【急変】補給確保
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/27 21:20



■オープニング本文

 理穴東部にて魔の森が拡大。
 大アヤカシ二体も確認され、それぞれその特性から『砂羅』『氷羅』と名付けられた。
 強大な敵複数を前に、近隣の軍勢も集結する。要請を受けて、開拓者たちも理穴東部へと呼び寄せられていった。
 その数はいかほどか。ともかく、ここが正念場と本腰を入れてこれらの討伐に当たらねばならない。
 けれど、戦いに必要なのは人の数ばかりではない。
 武器は勿論、彼らや相棒たちも癒す為の薬や飢えを満たす兵糧、寝床を作るための布や防壁用の木材など、必要な物資は膨大な数になる。
 それらもまた、要請を受けて各地から現地へと届けられようとしていた。
 
 がたごとと荷車を揺らし、その一群も東部へと向かっていた。
 荷の数はざっと十。勿論それは届けられる物資の一部でしかない。
 各々もふらがのっそりのそりとひいている。荷車の中身は食料の他にも武器などを詰められている。物騒この上ないが、どこか牧歌的にも思える光景。
「砂羅に氷羅ねぇ。以前理穴に出たとかいう炎羅って奴と関係あるのか?」
 そんなもふら車の荷の上で、胡坐をかいて居座っているのは酒天童子。
 荷車の周りには開拓者たちの姿もある。大事な荷である以上、護衛は必要。勿論送った後、現地で戦いに参加するつもりの者もいる。
 酒天もそんな護衛の一人となる。
「よくは分かりませんよ。場所は同じで、似た格好をしているので、無関係ではないでしょうけど」
「この調子で他の属性がわらわら出てこなきゃいいけどなぁ」
 軽口を叩きながら、荷車は動き、護衛たちも進む。
 なるべく安全な街道を、とは思うが、荷を運べる道中も限られる。戦場に近付けばそれだけ危険が大きくなるのは必然。
「ま。アヤカシがわらわら出てくるのは、いつでもどこでも起こりうるって事だな」
 酒天が身を起こすと、前方を見つめる。
 そこにあるのは巨大な森。
 普通の森だが、見通しの悪さは普通に旅する時でも警戒すべき箇所。
 ましてや、索敵に先んじた仲間がアヤカシを見つけて戻ってきたとあっては迂回すべきであろう。
 が、道も限られる。この森を抜ければすぐの場所も、迂回すればさらに地形の都合で三〜四日程度の遅れが生じてしまう。
「敵は汗血鬼が確認されているか。犬鬼も多数。迂回した所で追ってくるな、これは」
「けれど、事前に聞いた情報だと迂回路の方が、視界が開けていて道も広いらしい。森の中では荷幅程度しか道が無いのを思えばかなり戦いやすくなる。そもそも、待ち構えていると思しき中に飛び込むのは危険過ぎだな」
「だがそれでは到着がかなり遅れる。大アヤカシ相手では致命的にならないか?」
 一旦車を止めて、開拓者たちは作戦を練る。
 このまま森を突っ切り強行突破するか、迂回し安全策を取るか。
「重要なのは荷を届ける事。アヤカシどもは気になるが、振り切れるならそれでもいいが……」
「森の中では無理だろうな。迂回路の方なら、まぁ奴らのやる気次第には出来るかもしれないが」
 じろりと一同は、もふらたちを見る。
 荷運びが終わったら御褒美あげるとの契約で、もふらたちは動いている。が、そこは生来暢気なもふらさま。どこまで言う事聞いてくれるか。
「もふー。それでどうするもふー?」
 もふらが焦れて転がりだす。あまり作業中断していると、そのまま怠けだすかもしれない。
 何よりも、この荷を待つ戦場は待ったなしだ。
「さて、どうする?」
 おもしろそうに酒天は笑う。だが、その目は他の開拓者たちと同じく真剣そのものだった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
佐藤 仁八(ic0168
34歳・男・志
リズレット(ic0804
16歳・女・砲


