでいた。
 皆際に取り残された舞傘「梅」が砂浜に影を落としている。
 あそこまで一旦戻るかと、娘が歩き出した時だった。

 足元が盛り上がった。まずいと思う間も無く、娘は大きく横に跳ぶ。
 波と砂に衝撃を吸収させて転がり、立ち上がってみれば、そこには見上げるほど巨大な砂粘泥が姿を現していた。
 即座にレイアが戦塵烈波を放つ。
「気をつけろ、もう一体いるぞ!」
 蒼羅も白梅香で切りつけながら、叫ぶ。心眼が潜む殺気を捉えていた。
 叫ぶ間にもその近くで、砂が盛り上がる。こちらも巨体。
「面倒だな。こいつらが合体したら大きさは倍になるのか?」
 顔を顰める蒼羅に、三四郎も険しい表情で頷く。
「試してみる気にはなれませんね」
 二体を引き放す位置にまで移動すると、三四郎は咆哮を上げて一体をおびき寄せる。
「来るなら来い!」
 遮二無二かかってくる砂粘泥に、三四郎は剣気を叩きつける。
 効果はあるのかないのか。それでも構わない。不退転の意思を固めて肉体を硬化させると、伸び上がり絡み付こうとする砂粘泥を突く。
 加勢しようと、硯も休憩所を飛び出す。
「待って、その先に!」
 純白の翼を広げると、芙舞は浄炎を放っていた。
 硯の数歩先が燃え上がり、立ち上がった砂が同時にぼろりと崩れる。
 けれど、それでも一撃とはいかなかったらしい。小さな姿のまま、手近な硯に絡み付こうと伸びてくる。
「触らないで下さいませ」
 この身は亡き夫のものと、着物を翻してきっぱり跳ね除ける硯。
 魂喰の式を出現させると、砂粘泥を食らいつくさせる。
「傷つく姿は見たくない〜♪ 皆、気をつけて〜♪」
 銀姫は、甲高い声を上げ、共鳴の力場で震わせると砂粘泥からの勢いを削ぐ。
「怪我しても、癒しますぅ。でも、それよりも」
 傷つけられる前に倒すと、獅緒も砂粘泥に突っ込む。


 巨大な砂粘泥も瞬く間に倒し。
 ……けれど、それで終了ともいかなかった。
 まだまだ砂粘泥は残っている。
 砂浜を端から端へ。作業は思う以上に時間がかかり、朝早くから始めたはずが終わる頃には日暮れも近い頃になっていた。
「何度回っても反応はもうない。討ち漏らしは無いだろう」
 蒼羅はほっと息をつくと休憩所に座り込むと、斬竜刀の曇りを点検する。
「海に戻るという時間には早いですからね。沖に逃げたのもいないでしょう」
 三四郎は空を仰いで陽の傾きを見る。
「とすると、後はせっかくの暑い盛りで海なのだから、火照った体を冷やすべきだよね〜♪」
 一つ背伸びをすると、銀姫は水着に変わると砂浜を走り出す。
 緑と白の斜線が入ったセパレート水着に華やかな色のパレオをひらめかせ、誘うように寄せて引く海へと躊躇無く飛び込む。
「う、うん。まぁ、この後一般人が来ても問題ないかの確認もした方がいいだろうな」
 誰に言い訳しているのか。レイアもまた海へと歩き出し、芙舞や硯もそれぞれに楽しみだす。
「はやぁ、水が冷たくて気持ちいいのですぅ。やっぱり夏は水辺が一番ですねぇ」
「気持ち良い……、たまにはこういうのも悪くないな……」
 波打ち際で、少し夜が入った海に足をひたして獅緒や娘も笑顔で告げる。
 
 短い時間だが、海を堪能する。
 もう一度きちんと整備しなおせば、ここは癒しの地といて大勢の人が遊びに来るだろう。
 そこにはきっと笑顔が溢れている。