■リプレイ本文

 理穴に補給物資を送る開拓者たち。しかし、その途中の森にてアヤカシを発見。
「お待たせ。ざっと見てきたけど、森に変化は見当たらない。バダドサイトも使ったけど、汗血鬼も動きと止めているのか、掴めないのが厄介だね」
 空から、滑空艇改が颯爽と舞い降りてくる。
 森の様子を身に行っていた、天河 ふしぎ(ia1037)は、自身の機体・星海竜騎兵から飛び降り、そう告げた。
 リズレット(ic0804)が深く頷く。
 このまま森を行くか、否か。
 行けば視界が悪そうな森の中でアヤカシと戦闘。迂回すれば戦闘は楽にはなりそうだが、その分物資到達まで日数をかけてしまう。
「ここは突破、やな。三〜四日遅れる位なら、一日くらい潰して邪魔者は叩き潰してしまおうか。
どの道、補給もこれだけで終わらんやろ。その度に邪魔されたら適わんで」
 臭い物でも嗅いだように、行く手の森を見つめ、八十神 蔵人(ia1422)は顔をしかめる。
「最前線は意欲と気力だけでは保つ事が出来ません。こうした補給物資が有ってこそ支えられる代物。ここで危険を回避していては、その分、戦線の負担が立ち行かぬものになるのではないでしょうか」
 運ぶのは物資。だが、そこに託された思いもある。
 けして挫く訳には行かないと、杉野 九寿重(ib3226)も心を決める。
「道を進む、に決定だな。それで、作戦はどうする。このまま突っ込むか?」
 やたら嬉しそうな笑みを、酒天童子が浮かべる。
 とんでもないと、柚乃(ia0638)は慌ててその暴挙を制した。
「無策で突撃しても、荷の幾つかは破損するかも。戦闘に勝っても、荷を失えば何しに行くのか。……でも、あまり時間をかけていては、もふら様たちが動かなくなってしまいそうです」
 その視線が、もふらたちに移る。
 呼ばれたかと、もふらたちは少し顔を上げたが、話に出ただけと分かるとまた待機状態で寝そべりだす。確かにこのままでは、盛大に居眠りでもしかねない。

 やり取りも短く、大まかな作戦が練り上げられた。
 アルバルク(ib6635)がにやりと笑う。
「先に戦闘してから荷を移動。囮を先に森に入らせ、残りはこっそり着いて行くってか。見つかったら、合流して叩きまわろうぜ」
「いいねぇ。じゃあ、囮として先に向かおうか。――熊公、近付く奴がいたら鳴いて教えてくんねぇ。一丈もある鬼なら重さも百貫越えらぁ。まさか静かに動くこたできめえ」
 佐藤 仁八(ic0168)に、炎龍の熊はすんなりと頷く。アヤカシの重さが見た目通りかは分からないが、大きさはごまかせないはず。
 雑多に茂る木々で視界は悪いが、故に動けば居場所も知れよう。
 ふしぎもそれを目処に偵察に赴いていた。
「武器だけ抱えて警戒されてもなぁ。派手に動いても壊れない荷を偽装して、さっさと出て来てもらおうぜ。――酒天は無理すんなよー」
「分かってらぁ。ま、首魁をさっさと倒せば後は犬鬼だろ。敵じゃねぇな」
 荷の中から積みやすそうなのを選び、ルオウ(ia2445)や柚乃はそれぞれの破龍や走龍に持たせる。念の為、失ってもどうにかなる品を選んだが、端から捨てていい物でもない。地を走り抜く彼らの足ならいざとなれば逃げ切ってくれるはずと期待を込めて。
 そうして偽装しながら、ルオウは酒天に笑いかける。
 腰の太刀を見据え、楽しげに返事をした酒天だが。
「なーに、言う取るねん。わしらはこっち来る馬鹿から荷を守るもふら番や。こいつら放っといて行く訳にもイカンやろ」
 その襟首を、しっかと蔵人は摘み上げる。
 逆の手で、荷物と一緒に転がるもふらたちを指す。連れて行くわけにはいかないが、かといって無防備のまま放っておいても行けない。
「では……リゼも荷の護衛に当たりたいと、思います……。ここにあるのは……単なる物資でもありません……。言うなれば、……希望」
 恭しく、リズレットも礼をして、もふらたちのそばに寄る。
 優雅なたたずまいながらも、厳しい目で運んできた荷物の山を見る。
「だからこそ、決して退く訳には……」
 静かな物言いの中にも、決意が分かる。
 分かってないのはもふらぐらい。ふわわと欠伸を始める始末。


 荷物ともふらは、森から離れた安全な場所まで護衛と共に移動。
 まず森に飛び込むのは、仁八・柚乃・ルオウの三名と相棒たち。
 空からは熊に見張りを任せ、道を進む。
 遅れて、アルバルク・九寿重がつく。
 ふしぎも後続組だが、星海竜騎兵でやはり空から。しかし、森から見上げその姿を探そうとも、あるのは張り出した枝に、生い茂る葉っぱばかり。その向こうの蒼い空は所々に無い。
 夏の日差しを厚く遮り、涼しいのはむしろ感謝したい。けれども、横を向いてもそのうっそうとした枝葉に支える幹が乱立。昼なお暗い陰気さを醸しだしている。
 森を行き始めて、しばし。遠吠えが木霊した。どうやら向こうにもこちらの存在が知れた。
「集まって来てますね。前後左右。逃げ場を断つつもりのようです」
 視界がきかない森の中を、走龍・松茸の手綱を強く握ったまま、柚乃は瘴索結界で的確に指示する。
 その情報を受けて、仁八も心眼で見る。
「殺気はびんびん感じるさ。の、割りに近付く気配が無いのは、まずは飛び道具って所かねぇ」
「当たり。でも、矢の数はそんなに多く無さそうだから、木の陰とかでやり過ごせると思うよ」
 不意に、知らぬ声が飛び込み、三人は身を強張らせる。
 すぐにそれがアルバルクの相棒である上級羽妖精・リプスだと気付く。
 よく目を凝らせば、声がした景色が歪んでいる。透明化で偵察してきた報告を、こちらにも伝えに来てくれたのだ。
 そのままぼやくようにアルバルクの元へ戻るリプス。
 そちらに注意がいかないように。何より森の中の奴らをひきつける為に、囮組は立ち止まった。

 待つ事しばし。

 ヒュッ、と風切り音が聞こえた。三人がとっさに近くの木に身を寄せる。
 地面に矢が刺さっている。三人がいた場所とは全然違う辺り、腕はよく無い。
 雨のように矢が降り注ぎ、けれどすぐにそれは止んだ。だが、それは終わりではなく寧ろ始まり。
「ウォオオ!!」
 森の中から、勇ましい吼え声を上げて犬鬼が飛び出てくる。
「来たな! 派手に行くぜ!!」
 ルオウが咆哮で犬鬼たちの注意をひきつけると、破竜のフロドに飛び乗る。
 と、仁八がその手綱を掴むと、狐の尾を翻して来た道を駆け戻る。
「森の奥からぞろぞろと。こいつぁ、分が悪いってもんだよ」
 言いながらも、口端が笑う。
 三人来た道をただ走る。その後を犬鬼たちは追いかけてくる。
 置き土産、とばかりに仁八が撒菱をばら撒いた。犬鬼たちの悲鳴が幾つか上がるが、追撃は止まない。

 追われる中、逃走者たちの足が止まった。
 戻ったその行く手にも犬鬼たちがいた。きちんと戦力を配している。そして、道の只中には見上げるほどの巨体をさらす汗血鬼の姿もあった。
 逃げ場は無い。
 ルオウは狼煙銃を空に向けて放つ。
 勝利を見据えて、凶悪な鬼たちが笑う。古びた武器を手にじわりと迫ってくる犬鬼たち。

 その背後から。吹きぬけてきた風が、一直線に犬鬼たちを吹き飛ばす!

「ご苦労様です。後は、奴らをしとめるだけですね」
 風の源には、九寿重が野太刀「緋色暁」の緋色の刀身を露わにして立っていた。瞬風波だ。
 漆黒の犬耳をピンと立てて、犬鬼たちを不快そうに睨むと、二波目を放とうとし……その目の前に、矢が飛んだ。仲間の物ではない。
「気をつけて、まだ伏兵が潜んでます!」
 柚乃が声を上げるや、後続組のさらに背面に犬鬼たちが飛び出してくる。
 しかし、開拓者たちも慌てない。振り返りもしない彼らに、容赦なく犬鬼たちは刀や斧を振るい上げた。
 派手な銃砲が、空から降ってくる。
 同時、倒れたのは犬鬼たちだった。

 宝珠銃「レリックバスター」で撃ちぬきつつ、ふしぎは滑空艇改を強攻着陸させた。さらには、炎龍の熊、九寿重の鷲獅鳥・白虎も姿を現し、倒れた犬鬼たちに攻撃を開始する。
「荷の護衛は任せたぜ。火を吹いても構わない。なぁに、この季節のこの森。早々延焼すめぇ」
 汚れるのは嫌なんだが、という顔を一瞬だけ浮かべ。けれど、熊は白く長い体毛を震わせ、犬鬼たちを踏み散らす。
 仁八は長巻直し「松家興重」を振り上げると、汗血鬼へと平突を仕掛ける。
 巨体が刃に貫かれた。やったと思う間もなく、唸りを上げて汗血鬼の棍棒が仁八目掛けて振り下ろされていた。
「ぐはっ!!」
 躱せず、鈍い音と共に棍棒が仁八に食い込んでいた。倒れた彼に向けて、さらに踏み潰そうと汗血鬼が足を上げる。
「させるかよ! 俺たちを甘く見るな!!」
 フロドが大地を踏みしめると、あっという間に取り巻く犬鬼を追い越し、汗血鬼へと迫った。獣騎槍「トルネード」を付けられた体で、全力で突撃。あわせて、その背のルオウは両手で殲刀「秋水清光」をしっかと持ち、最上段に構える。
 騎獣が汗血鬼を押さえ込み、同時に主が蹴りこむや刃を袈裟懸けに振り下ろす。
 熟練の動きに抗えず、汗血鬼に醜い傷が入る。
 けれど、それを苦にしていない。寧ろ歓喜と共に受け止めていた。
「フオオオオオオオ!」
 汗血鬼が棍棒を振り下ろす。傷を負おうと、その動きも力も全く変わっていない。
 唸りを上げる凶器を、人龍一体の動きでかわす。大振りの攻撃はかわすに容易かった。
 ……が。外して盛大に地を打ちぬいた威力は半端ではなかった。
 赤い衝撃波と共に、地面が抉れ、その風圧で近くの犬鬼たちが吹き飛ぶ。
 飛び散った土砂で、辺りが砂に塗れ視界が濁る。
 さすがに警戒して、開拓者たちも間合いを開けた。
 緊張の中、砂が晴れると、そこには巨大な陥没が出来上がっていた。
「さすがは中級。雑魚とは違う」
 小さく息を飲んだアルバルク。だが、その隙をついてかかってきた犬鬼には、十分に対処している。
 相手が刀を振り下ろすより早く、一歩進み出ると、その脳天に向けて宝珠銃「軍人」を発射していた。
 火薬を仕込む手間を抜き、サリックで次々と発砲。命中は悪いが、敵も多い。どこかには当たる。
「森を自由にされたら面倒だぜ。リプス、ちょいと行ってこいよ。囲まれても範囲攻撃出来るだろ」
「いやいやこき使いすぎでしょー! ……いいもん、がんばるもん」
 気軽に言ってくれるアルバルクに、とーんでもない、とリプスは首を高速で横に振る。
 それでも状況は十分判断。断りきれず、渋々と森の奥へと文字通り姿を消して行く。

 攻撃を加えるほどに、汗血鬼の動きはより激しさを増す。
 犬鬼たちは一体の力こそはどうにかなるが、数が多くて邪魔になる。
「松っちゃんは荷物の死守。いざとなれば、もふらさまたちと合流して下さいね」
 負傷者を精霊の唄で癒しつつ柚乃は、松茸にそう語りかける。
 偽装で一部とはいえ、大事な荷物。奪われてなるものか。


 森の入り口にいると、中の様子は窺えない。だが、先ほどまでと何やら気配が違う。
「きっと楽しそうな事になってるんだろなー。あー畜生。重いぞてめぇ!」
 静かな森を見据えながら、酒天童子は恨みがましく呟く。その上にはもふらが寝転がっている。勝手に動こうとする酒天への重石に使われていた。
「荷も、もふら様たちも……、御身も失う訳にはいきません……。飛び出してしまわれると……リゼたちも困ります」
 そのもふらをリズレットは、丹念に毛繕いをする。
 アヤカシ戦を前に、もっともふらたちは動揺しているかと思ったが、そこはもふらたち。開拓者たちがいるなら安全と踏んだか、のんびりと休憩中。
 その姿に、リズレットの方が安堵していた。
「今は単なる一開拓者だっつぅの。アヤカシ退治に行かんでどうする」
「身の丈倍以上ある中級相手に何する気や。ホンマに殺りおうたかったら、前衛を務められるような修行をせいや。何で未だに巫女やねん。それとも封印前の力、取り戻すアテでも?」
 ぶーたれる酒天に、蔵人はきちんと説教する。耳に痛いか、黙って顔を背けたのを見て、蔵人は肩を落とした。
「ほれ、酒とイカ持って来た。見張りも大事やねんで。ゆったり待とうや無いか」
 蔵人が、酒天の前に酒を差し出す。その姿を、上級人妖の雪華がなんとなく物言いたげに見ていた。
「残念ながら……、休憩は終わりみたいです」
 猫耳を立てて、空を見上げるリズレット。そこには、駿龍のスヴェイルが緊張した面持ちで、森の方を眺めていた。
 何があったかと思う間もなく。森の入り口に、犬鬼たちの姿を見つける。顔の毛は乱れ、耳も尻尾も垂れて走る様は、勝ちに来たのではない。
「どうしますか?」
 連携も何もなく、ただ飛び出し――逃げている相手。しとめるのは容易い。が、後続がどのくらい来るのかも分からない。
 相手はこちらにまだ気付いていない。気付いても、向かってくるかどうか。
「決まってるやろ。雪華たちはこっちの護衛と世話頼むで」
「了解しました。怪我も治しますからご安心を」
 雪華が頷き、スヴェイルも短めに鋭く鳴いて答える。
 蔵人は魔刃「エア」を抜くと、犬鬼に向かって走り出す。一つ頷くと、リズレットも森の入り口に向かう。
 もふらに四苦八苦していた酒天。見かねた駿龍・志那が助け出す。

 犬鬼、数はまず四体。後からまだ来るのかは分からない。が、あの様子からして中の連中はうまく立ち回っているのだろう。
 そこからどうやって逃れ得たか。見逃す訳には行かない。
 まずはリズレットがマスケット「魔弾」を構える。精霊力を瞳に集めて敵を見据え、撃った
 轟音と共に、先頭を走っていた一体が引っくり返った。
 攻撃を知り、退きかけた二体目もクイックカーブで捻じ曲げて、不意をつく。
 敵と気付き、犬鬼たちは迷わず逃げを選択した。
 逃がすものかと、蔵人が咆哮で待ったをかける。
 続けて、雷の刃で犬鬼を裂く。
 追いついた酒天が、白い光弾で犬鬼を吹き飛ばす。
 さすがに一撃では仕留めきれない。けれど、すでに逃げを決めた敵など物の数ではなかった。


 柚乃が、魂よ原初に還れが歌い上げた。荒ぶる神霊を鎮める曲を耳にして、ばたばたと犬鬼たちが倒れていく。
 何とか立ち上がろうとする犬鬼もいる。だが、動きはもう弱々しい。容赦なく白虎は襲い掛かるや爪で切り裂き、鋭い嘴を粗末な鎧の隙間を狙って身をついばむ。
 犬鬼たちの数は確実に減り続ける。一部森を利用して逃げた輩もいるが、戦意を消失した相手。森を抜け出た所で、誰かにやられる。
 それ以上に、手こずる一体。
「ガォオオ!」
 威嚇するように吼える汗血鬼。安い挑発、と分かっていても、乗りたくなる衝動が身を貫く。
 咆哮と同じような能力だ。幸い、ここにいる開拓者たちはそれを抗しきる心を持ち合わせているが、酒天のような実力の低い志体持ちなら誘われるかもしれない。そして遮二無二突っ込んでいけば、あの怪力の餌食になる。
 巨体に大棍棒とあれば、森では満足に動けないはずと踏んでいた者もいる。
 甘かったかもしれない。戦いに興じる内に、汗血鬼は幹でも邪魔だとへし折る始末。最中に棍棒が折れても構わない。散らばる犬鬼の残した武器を拾い上げる。
 その立ち回りは、やはり雑魚とは違う。
「精霊の力にて今、天を切り裂く一撃となれ御雷!」
 無駄の無い動きでレリックバスターを撃ち続けて接近。片手で牽制を入れながら、ふしぎは霊剣「御雷」に精霊の力を集め、気合いと共に振り下ろす。
 汗血鬼の右腕が飛んだ。ふしぎに叩きつける刀を握ったまま、放物線を描き、腕は遠くに落ちた。
 アヤカシの顔がひどく歪む。
 しとめたかと安堵した瞬間。下から鋭い蹴りが上がった。
 のけぞりかわすと、ふしぎは慌てて間合いを開ける。
 柚乃の歌は、同じ場にいる汗血鬼にも届いている筈。なのに、こちらは倒れる気配は無い。瘴気に還るどころか、ますます猛り狂い、動きすら増している。
「傷は確かに入っている。痛みを感じてないだけで、限界は来るだろ」
 アルバルクは銃声高らかに、汗血鬼にも容赦なく弾をぶち込む。
 その援護を受けながら、ルオウと仁八が走る。
 彼らの刃が、汗血鬼の腹へと突き刺さり、傷を広げた。
 一つの腕で、彼らを振り飛ばすように刀を振るう汗血鬼。
 風すら切ったその刃を、しかし、九寿重は潜り抜け、懐に飛び込む。
「私たちは急ぎの身。待つ人がいます。――そろそろ、そこを退いていただきましょう」
 死角に回り込むと、野太刀「緋色暁」を鬼の脇腹へと叩き付ける。
 振りぬけば、刃からは赤い光が紅葉のように散る。
 汗血鬼が、くの字に曲がった。そのままありえない角度に上半身が曲がり、下半身から滑り落ちた。


 アヤカシの気配が無いのを確認して、精霊の唄で癒されると、もう一度森の外へと出る。
 もふらたちは退屈しきっていたが、そこは承知。おやつを武器に迅速な配達を促すと、俄然はりきり荷物を運び出す。
 念の為、森の中では仁八たちも空から護衛を務めるが、襲撃はなく無事に森を抜けた。

 荷物は多少の遅れは出たが、もふらの働きもあって問題無く届けられた。
 そのもふらたちは、よく働いた御褒美だ、と柚乃の用意した特製ゴマ団子や蔵人の飴すらも頬張り、喜んでいる。
「語尾に『もふ』つけたらあげますよー」
「酒の肴には出来そうだなもふ」
 軽い気持ちで言ったのだが。何故か、しっかり酒天もゴマ団子を貰っている。
 そうしなくても柚乃は開拓者たち全員に配るつもりでいたのだが。

 傷を癒し、相棒と共に十分な休養を取る。
 万全を取り戻すと、ある者は都への帰路につき、またある者は理穴でのアヤカシ戦へと挑んでいった。